個人再生のメリットについて~個人再生③~

 

 以前、借金問題の解決の手段の一つとして個人再生をご紹介しました。

 

 法的な債務整理の方法としてはほかにも自己破産がありますが、個人再生には自己破産にない独自の利点がありますので、今回は自己破産にはない個人再生のメリットについてご紹介したいと思います。

 

住宅ローンのある自宅を残して、その他の債務を圧縮できる可能性がある

 個人再生の最も大きなメリットが、住宅ローンを払って自宅を確保しながら、それ以外の債務の圧縮が可能になる点です。

 

 同じく自宅を残すことが可能な方法としては個別に債権者と交渉する任意整理がありますが、分割払いの任意整理では債務の圧縮は期待できないため、これを両立できる点が個人再生の大きなメリットです。

 

 もちろん、住宅ローンについては支払いを続けることが大前提ですが、このメリットがあるため、当事務所では、住宅ローンのある方についてはまずもって個人再生を検討します。

 

 ただし、このメリットを受けるためには居住用の不動産(床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること)であることが必要ですので、たとえば投資用マンションやセカンドハウスのケースでは対象になりませんし、不動産に住宅ローン以外の担保権がついている場合も対象にならないことには注意が必要です。

 

 また、上記の条件を満たしても、不動産の評価額が高く、逆に住宅ローン残高が少ない場合(アンダーローン)には、債権者に最低限弁済しなければならない金額(最低弁済額)が高くなり、個人再生が利用できない場合もあります。

 

不動産以外の財産も処分を避けられる可能性がある

 個人再生で住宅ローン債権者以外の一般の債権者に支払う必要のある最低弁済額は、多くの場合、100万円~負債額の5分の1か、債務者の財産評価額の合計額(清算価値)のどちらか高い方となります(詳しくはこちら→「個人再生をすると、負債はどれくらい減るのか?~個人再生②・最低弁済額~」)。

 

 これは要するに、財産を処分して債権者に分配したのと同等以上の金額を支払えば足り、必ずしも手持ちの資産をお金に換えて返済に充てなければならないわけではない、ということを意味しています(ちなみに、あえて財産の一部を処分してこれを頭金として初回の返済に充て、2回目以降の返済額を大幅に減らすという返済計画も可能です)。

 

 そのため、たとえば以下のような保険がある事案だと、自由財産である99万円の現金を除いて計算した最低弁済額は200万円となり、これを原則3年(最大5年)で分割返済していく必要はあるものの(3年だと毎月約5.5万円+送金手数料)、毎月の返済資金さえ捻出できるのであれば保険そのものを処分されることはありません。

 

 これに対して、自己破産のケースだと、合計299万円の資産のうち99万円までは手元に残せる可能性があるものの(自由財産の拡張)、特別の事情がない限りそれを超える金額を残すことは難しい場合が多いため、保険は諦めざるを得ないことがあります。

 

【設例】

債務額:600万円

 

保険解約返戻金:200万円

 

現金:99万円

※自由財産のため清算価値には計上しない

 

最低弁済額:600万円÷5<200万円 

    → 200万円

 

浪費等がひどくても利用できる可能性がある

 借金の原因がギャンブルや飲食などの散財であり、その程度があまりにもひどい場合、自己破産では解決が難しいことがあります。

 

 もちろん、免責不許可事由があっても多くの場合には免責が許可されているため(詳しくはこちら→「免責不許可になる割合は?~自己破産⑧~」、浪費があるから即個人再生をすべきということではありませんが、弁護士からみてもあまりにもひど過ぎるという場合には、自己破産ではなく個人再生で進める方がよい場合もあります。

 

 というのも、個人再生については、自己破産に比べて借金の原因が問題になることが少なく(もちろん、不正な目的で個人再生を申し立てた場合は却下されるため限界はあります。)、最低弁済額以上の返済ができるだけの収入がある場合には、自己破産は難しくても個人再生は認可される可能性があるためです。

 

 当職自身が過去に担当したケースでも、負債のほとんどがギャンブルであり、それによって作った負債額も非常に多額であったという事案で、ご本人が個人再生を選択したというものがあります。

 

資格制限がない

 自己破産の場合、警備員や宅地建物取引士など一定の資格に制限がかかりますが、個人再生ではそのような制限がかかりません。

 

 実際には資格制限のかからない職業に就いている方も多いため、そのような方にとっては関係のない話ですが、職業の関係で自己破産を選択できない場合でも債務を圧縮できるというのも個人再生のメリットの一つです。

 

対外的イメージ

 これはメリットといえるかどうか評価が分かれるところではないかと思いますが、自己破産という言葉の持つネガティブなイメージを避けたいということで、あえてご本人が個人再生を選択なさる場合もあります。

 

 個人再生も自己破産と同様に信用情報や官報に載りますし、保証人に影響が出るというデメリットも共通なのですが、残念ながら自己破産に対してはマイナスイメージがあることは否めませんので、経済的なメリットよりもそちらを重視したいという方には個人再生をお勧めすることがあります。

 

 以上、個人再生について思いつく限りのメリットをご紹介しました。

 

 個人再生は、うまくはまれば経済的な立ち直りに大きな威力を発揮する制度ですが、破産に比べて最低弁済額の計算や弁済計画案の作成などの面で難しいところがありますので、手続を希望する場合には専門家への依頼をお勧めします。

 

 なお、弁済計画の認可決定が確定した後、債権者への配当についても代行してもらえるかどうかは依頼先によって異なります。

 

 当事務所では認可決定確定後の弁済代行までお引き受けしていますが、依頼先によっては配当自体は自分でしなければならない場合もあり、長い弁済期間のため債権者数が多いと配当作業が大変なこともありますので、認可決定後の配当代行まで希望する場合には、事前に依頼先に確認しておいた方が良いと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

むち打ちで後遺障害が認定された場合の示談交渉で注意すること~交通事故⑬~

 

 交通事故相談で多く当たる人身事故のケースとして、いわゆるむち打ち(頸椎捻挫)があります。

 

 むち打ちについて後遺障害が残った場合、そもそも自賠責の後遺障害等級に該当するかどうかのレベルで問題となることが多いのですが、無事に後遺障害等級の認定を受けられた場合でも、今度はその次の示談交渉で注意すべき点がありますので、今回はこの点についてお話しします。

 

 なお、むち打ちで認められる可能性がある後遺障害等級は、14級9号(局部に神経症状を残すもの)12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)の2つですが、今回は当職が相談の中で出会うことの多い14級9号をもとにご説明したいと思います(着眼点そのものは12級の場合も同じです)。

 

後遺障害の慰謝料が適切に計算されているか

 むち打ちで後遺障害の等級認定がなされると、ケガで治療を要したことに対する慰謝料(傷害慰謝料)のほか、後遺障害が残ったことに対する慰謝料(後遺障害慰謝料)が発生します。

 

 しかし、後遺傷害に関する慰謝料についてきちんとした算定がなされていない場合がありますので、ここが一つ目のチェックポイントです。

 

 たとえば当職が過去に担当した事案では、14級9号の慰謝料について、裁判基準であれば110万円が相当であるところ、弁護士が介入する前に提示されていた金額は約58万円だったということがあり、交渉の結果慰謝料を増額した事案があります。

 

逸失利益が適切に計算されているか

 次に、後遺障害等級の認定がなされた場合、その等級に応じて、失われた利益(逸失利益)の支払いがなされますが、この点の計算が妥当かも検討する必要があります。

 

 逸失利益の計算は、 【基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】 という計算式で求めることになっていますが、相手方からの示談案が妥当かどうかを判断するには、この計算式に用いるそれぞれの数字に問題がないかどうかを一つずつ見ていきます。

 

【point1 基礎収入は適切か】

 基礎収入については、事故の被害者の就業状況や年齢などにより様々な計算ルールがあるため、ここで全てのケースについて細かく解説することはできませんが、主婦(家事労働者)、自営業者、若年労働者(事故当時概ね30歳未満)、学生・生徒、幼児などについて問題となることが多くありますので、被害者がこのカテゴリーに入るケースには注意していただきたいと思います。

 

【point2 労働能力喪失率は適切か】

 14級9号の後遺障害等級認定がなされた場合、後遺障害により失われた労働能力は基本的には5%とされていますが、労働能力喪失率は具体的な職業との関係で判断されるものであり、5%という数字も一応の目安に過ぎません。

 

 そのため、(特にむち打ちに限った話というわけではありませんが、)保険会社から、後遺障害の仕事への影響は少ないとして低い数字が提示される場合がありますので、妥当な内容となっているか検討することが必要です。

 

【point3 労働能力喪失期間は適切か】

 さらに、むち打ちで14級9号が認定された場合、後遺傷害が労働能力に影響を及ぼす期間について5年程度とされる例が多いですが、保険会社からの示談案ではそれよりも短い期間になっていることがあります。

 

 当職が過去に担当したケースでも、弁護士が介入する前、保険会社から労働能力喪失期間が2年と提案されていた事案がありました。

 

 労働能力喪失期間が5年である場合と2年の場合とでは、先ほどの計算式に当てはめる数字(=ライプニッツ係数)が大きく異なるため(5年だと4.3295(令和2年4月1日以降の事故は4.5797)、2年の場合は1.8594(令和2年4月1日以降の事故は1.9135)。)、ここの違いが逸失利益の金額に大きな影響を与えることがあります。

 

 最終的には、後遺障害が仕事にどの程度の影響を与えるのかを事案毎に検討していくことになるため必ずしも5年にならない場合もありますが、さしたる理由もなく短い期間で提案されていないかをチェックするのも重要なポイントです。 

 

その他の費目にも注意

 以上、むち打ちのケースで主に後遺障害に関する慰謝料と逸失利益について注意点を説明しましたが、そのほかにも、傷害慰謝料(入通院慰謝料)や休業損害など、後遺障害以外の費目についても妥当な計算がなされていないケースがあるため、これらの点もきちんとチェックすることが大事です。

 

 交通事故による損害賠償問題は誰しもが遭遇する可能性のあるトラブルですが、いざ自分がその立場に立った場合に、保険会社からの示談案が妥当かどうかを検討するのは簡単なことではありませんので、自分では判断がつかない場合には、交通事故相談をご活用いただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

加害者から物損事故扱いにしてほしいと言われたらどうするか~交通事故⑫~

 

 交通事故の被害に遭った際、ケガの程度が軽く、加害者側から治療費は負担するから物損扱いにしてほしいと言われて物損で届け出たが大丈夫だろうか、というご相談を受けることがあります(似たような問題として、事故直後は痛みがなかったので物損で届出したが、その後、痛みが出てきてしまったというご相談もあります)。

 このような場合にはどう対応をして良いか迷うことがあると思いますので、今回はそのような申し出がなされる理由や物損と人身の違い、具体的な対応方法などについてお話したいと思います。

 

なぜ物損事故扱いを望む加害者がいるのか?

 そもそも、なぜ交通事故で加害者側が物損扱いを望むかといえば、加害者側には以下のような事情があるからです。

 

①他に道交法違反(飲酒・スピード違反等)の事実がなければ、違反点数が加算されない

②他に道交法違反の事実がなければ刑事処分がない

③人身扱いになると、職場でペナルティが発生する(職場によりけり)

 

物損事故として届け出た場合のリスク

 このように、物損扱いで交通事故を処理をすることは加害者にとっては意味がある場合がありますが、他方、被害者には特にメリットはなく、かえって以下のようなリスクがあります。

 

 ①治療費等の支払いに影響が出る可能性 

 物損扱いとする以上、加害者側が怪我の治療費や慰謝料を支払ってくれない可能性があります。

 もっとも、相手方がきちんと任意保険に入っていて怪我の発生も争わない場合は、警察への届出が物損扱いのままでも対応してもらえることがあり、実際に過去に受けた交通事故相談でも、警察には物損扱いで届け出たものの相手方保険会社が人身として扱ってくれ、治療費を内払いしてくれているというケースがありました。

 しかし、これはあくまでも相手方がケガの発生を認めている場合のことですし、相手方の保険会社に人身扱いにしてもらえても、「はじめ物損で届け出たということはケガの程度はさほど重くないはずである。」と判断されて治療費の支払期間を制限されたり、後の示談交渉で慰謝料算定の基準となる治療期間を争われる、などといった不利益を被る可能性は否定できません。

 交通事故が起きた場合に当初物損で届け出るケースはむち打ちや腰の捻挫ですが、実際に交通事故相談にあたっていると、たいした怪我ではないと思っていたがなかなか治らなかったり後遺障害が残ったというケースも多く、事故当初の判断が後で大きく影響することがあるため注意が必要です。

 

 ②実況見分調書が作成されない 

 物損の場合、警察は交通事故の状況に関する実況見分調書を作成しません。

 そのため、後の示談交渉で過失割合について争いが生じても、当時の事故状況に関する客観的証拠が乏しく、過失割合の交渉で不利になる可能性があります。

 

物損から人身への切り替えはできるのか?

 このように、実際には交通事故でケガをしているのに物損として届け出ることはまったくお勧めできませんが、すでに物損で届け出てしまったという場合でも一定の期間内であれば警察に届け出ることにより人身に切り替えてくれる場合があります。

 もっとも、当然ながらいつまでも切り替えが可能というわけではなく、明確な期限はないもののせいぜい1週間から10日程度ではないかと言われることが多い印象です。いずれにせよ、日数が経ちすぎると事故との因果関係が不明であるとして切り替えを受け付けてくれないようですから、人身への切り替えを希望する場合は速やかに診断書を取得し、手続きを行うのが賢明です。

 これまでお話したとおり、物損で届け出てしまったときでもリカバリーがきく場合はありますので、まずは早急に診断書をとって警察に相談に行き、今後の対応について分からないことがあった場合は弁護士への交通事故相談をご検討いただきたいと思います。  

 

弁護士 平本丈之亮

 

最近の裁判例に見る不貞による(離婚)慰謝料

 

 弁護士として離婚問題を扱っていると必ず出会う相談に、不貞による離婚と慰謝料に関するものがあります。

 

 もっとも、不貞によって離婚する場合に慰謝料の請求ができることは皆さんご存知ですが、ではその金額はいくらが妥当なのかと言われると、なかなか分からないという方が多いと思います。

 

 正直に申し上げると慰謝料の金額は弁護士でも判断が難しいところなのですが、今回は、慰謝料を請求する側、あるいは請求された側の解決のヒントとして、最近の裁判例ではどの程度の金額が認められているのかを紹介してみたいと思います。

 

 なお、今回ご紹介する判決は、夫婦の一方が他方に対して、不貞行為により婚姻関係が破綻したことを理由に慰謝料を請求した事案をピックアップしたものであり、近時重要な最高裁判決の出た不貞相手に対する慰謝料請求や、婚姻関係が破綻に至らなかったケースについては参考になりません。

 

 また、あくまで当職が利用可能な判例集で見つけた範囲のものにすぎず、慰謝料の算定にはそれぞれの判決で認定された個別の事情が大きく影響していると思われますので、ここで紹介した判決が認めた金額がすべてのケースで妥当するとは限らないこともあらかじめお断りしておきます。

 

東京地裁平成30年2月22日判決

【慰謝料】

 150万円

 

【婚姻期間】

 不貞行為が開始されたと思われる時点で約17年

 

【不貞行為の期間】

 約9か月間

 

【離婚】

 未成立(ただし、双方離婚の意向あり)

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①不貞行為者は不貞相手との結婚まで考えていたこと

 

②夫婦間に実子がいなかったこと

 

③他方配偶者側の言動や不貞発覚後の対応にも問題があったかのような指摘(詳細は割愛)

東京地裁平成30年2月1日判決

【慰謝料】

 200万円

 

【婚姻期間】

 約39年(ただし、そのうち約18年弱が別居期間)

 

【不貞行為の期間】

 離婚成立まで約18年(うち不貞相手との同居期間約12年)

 

【離婚】

 成立

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①離婚調停において、約530万円の財産分与が約束されたこと

 

②不貞行為者が、別居後、約15年強で5000万円を超える生活費を支払ったこと

東京地裁平成30年1月12日判決

【慰謝料】

 200万円

 

【婚姻期間】

 約5年

 

【不貞行為の期間】

 不明確

 

【離婚】

 成立  

 

【その他判決で指摘された事項(一部)】

①原告が再婚であったこと

 

②不貞行為者が複数の者と不貞行為に及んでいたこと(少なくとも3名以上)

東京地裁平成30年1月10日判決

【慰謝料】

 150万円

 

【婚姻期間】

 婚姻関係破綻時までで約6~7年 

 

【不貞行為の期間】 

 約1ヶ月

 

【離婚】

 不明(ただし、婚姻関係が破綻したことは認定)

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①不貞行為者が短期間で別居を決意するに至っており、不貞行為が破綻の決定的要因になったこと

 

②不貞行為者である実親が、自分の実子に対して、他方配偶者は実の親ではないという事実(養子縁組したこと)を明かしたこと

 

③不貞行為者は、離婚を切り出してからわずかの間に、秘密裏に家財等の財産を持ち出し、これによって他方配偶者は子どもとの別居生活を余儀なくされたこと

 

④不貞行為に及ぶ前の段階で婚姻関係は破綻に近づいていたこと

東京地裁平成28年11月8日判決

【慰謝料】

 200万円

 

【婚姻期間】

 婚姻関係破綻まで約4年弱

 

【不貞行為の期間】

 少なくとも約1年3か月

 

【離婚】

 成立

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①不貞行為者が不貞相手の裸の写真を所持し、これを他方配偶者が発見したこと

 

②夫婦間に子どもがないこと

 

 以上、慰謝料についていくつかの裁判例をご紹介しましたが、離婚が成立している、あるいはまだ離婚に至っていなくても婚姻関係が破綻しているケースでは、判決で150~200万円程度の金額が認容される可能性があることはお分かりになったかと思います。

 

 もっとも、冒頭でもご説明した通り、慰謝料は個別の事情によって変わるため最終的には事案次第としか言いようがありません。また、不貞がからむ離婚問題は非常にデリケートであるため裁判に至らず協議や調停で解決することも多く、早期あるいは穏便な解決のためやむを得ず金額にこだわらない形で処理せざるを得ないこともあるため、具体的にどのような金額が妥当かは悩ましい問題です。

 

 一口に慰謝料といっても、金額のみならず、具体的な請求の仕方や支払いの方法、履行の確保など検討しなければならないことが多くありますので、不安がある方は弁護士へのご相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

離婚調停に弁護士は必要か?

 

 離婚調停を考えている方や相手方から離婚調停を申し立てられた方からのご相談の際によく聞かれるのが、弁護士を頼んだ方がよいかというものです。

 

 そこで今回は、離婚調停と弁護士への依頼をテーマにお話してみたいと思います。

 

絶対に必要ということはない

 離婚調停は当事者だけで手続を進められるように書類の書き方や裁判所での受付体制が整っていますし、実際にご自分で対応して解決されている方も多くいらっしゃいますので、どのような場合でも弁護士が必要というわけではありません。

 

 そのため、離婚調停に弁護士が必要かというご質問を受けた場合には、弁護士をつけずに離婚調停を行っている方も多いこと、要所要所で弁護士からアドバイスを受けながら離婚調停そのものはご自分で対応されている方もいらっしゃること、をお伝えするようにしています。

 

弁護士への依頼が有効なケースもある

 もっとも、たとえば以下のよう場合においては弁護士への依頼が有効と思われますので、依頼を検討されても良いと考えます。

 

協議すべき事柄が多岐にわたる場合

 

 養育費、慰謝料、財産分与、年金分割など協議事項が多い場合については、調停委員の力量に左右される部分もあるため弁護士が必須とまではいえないものの、そもそも話し合うべき事柄が多いため、お互いの言い分や必要な資料を整理して提出するだけでかなりの時間を費やすことがあります。

 

 調停期日は基本的に1~1ヶ月半に1回程度しか入りませんので、具体的な話し合いに入る前の準備だけで期日が繰り返されて解決が遅くなることがあり、当初から弁護士が関与して、うまく交通整理しながら手続を進めることで無駄な時間を減らせる可能性があります。

 

親権について争いがある事案

 

 この場合はそもそも調停で解決できず訴訟に移行する可能性も高いケースですが、弁護士が親権者の適格性を適切に主張した結果、相手方を説得して解決できる場合もあります。

 

 また、たとえ調停がまとまらなくても、調停段階で相手方の考えがある程度わかっていれば、後の訴訟に備えて対策を検討しておくことも可能となりますので、弁護士の関与が有効な場面です(はじめから訴訟が視野に入っているなら、調停の段階から弁護士を関与させた方がスムーズに訴訟に移行できるという面もあります)。

 

財産分与について、財産の範囲や評価、分与割合などに争いがある場合

 

 

慰謝料について不相応な提案がなされている場合

 

 ③④のような場合では、適正な金額をもとに合理的な話し合いを進めるうえで弁護士の知識・経験が有効なケースと思われます。

 

書類作成や資料整理の時間が取れなかったり苦手な場合

 

 これは、主にご本人の負担の軽減を目的に弁護士を利用する場合です。

 

 離婚調停では、申立書等の作成作業や、必要な書類を整理して適切に提出することを求められる場面がありますが、仕事等で時間がとれず十分に対応することが難しかったり、そのような作業が得意ではない場合には弁護士に代行してもらうことが有効です。

 

要望を伝えたり決断することに不安がある場合

 

 調停期日では相手方や調停委員から様々な要望や意見が出され、それに対して判断したり、反対にこちら側の要望を適切に伝えたるために工夫が必要となる場合がありますが、そのすべてを自分だけですることが不安な場合にも弁護士を関与させた方が良い事案といえます。

 

法律的に妥当な条件かをきちんと検討した上で離婚したい場合

 

 離婚調停はあくまで話し合いで解決を目指す手続であり、どちらが正しいかを決める手続ではないため、客観的に見れば必ずしも妥当な離婚条件ではなかったとしても、当事者双方が合意すれば原則として調停は成立することになります。

 

 しかし、後になってから離婚調停で取り決めた内容が不利な内容であったことが分かったとしても、やり直しは困難です。

 

 また、調停委員は中立な立場であり、立場上、どちらか一方に有利になるような働きかけはできませんので、調停中に協議されている離婚条件が妥当かどうかについてアドバイスを期待することはできません。

 

 そのため、離婚条件の妥当性について自分で調べたり判断することが難しく、かつ、この点をきちんと検討し納得した上で離婚したいという場合にも、弁護士を関与させた方が良いと思います。

 

相手方が復縁について望みを持っている場合

 

 弁護士をつけることによって離婚の意思が固いことを相手方に示すことができるため、復縁を諦めてもらい、離婚の方向に流れを持っていく一つの材料として弁護士を活用する方法です。

 

相手方に大きな問題がある場合(特にDV事案)

 

 DV事案など相手方に問題が多い事案では、依頼者の安全を図りながら慎重に手続を進める必要がありますし、不調に終わった場合の訴訟も見据えた上での対応が必要になるため、調停段階から弁護士が関与した方が良いケースであると思われます。

 

 なお、DV事案については、現在は各地の相談窓口が充実してきており、各相談窓口と弁護士との連携も進んできていますので、離婚についてアクションを起こす前には、まずはどのような進め方をしたら良いかを事前に十分相談することが望ましいと思います(場合によっては関係先の援助を得てシェルターへの避難や保護命令の申し立てなどの事前措置を講じた方が良い場合があるため)。

 

10相手に弁護士がついている場合

 

 相手が弁護士に依頼した場合、法律知識の差から調停で不利な流れになることは否定できません。

 

 間に調停委員が入るため協議離婚に比べればまだ良いですが、協議すべき事項について法律上の問題が生じた場合に、相手の弁護士が述べる内容が妥当なものかどうかを自分だけで判断することは難しく、先ほど述べたとおり調停委員も中立でありこちらの味方ではないため、適切にアドバイスできる弁護士が身近に板方が良い場面です。

 

 

夫婦関係の調停で弁護士を利用した人の割合は?

 2019年版の日弁連の統計資料によると、2018年に離婚調停と夫婦円満調整調停において申立人と相手方のどちらかに弁護士がついたケース、双方に弁護士がついたケースを合わせると約51.7%のケースで弁護士が関与していたとのことですので、夫婦間の関係を取り扱う調停においては、相当数、弁護士の利用が進んでいるようです。

 

 

 以上のとおり、離婚調停の段階からでも弁護士に依頼することが有効と思われる場面はありますが、他方で、訴訟から依頼するのに比べて費用がかさむ場合があることは否定できません。

 

 そのため、離婚調停の段階で弁護士に依頼するかどうかは費用との兼ね合いで決めざるを得ない面がありますが、そもそもご自分のケースで弁護士に依頼する必要があるかどうかを判断すること自体が簡単なことではありませんので、実際に依頼するかどうかは別として、判断に迷われたときはまずは相談だけでも受けてみることをお勧めしたいと思います。

 

 また、弁護士へ依頼するとそれなりに長い付き合いになるため、弁護士と依頼者の相性は非常に重要なポイントです。

 

 したがって、依頼を具体的に検討し始めたら、場合によっては複数の弁護士へ相談してみて、自分にとって一番合う(信頼できる)と思える弁護士を探してみることも考えて良いと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年3月23日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

離婚調停の流れ

 

 離婚について協議をしたものの解決しなかった場合、次のステップとして行うのが離婚調停です(事案によっては協議を試みずに調停から申し立てた方が良いケースもあります)。

 

 しかし、多くの方にとって離婚は人生で一度きりの出来事であり、裁判所に行ったことなどない方もほとんどですので、実際に調停に臨む際の精神的ストレスは大変なものです。

 

 そこで今回は、はじめて離婚調停に臨まれる方向けに、離婚調停の大まかな流れや期間などについてお話ししたいと思います。

 

離婚調停の一般的な流れ

 

離婚調停の申立

離婚調停は、夫婦のどちらかが相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをすることによってはじまります。

 

※例外的に、夫婦で調停を行う裁判所を合意し、その裁判所で行うこともあります(合意管轄)。

 

申立をする方は、まずはどうやって申立すればよいのかを調べるところから始まりますが、申立書などの基本的な用紙は各裁判所に備え付けてあり、裁判所のHPから直接ダウンロードしたものを利用することも可能です。

 

書類の提出は裁判所への持参だけではなく、郵送でも可能です。

申立~第1回調停期日まで

通常、調停の申立てから概ね1か月~1か月半程度で第1回の調停期日が開かれます。

 

その間、必ずしておかなければならないものはありません(書類に不備等があれば裁判所から連絡があります)。

 

ただし、申立の時点で裁判所に提出していなかった資料がある場合、期日前に提出しておいた方が解決までの期間短縮につながる場合があります。

 

たとえば財産分与を請求したい場合で相手の財産がある程度分かっているなら、相手の財産の目録や裏付けとなる資料を提出しておくことが有効です。

 

また、年金分割を請求する場合には年金分割の情報通知書が必要になりますが、これは手元に届くまで時間がかかりますので早期に取得して提出しておいた方が良いと思います(なお、訴訟に移行する可能性がある場合には訴訟の段階で情報通知書を改めて提出する必要がありますが、いったん提出してしまうと後で返してもらえず再発行が必要になるため、提出時に原本還付の手続をしておくことをお勧めします)。

 

これに対して、不貞の証拠については、証拠の価値の強弱や協議段階での相手の対応等次第で出した方がよいかどうか異なり、場合によっては裁判まで温存しておいた方が良い場合もありますので、迷った場合は弁護士へ相談された方が良いと思います。

第1回調停期日の流れ

【受付】

まず、開始時間前に裁判所で受付を済ませると待合室に案内されます。

 

調停室は別々になっていますので、調停室で鉢合わせすることはありません。

 

その後、時間になると調停委員が待合室に呼びに来ますので、指示に従って調停室に入室すると、調停が始まります。

 

【調停の進行】

調停員は2名(男女1名ずつ)ですが、通常の流れだと、申し立てた側から調停室に呼ばれます。

 

そこで、調停委員から申し立てに至った事情を聞かれ、申立書などの記載事項の確認や離婚に関する要望の聞き取りなどがあります。

 

それが終わると相手方と入れ替わり、今度は相手方の事情聴取が終わるまで待合室で待つことになります。

 

場合によっては自分が話している時間よりも待っている時間の方が長いことがありますので、本を持ってくるなど待ち時間を過ごすための準備はしておいた方が良いと思います。

 

このような流れを何度か繰り返し、その日の話し合いで合意できる部分や次回に持ち越しになる点が明確になったら、次回期日を決めて第1回調停期日は終わりです。

 

基本的には調停委員とのやりとりのみで手続は進みますが、子どもに関連して双方に対立があるケースだと家庭裁判所調査官が立ち会うこともあります。

 

【1回の調停にかかる時間は?】

 

一概には言えないものの、中身のある実質的な話し合いが行われる場合、待ち時間を含めて通常1時間半から2時間程度はかかることが多いと思います。

 

ただし、協議事項が少ない期日や双方に代理人弁護士がついていて協議事項がある程度整理されていると1時間を切ることもあります。

 

この部分は調停に入る前の事前準備がどれだけできているかにもよりますので、自分側だけでも主張や資料を整理して準備しておくと調停期日の時間短縮につながりますし、そのような準備の積み重ねによって早期に問題点が整理できれば解決までの期間短縮にもつながります。

2回目~調停成立(不成立)

基本的な流れは第1回の調停期日と同じです。前回の期日での宿題をもとに話し合いを行い、合意形成を図っていくことになります。

 

期日と期日の間隔は概ね1か月程度ですが、支部など裁判官や調停委員が少ないようなところではそれよりも間隔が長くなることがあります。

 

合意がまとまれば、裁判所が調停調書と呼ばれる書類を作り、当事者間の合意内容を紙にしてくれます。

 

調停が成立しなかった場合、調停手続は不調により終了しますので、離婚を求める側は訴訟を提起することになります。

 

調停成立までの期間は?

 

 これはケースバーケースとしか言えませんが、感覚的には3か月~半年程度が多く、1年程度かかることも稀ではない印象です。

 

 平成30年度の司法統計によると、離婚を含めた夫婦間の紛争全体に関する調停について調停が成立した事案のうち成立までの期間は、3か月以内が約29%、3~6か月以内が約36%、6~12か月以内が約27%となっており、半数以上が半年以内に成立に至っているようですので、半年程度が一つの目安になると思われます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

債務者の財産を調査する手続の拡大・その2~財産開示手続の拡充~

 

 以前のコラム(「債務者の財産を調査する手続の拡大~改正民事執行法の話~)で、令和元年5月に民事執行法が改正され、債務者の財産を調査するための手段として第三者から直接情報を取得する手続が新設されたことをご紹介しました。

 もっとも、今回の改正では、第三者からの情報取得手続の新設のほかにも、従来から存在する「財産開示手続」にも改正が施され以前よりも財産調査の実効性が高まることが期待できるようになりましたので、今回はこの点についてご紹介したいと思います。

 

財産開示手続とは

 まず、そもそも「財産開示手続」とはどのような制度かということですが、これは強制執行可能な状態にある債権者の申立により、裁判所が債務者を呼び出し、非公開の手続で債務者自身に自分の財産を陳述させる手続です。

 しかし、この制度については、かねてから①申し立てできる人(申立権者)の範囲が狭い、②不出頭や陳述を拒否した場合の罰則が30万円以下の過料と軽い、という問題点が指摘され、債務者の財産を調査するための手段としては実効性に乏しいという批判がありました。

 今回の改正はこのような批判に応えるものであり、具体的には以下のような改正がなされました。

 

申立権者の拡大

 従来の財産開示手続では、強制執行可能な公正証書(=執行証書)を持つ人が申立権者から外れていたため、たとえば婚姻費用や養育費の債権者など、本来であれば手厚く保護すべき人が利用できないという難点がありました。

 そこで、今回の改正では、上記のような公正証書を有する者も申立が可能になり、このような問題点が解消されることになりました(なお、それ以外にも、支払督促や仮執行宣言付判決を取得した人も申立が可能となりました)。

 

刑事罰の新設

 従来の制度では、陳述拒否などの罰則が30万円以下の過料であり、いわば逃げ得を許す余地を認めるものであり軽すぎるとの批判がありました。

 そこで、今回の改正では罰則が引き上げられ、正当な理由のない不出頭や宣誓拒絶、また、正当な理由のない陳述拒否・虚偽陳述について、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金の刑事罰が科せられることになり、財産開示手続の実効性を高めるための工夫がなされました。

 

財産開示手続の要件

 このように実効性が強化された財産開示手続ですが、この手続を利用するためには、法律上、以下のいずれかの要件を満たすことが必要となっています(この要件は法改正前からのものです)。

 

①申立前6ヶ月以内の強制執行又は担保権の実行によって、金銭債権の完全な満足を得られなかったこと

②既に分かっている財産に対して強制執行を実施しても、金銭債権の完全な満足を得られないことの疎明があったこと

 

 ①については、実際に何らかの財産について強制執行などを実施したものの、完全な回収が得られなかった場合を意味します。

 これに対して②は、債権者が通常行うべき調査を行い、その結果判明した財産に強制執行等を実施しても完全な回収が得られないことが一応確かであると認められることをいい、実際に強制執行等を行うことはまでは必要ではありません。

 もっとも、②については、どこまでの調査をすれば疎明があったと言えるかが不明確な部分もありますので、一度強制執行を試みる手間はあるものの、①の方がわかりやすく使い勝手が良い場面も多いかと思われます。

 

給与情報や不動産情報を得るには財産開示手続が必要

 今回の民事執行法の改正では、第三者からの情報取得手続として、債務名義(執行証書、調停調書、審判書、和解調書、判決書など)を有する金銭債権者は登記所から不動産情報を取得できるようになり、また、特に婚姻費用や養育費など要保護性の高い債権について債務名義を有する者は市町村等から給与情報の開示を得られるようにもなりましたが、そのような情報取得手続を利用するには、3年以内に財産開示手続が実施されていることが必要であるとされました。

 これに対して、同じく第三者からの情報取得手続である預貯金情報や有価証券情報についてはこのような条件はありませんので、財産開示手続を前置する必要はありません。

 

 

 今回の一連の法改正により、債権回収のためのメニューが以前よりも充実することになります。

 特に、これまで事実上回収を断念してきた婚姻費用や養育費の債権者にとっては、財産開示手続や勤務先に関する情報取得制度の利用によって、(相手がきちんと働いていればという条件付きではありますが、)給与への差押えによる回収可能性が高まると思いますし、実際に強制執行まで至らずとも、これらの開示手続の申立をきっかけに支払いにつながる場面も増えてくるのではないかと思われますので、公正証書や調停などで取り決めた養育費等が滞っているような場合には積極的な活用を検討してほしいと思います。

 なお、改正後の財産開示手続は、2020年4月1日から施行されます。

 

弁護士 平本 丈之亮

税金の滞納処分として給与振込口座を差し押さえることが違法とされる場合・その2(大阪高裁令和元年9月26日判決)

 

 以前のコラムで、年金口座への滞納処分の違法性が問題となった前橋地裁平成30年1月31日判決(→「税金の滞納処分として給与振込口座を差し押さえることが違法とされる場合」)と、給与口座への滞納処分の違法性が問題となった東京高裁平成30年12月19日判決(→「年金振込口座への滞納処分の違法性が問題となった事例(東京高裁平成30年12月19日判決)」)をご紹介しましたが、これに関連して昨年9月、大阪高裁が給与振込口座への滞納処分を違法であるとして差押金の一部の返還を命じた判決を下しましたので、今回はこの判決を紹介したいと思います。

 

原審:大津地裁平成31年2月7日判決

 大阪高裁判決の原審である大津地裁は、以下のとおり述べ、差押禁止部分を差し押さえることを狙って預金口座を差し押さえた場合には違法になるとした上で、本件では滞納処分が給与振込日から2日後に行われており、その間、被処分者が給与を原資とする預金を自由に処分できる状況にあったことを指摘し、仮に処分庁が預金債権に転化したところを狙っていたのであれば振込直後かその日のうちに差し押さえを行っていたはずであるとして、処分庁には給与が預金債権に転化した時点を狙って差押禁止部分を差し押えようとした意図があったとはいえないと判断し違法性を否定しました。

 

「本件預金債権は「給与に係る債権」(国税徴収法76条1項)ではないため、これに対する差押処分が同条によって禁止されるものではない。もっとも、徴収職員において、給与債権が一般債権である預金債権に転化する時点を狙い、給与債権であれば許されない金額まで確実に差し押さえて滞納国税を徴収することを意図して預金債権の差押処分をする場合には、同条の差押禁止の趣旨を没却する脱法的な差押処分というほかはない。そして、このような差押処分は、「給与に係る債権」(国税徴収法76条1項)の差押えと実質的に同視できるものとして、同項の趣旨に照らし、違法となるというべきである。」

「(中略)本件差押処分が行われたのは、当初からの予定通り、本件預金口座に本件給与が振り込まれた平成28年2月15日の2日後である同月17日であり、その間に原告が本件預金口座に振り込まれた本件給与に係る金員を自由に処分できる状況にあったことに照らすと、・・・統括官において、預金債権に転化した時点を狙って本件給与を差押え可能な範囲を超えて確実に差し押さえようとする意図があったとは認め難い。」

 

 なお、原審では、責任者(統括官)が、給与振込日以降に口座の差押えを行った場合、給与それ自体を差し押さえたとすれば差押え可能な範囲の金額を超えた差押処分となる可能性を認識していたとも判示していますが、そのような可能性を認識していたというだけでは違法とはならないとしており、あくまでも差押禁止部分を差し押さえようという積極的な意図が必要であるという立場をとっています。

 このような積極的な意図を要求する考え方は、以前にご紹介した前橋地裁判決と同じ枠組みといえます。

 

 

大阪高裁令和元年9月26日判決

 前記地裁判決の控訴審である本判決も、一定の場合には給与振込口座への滞納処分は違法になるとしましたが、その判断枠組みについて以下のように判示しています。

 

 【滞納処分としての給与口座差押の違法性判断の枠組み】 

「給与等が受給者の預金口座に振り込まれて預金債権になった場合であっても、同法76条1項及び2項が給与生活者等の最低生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差押えを禁止した趣旨に鑑みると、具体的事情の下で、当該預金債権に対する差押処分が、実質的に差押えを禁止された給与等の債権を差し押さえたものと同視することができる場合には、上記差押禁止の趣旨に反するものとして違法となると解するのが相当である。」

 

 注 同法=国税徴収法

 

 次に、本判決は、本件における具体的事情として概ね以下のような事実を認定しました。

 

 【裁判所が認定した主な事実関係】 

①滞納処分の対象となった預金口座への入金としては、わずかな例外を除き、就労先からの給与であった。

②処分庁の統括官は、銀行からの回答書に添付された1年間の入出金履歴から①の事実を把握していた。

③そのため、統括官は、対象口座が給与振込口座として利用されていることを認識していたと推認される。

④また、統括官は、入出金履歴から、平成27年7月以降、対象口座には毎月15日前後に会社から給料が振り込まれていることや、先行して行った差押処分にあたって実施した銀行調査の際に取得した平成28年1月分の取引明細から1月15日にも会社から給料の振り込みがあったことを確認し、2月15日にも会社から給料が振り込まれる可能性があることを想定した。

⑤また、取引明細によると、別会社からも不定期に給料の振込があったことが判明したことから、統括官は別会社からの給料も振り込まれる可能性があると判断した。

⑥以上を踏まえ、統括官は、給与自体を差し押さえることも考えたが、その場合は滞納者の雇用関係に影響がでることを懸念し、給与自体を差し押さえるのではなく、その代わり給与振込が想定される対象口座を差し押さえることを選択し、部下に2月15日から19日までの間に差押えるよう指示し、17日に口座への差押えを行った。

⑦入出金履歴からすると、会社から滞納者に支給される給与は多くとも20数万円程度であると見込まれたが、滞納処分時の滞納国税の金額は本税と延滞税を併せて17万円余りであったため、統括官は、2月15日以後に対象口座へ差押えを行った場合、給与自体を差し押さえた場合に差押えができる範囲を超えて差し押さえてしまう可能性があることを認識していたと推認される。

 

 そして、以上の事実関係を前提に、本判決は以下のように述べ、本件における滞納処分は実質的に差押えを禁止された給与等の債権を差し押さえたものと同視することができると判断して原審の判断を覆し、給与口座への差押えの一部が違法であると判断しました。

 

 【本件の滞納処分の違法性についての判断】 

「以上の事実関係の下では、本件差押処分は、実質的に差押えを禁止された給料等の債権を差し押さえたものと同視することができる場合に当たるということができ、本件預金債権中、本件給与によって形成された部分(10万0307円)のうち差押可能金額を超える部分については、上記差押禁止の趣旨に反するものとして違法となると解するのが相当である。」

「(中略)本件給与に係る差押可能金額は、(中略)7万5000円となる」。

「本件各処分は、10万0308円を対象とするものであるところ、本件給与により形成された部分(10万0307円)のうち差押可能金額(7万5000円)を超える部分は、2万5307円である。」

「そうすると、被控訴人は、上記2万5307円については、これを保有すべき不当利得法上の法律上の原因を有しないこととなるから、これを控訴人に返還すべき義務を負うというべきである。」(ただし、被処分者が返還を求めた金額は2万4404円であったため、その限度で支払いを命じています。)

 

 注 被控訴人=国 控訴人=差押えを受けた人

 

 【国家賠償法に基づく請求についての判断】 

 なお、被処分者は、差押金相当額の支払いを求める根拠として、不当利得返還請求のほかに国家賠償法による損害賠償も理由としていましたが、大阪高裁は、国税徴収法は預金債権の差押えを禁止していないこと、預金債権を差し押さえることが違法となる場合があるか、違法となり得るとしてもどのような場合に違法となるかについては法律解釈についての見解や実務上の取り扱いも分かれていて、そのいずれも相応の根拠があることを理由に、処分庁が本件差押え処分が違法であることを予見し又は予見すべきであったとはいえないとして過失を否定し、国家賠償法に基づく請求は否定しました。

 

 【本判決の特徴など(私見)】 

 本判決は、「実質的に差押えを禁止された給与等の債権を差し押さえたものと同視することができる場合」にあたるかどうかを判断するために、①対象口座の入金状況と、②処分庁の口座の調査状況、③それらを前提とした処分庁の認識、を考慮しています。

 具体的な判断にあたって処分庁の認識を考慮していることからすると、同じく処分庁の主観を考慮する前橋地裁判決や原審に近いようにもみえますが、これらの判決では差押禁止部分を差し押さえることを「企図」ないし「意図」して滞納処分を実施した場合に違法になるとしたのに対し、本判決では、差押禁止部分を差し押さえることと実質的に「同視」できる場合には違法になるとし、必ずしも処分庁が積極的に差押禁止部分を差し押さえようとする意図を有していたことまでは必要としていない点で異なるように思われます。

 

 また、実質的に差押禁止部分を差し押さえたのと同視することができる場合にあたるかどうかは、結局は滞納処分時の事情を総合的に考慮して判断されると思われるため、年金振込口座への滞納処分の違法性が問題となった東京高裁平成30年12月19日判決と同じような枠組みで判断しているようにも思われますが、東京高裁が被処分者の受けた不利益の程度を主要な考慮要素として例示しているのに対し、本判決では、判決文を読む限りではこの点を違法性の考慮要素としては考慮していない(少なくとも重視していない)ようにも読めるため、東京高裁判決ともやや趣を異にするように感じられました。

 

 このような微妙な違いが給与と年金という被差押債権の性質によるものなのか、違法性の判断基準そのものに対する裁判所の基本的な考え方の違いによるものなのか、あるいは両判決の判断基準には実質的に差がないのかは判断しかねましたが、いずれにしても、東京、大阪という2つの高裁において預金口座への滞納処分が違法になり得ることが示されたことにより、今後、最高裁で統一的な判断が示されない限り、滞納処分の実務においてはこれらの高裁判決が一定程度指針として機能することが予想されます。

 

 これまでに紹介した裁判例を前提にすると、最高裁で異なる判断が示されるまでは、給与や年金の差押禁止部分を差し押さえることを積極的に意図して滞納処分を行い、被処分者が著しい不利益を受けた場合には違法と判断される可能性が高いように思われます。

 また、本判決の枠組みに従えば、積極的に差押禁止部分の差し押さえを意図していなくとも違法になる場合があり得ることから、給与や年金の振込口座への差押えについては、より一層慎重な判断が必要になると思われます。

 

 弁護士 平本丈之亮

 

 

2020年2月21日 | カテゴリー : 滞納処分 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

婚姻費用・養育費の算定方法の変更について

 

 既に報道でご存じの方も多いと思いますが、昨年12月23日に婚姻費用と養育費の算定について、これまで取り扱いを変更する内容の司法研究が公開されました。

 

 これにより今後の婚姻費用・養育費の算定実務に大きな影響が生じると思われるため、今回はこの司法研究の概要についてご紹介したいと思います。

 

基本的な計算方法に変更はない

 旧算定表と今回の研究で示された新算定表のもとになった計算方法は、いずれも、子どもの年齢や人数などから算出した生活費を権利者と義務者の基礎収入で按分して金額を決めるというもの(収入按分型)であり、基本的な計算方式に変更はありません。

 

変更点は「基礎収入割合」と「生活費指数」

 このように基本的な計算方式は変わらないものの、過去の計算方式が公開から15年以上経過し、当事者双方の収入や子どもの生活費を算出するために使用していた統計資料が今の実体とそぐわない部分が生じていたため、計算に用いる統計資料を更新した結果、収入を算定するための数字(=「基礎収入割合」)と子どもの生活費・教育費を算定するための数字(=「生活費指数」)に変更が加えられた、というのが今回の研究結果の中身となります。

 

基礎収入割合の変更

 婚姻費用・養育費を算出するためには、当事者双方の総収入から、子の生活費等にあてられるものではない経費(=公訴公課、職業費、特別経費)を差し引き、計算の基礎とすべき「基礎収入」を認定するという作業が必要となりますが、今回、この基礎収入を算定する際に用いられる指数(=「基礎収入割合」)に変更が生じました。

 

【旧算定方式】

 給与所得者 42~34%

 自営業者  52~47%

【新算定方式】

 給与所得者 54~38%

 自営業者  61~48%

 

生活費指数の変更

 また、婚姻費用・養育費の計算には、親の生活費を100とした場合に子どもに充てられるべき生活費(学校教育費含む)の割合(=「生活費指数」)が用いられますが、この点にも以下の変更が生じました。

 

【旧算定方式】

 0~14歳 55

 15歳以上 90

【新算定方式】

 0~14歳 62

 15歳以上 85 

 

実際の金額はどう変わったか?

 以上のように計算に用いる数字が変わったといっても、実際にはこれを計算式や算定表にあてはめないとどのように変わったかはわかりませんので、以下では、いくつかの事案をもとにどのような変化が生じたかをご紹介してみたいと思います。

 

 今回は計算をシンプルにするため下記のような事例を設定しましたが、全体的に見ると、横ばいのケースもあるものの、全体的には金額は増加傾向にあるのではないかと思われます。

 

 なお、2~4万円など幅があるのは算定表の幅を示しており、( )内の金額は、算定表の縦軸と横軸にお互いの収入を当てはめて線を引いた場合に交差した部分の金額です。

 

 基本的には縦軸と横軸が交差した部分が標準的な金額となりますが、収入以外の様々な事情を加味した結果、金額が幅の範囲内で増減されることもありますので、幅の範囲内にあればとりあえず相場から外れたものではないと言えると思います(ただし、旧算定表でもそうですが、算定表の中でもともと考慮されていない特別の事情がある場合には、事情次第ではこの幅を外れることもありますので、その点には注意を要します)。

 

事例

 義務者 給与所得者

 権利者 給与所得者

 子ども 1名(14歳以下)

 

事案1

 

 義務者の総収入 400万円

 権利者の総収入 200万円

 

【旧算定表】

 2~4万円(3万円程度)

【新算定表】

 2~4万円(4万円程度)

 

事案2

 

 義務者の総収入 600万円

 権利者の総収入 400万円

 

【旧算定表】

 2~4万円(4万円程度)

【新算定表】

 4~6万円(5万円程度)

 

事案3

 

 義務者の総収入 1000万円

 権利者の総収入  500万円

 

【旧算定表】

 6~8万円(7万円程度)

【新算定表】

 8~10万円(8万円程度)

 

事案4

 

 義務者の総収入  350万円

 権利者の総収入  500万円

 

【旧算定表】

 1~2万円(2万円程度)

【新算定表】

 2~4万円(2万円程度)

 

事案5

 

 義務者の総収入 1600万円

 権利者の総収入  300万円

 

【旧算定表】

 12~14万円(13万円程度)

【新算定表】

 16~18万円(16万円程度)

 

今回の変更をもとに増額の請求ができるか?

 婚姻費用や養育費の変更は、当初取り決めしたときの前提となった客観的事情に変更が生じたこと、その事情変更を当事者は予見しておらず、予見もできなかったこと、金額の変更を求める側に事情変更について落ち度がないこと、当初の合意による支払いを続けさせることが著しく公平に反すること、といった条件が必要であると考えられていますが、この研究結果の公表そのものは養育費等の金額を変更する事情の変更にはあたらないとされています。

 

 もっとも、今回の研究結果の公表とは関係なく、当事者双方の収入や身分関係など客観的事情に変更があった場合には、それが理由となって金額が変更される可能性はあり、その際には新たな計算方式に基づいて再計算がなされるものと思われますので、権利者側に収入の大幅な減少などの事情が生じた場合には増額の請求を検討してみる価値はあると思います。

 

 ただし、ふたを開けてみたら義務者側の収入も当初より大幅に減っていたとか、義務者が再婚して子どもが生まれていたといった相手側の事情変更の可能性もあります。

 

 そのような場合は期待したような増額が認められないこともありますし、かえって、それを機に相手方から減額を求められるという事態も考えたうえで行動しなければなりませんので、果たして増額を求めても良いものか、このままの状態を維持した方が良いのかについては慎重に検討する必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮

別居時に持ち出した夫婦共有財産と財産分与

 

 離婚を考えて当事者の一方が別居に踏み切った場合、別居時に相手方配偶者の財産を無断で持ち出したり預金を引き出したりしてトラブルになる事例があります。

 

 そのような行動は、自分や子どもの当面の生活費の確保のためにやむを得ず行われることもありますが、持ち出し行為があった場合、相手の感情を害するほか、持ち出し行為自体が違法であるとして相手から訴訟を起こされることもあります。

 

 そこで、今回は、このような持ち出し行為が法的にどのように扱われるのかについて解説したいと思います。

 

持出額について直接返還等を請求することは難しい

 夫婦が共同で築き上げた共有財産の清算は、本来、財産分与の手続きで解決することが予定されているため、無断で財産を持ち出したことを理由に返還や損害賠償を請求しても、その請求は原則として認められないと考えられています。

 

 では、例外的に持ち出した財産について直接返還等が認められる場合があるのかというと、裁判例の中には、持ち出した財産が財産分与として認められる可能性のある対象や範囲を著しく逸脱した場合、また、他方を困惑させるなど不当な目的で持ち出した場合には、例外的に持ち出し行為が違法になるとするものもあります(東京地裁平成4年8月26日判決)。

 

 他方で、近時の裁判例としてこれを否定するものもあり(東京地裁平成25年4月23日判決)、持ち出し行為が例外的にでも違法となる余地があるのかどうかについては裁判所でも見解が分かれているところです。

 

東京地裁平成25年4月23日判決

「原告は,夫婦共有財産にあたる預金についても,原告と被告間の婚姻関係が破綻し,被告が払い戻した預金が将来財産分与として考えられる対象範囲を著しく逸脱しており,被告が原告を困惑させるなど不当な目的で払戻しを行ったという特段の事情がある場合には,不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると主張する。

 

 しかしながら,原告主張の前記事情が存在する場合であっても,原告が夫婦共有財産について具体的な権利を有する状態に至らないことには変わりがなく,原告主張の前記事情は,離婚に伴う財産分与の範囲を決定する際に考慮すべき事情に過ぎないというべきであるから,原告の主張は採用することはできない。」

 

相手の口座から婚姻費用として定期的にお金を引き出していた場合

 ところで、別居後の婚姻費用についてはいわゆる算定表が広く用いられていますが、共有財産に該当する相手の預金口座から婚姻費用名目で定期的にお金をおろして使用していたところ、引出額が算定表に基づいて計算した額を超えていたという場合に、その差額分は不当利得として返還すべきである、という主張がなされることがあります。

 

 このような引き出しに関する裁判例としては、差額分の不当利得返還請求を否定したものがあります(東京地裁平成27年12月25日判決)。

 

 ただし、この裁判例は、あくまで夫婦共有財産に該当する預金からの出金については不当利得に該当しないと判断したものですから、仮に、出金元の預金が明らかに一方の特有財産(相続など)だったような場合だと、また違った結論になる可能性がある点に注意が必要です。

 

 また、不当利得として直接返還請求できないということと財産分与の問題は全く別の問題ですので、財産分与の場面において差額分が考慮され、その分、最終的な分与額が減少する可能性はあり得ると思います。

 

東京地裁平成27年12月25日判決

「夫婦共有財産について,当事者間で協議がされるなど,具体的な権利内容が形成されない限り,相手方に主張することのできる具体的な権利を有しているものではないと解すべきであるから,被告が,平成22年11月8日から平成23年6月末までの間に,いわゆる算定表にしたがって計算した額の婚姻費用の原告負担分を超える額を本件預金口座から払い戻していたとしても,その行為によって,原告に具体的な損失が生じたということはできない。」

 

持出額を使っていた場合の財産分与の考え方

 それでは、別居時に持ち出した金額をその後に使用し、財産分与の協議等をしている時点では額が目減りしていた場合、財産分与の場面ではどのように扱われるのでしょうか。 

 

 原則:別居した時点の金額をもとに財産分与を決める 

 清算的財産分与の基準時は原則として別居時であるため、別居後に一方が夫婦共有財産を使用したとしても、基本的には別居時の金額を基準に財産分与額を決定します(=別居後に目減りした金額は持ち戻して計算する)。

 

 例外:適正な範囲で婚姻費用に使用した場合 

 もっとも、別居から財産分与までの間の使途が婚姻費用(生活費)であって、その額も適正な範囲であった場合、例外的に、財産分与の対象額からその使用分が差し引かれることがあります(=使用金額については清算を要しない)。

 

 なぜなら、離婚が成立するまで夫婦は婚姻費用を負担する義務がありますので、婚姻費用を請求できる側が何らかの理由により相手から支払いを受けられない場合、夫婦共有財産から婚姻費用として適正額を支出したとしても、本来、その分は夫婦共有財産から負担すべきものであった以上、財産分与の場面において清算を要しないとしても不当ではないからです。

 

 たとえば、別居時の夫名義の全財産が1000万円で、その全額が夫婦共有財産だった場合において、自己名義の資産のない妻の持ち出し額が600万円、妻が財産分与までにそこから200万円を婚姻費用として適正に使ったという場合には、財産分与の対象となるのは夫が保有している400万円と、妻の持ち出し額600万円から適正支出額200万円を差し引いた400万円の合計800万円となります。

 

 そして、夫婦間における財産形成に対する寄与割合が平等(50:50)だとすれば、財産分与額はそれぞれ400万円(=800万円÷2)となるため、夫婦間ではそれ以上財産分与として互いに金銭をやりとりする必要はないことになります。

 

 以上のとおり、別居時の持ち出し行為についてはそれ自体が違法と判断される可能性は高くはないものの、持ち出しがなされるとその後の協議等が複雑になりますし、感情面も相まって難航するおそれがあるため慎重な判断が必要となります。

 

 別居をする際には短期間に様々な決断を迫られることがありますが、初動を間違えると後の離婚手続に大きく影響しかねませんので、別居するかどうか迷っている場合にはできるだけ事前に専門家へ相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

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