「自己破産をすると、全ての財産を処分しなければならない」。
自己破産というと、このように考える方が大半だと思います。
しかし、実際にはこのようなイメージは不正確なものであり、自己破産をしても手元に残すことができるもの(=「自由財産」といいます)はそれなりにあります。
今回は、自己破産をしても手元に残せるものは何か、というテーマについてお話していきます。
破産手続では、99万円までの現金は自由財産として扱われますので、99万円までは手元に残すことができます(破産法第34条第3項1号、民事執行法第131条3号)。
ただし、預金を破産申立直前に下ろして現金にした場合や破産申立直前に保険を解約して現金にしたような場合、現金としてはカウントされず元の預金や保険として扱われますので、直前に預金を下ろしたり保険を解約して99万円にしても意味はありません。
合計で20万円までであれば自由財産として扱われます。
自己破産をすると、家具や布団、テレビや冷蔵庫など、家財道具を一切合切処分しなければならないのではないかと思われる方がいらっしゃいますが、実は家財道具の多くは差押禁止財産(=自由財産)とされていますので、個人の破産手続の中で処分されることはほぼありません(少なくとも、当職は個人の破産事件で家財道具を処分されたという経験はありません)。
ただし、高価な貴金属、最新型で高額な家電製品など、客観的に見て財産価値のあるものについては、その評価額次第で処分されてしまうことはあり得ます。
不動産に関しては、基本的に処分されてしまうことを覚悟しなければなりません。
ただし、ほとんど価値のない農地、山林や雑種地など売却できる可能性がないものは、破産管財人の判断で処分されない場合もあります(これを財団からの放棄といい、放棄された不動産は結果として処分されないまま残ります)。
また、そのようなケースではない場合でも、破産者の親族が資金を用意して、不動産の評価相当額や住宅ローンの残額を支払うことで不動産の処分を避けられる例もあります。
このように、不動産については例外的に残せる場合もいくつかあるのですが、通常、不動産は高額であり資金を用意するのも簡単ではないため、宅地や建物などについては自己破産すると手放さなくてはならないのが一般的といえます。
そのため、住宅ローンを組んでいる方である程度安定した収入のある方については、まずは自己破産ではなく「個人再生」(→「自宅を残して負債を整理する方法はあるか?~個人再生~」)を検討することになります。
自動車関係については、ローンが残っているかどうか、初年度登録から何年経過しているか、普通自動車か軽自動車か、国産か外国車かなどによって自由財産となるかどうかの結論が変わってきます。
この点は、別のコラム(→「自己破産すると、自動車はなくなるか?~自己破産①~」)で詳しく説明していますので、興味のある方はそちらをご覧下さい。
退職金や保険については、概ね20万円を超える価値があるかどうか、あるいは退職金の性質によって結論が変わります。この点は資産価値をどのように評価するのかが絡むところですが、以下のコラムで詳しく説明していますので、そちらをご覧下さい。
このように、自己破産の手続では手元に残せるものと残すことが難しいものがありますが、では、そのままでは手元に残すことができないような資産(20万円を超えるような資産がある場合)はすべて処分されてしまうのでしょうか?
実は、このような場合には「自由財産の拡張」という制度を利用し一定の限度で資産を手元に残すことが可能となる場合があります。
自由財産の拡張は、原則として、現金を含めて総額99万円の範囲内であれば比較的広く認められています。
この制度を利用した場合、たとえば、現金が20万円、預金が30万円、保険の解約返戻金が50万円、というケースでは、資産の合計が100万円になりますので、99万円を超えた1万円を破産管財人に納め、残りの99万円分は手元に残すことが可能になります。
また、いくつかの財産のうちどの財産を残すか選択することも基本的には可能ですので、たとえば現金が19万円、預金が30万円、保険1の解約返戻金が50万円、保険2の解約返戻金が50万円というようなケースでは、保険1と保険2のどちらかを選んで残すということも可能です。
なお、自由財産の拡張の対象にならない財産(これを拡張不相当の財産といいいます)もあり、典型的なところでいうと、①不動産、②破産手続開始後に破産管財人の調査によって発見された隠匿財産などがこれにあたります。
さきほど述べたように、自由財産の拡張が認められるのは原則として99万円の範囲内です。
しかし、例外的に99万円を超えて拡張が認められるケースもあります。
たとえば、破産者が脳梗塞などの病気で働くことができず、今後、継続的に高額の医療費がかかり、他の財産ではそのような医療費をまかなうことができないようなケースが典型例です。
当職自身も、申立代理人、破産管財人の双方の立場で99万円を超える拡張が問題になったケースを何度も担当したことがありますが、ご本人が病気のケースだと、金額次第ではあるものの裁判所も比較的拡張を認める傾向にあると思われます。
当職の経験上、これまでに99万円を超える拡張が認められたケースとしては、入院給付金や生命保険の解約返戻金などがあります。
また、財産の原資が給与や年金などその全部ないし一部が本来は差押禁止財産であった場合には、たまたま破産申立の直前で振り込まれて預金になってしまい99万円を超えたようなケースでも、本来は差押禁止財産だったことを考慮して超過分の拡張が認められることがあります。
以上ご説明したとおり、自己破産をしても一定の範囲で財産を残せる場合があり、【自己破産=すべての資産の没収】ではないことがお分かりいただいたと思います。
当職のところに債務整理のご相談にいらっしゃった方の中には、保険などの資産を全て処分して支払いに回し、まったく財産がなくなった段階で初めてご相談に訪れる方もおり、タイミング次第は財産を残せたかもしれないという残念なケースもあります。
このように、自己破産するタイミングによっては残すことができる資産が大きく変わることがありますが、では適切なタイミングはいつなのかという点をご本人が判断するのは難しいところですので、自己破産を含め債務整理を検討されている場合には、早い段階で弁護士に相談されることをお勧めします。
弁護士 平本丈之亮
「特別定額給付金・子育て世帯臨時特別給付金と差押・自己破産」
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