離婚後に親権者(養育費の権利者)が再婚し、子どもを再婚相手と養子縁組させた場合、事情の変更にあたり義務者の養育費の支払義務がなくなったり減額されたりすることがあります。
では、そのような事情変更が生じた場合、養育費の減免はいったいいつから生じるのでしょうか?
この点については、大きく分けると①免除の請求をした時点、②養子縁組をした時点、③変更の審判の時点、の3つの考え方があります。
もっとも、いつの時点から養育費の減免を認めるかは、裁判所が当事者間に生じた諸事情、調整すべき利害、公平を総合考慮して、事案に応じて、その合理的な裁量によって定めることができるとされていますので(東京高裁平成30年3月19日決定)、具体的な判断も以下のように分かれています。
①養子縁組によって再婚相手が子どもの扶養を引き受けたとの事情の変更は、養子縁組という専ら権利者側に生じた事由であること ②養育費を定めたときに基礎とした事情から養育費支払義務の有無に大きな影響を及ぼす変更があったことは権利者にとって一見して明らかといえ、権利者において、養子縁組以降は養育費の支払を受けられない事態を想定することは十分可能であったこと ③他方、義務者は、養子縁組の事実を知らなかった時期までは養育費減額の調停や審判の申立てをすることは現実的には不可能であったから、養子縁組の日から養子縁組を知った日までの養育費の支払義務を負わせることはそもそも相当ではないこと ④また、それ以後の期間についても、権利者は、養子縁組によって再婚相手が子どもの扶養を引き受けたことを認識していたことに照らすと、義務者が減額の調停や審判を申し立てなかったとしても、義務者の養育費支払義務が変更事由発生時に遡って消失することを制限すべき程に不当であるとはいえない。 →養子縁組した時点に遡って養育費の支払義務がなくなったとした。
①義務者は調停申立ての前月まで養育費を支払っており、支払済みの毎月の養育費は合計720万円に上る上、権利者は子どもの留学に伴う授業料も支払っているため、このような状況の下で既に支払われ費消された過去の養育費につきその法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは、義務者に不測の損害を被らせるものであること ②義務者は、権利者の再婚後間もなく、権利者から再婚した旨と養子縁組を行うつもりであるとの報告を受けており、これにより義務者は、以後、子どもに養子縁組がされる可能性があることを認識できたといえ、自ら調査することにより養子縁組の有無を確認することが可能な状況にあったこと ③②のように、義務者は権利者の再婚や子どもの養子縁組の可能性を認識しながら、養子縁組につき調査、確認をし、より早期に養育費支払義務の免除を求める調停や審判の申立てを行うことなく720万円にも上る養育費を支払い続けたわけであるから、むしろ義務者は、養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、実際に調停を申し立てるまでは子どもらの福祉の充実の観点から養育費を支払い続けたものと評価することも可能であること →調停申立時から支払義務がないとした。
・養育費額を変更すべき客観的な事情が発生し、当事者の一方がその変更を求めたにもかかわらず、他方がこれを承諾しない限り養育費額が変更されないというのは合理的ということはできないから、家事審判事件において養育費額を変更すべき事情があると判断される場合、養育費の増額請求または減額請求を行う者がその相手に対してその旨の意思を表明した時から養育費額を変更するのが相当である →養子縁組を知り、養育費の支払いを打ち切った時点から支払義務がなくなったとした。
このように、養子縁組をしたことによっていつから支払義務がなくなるかはケースバイケースですが、上記のとおり具体的に請求した時点から減免を認める裁判例がありますので、養子縁組をしたことを理由に減免を請求したいのであれば、養子縁組の事実を知ったあと早期に手続に着手することをお勧めします。
他方、養子縁組した側についても、今回紹介した裁判例では過去の受領分を遡って返還することが否定されたものがあるものの、そもそもどの時点から支払義務がなくなるかは裁判所の判断次第であり、場合によって過去分の返還が必要になる可能性もありますので、養子縁組をした際にはきちんと元配偶者に伝えた方が無難です。
弁護士 平本丈之亮