訪問販売において、契約内容をDLできる状態にしただけではクーリングオフ期間は進行しないと判断された事例

 

 訪問販売・電話勧誘販売など、特定商取引法に規定される取引類型については、一定の期間内であれば無条件に契約を解消できるクーリングオフ制度があります。

 クーリングオフの期間は法律で記載事項が定められている書面(法定書面)を交付したときから進行しますが、そもそも書面が交付されていなかったり、交付された書面に重大な不備がある場合にはクーリングオフの期間は進行せず、本来の行使期間が経過してもクーリングオフが可能とされています。

 今回は、このようなクーリングオフの起算点である書面交付の要件について、インターネット上の事業者のホームページのURLから契約内容を記載した規約をダウンロードできる状態だった場合に、法定書面の交付があったといえるかどうかが争われた事例(東京地裁平成30年2月26日判決)をご紹介します。

 

事案の概要

 このケースは、セミナーの受講契約を申し込んだ消費者が、当該受講契約は訪問販売に該当し、法定書面の交付がなかったためいまだクーリングオフ期間は経過していないと主張したのに対して、事業者が上記の通りホームページから規約をダウンロードできるから法定書面の交付があったと反論したものです。

 この争点について裁判所は以下のように判断し、業者側の主張を排斥してクーリングオフを認め受講代金の返還を命じています。

 

東京地裁平成30年2月26日判決

「特商法4条が契約の申込みに当たっての書面の交付を要求した趣旨は,商品の内容,種類,数量などの正確な契約内容の認識を与え,かつ,クーリングオフの権利を有することを書面で告知することにより,申込みをした者が,当該契約を維持するかどうかを事後的に冷静に判断する機会を与えることにあるから,書面により確実に交付することが求められていると解され,単にダウンロードできたことをもって書面の交付があったということはできず,この点に関する被告の主張は採用できず,少なくとも,本件各解除までに書面の交付があったとは認められない。」

 

 以上のように本判決は、特定商取引法が書面の交付を要求した趣旨からすれば、法定書面はまさに「書面」として確実に交付することが必要であると判断しています。

 契約内容を記載した電子データがダウンロード可能であれば書面の交付があったと評価しても良いのではないかという考えは一見すると説得力があるようにも思われますが、他方で、電子データは差し替えや削除が容易であり、契約時の規約が後日別のものに変更されたり削除される危険が否定できないことも踏まえると、ダウンロード可能な状況しただけでは足りないとした本判決の判示は妥当なものと考えます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年7月21日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所