養育費の減額請求についてのお話

 離婚の際や離婚後に養育費について取り決めをしても、その後の事情の変更によって養育費の減額や免除を求められたり、逆に求めたりするケースがあります。

 今回は、このような申し出があった場合の対応や、申出をする場合の注意点などについてお話しします。

 

<一度取り決めた養育費もあとで変わる可能性がある>

 養育費の支払期間は通常長期間であるため、一度養育費の額を決めても、その後の身分関係や経済状況の変化によって養育費の金額が変わることがあり(民法766条3項)、典型的な例だと、支払義務者の大幅な収入減少(経済状況の変化)や、権利者の再婚相手と子どもの養子縁組(身分関係の変化)などがあります。

 

<養育費を減額(免除)してもらうための手続は?>

 このように、養育費については、当初の取り決めが実体に合わなくなった場合に、事後的に金額が変更されることが予定されていますが、養育費の減額や免除を求める場合、まずは当事者間で協議が行われることが多いと思われます。

 しかし、当事者間で金額の変更について折り合いがつかなかった場合には、金額の変更を求める側が家事調停を起こし、調停がまとまらなければ、最終的には審判手続によって裁判所が決めるという流れを辿ることが通常です。

 

<金額はいつから変更されるのか?>

 この点については、最終的には裁判所の合理的・裁量的判断によって決められますが、調停や審判を申し立てたときを原則としつつ、内容証明郵便などで金額変更の意思を相手方に明確に示した場合には、その時点まで金額変更の効果が遡るという考え方が有力ではないかと思います。

 たとえば、東京高裁平成28年12月6日決定では、義務者が別件の面会交流審判事件において、子どもの養子縁組を理由として養育費の支払義務が消滅したことを主張し、実際に支払いを打ち切ったあとに養育費免除の調停を申し立てたというケースで、支払い打ち切りの時点で金額を0とする意思が明確になったとしてその時点から養育費の支払義務がなくなったとし、養育費免除の調停の申し立てよりも前の段階で金額変更の効果が生じることを認めています。

 

<養育費の減額(免除)を求められた場合の対応>

 先ほどの高裁決定の考え方からすると、養育費の減額や免除を求められた場合、権利者側としては慎重な対応が必要となります。

 たとえば、減額ないし免除の申し出について納得がいかないとして拒否し、義務者がやむなく従前の金額を払っていた場合、その後に調停や審判を起こされると、事案によっては、過去に受領していた養育費をまとめて返還しなければならなくなる可能性があります。

 したがって、このような申し出があった場合には、義務者が減額や免除を求めている理由やその根拠について詳しく聞き取り、必要に応じて弁護士に相談するなどして、以前と同じ金額をそのまま受け取って良いかどうかを検討する必要があります。

 特に、再婚して子どもと再婚相手が養子縁組した場合には、子どもの扶養義務は第一次的には再婚相手が負担し、実親である義務者の扶養義務は二次的なものにとどまると考えられていますので(→「親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑧・養子縁組した場合~」)、注意を要します。

 

<養育費の減額(免除)を求める側の注意点>

 他方、養育費の減免を求める側も、一方的に減額するような対応にはリスクがあります。

 裁判所で最終的に養育費の減額が認められなかった場合には、未払分があるとして後でまとめて請求される危険があるからです。

 先ほどの高裁決定のように一方的に打ち切ったとしても責任を負わずに済むケースもあり得るところですが、本当に支払義務が減ったりなくなるのか、減額されたりなくなるとしてどの時点から支払義務が変わるのかという判断は諸般の事情から裁判所が判断するものであり、必ずしも予想通りになるとは限りません。

 そのため、減額や免除を求める側としては、可能であれば従前の支払いを継続しながら協議を行い、権利者側が応じない場合には速やかに調停を起こすなどの対応がリスクが少ないと思われますし、迷った場合にはやはり弁護士に相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

婚姻費用の払い過ぎと財産分与の関係~離婚⑫~

 離婚の際の財産分与において時として問題となるのが、離婚前に支払われた婚姻費用の清算です。

 具体的には、いわゆる標準算定方式(簡易算定表のもとになった計算方式)で計算された標準的な婚姻費用と、実際に支払われていた婚姻費用に差があった場合に、その差額について、財産分与として支払われるべき額から差し引くべきだ、という主張がされる場合があります。

 では、果たしてそのような主張が通るのか?というのが今回のテーマです。

 

<支払った婚姻費用が相場より高くても、原則として財産分与では考慮されない>

 この点については高裁レベルでの裁判例があり、たとえ相場より高い婚姻費用を払っていたとしても、基本的には財産分与でその差額分を差し引くことはできない、とされています。

 

 すなわち、大阪高裁平成21年9月4日決定は、「当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて婚姻費用分担をしている場合に、その額が当事者双方の収入や生活状況にかんがみて,著しく相当性を欠くような場合であれば格別、そうでない場合には、当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて送金した額が、審判をする際の基準として有用ないわゆる標準的算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下)に基づいて算定した額を上回るからといって、超過分を財産分与の前渡しとして評価することは相当ではない。」と判断しています。

 

 要するに、一旦支払った婚姻費用について、後になって実は払い過ぎだったから差額は財産分与の前渡しであり、その分を財産分与から差し引きたいという主張をしても、その差額が「著しく相当性を欠く場合」でない限り、そのような主張は認められないということです。

 この決定は理由についてあまり明確に述べていませんが、離婚を前提としない扶養義務・夫婦扶助義務の履行である婚姻費用の支払いを、離婚を前提とした財産関係の清算が主である財産分与の前渡しと評価することは通常困難と思われますし、標準算定方式が社会一般に広く浸透している以上、支払いをする側としては最初から相場を意識した金額で交渉することも十分可能であり、それにもかかわらず自発的にあるいは合意に基づいて相場を超える金額を支払ってきたのに、後から遡ってそれを否定することは信義に反するのではないか、また、このような処理を認めると婚姻費用を受け取った側に不意打ちになるのではないか、といった価値判断が働いているのかなと推測しています。

 

 もっとも、過去の婚姻費用の支払状況は財産分与の額や方法を決める際の事情の一つになるとはされていますので、相場を超えた婚姻費用の支払いがあったという事実が絶対に考慮されないということではなく、この決定も述べているとおり、「著しく相当性を欠く場合」であれば、差額の全部あるいは一部が財産分与から差し引かれる可能性はあります。

 しかしながら、この決定が単に過大である(=相当性を欠く)というだけでは足りず、あえて「著しく」と厳しく限定していることからすると、このような事情が考慮されるのは、非常に極端で稀なケースが想定されているように思われます。

 

 したがって、婚姻費用を支払う側としては、後々の財産分与の場面ではこのような事情があっても考慮されない可能性が高いということを念頭に置いて、金額を決める際、あらかじめ相場に近い支払額に落ち着くよう粘り強く交渉することが現実的な対策となります。

 

弁護士 平本丈之亮

成人年齢の引き下げと養育費への影響~離婚⑪~

 先日、成人年齢を18歳に引き下げる法律が成立し、2022年4月から施行されることが決まりました。

 この改正により、それまでは未成年者として保護されていた18歳、19歳の若年者について消費者被害の増加を懸念する声などが上げられていますが、今回は、成人年齢の引き下げによって養育費の支払時期に何らかの影響があるのか、という点についてお話したいと思います。

 

<改正法の成立前に既に養育費の合意をしていた場合>

 養育費の支払期限は基本的に当事者の自由な合意で決めることができますが、成人すなわち20歳までとする例が比較的多かったと思われます。

 その場合の具体的な決め方については、「20歳まで」という表現のほか、「成人するまで」「成年に達するまで」という表現の場合もあります。

 合意の際、「20歳まで」という明確な表現をしていた場合は問題は起きませんが、たとえ「成人するまで」という表現をしていたとしても、この先、法律で成人年齢が18歳に引き下げられたからといって、連動して養育費が18歳で打ち切られるということはありません。

 当事者が合意した時点では【成人年齢=20歳】であった以上、当事者は養育費の支払いを20歳までとする前提だったことが明らかだからです。

 もっとも、非親権者(義務者)から18歳で打ち切りたいという申し入れがあり、親権者(権利者)がこれに応じた場合、そのように変更する合意そのものは有効ですから、親権者側は不用意に変更に合意してしまわないよう注意が必要です。

 

<改正法の施行後に合意する場合>

 このケースでは、【成人=18歳】ということを前提に合意するわけですから、「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をした場合、養育費の支払いは18歳までで終わりという判断にならざるを得ないと思います。

 そのため、20歳まで支払ってもらいたいということであれば、合意する際、明確に「20歳まで」などの表現にしておく必要があります。

 

【相手方から、18歳までとするべきだと言われたら?】

 養育費というのは、子どもが未成熟子(=自己の資産又は労力で生活できる能力のない者)である限り負担するべきものです。

 法律上、18歳が成人として扱われるようになったからといって、世の中の全ての18歳が突然、経済的に自立するわけはなく、その子どもが未成熟子かどうかは、結局のところ、その子どもを取り巻く家庭環境や本人の能力、健康状態、将来の志望などによって変わってくるところですから、成人年齢が18歳になったからといって当然に養育費の支払いが18歳で終わりになることはありません。

 したがって、「成人年齢が18歳になったのだから養育費も当然に18歳になるはずだ。」と言われても、そのようなことはないと反論することは可能です。

 

 この点については、参議院の附帯決議において、「成年年齢と養育費負担終期は連動せず未成熟である限り養育費分担義務があることを確認する」と明確に決議されており、法務省のHPでも、「成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について」という記事の中で、「成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。」と述べられています。

 

<今から改正法の施行までの間に合意する場合>

 このようなケースで「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をすると、20歳を前提としているのか、それとも18歳を前提としているのか不明確ですから、後々トラブルになる可能性があります。

 調停や審判など裁判所で、あるいは弁護士が関与して養育費が決まる場合には、当然、そこに目配りをしますから、「20歳まで」のように明確な書き方をして、18歳までか20歳までかというところで問題が起きることは考えにくいと思います。

 これに対して、当事者間の協議で決める場合には、今後も「成人するまで」のような曖昧な決め方をしてしまうことがあり得ますので、そのような決め方はせず明確な表現にすることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

非親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑩~

 前回までのコラムでは、親権者(=権利者)が再婚した場合における養育費への影響についてお話ししました。

 子どものいる夫婦が離婚後に再婚するケースとしては、大きくわけて以下の4パターンがありますが、今回は、子どもを引き取らなかった側(非親権者=義務者)が再婚した場合と養育費への影響について、③と④のケースをまとめて取り上げます。

 また、最後に、これと似たようなケースとして、義務者と再婚相手との間で子どもが生まれた場合についても取り上げます。

 

①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合

(←前々回のコラム

②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合

(←前回のコラム

③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合

(または、再婚相手との間で子どもが生まれた場合)

④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合

 

 

<再婚+養子縁組→養育費減免の可能性あり>

  子どもを引き取らなかった側(非親権者=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合、義務者は、①前の配偶者との間の子どものほかに、新たに②再婚相手、③養子、を扶養する義務を負います。

 このように、義務者が再婚して連れ子と養子縁組した場合には、義務者は扶養しなければならない人数が増えるため、前のパートナーとの間で取り決めた養育費が減額される可能性があります。

 

 ただし、一旦取り決めた養育費の減免が認められるには、取り決めをした当時、義務者が予想できなかった事情の変更があった場合に限られるとされていますので、たとえば、離婚の当時すでに再婚相手と交際していたとか、離婚後、短期間のうちに再婚相手と交際を開始して再婚したようなケースだと、そもそも再婚と養子縁組は義務者の予想の範囲内であったとして養育費の減免が認められないことがありますので、その点には注意が必要です。 

 

 

<再婚のみ→養育費に影響なし>

 これに対して、義務者が再婚したものの再婚相手の連れ子と養子縁組しなかった場合には、原則として、前のパートナーとの間の子どもの養育費に影響はありません。

 このようなケースでは、義務者は法的に連れ子を扶養する義務を負わないからです。

 

 

<再婚+養子縁組→養育費はどの程度影響を受けるか?>

 では、義務者が再婚して養子縁組したことが、前のパートナーとの間の子どもの養育費を減免する理由になると認められたとして、果たしてどれくらいの影響があるのでしょうか?

 この点は再婚相手にどの程度の収入があるかによって異なりますが、ここから先は具体例をもとに実際に計算してみて、どのような変化が生じうるのかを説明していきたいと思います(計算式は簡易算定表のもとになった標準算定方式を用います)。

 

【設例】

A 権利者:元妻 

  年間総収入:250万円(給与)

B 義務者:元夫

  年間総収入:500万円(給与)

C 権利者と義務者との間の子ども

  1名(10歳)

D 再婚相手

E 再婚相手の連れ子

  1名(15歳)

 

 

【再婚する前のCの養育費】

 まず、BがDと再婚する前のCに対する養育費については、標準算定方式では以下のような式で算出します。

 

Cへの養育費(年額)

 =義務者の基礎収入

 ×Cの生活費指数

 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数)

 ×Bの基礎収入

 ÷(Bの基礎収入×Aの基礎収入)

 

<基礎収入>

 総収入から税金や職業費、住居費、医療費等を除いたもの。

 実務上は総収入に一定の「基礎収入割合」(%)をかけて計算する。

 250万円の給与所得者であれば概ね39%、250万円だと概ね38%

 のため、AとBの基礎収入はそれぞれ以下の通りとなる。

 

 A 250万円×39%=97万5000円

 B 500万円×38%=190万円

 

<生活費指数>

 両親の間で子どもの養育費を按分計算する際に用いる指数で、生活保護基準

 や教育費に関する統計から以下の通り導き出される。

 

 義務者(B):100 

 15歳未満の子(C):55

 15歳以上の子(E):90

 

 

 上記の式をもとに計算すると、BのCに対する養育費は以下の通りです。

 

 190万円

 ×55÷(100+55)

 ×190万円

 ÷(190万円+97.5万円)

 =44万5554円

 (月額3万7129円) 

 

 

【再婚相手が無収入の場合】

 これに対して、義務者BがDと再婚して連れ子Eと養子縁組したが、再婚相手Dが無収入だった場合には、Bは、再婚と養子縁組によって新たにDとEを扶養する義務を負うことになるため、Cの元々の養育費から、DとEの生活費に振り分ける分を差し引くことになります。

 具体的には、このようなケースでは、Cの養育費について以下のような計算式によって修正を図ります。

 

Cへの養育費(年額)

 =Bの基礎収入

 ×Cの生活費指数

 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数

    Dの生活費指数+Eの生活費指数

 ×Bの基礎収入

 ÷(Bの基礎収入×Aの基礎収入)

 

<生活費指数>

 義務者(B):100

 15歳未満の子(C):55

 15歳以上の子(E):90

 再婚相手(D):55

 

 なお、再計算にあたって使用するDの生活費指数は55としますが、これは、通常、成人の生活費指数は100として計算するところ、再婚相手は義務者と同居していて住居費がかからず、教育費も発生しないためです。

 

 上記の式をもとに計算すると、再婚と養子縁組後のCに対する養育費は以下の通りです。

 

 190万円×55

 ÷(100+55+55+90

 ×190万円

 ÷(190万円+97.5万円)

 =230,202円

 (月額1万9183円) 

 

 

【無収入でも収入がある場合と同視される場合もある(潜在的稼働能力)】

 なお、再婚相手Dが無収入であっても、働くことに支障がない(連れ子Eが大きいなど)場合には無収入として扱うのではなく、稼働能力を考慮して、収入がある場合と同視して計算されることがあります。

 

 

【再婚相手に十分な収入がある場合】

1.再婚相手Dの生活費は考慮しなくて良い

 次に、Dが自分の生活費を賄うだけの十分な収入を得ている場合(あるいは収入があると同視できる場合)には、BがDを扶養する必要はありませんので、Cの養育費を計算するにあたってDの生活費は考慮しません(=Dの生活費指数は加算しない)。

 

2.養子Eの生活費は考慮するが、制限される可能性あり

 また、このような場合には、Dに十分な収入がある以上、Eの生活費については養親となったBと実親のDがそれぞれ負担をするべきであるという理由から、Eの生活費指数について、Dが無収入のケースよりも減らすべきである、という考え方があります。

 他方で、Dに収入があったとしてもEの生活費指数を修正する必要まではないという考え方もあるようです。

 このように、この点は議論があるところですが、非常に細かい話ですので、ここでは、Dに十分な収入があることはEの生活費指数を減らす方向で考慮する、という考え方をもとに計算例を示します(具体的には、Eの生活費指数90を養親の収入と実親の収入で按分し、90から実親の収入に対応する指数分を差し引きます)。

 

【設例】

A 権利者:元妻

  年間総収入:250万円(給与)

B 義務者:元夫

  年間総収入:500万円(給与)

C 権利者と義務者との間の子ども

  1名(10歳)

D 再婚相手

  年間総収入:500万円(給与)

E 再婚相手の連れ子

  1名(15歳)

 

Cへの養育費(年額)

 =Bの基礎収入

 ×Cの生活費指数

 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数

           +Eの生活費指数

 ×Bの基礎収入

 ÷(Bの基礎収入×Aの基礎収入)

 

<生活費指数>

 義務者(B):100

 15歳未満の子(C):55

 15歳以上の子(E):45→※

 再婚相手(D):0 

  ∵Dは自分の収入で生活できる

 

<Eの生活費指数の修正>・・・※

 義務者Bと再婚相手Dそれぞれの収入で養子Eの生活費割合を按分し、

 元の指数からDが負担すべき部分を差し引く

 

 Eの生活費指数

 -Eの生活費指数

   ×{Bの収入÷(Bの収入+Dの収入)}

 =90

  -90×{500万円

   ÷(500万円+500万円)}

 =45  

 

 190万円

 ×55÷(100+55+45

 ×190万円

 ÷(190万円+97.5万円)

 =345,304円

 (月額2万8775円

 

 

[再婚相手に収入はあるが不十分な場合]

 このケースでは、Cの養育費を考えるにあたって、Eの生活費指数を加算するとともに、Dの生活費指数も加算します。

 ただし、不十分とはいえ、一応、Dにも収入があるため、Dの収入を計算に反映させる必要があります。

 Dの収入をどのような形で反映するかは考え方が分かれているようですが、ここでは分かりやすい計算方法として、Dの基礎収入をBの基礎収入に合算して計算する方法をもとに、計算例を示します。

 なお、Dに収入があるとすると、先ほど述べた場合と同じように、Eの生活費指数も減らす必要があるではないかが一応問題になりそうですが、結局のところDは自分の生活費を賄うだけの収入を得ておらず、Eの生活費を負担できる状態ではないのですから、収入が不十分な場合にはEの生活費指数まで修正する必要はありません。

 

A 権利者:元妻

  年間総収入:250万円(給与)

B 義務者:元夫

  年間総収入:500万円(給与)

C 権利者と義務者との間の子ども

  1名(10歳)

D 再婚相手

  年間総収入:50万円(給与)

E 再婚相手の連れ子

  1名(15歳)

 

Cへの養育費(年額)

 =(Bの基礎収入+Dの基礎収入

 ×Cの生活費指数

 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数

  Dの生活費指数+Eの生活費指数

 ×Bの基礎収入

 ÷(Bの基礎収入×Aの基礎収入)

 

<基礎収入>

 A 250万円×39%=97万5000円

 B 500万円×38%=190万円

 D 50万円×42%=21万円

 

<生活費指数>

 義務者(B):100

 15歳未満の子(C):55

 15歳以上の子(E):90

 再婚相手(D):55

 

(190万円+21万円

 ×55

 ÷(100+55+55+90)

 ×190万円

 ÷(190万円+97.5万円)

 =255,646円

 (月額2万1303円) 

 

 

<再婚相手との間に子どもが生まれた場合も同じ>

 以上述べてきたところは、義務者が再婚相手の連れ子と養子縁組した場合ですが、義務者と再婚相手との間で子どもが生まれた場合も、養子縁組した場合と同じような計算で修正を図ることになります。

 

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑨・養子縁組しない場合~

 前回のコラムで、離婚後に再婚した場合と養育費の関係について、親権者が再婚し、かつ、子どもと再婚相手が養子縁組をした場合についてお話ししました。

 再婚した場合には、大きくわけて以下の4パターンがありますが、今回はこのうち②のパターンで、子どもを引き取らなかった側(非親権者)の養育費支払義務への影響について取り上げます。

 

①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合(←前回のコラム

②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合

③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合

④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合

 

<再婚+養子縁組なし→非親権者は減免されないのが原則>

 子どもを引き取った親権者(権利者)が再婚したが、子どもと再婚相手が養子縁組していない場合、法的には、再婚相手はその子どもに対する扶養義務はありません。

 そのため、養子縁組した場合と異なり、非親権者の養育費支払義務が減免されることはないのが原則です。

 

<再婚相手から多額の生活費を受け取っている→減免もありうる>

 もっとも、形式的には養子縁組をしていなくても、事実上、再婚相手が自分の収入で連れ子を扶養しているというのは一般的な話ですし、特に再婚相手が裕福で、その収入だけで十分に子どもを養育できるような場合には、非親権者に当初取り決めたままの養育費の支払義務を負わせ続けるのは酷と思われる場合もあります。

 そのため、このような場合には、親権者が再婚相手から受け取っている生活費相当額を親権者の収入と見なして、その年額と非親権者の収入とを基にして計算し、その結果、当初定めた養育費が減額される場合がある、という考え方もあります。

 

 例えば、離婚時に15歳未満の子どもが1人いて、親権者の妻は無収入、非親権者の夫は450万円の収入があった場合、簡易算定表によれば養育費は概ね4~6万円になりますが、その後、親権者が再婚し、再婚相手から生活費として月に30万円をもらって15歳未満の子どもを養育している場合、上記の考え方を採用すると親権者の収入は360万円となり、非親権者の収入が変わらず450万円だったとすれば、簡易算定表によると養育費は概ね2~4万円になります。

 

<実家の両親からの援助は?→収入にあたらない>

 ちなみに、これと似たようなケースで、実家の両親からの援助を親権者の収入とみなすべきかどうかという論点がありますが、これは否定されることが一般的です。

 この点は、親権者が再婚した場合、再婚相手は配偶者(=親権者)に対して生活保持義務(=自分と同じ程度の生活をさせる義務)を負うのと異なり、両親は親権者に対して、それよりも下の生活扶助義務(=自分に余裕がある場合に援助する義務)を負うにとどまるにすぎないため、と説明することが可能です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑧・養子縁組した場合~

 これまでのコラムでは、養育費の決め方について問題となるいくつかのケースについてご説明しました。

 しかし、一旦養育費の取り決めをしても、離婚後の生活状況の変化によっては、当初定めた養育費の金額を変更するべきではないかが問題となるケースもあります。

 そこで今回は、離婚後に生活状況に変化が生じた場合のうち、再婚と養育費の関係についてご説明したいと思います。

 なお、再婚するケースには、

 

①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合

②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合

③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合

④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合

 

の4パターンがありますが、本コラムでは①のパターンについて説明し、その他のパターンについては別のコラムでお話する予定です。

 

<権利者の再婚+養子縁組→減免の可能性>

 子どもを引き取った親権者(権利者)が再婚し、自分の子どもと再婚相手が養子縁組をした場合、新たに養親となった者は、その子どもの実親である非親権者に優先して子どもを養育する義務を負うと考えられています。

 したがって、子どもが自分の再婚相手と養子縁組をし、養親世帯に十分な経済力がある場合、離婚の際に取り決めた養育費の免除が認められる可能性があります。

 

 もっとも、子どもと再婚相手が養子縁組をしたからといって、非親権者の扶養義務そのものがなくなるわけではありませんので(二次的な義務に格下げになるだけです。)、養親世帯に十分な経済的能力がない場合、実親である非親権者に養育費の支払義務が一部残る可能性があります。

 具体的にどのような場合に非親権者の養育費支払義務が残るかは様々な考え方があるようですが、最近の裁判例をみると、生活保護法の保護基準をもとに計算した子どもの最低生活費を一応の目安としつつ、そのほかの諸般の事情も加味して実親の負担の有無や範囲を判断しているものがあります(福岡高裁平成29年9月20日決定)。

 


<福岡高裁平成29年9月20日決定>

「両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は第一次的には親権者及び養親となったその再婚相手が負うべきものであるから、かかる事情は、非親権者が親権者に対して支払うべき子の養育費を見直すべき事情に当たり、親権者及びその再婚相手(以下「養親ら」という。)の資力が十分でなく、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないときは、第二次的に非親権者は親権者に対して、その不足分を補う養育費を支払う義務を負うものと解すべきである。そして、何をもって十分に扶養義務を履行することができないとするかは、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきである。」


 

 この福岡高裁の決定では、子どもと再婚相手が養子縁組をした場合に非親権者の養育費支払義務が残るかどうか、残るとしてどれくらいの額になるかについて、概ね以下のような枠組みで判断しています。

 

①生活保護基準を基に養親世帯の最低生活費(のうち、生活扶助費)を計算する

 

②養親世帯の基礎収入(※1)を計算する

   

③①と②を比較

 →①>②=養親世帯だけでは十分に養育できない状態

 →非親権者は月に【A+B】÷12の額を負担するべき

 

【A:①-②の額(=不足額)のうち、子どもの養育に必要な金額】(※2)

 ∵不足額には対象の子ども以外の者の生活費が含まれているため除く必要

 

【B:子どもの教育費】

 

 なお、この決定では、非親権者は、生活保護制度では支給対象になっていない学校外活動費を含む統計上の教育費(文部科学省「子どもの学習費調査」)も負担すべきと判断しています。

 もっとも、この点は、非親権者の学歴・収入・職業(医師)や子どもとの関わり合い方(実親が定期的に面会交流をしていること)からすると、非親権者は、子どもに人並みの学校外活動ができる程度の生活を送ってほしいと願っているはずである、ということを根拠にしており、その事案独自の事情が影響しています。

 したがって、教育費を加算する部分については、非親権者の学歴・収入・職業や子どもとの関わり合い方といった事情次第では結論が変わってくる可能性があります。 

 

 福岡高裁の決定も一つの考え方にすぎませんので他の裁判所でも同じ枠組みで判断されるとは限りませんが、今回ご説明したとおり、養親世帯が最低生活費を下回るような収入しか得ていないようなケースでは非親権者の養育費支払義務が残る可能性がありますので、注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 


※1 世帯総収入×基礎収入割合(給与所得者では収入に応じて34~42%)

※2 福岡高裁は以下の式で計算していますが、詳細は割愛します。

 

  (①-②)×(生活扶助費の第一類費(注)のうち、対象となる子の金額)

       ÷(養親世帯全体の第一類費の合計額) 

 

注:「第1類費」

  飲食物費や被服費など個人単位に消費する生活費の基準。年齢別に設定されている。

 

財産分与の対象になるもの、ならないもの・保険~離婚⑦・財産分与その3~

 前回のコラム(→「財産分与の対象になるもの、ならないもの・預貯金~離婚⑥・財産分与その2~」)では、預貯金が財産分与の対象になるかどうかについてご説明しました。

 今回は、保険契約についてのお話です。

 

<掛け捨て保険→対象にならない>

 まず、解約してもお金が返ってこない掛け捨て保険については、そもそも資産性がないため基本的には財産分与の対象にはなりません。

 

【別居前に保険金が発生している場合→内容次第では対象となる可能性あり】

 もっとも、掛け捨て保険であっても、別居時点で既に保険金を請求する権利が発生している場合には財産分与の対象になる可能性があります

 過去に裁判所で問題となった事案では、以下のように交通事故に関する損害保険金が財産分与の対象かどうかが争われたものがあります。

 

・大阪地裁昭和62年11月16日判決

 自賠責保険金に相当する部分

 →○対象

 

・大阪高裁平成17年6月9日決定

①傷害慰謝料・後遺障害慰謝料に対応する部分 

→×対象外

②逸失利益(※)に対応する部分

→○対象(症状固定から離婚調停成立日までの部分のみ)

 

※「逸失利益」=後遺障害によって労働能力の全部ないし一部が失われた場合に、事故がなければ将来得られるはずだった収入を補償するもの

 

 自賠責保険では慰謝料も支払いの対象であるため、大阪地裁判決の方が財産分与の対象を広く認めているようですが、個人的には被害者の精神的苦痛に対する慰謝料を夫婦で築き上げた財産と考えることには無理があり、大阪高裁の決定の方に説得力を感じます。

 なお、上記裁判例は、交通事故の相手方が加入していた保険から支払われた保険金が財産分与の対象となるかが争われた事案であり、夫婦のどちらかが加入していた保険について判断したものではありません。

 もっとも、最近では自動車保険の特約として人身傷害補償保険に加入しているケースが非常に多く、この保険では逸失利益も一定限度で支払いの対象となりますので、夫婦の一方が別居する前に事故に遭い、自分の自動車保険に付いていたこの特約を利用して保険金の支払いを受けた場合には、上記裁判例に照らして逸失利益の一部が財産分与の対象となる可能性もあるとのではないかと考えます(私見)。

 

<解約返戻金のある保険>

 以上に対して、解約返戻金が発生するタイプの保険契約(生命保険・学資保険など)については、夫婦の寄与があるとみられる限り財産分与の対象となります。

 このようなタイプの保険については、通常、別居時に解約した場合に返還される解約返戻金の試算書をとり、その金額を財産分与の対象とします。

 

【結婚前から加入している保険の取り扱いは?→結婚までの分を差し引く】

 では、結婚前から保険に加入し、その後、離婚するまで保険を継続していた場合、財産分与の場面ではどのように取り扱われるでしょうか。

 結婚前から加入していた保険の場合、夫婦が築き上げた部分(夫婦共有財産)とそうでない部分(特有財産)が混在していますが、そもそも財産分与は夫婦が築き上げた財産を清算することが目的ですので、このようなケースでは結婚前までの部分を取り除くことが必要です。

 

 具体的には、別居時点での解約返戻金から、結婚時点での解約返戻金を差し引く方法がシンプルなやり方ですが、実際には結婚時点での解約返戻金が分からない場合もあります。

 そのような場合、①別居時点の解約返戻金から、結婚までに払い込んだ保険料額を差し引く方法や、②【別居時点の解約返戻金】×【結婚から別居までの期間】÷【保険加入期間】という計算式によって分与対象額を計算する方法などがあり、どのような計算方法を採るかは事案毎に裁判所が判断することになります。

 

【特有財産を原資として保険に加入した場合は?→対象外だが立証が必要】

 相続や親族からの贈与などで得たお金(=特有財産)を使って保険料を支払った場合、解約返戻金の元になった保険料の原資が共有財産ではない以上、財産分与の対象にはならないと思われます。

 ただし、このような保険を財産分与の対象から外すためには、保険料の原資が特有財産であることの立証が必要であるため、お金の流れに関する客観的な証拠が残っているかによって判断が分かれることになります。

 

 

<番外編:契約者や受取人の変更をする約束をした場合>

 保険については、離婚の際に保険契約者や受取人を変更することがあります(学資保険など解約するより契約を続けた方が有利なケースなど)。

 では、離婚時にそのような変更の約束をしたにも関わらず、契約の名義人や受取人の変更をせず、元の契約者が解約返戻金を受け取ったり保険金を受領してしまった場合、どうなるでしょうか。

 このような場合、離婚協議書などに変更を約束したことが明確に書いてあれば、約束を破ったことを理由に損害賠償請求を行うことが考えられますが、口約束だけで約束した事実を立証できない場合、相手に責任を追及することは困難となる場合があります。

 したがって、離婚の際に保険契約の名義や受取人の変更をする予定がある場合は、そのような約束があったことをきちんと証明できるよう、協議書などでその点を明確に記載しておくことが必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2018年8月24日 | カテゴリー : 離婚 | 投稿者 : kwkm-@dm1n