離婚に関する過去のコラムです。
離婚一般
慰謝料その他の損害賠償等
婚姻費用・養育費
財産分与
年金分割
離婚に関する過去のコラムです。
前回(「相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権」)に引き続き、今回も相続法の改正についてお話していきます。
今回取り上げるのは、親族の特別の寄与制度(改正民法第1050条)についてのお話です。
<親族の特別の寄与制度とは?>
この制度は、相続人以外の親族が、亡くなった方(被相続人)に対して無償で療養看護などの特別の貢献をし、そのことによって遺産が維持されたり増えたような場合に、「特別寄与料」を請求することを認める制度です。
<要件①~親族(相続人などを除く)>
この制度の対象となるのは、相続人(・相続放棄者・相続欠格者・排除者)以外の、被相続人の「親族」(=6親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族(民法752条))です。
相続欠格者や排除者などはレアケースだと思いますので通常は相続人以外の親族が対象ということになりますが、具体的には以下のような場合が想定されています。
例1 被相続人=義理の母親 特別寄与者=長男の妻
長男である夫の死亡後、長男の妻が義理の母親の面倒を見ていたケース(夫が義母より先に亡くなると、妻は義母の相続について相続権がない)
例2 被相続人=兄 特別寄与者=妹
兄には妻子がいたが折り合いが悪かったので別居しており、代わりに妹が兄の面倒を見ていたケース(兄の相続人は妻子のため、妹は兄の相続について相続権がない)
例3 被相続人=義理の父親 特別寄与者=妻の連れ子
義理の父親が母と結婚したが、母の連れ子とは養子縁組していなかったところ、母の死後に連れ子が義理の父親の面倒を見ていたケース(母の連れ子には義理の父親の相続権はない)
【内縁の妻は対象外】
また、法律で「親族」の範囲が決まっているため、内縁の妻が内縁の夫の母親の看病をしていた場合にはこの制度の対象にはなりません。
<要件②~療養看護その他の労務を提供したこと>
特別寄与料が認められるには、被相続人のために療養看護その他「労務を提供したこと」が必要です。
労務の提供が必要ですので、金銭的に援助した場合は対象になりません(この点で、相続人自身の「寄与分」の制度とは異なります)。
<要件③~無償であること>
労務の提供は「無償」であることが必要です。
したがって、面倒を見る代わりに金銭的な対価を得ていた場合(生活費を負担してもらっていた場合など)や、被相続人の所有する建物に住まわせてもらっていたなどの場合には対象にならない可能性があります。
<要件④~財産の維持又は増加に「特別の寄与」をしたこと>
「特別の寄与」、すなわち、親族間で通常期待される程度を超える貢献をしたことが必要であり、ここでいう「特別」とは、貢献の程度が一定程度を越えることを意味するとされていますが、どの程度のことをすれば特別の寄与をしたことになるかは現時点では何とも言えないところです。
また、たとえ無償で労務を提供していたとしても、財産の維持・増加に寄与したとはいえない場合には、この制度による特別寄与料の請求はできないことにも注意が必要です(たとえば、交通事故で死亡し、多額の賠償金が支払われた場合などが考えられます)。
<特別寄与料は誰にどうやって請求するのか?>
特別寄与料は、相続人に対して請求できる権利ですが、それぞれの相続人に対しては、法定相続分(あるいは指定相続分)の割合で請求することができます。
具体的な請求方法について、法律では、まずは相続人と話し合いをすることとしていますが、折り合いがつかないときやそもそも話し合いができないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を求める審判の申立をすることができ、家庭裁判所に金額を決めてもらうことができます。
なお、この申立は、遺産分割と同時に行う必要はありません(遺産分割の審判が係属しているときに、裁判所の裁量で遺産分割と同時進行とされる場合はあると思いますが、あくまで遺産分割とは別の問題です)。
<特別寄与料には上限がある>
特別寄与料は無制限に認められるものではなく、【相続開始時の遺産額-遺贈の額】が上限となっています。
したがって、たとえば相続開始時の遺産が全体で1000万円だったが、その中から700万円を誰かにあげるという遺言があった場合には、特別寄与料の上限は300万円となります。
要するに、親族の特別寄与料よりも、被相続人の最後の意思である遺贈の方が優先されるということです。
<期間制限に注意>
特別寄与料の請求は、①又は②のいずれかまでに家裁に申立をすることが必要ですが、期間が短いので注意を要します。
①相続開始及び相続人を知ったときから6ヶ月
②相続開始から1年間
<施行時期>
この改正については、2019年7月1日が施行日となっています。
弁護士 平本 丈之亮
平成30年7月6日、相続に関する法律を改正する法律案が2つ成立しました(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」・「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)。
この改正の内容は多岐にわたりますが、改正によって相続手続に大きな変更がありましたので、これから数回に分け、重要な改正についてご説明していきたいと思います。
今回は、第1回目として、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」についてご説明したいと思います。
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、夫や妻が亡くなったときに、配偶者である妻あるいは夫が被相続人所有の建物に住んでいた場合、その建物を無償で使うことができるという権利です(固定資産税など通常の経費は負担が必要です)。
【どのような場合に権利が発生するのか?】
配偶者居住権が発生するケースは以下の場合とされています。
①遺産分割手続(協議・調停・審判)
②遺贈・死因贈与
このように、配偶者居住権は相続の発生によって当然に取得できるというものではなく、被相続人の意思表示によるか(遺贈・死因贈与)、相続人との間の話し合い(協議・調停)、あるいは裁判所の判断(審判)が条件となっています。
また、家裁での審判の場合は、①共同相続人がこの居住権を付与することについて合意している場合、②配偶者が居住権の取得を希望し、かつ、建物を取得することになる者の不利益を考慮してもなお配偶者の生活維持のため特に必要な場合のいずれかに限定されており、ハードルが高くなっています。
【共有物件の場合は?】
建物が元々被相続人と第三者との共有だった場合には、第三者の負担が大きいため配偶者居住権は取得できません。
これに対して、元々被相続人と配偶者の共有だった建物については、配偶者居住権を取得できる可能性があります。
【配偶者居住権の財産評価について】
配偶者居住権は、財産的価値のある建物を無償で使用できる権利ですから、居住権自体に財産的価値があります。
そのため、建物以外にも預金などの遺産があるケースであれば、居住権の価値を適正に評価して、居住権を得る配偶者と他の相続人との間が公平になるように分配内容を調整していくことが必要となります。
また、土地建物以外にめぼしい財産がないケースでも、配偶者居住権を設定するのであれば、遺産としては、配偶者居住権、居住権の負担のついた建物所有権、そして敷地がありますから、相続人間での公平を保つためにはやはり居住権の評価が重要となります。
もっとも、居住権は目に見えないものであることや、新しく創設された制度であるため、現時点で具体的な評価方法は確立されていません。そのため、将来的には居住権の財産価値を巡って紛争になることも予想され、弁護士としてはこの点が気になるところです。
配偶者短期居住権
以上で説明したところは、あくまで遺産分割や遺言などによって配偶者が権利を取得するというお話でした。
もっとも、遺産分割の手続が終わり建物の所有者が決まるまでの間、配偶者としては一体どこに住めばいいのか困るケースもあるでしょうし、遺贈などによって建物が配偶者以外の人に相続された場合には、配偶者に退去までの準備期間を与えて保護する必要があります。
そこで、相続によって不安定な立場におかれる配偶者を保護するために新設されたのが配偶者短期居住権です。
【どのような場合に発生するのか?】
配偶者短期居住権は、配偶者が、相続開始時に被相続人所有の建物に無償で住んでいた場合に、法律上当然に発生します。
配偶者居住権のように、遺産分割手続や遺言の結果発生するわけではありません。
【存続期間は?】
配偶者短期居住権は、先ほどの配偶者居住権と異なり、相続開始後のある程度の範囲に限り居住権を保護しようというものですので、その観点から期間制限が設けられています。
配偶者短期居住権が発生するケースは、①遺産分割が必要な場合と、②遺産分割が不要な場合の2パターンがあり、いずれのパターンかによって存続期間が異なります。
・遺産分割が必要な場合
特に遺言などがなく、単純に建物について遺産分割手続をする場合です。
この場合、配偶者には、①と②のいずれか長い方まで居住権が認められます。
①遺産分割が成立するまで
②相続開始から6ヶ月のいずれの期間まで
したがって、たとえば遺産分割協議が終了するまで1年かかれば、短期居住権は1年間となり、その間、配偶者は賃料を支払う必要はありません(固定資産税など通常の経費負担が必要なのは配偶者居住権と同じです)。
また、遺産分割協議が3ヶ月で成立し、配偶者以外の相続人が建物を取得したとしても、配偶者は残り3ヶ月はその建物に無償で住み続けることができます。
・遺産分割が不要な場合
配偶者の住んでいた建物が、被相続人の遺言によって他の者に遺贈された場合が典型例です。
この場合、配偶者は建物それ自体について権利を持ちません(遺留分を侵害するような遺贈だった場合、従前、遺留分を侵害された者は建物に対して一定の持分を取得するとされていましたが、改正法によって、このようなケースでも建物に対する権利が発生するのではなく、あくまで遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求権が発生することになりました)。
しかし、遺贈などによって突然住居を失うことになると配偶者にとって酷なことがあることから、この場合には、権利を取得した者から退去の申し入れがあったときから6ヶ月間、配偶者はその建物に居住することができます。
施行日
この制度が施行されるのは、2020年4月1日からとなっています。
弁護士 平本丈之亮
交通事故の事故態様として比較的ご相談が多いのが、駐停車中の車両への追突事故というケースです。
このような追突事故が起きた場合、追突した側が100%悪く、追突された側にはまったく落ち度はないというのが一般的な感覚かと思いますが、実は事情次第ではそのような結論にならないことがあります。
駐停車中の追突事故の過失割合については、実務上広く用いられている文献である「別冊判例タイムズ38号」が様々なパターンでの考え方を示していますので、今回は、四輪車同士の交通事故のうち駐停車中の車への追突事故の過失割合について、基本的な考え方をご説明したいと思います。
典型的な事故状況
【基本の過失割合】
A:B=100:0
被追突車(B)が駐停車中の場合、基本的には被追突車(B)の側に過失はありません。
【例外:Bにも過失があるとされるケース】
もっとも、以下のようなケースでは被追突車(B)の側にも落ち度があるとして、過失割合が修正されることになります。
[1.現場の視界が不良の場合]
A:B=90:10(Bに+10%)
以下のような理由があって現場の視界が悪い場合、後続車であるAからは前方に駐停車していたのBを発見するのが難しいため、過失割合が修正されます。
①雨が降っていた
②濃い霧がかかっていた
③夜間で街灯もなく暗い場所だった
[2.Bが駐停車禁止場所に駐停車していた場合]
A:B=90:10(Bに+10%)
この場合は、Bが法律で禁止された場所に車両を駐停車させたことで他の交通を妨害し、事故発生の危険性を高めているため、過失割合が修正されます。
[3.夜間にBが警告措置(ハザード・三角反射板)をしていなかった場合]
A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)
夜間は視界不良となることから、駐停車中の車がハザードランプを点灯するなど適切な警告措置を取っていなかった場合、後続車は駐停車車両の発見が困難となるためです。
[4.Bの駐停車方法が不適切な場合]
A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)
駐停車方法が不適切とされる具体例としては、以下のようなものがあります。
①道路幅が狭いところに駐停車した場合
②追い越し車線に駐停車した場合
③幹線道路など交通量の多いところに駐停車した場合
④車道を大きく塞ぐ形で駐停車した場合
⑤車両が汚れていて車両後部の反射板が見えなくなっているような場合
車が駐停車するときは、法律上、道路の左端に沿い、かつ、他の交通の妨げにならないようにしなければならないとされていますが(道路交通法47条1項、2項)、①~④の場合はこの定めに反し、Bは交通事故の危険を増加させて追突事故を誘発させているため修正がなされます。
⑤については、反射板が汚れているとAからはBを見つけることが難しいということが修正の根拠とされていますが、別冊判タ38号ではこれも不適切な駐停車方法にあたると分類しています。
[5.Bに「著しい過失」または「重過失」がある場合]
「著しい過失」 A:B=90:10(Bに+10%)
「重過失」 A:B=80:20(Bに+20%)
これに該当しうる具体例としては以下のようなものがあります。
・自招事故によって駐停車した場合
・駐停車車両を放置していた場合
ちなみに、どのような場合に「著しい過失」と「重過失」に振り分けられるかについて、別冊判タ38号では具体的な基準が明示されていませんが、この点は、自招事故に対するBの落ち度の程度やBが車両を放置していた時間帯や放置時間の長さ、幹線道路かどうか、当時の道路状況など個別の事情によってケースバイケースの判断になると思われます。
【例外の例外もある】
以上の通り、一定の事情がある場合には、駐停車中の追突事故であっても被追突車(B)の側に過失があるという判断がなされます。
もっとも、そのようなケースであっても、以下の場合には、例外の例外として、さらに追突事故についての過失割合が修正されることがあります。
[1.Bが退避不能だった場合]
Bに-10%
突然のエンジントラブルやパンクなどで退避することが不可能だったような場合、たとえば駐停車禁止場所に止まってしまったとしてもBに落ち度があったとはいえないので、追突事故の発生に対するBの過失割合が軽くなります(駐停車禁止場所の例でいえば、通常はA:B=90:10ですが、A:B=100:0となります)。
[2.Aに15㎞以上の速度違反があった場合]
Aに+10%
このような場合はAの落ち度が大きいため、最終的なBの過失割合は軽くなります。
[2.Aに30㎞以上の速度違反があった場合]
Aに+20%
理屈は15㎞以上オーバーの場合と同じですが、速度違反の程度が著しいためAの過失割合が加重されます。
[3.Aに「著しい過失」、「重過失」がある場合]
「著しい過失」 Aに+10%
「重過失」 Aに+20%
速度違反以外でAの運転方法などに「著しい過失」「重過失」がある場合には、上記のとおりAの過失割合が加重されます(なお、「著しい過失」「重過失」の意味については、「交通事故における「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~」をご覧下さい。)
いかがだったでしょうか?
ひとくちに駐停車中の車への追突事故といっても、このように状況次第では過失割合は変動します。
過失割合については、今回取り上げた追突事故だけではなく事故の状況によって様々な修正要素があるため、相手方の保険会社からの見解が正しいかどうか判断することが難しいことがありますので、示談交渉で迷われたり不安がある場合には弁護士へのご相談をご検討下さい。
弁護士 平本 丈之亮
交通事故の案件を扱う際に避けて通れない問題として、どちらの落ち度がより大きいのか、すなわち「過失割合」の問題があります。
過失割合についてはある程度定型化が進んでおり、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]」(別冊判例タイムズ38号)という書籍によって、公道上での交通事故に関しては、よほど特殊な事故態様でない限り基本的な過失割合は調べやすい状況にあります。
もっとも、道路状況や事故状況などから基本的な過失割合がわかったからといって、それをそのまま適用するかどうかはまた別の問題であり、実際にはそこからさらに、運転者の事情に応じて過失割合を修正するかどうかを検討していくことになります。
今回は、このような過失割合を修正する事情として比較的問題となることの多い自動車の「著しい過失」と「重過失」について説明したいと思います。
なお、「著しい過失」・「重過失」については、今回の解説の対象である自動車のほか、軽車両である自動車が事故当事者になった場合にも問題となりますが、自転車の「著しい過失」・「重過失」については下記のコラムをご覧ください。
基本の過失割合
A:B=30:70
「著しい過失」がある場合
【Aに著しい過失がある場合】
A:B=40:60(Aに+10%)
【Bに著しい過失がある場合】
A:B=20:80(Bに+10%)
「重過失」がある場合
【Aに重過失がある場合】
A:B=50:50(Aに+20%)
【Bに重過失がある場合】
A:B=10:90(Bに+20%)
「著しい過失」・「重過失」とは?
このように、運転者に「著しい過失」や「重過失」があった場合には基本の過失割合が10%ないし20%が修正されることになりますが、ここでいう「著しい過失」や「重過失」とは、具体的にどのようなものをいうのでしょうか?
この点について、先ほどご紹介した別冊判タ38号では、「著しい過失」と「重過失」とは以下のようなものを指すとしています。
①脇見運転などの著しい前方不注視
②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切
③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転
④おおむね時速15㎞以上30㎞未満の速度違反(高速道路を除く)
⑤酒気帯び運転(※) など
※血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則対象ですが、罰則の対象にならない程度の酒気帯びも対象となります。
①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)
②居眠り運転
③無免許運転
④おおむね時速30㎞以上の速度違反(高速道路を除く)
⑤過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転 など
以上のとおり、自分や相手の運転の仕方によっては過失割合が修正される可能性があります。
もっとも、実際のケースにおいて相手の運転が「著しい過失」や「重過失」に当たる可能性があったとしても、速度違反や飲酒運転などわかりやすい事情ではない場合、事情を相手の保険会社に適切に伝えて過失割合の修正を求めることは簡単なことではありませんし、逆に相手方から重過失などの指摘があった場合にも、それに対してきちんと反論して交渉を進めていくのもなかなか難しい場合があります。
そのため、過失割合について「著しい過失」や「重過失」が問題となっている、あるいは今後問題となる可能性がある場合や自主交渉で行き詰まったような場合には、弁護士への相談や依頼をご検討いただければと思います。
弁護士 平本 丈之亮
先日、成人年齢を18歳に引き下げる法律が成立し、2022年4月から施行されることが決まりました。
この改正により、それまでは未成年者として保護されていた18歳、19歳の若年者について消費者被害の増加を懸念する声などが上げられていますが、今回は、成人年齢の引き下げによって養育費の支払時期に何らかの影響があるのか、という点についてお話したいと思います。
養育費の支払期限は基本的に当事者の自由な合意で決めることができますが、成人すなわち20歳までとする例が比較的多かったと思われます。
その場合の具体的な決め方については、「20歳まで」という表現のほか、「成人するまで」「成年に達するまで」という表現の場合もあります。
合意の際、「20歳まで」という明確な表現をしていた場合は問題は起きませんが、たとえ「成人するまで」という表現をしていたとしても、この先、法律で成人年齢が18歳に引き下げられたからといって、連動して養育費が18歳で打ち切られるということはありません。
当事者が合意した時点では【成人年齢=20歳】であった以上、当事者は養育費の支払いを20歳までとする前提だったことが明らかだからです。
もっとも、非親権者(義務者)から18歳で打ち切りたいという申し入れがあり、親権者(権利者)がこれに応じた場合、そのように変更する合意そのものは有効ですから、親権者側は不用意に変更に合意してしまわないよう注意が必要です。
このケースでは、【成人=18歳】ということを前提に合意するわけですから、「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をした場合、養育費の支払いは18歳までで終わりという判断にならざるを得ないと思います。
そのため、20歳まで支払ってもらいたいということであれば、合意する際、明確に「20歳まで」などの表現にしておく必要があります。
【相手方から、18歳までとするべきだと言われたら?】
養育費というのは、子どもが未成熟子(=自己の資産又は労力で生活できる能力のない者)である限り負担するべきものです。
法律上、18歳が成人として扱われるようになったからといって、世の中の全ての18歳が突然、経済的に自立するわけはなく、その子どもが未成熟子かどうかは、結局のところ、その子どもを取り巻く家庭環境や本人の能力、健康状態、将来の志望などによって変わってくるところですから、成人年齢が18歳になったからといって当然に養育費の支払いが18歳で終わりになることはありません。
したがって、「成人年齢が18歳になったのだから養育費も当然に18歳になるはずだ。」と言われても、そのようなことはないと反論することは可能です。
この点については、参議院の附帯決議において、「成年年齢と養育費負担終期は連動せず未成熟である限り養育費分担義務があることを確認する」と明確に決議されており、法務省のHPでも、「成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について」という記事の中で、「成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。」と述べられています。
このようなケースで「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をすると、20歳を前提としているのか、それとも18歳を前提としているのか不明確ですから、後々トラブルになる可能性があります。
調停や審判など裁判所で、あるいは弁護士が関与して養育費が決まる場合には、当然、そこに目配りをしますから、「20歳まで」のように明確な書き方をして、18歳までか20歳までかというところで問題が起きることは考えにくいと思います。
これに対して、当事者間の協議で決める場合には、今後も「成人するまで」のような曖昧な決め方をしてしまうことがあり得ますので、そのような決め方はせず明確な表現にすることをお勧めします。
※2019年12月23日追記
同日、裁判所が婚姻費用・養育費の新算定表を公表しましたが、その概要の中で、成人年齢を引き下げる法律の成立又は施行前に養育費の終期を「成年」と定めた場合、基本的には20歳と解するのが相当である、とされました。
また、改正法の成立・施行という事情は、養育費の支払義務の終期を20歳から18歳に変更する事情にあたらず、子どもが18歳になったこともただちに婚姻費用の減額事由に該当するとはいえない、とされています。
弁護士 平本丈之亮
前回までのコラムでは、親権者(=権利者)が再婚した場合における養育費への影響についてお話ししました。
子どものいる夫婦が離婚後に再婚するケースとしては、大きくわけて以下の4パターンがありますが、今回は、子どもを引き取らなかった側(非親権者=義務者)が再婚した場合と養育費への影響について、主に③のケースを取り上げ、④についても簡単に触れたいと思います。
また、最後に、これと似たようなケースとして、義務者と再婚相手との間で子どもが生まれた場合についても取り上げます。
子どもを引き取らなかった側(非親権者=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合、義務者は、①前の配偶者との間の子どものほかに、新たに②再婚相手、③養子、を扶養する義務を負います。 このように、義務者が再婚して連れ子と養子縁組した場合には、義務者は扶養しなければならない人数が増えるため、前のパートナーとの間で取り決めた養育費が減額される可能性があります。 ただし、一旦取り決めた養育費の減免が認められるには、取り決めをした当時、義務者が予想できなかった事情の変更があった場合に限られるとされていますので、たとえば、離婚の当時すでに再婚相手と交際していたとか、離婚後、短期間のうちに再婚相手と交際を開始して再婚したようなケースだと、そもそも再婚と養子縁組は義務者の予想の範囲内であったとして養育費の減免が認められないことがありますので、その点には注意が必要です。 これに対して、義務者が再婚したものの再婚相手の連れ子と養子縁組しなかった場合には、連れ子の生活費が生じていることを理由にして前のパートナーとの間の子どもの養育費が減額されることはないのが原則です。 このようなケースでは、義務者は法的に連れ子を扶養する義務を負わないからです。 ただし、再婚相手に収入がないなど、新たに扶養義務を負うことになった再婚相手の生活費負担が生じる場合には、連れ子の生活費負担を理由とするのではなく、再婚相手の生活費負担を考慮して養育費が減額される可能性はあります。 その場合には、義務者の収入から子どもと再婚相手のそれぞれに生活費を振り分けるための計算を行うことになりますが、今回のメインテーマは養子縁組による養育費への影響であることから、この点の詳細な説明は割愛します。 では、義務者が再婚して養子縁組したことが、前のパートナーとの間の子どもの養育費を減免する理由になり得るとして、果たしてどれくらいの影響があるのでしょうか? この点は、本来、再婚した時点で義務者や再婚相手、あるいは権利者にどの程度の収入があるか、また、子どもたちの年齢はいくつかなどの事情によって異なりますが、ここから先は具体例をもとに計算してみて、どのような変化が生じる可能性があるかをわかりやすく説明するため、義務者と権利者の収入には変動がないものとします。 なお、婚姻費用と養育費の計算については、令和元年12月23日に新たな算定表が公開され従来の算定表から金額が変更された部分がありますが、計算の基礎として用いられる統計資料が最新のものに更新されたものの、基本的な計算方法に変更はありません。 そのため、本コラムでは、新算定表によって変更が生じた部分以外は従来の議論がそのまま妥当するものと判断して説明しますが、新算定表は公開されたばかりであり、今後、具体的な事案において従来とは異なる考え方が採用されて結論が変わる可能性もありますので、その点はあらかじめご了承いただきますようお願い申し上げます。 【設例】 A 権利者:元妻 年間総収入:250万円(給与) B 義務者:元夫 年間総収入:500万円(給与) C 権利者と義務者との間の子ども 1名(離婚時:7歳 再婚時:10歳) D 再婚相手 E 再婚相手の連れ子 1名(再婚時:15歳) 再婚前のCの養育費 まず、BがDと再婚する前の、Cに対する養育費は、標準算定方式では以下のような式で算出します。 Cへの養育費(年額) =義務者の基礎収入 ×Cの生活費指数 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数) ×Bの基礎収入 ÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入) <基礎収入> 総収入から税金や職業費、住居費、医療費等を除いたもの。 実務上は総収入に一定の「基礎収入割合」(%)をかけて計算する。 250万円の給与所得者であれば概ね43%、500万円だと概ね42% のため、AとBの基礎収入はそれぞれ以下の通りとなる。 A 250万円×43%=107万5000円 B 500万円×42%=210万円 <生活費指数> 両親の間で子どもの養育費を按分計算する際に用いる指数で、生活保護基準 や教育費に関する統計から以下の通り導き出される。 義務者(B):100 15歳未満の子(C):62 15歳以上の子(E):85 上記の式をもとに計算すると、BのCに対する養育費は以下の通りです。 210万円 ×62÷(100+62) ×210万円 ÷(210万円+107.5万円) =531,583円 (月額44,298円) 再婚+養子縁組後のCの養育費 以上に対して、義務者Bが再婚相手Dと再婚し、Dの連れ子であるEと養子縁組した場合には、Cの養育費に変更を生じることがあります。 Bは、Eとの養子縁組によって、C以外に新たにEを扶養する義務を負うためですが、実際の計算においては、再婚相手であるDに収入があるかどうかによって、さらに計算方法が変わってきます。 【再婚相手が無収入の場合】 この場合、Bは配偶者として再婚相手のDも扶養する義務がありますので、このようなケースでは、Cに対して払うべき分からDとEの生活費に振り分ける分を差し引くことになり、結果としてCへの養育費が減額されることになります。 具体的には、Cの養育費について、以下のような計算式によって修正を図ります。 Cへの養育費(年額) =Bの基礎収入 ×Cの生活費指数 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数 +Dの生活費指数+Eの生活費指数) ×Bの基礎収入 ÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入) <生活費指数> 義務者(B):100 15歳未満の子(C):62 15歳以上の子(E):85 再婚相手(D):62(仮) なお、再計算にあたって使用する再婚相手Dの生活費指数は、旧算定表のときは15歳未満の子どもと同じとする扱いがされていました(当時の指数は55)。 本コラム執筆時点において、再婚相手の生活費指数がどう扱われるかは不明瞭ですが、子どもの生活費指数を改訂する際に使用された平成25年度から29年度までの基準生活費の平均額に関する統計資料から試算してみたところ、義務者と再婚相手の2名世帯の基準生活費は127,669円(=20~59歳の居宅第1類費38,956円×2名+2人平均の居宅第2類費49,757円)となり、ここから義務者1人の基準生活費(80,289円)を控除して再婚相手の最低生活費を計算すると47,380円となったため、この計算に誤りがなければ、義務者の生活費指数を100とした場合における再婚相手の生活費指数は59という結果になります(80,289:47,380≒100:59)。そうすると、15歳未満の子どもの生活費指数62とは3程度異なるわけですが、この3の違いを大きなものとみるか小さなものとみるかは現時点では何ともいえないところですので、ここではとりあえず、再婚相手の生活費指数は15歳未満の子どもの生活費指数とはあまり差がないものと評価して、便宜上、再婚相手の生活費指数は15歳未満の子どもと同じ62が妥当であるという前提で説明したいと思います。 上記の式をもとに計算すると、再婚と養子縁組後のCに対する養育費は以下の通り,それ以前に比べて約2万1000円ほど減額されるという結果になりました。 210万円×62 ÷(100+62+62+85) ×210万円 ÷(210万円+107.5万円) =278,694円 (月額2万3224円) 【無収入でも収入がある場合と同視される場合もある(潜在的稼働能力)】 なお、再婚相手Dが無収入であっても、働くことに支障がない(連れ子Eが大きいなど)場合には無収入として扱うのではなく、稼働能力を考慮して、以下のような収入がある場合と同視して計算されることもあります。 【再婚相手に十分な収入がある場合】 1.再婚相手Dの生活費は考慮しなくて良い 次に、Dが自分の生活費を賄うだけの十分な収入を得ている場合(あるいは十分な収入があると同視できる場合)には、BはDを扶養する必要はありませんので、Cの養育費を計算するにあたってDの生活費は考慮しません(=Dの生活費を理由にCの養育費が減額されることはない)。 2.養子Eの生活費は考慮するが、制限される可能性あり また、このような場合、Dに十分な収入がある以上、Eの生活費は養親Bと実親Dがそれぞれの収入に応じて負担すべきであるという理由から、Dが無収入のケースの場合よりもEの生活費指数を減らすべきである、という考え方があります(Eの生活費指数が少なくなると、その分、Eに振り分ける金額が少なくなるため、結果的にCの養育費の減額幅が小さくなる)。 他方で、Dに収入があったとしても、Eの生活費指数を修正する必要まではないという考え方もあるようです。 このとおり、この部分は議論があるところですが非常に細かい話ですので、ここではDに十分な収入があるという事情はEの生活費指数を減らす方向で考慮する、という考え方(札幌高裁平成30年1月30日決定)をもとに計算例を示すにとどめます(具体的には、Eの生活費指数85を養親の収入と実親の収入で按分し、85から再婚相手が負担すべき指数分を差し引くという計算例を紹介します)。 【設例】 A 権利者:元妻 年間総収入:250万円(給与) B 義務者:元夫 年間総収入:500万円(給与) C 権利者と義務者との間の子ども 1名(離婚時:7歳 再婚時:10歳) D 再婚相手 年間総収入:500万円(給与) E 再婚相手の連れ子 1名(再婚時:15歳) Cへの養育費(年額) =Bの基礎収入 ×Cの生活費指数 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数 ×Bの基礎収入 ÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入) <生活費指数> 義務者(B):100 15歳未満の子(C):62 15歳以上の子(E):42.5→※ 再婚相手(D):0 ∵Dは自分の収入で生活できる <Eの生活費指数の修正>・・・※ 義務者Bと再婚相手Dそれぞれの収入で養子Eの生活費割合を按分し、 元の指数85からDが負担すべき部分を差し引く Eの生活費指数 ={Bの収入÷(Bの収入+Dの収入)} ={500万円÷(500万円+500万円)} =42.5 210万円 ×62÷(100+62+42.5) ×210万円 ÷(210万円+107.5万円) =421,107円 (月額3万5092円) 上記の通り,再婚相手Dに義務者Bと同程度の十分な収入があり、Eの生活費指数を修正するのが妥当であるとした場合、Cへの養育費は、再婚前に比べて約9000円ほど減額されるという結果になりました。 【再婚相手に収入はあるが不十分な場合】 このケースでは、Cの養育費を再計算するにあたってEの生活費指数を加算するほか、Dの生活費指数も加算する点はDが無収入の場合と同じです。 ただし、Dには不十分とはいえ、一応、収入があるため、Dの収入を計算に反映させる必要があります。 Dの収入をどのように反映させるかは考え方が分かれているようですが、ここでは分かりやすい計算方法として、Dの基礎収入をBの基礎収入に合算して計算する方法とそれに基づいた計算例を示すにとどめます。 なお、Dに不十分ながらも収入があるとすると、Dに十分な収入がある場合と同じようにEの生活費指数を減らす必要があるではないかが一応問題になりそうですが、このケースでは、結局Dは自分の生活費を賄うだけの収入を得ておらず、Eの生活費まで負担できる状態ではないことが前提ですから、Dの収入が不十分な場合にはEの生活費指数を修正する必要はありません。 A 権利者:元妻 年間総収入:250万円(給与) B 義務者:元夫 年間総収入:500万円(給与) C 権利者と義務者との間の子ども 1名(離婚時:7歳 再婚時:10歳) D 再婚相手 年間総収入:50万円(給与) E 再婚相手の連れ子 1名(再婚時:15歳) Cへの養育費(年額) =(Bの基礎収入+Dの基礎収入) ×Cの生活費指数 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数 +Dの生活費指数+Eの生活費指数) ×Bの基礎収入 ÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入) <基礎収入> A 250万円×43%=107万5000円 B 500万円×42%=210万円 D 50万円×54%=27万円 <生活費指数> 義務者(B):100 15歳未満の子(C):62 15歳以上の子(E):85 再婚相手(D):62(仮) (210万円+27万円) ×62 ÷(100+62+62+85) ×210万円 ÷(210万円+107.5万円) =314,526円 (月額2万6210円) 上記の通り,再婚相手Dに不十分ながら収入がある場合、Cへの養育費は、再婚前に比べて約1万8000円ほど減額されるという結果になりました。 以上述べてきたところは、義務者が再婚相手の連れ子と養子縁組した場合を想定した話ですが、義務者と再婚相手との間で子どもが生まれた場合も養子縁組した場合と同じですので、同じような計算で修正を図ることになると思われます。 弁護士 平本丈之亮 再婚と養子縁組のパターン再婚+養子縁組→養育費減免の可能性あり再婚のみ→原則として減免されない再婚+養子縁組で養育費はどの程度の影響を受けるか?
+Dの生活費指数+Eの生活費指数)
再婚相手との間に子どもが生まれた場合も同じ
法律相談を受けていると、一定数、賃貸マンションやアパートなどの保証人の方から相談を受けることがあります。
相談内容で多いのはやはり借主が滞納した場合の責任に関するものですが、その中で、何年も前に保証人になったが、当初の契約期間が過ぎて賃貸借契約が更新されており、更新のときには保証人としてサインしたことがないので責任がないのではないか、というものがあります。
では、このような場合、保証人は契約の更新後も責任を負うのでしょうか?
<原則として更新後も責任を負う>
このようなケースについては最高裁の判決があり、保証人は、更新のときに改めてサインをしなくても、特段の事情がない限り、更新後も責任を負う、とされています(最高裁平成9年11月13日判決)。
一時使用目的の場合を除き、建物の賃貸借契約は長年継続されることが予定されており、保証人としても契約の更新があることを予想した上でサインしていることが通常であること、保証人が負担する責任も一度に多額になることは少なく、予想できないような過大な負担になる可能性が低いということが理由です。
<例外①・更新後は責任を負わない前提だった場合>
もっとも、このルールにも例外があり、そのうちの一つが、当事者間(大家・保証人間)で契約の更新後は保証人は責任を負わないことを前提としていた場合です(最高裁判決でいう「特段の事情」がある場合)。
典型的には、大家さんと保証人との間で、あらかじめ更新後は責任を負わないと合意する場合ですが、通常、最初の契約時に大家さんがそのような条件を受け入れることはほぼないと思いますから、このような理由で保証人が更新後の責任を免れるケースは多くないように思われます。
大家さんと保証人との間で上記のような合意をしたケース以外で「特段の事情」が認められ、保証人の責任が否定された裁判例としては、東京地裁平成10年12月28日判決というものがあります。
この判決で特段の事情が認められたのは以下のような理由によりますが、個人的には②と③の事情が決め手だったのではないかと思っています(更新後は責任を負わないという合意があったとまでは言えないまでも、それに近い状態だった)。
①問題が起きる前は、契約更新の都度、大家さんが保証人との間で保証に関する契約書を交わしていたこと
②更新前に保証人から大家さん宛に保証人を辞退したいと通知したのに対し、大家さん側がリアクションを取らないまま契約が法定更新されたこと
③契約が合意更新ではなく法定更新となったのは、借主が多額の滞納をしたからだが、大家さんは、そのような更新の経緯や更新後に生じた滞納についてただちに保証人に連絡せず、改めて保証人との間で契約書も交わさなかったこと
④更新の時点で滞納額が多額に及んでいたにもかかわらず、大家さんが契約を解除せずに法定更新されたこと
<例外②・保証人に滞納を伝えないまま更新を繰り返した場合>
また、先ほどの最高裁判決は、家賃の滞納がかさんでおきながらその事実を保証人に伝えず、漫然と契約更新を繰り返した場合にまで全額の支払いを請求するのは信義則に反することから、更新後の部分について保証人に対する責任追及が否定される場合があるとしています。
【最高裁平成9年11月13日判決】
「建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無にかかわらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。
以上によれば、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである。」
弁護士 平本丈之亮
前回のコラムで、離婚後に再婚した場合と養育費の関係について、親権者が再婚し、かつ、子どもと再婚相手が養子縁組をした場合についてお話ししました。
再婚した場合には、大きくわけて以下の4パターンがありますが、今回はこのうち②のパターンで、子どもを引き取らなかった側(非親権者)の養育費支払義務への影響について取り上げます。
再婚のパターン
①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合(←前回のコラム)
②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合
③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合
④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合
再婚+養子縁組なし→非親権者は減免されないのが原則
子どもを引き取った親権者(権利者)が再婚したが、子どもと再婚相手が養子縁組していない場合、再婚相手はその子どもに対する扶養義務はありません。
そのため、養子縁組した場合と異なり、義務者の養育費支払義務が減免されることはないのが原則です。
再婚相手が裕福で子どもを事実上扶養→減免もありうる
もっとも、形式的には養子縁組をしていなくても、事実上、再婚相手が自分の収入で連れ子を扶養しているというのは一般的な話ですし、特に再婚相手が裕福で、その収入だけで十分に子どもを養育できるような場合にまで義務者に当初取り決めたままの養育費の支払義務を負わせ続けるのは酷と思われる場合もあります。
そのため、このような場合、権利者が再婚相手から受け取っている生活費相当額や再婚相手の収入の一部を親権者の収入に加算して、その額と義務者の収入とを基にして計算した結果、当初定めた養育費が減額されることもあるという考え方があります。
例えば、離婚時に15歳未満の子どもが1人いて、親権者の妻は無収入、非親権者の夫は450万円の収入があった場合、簡易算定表によれば養育費は概ね6万円になりますが、その後、親権者が再婚し、再婚相手から生活費として月に25万円をもらって15歳未満の子どもを養育している場合、上記の考え方を採用すると親権者の収入は300万円となり、非親権者の収入が変わらず450万円だったとすれば、簡易算定表によると養育費は概ね4万円になります。
再婚相手の収入を権利者の収入として考慮するという考え方については、再婚相手が経済的に余裕があると思われる医師であり、事実上、連れ子を養子に準じるような形で扶養しているケースにおいて、再婚相手の基礎収入の一部を権利者の収入に合算することを認めた裁判例があります(宇都宮家裁令和4年5月13日審判)。
実家の両親からの援助は?→収入にあたらない
ちなみに、これと似たようなケースで、実家の両親からの援助を権利者の収入とみなすべきかどうかという論点がありますが、これは否定されることが一般的です。
この点は、権利者が再婚した場合、再婚相手は配偶者(=権利者)に対して生活保持義務(=自分と同じ程度の生活をさせる義務)を負うのと異なり、両親は親権者に対してそれよりも下の生活扶助義務(=自分に余裕がある場合に援助する義務)を負うにとどまるにすぎないため、と説明することが可能です。
弁護士 平本丈之亮
これまでのコラムでは、養育費の決め方について問題となるいくつかのケースについてご説明しました。
しかし、一旦養育費の取り決めをしても、離婚後の生活状況の変化によっては、当初定めた養育費の金額を変更するべきではないかが問題となるケースもあります。
そこで今回は、離婚後に生活状況に変化が生じた場合のうち、再婚と養育費の関係についてご説明したいと思います。
なお、再婚するケースには、
①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合
②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合
③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合
④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合
の4パターンがありますが、本コラムでは①のパターンについて説明し、その他のパターンについては別のコラムでお話する予定です。
権利者の再婚+養子縁組→減免の可能性
子どもを引き取った親権者(権利者)が再婚し、自分の子どもと再婚相手が養子縁組をした場合、新たに養親となった者は、その子どもの実親である非親権者に優先して子どもを養育する義務を負うと考えられています。
したがって、子どもが自分の再婚相手と養子縁組をし、養親世帯に十分な経済力がある場合、離婚の際に取り決めた養育費の免除が認められる可能性があります。
「両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は、第1次的には親権者及び養親となった再婚相手が負うべきものであり、親権者及び養親がその資力の点で十分に扶養義務を履行できないときに限り、第2次的に実親が負担すべきことになると解される。」東京高裁令和2年3月4日決定
もっとも、子どもと再婚相手が養子縁組をしたからといって、非親権者の扶養義務そのものがなくなるわけではありませんので(二次的な義務に格下げになるだけです。)、養親世帯に十分な経済的能力がない場合、実親である非親権者に養育費の支払義務が一部残る可能性があります。
具体的にどのような場合に非親権者の養育費支払義務が残るかは様々な考え方があるようですが、最近の裁判例をみると、生活保護法の保護基準をもとに計算した子どもの最低生活費を一応の目安としつつ、そのほかの諸般の事情も加味して実親の負担の有無や範囲を判断しているものがあります(福岡高裁平成29年9月20日決定)。
「両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は第一次的には親権者及び養親となったその再婚相手が負うべきものであるから、かかる事情は、非親権者が親権者に対して支払うべき子の養育費を見直すべき事情に当たり、親権者及びその再婚相手(以下「養親ら」という。)の資力が十分でなく、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないときは、第二次的に非親権者は親権者に対して、その不足分を補う養育費を支払う義務を負うものと解すべきである。そして、何をもって十分に扶養義務を履行することができないとするかは、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきである。」
この福岡高裁の決定では、子どもと再婚相手が養子縁組をした場合に非親権者の養育費支払義務が残るかどうか、残るとしてどれくらいの額になるかについて、概ね以下のような枠組みで判断しています。
①生活保護基準を基に養親世帯の最低生活費(のうち、生活扶助費)を計算する
②養親世帯の基礎収入(※1)を計算する
③①と②を比較
→①>②=養親世帯だけでは十分に養育できない状態
→非親権者は月に【A+B】÷12の額を負担するべき
【A:①-②の額(=不足額)のうち、子どもの養育に必要な金額】(※2)
∵不足額には対象の子ども以外の者の生活費が含まれているため除く必要
【B:子どもの教育費】
なお、この決定では、非親権者は、生活保護制度では支給対象になっていない学校外活動費を含む統計上の教育費(文部科学省「子どもの学習費調査」)も負担すべきと判断しています。
もっとも、この点は、非親権者の学歴・収入・職業(医師)や子どもとの関わり合い方(実親が定期的に面会交流をしていること)からすると、非親権者は、子どもに人並みの学校外活動ができる程度の生活を送ってほしいと願っているはずである、ということを根拠にしており、その事案独自の事情が影響しています。
したがって、教育費を加算する部分については、非親権者の学歴・収入・職業や子どもとの関わり合い方といった事情次第では結論が変わってくる可能性があります。
福岡高裁の決定も一つの考え方にすぎませんので他の裁判所でも同じ枠組みで判断されるとは限りませんが、今回ご説明したとおり、養親世帯が最低生活費を下回るような収入しか得ていないようなケースでは非親権者の養育費支払義務が残る可能性がありますので、注意が必要です。
弁護士 平本丈之亮
※1 世帯総収入×基礎収入割合(給与所得者では収入に応じて38~54%・・・令和元年12月23日に公表された新算定表で基礎収入割合が左記のとおり変更となりました)
※2 福岡高裁は以下の式で計算していますが、詳細は割愛します。
(①-②)×(生活扶助費の第一類費(注)のうち、対象となる子の金額)
÷(養親世帯全体の第一類費の合計額)
注:「第1類費」
飲食物費や被服費など個人単位に消費する生活費の基準。年齢別に設定されている。