リース会社はリース事業協会の自主規制規則に基づく施策を講じ、サプライヤーによる不当な勧誘等を防止し顧客を保護すべき信義則上の義務があると判断したケース

 

 商品等を事業に導入するための手段として利用されるリース契約のうち、リース会社と販売業者(サプライヤー)との間においてあらかじめ提携関係が結ばれ、サプライヤーはリース会社にユーザーをあっせんし、リース契約の事務手続もサプライヤーが代行するものをいわゆる提携リースといいます。

 

 提携リースは、リース会社にとっては顧客の開拓や事務手続を提携先であるサプライヤーに委ねることができ、サプライヤーにとっても代金を容易に回収できるメリットがありますが、サプライヤーがユーザーに対して虚偽説明をして不必要な契約を締結させたり過剰な契約(過量販売)を締結させる問題事例があるほか、サプライヤーがユーザーとの間で何らかの契約を締結し、サプライヤーが月額リース料と同額の金銭を振り込むため実質的な負担はない(「キャッシュバック」と呼称されています。)などと説明し、実際には途中で支払いがなくなってしまいリース料の支払いに窮してしまう、などのトラブルが生じています。

 

 そして、このような場合、ユーザーが契約の問題に気付いてリース契約を解約しようとしても、リース契約はリース会社とユーザーとの間の契約であるため、サプライヤーの勧誘行為の違法性がリース契約の効力に影響しないのではないかという問題があり、それ以外にも、ユーザーは(零細であることが多いとはいえ、形式的には)事業者であり、契約目的等との関係で特商法や消費者契約法といった消費者保護法を適用できないケースもあり、ユーザーがリース会社に苦情を述べても解決できずに、リース会社から裁判を起こされるケースが存在します。

 

 もっとも、先ほど述べたとおり、提携リースではリース会社とサプライヤーとの間に提携関係があり、リース会社はサプライヤーを利用することで利益をあげている実態に照らすと、自己の手足として利用していたサプライヤーが違法な勧誘行為を行ったにもかかわらず、それによって生じる不利益はユーザーだけが負担するのはおかしいのではないかと思えるところです。

 

 そのため、リース契約の締結過程にサプライヤーによる不当勧誘が存在した場合、裁判においてリース会社の請求が信義則上制限されるべきではないか問題となることがありますが、今回は、このようなユーザー側の主張を認め、リース会社が公益社団法人リース事業協会の定める自主規制規則に基づく施策を懈怠したことを理由にリース料の請求を一部制限した高裁裁判例(大阪高裁令和3年2月16日判決)を紹介したいと思います。

 

大阪高裁令和3年2月16日判決

【事案の概要】

 サプライヤーであるAが、ユーザー(個人事業者)に対し、無償でホームページを提供する代わり、ユーザーにAの販売するソフトウエアを目的としたリース契約を結んでほしいこと、ただし、別途、ユーザーがAと締結する広告契約に基づいてAから広告掲載料が支払われるのでユーザーには実質的な負担はない、などと勧誘し、これによりユーザーがリース会社とリース契約を締結したところ、のちにAが倒産し広告掲載料が支払われなくなりリース料を支払えなくなったため、リース会社が残リース料を請求したもの。

 

【登場人物等】

控訴人:ユーザー

被控訴人:リース会社

A:本件リース契約のサプライヤー

 

【裁判所の判断】

<リース事業協会の自主規制規則の指摘>

「被控訴人が賛助会員となっている公益社団法人リース事業協会(以下「リース事業協会」という。)は、平成23年頃には、リース会社とサプライヤーとの間の業務提携により、事業者(法人又は個人事業者)を対象として、比較的少額な案件を中心に行われる小口リース取引に関し、サプライヤーの販売方法(企業規模にそぐわない高額・高性能な物件を導入させられたとの「過量販売」やサプライヤーが月額リース料と同額を振り込むので実質負担がないとの説明を受けたとの「キャッシュバック」が把握されていた。)に対するものを含め、多数の苦情が発生するとの問題が生じていたことから、平成27年1月21日には「小口リース取引に係る自主規制規則(以下「本件自主規制規則」という。)を制定・施行した。」

 

<リース会社の信義則上の義務>

「被控訴人は、リース会社として、Aその他のサプライヤーと業務提携することにより、直接顧客に対する勧誘行為をしたり、自ら全ての事務手続を行ったりすることなく、リース契約を獲得するとの利益を得ているのであるから、サプライヤーの行為について全く責任を負わないと解するのは相当ではない。本件自主規制規則は、リース事業協会の内部規制にすぎないものではあるが、サプライヤーの販売方法に対する苦情その他の小口リース取引に係る問題がリースの社会的信用を損ねるものであるとの認識のもとに、これを改善するため、リース会社が遵守すべき業界のルールを対外的に公表したものとして、リース会社とサプライヤーの顧客との間の私法上の権利義務の内容を考えるに当たっても参照されるべきである。これらのことを勘案すると、サプライヤーと業務提携して小口リース取引を行うリース会社は、少なくとも本件自主規制規則に定める程度の各施策を講じることを通じて、サプライヤーの顧客に対する不当な勧誘等を防止し、顧客を保護することが私法上も期待されており、これを懈怠したことにより、顧客に不利益が生じたと認めるべき具体的事情が存在する場合には、リース契約が有効に成立している場合においても、リース会社の顧客に対するリース料の請求が信義則上制限される場合があるというべきである。」

「前記した本件自主規制規則制定の経緯に照らすと、被控訴人は、平成27年1月の時点で、本件リース契約のような小口リース取引について問題のある取引が発生していたこと、これを防止するために本件自主規制規則が設けられたことを認識していたというべきであるから、具体的にAに関する苦情やソフトウェアのリースに関する行政通達が存在しない場合でも、本件自主規制規則に定める程度の各施策を講じることにより、サプライヤーの顧客に対する不当な勧誘等を防止し、顧客を保護すべき信義則上の義務があったというべきである。」

 

<裁判所が認定した具体的事情等(要約)>

①ユーザー(控訴人)は、Aの担当者から、Aとユーザーが別途締結する広告契約(注:ユーザーのホームページや店舗内にAが指定する広告を掲載する契約)に基づいてAがユーザーに広告掲載料を支払い、ここからリース料金を支払うことで、ユーザーにはリース契約の経済的負担は生じない旨の説明を受けていた。

 

②①のような説明は虚偽事実の告知とまでは認められないものの、ユーザーが自ら債務を負担することになるリース契約を締結するか否かを的確に判断することを阻害する不適切な勧誘行為であったというべきである。

 

③本件自主規制規則では、リース会社からユーザーに対する電話確認において、サプライヤーとユーザーとの間の取引行為の状況を確認すると定めているが、本件のリース会社(被控訴人)による電話確認においては、Aとユーザーとの間の取引状況が確認されたとは認められない。

 

④そのような確認が行われた場合には、本件のリース会社は①の広告契約の存在を把握することができたといえ、そうすれば本件リース契約の締結に至ることはなかったと推認することができる。

 

→本件のリース会社がAとユーザーとの取引状況の確認を行わなかったことは、前記具体的事情(=「本件自主規制規則に定める程度の各施策を講じることを通じて、サプライヤーの顧客に対する不当な勧誘等を防止し、顧客を保護することが私法上も期待されており、これを懈怠したことにより、顧客に不利益が生じたと認めるべき具体的事情」)に該当するから、本件ではリース会社のユーザーに対するリース料の請求は信義則上制限される。

 

 以上のとおり、上記判決は、当該サプライヤーに関する具体的な苦情やソフトウェアリースに関する行政通達が存在しない場合であっても、リース会社には業界の自主規制規則が定めた施策を講じるべき信義則上の義務があったとし、この自主規制規則に基づく確認を怠ったことによってユーザーに不利益が生じたと認定して、リース会社によるリース料の請求を一部制限しています。

 

 そして、具体的な結論としては、①ユーザーが小規模とはいえ店舗を構える事業者であったこと、②Aとの取引が2回目であったこと、③ユーザーは集客効果を目的としてリース契約を締結していること、④リース会社に対してリース料の支払意思があることを表示していたこと、⑤ユーザーは不動産に根抵当権を設定して金融取引をする等の社会的経験を有すること、⑥リース会社に対して自らが債務を負担することになることは理解が困難なものではないこと、を指摘して残リース料の3割を制限する(=7割の請求を認容)と判断しています。

 

 提携リースは、それぞれの契約は比較的少額でも、問題のあるサプライヤーが小規模零細事業者をターゲットに勧誘を繰り返すことで全体としては多額の被害が発生する場合があり、今回ご紹介した判決もまさにそのようなケースでしたが、この判決が具体的な行政通達等がなくても業界内の自主規制規則が存在することを根拠にリース会社に信義則上の義務を認めたこと自体は、サプライヤーによる不当勧誘を抑止するうえで一定の意味があると思われます(ただし、3割の制限にとどまった点は、この程度の制限ではサプライヤーの不当勧誘を抑止する効果としては弱く、いわばやったもの勝ちに繋がってしまうのではないかとの懸念があるため個人的には物足りない結果です)。

 

 なお、この判決は、リース会社がサプライヤーとユーザーとの間の取引行為の状況を確認すべきであったにもかかわらず、サプライヤー・ユーザー間の広告契約(キャッシュバックの性質を有するもの)について確認しなかったことのみを取り上げてリース会社の義務違反を導いていますが、自主規制規則の内容はこれに限られません。

 

 たとえば、上記自主規制規則においては、リース会社が顧客に電話確認をする際は、①顧客のリース取引の理解度を把握し、その理解度に応じて当該リース取引の主要内容の説明を行うとともに、②リース取引の申込書等の書類の有無及び記載内容、③申込書等に記載されたリース物件の名称及び数量等の取引内容、サプライヤー等から搬入された物件の状況、④サプライヤー等から顧客に交付された物件見積書の有無及び記載内容、⑤サプライヤー等と顧客との間の取引行為の状況、を確認しなければならないとされていますので、少なくともここで規定されている内容はリース会社の信義則上の義務の根拠になり得ると思われます。

 

 したがって、悪質なサプライヤーによる問題のある勧誘がなされた場合には、このような点を意識して、リース会社の態様が自主規制規則に違反していないかどうかを細かく確認していくことが重要と考えます。 

 

 弁護士 平本丈之亮

2022年5月17日 | カテゴリー : 契約トラブル | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所