養子縁組していない再婚相手の収入の一部を権利者の収入に加算し、養育費の減額を認めたケース

 

 離婚後、子どもを引き取った側(権利者)が再婚したものの再婚相手と養子縁組はさせなかった場合、再婚相手は子どもに対する扶養義務を負っていないため、義務者は養育費の支払義務を免れないことが一般的です。

 

 しかし、再婚相手が裕福で実際上も子どもを養育しているにもかかわらず、形式として養子縁組をしていないというだけで義務者の負担を軽減できないとすることは事案によっては義務者に酷な場合もあります。

 

 そこで、このような場合、再婚相手の収入を権利者本人の収入とみなして養育費の減額を認める余地はないのが問題になることがありますが、今回はこのような考え方を採用した裁判例を紹介します。

 

 

宇都宮家裁令和4年5月13日審判

【事案の概要】

権利者が離婚後、医師と再婚して子どもをもうけたが、前婚時の子ども(連れ子)とは養子縁組しないまま4人で生活している状況で、権利者から養育費の減額請求がなされた。

 

【裁判所の判断の概要】

①本件において、権利者が再婚して連れ子が再婚相手の養子に準ずる状態にあることは養育費の合意時に前提とされておらず、これによって合意の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至ったといえるから、再婚相手と子が養子縁組に準ずる状態であることは養育費の変更を認めるべき事情の変更にあたる。

 

②再婚相手の基礎収入のうち、仮に連れ子に対して扶養義務を負うとした場合のその子への生活費を計算し、これを権利者の収入に加算して養育費を算定。

 

 養育費の減額が認められるには合意当時予測できなかった事情の変更があり、当初の合意の内容が実情に適合せず相当性を欠くに到ったことが必要とされていますが、上記裁判例では権利者が裕福な者と再婚して自身の子どもが事実上の養子として養育される状況にあるという事態は事情の変更にあたると認めています。

 

 その上で、本件では再婚相手の基礎収入のうち、事実上の養子に振り分けられるべき生活費の部分を権利者自身の収入に合算(上乗せ)することにより養育費の減額を認める、という判断を下しています。

 

 このケースは再婚相手が経済的に余裕があると思われる医師であったことや、減額を求められた権利者側が再婚相手の確定申告書等の収入資料を開示しなかったという特殊な事情があり(裁判所は再婚相手の職業や権利者の態度等から再婚相手の事業収入を算定表上の上限額である1567万円はあるはずと事実認定。)、再婚したが養子縁組していないというケースすべてに妥当するかは何とも言えないところですが、同種事案があった場合には参考になるものと思われるため紹介した次第です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

 

婚姻費用の計算において、暗号資産の売却等で得た額と取得額との差額は収入にあたらないと判断されたケース

 

 婚姻費用についてはお互いの収入や子どもの人数・年齢などをもとに算定する標準算定方式が浸透していますが、一口に収入といってもどこまでのものを収入に含めるかは必ずしも明確でないこともあり、実際に取り決めをする際にはお互いの収入額がいくらかを巡って争いになることがあります。

 

 婚姻費用の計算に含めるべきかどうかという点について比較的問題になりやすいのは、結婚前から保有していたり相続した不動産からの賃料収入や株式配当金などですが、今回は義務者が保有していた暗号資産の売却等をしていたことが問題となった裁判例を紹介します。

 

福岡高裁令和5年2月6日決定

 

 このケースは、婚姻費用の支払義務者が暗号資産を売却したり他の暗号資産に変換したところ、売却等によって得た額と取得原価との差額は婚姻費用の計算において収入とみるべきであると権利者が主張したものです。

 

 しかし、この権利者の主張に対し、裁判所は以下のような理由を述べて本件では売却等と取得原価との差額は収入としては扱わないと判断しました。

 

 

①義務者が暗号資産の売却又は他の暗号資産への変換により継続的に収益を得ていたとは認められないこと

 

②売却等は実質的夫婦共有財産の保有形態を他の暗号資産や現金に変更するものにすぎないこと

 

 

 本裁判例の論理からすると、暗号資産の処分によって継続的に収入を得ていたと評価できるときはそれを婚姻費用の計算において収入と扱える余地がありそうです(①)。

 

 他方、夫婦共有財産である暗号資産を単に現金化したり他の暗号資産に変換したにすぎない場合はダメという点(②)ですが、このケースでは暗号資産以外にも義務者が加入している従業員持株会からの配当金の取り扱いが問題となり、裁判所はそれがさらなる自社株購入の原資とされていて生活費の原資にはなっていなかったことから収入にあたらないと判断しているため、実際に婚姻生活の原資として使用されていたことを必要とする趣旨ではないかと思われます。

 

 特定の高裁での事例判断であるため他の裁判所でも同じ結論になるとは限りませんが、婚姻生活の原資として実際に使用されていた場合に限って収入としてみるという考え方は類似のケースでもみられるところであり(特有財産からの配当金や不動産所得に関する大阪高裁平成30年7月12日決定、賃料収入に関する東京高裁昭和57年7月26日決定)、同種事例では参考になりそうですのでご紹介した次第です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

同居したことがない夫婦の一方からの婚姻費用請求は認められるのか?

 

 婚姻費用を請求する典型的なケースは元々同居していた夫婦が別居した場合ですが、入籍はしたものの同居する前に関係が悪化し、そもそも一度も同居したことがないというケースでも婚姻費用を請求できるのでしょうか。

 

 一度も同居したことがないまま関係が悪化したケースは早期に離婚が成立し婚姻費用が問題になることは少ないようにも思われますが、中には当事者の一方が離婚を拒み別居状態が長期化する場合も想定されますので、そのような場合には婚姻費用の支払いを巡って紛争となることもあり得るところです。

 

 この点については、婚姻費用の請求者が相手方との同居を拒否したというケースにおいて、以下のように婚姻費用の請求が可能と判断した高裁の裁判例と否定した裁判例(原審)がありますので、今回はそれらを紹介したいと思います。

 

東京高裁令和4年10月13日決定

 裁判所は、以下のような理由を述べ、たとえ同居することがないまま婚姻関係が破綻していると評価される事実状態に到ったとしても、夫婦間の扶助義務はなくならない(=婚姻費用の請求はできる)と判断しています。

 

①当事者双方が互いに連絡を密に取りながら披露宴や同居生活に向けた準備を進め勤務先の関係者にも結婚する旨を報告して祝福を受けるなどしつつ、週末婚あるいは新婚旅行と称して毎週末ごとに必ず生活を共にしており、婚姻関係の実態がおよそ存在しなかったということはできず婚姻関係を形成する意思がなかったということもできないこと。

 

②婚姻費用分担義務は婚姻という法律関係から生じるものであり、夫婦の同居や協力関係の存在という事実状態から生じるものではないこと。

 

 もっとも、この裁判例でも、婚姻関係の破綻について専ら又は主として責任がある配偶者が婚姻費用の分担を求めることは信義則違反となり、その責任の程度に応じて婚姻費用の請求が認められなかったり減額される場合はある、として一定の例外を認めています。・・・※

 

※結論としては本件の請求者にそのような事情があることを認めるに足る的確な資料はないとして、調停を申し立てた月からの支払いを命じています。

 

 

横浜家裁令和4年6月17日審判(原審)

 一方、上記高裁決定の原審では、以下のような点を述べて逆の結論を導いていました。

 

【要旨】

①請求者である申立人の同居拒否の理由が相手方の支配欲や夫婦観・人生観が基本的に相容れないことにあって、2人が十分な交流を踏まえていればそもそも入籍しなかったものと推認でき、婚姻は余りに尚早であり夫婦共同生活を想定すること自体が現実的ではない。

→通常の夫婦同居生活開始後の事案のような生活保持義務を認めるべき事情はない。

 

②申立人は高い学歴と資格を有し働く意欲も高いため潜在的な稼働能力が同年代の平均的な労働者に比べて劣るとは考えにくく、婚姻前と同様に自己の生活費を稼ぐことは可能。

→具体的な扶養の必要性は認められない。

 

→却下

 

 以上のように本件では原審と高裁で判断が分かれていますが、実務上、婚姻関係が破綻した別居の夫婦の間でも婚姻費用の支払義務が認められる傾向にあることも踏まえると、たとえ一度も同居したことがなかったとしても支払いを命じられる可能性は無視できませんので、実際のケースでは破綻原因が請求者の側にあるという証明がどこまで可能かも検討した上で慎重に対応する必要があると思われます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

一人株主が自分の経営する会社の利益を内部留保した場合、養育費の計算でその利益は収入とみなされるか?

 

 養育費の計算において役員報酬は給与収入と同視して扱われますが、一口に会社役員といっても立場は様々であり、ある程度規模の大きい会社の取締役の一人に過ぎない場合もあれば、小規模な会社の唯一の株主(=一人株主)兼代表者といったケースもあります。

 

 小規模な会社の代表者のようなケースでは、その年の業績によって役員報酬が大きく変動していたり、養育費を少なくするためあえて役員報酬を減額したことが疑われるケースもあるため、そのようなときは複数年の役員報酬の平均値を参考にしたり統計(賃金センサス)を利用して収入を認定するという方法をとることがありますが、それに似たような問題として、経営者がいわゆる一人株主であり会社経営によって生じた利益を会社に貯めている場合に(内部留保)、その利益を養育費の計算において株主である本人の収入として扱うことができるかが争われることがあります。

 

 要するにこれは、個人である一人株主兼役員と、本来は別の権利義務主体である会社(法人)とを一体視することができるのかという問題ですが、今回はこの点について判断した近時の裁判例(東京高裁令和4年5月24日決定)を紹介します。

 

東京高裁令和4年5月24日決定

 

 上記裁判例は、「一人会社であっても、法人格が形骸化し又は濫用されている場合でない限り、人格の異なる会社の内部留保を株主が自由に使用できるわけではないから、直ちに株主個人の収入と同視することはできない。」と判断しており、基本的には会社に内部留保された利益を株主の収入と同視することはできないとしつつも、法人格が形骸化又は濫用されている場合には例外的に会社の内部留保を株主本人の収入と同視することができるとしています。

 

 もっとも、このケースの結論としては、裁判所は、①会社には複数の取締役と40名以上の従業員がいること(=形骸化を否定する方向の事情)、②近い時期の決算期において資産と負債を比較した場合にマイナスとなっており、会社の中核事業について新型コロナウイルス感染症の感染拡大により経営が悪化した同業者もあることから内部留保を最大化させて早期の債務圧縮を目指すことは会社存続のための一つの合理的な経営判断といえる(=濫用を否定する方向の事情)と指摘し、本件では法人格を否認して内部留保を個人の収入と同視すべき事情はないと判断しています。

 

 上記裁判例は、いわゆる「法人格否認の法理」と呼ばれる理論を養育費の算定の場面において適用したものであり、この裁判例の判断枠組みを前提とすると、法人格が形骸化していたり(法人格はあるが、経営実態は個人事業であるケース)、一人株主が法人格を濫用している場合(会社経営を支配できる立場にあることを背景に、会社への内部留保が違法または不正な目的のために行われたケース)でなければ、会社の内部留保を株主本人の収入と扱うことはできないということになります。

 

 法人格が形骸化しているかどうか、あるいは法人格が濫用されているかどうかは結局のところ具体的な事実関係次第というほかはありませんが、たとえば、法人とは名ばかりで実際には業務・資産・会計が混同しており、株主総会や取締役会など会社の事業運営上の手続も無視しているようなケースであったり、会社の経営状況が好調で多額の内部留保をしておく必要がないのに、離婚問題が持ち上がってから突然多額の内部留保を積み上げはじめ、その代わり(他の役員がいる場合には他の役員の報酬はそのままにしながら自分だけ)役員報酬を減らしているようなケースであれば、会社が内部留保した直近の利益を個人の収入とみなして養育費の算定をしてもらえる可能性があると思われます。

 

 会社の内部留保を収入と同視できる場合、その額によっては養育費が大きく変わる可能性もありますので、当事者のいずれかが一人会社の株主である場合にはそのような例外的な事情がないか注意する必要があると思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

協議離婚で公正証書を作るまでの流れ

 

 離婚手続には協議・調停・裁判の3つの方法がありますが、このうち当事者間での協議により離婚する協議離婚が早期解決に適しています。

 

 他方、協議離婚で何らかの取り決めをしても、口頭で約束したケースでは「そんな約束はなかった」、当事者間で協議書を作ったケースでも「無理矢理書かされた」などと合意の成立が争われることがあったり、相手が約束を破ったときに合意内容を実現することができず別の手続をしなければならないといったトラブルが起きることがあります。

 

 そのため、協議離婚をする際に後日のトラブルへの備えとして公正証書を作成する方法がとられることがありますが、今回は公正証書を作るまでの流れについてお話しします。

 

公正証書作成までの流れ

 

STEP1 当事者間での協議

公正証書を作成する場合、前提として夫婦間で協議を行い、離婚条件や協議書を公正証書の形で作成することについて合意しておく必要があります。

 

離婚協議には、当事者同士で協議する方法のほか、双方が弁護士に依頼する方法、どちらか片方だけが弁護士に依頼する方法がありますが、どのような方法によるべきかは事案によって異なります。

 

協議の内容も多岐にわたりますが、一般的な協議事項としては、離婚届の提出者、親権者、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割といったものがあり、ケースによってそれ以外の事項についても適宜協議を行うことになります。

 

協議をする時点で具体的な文言まですべて決めておく必要まではありませんが、お金の問題については合意内容をできる限り細かく決めておくと後々手続がスムーズに進みます。

 

たとえば養育費であれば、支払開始時期、支払終了時期、一人あたりの毎月の金額、支払日(毎月25日など)といった事項を協議し、財産分与や慰謝料であれば、支払総額、支払方法(一括か分割か)、支払日、分割払いのときは回数、各回の支払金額・支払期間・各回の支払日・支払いを怠ったときの一括払いその他のペナルティなどについて協議します。

 

また、後々の追加請求を防ぐため、通常、協議書に定めた事項以外にはお互いに請求しない旨の条項(清算条項)を入れることも協議します。

STEP2 事前打ち合わせ

当事者間で合意が得られ、ある程度内容が固まった時点で公証人役場に連絡します。

 

公証人役場に連絡を入れるのはどちらからでもかまいませんが、通常は公正証書の作成を希望する側がやりとりをすることが多いと思います。

 

日本公証人連合会のホームページには最寄りの公証人役場の所在地・電話番号・連絡用メールアドレスが記載されていますので、そちらを通じて連絡し、公正証書の作成を希望していることを伝えます。

 

公証人役場に連絡を入れると、その後は適宜の方法によって合意内容の確認をされますが、事前の協議で合意した内容が法律的にみて不明確・不十分なときは、必要に応じ夫婦間で再協議をしながら公証人役場とのやりとりを進めていくことになります。

 

内容が十分に固まっていない状態で公証人役場とやりとりしても次のステップには進めず、夫婦間で何度も協議をし直さなければならなくこともありますから、事前に内容を十分詰めておくことがポイントです。

 

先ほど述べたとおり、特にお金のやりとりについては支払条件に関する取り決めが不十分になりがちですので注意が必要です。

 

また、公証人役場からは、作成したい公正証書の内容に応じて必要書類等の準備の指示と写しの事前提出を求められますが、年金分割をするときに必要となる「年金分割のための情報通知書」は取得するのにある程度時間がかかりますので、公証人役場に問い合わせをする段階で取得しておくのがお勧めです。

 

代理人が出頭して公正証書を作成する場合は本人確認資料に加えて委任状や代理人の本人確認資料が必要となるため、公証人役場には早めに代理人による作成を希望していることを伝え、それを踏まえて資料の準備を進めます。

 

公証人役場との事前協議が終わると、公証人が合意内容を公正証書案という形にまとめますので、今度はこれを双方で確認します。

STEP3 日程調整等

公正証書の文案が確定すると作成費用も決まり、その後、公証人役場に行く日を当事者間で決めて公証人役場との間でも日程を調整します。

 

公正証書の作成費用をどちらが負担するかは特に決まりはないため、単純に折半したり、公正証書の作成を希望する側が負担する方法、収入に応じて案分負担するといった方法を適宜選択します。

 

なお、作成費用の負担に関する取り決めを公正証書に盛り込むことも可能ですが、文案が確定しないと作成費用も決まらないため、この場合は概算額を前提に負担額を合意してしまい、それを記載するか、あるいは金額はあえて明示せず単に折半するなどと記載することが考えられます。

STEP4 当日の出頭など

以上のような事前準備を整え、作成日当日には本人や代理人が公証人役場に出頭します。

 

当日の持参資料を忘れるとその日の作成ができなくなりますので、原本が必要かどうかも含め、当日の持参資料についてはきちんと確認をしておきます。

 

ちなみに、作成費用については、令和4年4月1日からクレジットカード( VISA・Master・JCB・Diners・AMEXの5種類のみ)による支払いも可能となりました。ただし、公正証書を送達するための料金についてはクレジットカード決済は使用できません。

 

作成日当日は公証人が本人確認を行ったうえで公正証書の内容を確認し、双方異論がなければ公正証書の原本に署名・押印して写しを受領し、公正証書の作成手続は終了となります(現金払いのときはこのときに作成費用を支払います)。公正証書の作成が終了したら、事前の取り決めに従い離婚届を役所に提出します。 

 

公正証書の作成が終了すると当事者双方は公正証書の写しを受領しますが、お金の支払いを受ける側(債権者)は、お金を支払う側(債務者)の支払いが滞ったときの強制執行の準備として、相手が公正証書を受け取ったことを証明する「送達証明書」の交付を申請しておくことがお勧めです。

 

ちなみに、債務者側が代理人を出頭させた場合、債務者の代理人にはその場で公正証書を渡す「交付送達」ができず、後日、債務者本人に公証人役場から郵送する手続が必要となりますので、送達証明書はその後に申請することになります。

 

本人が受け取る公正証書は写しのため印鑑は押してありませんが、署名・押印した原本は公証人役場で保存していますので、手元にある公正証書に押印がなくても問題はありません。

 

その他、年金分割を合意したときは別途年金機構等で年金分割の手続(標準報酬改定請求)をすることが必要なため、公正証書の記載事項のうち年金分割に必要な部分だけを抜粋した「抄録謄本」の申請もしておくとよいと思います。

 

 以上、離婚協議で公正証書をつくるときの一般的な流れや注意点についてご説明いたしました。

 

 公正証書は当事者同士で協議した結果をまとめるものですから必ずしも弁護士の関与が必須というわけではありませんが、ご自分で対応するのが難しい事情があるときは、相手との協議から公正証書の作成に至るまでの一連の流れについて弁護士に委任することもご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2023年1月20日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

夫に認知した子どもがいる場合の婚姻費用の計算方法

 

 子どものいる夫婦が別居するなどして離婚までの間の婚姻費用の取り決めをする際、いわゆる簡易算定表が広く用いられますが、婚姻費用を支払う側(義務者)に認知した子がいる場合、算定表をそのまま使うことはできません。

 

 そこで今回は、義務者に認知した子がいる場合の婚姻費用の計算についてお話しします。

 

義務者に認知した子がいる場合の婚姻費用の計算方法

 

 義務者に夫婦間の子以外にも認知した子がいる場合、義務者は認知した子に対しても扶養義務を負います。

 

 そのため、このようなケースで婚姻費用を計算する場合には、認知した子の人数や年齢などを考慮したうえで計算することになり、具体的な金額は以下のステップによって計算されます。

 

 このケースでの計算は複雑ですので、計算過程が分かりやすくなるよう、ここでは簡単な例を設定して解説します。

 

設例

【夫・義務者(A)】

 総収入600万円

 

【妻・権利者(B)】

 総収入100万円

 

【AB夫婦の子】

 8歳(C)と5歳(D)

 ・・・別居によりBが監護

 

【義務者が認知した子(E)】

 10歳

 

【Eの母親(F)】

 総収入250万円

 

計算方法

 

義務者の基礎収入の計算

通常の婚姻費用と同様、義務者の総収入に基礎収入割合を乗じ、義務者の基礎収入を計算します。

 

【計算式】

Aの総収入×基礎収入割合

 

※基礎収入割合は給与所得者かどうかや総収入の額によって異なります。

 

【Aの基礎収入】

600万円×41%=246万円

権利者の基礎収入の計算

次に、権利者である妻の基礎収入を計算します。

 

【計算式】

Bの総収入×基礎収入割合

 

【Bの基礎収入】

100万円×50%=50万円

認知した子の母の基礎収入の計算

次の計算で用いるため、ここで認知した子の母親(F)の基礎収入を計算します。

 

なお、今回は認知した子の母(F)の年収が分かるという前提であるため計算は容易ですが、実際にはFの収入がわからない場合もあります。

 

認知した子の母親の年収が不明な場合、母親の年齢や職業、学歴などをもとに統計上の資料(賃金センサス)を用いて推計することになります。

 

【計算式】

Fの総収入×基礎収入割合

 

【Fの基礎収入】

250万円×43%=107万5000円

夫婦間の子の生活費指数の計算

子の生活費指数は、15歳未満の場合62、15歳以上は85となりますので、今回の設例では以下のとおりとなります。

 

【生活費指数】

15歳未満:62

15歳以上:85

成人   :100

 

【C・Dの生活費指数】

C:62 

D:62 → 合計124

認知した子の生活費指数の計算

認知した子についても、基本的には15歳で生活費指数を区分します。

 

ただし、認知した子には、義務者(A)のほかにも養育者である母(F)がおり、Fも認知した子の養育費を負担すべきですから、認知した子の生活費指数は以下の計算式によって修正します。

 

【計算式】 

(62or85)×Aの基礎収入÷(Aの基礎収入+Fの基礎収入)

 

【Eの生活費指数】

62×246万円÷(246万円+107万5000円)≒43

権利者世帯に割り振られる生活費を計算

これまでの計算結果をもとに、権利者(B)と、Bが養育する子(C・D)に対する生活費(年額=Z)を計算します。

 

なお、義務者は、夫婦間の子のほか、認知した子に対しても扶養義務を負っているため、ここの計算において認知した子の(修正後の)生活費指数を考慮することになります。

 

【計算式】

B・C・Dに割り振られる生活費(Z)

=義務者(A)から割り振られる額(X)

+権利者(B)から割り振られる額(Y)

 

X=Aの基礎収入×B・C・Dの生活費指数÷(Aの生活費指数(=100)+Bの生活費数(=100)+C・Dの生活費指数+Eの生活費指数

 

Y=Bの基礎収入×B・C・Dの生活費指数÷(Aの生活費指数(=100)+Bの生活費数(=100)+C・Dの生活費指数)

 

※権利者であるBはAの認知した子(E)に対して扶養義務を負わないため、Yの計算ではEの生活費指数は考慮しません。

 

【B・C・Dに割り振られる生活費(Z)】

X=246万円×224÷(100+100+124+43)≒150万1471円

 

Y=50万円×224÷(100+100+124)≒34万5679円

 

Z=X+Y=184万7150円

義務者の負担額の計算

最後に、上の計算で算出された権利者世帯に割り振られる生活費(Z)のうち、義務者が負担すべき金額を計算します。

 

【計算式】

権利者世帯に割り振られる生活費(Z)-Bの基礎収入

 

【Aの負担額(年額)】

184万7150円-50万円=134万7150円

 

【Aの負担額(月額)】

11万2262円

 

認知した子に対する実際の支払額は考慮されるか?

 

 夫婦間の子以外に認知した子に養育費を支払っている場合、義務者からは、「算定表の婚姻費用から認知した子に支払っている養育費の金額をから差し引いてほしい」といった申出がなされることがあります。

 

 しかし、その取り決めは認知した子(の養育者)と義務者との間の問題であることから、権利者世帯に対する婚姻費用を計算する際には、算定表の額から認知した子に対する支払額を控除するといった方法ではなく、ここで紹介したような方法(認知した子に対する実際の支払いの額に関係なく計算する方法)で計算するという考え方が主流ではないかと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

夫に認知した子どもがいる場合の養育費の計算方法

 

 子どものいる夫婦が離婚に伴って養育費の取り決めをする際、いわゆる簡易算定表が広く用いられますが、養育費を支払う側(義務者)に認知した子がいる場合、算定表をそのまま使うことはできません。

 

 そこで今回は、義務者に認知した子がいる場合の養育費の計算についてお話しします。

 

義務者に認知した子がいる場合の養育費の計算方法

 

 義務者に夫婦間の子以外にも認知した子がいる場合、義務者は認知した子に対しても扶養義務を負います。

 

 そのため、このようなケースで夫婦間の子の養育費を計算する場合には、認知した子の人数や年齢などを考慮したうえで養育費を計算することになり、具体的な金額は以下のステップによって計算されます。

 

 このケースでの計算は複雑ですので、計算過程が分かりやすくなるよう、ここでは簡単な例を設定して解説します。

 

設例

【夫・義務者(A)】

 総収入600万円

 

【妻・権利者(B)】

 総収入100万円

 

【AB夫婦の子】

 8歳(C)と5歳(D)

 ・・・離婚によりBが監護

 

【義務者が認知した子(E)】

 10歳

 

【Eの母親(F)】

 総収入250万円

 

計算方法

 

義務者の基礎収入の計算

通常の養育費と同様、義務者の総収入に基礎収入割合を乗じ、義務者の基礎収入を計算します。

 

【計算式】

Aの総収入×基礎収入割合

 

※基礎収入割合は給与所得者かどうかや総収入の額によって異なります。

 

【Aの基礎収入】

600万円×41%=246万円

権利者の基礎収入の計算

次に、権利者である妻の基礎収入を計算します。

 

【計算式】

Bの総収入×基礎収入割合

 

【Bの基礎収入】

100万円×50%=50万円

認知した子の母の基礎収入の計算

次の計算で用いるため、ここで認知した子の母親(F)の基礎収入を計算します。

 

なお、今回は認知した子の母(F)の年収が分かるという前提であるため計算は容易ですが、実際にはFの収入がわからない場合もあります。

 

認知した子の母親の年収が不明な場合、母親の年齢や職業、学歴などをもとに統計上の資料(賃金センサス)を用いて推計することになります。

 

【計算式】

Fの総収入×基礎収入割合

 

【Fの基礎収入】

250万円×43%=107万5000円

夫婦間の子の生活費指数の計算

子の生活費指数は、15歳未満の場合62、15歳以上は85となりますので、今回の設例では以下のとおりとなります。

 

【生活費指数】

15歳未満:62

15歳以上:85

成人   :100

 

【C・Dの生活費指数】

C:62 

D:62 → 合計124

認知した子の生活費指数の計算

認知した子についても、基本的には15歳で生活費指数を区分します。

 

ただし、認知した子には、義務者(A)のほかにも養育者である母(F)がおり、Fも認知した子の養育費を負担すべきですから、認知した子の生活費指数は以下の計算式によって修正します。

 

【計算式】 

(62or85)×Aの基礎収入÷(Aの基礎収入+Fの基礎収入)

 

【Eの生活費指数】

62×246万円÷(246万円+107万5000円)≒43

夫婦間の子に割り振られる生活費を計算

これまでの計算結果をもとに、権利者が養育する子(C・D)に対する生活費(年額)を計算します。

 

なお、義務者は、夫婦間の子のほか、認知した子に対しても扶養義務を負っているため、ここの計算において認知した子の(修正後の)生活費指数を考慮することになります。

 

【計算式】

Aの基礎収入×C・Dの生活費指数÷(Aの生活費指数(=100)+C・Dの生活費指数+Eの生活費指数

 

【C・Dに割り振られる生活費】

246万円×124÷(100+124+43)≒114万2472円

義務者の負担額の計算

最後に、上の計算で算出された夫婦間の子に割り振られる生活費のうち、義務者が負担すべき金額を計算します。

 

【計算式】

C・Dに割り振られる生活費×Aの基礎収入÷(Aの基礎収入+Bの基礎収入)

 

【Aの負担額(年額)】

114万2472円×246万円÷(246万円+50万円)=94万9486円

 

【Aの負担額(月額)】

7万9123円

 

認知した子に対する実際の支払額は考慮されるか?

 

 夫婦間の子以外に認知した子にも養育費を支払っている場合、義務者からは、「算定表の金額から認知した子に支払っている養育費の金額を差し引いてほしい」といった申出がなされることがあります。

 

 しかし、その取り決めは認知した子(の養育者)と義務者との間の問題であることから、夫婦間の子の養育費を計算する際には、算定表の額から認知した子に対する支払額を控除するといった方法ではなく、ここで紹介したような方法(認知した子に対する実際の支払いの額に関係なく計算する方法)で計算するという考え方が主流ではないかと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

婚姻費用・養育費の計算において、年金はどう扱われるか?

 

 別居や離婚に伴って婚姻費用や養育費の取り決めをする際、当事者の一方が年金を受給していることがあります。

 

 婚姻費用や養育費を請求する際にはいわゆる標準算定方式による簡易算定表が広く用いられていますが、この簡易算定表では給与所得者や自営業者に関する表しかないため、年金受給者がいる場合に収入をどう考えるべきかというのが今回のテーマです。

 

年金を給与へ換算する

 

 先ほど述べたとおり、簡易算定表では給与所得者と自営業者を前提とした表しかありませんが、年金収入については給与所得者における職業費が生じないため、年金を給与収入に換算する方式がとられます(年金と給与があるときは換算後の年金と給与を合算します)。

 

換算方法

 

 具体的な換算方法は、給与所得者の職業費の統計値が算定表改訂後では概ね15%であることから、年金額を85%で割り戻して(=年金額÷0.85)、年金を給与に換算する方法がとられることがあります(東京高裁令和4年3月17日決定など。なお、これ以外にも、基礎収入の割合を修正して換算する方法もあります)。

 

 したがって、たとえば年金として年間100万円を受給しているのであれば、受給者の年金を【100万円÷0.85=1,176,470円】として、これを前提に算定表に当てはめていくことになります。

 

障害年金は?

 

 なお、年金の中には、国民年金等以外にも障がい者に対して支給される障害基礎年金・障害厚生年金がありますが、これらは受給者の自立等のために支給されるものであるとして婚姻費用等の計算において除外すべきという考え方もあります。

 

 しかし、障害基礎年金が子どもがいる場合に加算される場合があること(国民年金法33条の2)や、障害厚生年金についても65歳未満の配偶者がいる場合に加算されること(厚生年金法50条の2)からすると、制度上、本人以外の家族の生活費としても使用されることが想定されているといえることなどから、婚姻費用等の計算においても収入に含めて計算する考え方の方が有力と思われます。

 

 この点については、実際の裁判例でも障害年金について収入として取り扱い、年金額を0.85で割り戻して婚姻費用を算定した例があります(さいたま家裁越谷支部令和3年10月21日審判)。

 

 ただし、障害年金については、国民年金等の場合とは異なり、受給者の医療費などの特別経費があることを別途考慮する必要があることに注意が必要です。

 

 たとえば、上記裁判例では、障害年金を給与に換算して婚姻費用を計算すると概ね14万円程度になったものの、障害年金を受給している義務者には年間6万円程度の医療費がかかることなどを考慮して最終的な分担額を13万円に軽減しており、そのほかにも、福岡高裁平成29年7月12日決定においては、権利者側の収入に障害年金が含まれていることを考慮して、換算後の収入をもとに計算した婚姻費用から若干の上乗せを行っています。

 

 

関連裁判例
東京高裁令和4年3月17日決定

「抗告人の年金収入は年額A円に相当するところ、年金収入については給与収入と異なり職業費の支出を考慮する必要がないため、近時の統計資料に基づく総収入に占める職業費の割合(おおむね18~13%であり、高額所得者の方が割合が小さい。本件報告書参照)のうち15%を採用して給与収入に換算すると、おおむね年額B円(A÷(1-0.15)=・・・)となる。」

 

※老齢基礎年金の事例

※本件報告書:養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究(司法研究報告書第70輯第2号)

さいたま家裁越谷支部令和3年10月21日審判

「障害者年金は、前記認定事実記載のとおり子らのための相当額の加算もあり、受給する申立人及び子らの生活保障の一部といえるから、申立人の収入と評価するのが相当である。ただし、障害者年金は職業費を要しない収入であり、標準算定方式の前提となった統計数値により、全収入における職業費の平均値である15%で割り戻すのが相当である。」

 

「標準算定方式における算定表[(表16)婚姻費用・子3人表(第1子、第2子及び第3子0~14歳)]に当てはめると、12万円ないし14万円の上限程度と算定される。前記認定事実によれば、申立人が、障害者年金受給の前提となった病状についての治療費を、障害者年金額からではなく生活保護における医療扶助によっているのに対し、相手方は、障害者年金受給の前提となった症状の治療のために年間6万円の通院治療費を要していることなどに鑑み、相手方が負担すべき額は月額13万円とする。」

 

※抗告審の東京高裁令和4年2月4日決定も原審の判断を維持。

福岡高裁平成29年7月12日決定

「相手方世帯に割り振られる婚姻費用は、・・・106万2017円(月額8万8501円)となる。ただし、相手方の収入の一部が障害基礎年金であり、医療費等の特別経費を通常よりも多くみる必要がある点を考慮すると、婚姻費用月額は、少なくとも9万円を下回ることはないというべきである。」

 

※申立人(義務者)が、障害年金を受給している相手方(権利者)に対して婚姻費用の減額を申し立てたところ、標準算定方式による相当な婚姻費用は月8万8501円であるが、相手方には医療費等の特別経費があるため計算結果から若干の上乗せをした9万円を相当としたもの。

 

弁護士 平本丈之亮

 

別居中に生活用品の引き渡しを求めることは可能か?

 

 離婚する場合、同居しながら離婚について協議できる場合だけではなく、別居した上で条件面について協議や調停などを行うことが一般的に行われます。

 

 この場合、事前に良く話し合いをした上で別居できれば別居後の生活に支障が生じることはありませんが、実際には様々な事情から着の身着のままで別居に踏み切らざるを得ないこともあり、そうすると衣類や生活用品が足りず、当面の生活に支障を生じることもあります。

 

 別居時に自宅においてきた生活用品の中には、夫婦の協力により取得したといえるもの(=夫婦共有財産)と、結婚前に購入したり贈与で取得した物あるいは婚姻期間中に所得したものではあるが衣類や安価な装飾品など社会通念上夫婦の一方が所有するべきと考えられる専用財産(=特有財産)がありますが、別居中にこのような生活用品がどうしても必要になった場合、一方の配偶者は他方の配偶者に対して生活用品の引き渡しを求めることができるでしょうか?

 

特有財産の場合

 

 相手が占有している生活用品が特有財産である場合、特有財産は財産分与の対象にはなりません。

 

 そのため問題となる生活用品が特有財産であることを証明できるのであれば、所有権に基づいて相手に対して引き渡しの請求ができる可能性があります。

 

 

夫婦共有財産の場合

 

 これに対して夫婦共有財産については、本来、その帰属は離婚時の財産分与の問題の中で取り扱われるべきものです。

 

 そして、夫婦共有財産については、今回のようなケースとは異なりますが、夫婦の一方が別居時に持ち出した共有財産について財産分与とは別に裁判で直接返還を求めることができるかどうかが争われたケースにおいて、当事者間で協議がされるなど具体的な権利内容が形成されない限り相手方に主張することのできる具体的な権利を有しているものではないとして返還請求を否定した裁判例が存在するため(東京地裁平成27年12月25日判決など)、このような裁判例の存在を前提とすると生活用品が夫婦共有財産にあたる場合には引き渡しは認められないようにも思えます。

 

 もっとも、このような裁判例とは別のものとして、別居中の夫婦であっても夫婦である以上は原則として互いに協力扶助の義務を負うことから(民法752条)、別居中の夫婦の一方が他方に対して生活上必要な衣類や日用品等の物件の引渡を求めたときは、求められた側は自己の生活に必要でない限りこれに応じる義務を負うとした裁判例も存在しています(大阪高裁平成元年11月30日決定)。

 

 この裁判例は、問題となる物件が特有財産か夫婦共有財産かという観点ではなく、それが相手にとって生活上必要なものであり、他方で自分にとっては必要でないときは民法752条により引渡義務が認められると判断していますので、対象物件が夫婦共有財産にあたる場合でもこのような条件を満たすときには引き渡しが認められる可能性があるということになります(ちなみに決定によると自己所有物件が含まれているときでも民法752条を根拠に引き渡しを認めることができるように読めるため、特有財産については所有権に基づく引渡請求のほか、民法752条に基づく引渡請求も認められる可能性があるように思われます(私見))。

 

大阪高裁平成元年11月30日決定

「別居中の夫婦であっても、また既に離婚訴訟が裁判所に係属していても、夫婦である限り原則として右規定(注)にいう協力扶助の義務を免れることはできず、その一方は他の一方に対し事情に応じた協力扶助を求めることができるものと解するのが相当であるから、その一態様として、別居中の夫婦の一方が他の一方に対し生活上必要な衣類や日用品等の物件の引渡を求めた場合には、他の一方は自己の生活に必要でない限り、これに応じる義務を負うものといわなくてはならない。また、別居中の夫婦の一方が他の一方に対して引渡を求める物件の中に自己の所有物件が含まれている場合、これについては民事訴訟法上の仮処分によってその引渡を求めることができるとしても、そのために右仮処分とは趣旨・目的を異にする家事審判法による審判前の保全処分が許されないものとする理由はない。」
 
注 民法752条

 

 以上述べたとおり、生活用品が特有財産であれ夫婦共有財産であれ引き渡しが認められる可能性はあると思われますが、生活用品の引き渡しについて、これを離婚の協議や調停などとは別の手続で求めるのが果たしてベストな選択といえるかどうかについては良く考えるべきです。

 

 そもそも離婚問題は双方が高葛藤の状態にあることが多く話し合いによる解決が元々難しいケースがあるところ、協議すべき本体部分とは別に動産の引き渡しについて裁判等で求めると離婚本体について話し合いベースでの解決が不可能になり、裁判にまで発展してしまうこともあり得るためです。

 

 このように、協議や調停などの話し合いの中で任意の引き渡しを求めるにとどめておくべきか、それとも裁判などを起こすべきかについては、①離婚本体について話し合いによる解決をどの程度希望しているか、②解決までに要する期間としてどの程度までであれば許容できるか、③問題となっている生活用品の重要性や価値、④別途裁判などを起こす場合にかかる金銭的コストの程度、などをもとにして慎重に検討する必要がありますので、この点が問題となったときは弁護士への相談を推奨します。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

 

2022年9月2日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

夫婦関係が円満な間に過当に負担した婚姻費用は財産分与で考慮されるか?

 

 離婚協議等において財産分与が問題となるとき、財産分与をする側の配偶者から、夫婦関係がうまくいっていた期間に生活費を多く払い過ぎていたとして、過去に払いすぎた分を財産分与から差し引くべきだと主張するケースがあります。

 

 婚姻費用は夫婦双方の資産、収入その他一切の事情を考慮して分担するものとされていますが(民法760条)、実務上採用されている標準算定方式に基づき作成された「簡易算定表」に基づいて計算するとおおよその標準額が算出できるため、一見するとこのような差額清算にも合理性があるようにも思えます。

 

 しかし、夫婦関係が円満な間、夫婦はお互いに妥当な婚姻費用がいくらなのか、あるいは払いすぎの部分を後で清算しようなどということは意識していないことが一般的であり、生活費の負担方法や額について夫婦が了解した上で共同生活を営んでいたにもかかわらず、婚姻関係が壊れてからこのような過去の分の差額清算を認めることは相手方にとって酷な場合もあります。

 

 そこで今回は、果たしてこのような主張は認められるのかについてお話しします。

 

夫婦円満な間における生活費は原則として贈与

 

 この点については、このような円満期間中における婚姻費用は配偶者の一方から他方に対する贈与の趣旨であると考えて超過分の清算は不要とする見解があり、過去の裁判例においても原則として贈与とみるべきと判断したものがあります(高松高裁平成9年3月27日判決)。

 

高松高裁平成9年3月27日判決

「離婚訴訟において裁判所が財産分与を命ずるに当たっては、夫婦の一方が婚姻継続中に過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができると解するのが相当である(最高裁昭和五三年(オ)第七〇六号、同年一一月一四日第三小法廷判決・民集三二巻八号一五二九頁参照)。しかしながら、夫婦関係が円満に推移している間に夫婦の一方が過当に負担する婚姻費用は、その清算を要する旨の夫婦間の明示又は黙示の合意等の特段の事情のない限り、その過分な費用負担はいわば贈与の趣旨でなされ、その清算を要しないものと認めるのが相当である。」

 

 過去の婚姻費用を財産分与においてどのように考慮するべきかに関しては、別居以降の未払い分を考慮(加算)することは認められています。

 

 他方で、別居中にいわゆる標準算定方式で計算した金額を超える額を負担していたケースでは、原則として差額清算(控除)を否定した高裁レベルでの裁判例があり(大阪高裁平成21年9月4日決定)、円満期間中の超過負担部分についても上記のとおり原則として考慮(控除)されないとの高裁裁判例があることからすると、別居の前後を問わず、婚姻費用の超過払い分を財産分与で考慮すべきという主張が採用される可能性は高いとはいえないように思われます。

 

弁護士 平本丈之亮