夫婦間の金銭貸借と夫婦共有財産の関係について

 

 夫婦が離婚する場合には、残っている財産や負債だけではなく、過去の様々なお金のやり取りも含めて清算することがありますが、その中で問題となることがあるものが夫婦間でのお金の貸し借りです。

 そこで今回は、夫婦間のお金の貸し借りがあった場合に、離婚の際に、これがどのように扱われるのかについてお話します。

 

多くは財産分与その他の離婚条件の交渉時に同時に協議される

 このような貸し借りについては、他の財産の清算と同時に解決することが楽であるため、財産分与などの問題を扱うのと同時に話し合い、その中で清算されることが多いかと思います。

 

離婚協議等で解決できない場合

 しかしながら、借入の事実や現在の貸金残高などに認識の食い違いがあるなどの理由により、離婚時にまとめて解決できなかった場合、納得できなければ最終的には民事訴訟によって解決が図られることになります。

 

貸金の原資が夫婦共有財産だった場合は?

 ところで、このような訴訟の中では、そもそも金銭の授受があったかどうかや返済の約束があったのかどうか、返済の有無等が争点になると思われますが、そのほかの問題として、たとえば貸金の原資となったお金が夫婦共有財産だった場合、果たして貸金が成立するといえるのか、ということも問題となります。

 貸金の原資が夫婦共有財産だった場合、実質的には夫婦共有財産を相手に渡しただけとも思えるため、仮に貸金の形式を整えていたとしても金銭消費貸借は成立しないのではないか、というのがここでの問題意識ですが、この点については、原資が夫婦共有財産だった場合には貸金は成立しないと判断した裁判例が存在します。

 

東京地裁平成30年4月16日判決

「被告は、原告から交付を受けた金員は、夫婦の共有財産であると主張するところ、原告と被告は夫婦であり、証拠(原告本人,被告本人)によれば、被告は、収入を(全部か一部かはともかく)原告に渡し、原告は、被告から受領した金員と原告自身の収入から生活費を支出していたことが認められる。そうすると、被告が、原告から○○○円を借りたことを認める確認書で署名しているとはいえ、その原資が夫婦の婚姻後に形成された共有財産である場合には、被告は、当該共有財産を費消したにすぎないことになるから、原告の被告に対する貸金には当たらないことになる。
 したがって、上記金銭の授受が、原告の被告に対する貸金であるといえるためには、原資が原告の特有財産であることが必要である。」

 

 上記裁判例では、結局、借りたことを書面で確認した金額の一部については夫婦共有財産が原資であったとして、それを除いた部分に限って貸金が成立するという判断が下されています。

 この裁判例を前提にすると、夫婦間で貸し借りの形でお金のやりとりがあったとしても、その原資が夫婦共有財産であると判断された場合には貸金の返還が認められないことになりますので、夫婦間での貸し借りについては、単に借用書を作成するだけではなく、その原資が夫婦共有財産とは無関係のものであることについても明らかにする必要があることになります。

 

貸金の成立が否定された場合、渡したお金の取り扱いはどうなる?

 ところで、原資が夫婦共有財産であるため貸金は成立しないと判断された場合に渡したお金がどう扱われるかですが、渡したお金がそのまま、あるいは別の形で残っているのであれば、財産分与の対象財産となります。

 これに対して、渡したお金がもはや残っていない場合には、これを残っていると仮定して分与対象財産に含めることは難しいと思われますが、たとえばその使い道が浪費など問題のあるものだった場合には、その程度によっては寄与割合において考慮される余地はあると思います(たとえば東京高裁平成7年4月27日判決では、ゴルフ等の遊興に多額の支出をし,夫婦財産の形成及び増加にさほどの貢献をしていないことを一つの理由として、夫婦の分与割合に修正を施しています)。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年9月15日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

離婚を考えたときに検討すべきポイントについて~離婚㉔~

 

 様々な理由で離婚を考えたとき、離婚が本当にできるのか、子どものことはどうなるのか、お金の問題はどうなのかなど、一度に色々考えなければならないことがあります。

 このような場合、とりあえず弁護士に相談してみるのも有効ですが、その前に、まずは自分自身である程度問題点を整理することができていれば、その後の進め方についても迷いが少なくなります。

 そこで今回は、離婚が頭によぎったら考えておくべきポイントにどのようなものがあるのかをお話しします。

 

【Point1 相手が離婚を承諾してくれる見込みはあるか】

 何はともあれ、ここがまずもって一番大事なポイントです。

 ここでどの程度の見込みがあるかどうかで、離婚の進め方が大きく変わる可能性があるからです。

 たとえば、離婚そのものについては応じてくれそうであれば、基本的な方針は協議離婚となりますし、そもそも相手が離婚に対して大きく抵抗することが予想される場合には、協議離婚については選択肢から外すかほどほどにしておき、早期に調停の申し立て、あるいは訴訟まで見据えて準備を整えておくなど、その後の方針が大きく変わります。

 

【Point2 子どもの親権や面会交流について】

 離婚自体の進め方について見通しを立てたら、次に考えるのは子どものことです。

 子どもがいない夫婦であれば関係ありませんが、子どもがいる夫婦の場合、離婚そのものやお金の問題よりもこの点を巡って紛争になるケースが非常に多いため、以下のような点について相手の希望を予想して今後の見通しや方針を立てておくことをお勧めします。

 

 1 親権 

①こちらが取得を希望するのかそれとも相手に委ねるのか

 

②親権を希望した場合には取得できる可能性がどの程度あるのか(この点は弁護士への相談を推奨します。)

 

 2 面会交流 

①親権を相手に委ねる場合

 この場合、面会交流についてどのような取り決めを希望するかを考えておきます。

 具体的には、月の面会回数、1回の面会時間の目安、子どもの受渡方法、学校等の行事の取り扱いなどについてです。

 

②親権を希望する側

 この場合、相手が望むと思われる面会交流についてどのようなスタンスで臨むのか、あらかじめ検討しておくことが有益です。

 

【Point3 お金について】

 次に検討するのは、離婚に伴うお金の問題です。

 お金の問題として考えておくことは、概ね以下のようなものがあります。

 

 1 婚姻費用 

①婚姻費用を請求する側

 離婚成立までどの程度かかるかによりますが、話し合いが長引いたり調停などの手続が考えられる場合には当面の生活費として婚姻費用の請求が重要になります。

 そのため、婚姻費用としてどの程度の金額を望めるのか、どのような方法で請求するべきかなどについてはあらかじめ検討しておいた方が良いと思います。

 

②婚姻費用を支払う側

 他方、婚姻費用を支払うことになる側も、いつからいつまで、毎月いくら支払う可能性があるのかについて目途を立てておくことがその後の離婚の進め方に影響しますので、検討しておく必要があります。

 

 2 養育費 

①親権を希望する側

 養育費としてどの程度の金額を望めるかについては、離婚を切り出すタイミングにも影響しますので、必ず検討しておくべきポイントです。

 

②親権を委ねる側

 養育費を支払うことになる側も、いくら支払う必要があるのかを把握しておくと離婚を切り出す適切なタイミングを計ることができますので、検討しておくと良いポイントです。

 

 3 財産分与 

①請求する側

 この場合、相手にどの程度の資産があるのかや証拠の確保など、事前に検討しておくべきポイントがあります。

 証拠の確保などはあとでリカバリーが困難になることもありますので、財産分与を希望する場合にはできればアクションを起こす前の段階で弁護士へご相談ください。

 

②請求されることが予想される側

 この場合、実際に財産分与を求められたらどの程度の負担を覚悟しなければならないかを検討しておかなければ、離婚後の生計維持に支障を生じる可能性がありますので、あらかじめ試算しておく必要があります。

 

 4 慰謝料 

①請求する側

 何を根拠に慰謝料を請求するのか、その理由が本当に慰謝料の根拠となるのか、証拠はどの程度あるのか、望める金額はどの程度か等検討すべき点は多くありますが、慰謝料についてはご本人が検討しても的確に判断することは難しいところですので、弁護士への相談をお勧めします。

 

②請求される可能性のある側

 このケースでは、そもそも慰謝料の金額よりも有責配偶者として離婚自体が否定される可能性がどの程度あるかを検討しておく必要がありますので、自分に非があると考える場合にはその点も含めて慎重に検討しておくべきです。

 

 5 年金分割 

①請求する側

 年金分割を求めるには、あらかじめ必要な書類を取り付けておくことや合意方法に気を付けるべき点がありますので、事前の検討が有効です。

 

②請求されることが予想される側

 年金分割においてどの程度のものが分割されるかを検討しておくことは有益ですが、婚姻期間が短いようなケースでは請求されないこともありますし、年金分割の按分割合について争うことは困難な場合も多いため、他の検討事項に比べれば優先度は低くなります。

 

 離婚を考えた場合には概ねこのような視点で状況を整理しておくと、いざ実行に移そうと思った場合にどこが問題になりそうか、ある程度クリアになると思いますので、参考にしていただければ幸いです。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年6月14日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

協議離婚と公正証書~離婚㉓~

 

 離婚の手続には、大きく分けると、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚の3種類がありますが、このうち、世の中で最も利用されているのは協議離婚です。

 協議離婚が広く利用されるのは費用や時間の点からみて他の2つよりもコストパフォーマンスに優れているからですが、場合によっては協議内容を「公正証書」の形にしておくことが望ましいことがあります。

 そこで今回は、協議離婚と公正証書について詳しくお話ししてみたいと思います。

 

離婚で公正証書を作るメリット

 1 金銭の支払いについて強制執行できる 

 離婚協議書を公正証書としておくことのメリットとしてよく言われるのは、金銭の支払いについて強制執行できるという点です。

 養育費・財産分与・慰謝料など一定の金銭の支払いを合意する場合、不払いがあっても当事者間での離婚協議書だけでは強制執行することができず、強制執行に着手する前に別途裁判所の手続きが必要になりますが、これをいちいち踏まなくても良くなるのが一番のメリットです。

 

 【強制執行認諾文言が必要】 

 もっとも、公正証書であれば必ず強制執行できるわけではなく、公正証書の中に、約束違反があった場合には直ちに強制執行されても異議はない旨の文言を盛り込む必要があります(これを「強制執行認諾文言」と言います)。

 

 2 単独で登記手続はできないが、作る意味はある 

 財産分与として不動産の名義を変更することがありますが、これを公正証書の形で合意しても単独で名義変更することはできず、元夫婦が共同して申請する必要があります。

 そのため、相手が約束を守らなかった場合は公正証書によって登記手続はできませんので訴訟によって名義変更を求めることになります。

 そうすると、不動産の財産分与を公正証書にしておく意味はないと思われるかもしれませんが、公正証書は公証人が当事者の意思を確認して作成するものであり一般的に信用性の高い文書とみなされているため、裁判になったとしても脅迫があったなどと争うことは難しく、そのような争いを防ぐうえで公正証書にしておく意味はあります。

 

 3 年金分割に使うことができる 

 また、年金分割を求める場合にも公正証書を作る意味はあります。

 年金分割をするにはいくつか方法があり、①年金事務所等に双方が出向いて手続きをする方法、②年金分割に関する合意書に公証人の認証をもらい、これを用いる方法、③年金分割の合意を公正証書にする方法、④裁判所の調停・審判を行い、調停調書や審判書で手続きをする方法、があります。

 公正証書はこの4つの方法のうちの1つであり、離婚協議書を公正証書の形にするときに盛り込むことが多いやり方です。

 

 4 紛争の蒸し返しを防止することが期待できる 

 離婚は感情的な問題が絡むため、ケースによっては離婚が成立した後もトラブルに発展することがありますが、公正証書によって離婚条件を明確にし、公正証書に記載したもの以外は互いに請求しないという条項(清算条項)を盛り込むくことにより、少なくとも経済的な側面(財産分与や慰謝料など)については解決が図られ、追加請求などのトラブルを防ぐ効果が期待できます。

 当事者間での離婚協議書でもそのような効果はありますが、無理矢理合意させられた等といった理由で協議書の効力を争われることもあり、あらかじめ信用性の高い公正証書にしておくことでそのような争いを防げる可能性が高まります。

 

よくある誤解

 このように、公正証書にはメリットがある一方、決して万能ではなく、公正証書について以下のような誤解をなさっている方もいらっしゃいます。

 

 1 面会交流の強制執行はできない 

 先ほど述べたとおり、公正証書で強制執行できるのは金銭の支払いに関するものであるため、公正証書で面会交流についての取り決めをし、これが果たされなかったとしても強制執行はできません。

 

 2 強制執行そのものは裁判所での申立が必要 

 これもよくある誤解ですが、公正証書を作成したからといって、不払いの場合に強制執行(差押え)が自動的にされるというわけではなく、差し押さえる財産を調査し、別途裁判所に対して強制執行の申立をしなければなりません(これは調停や裁判でも同じです)。

 ただ、全く文書がなかったり、当事者間で作った離婚協議書だけしかないという場合には、強制執行の前段階として裁判所での手続が必要になるため、先ほど述べたとおりここを省けるというのが公正証書の意味となります。

 

 3 不動産について単独で名義変更できない 

 これは先ほどお話ししたとおりです。

 

公正証書で取り決めた内容を変更することはできるのか?

 このように、公正証書には強い効力が認められますが、一旦、公正証書で取り決めた内容を後で変更することはできるのでしょうか?

 

 一方的な変更は難しい 

 先ほど述べたとおり、公正証書は信用性の高い文書とされていますので、詐欺や強迫などがあったとして後で内容を争うのは困難です。

 

 当事者が合意してやり直すことは可能 

 他方で、当事者が改めて合意し直して内容を変更することは可能です。

 ただし、財産が一旦移転してしまった場合、これを再度移動するとなると、単なる贈与であると見なされて税金問題が生じる可能性もあるため、多額の財産移動があった場合には注意が必要と思われます。

 これに対して、養育費について将来支払われる金額を合意で変更するのは特段問題ありません。

 

 養育費については、事情の変更によって変更されることはある 

 また、当事者間で合意ができなかった場合でも、養育費については、公正証書作成後の事情変更によって金額が変更される場合があります(東京高裁平成28年7月8日決定)。

 たとえば、養育費を受け取る側が再婚し、再婚相手と子どもを養子縁組させた場合や、支払う側の収入が大幅に減ってしまったような場合などには、公正証書で取り決めた金額が変わる可能性があります。

 

公正証書は必ず作った方が良いのか?

 以上のように、公正証書には限界はあるものの、夫婦双方に一定のメリットがあります。

 もっとも、公正証書は必ず作らなければならないものではありませんので、たとえば子どもがおらず、財産分与・慰謝料・年金分割等も問題にならないのであれば作る必要はありません。

 また、双方が冷静に話し合いができ、相手の人格や社会的地位等から約束を守ることが期待できる場合や、双方に弁護士がついて協議を行い、支払いも1回で済むようなシンプルなケースであれば、当事者間での離婚協議書の作成にとどめておくことも考えられます。

 

 離婚を進めるには、単に条件をどうするかというだけではなく、その条件をきちんと守らせるにはどうしたらよいか、離婚が成立した後のトラブルを避けるにはどういう取り決めにしたら良いかなどいろいろな検討事項があり、公正証書を作るべきかどうかも人によって異なります。

 また、公正証書は当事者間での離婚協議書よりも強い効力が認められているため、一旦合意した後で内容を覆すのは困難な場合が多いため、公正証書を作るかどうか迷った場合には、男女問わず弁護士への相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年5月20日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

離婚調停に弁護士は必要か?~離婚⑱~

 

 離婚調停を考えている方や相手方から離婚調停を申し立てられた方からのご相談の際によく聞かれるのが、弁護士を頼んだ方がよいかというものです。

 そこで今回は、離婚調停と弁護士への依頼をテーマにお話してみたいと思います。

 

絶対に必要ということはない

 離婚調停は当事者だけで手続を進められるように書類の書き方や裁判所での受付体制が整っていますし、実際にご自分で対応して解決されている方も多くいらっしゃいますので、どのような場合でも弁護士が必要というわけではありません、

 そのため、離婚調停に弁護士が必要かというご質問を受けた場合には、弁護士をつけずに離婚調停を行っている方も多いこと、要所要所で弁護士からアドバイスを受けながら離婚調停そのものはご自分で対応されている方もいらっしゃること、をお伝えするようにしています。

 

弁護士への依頼が有効なケースもある

 もっとも、たとえば以下のようなケースにおいては弁護士への依頼が有効と思われますので、依頼を検討されても良いと考えます。

 

 ①協議すべき事柄が親権、養育費、慰謝料、財産分与、年金分割など多岐にわたる場合 

 この場合は担当される調停委員の力量に左右される部分もあるため弁護士が必須とまでは言えませんが、そもそも話し合うべき事柄が多いことから、お互いの言い分や必要な資料を整理したり提出したりするだけでかなりの時間を費やすことがあります。

 そのため、具体的な話し合いに入る前の準備だけで期日が繰り返され、解決が遅くなることがありますので、当初から弁護士が関与し、うまく交通整理しながら手続を進めることで無駄な時間を減らせる可能性があります。

 

 ②親権について争いがある事案 

 この場合はそもそも調停で解決できず訴訟に移行する可能性も高い事案ですが、弁護士が親権者の適格性を適切に主張した結果、相手方を説得して解決できる場合もありますし、たとえ調停がまとまらなくても、調停段階で相手方の考えがわかっていれば後の訴訟に備えて対策を検討しておくことも可能となるため、弁護士の関与が有効な場面です(はじめから訴訟が視野に入っているなら、調停の段階から弁護士を関与させた方がスムーズに訴訟に移行できるという面もあります)。

 

 ③財産分与について、分与の対象となる財産の範囲や評価額、あるいは財産分与の割合などに争いがある場合 

 

 ④慰謝料について、相手から不相応に高額(低額)と思われる提案がなされている場合 

 ③④のような場合では、適正な金額をもとに合理的な話し合いを進めるうえで弁護士の知識・経験が有効なケースと思われます。

 

 ⑤書類作成や資料整理の時間が取れなかったり、そのような作業が苦手な場合 

 これは、主にご本人の負担の軽減を目的に弁護士を利用するケースです。

 離婚調停では、申立書等の作成作業や、必要な書類を整理して適切に提出することを求められる場面がありますが、仕事等で時間がとれず十分に対応することが難しかったり、そのような作業が得意ではない場合には弁護士に代行してもらうことが有効です。

 

 ⑥離婚に関する要望を伝えることや自分だけで決断することに不安がある場合 

 調停期日では相手方や調停委員から様々な要望や意見が出され、それに対して判断したり、反対にこちら側の要望を適切に伝えたりする必要がありますが、そのすべてを自分だけですることが不安な場合も弁護士を関与させた方が良い事案といえます。

 

 ⑦法律的に妥当な条件かどうかをきちんと検討した上で離婚したい場合 

 離婚調停はあくまで話し合いで解決を目指す手続であり、どちらが正しいかを決める手続ではないため、客観的に見れば必ずしも妥当な条件ではなかったとしても、当事者双方が合意すれば原則として調停は成立することになります。

 しかし、後になってから離婚調停で取り決めた内容が不利な内容であったことが分かったとしても、やり直しは困難です。

 また、調停委員は中立な立場であり、立場上、どちらか一方に有利になるような働きかけはできませんので、調停中に協議されている離婚条件が妥当かどうかのアドバイスを期待することはできません。

 そのため、離婚条件の妥当性について自分で調べたり判断することが難しく、かつ、この点をきちんと検討し納得した上で離婚したいという場合にも、弁護士を関与させた方が良いと思います。

 

 ⑧相手方が復縁について望みを持っている場合 

 弁護士をつけることによって離婚の意思が固いことを相手方に示すことができるため、復縁を諦めてもらい、離婚の方向に流れを持っていく一つの材料として弁護士を活用する方法です。

 

 ⑨相手方に大きな問題がある場合(特にDV事案) 

 DV事案など相手方に問題が多い事案では、依頼者の安全を図りながら慎重に手続を進める必要がありますし、不調に終わった場合の訴訟も見据えた上での対応が必要になるため、調停段階から弁護士が関与した方が良いケースであると思われます。

 なお、DV事案については、現在は各地の相談窓口が充実してきており、各相談窓口と弁護士との連携も進んできていますので、離婚についてアクションを起こす前には、まずはどのような進め方をしたら良いかを事前に十分相談することが望ましいと思います(場合によっては関係先の援助を得てシェルターへの避難や保護命令の申し立てなどの事前措置を講じた方が良い場合があるため)。

 

夫婦関係の調停で弁護士を利用した人の割合は?

 2019年版の日弁連の統計資料によると、2018年に離婚調停と夫婦円満調整調停において申立人と相手方のどちらかに弁護士がついたケース、双方に弁護士がついたケースを合わせると約51.7%のケースで弁護士が関与していたとのことですので、夫婦間の関係を取り扱う調停においては、相当数、弁護士の利用が進んでいるようです。

 

 

 以上のとおり、離婚調停の段階からでも弁護士に依頼することが有効と思われる場面はありますが、他方、訴訟から依頼するのに比べて費用がかさむことは否定できません。

 そのため、離婚調停の段階で弁護士に依頼するかどうかは費用との兼ね合いで決めざるを得ない面がありますが、そもそもご自分のケースで弁護士に依頼する必要があるかどうか判断すること自体が簡単なことではありませんので、実際に依頼するかどうかは別として、判断に迷われたときはまずは相談だけでも受けてみることをお勧めしたいと思います。

 また、弁護士へ依頼するとそれなりに長い付き合いになるため、弁護士と依頼者の相性は非常に重要なポイントです。

 したがって、依頼を具体的に検討し始めたら、場合によっては複数の弁護士へ相談してみて、自分にとって一番合う(信頼できる)と思える弁護士を探してみることも考えて良いと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年3月23日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

離婚調停の流れ~離婚⑰~

 

 離婚について協議をしたものの解決しなかった場合、次のステップとして行うのが離婚調停です。

 しかし、多くの方にとって離婚は人生で一度きりの出来事であり、裁判所に行ったことなどない方もほとんどですので、実際に調停に臨む際の精神的ストレスは大変なものです。

 そこで今回は、はじめて離婚調停に臨まれる方向けに、離婚調停の大まかな流れや期間などについてお話ししたいと思います。

 

離婚調停の申立

 離婚調停は、夫婦のどちらかが相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをすることによってはじまります(例外的に、夫婦で調停を行う裁判所を合意し、その裁判所で行うこともあります(合意管轄))。

 申立をする方は、まずはどうやって申立すればよいのかを調べるところから始まりますが、申立書などの基本的な用紙は各裁判所に備え付けてありますし、裁判所のホームページから直接ダウンロードしたものを利用することも可能です。

 書類の提出は裁判所に持参する方法だけではなく、郵送する方法でも可能です。

 

申立~第1回調停期日までの間

 通常、調停の申立てから概ね1か月程度で第1回の調停期日が開かれますが、その間、必ずしておかなければならないものはありません(書類に不備等があれば裁判所から連絡があります)。

 もっとも、申立の時点で裁判所に提出していなかった資料がある場合には、期日前に提出しておいた方が解決までの期間短縮につながる場合があります。

 たとえば、財産分与を請求したい場合で、相手の財産の内容がある程度分かっているのであれば、相手の財産の目録(や裏付けとなる資料)を提出しておくことが有効です。

 また、年金分割を請求する場合には年金分割の情報通知書が必要になりますが、これは請求してから手元に届くまで時間がかかりますので早期に取得して提出しておいた方が良いと思います。(なお、訴訟に移行する可能性がある場合には訴訟の段階で情報通知書を改めて提出する必要がありますが、いったん提出してしまうと後で返してもらえず再発行が必要になるため、提出時に原本還付の手続をしておくことをお勧めします)。

 これに対して、不貞の証拠については、証拠の価値の強弱や協議段階での相手の対応等次第で出した方がよいかどうか異なり、場合によっては訴訟まで温存しておいた方が良い場合もありますので、迷った場合には弁護士へ相談された方が良いと思います。

 

第1回調停期日の流れ

 【受付】 

 まず、開始時間前に裁判所で受付を済ませると待合室に案内されます。

 調停室は別々になっていますので、調停室で鉢合わせすることはありません。

 その後、時間になると調停委員が待合室に呼びに来ますので、指示に従って調停室に入室すると、調停が始まります。

 

 【調停の進行】 

 調停員は2名(男女1名ずつ)ですが、通常の流れだと、申し立てた側から調停室に呼ばれます。

 そこで、調停委員から申し立てに至った事情を聞かれ、申立書などの記載事項の確認や離婚に関する要望の聞き取りなどがあります。

 それが終わると相手方と入れ替わり、今度は相手方の事情聴取が終わるまで待合室で待つことになります。

 場合によっては自分が話している時間よりも待っている時間の方が長いことがありますので、本を持ってくるなど待ち時間を過ごすための準備はしておいた方が良いと思います。

 このような流れを何度か繰り返し、その日の話し合いで合意できる部分や次回に持ち越しになる点が明確になったら、次回期日を決めて第1回調停期日は終わりです。

 基本的には調停委員とのやりとりのみで手続は進みますが、面会交流について紛争が生じるケースだと、家庭裁判所調査官が立ち会うこともあります。

 

 【1回の調停にかかる時間はどれくらいか?】 

 一概には言えないものの、中身のある実質的な話し合いが行われる場合、待ち時間を含めて通常1時間半から2時間程度はかかることが多いと思います。ただし、協議事項が少ない期日や双方に代理人弁護士がおり協議事項があらかじめ整理されているような期日だと1時間を切ることもあります。

 この部分は調停に入る前の事前準備がどの程度できているかにもよりますので、相手方の準備はコントロールできなくても、自分側だけでも主張したいことや資料を整理して準備しておけば調停期日の時間短縮につながりますし、そのような積み重ねによって早期に問題点が整理できれば、ひいては解決までの期間短縮にもつながります。

 

2回目以降~調停成立(不成立)

 基本的な流れは第1回の調停期日と同じであり、前回の期日での宿題をもとに話し合いを行い、合意形成を図っていくことになります。

 期日と期日の間隔は概ね1か月程度ですが、支部など裁判官や調停委員が少ないようなところではそれよりも間隔が長くなることがあります。

 合意がまとまれば、裁判所が調停調書と呼ばれる書類を作り、当事者間の合意内容を紙にしてくれます。

 調停が成立しなかった場合には、調停手続は不調によって終了しますので、離婚を求める側は訴訟を提起することになります。

 

 【調停成立までの期間は?】 

 これもケースバーケースとしか言えませんが、感覚的には3か月~半年程度が多く、長いと1年程度はかかることが多い印象です。

 平成30年度の司法統計によると、離婚を含めた夫婦間の紛争全体に関する調停について、調停が成立した事案のうち成立までの期間は、3か月以内が約29%、3~6か月以内が約36%、6~12か月以内が約27%となっており、半数以上が半年以内に成立に至っているようですので、半年程度が一つの目安になると思われます。

弁護士 平本丈之亮

 

離婚をするための手続について~離婚①~

 

 弁護士の川上です。

 

 当事務所でお受けするご相談で最も多いのは、実は離婚に関するご相談かもしれません。今回は離婚をするための手続についてお話しします。

 

1 協議離婚

 まずは夫婦間で話し合いをする(協議)のが基本です。離婚するかどうかに加え、未成年のお子さんがいる場合には、夫婦のどちらが親権者(しんけんしゃ)となるかを話し合います。離婚と親権について合意できれば、離婚届を記入して提出することで、協議離婚が成立することになります。

 なお、養育費(よういくひ)面会交流(めんかいこうりゅう)、慰謝料(いしゃりょう)財産分与(ざいさんぶんよ)などの条件についても話し合うことになりますが、これらについては別の機会にご説明します。

 

2 調停離婚

 当事者間で合意できない場合には、家庭裁判所で夫婦関係調整(ふうふかんけいちょうせい)の調停を行います。いきなり裁判を起こしても、「まずは調停をしてください」と言われます(ちなみに、夫婦関係調整の調停の中には離婚と円満調整の2種類があります)。

 家庭裁判所での調停の手続は、2名の調停委員が中心となって進められます。当事者が面と向かってやり取りをするのではなく、調停委員が当事者から交互に事情を聞き、ポイントを整理しながら調整していくというイメージです。調停手続については、別の機会でご説明します。

 

3 裁判離婚

 調停でも合意できない場合、家庭裁判所で離婚訴訟を行うことになります。裁判で離婚が認められるためには、離婚原因(りこんげんいん)が必要となります。

 民法770条1項には5つの離婚原因が定められており、裁判所が離婚原因ありと判断すると、一方が同意していなくても離婚が認められます。具体的には、相手に不貞行為(ふていこうい)があったとき等ですが、これについても別の機会にご説明します。

 

法律相談のススメ ~ 離婚編 ~

 

 弁護士の川上です。

 離婚問題で弁護士に依頼するかどうか悩ましいケースとして、①当事者間の協議により解決が見込まれるケース、②協議や調停段階から弁護士に依頼する金銭的余裕がないケースなどが挙げられます。

 実際に協議や調停の段階では、弁護士に依頼せずご自分だけで対応される方も多くいらっしゃるのではないかと思われます。

 しかし、このようなケースでも、実際にご依頼いただくかどうかは別として、なるべく早い段階で一度法律相談を利用することをお勧めしたいと思います。

 ご相談いただいた結果、弁護士に依頼した方が良いとご判断されれば、その段階でお引き受けしますが、場合によっては無料相談(震災相談援助制度では3回まで)を活用し、弁護士がご本人による解決をバックアップさせていただくという方法もあります。

 たとえば、協議や調停は1回では終わらないことが多いと思われますので、協議や調停の前後にご相談いただき、今後の対応(条件案の検討、協議書の文案作成など)についてアドバイスさせていただくという形で対応し、弁護士を付けずに解決に至ったケースも多数存在しております。

 なお、このようなバックアップ態勢をとっていると、万が一調停が不成立となって訴訟に移行した場合にも、調停の経過や争いのポイントをあらかじめ把握できていますので、訴訟段階から事件をお引き受けすることになったとしても、迅速な対応が可能となります。

 離婚で悩まれている方は、法律相談を是非ご活用ください。