衣類や装身具は財産分与の対象となるのか?

 

 離婚協議の中で財産分与が問題になる場合、通常は不動産や預金、有価証券などの処理を巡って話し合いがなされることが多いところですが,まれに、婚姻中に夫婦それぞれが購入した衣類や装身具(指輪など)が財産分与の対象になるかを巡って議論になることがあります。

 

 では、このような物が果たして財産分与の対象になるのか、というのが今回のテーマです。

 

夫婦それぞれの専用品は基本的に財産分与の対象にはならない

 

 以下の裁判例でも触れられているとおり、衣類や装身具など、社会通念上、夫婦それぞれの専用品とみるべき物は、基本的には財産分与の対象にはならないと考えられています。

 

名古屋家裁平成10年6月26日審判

「本件記録によれば、本件内縁期間中に申立人が相手方から買い与えられた宝石類は、ネックレス一点、指輪三点であり、その購入価格は、指輪一点が約八〇万円、他の指輪一点が約三〇万円であったことが認められ、なお、その余の価額は不明である。
 これらの宝石類は、社会通念に従えば申立人の専用品と見られるから、申立人の特有財産であるというべきであり、したがって、本件財産分与の対象とはならない。」

 

東京地裁平成16年2月17日判決

「前記美術品は夫婦共同財産であり、現在被告が管理している。この点について、被告は、被告の特有財産によって被告の好みにより購入したもので、被告の特有財産であると主張する。しかし、衣類や装身具等とは異なり、社会通念上これを被告の専用品とみることはできないうえ、相続財産を原資として取得されたと認めるに足りる証拠はないから(相続した預貯金あるいは現金等によって購入されたと認めるに足りる証拠はないから)、被告の特有財産ということはできない。」

 

 このように、衣類や装身具は、通常それぞれの専用品、すなわち特有財産として扱われるため基本的には財産分与の対象にはなりません。

 

 ただし、裁判例によれば、専用品として扱われるかどうかの基準は結局のところ「社会通念」という曖昧なものであるため、たとえば装身具ひとつみても、それ自体が非常に高額であったり、購入目的が着用という装身具本来の目的ではなく資産形成であったようなケースであれば、例外的に財産分与の対象となる可能性は残ります

 

 多くの場合、この点は話し合いによって解決されていると思われますが、専用品かどうかを巡って離婚協議等が難航する可能性もありますので、装身具などの処理を巡って本格的に問題が生じたときは、一度弁護士へのご相談をご検討いただければと思います。

 

 弁護士 平本丈之亮

離婚前に渡した財産は、離婚の際にどのように扱われるのか?

 

 夫婦間においては、婚姻中、配偶者の一方が他方に財産を渡すことがありますが、離婚のご相談をお受けしていると、離婚の条件を協議する際に、結婚中の財産の移転をどのように処理するかを巡りトラブルになることがあります。

 

 そこで今回は、離婚の前に渡した財産が離婚の際にどのように扱われるのかについてお話しします。

 

財産分与として渡したものは、離婚の際に清算される

 

 離婚前に渡した財産が夫婦の財産関係の清算である財産分与の趣旨であることが明らかな場合、前渡しした財産は最終的な財産分与の場面で清算されます。

 

 具体的には、夫婦の共有財産を全て合算して必要な限度で負債を控除し、それに取得割合を乗じて、そこから離婚前に前渡しを受けた分を控除するというやり方です(このような計算方法をとっている裁判例として、東京家裁平成30年3月15日判決)。

 

財産分与の前渡しをするときは、その趣旨を明確にしておくべき

 このように、離婚前に渡した財産が財産分与の前渡しであることが明確であれば、上記のように最終的な分与額の計算において考慮されることがあります。

 

 もっとも、ある財産を離婚前に前渡しする場合、そのお金の移動の趣旨はいくつかの可能性があり、それが財産分与の趣旨ではないと判断された場合には、このような控除計算はなされないことになります。

 

 たとえば、離婚前の別居段階で婚姻費用の未払いが長期間続いており、その清算として、離婚前にまとめて過去の婚姻費用を支払ったというケースが典型例ですが、このような未払婚姻費用の清算は財産分与とは性質上別個のものであるため、この場合は財産分与の計算上、考慮されません。

 

 実際のケースとしても、さきほど紹介した東京家裁平成30年3月15日判決では、離婚前に前渡しした金銭が財産分与の前渡しであるのか、それとも過去の未払い婚姻費用の清算であったのかが争われていますが、結論的には、前渡しした側が保育料や光熱費等を負担していたことなどの事情から、渡したお金は婚姻費用の清算ではなく財産分与の前渡しであったと認定されています。

 

 以上のように、具体的な離婚協議をする過程において、離婚成立前に一定の財産を相手に動かすことは、その趣旨が曖昧だと後々問題となることがあります。

 

 そのため、前渡しする必要がある場合には、その金銭の移動がいかなる趣旨であるかについてきちんと合意したうえで、書面等で明らかにしておく必要があります。

 

離婚が問題になる前に贈与した財産は?

 

 以上のように、離婚問題が浮上してから財産を移転するというのではなく、離婚が問題になる以前に、配偶者の一方が相手に財産を贈与することもよくみられます。

 

財産分与の前渡しとは評価されない

 このようなケースでは、贈与した側から、その贈与財産も財産分与の計算をする上で考慮してしてほしいという希望が出されることがありますが、そもそも離婚が現実的な課題として意識されていない段階での財産移転であれば、財産分与の前渡しとは評価できませんので、このような理屈で考慮してもらうことは難しいと思われます。

 

夫婦共有財産を贈与した場合、離婚時に清算の対象にしてもらえるか?

 また、贈与の対象となった財産が夫婦共有財産であった場合には、単に共有財産の名義や占有を相手に移転しただけにもみえるため、離婚時にこれを財産分与の対象として扱うべきではないか、具体的には、支払うべき金額からその分を控除したり、逆に相手が取りすぎであるため一部返還してもらいたい、という希望が出ることもあります。

 

 この点については、贈与当時の当事者双方の意思などにかかわるためケースバイケースの判断となりますが、当事者の意思によって確定的に財産の帰属を決めたのであれば、そのような贈与は清算的要素をもち、贈与対象財産はその時点で特有財産になるため財産分与の対象にはならない、と判断されることがあります。

 

 たとえば、大阪高裁平成23年2月14日決定では、不貞行為が疑われる状況下で配偶者の不満を抑える目的のもと不動産の持分を移転したというケースにおいて、そのような持分移転は清算的要素をもち、贈与の時点で不動産は特有財産になったと判断されています。

 

弁護士 平本丈之亮

 

育児休業給付金は、婚姻費用や養育費の計算において考慮されるのか?

 

 雇用保険に加入している労働者が育児休業を取得した場合、一定期間、雇用保険から育児休業給付金が支給されることがあります。

 

 では、このような育児休業給付金の支給が予定されている間に婚姻費用の請求があった場合、婚姻費用や養育費の計算において育児休業給付金は収入として扱われるのでしょうか?

 

大分家裁中津支部令和2年12月28日審判

 この点に関しては、別居中の妻が夫に対して自分と子どもの分の婚姻費用の請求をしたが、夫には不貞相手との間に認知した子どもがいたというケースで、認知した子の母である不貞相手の育児休業給付金を収入として扱い、これをもとに妻と子の婚姻費用を算定した裁判例があります(大分家裁中津支部令和2年12月28日審判)。

 

 このケースは、権利者や義務者自身が育児休業給付金を受給していた場合ではなく、婚姻費用の計算において考慮する必要のある認知した子の生活費を計算する際に、その母親である不貞相手の育児休業給付金を収入として計算したというイレギュラーなケースです。

 

 もっとも、この裁判例は、育児休業給付金が婚姻費用の計算にあたって収入として扱うべきことを当然の前提としたものですので、たとえば妻が育児休業中に夫に婚姻費用を請求したようなスタンダードなケースでも、この裁判例と同様の立場に立てば育児休業給付金が収入として扱われるものと思われます(なお、この裁判例では、育児休業給付金が収入として考慮される理由について特段理由は述べていませんが、育児休業給付金が雇用保険給付の一つとして休業中の所得を補填とすることからすると、個人的にも収入として扱うことが妥当ではないかと考えます)。

 

職業費に注意を要する

 ただし、婚姻費用や養育費の計算において育児休業給付金を収入として扱う場合には、育児休業期間中は職業費がかからない点を計算に反映させる必要があることに注意が必要です。

 

 いわゆる標準算定方式では、総収入に応じた一定のパーセンテージを乗じて「基礎収入」を算出し、それをもとに婚姻費用や養育費を計算しますが(このパーセンテージを「基礎収入割合」といいます。)、通常のケースで用いられる基礎収入割合は、働いている人に一定の職業費がかかることを前提としています。

 

 これに対し、育児休業給付金を受給している期間はこのような職業費が生じないため、このようなケースでは、基礎収入を計算するにあたり職業費がかからないことを前提に計算を修正する必要があります。

 

 この点について、上記裁判例では、統計上の資料から実収入に占める職業費の平均値が概ね15%であることに着目し、通常の計算の場合に利用される基礎収入割合に15%を加算して基礎収入を計算するという計算方法を採用していますので、同様のケースではこの方法を参考にすることが考えられるところです。

 

 たとえば、年額120万円の給与収入を得ている場合、通常の基礎収入割合は46%であるため基礎収入は120万円×46%=556,000円ですが、この120万円が育児休業給付金の場合、上記裁判例のような考え方だと46%に15%を加算し、基礎収入は120万円×61%=732,000円となり、これをもとに婚姻費用や養育費を算出します。

 

 

 婚姻費用や養育費の計算において育児休業給付金が問題になる例はそこまで多くはないと思いますが、最大で子どもが2歳になるまで受給できるものであるため、元々の収入が高いケースだと、これを収入に加えるかどうかによって計算が大きく変わってくることもあり得ます。

 

 今回ご紹介したように、育児休業給付金を受給していたりその予定がある場合には婚姻費用や養育費について特殊な計算が必要になる可能性がありますので、この点が問題となる場合には弁護士への相談をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

私立学校や大学の学費は養育費に加算してもらえるのか?

 

 養育費の交渉をするときに、子どもの学費が問題となることがあります。

 

 子どもが小さいときに離婚するケースでは、学費が将来どの程度かかるかを正確に計算することは難しいところですが、子どもがある程度大きくなり、たとえば私立学校や大学に進学するなど、学費の負担が現実的な話になった場合には、学費の費用負担を巡って交渉がシビアになることがあります。

 

 そこで今回は、子どもが私立学校や大学に進学する場合、その学費を養育費として請求できることがあるのか、という点についてお話ししたいと思います。

 

 

標準算定方式で考慮されている学費の範囲

 

 養育費の計算において広く使用されている「標準算定方式」では、あらかじめ双方が負担すべき学校教育費が考慮されているため、考慮済みの学費部分について重ねて負担を求めることは困難です。

 

 もっとも、標準算定方式において考慮されている「学費」とは具体的には公立高校までのものであるため、今回のテーマである私立学校や大学の学費については基本的な養育費には含まれないことになります。

 

 

私立学校や大学の学費を養育費として請求できる場合は?

 

 このように、標準算定方式では私立学校や大学の学費が養育費の計算において考慮されていないことから、子どもが進学を希望するときにその学費の負担を養育費の一環として請求しうるかが問題となります。

 

 この点については、当然に相手に対して負担させることができるとまではいえませんが、下記①②のような場合であれば負担を求めうると考えられています。

 

増額がなされるケース

①義務者が私立学校や大学への進学を承諾している場合

※承諾は黙示のものでも良いと考えられています。

 

②収入・資産の状況や親の学歴・地位などから私立学校や大学への進学が不相当ではない場合

 

 

具体的な負担額の計算方法は?

 

 上記のとおり、一定の場合には標準的な養育費のほかに私立学校や大学の学費の負担を求めることができることがありますが、その場合であっても学費の全額を負担するわけではなく、年間の教育費から標準算定方式で既に考慮済みの金額を控除し、それによって算出された残額を父母が按分して負担しあうことになります。

 

【年間の教育費の内容は?】

 

 私立学校や大学の学費負担を相手に求める場合には、まず年間の教育費をいくらと見るべきかが問題となりますが、文部科学省の行っている子供の学習費調査に関する統計資料の用語解説では、「学校教育費」として授業料、通学費、図書費などの項目を列挙して示していますので、問題となる学費を算出するにあたってはこのような資料をもとに学費を積算していくことが考えられます。

 

 なお、子どもが奨学金を受けて学費を賄っていたり、アルバイトで学費を賄うことができるような状況のときは、義務者に私立学校や大学の学費分の追加負担を求める必要はないと判断されるケースもあります(婚姻費用の計算において学費の加算が問題となったケースとして東京家裁平成27年8月13日審判など)。

 

 この点に関連して、私立高校については高等学校等就学支援金制度の改正により、世帯収入によっては授業料が実質無償化されるためこれが加算額の計算に影響するかどうかが問題となり得ます。

 

 もっとも、婚姻費用に関する過去の裁判例では、公立高校の授業料の不徴収制度は婚姻費用の減額事由にはならないとした事例(最高裁平成23年3月17日決定)や、子ども・子育て支援法の改正による幼稚園、保育所、認定子ども園等の利用料の無償化が婚姻費用の減額事由にはならないとした事例(東京高裁令和元年11月12日決定)があることに鑑みると、私学加算の場面でも同様に考えるのが妥当ではないかと思います(私見)。

 

【年間の教育費から差し引くべき金額】

 

 次に、養育費に加算すべき額を算出するために、実際に生じる私立学校や大学の学費から標準算定方式で既に考慮済みの金額を差し引くことになります(この計算をしないと、義務者に二重に教育費を負担させてしまう部分が生じるためです)。

 

 標準算定方式では、公立中学校の学校教育費として年間131,379円、公立高等学校の学校教育費としては年間259,342円が考慮されていますので、一つの方法としては、私立学校等の年間教育費からこれらの金額を控除する方法が考えられます(大学の進学費用の加算が問題となったケースで、公立高等学校の学校教育費を控除した例として大阪高裁平成27年4月22日決定参照)。

 

【義務者が負担すべき割合は?】

 

 以上のような過程を経て、標準算定方式では考慮されていない超過分の学費の額を計算したら、最後に義務者が負担すべき金額を計算することになります。

 

 分かりやすい計算方法としては、これまでの計算で得られた額を互いの基礎収入の割合で按分して義務者の負担額(年額)を計算し、これを12ヶ月で割って養育費の月額に加算するというものが考えられますが、最終的には裁判所が諸般の事情を考慮して負担額を決めることになります。

 

 

異なる計算方法もある

 

 以上のような計算方法は、公立中学校の子どもがいる世帯として約730万円、公立高等学校の子どもがいる世帯として約760万円の平均収入があることを前提にした簡易な計算方法であるため、義務者の収入がこの平均値と大きく異なる場合には、計算方法そのものを修正することが必要となる場合があります。

 

 この点は込み入った話になりますので詳細は割愛しますが、このような場合の計算方法として、まず、①私立学校や大学の学費を双方の基礎収入に応じて按分計算して義務者の負担額を計算し、これを12で割って月額に直し、次に、②標準算定方式によって義務者が負担する基本的な養育費を算出して、③②の中に含まれている教育費相当額を生活費指数(14歳以下では62分の11程度、15歳以上では85分の25程度)をもとに計算したあと、④最後に①の金額から③の金額を控除する、というものがあります。

 

 

計算例

 

 最後に、参考として計算例をひとつ示してみたいと思います。

 

計算例

【設例】

義務者(父・給与所得者):年額750万円

権利者(母・給与所得者):年額200万円

子ども(19歳):国立大学1年生

(奨学金はなく、アルバイトも困難とします。)

 

【学費】

年間授業料   535,800円(標準額)

学用品(年間)     60,000円

年間学費合計  595,800円 

(入学金は両親の合意のもと支払済みとします。)

 

【養育費(標準算定方式)】

概ね8万円

 

【標準算定方式では考慮されない学費相当額】

595,800円-259,342円=336,458円

 

【義務者(父)の負担すべき学費】

父の基礎収入:750万円×40%=3,000,000円

母の基礎収入:200万円×43%=860,000円

 

  336,458円

×3,000,000円÷(3,000,000円+860,000円)         

=261,495円(年額)(月約2.2万円)

 

【養育費総額】

 8万円+2.2万円=10.2万円

 

 養育費は子どものために支払われるものであり、今回ご紹介したように進学のために一定額を加算して支払わなければならない場合がありますが、基本的な養育費に加えて学費分の加算を求めるとなると計算や交渉が複雑化することがありますので、加算を求めるかどうかや求める加算額については、専門家と相談の上、十分に検討していただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

養育費を請求しない旨の合意の有効性と合意後の事情変更

 

 法律相談のうち一定数ある類型として、離婚したときに養育費を請求しないという約束をしてしまったが、今から改めて請求はできないのか、というものがあります。

 

 離婚協議(公正証書含む)や離婚調停において養育費の請求をしないという合意をすること自体は、多くはないもののそれなりにあるという印象ですが、今回はこのような合意が有効かどうかについてお話ししたいと思います。

 

養育費を請求しないとの合意の有効性

 

 過去のいくつかの裁判例では、このような合意も未成年者らの福祉を害するなどの特段の事情がない限り法的には有効であるものの、例外的に合意時には想定できなかったような事情の変更があった場合には、改めて養育費を請求できると判断されています。

 

大阪家裁平成元年9月21日審判

『申立人と相手方は,前記離婚に際し、未成年者らの監護費用は申立人において負担する旨合意したものと認めることができ、こうした合意も未成年者らの福祉を害する等特段の事情がない限り、法的に有効であるというべきである。
 しかしながら、民法880条は、「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるベき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は金審判があつた後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所はその協議又は審判の変更又は取消をすることができる。」と規定しており、同規定の趣旨からすれば、前記合意後に事情の変更を生じたときは、申立人は相手方にその内容の変更を求め、協議が調わないときはその変更を家庭裁判所に請求することができるといわなければならない。』

 

【事情の変更の有無】

①相手方は離婚当時無職で収入もなく、その後も安定した稼働状況とはいえず収入も安定したものではなかったが、途中から会社に勤務して経済的にも一応安定した生活状況となったこと

 

②他方、申立人の基礎収人は申立人と未成年者らの最低生活費をも下回るほどの少額であったこと

 

→遅くとも裁判所への申立て後には相手方は経済的に安定した状態となり、反面、申立人には同人と未成年者らの最低生活費をも下回る基礎収入しかないことから事情の変更が生じたとして,申立人が相手方に対して合意内容の変更を求めることができると判断した。

 

大阪高裁昭和56年2月16日決定

『民法八八〇条は、「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があつた後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消をすることができる。」と規定しており、右規定の趣旨からすれば、抗告人と相手方が離婚する際相手方の方で子供三人全部を引取りその費用で養育する旨約したとしても、その後事情に変更を生じたときは、相手方は抗告人に右約定の変更を求め、協議が調わないときは右約定の変更を家庭裁判所に請求することができるものというべきである」。

 

【事情の変更の有無】

①離婚後、子どもらの成長に伴いその教育費が増加したこと

 

②相手方は子どもらとともに実家に同居しているが、相手方の両親も次第に老齢となり体力が衰え、相手方の父は職場を退職することになってており、それ以後はわずかばかりの農業収入が主な収入となること

 

③離婚後、予期に反して相手方の叔父から祖父の遺産につき分割の要求があり、相手方の父は孫の養育費にあてるためにとっておいた有価証券の大部分を遺産分割として叔父に譲渡したこと

 

④子どもらはいずれも大学進学を希望しており更に教育費の増加が予想されるのに、長女が満18歳となつたため、同人に関する児童手当の支給を打ち切られることになったこと

 

→上記各事実から、当事者間の事情に変更を生じたものと認め、養育費を支払わない旨の合意の変更を求めうるに至ったと判断した。

 

福岡家庭裁判所小倉支部昭和55年6月3日審判

『ところで、両親が離婚する際いずれか一方が養育費を負担することを定めて親権者を指定した場合、その合意に反して子を養育する親が他方の親に対してその養育費を請求することは原則として失当というべきで、現に養育する親が経済上の扶養能力を喪失して子の監護養育に支障をきたし、子の福祉にとつて十分でないような特別の事情が生ずるなど上記合意を維持することが相当でない特別の事情が生じた場合は子を養育する親から他方の親に対し養育費を請求しうるものと解すべきである。』

 

【特別の事情の有無】

 理由付けは不明確であるものの、請求者側に収入があり子どもと一応の生活をしていることや、相手方が再婚して子どもが生まれ、不動産などの資産もないという事実関係を前提に、「未だ相手方をして養育料を負担せしめるを相当とする特別の事情が生じたものと解することはできない。」と判断した。

 

 

子どもの扶養料請求の形で請求することの可否

 

 以上の通り、夫婦間での養育費を請求しないとの合意は一応有効であるとしても、このような合意はあくまで父母間でのものにすぎません。

 

 そこで、子ども自身が有している扶養料請求権を親が子の法定代理人として行使することで、実質的に養育費を請求するのと同じような結果にできるのではないか、という点が問題になることがあります。

 

 古い裁判例においては、扶養の権利は処分することはできないという理由のみで請求を認めるものもありますが(東京高裁昭和38年10月7日決定)、子の扶養需要が増大したり、親の一方又は双方の資力に変動を生じるなど、合意成立のときに前提となった諸般の事情に変更が生じた場合でなければそのような請求はできないと判断するものもあり(札幌高裁昭和51年5月31日決定)、裁判所の判断は分かれています。

 

 札幌高裁の決定を前提とすると、養育費として請求する場合であれ、子どもの扶養料請求権として請求する場合であれ、要するに合意当時から事情の変更があった場合でなければ請求は難しい、と整理することができるように思います。

 

 いずれが正当かは悩ましいところですが、この問題は、法的安定性と未成年者の保護の双方に目配りする必要があると思われるため、個人的には無制限に認める見解よりも、事情変更の有無を基準とする見解の方が説得力を感じるところです。

 

 

 以上、いくつかの裁判例をもとに御説明しましたが、一旦成立した合意を後から変更するのは簡単なことではありませんので、何らかの理由によって改めて養育費を請求したいと考える場合には弁護士への相談をご検討下さい。

 

  弁護士 平本丈之亮

 

養育費の一括請求はできるのか?

 

 離婚の際、あるいは離婚後に養育費の合意をする際、養育費を一括で支払ってほしいという希望が出ることがあります。

 

 今回は、このような養育費の一括請求が可能かどうか、という点についてお話しします。

 

一方の意思だけで養育費の一括請求は難しいが、合意があれば問題なく可能

 

 養育費は一定の時期ごとに発生する定期金としての性質を有しているため、権利者側が一括で支払ってほしいと請求しても、裁判所が判断する審判や判決では、一定期間ごとに支払いをするよう命じられることが一般的です。

 

東京高裁昭和31年6月26日決定

「元来未成熟の子に対する養育費は、その子を監護、教育してゆくのに必要とするものであるから、毎月その月分を支給するのが通常の在り方であつて、これを一回にまとめて支給したからといつてその間における扶養義務者の扶養義務が終局的に打切となるものでもなく、また遠い将来にわたる養育費を現在において予測計算することも甚だしく困難であるから、余程の事情がない限りこれを、一度に支払うことを命ずべきでない。」

 

 なお、【長崎家裁昭和55年1月24日審判】は、①養育費の義務者が外国人であり、時期は未定だが将来母国に帰国する予定であること、②子どもが自分の子であることは認めているが、自分が子どもを引き取らない限りは子どもを自分の戸籍に入籍させるを拒否している、といった事情から、相手方が将来にわたって養育料の定期的給付義務の履行を期待し得る蓋然性は乏しいと指摘し、このような場合には一括払いを認める特段の事情があるとして一括での支払いを命じています。

 

 そのため、これに近いようなケース、例えば義務者が子どもとの親子関係を争い、裁判所で親子関係が認められた後も認めずに養育費の支払いを拒否しているような場合などであれば、養育費の履行を期待しうる蓋然税は乏しいとして例外的に一括払いが命じられる可能性はあるのではないかと考えます。

 

 もっとも、ここでお話ししたことは、あくまで審判や判決など裁判所が支払いを命じる場合ですので、当事者双方が合意すれば養育費を一括で支払ってもらうことは問題なく可能です。

 

養育費の一括払いを合意するときの金額はどうやって決める?

 

 合意によって養育費を一括払いする場合、次の問題は、いくらを支払ってもらうかです。

 

 この点は当事者間で協議するほかありませんが、一応の方法として、合意時点における双方の収入と子どもの人数と年齢をもとに、いわゆる「簡易算定表」に当てはめ、これによって算出された月額に子どもが成長するまでの月数分を乗じるという方法が考えられます。

 

 なお、このような場合、本来であれば将来受け取るべき金額を前もって受け取ることになりますので、単純に【月額×支払月数】で計算するのではなく、将来受け取るべき分について中間利息を控除するなどして金額を減らすことを検討事項にすることもあります(先ほど紹介した長崎家裁の審判ではそのような計算をしています。)。

 

 もっとも、一括払いを検討する場合には、そのような減額計算をするかどうかも含めて当事者が話し合いによって決めるものであり、協議の結果合意に至った以上、中間利息の控除計算等をしないまま金額を決めたからといって、それがただちに不当であり合意が当然に無効になるとは言い切れませんので、支払う側は注意が必要と思われます。

 

 中間利息を控除する計算等をした場合、支払総額で考えると、毎月定期金で受け取った場合に比べて受け取れる金額がその分少なくなりますが、他方で養育費が途中で支払われなくなるリスクを避けられますので、一括払いの合意をするときに減額の有無が問題になったときは、総額を重視するか(→定期金払い)、不払いリスクを重視するか(→一括払い)によってとるべき結論が変わることになります(そのほかにも、贈与税が課されるかどうかの事前検討も必要です)。

 

 いずれにしても、養育費の合意をするときは、そのような支払方法の問題のほか、そもそもの金額の妥当性や支払いの終期なども問題となることがありますので、協議が難航しそうなときや実際に難航したときは専門家へのご相談をお勧めします。

 

 弁護士 平本丈之亮

 

親権者が再婚し、子どもが再婚相手と養子縁組した場合、養育費の支払義務はいつからなくなるのか?

 

 離婚後に親権者(養育費の権利者)が再婚し、子どもを再婚相手と養子縁組させた場合、事情の変更にあたり義務者の養育費の支払義務がなくなったり減額されたりすることがあります。

 

 では、そのような事情変更が生じた場合、養育費の減免はいったいいつから生じるのでしょうか?

 

考え方は大きく分けると3つあるが、決め手はない

 この点については、大きく分けると①免除の請求をした時点、②養子縁組をした時点、③変更の審判の時点、の3つの考え方があります。

 

 もっとも、いつの時点から養育費の減免を認めるかは、裁判所が当事者間に生じた諸事情、調整すべき利害、公平を総合考慮して、事案に応じて、その合理的な裁量によって定めることができるとされていますので(東京高裁平成30年3月19日決定)、具体的な判断も以下のように分かれています。

 

東京高裁平成30年3月19日決定

①養子縁組によって再婚相手が子どもの扶養を引き受けたとの事情の変更は、養子縁組という専ら権利者側に生じた事由であること

 

②養育費を定めたときに基礎とした事情から養育費支払義務の有無に大きな影響を及ぼす変更があったことは権利者にとって一見して明らかといえ、権利者において、養子縁組以降は養育費の支払を受けられない事態を想定することは十分可能であったこと

 

③他方、義務者は、養子縁組の事実を知らなかった時期までは養育費減額の調停や審判の申立てをすることは現実的には不可能であったから、養子縁組の日から養子縁組を知った日までの養育費の支払義務を負わせることはそもそも相当ではないこと

 

④また、それ以後の期間についても、権利者は、養子縁組によって再婚相手が子どもの扶養を引き受けたことを認識していたことに照らすと、義務者が減額の調停や審判を申し立てなかったとしても、義務者の養育費支払義務が変更事由発生時に遡って消失することを制限すべき程に不当であるとはいえない。

 

→養子縁組した時点に遡って養育費の支払義務がなくなったとした。

 

東京高裁令和2年3月4日決定

①義務者は調停申立ての前月まで養育費を支払っており、支払済みの毎月の養育費は合計720万円に上る上、権利者は子どもの留学に伴う授業料も支払っているため、このような状況の下で既に支払われ費消された過去の養育費につきその法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは、義務者に不測の損害を被らせるものであること

 

②義務者は、権利者の再婚後間もなく、権利者から再婚した旨と養子縁組を行うつもりであるとの報告を受けており、これにより義務者は、以後、子どもに養子縁組がされる可能性があることを認識できたといえ、自ら調査することにより養子縁組の有無を確認することが可能な状況にあったこと

 

③②のように、義務者は権利者の再婚や子どもの養子縁組の可能性を認識しながら、養子縁組につき調査、確認をし、より早期に養育費支払義務の免除を求める調停や審判の申立てを行うことなく720万円にも上る養育費を支払い続けたわけであるから、むしろ義務者は、養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、実際に調停を申し立てるまでは子どもらの福祉の充実の観点から養育費を支払い続けたものと評価することも可能であること

 

→調停申立時から支払義務がないとした。

 

東京高裁平成28年12月6日決定

・養育費額を変更すべき客観的な事情が発生し、当事者の一方がその変更を求めたにもかかわらず、他方がこれを承諾しない限り養育費額が変更されないというのは合理的ということはできないから、家事審判事件において養育費額を変更すべき事情があると判断される場合、養育費の増額請求または減額請求を行う者がその相手に対してその旨の意思を表明した時から養育費額を変更するのが相当である

 

→養子縁組を知り、養育費の支払いを打ち切った時点から支払義務がなくなったとした。

 

まとめ

 このように、養子縁組をしたことによっていつから支払義務がなくなるかはケースバイケースですが、上記のとおり具体的に請求した時点から減免を認める裁判例がありますので、養子縁組をしたことを理由に減免を請求したいのであれば、養子縁組の事実を知ったあと早期に手続に着手することをお勧めします。

 

 他方、養子縁組した側についても、今回紹介した裁判例では過去の受領分を遡って返還することが否定されたものがあるものの、そもそもどの時点から支払義務がなくなるかは裁判所の判断次第であり、場合によって過去分の返還が必要になる可能性もありますので、養子縁組をした際にはきちんと元配偶者に伝えた方が無難です。

 

弁護士 平本丈之亮

夫婦の共有名義の不動産について共有物分割請求することの可否

 

 結婚して自宅を購入するときに、夫婦どちらかの単独名義にせず、共有名義にすることがあります。

 

 そのような共有不動産は、離婚の際には財産分与の問題として解決されることが多いと思いますが、そのような方法ではなく、離婚前に一方の当事者が「共有物分割請求」をし、自宅の売却や持分の買い取りを求めるケースがあります。

 

 今回は、そのような共有物分割請求が果たして認められるのか、ということをテーマにお話しします。

 

法律上、禁止する規定はないが、権利濫用として認められないことがある

 民法上、共有物については、共有状態を解消するために共有物分割請求をすることが認められており、夫婦の共有名義の不動産であることを理由として共有物分割請求を禁止する規定はありません。

 

 しかしながら、以下の高裁判決が判示するように、夫婦の共有名義の不動産に関する共有物分割請求は権利の濫用として認められないことがあります。

 

大阪高裁平成17年6月9日判決

「民法二五六条の規定する共有物分割請求権は、各共有者に目的物を自由に支配させ、その経済的効用を十分に発揮させるため、近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能にするものであり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、十分尊重に値する財産上の権利である(最高裁判所大法廷昭和六二年四月二二日判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)。
 しかし、各共有者の分割の自由を貫徹させることが当該共有関係の目的、性質等に照らして著しく不合理であり、分割請求権の行使が権利の濫用に当たると認めるべき場合があることはいうまでもない。」

 

東京高裁平成26年8月21日判決

「民法258条に基づく共有者の他の共有者に対する共有物分割権の行使が権利の濫用に当たるか否かは、当該共有関係の目的、性質、当該共有者間の身分関係及び権利義務関係等を考察した上、共有物分割権の行使が実現されることによって行使者が受ける利益と行使される者が受ける不利益等の客観的事情のほか、共有物分割を求める者の意図とこれを拒む者の意図等の主観的事情をも考慮して判断するのが相当であり(最高裁判所平成7年3月28日第三小法廷判決・裁判集民事174号903頁参照)、これらの諸事情を総合考慮して、その共有物分割権の行使の実現が著しく不合理であり、行使される者にとって甚だ酷であると認められる場合には権利濫用として許されないと解するのが相当である。」

 

どのような事情があれば権利の濫用になるのか?

 では、具体的にどのような事情があれば共有物分割請求が権利の濫用になるのか、という点ですが、東京高裁の枠組みによれば、最終的には「共有物分割権の行使の実現が著しく不合理であり、行使される者にとって甚だ酷であると認められる場合」には権利濫用になることになります。

 

 そして、そのような場合に当たるかどうかは、①分割請求している側が得る利益、②分割請求された側が共有物分割によって被る不利益、といった客観的事情と、③分割請求する側の目的・意図、④請求を拒む側の意図、といった主観的事情を考慮して判断することになります。

 

 以下では、この点が問題になった過去の裁判例において裁判所が指摘した事情と結論についてご紹介したいと思います(すべての事情を網羅できていない可能性もありますが、その点はご容赦ください)。

 

大阪高裁平成17年6月9日判決(権利濫用)

①夫が病気になり、余命を考慮して負債を整理するために共有物分割請求をしたという事情があるが、どうしても不動産を早期に売却しなければならない理由は認められないこと

 

②建物には60歳を超える妻が精神疾患の子どもと同居しており、共有物分割請求が認められた場合には経済的に苦境に陥ることになること

 

③夫が妻と子どもを置き去りにするような形で別居し、病気のために減少傾向があるとはいえ、いまだ相当額の収入があるにもかかわらず婚姻費用の分担もほとんどせず、婚姻費用の調停が成立した後もわずか月3万円の支払いしかしていないこと

 

→夫からの請求を権利濫用にあたるとして棄却

 

東京高裁平成26年8月21日判決(権利濫用)

①夫が建物から転居して別居を開始し、妻を相手方とする離婚調停手続と平行して共有物分割請求と建物の明渡しの請求をするに至ったが、妻はこれによる心痛によって精神疾患に罹患して現在通院せざるを得ない負担を負っていること

 

②妻は、過重労働をしながら子らと3人で建物に居住することによって、ようやく現在の家計を維持している状況にあること

 

③夫は妻との間で、子らが27歳に達するまで妻が無償で建物に居住することを合意していたこと

 

④既に成立した婚姻費用分担調停における調停条項において、妻が建物に無償で居住することを前提として夫が支払う婚姻費用分担額が定められ、夫が建物の住宅ローン及び水道光熱費等を引き続き負担することを確認する合意がされていること(おそらく、妻の居住利益分を何らかの形で差し引く内容だったことが窺われます)

 

⑤夫による共有物分割請求と建物の明渡しの請求は③④の各合意と相反し、これを覆すものであること

 

⑥妻との離婚協議が整わないまま夫の共有分割請求と明渡しの請求が実現され、妻が子らとともに退去を余儀なくされるとすれば、妻子らの生活環境を根本から覆し、現在の家計の維持が困難となること

 

⑦他方、夫は現在もその生活状況に格段の支障はなく、共有物分割請求を実現しないと生活が困窮することは認めることができないこと

 

⑧夫は有責配偶者であること

 

→夫からの請求を権利濫用として棄却

 

東京地裁平成27年7月2日判決(権利濫用ではない)

①共有物分割請求をした妻は現在無職であり、17万円程度の賃料収入がある一方で、建物にかかる税金等の費用として年間約100万円をすべて負担していること

 

②敷地は妻が所有し、建物の持分は妻が5分の4を保有し、夫の持分5分の1も実質的には妻の父親が負担したものであること

 

③妻は夫に対して離婚訴訟を提起し、離婚事由も皆無とはいえないこと(夫は不貞行為を否定しているが、特定の女性と車で一泊するような関係について合理的な説明をしておらず、仕事を頼んでいる女性といいつつ腕を組んでいるような写真があること)

 

④夫には近隣には家族が居住しており、一時的にではあっても家族の元に居住することは可能であると考えられること

 

⑤夫が経営する会社は共有建物を事務所としているが、必ずしも事務所としてその建物が必要不可欠とまではいえず、事務所を移転したとしても直ちに信頼が失われたりするわけではないこと

 

→妻からの共有物分割請求は権利濫用に当たらないとして請求認容

 

東京地裁平成29年12月6日判決(権利濫用)

①不動産の処理が財産分与手続に委ねられた場合には、現在の居住状況や不動産の取得に関する当事者の意向等に照らして妻が単独取得することとなる可能性があること

 

②他方、これを共有物分割手続で処理したときは、資力に乏しいと思われる妻が単独取得する余地はなく、共有物分割手続は妻による不動産の単独取得の可能性を奪うこととなり、実家に近くその建物を家族生活の本拠としていた妻にとって酷な結果となること

 

③他方、夫は共有状態を続けることにより借入金の分割払を余儀なくされ、公租公課も負担し続ければならない経済的不利益を受けることがあるが、少なくとも妻から別件の離婚訴訟を提起される前の時点では、妻が夫の住宅ローン債務を負担することを条件に妻が単独取得することを自ら提案し、妻もこれを承諾していたこと

 

④③からすると、夫の被る経済的不利益も、妻による債務引受又は履行引受によって容易に回避し得る程度のものにとどまること

 

⑤別件の離婚訴訟における財産分与手続に相応の期間を要することを考慮しても、その間に生ずる夫の経済的不利益は事後的に金銭的な調整がされることとなるから、不動産のみの帰すうを先に決するために共有物分割手続によるべき必要性は必ずしも高いとはいえないこと

 

⑥むしろ、本件不動産の帰すうを財産分与手続に委ねた方が、夫婦共有財産の清算のみならず、過去の婚姻費用や離婚後の扶養のための給付も含めて分与額・方法を定めることができ、妻のみならず夫にとっても、夫婦間の権利義務関係を総合的に解決し得るという意味では利点があること

 

⑦妻には不貞という有責性が認められるが、夫にも暴力等の有責性が認められる可能性があり、婚姻関係が破綻した原因は夫婦双方にあったと評価される余地があることから、妻からの別件の離婚訴訟で離婚が認められ、財産分与手続が進む可能性があること

 

→夫の請求は権利濫用として棄却

 

東京地裁平成30年2月14日判決(権利濫用ではない)

 妻(原告)から夫(被告)に対する共有物分割請求について、「原告と被告との婚姻関係が既に破綻しているとの離婚訴訟の第一審判決がされていること」を理由に共有物分割請求は権利濫用ではないとして請求を認容(ただし、他の争点に関する判断において、夫との関係が原因で妻がうつ病に罹患したことが認定されており、そのような事情が判断に影響している可能性がある)。

 

 過去の裁判例をみていくと、請求された側が生活の本拠を失うケースであったりそもそもの経済的基盤が弱いケースでは権利濫用として共有物分割請求が認められていませんが、請求された側が生活の本拠を失う可能性がある場合でも、被請求者側に有責性があったり請求者側の負担が重い場合には認められるなど、裁判所は幅広い事情を考慮していることがわかります。

 

 このように、夫婦共有財産の共有物分割請求が認められるかどうかはケースバイケースであり結果の見通しをつけにくい特徴がありますので、事案によっては無理をせずに財産分与の段階で解決するのが良い場合もあり得ます(先行する共有物分割請求が権利濫用として排斥された場合、その裁判で認定された事実が離婚手続で不利益に働く可能性もあります)。

 

 いずれにせよ、夫婦共有不動産に対する共有物分割請求については、離婚や財産分与との関係も絡み複雑な問題ですので、この点が問題になる場合には弁護士への相談や依頼をご検討いただければと思います。

 

 

弁護士 平本丈之亮

 

2021年5月29日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

別居中の自宅退去の要求は認められるのか?

 

 夫婦関係が悪化して別居するパターンの一つとして、家の持ち主の方が出ていき、他方配偶者がそのまま自宅に残るケースがあります。

 

 このような形で別居が始まった場合、その後に離婚協議がスムーズに進めば良いのですが、そうならずに関係がさらに悪くなり、家を出た持主側が他方の配偶者に対して建物の明け渡しや使用利益の請求をすることがあります。

 

 今回は、このような請求が果たして認められるのかがテーマです。

 

離婚前の請求は認められない可能性がある

 本来、建物の所有者は誰を住まわせるかについて自由に決めることができますので、夫婦の片方が自分の家に住み続けている場合には明け渡しの請求が認められそうです。

 

 しかし、理由は様々ですが、過去の事例では離婚前の段階で夫婦の一方から他方に対する明渡請求が否定されている裁判例がありますので、まずは否定例をいくつか紹介し、その後、肯定例についても紹介したいと思います。

 

否定例

 

東京地裁平成30年7月13日判決

「夫婦は同居して互いに協力扶助する義務を負うものであるから(民法752条)、夫婦が夫婦共同生活の場所を定めた場合において,その場所が夫婦の一方の所有する建物であるときは、他方は、その行使が権利の濫用に該当するような特段の事情がない限り、同建物に居住する権原を有すると解するべきである。したがって、夫婦の一方である甲が所有する建物に、同建物に対する共有持分権や使用借権等の使用収益する権利を有しない夫婦の他方である乙が居住する場合であっても、乙が同建物に居住することが権利の濫用に該当するような特段の事情のない限り、乙は、甲乙の婚姻関係が解消されない限り上記の夫婦間の扶助義務に基づいて同建物に居住する権原が認められるというべきである(甲乙の婚姻関係が円満である限りにおいて乙が同建物に居住できるといった反射的利益を享受するというものではない。)。」

 

→配偶者の一方が居住することについて権利濫用に該当するような特段の事情はないとして、他方配偶者からの建物明渡請求と居住期間中の賃料相当損害金請求をいずれも棄却。

 

※このケースは建物が配偶者とその父の共有であり、配偶者だけでなくその父も請求していましたが、裁判所は最高裁昭和63年5月20日判決を引用し、「共有者の一部の者から共有者の協議に基づかないで共有物を占有使用することを承認された第三者は、現にする占有がこれを承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度で共有物を占有使用する権原を有するので、第三者の占有使用を承認しなかった共有者は上記第三者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできないと解するのが相当である」と述べ、本件では例外的に明け渡しを認めるべき特段の事情もないとして配偶者の父からの請求も退けています。

 

東京地裁平成25年2月28日判決

原告は、不貞及び悪意の遺棄をした有責配偶者であり、婚姻中の被告との同居期間が約21年であるのに対し、別居期間は約3年5か月間にすぎず、被告との間には子がなく、【原告の交際相手】との間に【原告と交際相手の間の認知済みの子】(今年19歳)がいることを考慮しても、原告が被告に対して現時点において裁判上の離婚請求をすることは信義則上許されないというべきである。
 そうすると、原告の被告に対する本訴明渡請求は、有責配偶者である夫が同居義務及び協力・扶助義務を負う妻に対して、婚姻中長きにわたって同居してきた本件建物を一方的に明け渡すよう請求するものであって、・・・原告の主張する事情を踏まえても,権利濫用として許されないものと解すべきである」。

 

→有責配偶者からの所有権に基づく建物明渡請求と居住期間中の賃料相当損害金請求を権利濫用として排斥。

 

※その他にも原告は、原告被告間には黙示の使用貸借契約が成立しており、原告がそれを解約したとして、予備的に使用貸借の解約も請求の根拠としていました。しかし、裁判所は「婚姻関係ないし被告の居住に関する問題が解決するまで、又は、これらの問題が解決するのに必要な相当な期間が経過するまで、特段の事情がない限り使用貸借契約を一方的に解約することはできない」として、本件では婚姻関係ないし被告の居住に関する問題が解決したわけでもなければ解決に必要な相当な期間が経過したともいえない、婚姻関係が完全に破綻して使用貸借契約の基礎となった信頼関係が失われたものともいえない、とし、その他、解約を正当化する特段の事情もないとして、こちらの主張も排斥しました。

 

東京地裁昭和62年2月24日判決

「夫婦が明示又は黙示に夫婦共同生活の場所を定めた場合において、その場所が夫婦の一方の所有する家屋であるときは、他方は、少なくとも夫婦の間においては、明示又は黙示の合意によつて右家屋を夫婦共同生活の場所とすることを廃止する等の特段の事由のない限り、右家屋に居住する権限を有すると解すべき」

 

→退去を求めた側は、相手は十分すぎる額の婚姻費用を得ているし婚姻関係も破綻しているとして明け渡しを主張したが、裁判所はそれらは特段の事情にはあたらないとして請求を棄却。

 

肯定例

 

東京地裁平成3年3月6日判決

「原告と被告とは平成元年一一月一三日以降別居状態にあることからしてその間の婚姻生活は既に破綻状態にあるものと認められ、今後の円満な婚姻生活を期待することはできないものといわざるを得ず、しかも、右に認定した事実によれば右婚姻生活を破綻状態に導いた原因ないし責任は専ら被告にあることが明らかというべきである。
 以上の認定判断に徴すれば、本訴において被告が本件建物についての居住権を主張することは権利の濫用に該当し到底許されないものといわなければならない。」

 

→婚姻関係が破綻状態にあることに加え、その破綻の原因が居住している側にある(収入を家に入れない、賭け事、暴力、男女関係など)として、居住権の主張は権利濫用と判断。

 

 

 以上のとおり、過去の裁判例では別居中の配偶者からの明け渡しの求めを否定している例がある一方で、居住者側に大きな有責性がある場合には明け渡しが認められている例もあります。

 

 今回紹介したような裁判例を前提にすると、居住者側に大きな問題があるケース(典型的にはDVなど)では明け渡しが認められるものの、別居に至った原因が請求者側にあることが明白な場合や、そこまでいかずとも居住者側に明確な落ち度がないケースだと別居中の退去要求は認められない可能性がありそうです。

 

 最終的には別居に至った原因や双方の有責性など諸般の事情を考慮して判断するという話になりそうですが、少なくとも所有者だから当然に退去させられるはずという単純な話ではないことは確かですので、この点が紛争となった場合には弁護士への相談をご検討いただければと思います。 

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

2021年5月26日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

婚姻費用の金額は明確に取り決めをした方が良いというお話

 

 夫婦関係が悪化して別居をする場合などに、夫婦の一方から相手に対して、当面の生活費として婚姻費用の支払いを請求することがあります。

 

 婚姻費用については、いわゆる簡易算定表によって双方の収入や家族構成に応じたある程度相場がありますので、きちんとした手順を踏めば多くの場合請求できますが、別居の時点で明確な取り決めをしないと、調停の申立などをするまでの間、婚姻費用を支払ってもらえないことがあります。

 

 また、一応、夫婦間で話し合ったものの、内容をきちんと詰めずに口頭だけで済ませてしまった場合、相手が自発的に支払わないと後になって合意の成立が否定されてしまうことがあり得ます。

 

東京地裁令和2年11月5日判決

 例えば、過去に夫が妻に一定額の支払いをしていたことを根拠に婚姻費用についての約束があったとして、民事裁判で不払い期間の分や将来の分の支払いを求めたケースにおいて、東京地裁令和2年11月5日判決は「婚姻費用の分担額について,夫婦の協議または家庭裁判所の調停・審判により支払義務が具体的に確定していない場合,不適法な訴えとして却下すべきものと解するのが相当である。」と述べた上で、本件では「夫婦の資産、収入などを踏まえて具体的に婚姻費用分担金の金額について真摯な協議をしていた事情を認めることはできない。被告が上記支払をしていたのは、原告や原告の両親との円満な生活のために、単に支払うことができる金額の支払をしていただけにすぎないともいえる。」として婚姻費用の合意を否定し、民事裁判での支払請求を却下しました。

 

 このケースにおいて、もしも毎月の婚姻費用についてきちんと書面で取り交わしをしていたのであれば、当事者間で合意が成立していたとして支払請求が認められた可能性があります。

 

 このように、当事者間での合意内容が口頭だけにとどまっていると、不払いが発生した場合に結局は調停等の手続から始めなければならなくなり、手続の着手が遅れれば遅れるほど、最終的に支払ってもらえる額が少なくなる可能性があります。

 

 口頭での合意であっても相手が自発的に支払ってくれるのであれば特に問題はありませんが、今回裁判例をご紹介したとおり、ひとたび不払いが生じた場合は裁判では回収できない場合がありますし、だからといって改めて調停を申し立てても、それまでの期間の分は回収できなかったり、調停等で従前の合意金額が維持されるとは限りません(このことは離婚後の養育費でも同じと思われます)。

 

 したがって、当事者間で婚姻費用について取り決めをするときには、きちんと書面で明確にしておくのが無難です。

 

弁護士 平本丈之亮