子どものいる夫婦が別居するなどして離婚までの間の婚姻費用の取り決めをする際、いわゆる簡易算定表が広く用いられますが、婚姻費用を支払う側(義務者)に認知した子がいる場合、算定表をそのまま使うことはできません。
そこで今回は、義務者に認知した子がいる場合の婚姻費用の計算についてお話しします。
義務者に認知した子がいる場合の婚姻費用の計算方法
義務者に夫婦間の子以外にも認知した子がいる場合、義務者は認知した子に対しても扶養義務を負います。
そのため、このようなケースで婚姻費用を計算する場合には、認知した子の人数や年齢などを考慮したうえで計算することになり、具体的な金額は以下のステップによって計算されます。
このケースでの計算は複雑ですので、計算過程が分かりやすくなるよう、ここでは簡単な例を設定して解説します。
設例
【夫・義務者(A)】
総収入600万円
【妻・権利者(B)】
総収入100万円
【AB夫婦の子】
8歳(C)と5歳(D)
・・・別居によりBが監護
【義務者が認知した子(E)】
10歳
【Eの母親(F)】
総収入250万円
計算方法
義務者の基礎収入の計算
通常の婚姻費用と同様、義務者の総収入に基礎収入割合を乗じ、義務者の基礎収入を計算します。
【計算式】
Aの総収入×基礎収入割合
※基礎収入割合は給与所得者かどうかや総収入の額によって異なります。
【Aの基礎収入】
600万円×41%=246万円
権利者の基礎収入の計算
次に、権利者である妻の基礎収入を計算します。
【計算式】
Bの総収入×基礎収入割合
【Bの基礎収入】
100万円×50%=50万円
認知した子の母の基礎収入の計算
次の計算で用いるため、ここで認知した子の母親(F)の基礎収入を計算します。
なお、今回は認知した子の母(F)の年収が分かるという前提であるため計算は容易ですが、実際にはFの収入がわからない場合もあります。
認知した子の母親の年収が不明な場合、母親の年齢や職業、学歴などをもとに統計上の資料(賃金センサス)を用いて推計することになります。
【計算式】
Fの総収入×基礎収入割合
【Fの基礎収入】
250万円×43%=107万5000円
夫婦間の子の生活費指数の計算
子の生活費指数は、15歳未満の場合62、15歳以上は85となりますので、今回の設例では以下のとおりとなります。
【生活費指数】
15歳未満:62
15歳以上:85
成人 :100
【C・Dの生活費指数】
C:62
D:62 → 合計124
認知した子の生活費指数の計算
認知した子についても、基本的には15歳で生活費指数を区分します。
ただし、認知した子には、義務者(A)のほかにも養育者である母(F)がおり、Fも認知した子の養育費を負担すべきですから、認知した子の生活費指数は以下の計算式によって修正します。
【計算式】
(62or85)×Aの基礎収入÷(Aの基礎収入+Fの基礎収入)
【Eの生活費指数】
62×246万円÷(246万円+107万5000円)≒43
権利者世帯に割り振られる生活費を計算
これまでの計算結果をもとに、権利者(B)と、Bが養育する子(C・D)に対する生活費(年額=Z)を計算します。
なお、義務者は、夫婦間の子のほか、認知した子に対しても扶養義務を負っているため、ここの計算において認知した子の(修正後の)生活費指数を考慮することになります。
【計算式】
B・C・Dに割り振られる生活費(Z)
=義務者(A)から割り振られる額(X)
+権利者(B)から割り振られる額(Y)
X=Aの基礎収入×B・C・Dの生活費指数÷(Aの生活費指数(=100)+Bの生活費数(=100)+C・Dの生活費指数+Eの生活費指数)
Y=Bの基礎収入×B・C・Dの生活費指数÷(Aの生活費指数(=100)+Bの生活費数(=100)+C・Dの生活費指数)
※権利者であるBはAの認知した子(E)に対して扶養義務を負わないため、Yの計算ではEの生活費指数は考慮しません。
【B・C・Dに割り振られる生活費(Z)】
X=246万円×224÷(100+100+124+43)≒150万1471円
Y=50万円×224÷(100+100+124)≒34万5679円
Z=X+Y=184万7150円
義務者の負担額の計算
最後に、上の計算で算出された権利者世帯に割り振られる生活費(Z)のうち、義務者が負担すべき金額を計算します。
【計算式】
権利者世帯に割り振られる生活費(Z)-Bの基礎収入
【Aの負担額(年額)】
184万7150円-50万円=134万7150円
【Aの負担額(月額)】
11万2262円
認知した子に対する実際の支払額は考慮されるか?
夫婦間の子以外に認知した子に養育費を支払っている場合、義務者からは、「算定表の婚姻費用から認知した子に支払っている養育費の金額をから差し引いてほしい」といった申出がなされることがあります。
しかし、その取り決めは認知した子(の養育者)と義務者との間の問題であることから、権利者世帯に対する婚姻費用を計算する際には、算定表の額から認知した子に対する支払額を控除するといった方法ではなく、ここで紹介したような方法(認知した子に対する実際の支払いの額に関係なく計算する方法)で計算するという考え方が主流ではないかと思います。
弁護士 平本丈之亮