婚姻費用・養育費の算定方法の変更について~離婚⑯~

 

 既に報道でご存じの方も多いと思いますが、昨年12月23日に婚姻費用と養育費の算定について、これまで取り扱いを変更する内容の司法研究が公開されました。

 これにより今後の婚姻費用・養育費の算定実務に大きな影響が生じると思われるため、今回はこの司法研究の概要についてご紹介したいと思います。

 

基本的な計算方法に変更はない

 旧算定表と今回の研究で示された新算定表のもとになった計算方法は、いずれも、子どもの年齢や人数などから算出した生活費を権利者と義務者の基礎収入で按分して金額を決めるというもの(収入按分型)であり、基本的な計算方式に変更はありません。

 

変更点は「基礎収入割合」と「生活費指数」

 このように基本的な計算方式は変わらないものの、過去の計算方式が公開から15年以上経過し、当事者双方の収入や子どもの生活費を算出するために使用していた統計資料が今の実体とそぐわない部分が生じていたため、計算に用いる統計資料を更新した結果、収入を算定するための数字(=「基礎収入割合」)と子どもの生活費・教育費を算定するための数字(=「生活費指数」)に変更が加えられた、というのが今回の研究結果の中身となります。

 

基礎収入割合の変更

 婚姻費用・養育費を算出するためには、当事者双方の総収入から、子の生活費等にあてられるものではない経費(=公訴公課、職業費、特別経費)を差し引き、計算の基礎とすべき「基礎収入」を認定するという作業が必要となりますが、今回、この基礎収入を算定する際に用いられる指数(=「基礎収入割合」)に変更が生じました。

 

【旧算定方式】

 給与所得者 42~34%

 自営業者  52~47%

 【新算定方式】 

 給与所得者 54~38%

 自営業者  61~48%

 

生活費指数の変更

 また、婚姻費用・養育費の計算には、親の生活費を100とした場合に子どもに充てられるべき生活費(学校教育費含む)の割合(=「生活費指数」)が用いられますが、この点にも以下の変更が生じました。

 

【旧算定方式】

 0~14歳 55

 15歳以上 90

 【新算定方式】 

 0~14歳 62

 15歳以上 85 

 

実際の金額はどう変わったか?

 以上のように計算に用いる数字が変わったといっても、実際にはこれを計算式や算定表にあてはめないとどのように変わったかはわかりませんので、以下では、いくつかの事案をもとにどのような変化が生じたかをご紹介してみたいと思います。

 今回は計算をシンプルにするため下記のような事例を設定しましたが、全体的に見ると、横ばいのケースもあるものの、全体的には金額は増加傾向にあるのではないかと思われます。

 なお、2~4万円など幅があるのは算定表の幅を示しており、( )内の金額は、算定表の縦軸と横軸にお互いの収入を当てはめて線を引いた場合に交差した部分の金額です。

 基本的には縦軸と横軸が交差した部分が標準的な金額となりますが、収入以外の様々な事情を加味した結果、金額が幅の範囲内で増減されることもありますので、幅の範囲内にあればとりあえず相場から外れたものではないと言えると思います(ただし、旧算定表でもそうですが、算定表の中でもともと考慮されていない特別の事情がある場合には、事情次第ではこの幅を外れることもありますので、その点には注意を要します)。

 

事例

 義務者 給与所得者

 権利者 給与所得者

 子ども 1名(14歳以下)

 

 事案1 

 義務者の総収入 400万円

 権利者の総収入 200万円

 

【旧算定表】

 2~4万円(3万円程度)

 【新算定表】 

 2~4万円(4万円程度)

 

 事案2 

 義務者の総収入 600万円

 権利者の総収入 400万円

 

【旧算定表】

 2~4万円(4万円程度)

 【新算定表】 

 4~6万円(5万円程度)

 

 事案3 

 義務者の総収入 1000万円

 権利者の総収入  500万円

 

【旧算定表】

 6~8万円(7万円程度)

 【新算定表】 

 8~10万円(8万円程度)

 

 事案4 

 義務者の総収入  350万円

 権利者の総収入  500万円

 

【旧算定表】

 1~2万円(2万円程度)

 【新算定表】 

 2~4万円(2万円程度)

 

 事案5 

 義務者の総収入 1600万円

 権利者の総収入  300万円

 

【旧算定表】

 12~14万円(13万円程度)

 【新算定表】 

 16~18万円(16万円程度)

 

今回の変更をもとに増額の請求ができるか?

 婚姻費用や養育費の変更は、当初取り決めしたときの前提となった客観的事情に変更が生じたこと、その事情変更を当事者は予見しておらず、予見もできなかったこと、金額の変更を求める側に事情変更について落ち度がないこと、当初の合意による支払いを続けさせることが著しく公平に反すること、といった条件が必要であると考えられていますが、この研究結果の公表そのものは養育費等の金額を変更する事情の変更にはあたらないとされています。

 もっとも、今回の研究結果の公表とは関係なく、当事者双方の収入や身分関係など客観的事情に変更があった場合には、それが理由となって金額が変更される可能性はあり、その際には新たな計算方式に基づいて再計算がなされるものと思われますので、権利者側に収入の大幅な減少などの事情が生じた場合には増額の請求を検討してみる価値はあると思います。

 ただし、ふたを開けてみたら義務者側の収入も当初より大幅に減っていたとか、義務者が再婚して子どもが生まれていたといった相手側の事情変更の可能性もあります。

 そのような場合は期待したような増額が認められないこともありますし、かえって、それを機に相手方から減額を求められるという事態も考えたうえで行動しなければなりませんので、果たして増額を求めても良いものか、このままの状態を維持した方が良いのかについては慎重に検討する必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮

養育費の減額請求についてのお話

 

 離婚の際や離婚後に養育費について取り決めをしても、その後の事情の変更によって養育費の減額や免除を求められたり、逆に求めたりするケースがあります。

 今回は、このような申し出があった場合の対応や、申出をする場合の注意点などについてお話しします。

 

一度取り決めた養育費もあとで変わる可能性がある

 養育費の支払期間は通常長期間であるため、一度養育費の額を決めても、その後の身分関係や経済状況の変化によって養育費の金額が変わることがあり(民法766条3項)、典型的な例だと、支払義務者の大幅な収入減少(経済状況の変化)や、権利者の再婚相手と子どもの養子縁組(身分関係の変化)などがあります。

 

養育費を減額(免除)してもらうための手続は?

 このように、養育費については、当初の取り決めが実体に合わなくなった場合に、事後的に金額が変更されることが予定されていますが、養育費の減額や免除を求める場合、まずは当事者間で協議が行われることが多いと思われます。

 しかし、当事者間で金額の変更について折り合いがつかなかった場合には、金額の変更を求める側が家事調停を起こし、調停がまとまらなければ、最終的には審判手続によって裁判所が決めるという流れを辿ることが通常です。

 

金額はいつから変更されるのか?

 この点については、最終的には裁判所の合理的・裁量的判断によって決められますが、調停や審判を申し立てたときを原則としつつ、内容証明郵便などで金額変更の意思を相手方に明確に示した場合には、その時点まで金額変更の効果が遡るという考え方が有力ではないかと思います。

 たとえば、東京高裁平成28年12月6日決定では、義務者が別件の面会交流審判事件において、子どもの養子縁組を理由として養育費の支払義務が消滅したことを主張し、実際に支払いを打ち切ったあとに養育費免除の調停を申し立てたというケースで、支払い打ち切りの時点で金額を0とする意思が明確になったとしてその時点から養育費の支払義務がなくなったとし、養育費免除の調停の申し立てよりも前の段階で金額変更の効果が生じることを認めています。

 

養育費の減額(免除)を求められた場合の対応

 先ほどの高裁決定の考え方からすると、養育費の減額や免除を求められた場合、権利者側としては慎重な対応が必要となります。

 たとえば、減額ないし免除の申し出について納得がいかないとして拒否し、義務者がやむなく従前の金額を払っていた場合、その後に調停や審判を起こされると、事案によっては、過去に受領していた養育費をまとめて返還しなければならなくなる可能性があります。

 したがって、このような申し出があった場合には、義務者が減額や免除を求めている理由やその根拠について詳しく聞き取り、必要に応じて弁護士に相談するなどして、以前と同じ金額をそのまま受け取って良いかどうかを検討する必要があります。

 特に、再婚して子どもと再婚相手が養子縁組した場合には、子どもの扶養義務は第一次的には再婚相手が負担し、実親である義務者の扶養義務は二次的なものにとどまると考えられていますので(→「親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑧・養子縁組した場合~」)、注意を要します。

 

養育費の減額(免除)を求める側の注意点

 他方、養育費の減免を求める側も、一方的に減額するような対応にはリスクがあります。

 裁判所で最終的に養育費の減額が認められなかった場合には、未払分があるとして後でまとめて請求される危険があるからです。

 先ほどの高裁決定のように一方的に打ち切ったとしても責任を負わずに済むケースもあり得るところですが、本当に支払義務が減ったりなくなるのか、減額されたりなくなるとしてどの時点から支払義務が変わるのかという判断は諸般の事情から裁判所が判断するものであり、必ずしも予想通りになるとは限りません。

 そのため、減額や免除を求める側としては、可能であれば従前の支払いを継続しながら協議を行い、権利者側が応じない場合には速やかに調停を起こすなどの対応がリスクが少ないと思われますし、迷った場合にはやはり弁護士に相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

成人年齢の引き下げと養育費への影響~離婚⑪~

 

 先日、成人年齢を18歳に引き下げる法律が成立し、2022年4月から施行されることが決まりました。

 この改正により、それまでは未成年者として保護されていた18歳、19歳の若年者について消費者被害の増加を懸念する声などが上げられていますが、今回は、成人年齢の引き下げによって養育費の支払時期に何らかの影響があるのか、という点についてお話したいと思います。

 

改正法の成立前に既に養育費の合意をしていた場合

 養育費の支払期限は基本的に当事者の自由な合意で決めることができますが、成人すなわち20歳までとする例が比較的多かったと思われます。

 その場合の具体的な決め方については、「20歳まで」という表現のほか、「成人するまで」「成年に達するまで」という表現の場合もあります。

 合意の際、「20歳まで」という明確な表現をしていた場合は問題は起きませんが、たとえ「成人するまで」という表現をしていたとしても、この先、法律で成人年齢が18歳に引き下げられたからといって、連動して養育費が18歳で打ち切られるということはありません。

 当事者が合意した時点では【成人年齢=20歳】であった以上、当事者は養育費の支払いを20歳までとする前提だったことが明らかだからです。

 もっとも、非親権者(義務者)から18歳で打ち切りたいという申し入れがあり、親権者(権利者)がこれに応じた場合、そのように変更する合意そのものは有効ですから、親権者側は不用意に変更に合意してしまわないよう注意が必要です。

 

改正法の施行後に合意する場合

 このケースでは、【成人=18歳】ということを前提に合意するわけですから、「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をした場合、養育費の支払いは18歳までで終わりという判断にならざるを得ないと思います。

 そのため、20歳まで支払ってもらいたいということであれば、合意する際、明確に「20歳まで」などの表現にしておく必要があります。

 

 【相手方から、18歳までとするべきだと言われたら?】 

 養育費というのは、子どもが未成熟子(=自己の資産又は労力で生活できる能力のない者)である限り負担するべきものです。

 法律上、18歳が成人として扱われるようになったからといって、世の中の全ての18歳が突然、経済的に自立するわけはなく、その子どもが未成熟子かどうかは、結局のところ、その子どもを取り巻く家庭環境や本人の能力、健康状態、将来の志望などによって変わってくるところですから、成人年齢が18歳になったからといって当然に養育費の支払いが18歳で終わりになることはありません。

 したがって、「成人年齢が18歳になったのだから養育費も当然に18歳になるはずだ。」と言われても、そのようなことはないと反論することは可能です。

 

 この点については、参議院の附帯決議において、「成年年齢と養育費負担終期は連動せず未成熟である限り養育費分担義務があることを確認する」と明確に決議されており、法務省のHPでも、「成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について」という記事の中で、「成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。」と述べられています。

 

今から改正法の施行までの間に合意する場合

 このようなケースで「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をすると、20歳を前提としているのか、それとも18歳を前提としているのか不明確ですから、後々トラブルになる可能性があります。

 調停や審判など裁判所で、あるいは弁護士が関与して養育費が決まる場合には、当然、そこに目配りをしますから、「20歳まで」のように明確な書き方をして、18歳までか20歳までかというところで問題が起きることは考えにくいと思います。

 これに対して、当事者間の協議で決める場合には、今後も「成人するまで」のような曖昧な決め方をしてしまうことがあり得ますので、そのような決め方はせず明確な表現にすることをお勧めします。

 

※2019年12月23日追記

 同日、裁判所が婚姻費用・養育費の新算定表を公表しましたが、その概要の中で、成人年齢を引き下げる法律の成立又は施行前に養育費の終期を「成年」と定めた場合、基本的には20歳と解するのが相当である、とされました。

 また、改正法の成立・施行という事情は、養育費の支払義務の終期を20歳から18歳に変更する事情にあたらず、子どもが18歳になったこともただちに婚姻費用の減額事由に該当するとはいえない、とされています。

 

 

弁護士 平本丈之亮

 

非親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑩~

 

 前回までのコラムでは、親権者(=権利者)が再婚した場合における養育費への影響についてお話ししました。

 子どものいる夫婦が離婚後に再婚するケースとしては、大きくわけて以下の4パターンがありますが、今回は、子どもを引き取らなかった側(非親権者=義務者)が再婚した場合と養育費への影響について、主に③のケースを取り上げ、④についても簡単に触れたいと思います。

 また、最後に、これと似たようなケースとして、義務者と再婚相手との間で子どもが生まれた場合についても取り上げます。

 

①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合

(←前々回のコラム

②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合

(←前回のコラム

③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合

(または、再婚相手との間で子どもが生まれた場合)

④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合

 

 

再婚+養子縁組→養育費減免の可能性あり

  子どもを引き取らなかった側(非親権者=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合、義務者は、①前の配偶者との間の子どものほかに、新たに②再婚相手、③養子、を扶養する義務を負います。

 このように、義務者が再婚して連れ子と養子縁組した場合には、義務者は扶養しなければならない人数が増えるため、前のパートナーとの間で取り決めた養育費が減額される可能性があります。

 

 ただし、一旦取り決めた養育費の減免が認められるには、取り決めをした当時、義務者が予想できなかった事情の変更があった場合に限られるとされていますので、たとえば、離婚の当時すでに再婚相手と交際していたとか、離婚後、短期間のうちに再婚相手と交際を開始して再婚したようなケースだと、そもそも再婚と養子縁組は義務者の予想の範囲内であったとして養育費の減免が認められないことがありますので、その点には注意が必要です。 

 

 

再婚のみ→連れ子の生活費は考慮しない

 これに対して、義務者が再婚したものの再婚相手の連れ子と養子縁組しなかった場合には、連れ子の生活費が生じていることを理由にして前のパートナーとの間の子どもの養育費が減額されることはないのが原則です。

 このようなケースでは、義務者は法的に連れ子を扶養する義務を負わないからです。

 ただし、再婚相手に収入がないなど、新たに扶養義務を負うことになった再婚相手の生活費負担が生じる場合には、連れ子の生活費負担を理由とするのではなく、再婚相手の生活費負担を考慮して養育費が減額される可能性はあります。

 その場合には、義務者の収入から子どもと再婚相手のそれぞれに生活費を振り分けるための計算を行うことになりますが、今回のメインテーマは養子縁組による養育費への影響であることから、この点の詳細な説明は割愛します。

 

 

再婚+養子縁組→養育費はどの程度影響を受けるか?

 では、義務者が再婚して養子縁組したことが、前のパートナーとの間の子どもの養育費を減免する理由になり得るとして、果たしてどれくらいの影響があるのでしょうか?

 この点は、本来、再婚した時点で義務者や再婚相手、あるいは権利者にどの程度の収入があるか、また、子どもたちの年齢はいくつかなどの事情によって異なりますが、ここから先は具体例をもとに計算してみて、どのような変化が生じる可能性があるかをわかりやすく説明するため、義務者と権利者の収入には変動がないものとします。

 

 なお、婚姻費用と養育費の計算については、令和元年12月23日に新たな算定表が公開され従来の算定表から金額が変更された部分がありますが、計算の基礎として用いられる統計資料が最新のものに更新されたものの、基本的な計算方法に変更はありません。

 そのため、本コラムでは、新算定表によって変更が生じた部分以外は従来の議論がそのまま妥当するものと判断して説明しますが、新算定表は公開されたばかりであり、今後、具体的な事案において従来とは異なる考え方が採用されて結論が変わる可能性もありますので、その点はあらかじめご了承いただきますようお願い申し上げます。

 

 【設例】 

A 権利者:元妻 

  年間総収入:250万円(給与)

B 義務者:元夫

  年間総収入:500万円(給与)

C 権利者と義務者との間の子ども

  1名(離婚時:7歳 再婚時:10歳)

D 再婚相手

E 再婚相手の連れ子

  1名(再婚時:15歳)

 

 

 【再婚する前のCの養育費】 

 まず、BがDと再婚する前のCに対する養育費については、標準算定方式では以下のような式で算出します。

 

Cへの養育費(年額)

 =義務者の基礎収入

 ×Cの生活費指数

 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数)

 ×Bの基礎収入

 ÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入)

 

<基礎収入>

 総収入から税金や職業費、住居費、医療費等を除いたもの。

 実務上は総収入に一定の「基礎収入割合」(%)をかけて計算する。

 250万円の給与所得者であれば概ね43%、500万円だと概ね42%

 のため、AとBの基礎収入はそれぞれ以下の通りとなる。

 

 A 250万円×43%=107万5000円

 B 500万円×42%=210万円

 

<生活費指数>

 両親の間で子どもの養育費を按分計算する際に用いる指数で、生活保護基準

 や教育費に関する統計から以下の通り導き出される。

 

 義務者(B):100 

 15歳未満の子(C):62

 15歳以上の子(E):85

 

 

 上記の式をもとに計算すると、BのCに対する養育費は以下の通りです。

 

 210万円

 ×62÷(100+62)

 ×210万円

 ÷(210万円+107.5万円)

 =531,583円

 (月額44,298円) 

 

 

 【再婚相手が無収入の場合】 

 以上に対して、義務者Bが再婚相手Dと再婚して連れ子Eと養子縁組したところ、再婚相手Dが無収入だったという場合、Bは、再婚と養子縁組によって、C以外に新たにDとEの2人も扶養する義務を負います。

 しかし、B自身の収入は限られていますから、Cへの養育費をそのままにしておくことはできず、このようなケースでは、Cに対して払うべき分からDとEの生活費に振り分ける分を差し引くことになり、その結果、Cへの養育費が減額されることになります。。

 具体的には、Cの養育費については、Bの再婚と養子縁組後、以下のような計算式によって修正を図ります。

 

Cへの養育費(年額)

 =Bの基礎収入

 ×Cの生活費指数

 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数

    Dの生活費指数+Eの生活費指数

 ×Bの基礎収入

 ÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入)

 

<生活費指数>

 義務者(B):100

 15歳未満の子(C):62

 15歳以上の子(E):85

 再婚相手(D):62(仮)

 

 なお、再計算にあたって使用する再婚相手Dの生活費指数は、旧算定表のときは15歳未満の子どもと同じとする扱いがされていました(当時の指数は55)。本コラム執筆時点において、再婚相手の生活費指数がどう扱われるかは不明瞭ですが、子どもの生活費指数を改訂する際に使用された平成25年度から29年度までの基準生活費の平均額に関する統計資料から試算してみたところ、義務者と再婚相手の2名世帯の基準生活費は127,669円(=20~59歳の居宅第1類費38,956円×2名+2人平均の居宅第2類費49,757円)となり、ここから義務者1人の基準生活費(80,289円)を控除して再婚相手の最低生活費を計算すると47,380円となったため、この計算に誤りがなければ、義務者の生活費指数を100とした場合における再婚相手の生活費指数は59という結果になります(80,289:47,380≒100:59)。そうすると、15歳未満の子どもの生活費指数62とは3程度異なるわけですが、この3の違いを大きなものとみるか小さなものとみるかは現時点では何ともいえないところですので、ここではとりあえず、再婚相手の生活費指数は15歳未満の子どもの生活費指数とはあまり差がないものと評価して、便宜上、再婚相手の生活費指数は15歳未満の子どもと同じ62が妥当であるという前提で説明したいと思います。

 

 上記の式をもとに計算すると、再婚と養子縁組後のCに対する養育費は以下の通り,それ以前に比べて約2万1000円ほど減額されるという結果になりました。

 

 210万円×62

 ÷(100+62+62+85

 ×210万円

 ÷(210万円+107.5万円)

 =278,694円

 (月額2万3224円) 

 

 

 【無収入でも収入がある場合と同視される場合もある(潜在的稼働能力)】 

 なお、再婚相手Dが無収入であっても、働くことに支障がない(連れ子Eが大きいなど)場合には無収入として扱うのではなく、稼働能力を考慮して、以下のような収入がある場合と同視して計算されることもあります。

 

 【再婚相手に十分な収入がある場合】 

1.再婚相手Dの生活費は考慮しなくて良い

 次に、Dが自分の生活費を賄うだけの十分な収入を得ている場合(あるいは十分な収入があると同視できる場合)には、BはDを扶養する必要はありませんので、Cの養育費を計算するにあたってDの生活費は考慮しません(=Dの生活費を理由にCの養育費が減額されることはない)。

 

2.養子Eの生活費は考慮するが、制限される可能性あり

 また、このような場合、Dに十分な収入がある以上、Eの生活費は養親Bと実親Dがそれぞれの収入に応じて負担すべきであるという理由から、Dが無収入のケースの場合よりもEの生活費指数を減らすべきである、という考え方があります(Eの生活費指数が少なくなると、その分、Eに振り分ける金額が少なくなるため、結果的にCの養育費の減額幅が小さくなる)。

 他方で、Dに収入があったとしても、Eの生活費指数を修正する必要まではないという考え方もあるようです。

 このとおり、この部分は議論があるところですが非常に細かい話ですので、ここではDに十分な収入があるという事情はEの生活費指数を減らす方向で考慮する、という考え方をもとに計算例を示すにとどめます(具体的には、Eの生活費指数85を養親の収入と実親の収入で按分し、85から実親の収入に対応する指数分を差し引くという計算例を紹介します)。

 

 【設例】 

A 権利者:元妻

  年間総収入:250万円(給与)

B 義務者:元夫

  年間総収入:500万円(給与)

C 権利者と義務者との間の子ども

  1名(離婚時:7歳 再婚時:10歳)

D 再婚相手

  年間総収入:500万円(給与)

E 再婚相手の連れ子

  1名(再婚時:15歳)

 

Cへの養育費(年額)

 =Bの基礎収入

 ×Cの生活費指数

 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数

 +Dの生活費指数+Eの生活費指数

 ×Bの基礎収入

 ÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入)

 

<生活費指数>

 義務者(B):100

 15歳未満の子(C):62

 15歳以上の子(E):42.5→※

 再婚相手(D):0 

 ∵Dは自分の収入で生活できる

 

<Eの生活費指数の修正>・・・※

 義務者Bと再婚相手Dそれぞれの収入で養子Eの生活費割合を按分し、

 元の指数85からDが負担すべき部分を差し引く

 

 Eの生活費指数

 -Eの生活費指数

   ×{Bの収入÷(Bの収入+Dの収入)}

 =85

  -85×{500万円

   ÷(500万円+500万円)}

 =42.5  

 

 210万円

 ×62÷(100+62+42.5

 ×210万円

 ÷(210万円+107.5万円)

 =421,107

 (月額3万5092円

 

 上記の通り,再婚相手Dに義務者Bと同程度の十分な収入があり、Eの生活費指数を修正するのが妥当であるとした場合、Cへの養育費は、再婚前に比べて約9000円ほど減額されるという結果になりました。

 

 【再婚相手に収入はあるが不十分な場合】 

 このケースでは、Cの養育費を再計算するにあたってEの生活費指数を加算するほか、Dの生活費指数も加算する点はDが無収入の場合と同じです。

 ただし、Dには不十分とはいえ、一応、収入があるため、Dの収入を計算に反映させる必要があります。

 Dの収入をどのように反映させるかは考え方が分かれているようですが、ここでは分かりやすい計算方法として、Dの基礎収入をBの基礎収入に合算して計算する方法とそれに基づいた計算例を示すにとどめます。

 なお、Dに不十分ながらも収入があるとすると、Dに十分な収入がある場合と同じようにEの生活費指数を減らす必要があるではないかが一応問題になりそうですが、このケースでは、結局Dは自分の生活費を賄うだけの収入を得ておらず、Eの生活費まで負担できる状態ではないことが前提ですから、Dの収入が不十分な場合にはEの生活費指数を修正する必要はありません。

 

A 権利者:元妻

  年間総収入:250万円(給与)

B 義務者:元夫

  年間総収入:500万円(給与)

C 権利者と義務者との間の子ども

  1名(離婚時:7歳 再婚時:10歳)

D 再婚相手

  年間総収入:50万円(給与)

E 再婚相手の連れ子

  1名(再婚時:15歳)

 

Cへの養育費(年額)

 =(Bの基礎収入+Dの基礎収入

 ×Cの生活費指数

 ÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数

  Dの生活費指数+Eの生活費指数

 ×Bの基礎収入

 ÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入)

 

<基礎収入>

 A 250万円×43%=107万5000円

 B 500万円×42%=210万円

 D 50万円×54%=27万円

 

<生活費指数>

 義務者(B):100

 15歳未満の子(C):62

 15歳以上の子(E):85

 再婚相手(D):62(仮)

 

(210万円+27万円

 ×62

 ÷(100+62+62+85)

 ×210万円

 ÷(210万円+107.5万円)

 =314,526円

 (月額2万6210円) 

 

 上記の通り,再婚相手Dに不十分ながら収入がある場合、Cへの養育費は、再婚前に比べて約1万8000円ほど減額されるという結果になりました。

 

再婚相手との間に子どもが生まれた場合も同じ

 以上述べてきたところは、義務者が再婚相手の連れ子と養子縁組した場合を想定した話ですが、義務者と再婚相手との間で子どもが生まれた場合も養子縁組した場合と同じですので、同じような計算で修正を図ることになると思われます。

 

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑨・養子縁組しない場合~

 

 前回のコラムで、離婚後に再婚した場合と養育費の関係について、親権者が再婚し、かつ、子どもと再婚相手が養子縁組をした場合についてお話ししました。

 再婚した場合には、大きくわけて以下の4パターンがありますが、今回はこのうち②のパターンで、子どもを引き取らなかった側(非親権者)の養育費支払義務への影響について取り上げます。

 

①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合(←前回のコラム

②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合

③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合

④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合

 

再婚+養子縁組なし→非親権者は減免されないのが原則

 子どもを引き取った親権者(権利者)が再婚したが、子どもと再婚相手が養子縁組していない場合、法的には、再婚相手はその子どもに対する扶養義務はありません。

 そのため、養子縁組した場合と異なり、非親権者の養育費支払義務が減免されることはないのが原則です。

 

再婚相手から多額の生活費を受け取っている→減免もありうる

 もっとも、形式的には養子縁組をしていなくても、事実上、再婚相手が自分の収入で連れ子を扶養しているというのは一般的な話ですし、特に再婚相手が裕福で、その収入だけで十分に子どもを養育できるような場合には、非親権者に当初取り決めたままの養育費の支払義務を負わせ続けるのは酷と思われる場合もあります。

 そのため、このような場合には、親権者が再婚相手から受け取っている生活費相当額を親権者の収入と見なして、その年額と非親権者の収入とを基にして計算し、その結果、当初定めた養育費が減額される場合がある、という考え方もあります。

 

 例えば、離婚時に15歳未満の子どもが1人いて、親権者の妻は無収入、非親権者の夫は450万円の収入があった場合、簡易算定表によれば養育費は概ね6万円になりますが、その後、親権者が再婚し、再婚相手から生活費として月に25万円をもらって15歳未満の子どもを養育している場合、上記の考え方を採用すると親権者の収入は300万円となり、非親権者の収入が変わらず450万円だったとすれば、簡易算定表によると養育費は概ね4万円になります。

 

実家の両親からの援助は?→収入にあたらない

 ちなみに、これと似たようなケースで、実家の両親からの援助を親権者の収入とみなすべきかどうかという論点がありますが、これは否定されることが一般的です。

 この点は、親権者が再婚した場合、再婚相手は配偶者(=親権者)に対して生活保持義務(=自分と同じ程度の生活をさせる義務)を負うのと異なり、両親は親権者に対して、それよりも下の生活扶助義務(=自分に余裕がある場合に援助する義務)を負うにとどまるにすぎないため、と説明することが可能です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑧・養子縁組した場合~

 

 これまでのコラムでは、養育費の決め方について問題となるいくつかのケースについてご説明しました。

 しかし、一旦養育費の取り決めをしても、離婚後の生活状況の変化によっては、当初定めた養育費の金額を変更するべきではないかが問題となるケースもあります。

 そこで今回は、離婚後に生活状況に変化が生じた場合のうち、再婚と養育費の関係についてご説明したいと思います。

 なお、再婚するケースには、

 

①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合

②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合

③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合

④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合

 

の4パターンがありますが、本コラムでは①のパターンについて説明し、その他のパターンについては別のコラムでお話する予定です。

 

権利者の再婚+養子縁組→減免の可能性

 子どもを引き取った親権者(権利者)が再婚し、自分の子どもと再婚相手が養子縁組をした場合、新たに養親となった者は、その子どもの実親である非親権者に優先して子どもを養育する義務を負うと考えられています。

 したがって、子どもが自分の再婚相手と養子縁組をし、養親世帯に十分な経済力がある場合、離婚の際に取り決めた養育費の免除が認められる可能性があります。

 

 もっとも、子どもと再婚相手が養子縁組をしたからといって、非親権者の扶養義務そのものがなくなるわけではありませんので(二次的な義務に格下げになるだけです。)、養親世帯に十分な経済的能力がない場合、実親である非親権者に養育費の支払義務が一部残る可能性があります。

 具体的にどのような場合に非親権者の養育費支払義務が残るかは様々な考え方があるようですが、最近の裁判例をみると、生活保護法の保護基準をもとに計算した子どもの最低生活費を一応の目安としつつ、そのほかの諸般の事情も加味して実親の負担の有無や範囲を判断しているものがあります(福岡高裁平成29年9月20日決定)。

 


 

 福岡高裁平成29年9月20日決定 

 

「両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は第一次的には親権者及び養親となったその再婚相手が負うべきものであるから、かかる事情は、非親権者が親権者に対して支払うべき子の養育費を見直すべき事情に当たり、親権者及びその再婚相手(以下「養親ら」という。)の資力が十分でなく、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないときは、第二次的に非親権者は親権者に対して、その不足分を補う養育費を支払う義務を負うものと解すべきである。そして、何をもって十分に扶養義務を履行することができないとするかは、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきである。」


 

 この福岡高裁の決定では、子どもと再婚相手が養子縁組をした場合に非親権者の養育費支払義務が残るかどうか、残るとしてどれくらいの額になるかについて、概ね以下のような枠組みで判断しています。

 

①生活保護基準を基に養親世帯の最低生活費(のうち、生活扶助費)を計算する

 

②養親世帯の基礎収入(※1)を計算する

   

③①と②を比較

 →①>②=養親世帯だけでは十分に養育できない状態

 →非親権者は月に【A+B】÷12の額を負担するべき

 

【A:①-②の額(=不足額)のうち、子どもの養育に必要な金額】(※2)

 ∵不足額には対象の子ども以外の者の生活費が含まれているため除く必要

 

【B:子どもの教育費】

 

 なお、この決定では、非親権者は、生活保護制度では支給対象になっていない学校外活動費を含む統計上の教育費(文部科学省「子どもの学習費調査」)も負担すべきと判断しています。

 もっとも、この点は、非親権者の学歴・収入・職業(医師)や子どもとの関わり合い方(実親が定期的に面会交流をしていること)からすると、非親権者は、子どもに人並みの学校外活動ができる程度の生活を送ってほしいと願っているはずである、ということを根拠にしており、その事案独自の事情が影響しています。

 したがって、教育費を加算する部分については、非親権者の学歴・収入・職業や子どもとの関わり合い方といった事情次第では結論が変わってくる可能性があります。 

 

 福岡高裁の決定も一つの考え方にすぎませんので他の裁判所でも同じ枠組みで判断されるとは限りませんが、今回ご説明したとおり、養親世帯が最低生活費を下回るような収入しか得ていないようなケースでは非親権者の養育費支払義務が残る可能性がありますので、注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 


※1 世帯総収入×基礎収入割合(給与所得者では収入に応じて38~54%・・・令和元年12月23日に公表された新算定表で基礎収入割合が左記のとおり変更となりました)

※2 福岡高裁は以下の式で計算していますが、詳細は割愛します。

 

  (①-②)×(生活扶助費の第一類費(注)のうち、対象となる子の金額)

       ÷(養親世帯全体の第一類費の合計額) 

 

注:「第1類費」

  飲食物費や被服費など個人単位に消費する生活費の基準。年齢別に設定されている。

 

婚姻費用・養育費の計算で「収入」に入れないもの~離婚④~

 

 これまで何度か婚姻費用・養育費の計算方法について説明をしてきましたが、(計算方法を修正すべきではないかとの議論はあるものの、)現在の実務では、婚姻費用・養育費は「簡易算定表」によってある程度機械的に金額が定まります。

 しかし、簡易算定表に当てはめるには、権利者・義務者双方の収入がいくらであるかを確定する必要があり、いざ実際に簡易算定表を用いて計算しようとしてみると、児童(扶養)手当を収入に含めるべきかどうかなど色々と迷うところが生じて、必ずしも簡単に金額を計算できないケースがあります。

 そこで、今回は、婚姻費用・養育費を計算するにあたって「収入」として扱うべきかどうかが問題となるものについてご紹介したいと思います。

 

収入=原則として実収入

 簡易算定表に当てはめる際に参照するのは、原則として当事者双方の実収入(給与所得者であれば、源泉徴収票の「支払金額」)です。

 なお、当事者が無職であったり自営業などの場合で例外的に実収入以外の金額を用いる場合がありますが、これはまた別の機会にお話したいと思います。

 

児童手当・児童扶養手当

 児童手当は、児童の福祉に資することを目的として政策的に支給される公的扶助であるため、収入には加算されません。

 

実家からの援助

 これもしばしば問題となりますが、実家からの援助は好意に基づく贈与にすぎないことなどから、収入には加算しない扱いです(福島家裁会津若松支部平成19年11月9日審判、和歌山家裁平成27年1月23日審判)。

 

高等学校等就学支援金

 この制度は、経済的負担の軽減を通じて教育の実質的な機会均等に寄与することを目的とした一種の公的扶助であることから、児童手当・児童扶養手当と同様に収入には加算されないものと思われます(現行制度よりも前の制度の事案ですが、公立高校の授業料が無償化されたことが婚姻費用の計算において考慮すべきものではないとした審判例として、福岡高裁那覇支部平成22年9月29日決定があります)。

 

 

 以上の通り、今回ご説明したものについては、基本的には婚姻費用・養育費の計算にあたって収入としてカウントする必要はないと考えられますので、交渉の際には気をつけていただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

 

(元)妻が実家で暮らしている場合、婚姻費用や養育費の計算はどうなるか?~離婚③~

 

 前回のコラム(→「妻(夫)の住居費用を夫(妻)が負担している場合の婚姻費用・養育費の計算方法~離婚②~」)でもご紹介したとおり、婚姻費用・養育費については簡易算定表が普及しているものの、実際にはこれをそのまま適用して良いかどうか迷う場面があります。

 今回は、婚姻費用や養育費を計算する上で問題となることが多いケースとして、(元)妻が実家に住んでいる場合についてお話したいと思います。

 

(元)妻が実家に住んでいる場合、減額理由となるか?

 別居あるいは離婚後に(元)妻や子が妻側の実家に身を寄せて生活するというのは、実際にご相談を受けていて非常に多いパターンです。

 そして、このような状態で(元)妻が(元)夫側に婚姻費用や養育費を請求したところ、「実家に暮らしていて住居費がかからないのだから、その分、金額を減らすべきだ。」と主張されるということもよくあります。

 

 これに似たようなケースとして、夫が、妻子の住む借家の家賃を負担したり、夫名義の住宅に住んでいる妻子のために住宅ローンを負担している場合がありますが、この場合に夫側が負担している部分をまったく考慮しないと、夫は自分の住居費と妻側の住居費を二重に負担することになって酷であるため、このような事情は減額の理由として考慮するという扱いが一般的です(→上記コラム参照)。

 

 これに対して、(元)妻や子が妻の実家に暮らしている場合には、(元)夫が二重に住居費を負担しているわけではありません。

 また、これを理由に減額を認めてしまうと、妻あるいは子に対して第一次的な扶養義務(生活保持義務)を負っている夫が、それよりも順位の下がる扶養義務(生活扶助義務)を負うに過ぎない妻側の実家に自分の義務を押しつける結果になり、かえって不公平とも考えられます。

 また、親族から援助を受けていた場合に、このような事情は養育費の金額を定めるに当たって考慮しないとした審判例もあり(①福島家裁会津若松支部平成19年11月9日審判、②和歌山家裁平成27年1月23日審判)、実家に無償で住まわせることも一種の援助といえることからすると、今回のようなケースも同様に考えるのが妥当と思われます。

 そのため、(元)妻側が実家暮らしであることは、婚姻費用や養育費の減額事由としては考慮されないのではないかと思われます。

 

働けるのに働いていない場合は減額の可能性がある

 ただし、(元)妻が実家からの援助を受けながら生活している場合に、本当なら働くことができる状態であるにもかかわらず働いていないという事情があるときは、実家から援助を受けているからという理由ではなく、働ける能力があること(=潜在的稼働能力)を理由として婚姻費用や養育費が減額される可能性があるとも言われていますので、(元)妻が単に実家に住まわせてもらっているだけではなく、実家から生活費の援助もしてもらい、かつ、働いていないような場合には注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

妻(夫)の住居費用を夫(妻)が負担している場合の婚姻費用・養育費の計算方法~離婚②~

 

 離婚に関するご相談の中でポピュラーなものとして、離婚成立までの生活費(婚姻費用)や離婚後の養育費の問題があります。

 

 婚姻費用や養育費については、裁判所が公開している婚姻費用・養育費算定表(いわゆる簡易算定表)が広く浸透しているため、簡易算定表についてはご存知という方も多くいらっしゃると思いますが、簡易算定表はあくまで一般的・標準的な事案を前提にしたものですから、婚姻費用や養育費としてどの程度の金額が妥当であるかは夫婦それぞれの事情によって変わります。

 

 今回は、婚姻費用や養育費の計算において比較的問題になりやすいものとして、別居中の妻(夫)あるいは離婚後の元妻(元夫)の住居費(家賃・住宅ローン)を相手方が負担している場合に、婚姻費用や養育費の計算にどのような影響が出るのかをお話したいと思います。

 

 なお、婚姻費用と養育費の計算については、令和元年12月23日に新たな算定表が公開され従来の算定表から金額が変更された部分がありますが、計算の基礎として用いられる統計資料が最新のものに更新されたものの、基本的な計算方法に変更はありません。

 そのため、本コラムでは、新算定表によって変更が生じた部分以外は従来の議論がそのまま妥当するものと判断して説明しますが、新算定表は公開されたばかりであり、今後、具体的な事案において従来とは異なる考え方が採用され結論が変わる可能性もありますので、その点はあらかじめご了承いただきますようお願い申し上げます。

 

相手の住む家の家賃(アパート代など)を負担している場合

 簡易算定表は(元)夫婦がそれぞれ住居費を負担することを当然の前提として作られていますので、どちらかの負担によって一方が家賃支出を免れている場合には、その分の利益を婚姻費用や養育費の計算で考慮する必要があります。

 

 この場合、原則として簡易算定表のもとになっている計算方式(標準算定方式)で計算した婚姻費用・養育費から、一方が負担している家賃額を全額差し引き、残った金額のみを支払うことになります。

 これは、賃貸住宅については家賃の安いところへの転居が可能であるため、それをせずに今までの借家に住み続けることを選択する以上、婚姻費用・養育費から家賃額の全額を差し引かれても不当とまではいえないと考えられているためです。

 

相手が住宅ローンを支払っている家に住んでいる場合

 相手が住居費を負担するケースには、相手名義の住宅に住まわせてもらい、住宅ローンを相手が負担しているというケースもあります。

 

 【婚姻費用】 

 住宅ローンも賃貸住宅と同じ住居費であると考えるならば、先ほど説明した賃貸住宅と同じように全額が差し引かれることになります。

 しかし、住宅ローンの支払いには、住居費の負担という側面だけではなく、支払いをしている側の資産形成という側面もあるため、婚姻費用から住宅ローン全額を差し引くことは資産形成を生活保持義務に優先させることになり不当です。

 そのため、このようなケースでは、婚姻費用から差し引くべき金額が一定の範囲で制限されることになります(ただし、別居の原因が相手の不倫であるなど、住宅ローン負担者の有責性が高い場合や相手が高収入の場合にはまったく差し引かれない場合もあるようです)。

 

 【養育費】  

 これに対して、養育費の場合には、そもそも住宅ローンを養育費の計算において考慮するかどうかについて見解が分かれています。

 通常、住宅関係は財産分与の問題であり、住宅ローンは不動産を含めた分与対象財産全体の評価額を計算する際に考慮されるため、それ以上に養育費の場面でも住宅ローンを考慮すると、住宅ローンを二重に評価することになります。

 そのため、基本的には養育費の計算においては住宅ローンを考慮する必要はないのではないかと思いますが、財産分与の際に住宅ローンを一切考慮せずに分与額を決めたような場合には、権利者は本来負担すべきはずの住宅ローンの負担がない形で財産分与を受け、さらにその住宅に住み続けることによって居住費相当の利益を受けることになるため、個人的には、そのようなケースであれば養育費の計算において住宅ローンを考慮することはあり得るのではないかなと思っています。

 

 【具体的な計算方法は?】 

 婚姻費用の計算において、具体的に住宅ローン支払額のうちどの程度の金額を差し引くべきかについては様々な計算方法がありますが、大きく分けると

 

①住宅ローンを負担している側の総収入から、住宅ローン支払額の一部を差し引き、簡易算定表に当てはめて計算する方法

 

②簡易算定表で算定した婚姻費用額から、住宅ローン支払額の一部を直接差し引いて計算する方法

 

の2通りがあります。

 ①②の中でも細かな計算方法がありますが、すべての計算方法を紹介すると複雑になりますので、ここでは比較的単純な計算方法をもとに、計算例をご紹介するにとどめます。

 

 【事例】 

夫:年収650万円(給与) 

妻:年収100万円(給与)

子ども:1名(10歳)

住宅ローン:月額10万円

住宅:夫名義。妻と子が居住を継続し、別居中。

 

 【①:夫の年収から住宅ローンの一部を控除し総収入を計算する方法】 

 この方法では、まず、夫が負担している住宅ローンのうち、夫の年収650万円から差し引くべき金額を計算する必要があります。

 具体的な計算方法の一例としては、平成25年から29年までの家計調査年報・第2-6表の平均値をもとに夫の収入区分に応じた住居関係費を抜き出し、それを住宅ローンの毎月の支払額から差し引き、次に、その差額を夫の総収入から差し引くという方法があります(用いるべき住居関係費をこの統計資料以外の資料で計算することが妥当な場合もあり得ますが、ここでは割愛します)。

 なお、ここで用いる住居関係費は、「平成25~29年 特別経費実収入比の平均値」という資料に記載がありますが、新算定表に用いられているこの資料は一般の方はなかなか接する機会が少ないと思いますので、詳しいことを知りたい場合は弁護士にご相談いただいた方が良いと思います。

 

(住宅ローン-収入に応じた標準的な住居関係費)×12=夫の総収入から差し引くべき金額

 

 この方法によると、年収650万円(月額54万1666円)の方の標準的な住居関係費は、前記資料によると63,085円となりますので、これを住宅ローンから差し引き、夫の年収から控除すべき金額を計算すると、

 

100,000円-63,085円=36,915円(月額)

 

となります。

 次に、この金額は月額であるため12を掛けて年額にし、今度はそれを夫の総収入から差し引いて、婚姻費用の計算に用いる夫の収入をあらためて計算しなおすと、

 

6,500,000円-(36,915円×12)=6,057,020円

 

となります。

 そして最後に、双方の収入(夫:約605万円 妻:100万円)を簡易算定表(表11 婚姻費用・子1人表(子0~14歳))に当てはめると、このケースにおける婚姻費用は、概ね11万円となります(住宅ローンを一切考慮しないと12万円)。

 

 【②:妻側の世帯の標準的な住居関係費を算定表の金額から控除する方法】 

 この方法は、妻が夫名義の住宅に住んでいることによって住居費の支払いを免れていることに注目し、先ほど述べた統計資料に基づき、本来妻が負担すべき住居関係費を抜き出し、これを簡易算定表によって計算した金額から直接差し引くというシンプルなものです。

 まず、夫婦双方の年収を機械的に簡易算定表に当てはめると、このケースでは婚姻費用は概ね12万円になります。

 次に、差し引くべき妻側の住居費については、先ほどの統計資料によると、最も低い住居費は年収約177.7万円(月収148,113円)までの者を対象とした月22,247円です。

 そうすると、年収100万円(月収83,333円)の妻について、年収177.7万円までの者を前提とした住居費をそのまま当てはめて良いのかが問題となりますが、ここではその点の検討は省略し、このケースにおいて差し引くべき住居費は22,247円が妥当であるとして話を進めます。

 

 そうすると、この計算方法を取った場合の婚姻費用は、

 

120,000円-22,247円=97,753円 → 概ね9.8万円

 

となります。

 

 実際の事案では、上記のような様々な方法による計算結果を参考にしながら、夫婦の具体的な事情を考慮したうえで協議によって決めていくことになりますが、どうしても夫婦間で話がまとまらないときは裁判官が裁量で決めることになります。

 どのような計算方法を採用するかという部分についても裁判官の裁量に属する部分であり、必ずしもこちらの主張する計算方法を採用してもらえるとは限りませんが、当事者としては、なるべく自己に有利な計算方法を採用してもらえるよう、どれだけ自分の計算方法が合理的であるかを説得的に主張していく必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮