令和3年5月17日、アスベストの健康被害について最高裁判所が国の規制権限不行使の違法性を認める判決を下したことを受け、昨年成立した「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が、令和4年1月19日に施行されました。
この法律は、アスベストの吹き付け作業などに従事して病気になった労働者、一人親方、中小事業主(家族従事者含む)やその遺族に対して、被害の程度に応じて給付金を支給するというものですが、今回は、この建設アスベスト給付金が具体的にどのような方に支給されるのかという点や、給付金の額、請求の手続などについて大まかな内容を説明したいと思います。
対象者
建設アスベスト給付金の対象となるのは、以下の条件を満たす方です。
ご覧のとおり、建設会社に雇われている労働者である必要はないため、いわゆる「一人親方」でも対象となりますし、アスベストの健康被害によって既に被災者が亡くなった場合には、遺族(受給できる順位は法律で決まっています。)が受給することができます。
1 日本国内において、以下の期間、以下の建設業務(※1)に従事したこと 【昭和47年10月1日~昭和50年9月30日】 石綿の吹付け作業に従事 【昭和50年10月1日~平成16年9月30日】 屋内作業場(※2)で行われた作業に従事 2 1の作業に従事したことにより石綿関連疾病(※3)にかかったこと 3 下記の者であること ①労働者(労働基準法第9条に規定する労働者) ②中小事業主 対象となる時期と主たる事業の種類によって異なりますが、一定数以下の労働者を使用していた事業主が対象となります(詳細は割愛します)。 ③一人親方 会社などに雇用されずに自営業として個人で建設作業に従事していた方ですが、このような方で労災の対象にならないケースでも給付金の支給対象となります。 ④家族従事者等 ・中小事業主が行う事業に従事する家族従事者・代表者以外の役員 ・一人親方が行う事業に従事する家族従事者等 ⑤①~④の遺族 遺族については、以下の通り対象者が決まっており、複数の順位の遺族がいるときは、上の方が優先されます・ ⅰ 配偶者(内縁を含む) ⅱ 子 ⅲ 父母 ⅳ 孫 ⅴ 祖父母 ⅵ 兄弟姉妹
<※1 建設業務>
①土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体
②①の準備作業
③①②の作業に付随する作業(現場監督含む。)
<※2 屋内作業場>
屋根があり、側面の面積の半分以上が外壁などに囲まれ、外気が入りにくいことにより石綿の粉塵が滞留する恐れのある作業場
<※3 石綿関連疾病>
①中皮腫
②肺がん
③著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚
④石綿肺(じん肺管理区分2~4のものやこれに相当するもの)
⑤良性石綿胸水
給付金の額
給付金の額は、以下の表のとおりとなっています。
ただし、一定の場合(※4)には減額されることとされており、また、国や建材メーカーなどから損害賠償を受けている場合には、国から受け取った分は全額、建材メーカー等から受け取った分は一定限度で給付金から差し引かれます。
なお、給付金を受給後、症状が悪化したような場合には、請求期限(後述)を過ぎていなければ、当初の給付金額との差額を追加請求することができます。
1
石綿肺管理2(※5)
550万円
2
石綿肺管理2+じん肺法所定の合併症(※6)あり
700万円
3
石綿肺管理3
800万円
4
石綿肺管理3+じん肺法所定の合併症あり
950万円
5
中皮腫・肺がん・著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚・石綿肺管理4、良性石綿胸水
1150万円
6
上記1、3により死亡
1200万円
7
上記2、4、5で死亡
1300万円
<※4 減額される場合>
①短期ばく露による減額(10%)
・従事期間10年未満で肺がん・石綿肺になった場合
・従事期間3年未満で著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚になった場合
・従事期間1年未満で中皮腫、良性石綿胸水になった場合
②喫煙習慣により肺がんになった場合の減額(10%)
なお、①と②の両方にあてはまる場合は給付金の19%が減額となります。
<※5 石綿肺管理区分(=じん肺管理区分)>
じん肺健康診断の結果によってじん肺を区分したもので、区分1は所見がなく、2以降は所見が見られ、2~4に進むにつれてじん肺が進行していることを示しています。
<※6 じん肺法所定の合併症>
・肺結核
・結核性胸膜炎
・続発性気管支炎
・続発性機関誌拡張症
・続発性気胸
請求の期限
この法律に基づく給付金の請求期限は以下の通りとなっています。
・①②のいずれか遅い方から起算して20年 ①石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日 ②じん肺管理区分2~4の決定日 ・被災者が石綿関連疾病によって亡くなった日から20年
請求の方法と「労災支給決定等情報提供サービス」について
請求の方法は、厚生労働省労働基準局労災管理課建設アスベスト給付金担当宛に、郵送で請求書や必要書類を送付するとされており、郵送以外の受付はありません。
<必要書類は?簡易な請求方法はあるか?>
請求書や住民票、就業歴等申告書、医師の診断(意見)書、診断の根拠となる資料(医療記録や画像など)、遺族の場合には戸籍謄本や死亡届の記載事項証明書などの添付書類が必要となります。
請求書や添付書類の様式は厚生労働省のHPに掲載されており、それ以外にも都道府県労働局や労働基準監督署の窓口でも入手できるため、通常はこれを適宜利用・参照しながら請求することになります。
なお、労働者に該当して労災認定(特別加入制度による給付を含む)を受けている場合や、遺族が石綿救済法の特別遺族給付金を受けている場合には、厚生労働者の「労災支給決定等情報提供サービス」を利用して、労災認定等に用いられた情報の中で建設アスベスト給付金の請求に必要な情報をわかりやすく加工した通知書の提供を受けることができます。
この通知書に記載された情報を利用することによって、請求書の記載がしやすくなったり、就業歴等申告書、労災保険給付や特別遺族給付金の支給決定通知書、じん肺管理区分決定の通知書といった添付書類を省略して請求できるようになるため、利用できる方はこれを利用すると請求しやすくなります(医師の診断書や診断根拠の資料についても、労災支給決定等情報提供サービスによって提供を受けた情報と同じ内容をもとに給付金を請求する場合には省略することが可能です)。
今回の法律では、労働者はもちろん、労働者以外の一人親方や中小事業主、家族従事者、遺族も支給の対象となっており、請求できる方の範囲は広くなっています。
既に労災認定を受けている等の場合は上記のとおり簡易な請求方法が可能であるためこれを積極的に利用するのが良いと思いますが、そのような方法がとれない一人親方等やその遺族については添付資料の準備などでつまずく可能性もありますので、最寄りの相談窓口や弁護士などに相談しながら、請求漏れがないようにしていただきたいと思います。
弁護士 平本丈之亮