婚姻費用の計算において、暗号資産の売却等で得た額と取得額との差額は収入にあたらないと判断されたケース

 

 婚姻費用についてはお互いの収入や子どもの人数・年齢などをもとに算定する標準算定方式が浸透していますが、一口に収入といってもどこまでのものを収入に含めるかは必ずしも明確でないこともあり、実際に取り決めをする際にはお互いの収入額がいくらかを巡って争いになることがあります。

 

 婚姻費用の計算に含めるべきかどうかという点について比較的問題になりやすいのは、結婚前から保有していたり相続した不動産からの賃料収入や株式配当金などですが、今回は義務者が保有していた暗号資産の売却等をしていたことが問題となった裁判例を紹介します。

 

福岡高裁令和5年2月6日決定

 

 このケースは、婚姻費用の支払義務者が暗号資産を売却したり他の暗号資産に変換したところ、売却等によって得た額と取得原価との差額は婚姻費用の計算において収入とみるべきであると権利者が主張したものです。

 

 しかし、この権利者の主張に対し、裁判所は以下のような理由を述べて本件では売却等と取得原価との差額は収入としては扱わないと判断しました。

 

 

①義務者が暗号資産の売却又は他の暗号資産への変換により継続的に収益を得ていたとは認められないこと

 

②売却等は実質的夫婦共有財産の保有形態を他の暗号資産や現金に変更するものにすぎないこと

 

 

 本裁判例の論理からすると、暗号資産の処分によって継続的に収入を得ていたと評価できるときはそれを婚姻費用の計算において収入と扱える余地がありそうです(①)。

 

 他方、夫婦共有財産である暗号資産を単に現金化したり他の暗号資産に変換したにすぎない場合はダメという点(②)ですが、このケースでは暗号資産以外にも義務者が加入している従業員持株会からの配当金の取り扱いが問題となり、裁判所はそれがさらなる自社株購入の原資とされていて生活費の原資にはなっていなかったことから収入にあたらないと判断しているため、実際に婚姻生活の原資として使用されていたことを必要とする趣旨ではないかと思われます。

 

 特定の高裁での事例判断であるため他の裁判所でも同じ結論になるとは限りませんが、婚姻生活の原資として実際に使用されていた場合に限って収入としてみるという考え方は類似のケースでもみられるところであり(特有財産からの配当金や不動産所得に関する大阪高裁平成30年7月12日決定、賃料収入に関する東京高裁昭和57年7月26日決定)、同種事例では参考になりそうですのでご紹介した次第です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

一人株主が自分の経営する会社の利益を内部留保した場合、養育費の計算でその利益は収入とみなされるか?

 

 養育費の計算において役員報酬は給与収入と同視して扱われますが、一口に会社役員といっても立場は様々であり、ある程度規模の大きい会社の取締役の一人に過ぎない場合もあれば、小規模な会社の唯一の株主(=一人株主)兼代表者といったケースもあります。

 

 小規模な会社の代表者のようなケースでは、その年の業績によって役員報酬が大きく変動していたり、養育費を少なくするためあえて役員報酬を減額したことが疑われるケースもあるため、そのようなときは複数年の役員報酬の平均値を参考にしたり統計(賃金センサス)を利用して収入を認定するという方法をとることがありますが、それに似たような問題として、経営者がいわゆる一人株主であり会社経営によって生じた利益を会社に貯めている場合に(内部留保)、その利益を養育費の計算において株主である本人の収入として扱うことができるかが争われることがあります。

 

 要するにこれは、個人である一人株主兼役員と、本来は別の権利義務主体である会社(法人)とを一体視することができるのかという問題ですが、今回はこの点について判断した近時の裁判例(東京高裁令和4年5月24日決定)を紹介します。

 

東京高裁令和4年5月24日決定

 

 上記裁判例は、「一人会社であっても、法人格が形骸化し又は濫用されている場合でない限り、人格の異なる会社の内部留保を株主が自由に使用できるわけではないから、直ちに株主個人の収入と同視することはできない。」と判断しており、基本的には会社に内部留保された利益を株主の収入と同視することはできないとしつつも、法人格が形骸化又は濫用されている場合には例外的に会社の内部留保を株主本人の収入と同視することができるとしています。

 

 もっとも、このケースの結論としては、裁判所は、①会社には複数の取締役と40名以上の従業員がいること(=形骸化を否定する方向の事情)、②近い時期の決算期において資産と負債を比較した場合にマイナスとなっており、会社の中核事業について新型コロナウイルス感染症の感染拡大により経営が悪化した同業者もあることから内部留保を最大化させて早期の債務圧縮を目指すことは会社存続のための一つの合理的な経営判断といえる(=濫用を否定する方向の事情)と指摘し、本件では法人格を否認して内部留保を個人の収入と同視すべき事情はないと判断しています。

 

 上記裁判例は、いわゆる「法人格否認の法理」と呼ばれる理論を養育費の算定の場面において適用したものであり、この裁判例の判断枠組みを前提とすると、法人格が形骸化していたり(法人格はあるが、経営実態は個人事業であるケース)、一人株主が法人格を濫用している場合(会社経営を支配できる立場にあることを背景に、会社への内部留保が違法または不正な目的のために行われたケース)でなければ、会社の内部留保を株主本人の収入と扱うことはできないということになります。

 

 法人格が形骸化しているかどうか、あるいは法人格が濫用されているかどうかは結局のところ具体的な事実関係次第というほかはありませんが、たとえば、法人とは名ばかりで実際には業務・資産・会計が混同しており、株主総会や取締役会など会社の事業運営上の手続も無視しているようなケースであったり、会社の経営状況が好調で多額の内部留保をしておく必要がないのに、離婚問題が持ち上がってから突然多額の内部留保を積み上げはじめ、その代わり(他の役員がいる場合には他の役員の報酬はそのままにしながら自分だけ)役員報酬を減らしているようなケースであれば、会社が内部留保した直近の利益を個人の収入とみなして養育費の算定をしてもらえる可能性があると思われます。

 

 会社の内部留保を収入と同視できる場合、その額によっては養育費が大きく変わる可能性もありますので、当事者のいずれかが一人会社の株主である場合にはそのような例外的な事情がないか注意する必要があると思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

清算条項を含む離婚協議書の作成後、相手方が財産分与を求めてきた場合、財産分与の義務がないことを裁判で確認してもらうことはできるのか?

 

 離婚について協議がまとまった場合、夫婦における権利義務関係を確定するために離婚協議書を作成することがあり、この場合、紛争が蒸し返されないよう、当事者間ではこの協議書に定めたもののほか、互いに債権債務がないといった条項(清算条項)を記載するのが一般的です。

 

 このような清算条項は紛争の蒸し返しを目的とするものですから、清算条項を入れた離婚協議書の作成後に追加請求がなされることは通常ありませんが、相手方が何らかの理由によって離婚協議書の内容を争い、後日、財産分与などの請求を行うというケースは存在します。

 

 相手方が離婚協議書の効力を争う理由は様々ですが、この場合、任意の請求を拒否されれば、通常は相手方が財産分与を求めて調停・審判を申し立てるため、被請求側は相手方が申し立てた手続の中で財産分与請求権が既に存在しないことを主張していくことになります。

 

 ところが、相手方がこのような正規のルートにより請求するのではなく、事実上、直接の請求行為を繰り返すというケースもあり、このような場合には被請求側は対応に苦慮することになります。

 

 このようなケースにおいて、事実上の請求を受けている側としては、財産分与の義務が既に存在しないことを裁判で公的に確定してほしいというニーズが生じますが、他方、財産分与は一般の民事事件とは異なり、家庭裁判所において取り扱われる事件(家事審判事項)であることから、このような義務が存在しないことを裁判で確認してもらうことはできない(不適法)のではないかが問題となります。

 

東京地裁令和3年11月30日判決

 

 この点についてはあまり議論されていないところですが、東京地裁令和3年11月30日判決は、家事審判事項に該当する夫婦間の同居義務等も法律上の実体的権利義務であり、これを終局的に確定するには公開の法廷における対審及び判決によるべきとした最高裁昭和40年6月30日決定を援用し,「財産分与義務自体の不存在の確定を求めて民事訴訟を提起することは妨げられない」と判断しています。

 

 先ほど述べたとおり、離婚協議書の効力を争って財産分与を請求したい場合、任意請求が功を奏しなければ調停や審判の申立をするのが筋ですが、中にはそのような正式手続を踏まずに当事者間の交渉で強引に解決しようとするケースもあり、被請求側としてはきちんと決着をつけたいニーズもあると思われます。

 

 したがって。万が一このようなトラブルに巻き込まれた場合は、財産分与義務の不存在確認の裁判を起こすということも選択肢に入ってくると思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

離婚前に渡した財産は、離婚の際にどのように扱われるのか?

 

 夫婦間においては、婚姻中、配偶者の一方が他方に財産を渡すことがありますが、離婚のご相談をお受けしていると、離婚の条件を協議する際に、結婚中の財産の移転をどのように処理するかを巡りトラブルになることがあります。

 

 そこで今回は、離婚の前に渡した財産が離婚の際にどのように扱われるのかについてお話しします。

 

財産分与として渡したものは、離婚の際に清算される

 

 離婚前に渡した財産が夫婦の財産関係の清算である財産分与の趣旨であることが明らかな場合、前渡しした財産は最終的な財産分与の場面で清算されます。

 

 具体的には、夫婦の共有財産を全て合算して必要な限度で負債を控除し、それに取得割合を乗じて、そこから離婚前に前渡しを受けた分を控除するというやり方です(このような計算方法をとっている裁判例として、東京家裁平成30年3月15日判決)。

 

財産分与の前渡しをするときは、その趣旨を明確にしておくべき

 このように、離婚前に渡した財産が財産分与の前渡しであることが明確であれば、上記のように最終的な分与額の計算において考慮されることがあります。

 

 もっとも、ある財産を離婚前に前渡しする場合、そのお金の移動の趣旨はいくつかの可能性があり、それが財産分与の趣旨ではないと判断された場合には、このような控除計算はなされないことになります。

 

 たとえば、離婚前の別居段階で婚姻費用の未払いが長期間続いており、その清算として、離婚前にまとめて過去の婚姻費用を支払ったというケースが典型例ですが、このような未払婚姻費用の清算は財産分与とは性質上別個のものであるため、この場合は財産分与の計算上、考慮されません。

 

 実際のケースとしても、さきほど紹介した東京家裁平成30年3月15日判決では、離婚前に前渡しした金銭が財産分与の前渡しであるのか、それとも過去の未払い婚姻費用の清算であったのかが争われていますが、結論的には、前渡しした側が保育料や光熱費等を負担していたことなどの事情から、渡したお金は婚姻費用の清算ではなく財産分与の前渡しであったと認定されています。

 

 以上のように、具体的な離婚協議をする過程において、離婚成立前に一定の財産を相手に動かすことは、その趣旨が曖昧だと後々問題となることがあります。

 

 そのため、前渡しする必要がある場合には、その金銭の移動がいかなる趣旨であるかについてきちんと合意したうえで、書面等で明らかにしておく必要があります。

 

離婚が問題になる前に贈与した財産は?

 

 以上のように、離婚問題が浮上してから財産を移転するというのではなく、離婚が問題になる以前に、配偶者の一方が相手に財産を贈与することもよくみられます。

 

財産分与の前渡しとは評価されない

 このようなケースでは、贈与した側から、その贈与財産も財産分与の計算をする上で考慮してしてほしいという希望が出されることがありますが、そもそも離婚が現実的な課題として意識されていない段階での財産移転であれば、財産分与の前渡しとは評価できませんので、このような理屈で考慮してもらうことは難しいと思われます。

 

夫婦共有財産を贈与した場合、離婚時に清算の対象にしてもらえるか?

 また、贈与の対象となった財産が夫婦共有財産であった場合には、単に共有財産の名義や占有を相手に移転しただけにもみえるため、離婚時にこれを財産分与の対象として扱うべきではないか、具体的には、支払うべき金額からその分を控除したり、逆に相手が取りすぎであるため一部返還してもらいたい、という希望が出ることもあります。

 

 この点については、贈与当時の当事者双方の意思などにかかわるためケースバイケースの判断となりますが、当事者の意思によって確定的に財産の帰属を決めたのであれば、そのような贈与は清算的要素をもち、贈与対象財産はその時点で特有財産になるため財産分与の対象にはならない、と判断されることがあります。

 

 たとえば、大阪高裁平成23年2月14日決定では、不貞行為が疑われる状況下で配偶者の不満を抑える目的のもと不動産の持分を移転したというケースにおいて、そのような持分移転は清算的要素をもち、贈与の時点で不動産は特有財産になったと判断されています。

 

弁護士 平本丈之亮

 

協議か、それとも調停か?~離婚の進め方に迷ったら~

 

 離婚手続には、大きく分けて、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚があります(そのほかにも審判離婚がありますが、他に比べてマイナーなため割愛します)。

 

 このうち裁判離婚は、協議も調停もダメという場合の最後の手段ですが、実際に裁判まで行く方は離婚全体でみれば少なく、多くの方は協議離婚か、それがダメでも調停離婚までで解決しています。

 

 ところで、具体的にこれから離婚の話し合いに入るという段階において、まずは協議離婚で進めるのが良いのか、それとも最初から離婚調停で進めるのが良いのかはなかなか悩ましい問題です。

 

まずは協議離婚から

 

 もっとも、当職が協議離婚と離婚調停のどちらにするか悩んでいるというご相談を受けた場合、概ね以下のような条件をみたすのであれば、まずは協議離婚での解決を目指し、うまくいかなかったら調停を起こしてはどうですかとお伝えします。

 

 

 ①離婚自体について争いがない

 

 ②親権に争いがない

 

 ③面会交流についても深刻な争いがない

 

 ③DVによる身の危険がない

 

 

 以上のような条件をみたす場合、協議すべき内容は慰謝料や財産分与、養育費などの金銭面の問題や、子どもの面会交流の頻度等にとどまることが多くなりますが、このようなケースであれば調停をせずとも、当事者の話し合いによる早期解決が相応に見込めるためです。

 

 ただし、当事者の協議で離婚するといっても、財産分与などの金銭の支払いを約束したり養育費の定めをするような場合には、相手の不払いへの対策あるいは離婚後の追加請求等のトラブル防止のため、最低でも離婚協議書は作成するようにし、できれば、さらにそれを公正証書にしておくことがお勧めです。

 

 また、「協議によって解決できそう」という見通しはあくまで協議に入る前の想像によるものでしかなく、実際に協議に入った途端、配偶者の態度が急変するということは残念ながらありますので、無駄な時間を極力省くためには、どの時点で打ち切るべきかを常に考えながら協議を進める必要があります。

 

離婚調停が望ましいケース

 

 他方で、以下のような場合には協議では良い結果が得られる可能性が低いことから、最初から離婚調停を起こすことも検討した方が良いと思います。

 

 

 ①相手が離婚を明確に拒否している

 

 ②親権や面会交流について深刻な争いがある

 

 ③DV事案

 

 ④金銭面で支払いを拒否する態度を明確にしている

 

 ⑤離婚の可否・条件について態度がコロコロ変わる

 

 

 上記のようなケースはおよそ当事者間の協議で折り合いがつかず、協議にかけた時間が無駄になる可能性が高いため、訴訟提起も見据えたうえで早期に公の手続で進めることが望ましいと思います(特に③のケースは、単なる時間のロスだけではなく危害防止のため裁判所を関与させる必要が高いケースです)。

 

 また、一方配偶者が協議の段階では強気であっても、いざ調停に移行すると相手の離婚意思が堅いことを悟って諦めたり、調停委員の説得で態度が軟化するケースも一定程度ありますので、その観点からも、上記のようなケースでは早期の離婚調停を検討してよいと思います。

 

どちらも一長一短がある

 

 協議離婚の方が解決スピードや手間の点で離婚調停よりも優れていますが、他方、協議には終わりがないことや、当事者での話し合いであるためについつい感情的になりがちであり、かえって問題がこじれてしまう可能性がある、といった弱点もあります。

 

 この点、離婚調停は、たとえ不成立に終わっても裁判手続に進むことができるようになることや、間に調停委員を挟むことで、直接協議する場合に比べて冷静に話を進めることができることなど、協議離婚にはない独自の強みもあります。

 

 協議離婚で進めるのがいいのか、それとも離婚調停で進めるのがいいのかは、結局のところ夫婦の事情によって異なり、どちらがいいとは一概に決めることはできませんので、どうしても迷うときは専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

養育費の一括請求はできるのか?

 

 離婚の際、あるいは離婚後に養育費の合意をする際、養育費を一括で支払ってほしいという希望が出ることがあります。

 

 今回は、このような養育費の一括請求が可能かどうか、という点についてお話しします。

 

一方の意思だけで養育費の一括請求は難しいが、合意があれば問題なく可能

 

 養育費は一定の時期ごとに発生する定期金としての性質を有しているため、権利者側が一括で支払ってほしいと請求しても、裁判所が判断する審判や判決では、一定期間ごとに支払いをするよう命じられることが一般的です。

 

東京高裁昭和31年6月26日決定

「元来未成熟の子に対する養育費は、その子を監護、教育してゆくのに必要とするものであるから、毎月その月分を支給するのが通常の在り方であつて、これを一回にまとめて支給したからといつてその間における扶養義務者の扶養義務が終局的に打切となるものでもなく、また遠い将来にわたる養育費を現在において予測計算することも甚だしく困難であるから、余程の事情がない限りこれを、一度に支払うことを命ずべきでない。」

 

 なお、【長崎家裁昭和55年1月24日審判】は、①養育費の義務者が外国人であり、時期は未定だが将来母国に帰国する予定であること、②子どもが自分の子であることは認めているが、自分が子どもを引き取らない限りは子どもを自分の戸籍に入籍させるを拒否している、といった事情から、相手方が将来にわたって養育料の定期的給付義務の履行を期待し得る蓋然性は乏しいと指摘し、このような場合には一括払いを認める特段の事情があるとして一括での支払いを命じています。

 

 そのため、これに近いようなケース、例えば義務者が子どもとの親子関係を争い、裁判所で親子関係が認められた後も認めずに養育費の支払いを拒否しているような場合などであれば、養育費の履行を期待しうる蓋然税は乏しいとして例外的に一括払いが命じられる可能性はあるのではないかと考えます。

 

 もっとも、ここでお話ししたことは、あくまで審判や判決など裁判所が支払いを命じる場合ですので、当事者双方が合意すれば養育費を一括で支払ってもらうことは問題なく可能です。

 

養育費の一括払いを合意するときの金額はどうやって決める?

 

 合意によって養育費を一括払いする場合、次の問題は、いくらを支払ってもらうかです。

 

 この点は当事者間で協議するほかありませんが、一応の方法として、合意時点における双方の収入と子どもの人数と年齢をもとに、いわゆる「簡易算定表」に当てはめ、これによって算出された月額に子どもが成長するまでの月数分を乗じるという方法が考えられます。

 

 なお、このような場合、本来であれば将来受け取るべき金額を前もって受け取ることになりますので、単純に【月額×支払月数】で計算するのではなく、将来受け取るべき分について中間利息を控除するなどして金額を減らすことを検討事項にすることもあります(先ほど紹介した長崎家裁の審判ではそのような計算をしています。)。

 

 もっとも、一括払いを検討する場合には、そのような減額計算をするかどうかも含めて当事者が話し合いによって決めるものであり、協議の結果合意に至った以上、中間利息の控除計算等をしないまま金額を決めたからといって、それがただちに不当であり合意が当然に無効になるとは言い切れませんので、支払う側は注意が必要と思われます。

 

 中間利息を控除する計算等をした場合、支払総額で考えると、毎月定期金で受け取った場合に比べて受け取れる金額がその分少なくなりますが、他方で養育費が途中で支払われなくなるリスクを避けられますので、一括払いの合意をするときに減額の有無が問題になったときは、総額を重視するか(→定期金払い)、不払いリスクを重視するか(→一括払い)によってとるべき結論が変わることになります(そのほかにも、贈与税が課されるかどうかの事前検討も必要です)。

 

 いずれにしても、養育費の合意をするときは、そのような支払方法の問題のほか、そもそもの金額の妥当性や支払いの終期なども問題となることがありますので、協議が難航しそうなときや実際に難航したときは専門家へのご相談をお勧めします。

 

 弁護士 平本丈之亮

 

自衛官の若年定年退職者給付金と財産分与

 

 財産分与の対象となり得るものとして退職金がありますが、退職金に似たものとして財産分与の対象となるかどうかが問題になることがあるものとして、自衛官の退職後に支給される「若年定年退職者給付金」というものがあります。

 

 あまり一般的なお話ではありませんが、この点については参考になる文献等が乏しいため、自衛官の方と配偶者の方との間でこの点が問題となった場合の一助になるよう、今回は若年定年退職者給付金と財産分与をテーマに取り上げてみたいと思います。

 

若年定年退職者給付金とは?

 

 若年定年退職者給付金とは、自衛官が通常の公務員や私企業に勤める方に比べて大幅に若年で定年を迎えることから、早期退官による収入減少がもたらす隊員の生活不安を解消し、優秀な自衛官を確保するという政策的な目的に基づき給付されるものです(法的根拠は防衛省の職員の給与等に関する法律第27条の2ないし16)。

 

なにが問題か?

 

 このように若年定年退職者給付金は、いわゆる通常の退職金とは異なる趣旨・目的のもと政策的に支給されるものであるため財産分与の対象になるのか、というのが問題の所在です。

 

若年定年退職者給付金が財産分与の対象となるかどうかについて確定的な見解はない

 

 この問題を考える上では、そもそも退職金がなぜ財産分与の対象になるかという点から考える必要があると思いますが、退職金が財産分与の対象となるのは、これが過去の労働の対価の後払いとしての性質を有し、そのような過去の労働部分について、他方配偶者には財産形成上の貢献が認められるからとされています。

 

 そうすると、若年定年退職者給付金が財産分与の対象となるかどうかは、この給付金が過去の労働の対価としての性質を有するかどうかという観点から検討していくことが有効なアプローチであると思われますが、この給付金には以下のような特徴があります。

 

・若年定年退職者給付金は、若年定年制から生じる他の労働者との収入の格差という不利益を補い、優秀な隊員を確保するという政策目的で給付されるものであること

 

・退職後の収入水準によっては、返納や支給調整があること

 

 上記のとおり、自衛官は若年定年制によって他の労働者との間で将来の収入格差が生じる可能性があるため、そのような経済的格差の発生を政策的に補うものであることや、若年定年退職者給付金が過去の対価としての性質を有しているならば退職後の収入水準と連動させる必要はなく過去の勤務実績に応じて支給すれば足りることからすると、個人的には当該給付金が過去の労働の対価としての性質を有するというのは違和感を覚えます。

 

 したがって、退職金が財産分与の対象となる根拠を過去の労働の対価であるという退職金の性質論に求め、若年定年退職者給付金がこれと同視できるかどうかという点を判断要素とするならば、財産分与の対象にはならないという結論につながっていくと考えます。

 

 他方で、若年定年退職者給付金は自衛官の地位にあったことに基づき支給されるものであり、過去の労働に対して配偶者が貢献した結果、定年時に給付金を得られる地位を得るに至ったと評価したうえで、そのような自衛官たる地位の維持に対する貢献があれば十分であると考えるならば、当該給付金が財産分与の対象になるとの解釈も成り立ち得るように思われます。

 

 もっとも、地位や資格については、その取得に配偶者が貢献した場合でもそれ自体を財産分与の対象とすることはできないという見解もあり(東京地裁平成19年3月28日判決・・・医師免許、認定医の資格及び博士号の各取得について寄与があり、これらの資格、地位を無形の財産と評価して分与対象とすべきとの主張について、分与対象財産はないとして排斥したもの)、自衛官という地位の維持について貢献があることを根拠に給付金が財産分与の対象となるとの結論にも疑問は残ります。

 

 私自身は実際に接したことはありませんが、この論点については肯定・否定両方の裁判例があるようであり、そうすると、財産分与を求める側、求められた側のどちらであっても若年定年退職者給付金の取り扱いについては簡単に結論が出ない可能性があることを踏まえた上で協議等を進める必要があると思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

別居期間は年金分割に影響するか?

 

 離婚の際に請求できるものとして「年金分割」がありますが、当職へのご相談の中でも年金分割についてのご質問が出ることが多くあります。

 

 ところで、実際に離婚に至るまでの間、長い期間別居している夫婦がいらっしゃいますが、そのような別居期間が長いケースにおいて、年金保険料の納付実績が多い方(多くは夫)から、年金分割の按分割合を5:5から修正すべきではないか(割合を減らしてほしい)、という主張をされることがあります。

 

 今回のテーマは、果たしてこのような理屈は通るのか?というものです。 

 

 別居と年金分割の按分割合の問題について裁判例がありますので、まずはそのうちのいくつかの裁判例を簡単に紹介していきます。

 

札幌高裁平成19年6月26日決定

「抗告人は,抗告人が定年退職する7年前から別居し,抗告人が定年退職した後は家庭内別居をしている旨主張する。しかし,前記引用に係る原審判が説示するとおり,婚姻期間中の保険料納付や掛金の払い込みに対する寄与の程度は,特段の事情がない限り,夫婦同等とみ,年金分割についての請求割合を0.5と定めるのが相当であるところ,抗告人が主張するような事情は,保険料納付や掛金の払い込みに対する特別の寄与とは関連性がないから,上記の特段の事情に当たると解することはできない。したがって,抗告人の主張は失当である。」

 

注 婚姻期間約35年 別居期間約7年 家庭内別居約7年

 

東京家裁平成20年10月22日審判

「対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は,特別の事情がない限り,互いに同等と見るのを原則と考えるべきである。(中略)」
「そして,法律上の夫婦は,互いに扶助すべき義務を負っており(民法752条),仮に別居により夫婦間の具体的な行為としての協力関係が薄くなっている場合であっても,夫婦双方の生活に要する費用が夫婦の一方または双方の収入によって分担されるべきであるのと同様に,それぞれの老後等のための所得保障についても夫婦の一方または双方の収入によって同等に形成されるべき関係にある。(中略)」
「(中略)別居後も,当事者双方の負担能力にかんがみ相手方が申立人を扶助すべき関係にあり,この間,申立人が相手方に対し扶助を求めることが信義則に反していたというような事情は何ら見当たらないから,別居期間中に関しても,相手方の収入によって当事者双方の老後等のための所得保障が同等に形成されるべきであったというベきである。

 したがって,相手方が主張する事情は,仮に事実と認められたとしても保険料納付に対する夫婦の寄与が互いに同等でないと見るべき特別の事情にあたるとはいえないから,その主張自体失当であり,申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合は,0.5と定めるのが相当である。」

 

※注 婚姻期間約30年 別居期間約13年

 

大阪高裁判平成21年9月4日決定

「年金分割は,被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから,対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は,特別の事情がない限り,互いに同等とみて,年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ,その趣旨は,夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって,そうでない場合であっても,基本的には変わるものではないと解すべきである。
 そして,上記特別の事情については,保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られるのであって,抗告人が宗教活動に熱心であった,あるいは,長期間別居しているからといって,上記の特別の事情に当たるとは認められない。」

 

※注 婚姻期間約36年 別居期間約14年

 

大阪高裁令和元年8月21日決定

「抗告人と相手方の婚姻期間中44年中、同居期間は9年程度にすぎないものの、夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民法752条)、このことは、夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものではなく、老後のための所得保障についても、夫婦の一方又は双方の収入によって、同等に形成させるべきものである。この点に、一件記録によっても、抗告人と相手方が別居するに至ったことや別居期間が長期に及んだことについて、抗告人に主たる責任があるとまでは認められないことを併せ考慮すれば、別居期間が上記のとおり長期間に及んでいることをしん酌しても、上記特別の事情があるということはできない。」

 

※注 婚姻期間44年 別居期間約35年 2020年7月17日追記

 

 以上のような裁判例を見ていくと、別居期間が長いという点だけで年金分割の按分割合が修正されるとはいいがたく、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当といえる「特別の事情」が必要、というのが裁判所の考え方の主流であるように思われます(ただし、婚姻期間のほとんどが別居であるという極端なケースでも按分割合が修正されないのかまでは分かりません)。

 

どのような事情が特別の事情にあたるのか

 では、どのような場合であれば年金分割の按分割合が修正されるのか、というのが次の問題ですが、この点は明確な基準は確立されておらず事案毎の判断としか言いようがありません(ただ、大阪高裁令和元年8月1日決定では、別居やその長期化について請求者側に主たる責任がある場合、特別の事情に該当しうることを示唆しています 2020年7月17日追記)。

 

 もっとも、近時の裁判例において、長期間の別居を理由としたものではないものの、「特別の事情」を認めて年金分割の按分割合を修正したものがありますので、本コラムのメインテーマからは外れますが参考としてご紹介したいと思います。

 

東京家裁平成25年10月1日審判

 この裁判例では、裁判所は概ね以下のような事実を指摘したうえで年金分割の按分割合を修正する判断を下しました(申立人(夫):相手方(妻)=3:7)。

 

①夫が1000万円単位の負債を負ったり妻から借入れをしたり、入院により経費がかかったりして、相手方が家計のやりくりに苦労したであろうことが認められること

②夫が会社を退職した後、夫は不定額の生活費を負担していたものの、それだけでは家計を維持するには不足していたこと

③妻が専任教員として勤務するようになってからは妻の収入を主として家計が維持されていたこと

④婚姻してから33年間、夫は一部上場企業に勤続して相当額の収入を得ており、借入金も大部分は退職金で返済したこと

⑤妻は、婚姻期間約50年間のうち約30年近くは概ね専業主婦として生活し、その間の家族の生計は夫の給与収入により維持されていたこと

⑥退職金額について、双方ともに明らかにしていないこと

⑦離婚調停において、妻は自宅建物に対する申立人の持分を財産分与として取得し、離婚後は妻が住宅ローンを返済する内容で合意し、他方、お互いの預金等の財産は分与対象としなかったこと

⑧その他本件に現れた一切の事情(詳細不明)

 

 この裁判例を読んでみても、どの事実が大きく影響して年金分割の按分割合が修正されたのかは判然としませんでしたが、このケースでは夫が多額の負債を抱えるなど妻が苦労していたようですので、個人的にはそのあたりが修正の決め手になったのかなと推測しています。

 

 弁護士 平本丈之亮 

 

 

最近の裁判例に見る不貞による(離婚)慰謝料

 

 弁護士として離婚問題を扱っていると必ず出会う相談に、不貞による離婚と慰謝料に関するものがあります。

 

 もっとも、不貞によって離婚する場合に慰謝料の請求ができることは皆さんご存知ですが、ではその金額はいくらが妥当なのかと言われると、なかなか分からないという方が多いと思います。

 

 正直に申し上げると慰謝料の金額は弁護士でも判断が難しいところなのですが、今回は、慰謝料を請求する側、あるいは請求された側の解決のヒントとして、最近の裁判例ではどの程度の金額が認められているのかを紹介してみたいと思います。

 

 なお、今回ご紹介する判決は、夫婦の一方が他方に対して、不貞行為により婚姻関係が破綻したことを理由に慰謝料を請求した事案をピックアップしたものであり、近時重要な最高裁判決の出た不貞相手に対する慰謝料請求や、婚姻関係が破綻に至らなかったケースについては参考になりません。

 

 また、あくまで当職が利用可能な判例集で見つけた範囲のものにすぎず、慰謝料の算定にはそれぞれの判決で認定された個別の事情が大きく影響していると思われますので、ここで紹介した判決が認めた金額がすべてのケースで妥当するとは限らないこともあらかじめお断りしておきます。

 

東京地裁平成30年2月22日判決

【慰謝料】

 150万円

 

【婚姻期間】

 不貞行為が開始されたと思われる時点で約17年

 

【不貞行為の期間】

 約9か月間

 

【離婚】

 未成立(ただし、双方離婚の意向あり)

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①不貞行為者は不貞相手との結婚まで考えていたこと

 

②夫婦間に実子がいなかったこと

 

③他方配偶者側の言動や不貞発覚後の対応にも問題があったかのような指摘(詳細は割愛)

東京地裁平成30年2月1日判決

【慰謝料】

 200万円

 

【婚姻期間】

 約39年(ただし、そのうち約18年弱が別居期間)

 

【不貞行為の期間】

 離婚成立まで約18年(うち不貞相手との同居期間約12年)

 

【離婚】

 成立

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①離婚調停において、約530万円の財産分与が約束されたこと

 

②不貞行為者が、別居後、約15年強で5000万円を超える生活費を支払ったこと

東京地裁平成30年1月12日判決

【慰謝料】

 200万円

 

【婚姻期間】

 約5年

 

【不貞行為の期間】

 不明確

 

【離婚】

 成立  

 

【その他判決で指摘された事項(一部)】

①原告が再婚であったこと

 

②不貞行為者が複数の者と不貞行為に及んでいたこと(少なくとも3名以上)

東京地裁平成30年1月10日判決

【慰謝料】

 150万円

 

【婚姻期間】

 婚姻関係破綻時までで約6~7年 

 

【不貞行為の期間】 

 約1ヶ月

 

【離婚】

 不明(ただし、婚姻関係が破綻したことは認定)

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①不貞行為者が短期間で別居を決意するに至っており、不貞行為が破綻の決定的要因になったこと

 

②不貞行為者である実親が、自分の実子に対して、他方配偶者は実の親ではないという事実(養子縁組したこと)を明かしたこと

 

③不貞行為者は、離婚を切り出してからわずかの間に、秘密裏に家財等の財産を持ち出し、これによって他方配偶者は子どもとの別居生活を余儀なくされたこと

 

④不貞行為に及ぶ前の段階で婚姻関係は破綻に近づいていたこと

東京地裁平成28年11月8日判決

【慰謝料】

 200万円

 

【婚姻期間】

 婚姻関係破綻まで約4年弱

 

【不貞行為の期間】

 少なくとも約1年3か月

 

【離婚】

 成立

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①不貞行為者が不貞相手の裸の写真を所持し、これを他方配偶者が発見したこと

 

②夫婦間に子どもがないこと

 

 以上、慰謝料についていくつかの裁判例をご紹介しましたが、離婚が成立している、あるいはまだ離婚に至っていなくても婚姻関係が破綻しているケースでは、判決で150~200万円程度の金額が認容される可能性があることはお分かりになったかと思います。

 

 もっとも、冒頭でもご説明した通り、慰謝料は個別の事情によって変わるため最終的には事案次第としか言いようがありません。また、不貞がからむ離婚問題は非常にデリケートであるため裁判に至らず協議や調停で解決することも多く、早期あるいは穏便な解決のためやむを得ず金額にこだわらない形で処理せざるを得ないこともあるため、具体的にどのような金額が妥当かは悩ましい問題です。

 

 一口に慰謝料といっても、金額のみならず、具体的な請求の仕方や支払いの方法、履行の確保など検討しなければならないことが多くありますので、不安がある方は弁護士へのご相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

離婚調停の流れ

 

 離婚について協議をしたものの解決しなかった場合、次のステップとして行うのが離婚調停です(事案によっては協議を試みずに調停から申し立てた方が良いケースもあります)。

 

 しかし、多くの方にとって離婚は人生で一度きりの出来事であり、裁判所に行ったことなどない方もほとんどですので、実際に調停に臨む際の精神的ストレスは大変なものです。

 

 そこで今回は、はじめて離婚調停に臨まれる方向けに、離婚調停の大まかな流れや期間などについてお話ししたいと思います。

 

離婚調停の一般的な流れ

 

離婚調停の申立

離婚調停は、夫婦のどちらかが相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをすることによってはじまります。

 

※例外的に、夫婦で調停を行う裁判所を合意し、その裁判所で行うこともあります(合意管轄)。

 

申立をする方は、まずはどうやって申立すればよいのかを調べるところから始まりますが、申立書などの基本的な用紙は各裁判所に備え付けてあり、裁判所のHPから直接ダウンロードしたものを利用することも可能です。

 

書類の提出は裁判所への持参だけではなく、郵送でも可能です。

申立~第1回調停期日まで

通常、調停の申立てから概ね1か月~1か月半程度で第1回の調停期日が開かれます。

 

その間、必ずしておかなければならないものはありません(書類に不備等があれば裁判所から連絡があります)。

 

ただし、申立の時点で裁判所に提出していなかった資料がある場合、期日前に提出しておいた方が解決までの期間短縮につながる場合があります。

 

たとえば財産分与を請求したい場合で相手の財産がある程度分かっているなら、相手の財産の目録や裏付けとなる資料を提出しておくことが有効です。

 

また、年金分割を請求する場合には年金分割の情報通知書が必要になりますが、これは手元に届くまで時間がかかりますので早期に取得して提出しておいた方が良いと思います(なお、訴訟に移行する可能性がある場合には訴訟の段階で情報通知書を改めて提出する必要がありますが、いったん提出してしまうと後で返してもらえず再発行が必要になるため、提出時に原本還付の手続をしておくことをお勧めします)。

 

これに対して、不貞の証拠については、証拠の価値の強弱や協議段階での相手の対応等次第で出した方がよいかどうか異なり、場合によっては裁判まで温存しておいた方が良い場合もありますので、迷った場合は弁護士へ相談された方が良いと思います。

第1回調停期日の流れ

【受付】

まず、開始時間前に裁判所で受付を済ませると待合室に案内されます。

 

調停室は別々になっていますので、調停室で鉢合わせすることはありません。

 

その後、時間になると調停委員が待合室に呼びに来ますので、指示に従って調停室に入室すると、調停が始まります。

 

【調停の進行】

調停員は2名(男女1名ずつ)ですが、通常の流れだと、申し立てた側から調停室に呼ばれます。

 

そこで、調停委員から申し立てに至った事情を聞かれ、申立書などの記載事項の確認や離婚に関する要望の聞き取りなどがあります。

 

それが終わると相手方と入れ替わり、今度は相手方の事情聴取が終わるまで待合室で待つことになります。

 

場合によっては自分が話している時間よりも待っている時間の方が長いことがありますので、本を持ってくるなど待ち時間を過ごすための準備はしておいた方が良いと思います。

 

このような流れを何度か繰り返し、その日の話し合いで合意できる部分や次回に持ち越しになる点が明確になったら、次回期日を決めて第1回調停期日は終わりです。

 

基本的には調停委員とのやりとりのみで手続は進みますが、子どもに関連して双方に対立があるケースだと家庭裁判所調査官が立ち会うこともあります。

 

【1回の調停にかかる時間は?】

 

一概には言えないものの、中身のある実質的な話し合いが行われる場合、待ち時間を含めて通常1時間半から2時間程度はかかることが多いと思います。

 

ただし、協議事項が少ない期日や双方に代理人弁護士がついていて協議事項がある程度整理されていると1時間を切ることもあります。

 

この部分は調停に入る前の事前準備がどれだけできているかにもよりますので、自分側だけでも主張や資料を整理して準備しておくと調停期日の時間短縮につながりますし、そのような準備の積み重ねによって早期に問題点が整理できれば解決までの期間短縮にもつながります。

2回目~調停成立(不成立)

基本的な流れは第1回の調停期日と同じです。前回の期日での宿題をもとに話し合いを行い、合意形成を図っていくことになります。

 

期日と期日の間隔は概ね1か月程度ですが、支部など裁判官や調停委員が少ないようなところではそれよりも間隔が長くなることがあります。

 

合意がまとまれば、裁判所が調停調書と呼ばれる書類を作り、当事者間の合意内容を紙にしてくれます。

 

調停が成立しなかった場合、調停手続は不調により終了しますので、離婚を求める側は訴訟を提起することになります。

 

調停成立までの期間は?

 

 これはケースバーケースとしか言えませんが、感覚的には3か月~半年程度が多く、1年程度かかることも稀ではない印象です。

 

 平成30年度の司法統計によると、離婚を含めた夫婦間の紛争全体に関する調停について調停が成立した事案のうち成立までの期間は、3か月以内が約29%、3~6か月以内が約36%、6~12か月以内が約27%となっており、半数以上が半年以内に成立に至っているようですので、半年程度が一つの目安になると思われます。

 

弁護士 平本丈之亮