離婚後に相手の財産隠しが判明した場合、どうするか?

 

 離婚事件の中でシビアに争われることの多いものとして財産分与がありますが、その中で問題になることがあるのが相手方の財産隠しです。

 もしも離婚当時、相手方が夫婦共有財産に該当する財産を隠しており、そのことが後で発覚した場合、隠されていた方としてはどのような対処が可能か、というのが今回のテーマです。

 

財産分与の取り決めがなかった場合

 【離婚から2年以内】 

 まず、離婚時に財産分与の取り決めが何もなかった場合、離婚から2年以内であれば、新たに判明した財産を含めて財産分与の請求をすることが可能です。

 もっとも、どのような財産であっても財産分与の請求ができるというわけではなく、あくまで夫婦が共同で築き上げたと評価できるもの(夫婦共有財産)に限られますから、隠していた財産がいわゆる特有財産であった場合には財産分与として請求することはできません。

 

 【2年が経過してしまった場合】 

 この場合は財産分与の請求期間が経過してしまったため、改めて財産分与を請求するという方法は難しいところです。

 ただし、相手方が財産を隠していた場合には、本来財産分与として認められた可能性のある金額について、損害賠償を請求できる可能性があります(これを認めた裁判例として、浦和地裁川越支部平成元年9月13日判決があります)。

 

財産分与の取り決めをしていた場合

 以上に対して、財産分与の合意をしたが、その中に本来入るべき財産が入っていなかったという場合には、その財産が重要なものであり、その財産の存在を事前に知っていれば当初の合意はしなかったといえる事情があるときは、財産分与に関する合意が錯誤によって無効(2020年4月1日以降は取消)となる可能性があります(→「財産分与をやり直すことはできるか?」

 

 以上の通り、相手が財産隠しをしたとしても、後日そのことがわかった場合には救済されるケースもあります。

 もっとも、このようなケースは幸運にも隠し財産の存在が判明したからこそ可能だったものであり、そもそも見つからなければ請求することはできないという限界がありますので、実際に離婚するにあたっては、事前にどれだけ相手方の財産に関する情報を得られるかの方がより重要となります。

 

 弁護士 平本丈之亮

 

過去の婚姻費用を遡って請求することはできるのか?

 

 別居や離婚を考えたときに検討するものの一つとして婚姻費用がありますが、諸事情からすぐに請求できなかったり支払いがなされないまま時間がたってしまったというケースがあり、そのような場合にいつの分から請求できるのか、あるいは過去に支払われなかった分を遡ってどこまで請求できるのかというご質問を受けることがあります。

 そこで今回は、この点についてお話ししたいと思います。

 

婚姻費用について具体的な取り決めがあった場合

 この場合には既に婚姻費用の支払いを求める権利が具体的に発生している以上、単なる未払いの問題として過去の分を遡って請求することが可能です。

 もっとも、婚姻費用はそれぞれの支払期限(毎月末払いであれば各月の末日の経過)から5年が経過すると時効によって消滅していくため、あまりに古いものについては請求できないことになります。

 

婚姻費用について具体的な取り決めがなかった場合

 以上に対して、相手と婚姻費用について取り決めがなかった場合には、いつまで遡ってもらえるのか(始期)の問題が生じます。

 この点は裁判所の裁量的判断に属するため明確に決まるものではありませんが、実務上は請求の意思が明確になった時点から認められることが多いと思います。

 

 【婚姻費用の調停を申し立てた場合】 

 この場合、裁判所では、調停申立時点で請求の意思が明確になったとして、その時点まで遡って請求を認める傾向にあります。

 

  しかし、最終的にどの時点まで遡るかは裁判所の裁量ですから、個別の事情(相手方の収入や資産、申立がなされるまでに時間を要した場合にはその理由など)によっては、申立以前に遡って支払いを命じられる可能性もあります。

 たとえば、婚姻費用そのもののケースではありませんが、医学部に進学した子どもが医師の父親に扶養料の請求をしたというケースで、父親が再婚後に子どもとの交流を拒否するようになり、手紙で面会の申入れをしたことに対しても、今後一切連絡してこないようにと応答したなどといった事情を指摘し、扶養料の請求の始期を裁判所への申立や協議の申し入れのときではなく、医学部への進学の月まで遡らせたという裁判例があります(大阪高裁平成29年12月15日決定)。

 

 【内容証明郵便などで請求していた場合】 

 調停の申立以前に請求していた場合にはそこまで遡って請求できるケースもあり、実際にも内容証明郵便で支払いの意思を示したところまで遡って請求できるとした裁判例もあります(東京家裁平成27年8月13日決定)。

 そのほか、個別の事情如何では請求時より前に遡る可能性があることは先ほど述べたとおりです。

 

 

離婚成立まで具体的な請求をしていなかった場合

 以上に対して、そもそも離婚が成立するまで婚姻費用について請求しないままというケースもありますが、このようなときに、離婚成立後になってから過去の婚姻費用を遡って請求することは容易ではないと思われます(養育費は当然ながら請求可能ですが、請求時以降に限定される可能性があるのは婚姻費用と同じです)。

 

 これと異なり、裁判所への申立後に離婚が成立したという逆のパターンについては、最高裁令和2年1月23日決定において離婚成立までの分の婚姻費用の請求も可能と判断されましたので、とりあえずは離婚成立前に請求しておけば、請求から離婚までの分は救済される可能性があります。

 この最高裁決定は婚姻費用の請求を裁判所に申し立てた後に離婚が成立したケースに関するものであり、請求しないまま離婚が成立した場合について判断したものではありません。

 そのため、離婚まで請求していなかった場合にまで遡って請求できるかどうかは解釈問題となりますが、離婚が成立しているのであれば、どこかのタイミングで婚姻費用を請求できたことが多いと思いますので、離婚成立まで請求しなかった場合にまで、後になってから過去分の請求を遡って認めるのは個人的には難しいのではないかなと考えています。

 

 なお、上記のように離婚成立までに過去の未払分の婚姻費用を請求していなかった場合でも、離婚成立の際に財産分与について解決が未了だったのであれば、後の財産分与の請求において過去の婚姻費用分を加算するよう求めることができることもあり、その場合、過去のお互いの収入を参考に本来支払われるべきであった婚姻費用相当額を計算し、その全部ないし一部を本来の財産分与額に上乗せするという形で処理します。

 ただし、どこまで上乗せすることが許されるのかについて明確な定めがあるわけではなく、この点も最終的には個別の事情を踏まえた裁判所の裁量判断になりますし、離婚の際に今後は互いに請求しないという清算条項を付していた場合にはこのような形で追加請求することもできなくなります。

 このように、過去の未払婚姻費用が当然に加算されるとまではいえませんし、財産分与の場面では過去の婚姻費用はあくまで財産分与額を決める際の一つの考慮要素にすぎないことから、そもそも分与すべき財産が存在しないと請求できません。

 そのため、未払いの婚姻費用がある場合、基本的には婚姻費用それ自体を早期に直接請求する形を取っておく方が無難です。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

財産分与と不利益変更についての話

 

 財産分与は離婚の協議・調停・裁判のそれぞれの段階で問題となるものですが、今回は、協議や調停の段階で相手から提案されていた条件や、訴訟手続における第一審裁判所の判断が、その後の手続で拘束力があるのか、つまり、当初の提案内容や一審裁判所の判断内容が最低保証としての意味を持つのかどうかについてお話したいと思います。

 

協議→調停

 協議段階で相手から提案されていた財産分与の条件は、あくまで交渉段階における提案にすぎませんので、協議がまとまらず調停に移行したときに、協議時点よりも不利な条件を提案されることはあります。

 協議段階で提案した条件をあとで撤回することについては、協議では早期解決や円満解決を目指すという目的があり、そのような目的のために協議限りの提案として譲歩案を提示することは不合理ではないため、このような条件変更に問題はありません。 

 

調停→訴訟第一審

 調停後の訴訟の場面でも、調停段階で提案されていた条件よりも不利な条件に変化することはあり、これもあまり問題視されません(ただし、あまりに不合理な条件変更があった場合には裁判所の心証が悪化するなど、手続を進めるうえで不利益が生じることはあり得ると思います)。

 もちろん、裁判所は当事者が前に提案していた条件に拘束されませんので、裁判所は独自の立場から妥当な財産分与を定めることになります。

 

第一審→上訴審

 ここで問題となるのは、財産分与を命じた第一審判決について、相手側は不服はないものの、こちら側だけが不服があり不服申立をした場合に、第一審の裁判所の判断よりも不利な内容に変更される可能性はないのかどうかです。

 通常の民事訴訟では、こちらが不服を申し立て相手は不服を申し立てなかった場合、単にこちらの上訴の妥当性だけが判断されるため、たとえこちら側の主張が排斥されても一審の判断より不利になることはありません(これを不利益変更禁止の原則といいます)。

 しかし、財産分与についてはこの原則の適用がないとされており(最高裁平成2年7月20日判決)、こちら側だけが不服を申し立てた場合でも、裁判所が財産分与について原審よりも不利な内容に変更してしまうことがあり得ます。

 たとえば、離婚訴訟の第一審でこちらが200万円の財産分与を求めていたところ、判決では100万円の財産分与が認められ、その判決に対してこちらだけが不服があるとして控訴した場合、ケースによっては控訴審で100万円を切る財産分与の判断が下る可能性があります。

 相手が不服を申し立てたのであれば仕方ない面がありますが、そうでない場合にこちらからアクションを取った場合には結果的に藪蛇になってしまう危険性があることに注意が必要です。

 

 このように、財産分与について協議、調停、訴訟のそれぞれの段階で相手が示した条件や裁判所が下した判断は、後の手続で最低保証としての意味を持ちません。

 今の条件を受け入れるべきなのか、それともその次の段階に進むべきなのかについては難しい判断が求められることがありますので、迷われた場合には弁護士へのご相談をお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年12月2日 | カテゴリー : 離婚, 財産分与 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

家庭内別居と財産分与の基準時

 

 財産分与で問題になるものとして、どの時点での財産を基準に財産分与を決めるのかということがあります。

 この点については原則として別居時に存在した財産が基準となりますが、ご相談を受けていると、実際に別居した時期よりも相当前から家庭内別居の状態だったので、家庭内別居が始まった時点の財産を基準にするべきではないかというご質問を受けることがあります。

 このような話は、別居時点を基準とするよりも家庭内別居開始の時点を基準とした方が分与すべき財産が少なくなるケースで生じるものであり、自分名義での財産を多く保有している側(多くの場合は夫)から呈される疑問ですが、このような主張がどこまで通るのかが今回のテーマです。

 

財産分与の基準時が原則として別居時とされる理由

 財産分与はそれまで夫婦が築き上げた財産を清算する制度であるため、財産形成に対する夫婦の経済的協力関係が終了した時点を基準に清算するのが公平です。

 そして、夫婦が別居に至った場合、通常、その時点で夫婦間の経済的協力関係が終了するため、財産分与の基準時は原則として別居時とされています。

 このように財産分与の基準時を別居時とする根拠は、通常は別居の時点で夫婦間の協力関係が終了するところに求められます。

 

家庭内別居の場合は?

 そうすると、逆に言えば、たとえ同居していても既に財産形成に対する経済的協力関係が終了したといえる場合であれば、その時点を基準時とすることも不可能ではないことになります。

 もっとも、曲がりなりにも同居を継続している場合に、夫婦間の経済的な協力関係が完全に終了していたと証明することは困難であるため、実際には家庭内別居であるとの主張によって基準時を別居以前に遡らせることは難しいところです。

 たとえば東京地裁平成17年6月24日判決は、「財産分与は,夫婦が協力して形成した財産を対象とするものであるから、本件においては、協力関係の終了したと考えるべき別居時点(平成15年○月○日)を一応の基準時として、財産分与の対象とすべきと考える。」「被告は,平成13年秋以降,原告において被告の食事を一切作らなくなった経緯を考慮し,同年○月の住宅ローンボーナス支払いの前の時点を基準時とすべき旨主張するが,平成15年○月○日までは同居しており、同居中は財産形成の協力関係は一応継続していたというべきであって,その間の財産の増減は、一切の事情として分与にあたり考慮すれば足りるというべきである。」と判断し、別居時点を基準時とする判断を下しています。

 

 以上のように、家庭内別居を理由に財産分与の基準時を別居以前に遡らせるのはなかなか難しいところですので、この点について争う場合には単に家庭内別居であったという抽象的な話ではなく、夫婦間の経済的協力関係がなくなっていたことを裏付ける事実を丹念に拾い上げて主張・立証していくことが必要となります。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年10月28日 | カテゴリー : 離婚, 財産分与 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

夫婦間の金銭貸借と夫婦共有財産の関係について

 

 夫婦が離婚する場合には、残っている財産や負債だけではなく、過去の様々なお金のやり取りも含めて清算することがありますが、その中で問題となることがあるものが夫婦間でのお金の貸し借りです。

 そこで今回は、夫婦間のお金の貸し借りがあった場合に、離婚の際に、これがどのように扱われるのかについてお話します。

 

多くは財産分与その他の離婚条件の交渉時に同時に協議される

 このような貸し借りについては、他の財産の清算と同時に解決することが楽であるため、財産分与などの問題を扱うのと同時に話し合い、その中で清算されることが多いかと思います。

 

離婚協議等で解決できない場合

 しかしながら、借入の事実や現在の貸金残高などに認識の食い違いがあるなどの理由により、離婚時にまとめて解決できなかった場合、納得できなければ最終的には民事訴訟によって解決が図られることになります。

 

貸金の原資が夫婦共有財産だった場合は?

 ところで、このような訴訟の中では、そもそも金銭の授受があったかどうかや返済の約束があったのかどうか、返済の有無等が争点になると思われますが、そのほかの問題として、たとえば貸金の原資となったお金が夫婦共有財産だった場合、果たして貸金が成立するといえるのか、ということも問題となります。

 貸金の原資が夫婦共有財産だった場合、実質的には夫婦共有財産を相手に渡しただけとも思えるため、仮に貸金の形式を整えていたとしても金銭消費貸借は成立しないのではないか、というのがここでの問題意識ですが、この点については、原資が夫婦共有財産だった場合には貸金は成立しないと判断した裁判例が存在します。

 

東京地裁平成30年4月16日判決

「被告は、原告から交付を受けた金員は、夫婦の共有財産であると主張するところ、原告と被告は夫婦であり、証拠(原告本人,被告本人)によれば、被告は、収入を(全部か一部かはともかく)原告に渡し、原告は、被告から受領した金員と原告自身の収入から生活費を支出していたことが認められる。そうすると、被告が、原告から○○○円を借りたことを認める確認書で署名しているとはいえ、その原資が夫婦の婚姻後に形成された共有財産である場合には、被告は、当該共有財産を費消したにすぎないことになるから、原告の被告に対する貸金には当たらないことになる。
 したがって、上記金銭の授受が、原告の被告に対する貸金であるといえるためには、原資が原告の特有財産であることが必要である。」

 

 上記裁判例では、結局、借りたことを書面で確認した金額の一部については夫婦共有財産が原資であったとして、それを除いた部分に限って貸金が成立するという判断が下されています。

 この裁判例を前提にすると、夫婦間で貸し借りの形でお金のやりとりがあったとしても、その原資が夫婦共有財産であると判断された場合には貸金の返還が認められないことになりますので、夫婦間での貸し借りについては、単に借用書を作成するだけではなく、その原資が夫婦共有財産とは無関係のものであることについても明らかにする必要があることになります。

 

貸金の成立が否定された場合、渡したお金の取り扱いはどうなる?

 ところで、原資が夫婦共有財産であるため貸金は成立しないと判断された場合に渡したお金がどう扱われるかですが、渡したお金がそのまま、あるいは別の形で残っているのであれば、財産分与の対象財産となります。

 これに対して、渡したお金がもはや残っていない場合には、これを残っていると仮定して分与対象財産に含めることは難しいと思われますが、たとえばその使い道が浪費など問題のあるものだった場合には、その程度によっては寄与割合において考慮される余地はあると思います(たとえば東京高裁平成7年4月27日判決では、ゴルフ等の遊興に多額の支出をし,夫婦財産の形成及び増加にさほどの貢献をしていないことを一つの理由として、夫婦の分与割合に修正を施しています)。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年9月15日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

夫に認知した子どもがいることは、婚姻費用や養育費の計算に影響するのか?

 

 夫の不貞行為によって子どもが生まれ、認知するケースがありますが、では、このようなケースで(元)妻が婚姻費用や養育費を請求した場合、夫側に認知した子どもがいることは婚姻費用や夫婦間の子どもの養育費の計算においてどう扱われるのでしょうか?

 

認知した子どもの存在は婚姻費用や養育費の計算に影響する

 認知した子どもを夫婦間の子どもと同じように扱った場合、その分扶養すべき者が増えるため婚姻費用や夫婦間の子どもに対する養育費は減ることになりますが、夫がこのような主張をすることは信義則に反し許されない、すなわち、(元)妻からの婚姻費用や養育費の計算にするにあたっては認知した子どもはいないものとして計算すべきである、という考え方もあります(岐阜家裁中津川出張所平成27年10月16日審判 ※ただし抗告審である後記名古屋高裁決定により取り消し)。

 

 しかしながら、出生の経緯がどうあれ、同じ父親の子どもである以上、夫婦間の子どもかそうでないかによって扶養義務の程度に差を設けることは相当ではないと考えられます。

 近時の裁判例でもこのような考え方が採用されており(名古屋高裁平成28年2月19日決定、東京高裁令和元年11月12日決定など)、不倫相手の子どもがいても、その子どもがいるものとして婚姻費用や養育費を計算することが主流の考え方ではないかと思われます(もっとも、夫が認知しただけで実際に扶養義務を果たしていない場合も同じように考えるべきかは不明です)。

 

東京高裁令和元年11月12日決定

「その子の生活費を扶養義務を負う親が負担するのは当然であり、当該子がいることを考慮して婚姻費用分担額を定めることが信義則に違反するとはいえず、」

 

弁護士 平本丈之亮

 

婚姻費用の計算において、特有財産からの収入(果実)は考慮されるのか?

 

 婚姻費用については、双方の収入によって金額を算定する標準算定方式が浸透しています。

 そのため、婚姻費用を計算する場合には双方の収入をどこまで考慮するかが重要な課題となりますが、この点について、結婚前から保有していたり相続・贈与によって取得した「特有財産」からの収入(不動産収入や株式配当金などの果実)をどのように扱うかが問題となることがあります。

 この点は過去にいくつかの裁判例が存在しますが、近時も高裁決定が出ているところですので、今回はそのような裁判例を紹介したうえで、婚姻費用と特有財産の関係についてお話したいと思います。

 

東京高裁昭和42年5月23日決定

「申立人主張の如き妻の特有財産の収入が原則として分担額決定の資料とすべきではないという理由または慣行はない。」

 

東京高裁昭和57年7月26日決定

「申立人と相手方は、婚姻から別居に至るまでの間、就中○○○のマンションに住んでいた当時、専ら相手方が勤務先から得る給与所得によつて家庭生活を営み、相手方の相続財産またはこれを貸与して得た賃料収入は、直接生計の資とはされていなかつたものである。従つて、相手方と別居した申立人としては、従前と同等の生活を保持することが出来れば足りると解するのが相当であるから、その婚姻費用の分担額を決定するに際し考慮すべき収入は、主として相手方の給与所得であるということになる。
 以上の通りであるから、相手方が相続によりかなりの特有財産(その貸与による賃料収入を含む)を有していることも、また、相手方が右相続により相当多額の公租公課を負担しているごとも、いずれも、本件において相手方が申立人に対して負担すべき婚姻費用の額を定めるについて特段の影響を及ぼすものではないというべきである。」

 

大阪高裁平成30年7月12日決定

「相手方は、相手方の配当金や不動産所得に関し、「抗告人との婚姻前から得ていた特有財産から生じた法定果実であり、共有財産ではない」から、婚姻費用分担額を定めるに当たって基礎とすべき相手方の収入を役員報酬に限るべきである旨主張する。
 しかし、相手方の特有財産からの収入であっても、これが双方の婚姻中の生活費の原資となっているのであれば、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべき収入とみるべきである。」

 

 以上のように過去の裁判例においては、特有財産からの収入(果実)について、特段の制限なく収入として算入するもの(東京高裁昭和42年5月23日決定)と、婚姻中の生活の原資になっている場合には収入に算入するもの(東京高裁昭和57年7月26日決定、大阪高裁平成30年7月12日決定)に分かれています。

 婚姻費用について定める民法760条は「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定し、婚姻費用の算定について互いの資産を考慮することを明らかにしているほか、「収入」についても特段限定はされておらず、また、婚姻費用分担義務が生活保持義務(=自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)であることからすると、このような特有財産からの収入も当然に収入に算入されるべきように思われます。

 婚姻中の生活の原資にあてられていた場合には考慮(算入)するとした裁判例が、何故そのような限定を施すのかはいまいち判然としませんが、財産分与の場面においては特有財産が対象外であることとの整合性を図る趣旨なのかなと想像しています。

 いずれにしても、生活の原資にあてられていたかどうかがポイントになるという裁判例がある以上、このような特有財産からの収入が婚姻費用の計算において問題となる場合には、権利者側であれ義務者側であれ、この収入が実際上どのように使われていたのかについて積極的に主張立証していく必要があると思われます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

無職の妻からの婚姻費用の請求について潜在的稼働能力の有無が問題となった2つの事例

 

 婚姻費用や養育費を計算する場合、基本的には当事者の実際の収入をもとに計算します。

 もっとも、様々な事情によって無職の状態にある場合でも、実際には収入を得られるだけの能力があるはず(潜在的稼働能力)として、一定の収入があるとみなして金額を算定する場合があります。

 今回は、このような潜在的稼働能力による婚姻費用の算定が問題となった事例を2つご紹介します。

 

過去の勤務実績や退職理由から潜在的稼働能力をもとに婚姻費用を算定したケース(大阪高裁平成30年10月11日決定)

 このケースでは、婚姻費用を請求した無職の妻について以下の事情があるとして、妻の収入を退職の前年に得られていた収入をもとに計算しました。

 

①妻は教員免許を有していること

②妻は数年前に手術を受け、就労に制約を受ける旨の診断を受けているが、手術後に2つの高校の英語科の非常勤講師として勤務し、約250万円の収入を得ていたこと

③妻の退職理由は転居であり、手術後の就労制限を理由とするものとは認められないこと

 

 この裁判例では、妻の勤務実績と、退職理由が手術後の就労制限ではなく転居であるという点に着目して、退職する前年の収入をもとに婚姻費用を計算しています。

子どもが幼少で幼稚園や保育園にも通っていないという事情から潜在的稼働能力を否定したケース(東京高裁平成30年4月20日決定)

 原審は、妻に以下の事情があることを指摘して妻の潜在的稼働能力を肯定し、賃金センサスの女子短時間労働者の年収額程度の稼働能力を前提に婚姻費用の金額を定めました。

 

①妻が歯科衛生士の資格を持ち歯科医院で10年以上の勤務経験があること

②長男及び長女は幼少であるものの長男は幼稚園に通園していること

③妻は平日や休日に在宅していることの多い母親の補助を受けられる状況にあること

 

 これに対して、高裁は、長男は満5歳であるものの長女は3歳に達したばかりであり,幼稚園にも保育園にも入園しておらずその予定もないという事情を重視して、妻の潜在的稼働能力を否定し妻の収入を0として計算しました。

 ただし、高裁決定においても、この判断は「長女が幼少であり,原審申立人(※注 妻)が稼働できない状態にあることを前提とするものであるから、将来,長女が幼稚園等に通園を始めるなどして,原審申立人が稼働することができるようになった場合には、その時点において、婚姻費用の減額を必要とする事情が生じたものとして、婚姻費用の額が見直されるべきものであることを付言する。」と述べ、将来的には潜在的稼働能力による金額変更の可能性を認めています。

 

 以上のとおり、当事者に無職者がいる場合の潜在的稼働能力は、無職者の家族関係や過去の勤務実績、保有する資格や退職理由などの諸事情から判断されることになります(子どもが幼少の場合は潜在的稼働能力が否定されやすい傾向にあるとはいえますが、両親等の同居家族の存在やサポート体制によっては必ずしもそう言い切れないところです)。

 潜在的稼働能力が肯定された場合の収入認定についてもまちまちであり、今回ご紹介したように直近の収入を基礎とするケースもあれば、統計上の平均的な収入を基礎とするケースもあります。

 今回は権利者が妻である場合を例にお話ししましたが、潜在的稼働能力が問題となるのは義務者の場合も同じであり、義務者となるのも夫とは限りません(夫が子どもを引き取るケース)。

 このように、別居中にいずれかが無職になってしまった場合には妥当な婚姻費用を計算することが難しくなることがありますので、そのような事情があるときは一度弁護士への相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

有責配偶者からの婚姻費用の請求は認められるのか?

 

 別居に至った場合、配偶者の一方から婚姻費用の請求がなされることがあります。

 婚姻費用の請求は権利であり、通常、これを行使することに何ら問題はありませんが、別居に至った原因が不貞行為など婚姻費用を請求してきた側にあった場合、これを認めて良いのか疑問が生じます。

 そこで今回は、いわゆる有責配偶者から婚姻費用の請求があった場合にこれが認められるかどうかについて、最近の裁判例を2つほどご紹介したいと思います。

 

東京高裁平成31年1月31日決定

 妻が夫に対して婚姻費用の請求をした事案において、裁判所は概要以下のような理由から婚姻費用の請求を否定しています(夫と子どもが同居、妻は単身で居住)。

 

①夫婦は互いに協力し扶助しなければならず、別居した場合でも他方に自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負い、夫婦の婚姻関係が破綻している場合においても同様であるが、婚姻費用の分担を請求することが当事者間の信義に反し又は権利の濫用として許されない場合がある。

②本件において夫婦が別居に至った経過は、酔って帰宅した妻が子どもの首を絞め、壁に押し付けて両肩をつかむなどの暴力をふるい、これを注意した夫ともみ合いつかみ合いとなり、包丁を持ち出して夫に向けて振り回し負傷させるなどの暴力行為に及び、それを見た子どもが玄関から裸足で飛び出したことから、危険を感じた夫が子どもとともに家を出て別居するに至ったというものである。

③妻は、上記暴力行為以前から、子どもを叩く、蹴るなどしており、このような度重なる暴力によって子どもの心身に大きな傷を負わせていたことがうかがわれ、その上、酔って生命に危険が生じかねない暴力行為に及んだものであって、このような暴力が子どもに与えた心理的影響は相当に深刻であったとみられる。

④児童相談所は、子どもについて一時保護の措置をとり、夫は妻と別居して家庭裁判所により子どもの監護者に定められ、その監護をすることとなった。

⑤婚姻関係の悪化の経過の根底には、妻の子どもに対する暴力とこれによる子どもの心身への深刻な影響が存在するのであって、必ずしも夫に対して直接に婚姻関係を損ねるような行為に及んだものではない面はあるが、別居と婚姻関係の深刻な悪化については妻の責任によるところが極めて大きい。

⑥妻には330万円余りの年収があるところ、夫が住宅ローンの返済をしている住居に別居後も引き続き居住していることによって住居費を免れており、相応の生活水準の生計を賄うに十分な状態にある。

⑦夫は会社を経営し約900万円の収入があるが、妻が居住している住宅の住宅ローンを支払っており、さらに、子どもを養育して賃借した住居の賃料及び共益費、私立学校に通学する学費や学習塾の費用などを負担している。

⑧以上のお互いの経済的状況に照らせば、別居及び婚姻関係の悪化について極めて大きな責在がある妻が、夫に対し、夫と同程度の生活水準を求めて婚姻費用の分担を請求することは信義に反し、又は権利の濫用として許されない。

 このケースでは、妻の子どもに対する暴力行為があり、これが夫婦関係を悪化させたという経緯があることや、妻にもそれなりの収入があり、かつ、夫が別居後に妻の住居費を負担していること、夫が子どもの生活費や学費を負担していることなどから、妻からの婚姻費用の請求を認めませんでした。

 なお、裁判所は、妻が子どもの世話のほとんどを担い、子どもの問題行動に悩み、注意しても一向に治まらなかったことから暴力に及んだものであって、相当に鬱屈した精神状態であったことがうかがわれると指摘し、他方、夫側にも育児を妻に任せたり2年ほど子どもを無視する、妻とも話をしない状態となっていたとして相応の非があったと述べ、妻のおかれていた事情にも一定の理解を示しています。

 しかし,このような双方の責任とを比較すると、夫側の非はごく小さな比重のものにとどまると述べ、上記のような結論に至っています。

 

大阪高裁平成28年3月17日決定

 本件は、不貞行為があったとされた妻から夫に対する婚姻費用請求について、以下のように述べて妻の分を否定し、子どもの分のみの分担を命じたものです。

 

「夫婦は、互いに生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負う。この義務は、夫婦が別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合にも影響を受けるものではないが、別居ないし破綻について専ら又は主として責任がある配偶者の婚姻費用分担請求は、信義則あるいは権利濫用の見地からして、子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められると解するのが相当である。」

 

 なお、妻は、手続の中で不貞行為の存在を争ったようですが、不貞相手と目される男性とのSNSの通信内容から、「単なる友人あるいは長女の習い事の先生との間の会話とは到底思われないやりとりがなされていることが認められるのであって、これによれば不貞行為は十分推認されるから、相手方の主張は採用できない。」として排斥されています。

 このケースでは不貞行為の立証が成功したため、有責配偶者である妻の分の請求は排斥されていますが、夫が高収入であったことが影響し、審理期間中の12ヶ月分の婚姻費用から既払い額を控除した額として200万円近くを遡って支払う決定がなされています(+将来にわたって子どもの養育分の支払い)。

 ここまで高額になるケースはそこまで多くはないかもしれませんが、不貞行為など請求者の有責性を理由に婚姻費用の排斥を求める場合には、立証に失敗する可能性があるほか、相手方が監護する子どもの分については支払いは免れないことから、過去に遡ってまとめて支払いを命じられるリスクがあることに注意が必要です。

 

 以上のように、婚姻費用を請求する側に有責性がある場合、信義則違反あるいは権利の濫用として婚姻費用が否定されることがあります。

 もっとも、婚姻費用が否定されるのは、別居に至った原因がもっぱら又は主として権利者側にのみあると立証できた場合に限られますし、否定されるのも配偶者の部分に限られます(配偶者の部分についても、全額を否定するのではなく一部は認めるという裁判例もあります)ので、実際に婚姻費用を請求された場合にどう対応すべきかは難しい判断が要求されます。

 相手の有責性を立証できなければ過去の分に遡って支払いを命じられるというリスクもあり、この問題については慎重な対応が求められますので、迷った場合には弁護士への相談をご検討ください。  

 

弁護士 平本丈之亮

 

離婚を考えたときに検討すべきポイントについて

 

 様々な理由で離婚を考えたとき、離婚が本当にできるのか、子どものことはどうなるのか、お金の問題はどうなのかなど、一度に色々考えなければならないことがあります。

 このような場合、とりあえず弁護士に相談してみるのも有効ですが、その前に、まずは自分自身である程度問題点を整理することができていれば、その後の進め方についても迷いが少なくなります。

 そこで今回は、離婚が頭によぎったら考えておくべきポイントにどのようなものがあるのかをお話しします。

 

【Point1 相手が離婚を承諾してくれる見込みはあるか】

 何はともあれ、ここがまずもって一番大事なポイントです。

 ここでどの程度の見込みがあるかどうかで、離婚の進め方が大きく変わる可能性があるからです。

 たとえば、離婚そのものについては応じてくれそうであれば、基本的な方針は協議離婚となりますし、そもそも相手が離婚に対して大きく抵抗することが予想される場合には、協議離婚については選択肢から外すかほどほどにしておき、早期に調停の申し立て、あるいは訴訟まで見据えて準備を整えておくなど、その後の方針が大きく変わります。

 

【Point2 子どもの親権や面会交流について】

 離婚自体の進め方について見通しを立てたら、次に考えるのは子どものことです。

 子どもがいない夫婦であれば関係ありませんが、子どもがいる夫婦の場合、離婚そのものやお金の問題よりもこの点を巡って紛争になるケースが非常に多いため、以下のような点について相手の希望を予想して今後の見通しや方針を立てておくことをお勧めします。

 

 1 親権 

①こちらが取得を希望するのかそれとも相手に委ねるのか

 

②親権を希望した場合には取得できる可能性がどの程度あるのか(この点は弁護士への相談を推奨します。)

 

 2 面会交流 

①親権を相手に委ねる場合

 この場合、面会交流についてどのような取り決めを希望するかを考えておきます。

 具体的には、月の面会回数、1回の面会時間の目安、子どもの受渡方法、学校等の行事の取り扱いなどについてです。

 

②親権を希望する側

 この場合、相手が望むと思われる面会交流についてどのようなスタンスで臨むのか、あらかじめ検討しておくことが有益です。

 

【Point3 お金について】

 次に検討するのは、離婚に伴うお金の問題です。

 お金の問題として考えておくことは、概ね以下のようなものがあります。

 

 1 婚姻費用 

①婚姻費用を請求する側

 離婚成立までどの程度かかるかによりますが、話し合いが長引いたり調停などの手続が考えられる場合には当面の生活費として婚姻費用の請求が重要になります。

 そのため、婚姻費用としてどの程度の金額を望めるのか、どのような方法で請求するべきかなどについてはあらかじめ検討しておいた方が良いと思います。

 

②婚姻費用を支払う側

 他方、婚姻費用を支払うことになる側も、いつからいつまで、毎月いくら支払う可能性があるのかについて目途を立てておくことがその後の離婚の進め方に影響しますので、検討しておく必要があります。

 

 2 養育費 

①親権を希望する側

 養育費としてどの程度の金額を望めるかについては、離婚を切り出すタイミングにも影響しますので、必ず検討しておくべきポイントです。

 

②親権を委ねる側

 養育費を支払うことになる側も、いくら支払う必要があるのかを把握しておくと離婚を切り出す適切なタイミングを計ることができますので、検討しておくと良いポイントです。

 

 3 財産分与 

①請求する側

 この場合、相手にどの程度の資産があるのかや証拠の確保など、事前に検討しておくべきポイントがあります。

 証拠の確保などはあとでリカバリーが困難になることもありますので、財産分与を希望する場合にはできればアクションを起こす前の段階で弁護士へご相談ください。

 

②請求されることが予想される側

 この場合、実際に財産分与を求められたらどの程度の負担を覚悟しなければならないかを検討しておかなければ、離婚後の生計維持に支障を生じる可能性がありますので、あらかじめ試算しておく必要があります。

 

 4 慰謝料 

①請求する側

 何を根拠に慰謝料を請求するのか、その理由が本当に慰謝料の根拠となるのか、証拠はどの程度あるのか、望める金額はどの程度か等検討すべき点は多くありますが、慰謝料についてはご本人が検討しても的確に判断することは難しいところですので、弁護士への相談をお勧めします。

 

②請求される可能性のある側

 このケースでは、そもそも慰謝料の金額よりも有責配偶者として離婚自体が否定される可能性がどの程度あるかを検討しておく必要がありますので、自分に非があると考える場合にはその点も含めて慎重に検討しておくべきです。

 

 5 年金分割 

①請求する側

 年金分割を求めるには、あらかじめ必要な書類を取り付けておくことや合意方法に気を付けるべき点がありますので、事前の検討が有効です。

 

②請求されることが予想される側

 年金分割においてどの程度のものが分割されるかを検討しておくことは有益ですが、婚姻期間が短いようなケースでは請求されないこともありますし、年金分割の按分割合について争うことは困難な場合も多いため、他の検討事項に比べれば優先度は低くなります。

 

 離婚を考えた場合には概ねこのような視点で状況を整理しておくと、いざ実行に移そうと思った場合にどこが問題になりそうか、ある程度クリアになると思いますので、参考にしていただければ幸いです。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年6月14日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所