遺産分割の対象財産の中に不動産がある場合、特定の相続人が不動産を無償で使用しているということが良く見られます。
遺産分割では生計の資本としての贈与は「特別受益」にあたり、持ち戻し免除の意思表示が認められなければ特別受益は相続開始時の遺産に持ち戻して具体的相続分を計算することになりますが、不動産を使用していなかった相続人からすると特定の相続人による不動産の無償使用は不公平に思えるため、遺産分割の交渉や調停などの場面においてそれを何らかの形で特別受益として持ち戻しすべきという主張が出てくることがあります。
そこで今回は、そのような不動産の無償使用と特別受益の関係についてお話したいと思います。
建物を無償で使用していた場合
まず、相続人の一部が被相続人名義の建物に無償で居住しているケースですが、その相続人と被相続人が同居しているかどうかにかかわらず、建物の無償使用は特別受益に該当しないと考えられています。
被相続人と相続人が同居している場合、相続人は補助者にすぎず独立の居住権原はないと考えられることや、被相続人が別のところに住んでいて相続人やその家族だけがその建物に住んでいる場合でも、それは恩恵的なものにすぎず、第三者に対抗し得るものでもなく財産的価値があるとはいえないことなどが理由とされています。
土地を無償で使用していた場合
特定の相続人が被相続人の所有する土地の上に建物を建築し、被相続人の土地を無償で使用しているパターンがこれにあたります。
この場合、建物所有者である相続人は土地を無償で使用する権利(=使用借権)を被相続人から得ている一方、遺産である土地の価値はその分減少したものと評価され、原則として土地の更地価格の一部(概ね1割から3割程度までと言われることが多い。)が特別受益とされます。
もっとも、このようなケースでは最終的に建物所有者である相続人がそのまま土地を取得する場合が多く、その場合、その相続人は使用借権の負担のないまっさらな土地を取得することになるため、わざわざ土地を減額評価したうえで使用借権(減価分)を別途特別受益として加算するという処理をすることなくそのまま更地で評価・処理すれば足り、結果的には特別受益を問題とする必要がなかったというケースもあると思われます。
このように考えると、建物所有者である相続人が敷地をそのまま取得する典型的なケースでは土地の無償使用について特別受益を考える意味はなさそうにも思えますが、上記のとおり使用借権の設定された土地は更地で評価する場合と比べて減額されるため遺産総額が少なくなることから、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていると、建物所有者である相続人は土地の使用借権を遺産に持ち戻す必要がなくなる結果、代償金の支払額や他の遺産の取得額が変わる可能性が生じることになりますので、そのような場合に議論する実益があります。
なお、土地を使用していない他の相続人からは、土地の無償使用については特別受益を使用借権(=更地価格の一部)で評価するのではなく、地代相当額×使用期間で評価すべきとの主張がなされることもありますが、特別受益は前渡しによって減少した遺産を戻す制度であり、地代は遺産である土地の価値とは直接関連しない、被相続人が地代相当の経済的利益を遺産の前渡しとして与える意思があったとまではできないなどといった理由から否定されるのが通常と思われます。
まとめ
冒頭でも述べたように相続人の一部が不動産を無償使用しているケースはよく見られ、遺産分割協議や調停等でも問題となることが多い類型のひとつですが、そういった主張が必ずしも具体的な取り分に反映されない場合もあり、感覚的な部分との間にずれが生じやすいところです。
今回説明したような理屈をもとに丁寧に対応することは無用な紛争の発生や事件の長期化などを防止するうえで有効と思われますので、この点が問題となるときは話し合いを始める前か初期の段階で弁護士へ相談することをお勧めします。
弁護士 平本丈之亮