協議離婚と公正証書~離婚㉓~

 

 離婚の手続には、大きく分けると、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚の3種類がありますが、このうち、世の中で最も利用されているのは協議離婚です。

 協議離婚が広く利用されるのは費用や時間の点からみて他の2つよりもコストパフォーマンスに優れているからですが、場合によっては協議内容を「公正証書」の形にしておくことが望ましいことがあります。

 そこで今回は、協議離婚と公正証書について詳しくお話ししてみたいと思います。

 

離婚で公正証書を作るメリット

 1 金銭の支払いについて強制執行できる 

 離婚協議書を公正証書としておくことのメリットとしてよく言われるのは、金銭の支払いについて強制執行できるという点です。

 養育費・財産分与・慰謝料など一定の金銭の支払いを合意する場合、不払いがあっても当事者間での離婚協議書だけでは強制執行することができず、強制執行に着手する前に別途裁判所の手続きが必要になりますが、これをいちいち踏まなくても良くなるのが一番のメリットです。

 

 【強制執行認諾文言が必要】 

 もっとも、公正証書であれば必ず強制執行できるわけではなく、公正証書の中に、約束違反があった場合には直ちに強制執行されても異議はない旨の文言を盛り込む必要があります(これを「強制執行認諾文言」と言います)。

 

 2 単独で登記手続はできないが、作る意味はある 

 財産分与として不動産の名義を変更することがありますが、これを公正証書の形で合意しても単独で名義変更することはできず、元夫婦が共同して申請する必要があります。

 そのため、相手が約束を守らなかった場合は公正証書によって登記手続はできませんので訴訟によって名義変更を求めることになります。

 そうすると、不動産の財産分与を公正証書にしておく意味はないと思われるかもしれませんが、公正証書は公証人が当事者の意思を確認して作成するものであり一般的に信用性の高い文書とみなされているため、裁判になったとしても脅迫があったなどと争うことは難しく、そのような争いを防ぐうえで公正証書にしておく意味はあります。

 

 3 年金分割に使うことができる 

 また、年金分割を求める場合にも公正証書を作る意味はあります。

 年金分割をするにはいくつか方法があり、①年金事務所等に双方が出向いて手続きをする方法、②年金分割に関する合意書に公証人の認証をもらい、これを用いる方法、③年金分割の合意を公正証書にする方法、④裁判所の調停・審判を行い、調停調書や審判書で手続きをする方法、があります。

 公正証書はこの4つの方法のうちの1つであり、離婚協議書を公正証書の形にするときに盛り込むことが多いやり方です。

 

 4 紛争の蒸し返しを防止することが期待できる 

 離婚は感情的な問題が絡むため、ケースによっては離婚が成立した後もしこりが尾を引きトラブルに発展することがありますが、公正証書によって離婚条件を明確にし、公正証書に記載したもの以外は互いに請求しないという条項(清算条項)を盛り込むくことにより、少なくとも経済的な側面(財産分与や慰謝料など)については解決が図られ、追加請求などのトラブルを防ぐ効果が期待できます。

 当事者間での離婚協議書でもそのような効果はありますが、無理矢理合意させられた等といった理由で協議書の効力を争われることもあり、あらかじめ信用性の高い公正証書にしておくことでそのような争いを防げる可能性が高まります。

 

よくある誤解

 このように、公正証書にはメリットがある一方、決して万能ではなく、公正証書について以下のような誤解をなさっている方もいらっしゃいます。

 

 1 面会交流の強制執行はできない 

 先ほど述べたとおり、公正証書で強制執行できるのは金銭の支払いに関するものであるため、公正証書で面会交流についての取り決めをし、これが果たされなかったとしても強制執行はできません。

 

 2 強制執行そのものは裁判所での申立が必要 

 これもよくある誤解ですが、公正証書を作成したからといって、不払いの場合に強制執行(差押え)が自動的にされるというわけではなく、差し押さえる財産を調査し、別途裁判所に対して強制執行の申立をしなければなりません(これは調停や裁判でも同じです)。

 ただ、全く文書がなかったり、当事者間で作った離婚協議書だけしかないという場合には、強制執行の前段階として裁判所での手続が必要になるため、先ほど述べたとおりここを省けるというのが公正証書の意味となります。

 

 3 不動産について単独で名義変更できない 

 これは先ほどお話ししたとおりです。

 

公正証書で取り決めた内容を変更することはできるのか?

 このように、公正証書には強い効力が認められますが、一旦、公正証書で取り決めた内容を後で変更することはできるのでしょうか?

 

 一方的な変更は難しい 

 先ほど述べたとおり、公正証書は信用性の高い文書とされていますので、詐欺や強迫などがあったとして後で内容を争うのは困難です。

 

 当事者が合意してやり直すことは可能 

 他方で、当事者が改めて合意し直して内容を変更することは可能です。

 ただし、財産が一旦移転してしまった場合、これを再度移動するとなると、単なる贈与であると見なされて税金問題が生じる可能性もあるため、多額の財産移動があった場合には注意が必要と思われます。

 これに対して、養育費について将来支払われる金額を合意で変更するのは特段問題ありません。

 

 養育費については、事情の変更によって変更されることはある 

 また、当事者間で合意ができなかった場合でも、養育費については、公正証書作成後の事情変更によって金額が変更される場合があります(東京高裁平成28年7月8日決定)。

 たとえば、養育費を受け取る側が再婚し、再婚相手と子どもを養子縁組させた場合や、支払う側の収入が大幅に減ってしまったような場合などには、公正証書で取り決めた金額が変わる可能性があります。

 

公正証書は必ず作った方が良いのか?

 以上のように、公正証書には限界はあるものの、夫婦双方に一定のメリットがあります。

 もっとも、公正証書は必ず作らなければならないものではありませんので、たとえば子どもがおらず、財産分与・慰謝料・年金分割等も問題にならないのであれば作る必要はありません。

 また、双方が冷静に話し合いができ、相手の人格や社会的地位等から約束を守ることが期待できる場合や、双方に弁護士がついて協議を行い、支払いも1回で済むようなシンプルなケースであれば、当事者間での離婚協議書の作成にとどめておくことも考えられます。

 

 離婚を進めるには、単に条件をどうするかというだけではなく、その条件をきちんと守らせるにはどうしたらよいか、離婚が成立した後のトラブルを避けるにはどういう取り決めにしたら良いかなどいろいろな検討事項があり、公正証書を作るべきかどうかも人によって異なります。

 また、公正証書は当事者間での離婚協議書よりも強い効力が認められているため、一旦合意した後で内容を覆すのは困難な場合が多いため、公正証書を作るかどうか迷った場合には、男女問わず弁護士への相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

自衛官の若年定年退職者給付金と財産分与~離婚㉒~

 

 財産分与の対象となり得るものとして退職金がありますが、退職金に似たものとして財産分与の対象となるかどうかが問題になることがあるものとして、自衛官の退職後に支給される「若年定年退職者給付金」というものがあります。

 あまり一般的なお話ではありませんが、この点については参考になる文献等が乏しいため、自衛官の方と配偶者の方との間でこの点が問題となった場合の一助になるよう、今回は若年定年退職者給付金と財産分与をテーマに取り上げてみたいと思います。

 

若年定年退職者給付金とは?

 若年定年退職者給付金とは,自衛官が通常の公務員や私企業に勤める方に比べて大幅に若年で定年を迎えることから,早期退官による収入減少がもたらす隊員の生活不安を解消し,優秀な自衛官を確保するという政策的な目的に基づき給付されるものです(法的根拠は防衛省の職員の給与等に関する法律第27条の2ないし16)。

 

なにが問題か?

 このように若年定年退職者給付金は、いわゆる通常の退職金とは異なる趣旨・目的のもと政策的に支給されるものであるため財産分与の対象になるのか、というのが問題の所在です。

 

若年定年退職者給付金が財産分与の対象となるかどうかについて、確定的な見解はない

 この問題を考える上では、そもそも退職金がなぜ財産分与の対象になるかという点から考える必要があると思いますが、退職金が財産分与の対象となるのは、これが過去の労働の対価の後払いとしての性質を有し、そのような過去の労働部分について、他方配偶者には財産形成上の貢献が認められるからとされています。

 そうすると、若年定年退職者給付金が財産分与の対象となるかどうかは、この給付金が過去の労働の対価としての性質を有するかどうかという観点から検討していくことが有効なアプローチであると思われますが、この給付金には以下のような特徴があります。

 

 ・若年定年退職者給付金は、若年定年制から生じる他の労働者との収入の格差という不利益を補い、優秀な隊員を確保するという政策目的で給付されるものであること 

 

 ・退職後の収入水準によっては、返納や支給調整があること 

 

 上記のとおり、自衛官は若年定年制によって他の労働者との間で将来の収入格差が生じる可能性があるため、そのような経済的格差の発生を政策的に補うものであることや、若年定年退職者給付金が過去の対価としての性質を有しているならば退職後の収入水準と連動させる必要はなく過去の勤務実績に応じて支給すれば足りることからすると、個人的には当該給付金が過去の労働の対価としての性質を有するというのは違和感を覚えます。

 したがって、退職金が財産分与の対象となる根拠を過去の労働の対価であるという退職金の性質論に求め、若年定年退職者給付金がこれと同視できるかどうかという点を判断要素とするならば、財産分与の対象にはならないという結論につながっていくと考えます。

 

 他方で、若年定年退職者給付金は自衛官の地位にあったことに基づき支給されるものであり、過去の労働に対して配偶者が貢献した結果、定年時に給付金を得られる地位を得るに至ったと評価したうえで、そのような自衛官たる地位の維持に対する貢献があれば十分であると考えるならば、当該給付金が財産分与の対象になるとの解釈も成り立ち得るように思われます。

 もっとも、地位や資格については、その取得に配偶者が貢献した場合でもそれ自体を財産分与の対象とすることはできないという見解もあり(東京地裁平成19年3月28日判決・・・医師免許,認定医の資格及び博士号の各取得について寄与があり,これらの資格,地位を無形の財産と評価して分与対象とすべきとの主張について、分与対象財産はないとして排斥したもの)、自衛官という地位の維持について貢献があることを根拠に給付金が財産分与の対象となるとの結論にも疑問は残ります。

 

 当職が調べた限り、この論点について明確に判示した裁判例は見つけられなかったため、実際に裁判になった場合にどのような結論になるかは分かりかねますが、財産分与を求める側、求められた側のどちらであっても、若年定年退職者給付金の取り扱いは見解に違いが生じ得るところであり、簡単に結論が出ない可能性があるということを踏まえた上で協議等を進める必要があると思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

財産分与をやり直すことはできるか?~離婚㉑~

 

 離婚の際に財産分与の合意をしたが、いろいろな事情によってやり直したいというご相談を受けることがあります。

 では、このようなやり直しは可能なのか、というのが今回のテーマです。

 

当事者で合意してやり直すことは可能

 まず、当事者双方が合意によって財産分与をやり直すことは特段禁止されていませんので、この場合は可能です。

 ただし、すでに財産の移転がなされた後に改めて財産の移動があった場合、財産分与としての資産移動ではなく元夫婦の間における単なる贈与であると判断され、課税される可能性があり得ます(遺産分割協議のやり直しでも同じ問題があります。)ので、そのようなやり直しをする場合には事前に税理士に相談しておくのが無難です。

 

相手が約束を守らない場合に合意を解除できるか?

 それでは、いったん取り決めた財産分与の内容を相手が守らなかった場合、その財産分与の合意について債務不履行を理由に解除し、やり直すことはできるでしょうか?

 通常、財産分与の約束を守らない場合には訴訟や強制執行により解決を図ることになりますが、たとえば、早期にまとまった財産を受領することを優先し、本来もらえるはずだった内容よりも大幅に減額した内容で財産分与の合意をしたような場合には、合意自体をなかったことにしたいというニーズがあるため問題となります。

 この点については、調べた範囲ではこれを認める見解もあるものの、下級審ですが以下のように否定した裁判例がありましたので紹介します。

 

 福島地裁昭和49年2月22日判決 

 

「財産分与契約は、身分法上の法律行為であり、夫婦財産関係の清算と離婚後の扶養を目的とし、法律によって認められた財産分与請求権の内容を確定するものである。(中略)民法第五四一条による契約解除の制度は、終局的に自己の給付義務を免れることによって取引の自由を回復しようと図るものであるといえるが、このような要請は、財産分与には存しないものと考えられる。なぜならば、財産分与契約の解除を許すとしても、民法第七六八条によって認められた財産分与の義務そのものが消滅するものではなく、財産分与をやり直すことになるだけだからである。そして、複雑な財産分与のやり直しは望ましいことではなく、前記制度の趣旨に鑑み、財産分与の効力の安定を図ることが強く要請されるといわなければならない。このように考えると、財産分与契約につき民法第五四一条による解除は許されないものと解するのが相当である(なお、財産分与の意思表示に錯誤または詐欺・強迫等の瑕疵が存する場合は、別に検討を要するものと考える。)。」

 

合意に錯誤がある場合

 そのほか、財産分与の合意に重要な錯誤があり、その錯誤がなければそのような合意はしなかったといえる場合には、その合意は無効(2020年4月1日以降のものについては取消)の主張が可能であるため、財産分与のやり直しができる場合があります。

 

 最高裁平成元年9月14日判決 

 

「上告人において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情かない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。そして、前示のとおり、本件財産分与契約の目的物は上告人らが居住していた本件建物を含む本件不動産の全部であり、これに伴う課税も極めて高額にのぼるから、上告人とすれば、前示の錯誤かなければ本件財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にあるというべきである。」

※差戻審の東京高等裁判所平成3年3月14日判決では財産分与の錯誤無効が認められました。

 

本人の自由意思に基づかない場合

 たとえば、暴力や脅迫などによって相手を支配し、相手の自由意思を奪ったうえで財産分与の合意を結ばせたようなケースの場合は当然ながらそのような合意に効力はありません。

 このようなケースでは、過大な支払義務を課せられるパターンのほか、著しく低額ないしまったく分与をしない内容の合意をさせられるパターンがありますが、前者については以下のような裁判例があります。

 

 仙台地裁平成21年2月26日判決 

 

「(中略)本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書は,いずれも,原告が,被告の不貞行為を責める態度に終始し,被告に対する暴力を繰り返し,被告を自己のコントロール下に置いた上で,被告をして原告の指図どおりの内容で本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書を作成させたものであって,被告の自由意思に基づいて作成された文書ではないと認めるのが相当である。したがって,本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書に表示された被告の意思表示は,意思表示としての効力を有さず,いずれも無効というべきである。」

 

合意の効力がないことが確定した時点で離婚から2年が経過している場合

 財産分与は離婚から2年以内に請求をする必要があり、これは途中でその期間を止めることができないもの(除斥期間)と考えられています。

 そうすると、財産分与の合意が裁判所で争われ、合意の効力が確定的に否定された時点ですでに2年が経過しているというケースもあり、その場合に改めて財産分与の請求ができるのか、ということが問題となります。

 この点について、先ほど紹介した最高裁判決の差戻審である東京高等裁判所平成3年3月14日判決では、民法161条を類推適用して、除斥期間が経過後も一定期間は財産分与の請求が可能であるとしています。

 

 東京高等裁判所平成3年3月14日判決 

 

「本件財産分与契約の錯誤無効が認められた場合には、当事者間で改めて財産分与について協議を行うことになるが、右協議が調わないとき又は協議をすることができないときに家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができるかどうかについては、右請求の除斥期間を離婚の時から二年と定める民法七六八条二項ただし書の規定との関係で疑問がないではない。しかし、右規定の趣旨と、本件事案の下において被控訴人に右協議に代わる処分の請求をあらかじめ行わせることは期待できないことを考えると、時効の停止に関する民法一六一条の規定を類推適用する余地があり、本件財産分与契約の錯誤無効が確定した後に行う右協議に代わる処分の請求が前記除斥期間の定めによって妨げられるものとは解されない。」

 

 なお、民法161条は改正によって猶予される期間が2週間から3か月に変更されており、この東京高裁の見解に従った場合、改正民法施行(2020年4月1日)後に合意したものについては、効力否定から3か月間は時効の完成が猶予されると思われます。

 他方、改正民法が施行される前に合意し、施行後に合意が否定された場合にどちらの期間が適用されるのかは判然としませんので、そのようなレアケースの場合には念のため2週間以内に裁判所に対して財産分与の請求を行っておくのが無難だと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

別居期間は年金分割に影響するか?~離婚⑳~

 

 離婚の際に請求できるものとして「年金分割」がありますが、当職へのご相談の中でも年金分割についてのご質問が出ることが多くあります。

 ところで、実際に離婚に至るまでの間、長い期間別居している夫婦がいらっしゃいますが、そのような別居期間が長いケースにおいて、年金保険料の納付実績が多い方(多くは夫)から、年金分割の按分割合を5:5から修正すべきではないか(割合を減らしてほしい)、という主張をされることがあります。

 今回のテーマは、果たしてこのような理屈は通るのか?というものです。 

 別居と年金分割の按分割合の問題について裁判例がありますので、まずはそのうちのいくつかの裁判例を簡単に紹介していきます。

 

札幌高裁平成19年6月26日決定

「抗告人は,抗告人が定年退職する7年前から別居し,抗告人が定年退職した後は家庭内別居をしている旨主張する。しかし,前記引用に係る原審判が説示するとおり,婚姻期間中の保険料納付や掛金の払い込みに対する寄与の程度は,特段の事情がない限り,夫婦同等とみ,年金分割についての請求割合を0.5と定めるのが相当であるところ,抗告人が主張するような事情は,保険料納付や掛金の払い込みに対する特別の寄与とは関連性がないから,上記の特段の事情に当たると解することはできない。したがって,抗告人の主張は失当である。」

 

注 婚姻期間約35年 別居期間約7年 家庭内別居約7年

 

東京家裁平成20年10月22日審判

「対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は,特別の事情がない限り,互いに同等と見るのを原則と考えるべきである。(中略)」
「そして,法律上の夫婦は,互いに扶助すべき義務を負っており(民法752条),仮に別居により夫婦間の具体的な行為としての協力関係が薄くなっている場合であっても,夫婦双方の生活に要する費用が夫婦の一方または双方の収入によって分担されるべきであるのと同様に,それぞれの老後等のための所得保障についても夫婦の一方または双方の収入によって同等に形成されるべき関係にある。(中略)」
「(中略)別居後も,当事者双方の負担能力にかんがみ相手方が申立人を扶助すべき関係にあり,この間,申立人が相手方に対し扶助を求めることが信義則に反していたというような事情は何ら見当たらないから,別居期間中に関しても,相手方の収入によって当事者双方の老後等のための所得保障が同等に形成されるべきであったというベきである。

 したがって,相手方が主張する事情は,仮に事実と認められたとしても保険料納付に対する夫婦の寄与が互いに同等でないと見るべき特別の事情にあたるとはいえないから,その主張自体失当であり,申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合は,0.5と定めるのが相当である。」

 

※注 婚姻期間約30年 別居期間約13年

 

大阪高裁判平成21年9月4日決定

「年金分割は,被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから,対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は,特別の事情がない限り,互いに同等とみて,年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ,その趣旨は,夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって,そうでない場合であっても,基本的には変わるものではないと解すべきである。
 そして,上記特別の事情については,保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られるのであって,抗告人が宗教活動に熱心であった,あるいは,長期間別居しているからといって,上記の特別の事情に当たるとは認められない。」

 

※注 婚姻期間約36年 別居期間約14年

 

 以上のような裁判例を見ていくと、別居期間が長いという点だけで年金分割の按分割合が修正されるとはいいがたく、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当といえる「特別の事情」が必要、というのが裁判所の考え方の主流であるように思われます(ただし、婚姻期間のほとんどが別居であるという極端なケースでも按分割合が修正されないのかまでは分かりません)。

 

どのような事情が特別の事情にあたるのか

 では、どのような場合であれば年金分割の按分割合が修正されるのか、というのが次の問題ですが、この点は明確な基準は確立されておらず事案毎の判断としか言いようがありません。

 もっとも、近時の裁判例において、長期間の別居を理由としたものではないものの、「特別の事情」を認めて年金分割の按分割合を修正したものがありますので、本コラムのメインテーマからは外れますが参考としてご紹介したいと思います。

 

東京家裁平成25年10月1日審判

 この裁判例では、裁判所は概ね以下のような事実を指摘したうえで年金分割の按分割合を修正する判断を下しました(申立人(夫):相手方(妻)=3:7)。

 

①夫が1000万円単位の負債を負ったり妻から借入れをしたり、入院により経費がかかったりして、相手方が家計のやりくりに苦労したであろうことが認められること

②夫が会社を退職した後、夫は不定額の生活費を負担していたものの、それだけでは家計を維持するには不足していたこと

③妻が専任教員として勤務するようになってからは妻の収入を主として家計が維持されていたこと

④婚姻してから33年間、夫は一部上場企業に勤続して相当額の収入を得ており、借入金も大部分は退職金で返済したこと

⑤妻は、婚姻期間約50年間のうち約30年近くは概ね専業主婦として生活し、その間の家族の生計は夫の給与収入により維持されていたこと

⑥退職金額について、双方ともに明らかにしていないこと

⑦離婚調停において、妻は自宅建物に対する申立人の持分を財産分与として取得し、離婚後は妻が住宅ローンを返済する内容で合意し、他方、お互いの預金等の財産は分与対象としなかったこと

⑧その他本件に現れた一切の事情(詳細不明)

 

 この裁判例を読んでみても、どの事実が大きく影響して年金分割の按分割合が修正されたのかは判然としませんでしたが、このケースでは夫が多額の負債を抱えるなど妻が苦労していたようですので、個人的にはそのあたりが修正の決め手になったのかなと推測しています。

 

 弁護士 平本丈之亮 

 

 

最近の裁判例に見る不貞による(離婚)慰謝料~離婚⑲~

 

 弁護士として離婚問題を扱っていると必ず出会う相談に、不貞による離婚と慰謝料に関するものがあります。

 もっとも、不貞によって離婚する場合に慰謝料の請求ができることは皆さんご存知ですが、ではその金額はいくらが妥当なのかと言われると、なかなか分からないという方が多いと思います。

 正直に申し上げると、慰謝料の金額は弁護士でも判断が難しい部分なのですが、今回は、慰謝料を請求する場合、あるいは請求された場合のヒントとして、最近の裁判例ではどの程度の金額が認められているのかを紹介してみたいと思います。

 なお、今回ご紹介する判決は、夫婦の一方が他方に対して、不貞行為により婚姻関係が破綻したことを理由に慰謝料を請求した事案をピックアップしたものであり、近時重要な最高裁判決の出た不貞相手に対する慰謝料請求や、婚姻関係が破綻に至らなかったケースについては参考になりません。また、あくまで当職が利用可能な判例集で見つけた範囲のものにすぎず、慰謝料の算定にはそれぞれの判決で認定された個別の事情が大きく影響していると思われますので、ここで紹介した判決が認めた金額がすべてのケースで妥当するとは限らないこともあらかじめお断りしておきます。

 

東京地裁平成30年2月22日判決

 【慰謝料】 

 150万円

 【婚姻期間】 

 不貞行為が開始されたと思われる時点で約17年

 【不貞行為の期間】 

 約9か月間

 【離婚】 

 未成立(ただし、双方離婚の意向あり)

 【その他判決で指摘された事情(一部)】 

①不貞行為者は不貞相手との結婚まで考えていたこと

②夫婦間に実子がいなかったこと

③他方配偶者側の言動や不貞発覚後の対応にも問題があったかのような指摘(詳細は割愛)

 

東京地裁平成30年2月1日判決

 【慰謝料】 

 200万円

 【婚姻期間】 

 約39年(ただし、そのうち約18年弱が別居期間)

 【不貞行為の期間】 

 離婚成立まで約18年(うち不貞相手との同居期間約12年)

 【離婚】 

 成立

 【その他判決で指摘された事情(一部)】 

①離婚調停において、約530万円の財産分与が約束されたこと

②不貞行為者が、別居後、約15年強で5000万円を超える生活費を支払ったこと

 

東京地裁平成30年1月12日判決

 【慰謝料】 

 200万円

 【婚姻期間】 

 約5年

 【不貞行為の期間】 

 不明確

 【離婚】 

 成立  

 【その他判決で指摘された事項(一部)】 

①原告が再婚であったこと

②不貞行為者が複数の者と不貞行為に及んでいたこと(少なくとも3名以上)

 

東京地裁平成30年1月10日判決

 【慰謝料】 

 150万円

 【婚姻期間】 

 婚姻関係破綻時までで約6~7年 

 【不貞行為の期間】  

 約1ヶ月

 【離婚】 

 不明(ただし、婚姻関係が破綻したことは認定)

 【その他判決で指摘された事情(一部)】 

①不貞行為者が短期間で別居を決意するに至っており、不貞行為が破綻の決定的要因になったこと

②不貞行為者である実親が、自分の実子に対して、他方配偶者は実の親ではないという事実(養子縁組したこと)を明かしたこと

③不貞行為者は、離婚を切り出してからわずかの間に、秘密裏に家財等の財産を持ち出し、これによって他方配偶者は子どもとの別居生活を余儀なくされたこと

④不貞行為に及ぶ前の段階で婚姻関係は破綻に近づいていたこと

 

東京地裁平成28年11月8日判決

 【慰謝料】 

 200万円

 【婚姻期間】 

 婚姻関係破綻まで約4年弱

 【不貞行為の期間】 

 少なくとも約1年3か月

 【離婚】 

 成立

 【その他判決で指摘された事情(一部)】 

①不貞行為者が不貞相手の裸の写真を所持し、これを他方配偶者が発見したこと

②夫婦間に子どもがないこと

 

 以上、慰謝料についていくつかの裁判例をご紹介しましたが、離婚が成立している、あるいはまだ離婚に至っていなくても婚姻関係が破綻しているケースでは、判決では150~200万円程度の金額が認容される可能性があることはお分かりになったかと思います。

 もっとも、冒頭でもご説明した通り、慰謝料は個別の事情によって変わるため最終的には事案次第としか言いようがありません。また、不貞がからむ離婚問題は非常にデリケートであるため、裁判にまで至らず協議や調停で解決することも多く、早期あるいは穏便な解決のためにやむを得ず金額にこだわらない形で処理せざるを得ないこともあるため、具体的にどのような金額で解決するのが妥当かは悩ましい問題です。

 一口に慰謝料といっても、金額のみならず、具体的な請求の仕方や支払いの方法、履行の確保など検討しなければならないことが多くありますので、不安がある方は弁護士へのご相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

離婚調停に弁護士は必要か?~離婚⑱~

 

 離婚調停を考えている方や相手方から離婚調停を申し立てられた方からのご相談の際によく聞かれるのが、弁護士を頼んだ方がよいかというものです。

 そこで今回は、離婚調停と弁護士への依頼をテーマにお話してみたいと思います。

 

必ずしも必要というわけではない

 離婚調停は当事者だけで手続を進められるように書類の書き方や裁判所での受付体制が整っていますし、実際にご自分で対応して解決されている方も多くいらっしゃいますので、どのような場合でも弁護士が必要というわけではありません、

 そのため、離婚調停に弁護士が必要かというご質問を受けた場合には、弁護士をつけずに離婚調停を行っている方も多いこと、要所要所で弁護士からアドバイスを受けながら離婚調停そのものはご自分で対応されている方もいらっしゃること、をお伝えするようにしています。

 

弁護士への依頼が有効なケースもある

 もっとも、たとえば以下のようなケースにおいては弁護士への依頼が有効と思われますので、依頼を検討されても良いと考えます。

 

 ①協議すべき事柄が親権、養育費、慰謝料、財産分与、年金分割など多岐にわたる場合 

 この場合は担当される調停委員の力量に左右される部分もあるため弁護士が必須とまでは言えませんが、そもそも話し合うべき事柄が多いことから、お互いの言い分や必要な資料を整理したり提出したりするだけでかなりの時間を費やすことがあります。

 そのため、具体的な話し合いに入る前の準備だけで期日が繰り返され、解決が遅くなることがありますので、当初から弁護士が関与し、うまく交通整理しながら手続を進めることで無駄な時間を減らせる可能性があります。

 

 ②親権について争いがある事案 

 この場合はそもそも調停で解決できず訴訟に移行する可能性も高い事案ですが、弁護士が親権者の適格性を適切に主張した結果、相手方を説得して解決できる場合もありますし、たとえ調停がまとまらなくても、調停段階で相手方の考えがわかっていれば後の訴訟に備えて対策を検討しておくことも可能となるため、弁護士の関与が有効な場面です(はじめから訴訟が視野に入っているなら、調停の段階から弁護士を関与させた方がスムーズに訴訟に移行できるという面もあります)。

 

 ③財産分与について、分与の対象となる財産の範囲や評価額、あるいは財産分与の割合などに争いがある場合 

 

 ④慰謝料について、相手から不相応に高額(低額)と思われる提案がなされている場合 

 ③④のような場合では、適正な金額をもとに合理的な話し合いを進めるうえで弁護士の知識・経験が有効なケースと思われます。

 

 ⑤書類作成や資料整理の時間が取れなかったり、そのような作業が苦手な場合 

 これは、主にご本人の負担の軽減を目的に弁護士を利用するケースです。

 離婚調停では、申立書等の作成作業や、必要な書類を整理して適切に提出することを求められる場面がありますが、仕事等で時間がとれず十分に対応することが難しかったり、そのような作業が得意ではない場合には弁護士に代行してもらうことが有効です。

 

 ⑥離婚に関する要望を伝えることや自分だけで決断することに不安がある場合 

 調停期日では相手方や調停委員から様々な要望や意見が出され、それに対して判断したり、反対にこちら側の要望を適切に伝えたりする必要がありますが、そのすべてを自分だけですることが不安な場合も弁護士を関与させた方が良い事案といえます。

 

 ⑦法律的に妥当な条件かどうかをきちんと検討した上で離婚したい場合 

 離婚調停はあくまで話し合いで解決を目指す手続であり、どちらが正しいかを決める手続ではないため、客観的に見れば必ずしも妥当な条件ではなかったとしても、当事者双方が合意すれば原則として調停は成立することになります。

 しかし、後になってから離婚調停で取り決めた内容が不利な内容であったことが分かったとしても、やり直しは困難です。

 また、調停委員は中立な立場であり、立場上、どちらか一方に有利になるような働きかけはできませんので、調停中に協議されている離婚条件が妥当かどうかのアドバイスを期待することはできません。

 そのため、離婚条件の妥当性について自分で調べたり判断することが難しく、かつ、この点をきちんと検討し納得した上で離婚したいという場合にも、弁護士を関与させた方が良いと思います。

 

 ⑧相手方が復縁について望みを持っている場合 

 弁護士をつけることによって離婚の意思が固いことを相手方に示すことができるため、復縁を諦めてもらい、離婚の方向に流れを持っていく一つの材料として弁護士を活用する方法です。

 

 ⑨相手方に大きな問題がある場合(特にDV事案) 

 DV事案など相手方に問題が多い事案では、依頼者の安全を図りながら慎重に手続を進める必要がありますし、不調に終わった場合の訴訟も見据えた上での対応が必要になるため、調停段階から弁護士が関与した方が良いケースであると思われます。

 なお、DV事案については、現在は各地の相談窓口が充実してきており、各相談窓口と弁護士との連携も進んできていますので、離婚についてアクションを起こす前には、まずはどのような進め方をしたら良いかを事前に十分相談することが望ましいと思います(場合によっては関係先の援助を得てシェルターへの避難や保護命令の申し立てなどの事前措置を講じた方が良い場合があるため)。

 

夫婦関係の調停で弁護士を利用した人の割合は?

 2019年版の日弁連の統計資料によると、2018年に離婚調停と夫婦円満調整調停において申立人と相手方のどちらかに弁護士がついたケース、双方に弁護士がついたケースを合わせると約51.7%のケースで弁護士が関与していたとのことですので、夫婦間の関係を取り扱う調停においては、相当数、弁護士の利用が進んでいるようです。

 

 

 以上のとおり、離婚調停の段階からでも弁護士に依頼することが有効と思われる場面はありますが、他方、訴訟から依頼するのに比べて費用がかさむことは否定できません。

 そのため、離婚調停の段階で弁護士に依頼するかどうかは費用との兼ね合いで決めざるを得ない面がありますが、そもそもご自分のケースで弁護士に依頼する必要があるかどうか判断すること自体が簡単なことではありませんので、実際に依頼するかどうかは別として、判断に迷われたときはまずは相談だけでも受けてみることをお勧めしたいと思います。

 また、弁護士へ依頼するとそれなりに長い付き合いになるため、弁護士と依頼者の相性は非常に重要なポイントです。

 したがって、依頼を具体的に検討し始めたら、場合によっては複数の弁護士へ相談してみて、自分にとって一番合う(信頼できる)と思える弁護士を探してみることも考えて良いと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

離婚調停の流れ~離婚⑰~

 

 離婚について協議をしたものの解決しなかった場合、次のステップとして行うのが離婚調停です。

 しかし、多くの方にとって離婚は人生で一度きりの出来事であり、裁判所に行ったことなどない方もほとんどですので、実際に調停に臨む際の精神的ストレスは大変なものです。

 そこで今回は、はじめて離婚調停に臨まれる方向けに、離婚調停の大まかな流れや期間などについてお話ししたいと思います。

 

離婚調停の申立

 離婚調停は、夫婦のどちらかが相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをすることによってはじまります(例外的に、夫婦で調停を行う裁判所を合意し、その裁判所で行うこともあります(合意管轄))。

 申立をする方は、まずはどうやって申立すればよいのかを調べるところから始まりますが、申立書などの基本的な用紙は各裁判所に備え付けてありますし、裁判所のホームページから直接ダウンロードしたものを利用することも可能です。

 書類の提出は裁判所に持参する方法だけではなく、郵送する方法でも可能です。

 

申立~第1回調停期日までの間

 通常、調停の申立てから概ね1か月程度で第1回の調停期日が開かれますが、その間、必ずしておかなければならないものはありません(書類に不備等があれば裁判所から連絡があります)。

 もっとも、申立の時点で裁判所に提出していなかった資料がある場合には、期日前に提出しておいた方が解決までの期間短縮につながる場合があります。

 たとえば、財産分与を請求したい場合で、相手の財産の内容がある程度分かっているのであれば、相手の財産の目録(や裏付けとなる資料)を提出しておくことが有効です。

 また、年金分割を請求する場合には年金分割の情報通知書が必要になりますが、これは請求してから手元に届くまで時間がかかりますので早期に取得して提出しておいた方が良いと思います。(なお、訴訟に移行する可能性がある場合には訴訟の段階で情報通知書を改めて提出する必要がありますが、いったん提出してしまうと後で返してもらえず再発行が必要になるため、提出時に原本還付の手続をしておくことをお勧めします)。

 これに対して、不貞の証拠については、証拠の価値の強弱や協議段階での相手の対応等次第で出した方がよいかどうか異なり、場合によっては訴訟まで温存しておいた方が良い場合もありますので、迷った場合には弁護士へ相談された方が良いと思います。

 

第1回調停期日の流れ

 【受付】 

 まず、開始時間前に裁判所で受付を済ませると待合室に案内されます。

 調停室は別々になっていますので、調停室で鉢合わせすることはありません。

 その後、時間になると調停委員が待合室に呼びに来ますので、指示に従って調停室に入室すると、調停が始まります。

 

 【調停の進行】 

 調停員は2名(男女1名ずつ)ですが、通常の流れだと、申し立てた側から調停室に呼ばれます。

 そこで、調停委員から申し立てに至った事情を聞かれ、申立書などの記載事項の確認や離婚に関する要望の聞き取りなどがあります。

 それが終わると相手方と入れ替わり、今度は相手方の事情聴取が終わるまで待合室で待つことになります。

 場合によっては自分が話している時間よりも待っている時間の方が長いことがありますので、本を持ってくるなど待ち時間を過ごすための準備はしておいた方が良いと思います。

 このような流れを何度か繰り返し、その日の話し合いで合意できる部分や次回に持ち越しになる点が明確になったら、次回期日を決めて第1回調停期日は終わりです。

 基本的には調停委員とのやりとりのみで手続は進みますが、面会交流について紛争が生じるケースだと、家庭裁判所調査官が立ち会うこともあります。

 

 【1回の調停にかかる時間はどれくらいか?】 

 一概には言えないものの、中身のある実質的な話し合いが行われる場合、待ち時間を含めて通常1時間半から2時間程度はかかることが多いと思います。ただし、協議事項が少ない期日や双方に代理人弁護士がおり協議事項があらかじめ整理されているような期日だと1時間を切ることもあります。

 この部分は調停に入る前の事前準備がどの程度できているかにもよりますので、相手方の準備はコントロールできなくても、自分側だけでも主張したいことや資料を整理して準備しておけば調停期日の時間短縮につながりますし、そのような積み重ねによって早期に問題点が整理できれば、ひいては解決までの期間短縮にもつながります。

 

2回目以降~調停成立(不成立)

 基本的な流れは第1回の調停期日と同じであり、前回の期日での宿題をもとに話し合いを行い、合意形成を図っていくことになります。

 期日と期日の間隔は概ね1か月程度ですが、支部など裁判官や調停委員が少ないようなところではそれよりも間隔が長くなることがあります。

 合意がまとまれば、裁判所が調停調書と呼ばれる書類を作り、当事者間の合意内容を紙にしてくれます。

 調停が成立しなかった場合には、調停手続は不調によって終了しますので、離婚を求める側は訴訟を提起することになります。

 

 【調停成立までの期間は?】 

 これもケースバーケースとしか言えませんが、感覚的には3か月~半年程度が多く、長いと1年程度はかかることが多い印象です。

 平成30年度の司法統計によると、離婚を含めた夫婦間の紛争全体に関する調停について、調停が成立した事案のうち成立までの期間は、3か月以内が約29%、3~6か月以内が約36%、6~12か月以内が約27%となっており、半数以上が半年以内に成立に至っているようですので、半年程度が一つの目安になると思われます。

弁護士 平本丈之亮

 

婚姻費用・養育費の算定方法の変更について~離婚⑯~

 

 既に報道でご存じの方も多いと思いますが、昨年12月23日に婚姻費用と養育費の算定について、これまで取り扱いを変更する内容の司法研究が公開されました。

 これにより今後の婚姻費用・養育費の算定実務に大きな影響が生じると思われるため、今回はこの司法研究の概要についてご紹介したいと思います。

 

基本的な計算方法に変更はない

 旧算定表と今回の研究で示された新算定表のもとになった計算方法は、いずれも、子どもの年齢や人数などから算出した生活費を権利者と義務者の基礎収入で按分して金額を決めるというもの(収入按分型)であり、基本的な計算方式に変更はありません。

 

変更点は「基礎収入割合」と「生活費指数」

 このように基本的な計算方式は変わらないものの、過去の計算方式が公開から15年以上経過し、当事者双方の収入や子どもの生活費を算出するために使用していた統計資料が今の実体とそぐわない部分が生じていたため、計算に用いる統計資料を更新した結果、収入を算定するための数字(=「基礎収入割合」)と子どもの生活費・教育費を算定するための数字(=「生活費指数」)に変更が加えられた、というのが今回の研究結果の中身となります。

 

基礎収入割合の変更

 婚姻費用・養育費を算出するためには、当事者双方の総収入から、子の生活費等にあてられるものではない経費(=公訴公課、職業費、特別経費)を差し引き、計算の基礎とすべき「基礎収入」を認定するという作業が必要となりますが、今回、この基礎収入を算定する際に用いられる指数(=「基礎収入割合」)に変更が生じました。

 

【旧算定方式】

 給与所得者 42~34%

 自営業者  52~47%

 【新算定方式】 

 給与所得者 54~38%

 自営業者  61~48%

 

生活費指数の変更

 また、婚姻費用・養育費の計算には、親の生活費を100とした場合に子どもに充てられるべき生活費(学校教育費含む)の割合(=「生活費指数」)が用いられますが、この点にも以下の変更が生じました。

 

【旧算定方式】

 0~14歳 55

 15歳以上 90

 【新算定方式】 

 0~14歳 62

 15歳以上 85 

 

実際の金額はどう変わったか?

 以上のように計算に用いる数字が変わったといっても、実際にはこれを計算式や算定表にあてはめないとどのように変わったかはわかりませんので、以下では、いくつかの事案をもとにどのような変化が生じたかをご紹介してみたいと思います。

 今回は計算をシンプルにするため下記のような事例を設定しましたが、全体的に見ると、横ばいのケースもあるものの、全体的には金額は増加傾向にあるのではないかと思われます。

 なお、2~4万円など幅があるのは算定表の幅を示しており、( )内の金額は、算定表の縦軸と横軸にお互いの収入を当てはめて線を引いた場合に交差した部分の金額です。

 基本的には縦軸と横軸が交差した部分が標準的な金額となりますが、収入以外の様々な事情を加味した結果、金額が幅の範囲内で増減されることもありますので、幅の範囲内にあればとりあえず相場から外れたものではないと言えると思います(ただし、旧算定表でもそうですが、算定表の中でもともと考慮されていない特別の事情がある場合には、事情次第ではこの幅を外れることもありますので、その点には注意を要します)。

 

事例

 義務者 給与所得者

 権利者 給与所得者

 子ども 1名(14歳以下)

 

 事案1 

 義務者の総収入 400万円

 権利者の総収入 200万円

 

【旧算定表】

 2~4万円(3万円程度)

 【新算定表】 

 2~4万円(4万円程度)

 

 事案2 

 義務者の総収入 600万円

 権利者の総収入 400万円

 

【旧算定表】

 2~4万円(4万円程度)

 【新算定表】 

 4~6万円(5万円程度)

 

 事案3 

 義務者の総収入 1000万円

 権利者の総収入  500万円

 

【旧算定表】

 6~8万円(7万円程度)

 【新算定表】 

 8~10万円(8万円程度)

 

 事案4 

 義務者の総収入  350万円

 権利者の総収入  500万円

 

【旧算定表】

 1~2万円(2万円程度)

 【新算定表】 

 2~4万円(2万円程度)

 

 事案5 

 義務者の総収入 1600万円

 権利者の総収入  300万円

 

【旧算定表】

 12~14万円(13万円程度)

 【新算定表】 

 16~18万円(16万円程度)

 

今回の変更をもとに増額の請求ができるか?

 婚姻費用や養育費の変更は、当初取り決めしたときの前提となった客観的事情に変更が生じたこと、その事情変更を当事者は予見しておらず、予見もできなかったこと、金額の変更を求める側に事情変更について落ち度がないこと、当初の合意による支払いを続けさせることが著しく公平に反すること、といった条件が必要であると考えられていますが、この研究結果の公表そのものは養育費等の金額を変更する事情の変更にはあたらないとされています。

 もっとも、今回の研究結果の公表とは関係なく、当事者双方の収入や身分関係など客観的事情に変更があった場合には、それが理由となって金額が変更される可能性はあり、その際には新たな計算方式に基づいて再計算がなされるものと思われますので、権利者側に収入の大幅な減少などの事情が生じた場合には増額の請求を検討してみる価値はあると思います。

 ただし、ふたを開けてみたら義務者側の収入も当初より大幅に減っていたとか、義務者が再婚して子どもが生まれていたといった相手側の事情変更の可能性もあります。

 そのような場合は期待したような増額が認められないこともありますし、かえって、それを機に相手方から減額を求められるという事態も考えたうえで行動しなければなりませんので、果たして増額を求めても良いものか、このままの状態を維持した方が良いのかについては慎重に検討する必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮

別居時に持ち出した夫婦共有財産と財産分与~離婚⑮~

 

 離婚を考えて当事者の一方が別居に踏み切った場合、別居時に相手方配偶者の財産を無断で持ち出したり預金を引き出したりしてトラブルになる事例があります。

 そのような行動は、自分や子どもの当面の生活費の確保のためにやむを得ず行われることもありますが、持ち出し行為があった場合、相手の感情を害するほか、持ち出し行為自体が違法であるとして相手から訴訟を起こされることもあります。

 そこで、今回は、このような持ち出し行為が法的にどのように扱われるのかについて解説したいと思います。

 

持出額について直接返還等を請求することは難しい

 夫婦が共同で築き上げた共有財産の清算は、本来、財産分与の手続きで解決することが予定されているため、無断で財産を持ち出したことを理由に返還や損害賠償を請求しても、その請求は原則として認められないと考えられています。

 

 では、例外的に持ち出した財産について直接返還等が認められる場合があるのかというと、裁判例の中には、持ち出した財産が財産分与として認められる可能性のある対象や範囲を著しく逸脱した場合、また、他方を困惑させるなど不当な目的で持ち出した場合には、例外的に持ち出し行為が違法になるとするものもあります(東京地裁平成4年8月26日判決)。

 他方で、近時の裁判例として、「原告は,夫婦共有財産にあたる預金についても,原告と被告間の婚姻関係が破綻し,被告が払い戻した預金が将来財産分与として考えられる対象範囲を著しく逸脱しており,被告が原告を困惑させるなど不当な目的で払戻しを行ったという特段の事情がある場合には,不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると主張する。しかしながら,原告主張の前記事情が存在する場合であっても,原告が夫婦共有財産について具体的な権利を有する状態に至らないことには変わりがなく,原告主張の前記事情は,離婚に伴う財産分与の範囲を決定する際に考慮すべき事情に過ぎないというべきであるから,原告の主張は採用することはできない。」としているものもあり(東京地裁平成25年4月23日判決)、持ち出し行為が例外的にでも違法となる余地があるのかどうかについては、裁判所でも見解が分かれているところです。

 

相手の口座から婚姻費用として定期的にお金を引き出していた場合

 ところで、別居後の婚姻費用についてはいわゆる算定表が広く用いられていますが、共有財産に該当する相手の預金口座から婚姻費用名目で定期的にお金をおろして使用していたところ、引出額が算定表に基づいて計算した額を超えていたという場合に、その差額分は不当利得として返還すべきである、という主張がなされることがあります。

 このような引き出しに関する裁判例としては、「夫婦共有財産について,当事者間で協議がされるなど,具体的な権利内容が形成されない限り,相手方に主張することのできる具体的な権利を有しているものではないと解すべきであるから,被告が,平成22年11月8日から平成23年6月末までの間に,いわゆる算定表にしたがって計算した額の婚姻費用の原告負担分を超える額を本件預金口座から払い戻していたとしても,その行為によって,原告に具体的な損失が生じたということはできない。」として、差額分の不当利得返還請求を否定したものがあります(東京地裁平成27年12月25日判決)。

 ただし、この裁判例は、あくまで夫婦共有財産に該当する預金からの出金については不当利得に該当しないと判断したものですから、仮に、出金元の預金が明らかに一方の特有財産(相続など)だったような場合だと、また違った結論になる可能性がある点に注意が必要です。

 

持出額を使っていた場合の財産分与の考え方

 それでは、別居時に持ち出した金額をその後に使用し、財産分与の協議等をしている時点では額が目減りしていた場合、財産分与の場面ではどのように扱われるのでしょうか。 

 この点については、清算的財産分与の基準時は原則として別居時であるため、別居後に一方が夫婦共有財産を使用したとしても、基本的には別居時の金額を基準に財産分与額を決定します(=目減りした金額は持ち戻して計算する)。

 

 もっとも、別居から財産分与までの間の使途が婚姻費用(生活費)であって、その額も適正な範囲であった場合、例外的に、財産分与の対象額からその使用分が差し引かれることがあります(=使用金額については清算を要しない)。

 なぜなら、離婚が成立するまで夫婦は婚姻費用を負担する義務がありますので、婚姻費用を請求できる側が何らかの理由により相手から支払いを受けられない場合、夫婦共有財産から婚姻費用として適正額を支出したとしても、本来、その分は夫婦共有財産から負担すべきものであった以上、財産分与の場面において清算を要しないとしても不当ではないからです。

 

 たとえば、別居時の夫名義の全財産が1000万円で、その全額が夫婦共有財産だった場合において、自己名義の資産のない妻の持ち出し額が600万円、妻が財産分与までにそこから200万円を婚姻費用として適正に使ったという場合には、財産分与の対象となるのは夫が保有している400万円と、妻の持ち出し額600万円から適正支出額200万円を差し引いた400万円の合計800万円となります。

 そして、夫婦間における財産形成に対する寄与割合が平等(50:50)だとすれば、財産分与額はそれぞれ400万円(=800万円÷2)となるため、夫婦間ではそれ以上財産分与として互いに金銭をやりとりする必要はないことになります。

 

 以上のとおり、別居時の持ち出し行為についてはそれ自体が違法と判断される可能性は高くはないものの、持ち出しがなされるとその後の協議等が難航するおそれがあり、慎重な判断が必要となります。

 別居をする際には短期間に様々な決断を迫られることがありますが、初動を間違えると後の離婚手続に影響しかねませんので、別居するかどうか迷っている場合にはできるだけ事前に専門家へ相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

離婚後の生活保障を求めることはできるか?(扶養的財産分与)~離婚⑭~

 

 離婚のご相談をお受けしていると、離婚後に元配偶者から生活費をもらえるのか、というお話を受けることがあります。

 特に幼いお子さんをお持ちの専業主婦の方や高齢の方など、離婚後に働くことが容易ではない方からそのようなお話をよくいただきますが、では、このような請求は認められるのか、というのが今回のテーマです。

 

原則は自立

 夫婦は離婚することにより互いの扶養義務が消滅するため、離婚後も婚姻中と同じような生活費の負担を求めることはできないのが原則です(子どもの養育費は別問題です)。

 

例外:扶養的財産分与

 もっとも、先ほど述べたように、幼い子どもの面倒を見る必要があり仕事に就くことが容易ではない、高齢のため働けず年金も少ない、というように、離婚によって当事者の一方の生活が成り立たなくなる場合にこのような原則を貫くのは不公平なことがあります。

 たとえば、夫婦共有財産として清算対象となる財産はないが、元配偶者が相続によって多額の資産(=特有財産)を持っていたり収入が高いような場合、離婚によって他方配偶者が生活困窮に陥ることはバランスを欠く場合があります。

 そこで、離婚に伴い自立できないような経済状況に陥ることになる配偶者に対して、一定の範囲で将来の扶養のための財産分与を認めるという考え方があり、これを「扶養的財産分与」と呼んでいます。

 そもそも財産分与には、夫婦共同で築き上げた財産を清算する清算的財産分与、精神的苦痛に対する慰謝料的な性質をもつ慰謝料的財産分与がありますが、扶養的財産分与はこれらとは別のものと考えられています。

 

どのような場合に認められるか

 先ほど述べたように、離婚後は元夫婦間ではお互いの扶養義務はないため、原則として扶養的財産分与は認められず、相手方に十分な扶養能力(資力)があり、かつ、請求する側が自立して生活することができない事情がある場合(扶養の必要性)に限って認められると解されています(名古屋高裁平成18年5月31日決定参照)。

 もっとも、どのような場合であれば扶養的財産分与が認められるのかという具体的な基準はなく、実務上は、以下のような各要素を総合的に考慮して相手方の資力や扶養の必要性を判断し、最終的に分与を認めるのが公平に叶うかどうか、認めるとしてその額や分与の方法はどうするか、ということを決めているのが実情です。

 

 【扶養的財産分与の考慮要素の例】 

 以下、扶養的財産分与が認められる方向に働く事情の一例を紹介します(認めない方向に働く事情は基本的にその反対となります)。

 

 1 請求者の財産状況 

  めぼしい財産がない

  離婚の際、十分な清算的財産分与や慰謝料などをもらえる見込みがない

 

 2 請求者の収入の有無 

  収入がない又は収入が低い

 

 3 請求者が無職の場合、就労可能性 

  就労経験がない又は乏しい

  高齢である

  就職に役立つ資格をもっていない

  持病やケガの後遺症などで働くことが難しい

  幼い子どもがいるため、働くことが難しい

 

 4 請求者の住居を確保する必要性 

  子どもが小さく環境を変えることが困難

  高齢であり長年その家に住んでいたため環境を変えることが困難

 

 5 請求者の家族関係 

  財産分与を請求した時点で再婚(内縁含む)していない

 

 6 双方の有責性の有無・程度 

  不倫や暴力など相手方の問題による離婚である

 

 7 相手方の財産状況 

  多額の固有財産(相続など)がある

 

 8 相手方の収入 

  安定した収入がある

 

 9 相手方の家族関係 

  高齢の親や障がいのある家族を扶養する必要がない

 

どのような内容・方法で認められるのか

 扶養的財産分与の方法についても、先ほど述べたような色々な事情から裁判所が裁量で判断することになりますが、わかりやすいやり方として、毎月一定額の生活費の支払いという形を取ることがあります。

 具体的な金額について絶対的な基準はありませんが一つの目安として離婚前の婚姻費用額が指標とされることがあるようです。

 支払いの期間についても、結局のところは元配偶者が自立して生活できるようになるまでの期間であり、この点は夫婦の事情によって千差万別のため基準はありませんが、離婚する以上無制限に認められるわけではなく(論者によってまちまちですが)概ね数年程度が限界と考えられているようです(ちなみに過去の裁判例では、支払期間を3年間としたものがあります(横浜地裁川崎支部昭和43年7月22日判決))。

 以上のような金銭給付以外でも、たとえば、相手方所有の不動産に居住権を設定する、不動産の所有権を移転させる、清算的財産分与として支払いを命じる額に一定額を加算するなどという内容が認められることもあります。

 

 扶養的財産分与は例外的なものであることや考慮要素が複雑であることから、認められるかどうかの判断が難しい分野ですので、請求をお考えの場合には一度弁護士へご相談いただくことをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮