婚姻費用の金額は明確に取り決めをした方が良いというお話

 

 夫婦関係が悪化して別居をする場合などに、夫婦の一方から相手に対して、当面の生活費として婚姻費用の支払いを請求することがあります。

 

 婚姻費用については、いわゆる簡易算定表によって双方の収入や家族構成に応じたある程度相場がありますので、きちんとした手順を踏めば多くの場合請求できますが、別居の時点で明確な取り決めをしないと、調停の申立などをするまでの間、婚姻費用を支払ってもらえないことがあります。

 

 また、一応、夫婦間で話し合ったものの、内容をきちんと詰めずに口頭だけで済ませてしまった場合、相手が自発的に支払わないと後になって合意の成立が否定されてしまうことがあり得ます。

 

東京地裁令和2年11月5日判決

 例えば、過去に夫が妻に一定額の支払いをしていたことを根拠に婚姻費用についての約束があったとして、民事裁判で不払い期間の分や将来の分の支払いを求めたケースにおいて、東京地裁令和2年11月5日判決は「婚姻費用の分担額について,夫婦の協議または家庭裁判所の調停・審判により支払義務が具体的に確定していない場合,不適法な訴えとして却下すべきものと解するのが相当である。」と述べた上で、本件では「夫婦の資産、収入などを踏まえて具体的に婚姻費用分担金の金額について真摯な協議をしていた事情を認めることはできない。被告が上記支払をしていたのは、原告や原告の両親との円満な生活のために、単に支払うことができる金額の支払をしていただけにすぎないともいえる。」として婚姻費用の合意を否定し、民事裁判での支払請求を却下しました。

 

 このケースにおいて、もしも毎月の婚姻費用についてきちんと書面で取り交わしをしていたのであれば、当事者間で合意が成立していたとして支払請求が認められた可能性があります。

 

 このように、当事者間での合意内容が口頭だけにとどまっていると、不払いが発生した場合に結局は調停等の手続から始めなければならなくなり、手続の着手が遅れれば遅れるほど、最終的に支払ってもらえる額が少なくなる可能性があります。

 

 口頭での合意であっても相手が自発的に支払ってくれるのであれば特に問題はありませんが、今回裁判例をご紹介したとおり、ひとたび不払いが生じた場合は裁判では回収できない場合がありますし、だからといって改めて調停を申し立てても、それまでの期間の分は回収できなかったり、調停等で従前の合意金額が維持されるとは限りません(このことは離婚後の養育費でも同じと思われます)。

 

 したがって、当事者間で婚姻費用について取り決めをするときには、きちんと書面で明確にしておくのが無難です。

 

弁護士 平本丈之亮