個人再生をすると借金はどれくらい減るのか?~個人再生②・最低弁済額~

 

 以前のコラムで(→自宅を残して負債を整理する方法はあるか?~個人再生~」)、自宅を残すことのできる債務整理の方法として「個人再生」という手続をご紹介しました。

 それでは、個人再生を利用した場合、具体的にはどれくらい負債を減らせる可能性があるのでしょうか。今回は、個人再生のうち、これまで当事務所で多く手掛けてきた「小規模個人再生」について、具体的なケースをもとにご説明したいと思います。

 

住宅ローン

 まず、住宅ローンについては、残念ながら減免されせんので、個人再生をする場合でも支払いを継続していただく必要があります。

 

その他の負債

 これに対して、その他の負債については、法律で定められた最低金額まで負債を減らせる可能性があります。

 個人再生手続で払わなければならない最低額のことを「最低弁済額」(さいていべんさいがく)といいますが、小規模個人再生では、住宅ローン以外の負債について以下の①と②を比べて高い方の金額以上の額を支払い、残りを免除してもらうことが可能です(なお、税金は減免の対象にはなりませんので注意が必要です)。

 

小規模個人再生における最低弁済額の計算

【①負債額】

 100万円未満            →        総額
 100万円以上500万円以下     →     100万円
 500万円を超え1500万円以下   →   総額の5分の1
 1500万円を超え3000万円以下  →     300万円
 3000万円を超え5000万円以下  →  総額の10分の1

【②資産総額】

 ※法定の自由財産など一定の財産は除く。

 

 【最低弁済額=①と②を比べて高い方の金額】 

 

ケース1

 住宅ローン      2000万円(住宅の査定額:1400万円)

 住宅ローン以外の負債  500万円

 資産総額         50万円(※)

 ※住宅はローンの方が多いため無価値と評価し、住宅以外の財産のみをカウントします。

 

 ケース1では、住宅ローン以外の負債が500万(①)、資産が50万円(②)ですので、①の基準を当てはめると100万円となり、これと②を比較すると①の方が高いため、最低弁済額は100万円となります。

 個人再生が認可された場合、債務者は100万円を3~5年の分割で支払い、残りの400万円を免除してもらえることになります。 

 

ケース2

 住宅ローン      2000万円(住宅の査定額:1400万円)

 住宅ローン以外の負債  500万円

 資産総額        150万円(※)

 ※住宅はローンの方が多いため無価値と評価し、住宅以外の財産のみをカウントします。

 

 ケース2では、住宅ローン以外の負債が500万(①)、資産が150万円(②)ですので、①の基準を当てはめると100万円となり、これと②を比較すると②の方が高いため、最低弁済額は150万円となります。

 個人再生が認可された場合、債務者は150万円を3~5年の分割で支払い、残りの350万円を免除してもらえることになります。

 

 ケース1、2ともに、住宅ローン以外の債務について相当程度減免されることがお分かりになるかと思いますが、当事務所にご相談いただいた方については、最低弁済額が100万円程度になるケースが比較的多い印象です。

 

 個人再生は住宅ローンのない方であっても利用できる制度ですから、ギャンブルやショッピング(最近ではスマホやPCでの課金等)などの浪費が著しく自己破産できなさそうなケースでも、最低弁済額以上の金額を支払うことで負債の一部を減免してもらうことが可能です。

 

 しかし、この手続の一番のメリットはやはり自宅を残すことができる点にあると思いますので、収入がそれなりに安定していて、かつ、住宅ローンもあるという方の債務整理については、当事務所でも積極的に個人再生を検討するようにしています。

 

弁護士 平本丈之亮

 

交通事故で入院・通院した場合の慰謝料の計算と注意点~交通事故②・入通院慰謝料~

 

 前回のコラムで、交通事故の損害賠償算定には3つの基準があり、相手方からの示談案が必ずしも適正な金額でないこともあり得る、とお話しました。

 

 交通事故の示談案のなかにも「慰謝料」や「休業損害」「逸失利益」など様々な項目がありますが、今回はこのうちの「入通院慰謝料」について、具体的な事例をもとにその意味や計算の方法などをご説明していきたいと思います。

 

 なお、交通事故の慰謝料には今回取り上げる「入通院慰謝料」以外にも、後遺障害がある場合の「後遺障害慰謝料」や被害者が死亡した場合の「死亡慰謝料」がありますが、こちらは別のコラムで説明したいと思います)。

 

入通院慰謝料とは何か?

 交通事故で怪我をした場合、それによって生じた肉体的・精神的苦痛を償うために金銭が支払われることになりますが、これを「入通院慰謝料」と呼んでいます。

 

 本来、肉体的・精神的苦痛を金銭評価することは困難ですが、少なくともケガの程度によって苦痛の程度は大きいと言えるため、交通事故では入院期間や通院期間を目安に慰謝料を計算するのが現在の実務となっています。

 

慰謝料の計算が低いケースがある

 入通院に基づく交通事故の慰謝料は、怪我が治った時点、あるいは、これ以上治療を続けても症状の改善が期待できないと判断された時点(=「症状固定」といいます。)までの入院期間と通院期間に応じて計算します。

 

 しかし、当職の経験上、相手方保険会社からの提案は、以下のように慰謝料の金額が低く抑えられているケースがあります。

 

<事例>(架空の事例ですが、主張自体は実際にあったものです)

 交通事故で骨折などの怪我をし、10日間入院したほか、完治するまでの総通院期間が70日(実通院日数6日)だった(被害者の落ち度(=過失割合):10%)。

 

 ①保険会社の示談提示額 

 慰謝料相当額 134,400円

 

 ②当職の計算による損害額 

 慰謝料相当額 600,000円

 

どうしてこのような差が生じるのか?

 上記のケースでは、ご覧のように相手方の計算と当職の計算との間で慰謝料の額には大幅な差が生じていますが、これは、双方の計算には以下のように根本的な違いがあるからです。

 

保険会社の計算方法

 

 このケースにおいて、保険会社は以下のような自賠責保険における計算方法を採用して慰謝料を計算しています(なお、自賠責保険では、被害者に過失があっても重過失がない限り支払額が減額されないため、実際の事案でも、慰謝料の計算にあたってこちら側の過失による減額の主張はしてきませんでした)。

 

 ちなみに、全ての事案で必ず自賠基準で計算してくるというわけではなく、事案によって自社の任意基準で計算した額を提示してくることも多々あります。

 

入通院実日数16日×2×4,200円=134,400円

 

注:ここでは入通院実日数×2をもとに計算していますが、総治療期間が入通院実日数×2よりも短いときは、そちらの日数をもとに計算することになっています。

 

当職の計算方法(裁判基準)

 

 これに対して、当職は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準」(通称「赤い本」)の別表Ⅰの基準、いわゆる裁判基準に基づき計算し、こちら側の過失による減額(10%)も考慮すると、本件で認められるべき慰謝料は60万円であるとの結果となりました。

 

被害者の注意点と対策

 以上のケースは架空のものですが、実際、保険会社が示談案を出す際には上記のような計算方法を主張し、裁判基準から見れば低い金額を提示してくることがあります。

 

 保険会社が裁判基準よりも低い金額の示談案を提示すること自体は違法ではありませんし、このような裁判基準の存在を教えてくれるということもありませんので、当初の案で示談した後で本当はもっと支払われるはずだったと主張しても争うのは困難です。

 

 無論、様々な事情から保険会社の示談案の方が有利と判断して示談するケースもまったくないわけではありませんが、当職の経験上ではそうでない場合が多く、そもそも被害者が示談案の有利・不利をきちんと判断するのは困難ですから、保険会社から示談案が提示されたときは、慰謝料を含めた全体の損害額が適正に計算されているかどうか弁護士に確認をしてもらった方が良いと思います。

 

 弁護士 平本丈之亮

 

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ギャンブルなど浪費がある場合、自己破産できないのか?~自己破産④・免責不許可事由~

 

 債務整理のご相談の中で、借金の原因にギャンブルやショッピング(最近だとスマホの課金)などの浪費があるので、自己破産できないのではないか、という質問を受けることがあります。

 

 確かに、ギャンブルなどの浪費は、自己破産による借金の免責が認められない理由(「免責不許可事由」(めんせきふきょかじゆう))の中でも代表的なケースです。

 

・ギャンブルがあっても「裁量免責」になるケースがほとんど

 

 もっとも、ひとくちにギャンブルや浪費といっても程度の問題であり、たとえギャンブルなどが借金の一因となっている方でも自己破産による免責が認められる場合はあります(これを「裁量免責」といいます。)し、当事務所の弁護士が担当した事案でも、ほとんどの方が免責を認めてもらっています。

 

 ただし、ギャンブルなどが原因となって自己破産をする場合には、裁判所が選任する「破産管財人」(はさんかんざいにん)と呼ばれる弁護士による調査が必要となり、裁判所に納めなければならない費用が上がってしまうことがありますので、その点はあらかじめ覚悟が必要です。

 

・あまりにも浪費がひどい場合は、「個人再生」による債務整理を考える

 

 また、あまりにもギャンブルや浪費がひどすぎて自己破産による免除が認められない可能性が高いという方については、自己破産ではなく、借金を一部免除してもらい、残りを3年程度の分割で支払っていく「個人再生」によって解決するケースもあります。

 

 個人再生では、負債の理由に浪費があっても支払能力があれば基本的には受け付けてもらえますので、ご本人の意向や借入の理由、返済能力次第ではそちらをお勧めすることもあります。

 

 いずれにせよ、ギャンブルや浪費があったとしても自己破産を認めてもらえることは十分にありますし、仮に自己破産ができなくても個人再生など他の債務整理の方法を活用して整理ができることがありますので、諦めることなく、まずは弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

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訪問販売での契約を解消したい場合 ~クーリング・オフ~

 

 今回は、訪問販売で契約をした場合の解決法のひとつである「クーリング・オフ」についてのお話です。

 たとえば、以下のような場合、一般の消費者は事業者と交わした契約を自由に解消することができるのでしょうか?

 

<設例>

 先日、一人暮らしの母親が住む実家に行ったところ、茶の間に見慣れない契約書があった。

 中身を見たら実家のリフォーム工事を依頼するものだったので母親に確認したところ、2月21日に自宅にリフォーム業者が訪問してきたため説明を聞き、その場で契約したということだった。

 実家は古くなったもののこまめに手入れしており、まだまだリフォームは必要ないと思うので契約を解消したい。

 

 このようなケースで威力を発揮するのが、「クーリング・オフ」です。

 

<クーリング・オフとは?>

 クーリング・オフは、契約書等(法定書面)を受領した日から8日以内であれば無条件で契約を撤回できるという制度であり、訪問販売で契約をしてしまった場合にはよく利用される解決方法です(なお、契約の対象はリフォーム工事に限られず、一部適用が除外される取引はあるものの訪問販売であれば幅広く対象になっています)。

 そのため、上の設例でもまずはクーリング・オフの利用を検討し、期間内に契約を撤回する旨の意思表示をすれば、契約はなかったことになります。

 

<注意点>

 クーリング・オフは撤回の理由を問わないため、使い勝手の良い便利な解決法なのですが、いくつか注意点もあります。

 

①契約書面を受領してから8日以内に事業者に通知する必要があること(※1)

 受領日から起算するため、上記の例でいえば2月28日までに通知しなければなりません。

  point 8日以内に発送すればOK(「発信主義」) 

     ×8日以内に業者に到着することは不要

 

②配達証明付の内容証明郵便で通知することが望ましい

 ご自分で出すことも可能ですが、不安があれば弁護士に依頼することも検討した方が良いと思います。

 

③営業のためもしくは営業として契約された場合には適用されない(※2)

 

 訪問販売のトラブルは、迅速に対処すればクーリングオフによって解決できる可能性がありますので、お悩みの方は弁護士や最寄りの消費生活センターなどにご相談なさってはいかがでしょうか。

 


※1 ただし、契約書面の記載に不備がある場合、8日を過ぎても認められる場合があります。

※2 なお、零細事業者が電話機リース契約をしたケースにおいて、営業のためもしくは営業として締結したものではないとしてクーリング・オフを認めた事例(名古屋高裁平成19年11月19日判決)もあります。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2018年2月26日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

保険会社からの示談案は果たして妥当か?~交通事故①・3つの基準~

 

 交通事故の被害に遭われたとき、多くの場合、相手方の保険会社から損害賠償について示談案が示されますが、その金額が果たして妥当なのかという点について、大半の方は判断できないものと思います。

 

 交通事故で生じる損害賠償の項目には、治療費、通院交通費、慰謝料、休業損害、逸失利益など様々のものがあり、それぞれの項目には計算方法など特有の問題点がありますし、また、当事者間で過失の割合が争いになる場合も多く、その結果、賠償額の計算が複雑になりがちだからです。

 

保険会社の示談案は本来受け取れるべき金額より低い場合がある

 しかしながら、これまでの当職の経験上、保険会社からの提案額が本来裁判であれば認められるであろう金額よりも低くなっているケースは相当数ある、というのが実感です。

 

 たとえば、交通事故による怪我で入院や通院したことに対する慰謝料(=「入通院慰謝料」や、後遺障害が残ったことに対する慰謝料(=「後遺障害慰謝料」)、将来得られたはずの収入が後遺障害によって失われたことに対する補償(=「逸失利益」)について、妥当な水準を下回った内容となっているケースが典型例ですが、これらについてきちんと計算しなおした結果、実際の賠償額が数十~数百万円、場合によって1000万円以上も変わるということがあります。

 

 

裁判基準、任意基準、自賠基準の存在

 それでは、同じ事故に対する賠償問題について、どうしてこのような違いが起きるのでしょうか?

 

 それは、交通事故による損害額を計算する基準には、①裁判所が使用する基準(裁判基準)と、②保険会社内部の独自の基準(任意基準)、③自賠責保険の基準(自賠基準)の3つがあり、示談交渉の段階では、通常、保険会社は自社にもっとも有利な基準にしたがって提案をしてくるためです。

 

被害者にとってもっとも有利な基準は?

 一般的に、この3つの基準の中で被害者にとって一番有利なものは裁判基準であり、被害者側の弁護士は裁判基準をもとに損害額を計算し、示談交渉や訴訟を行います。

 

 もっとも、裁判基準もあくまで一つの目安であり、この基準で計算する前提となる事実関係(たとえば治療を必要とした期間や休業を必要とした期間など)について裁判所がこちらの主張を認めなければ、結果的には当初の示談案の金額を下回るということもあり得ます。

 

 そのため、様々な角度から検討した結果、最終的には保険会社の示談案が妥当と判断して解決するケースもありますし、裁判をすればどれだけ少なく見積もっても保険会社の示談案以上の額が見込めるだろうということで強気で交渉し、当初の提案から相当程度増額して解決できるケースも多くあります。

 

 このように、一口に保険会社の示談案が妥当かどうかといっても、その判断には交通事故に関する損害の計算方法や過失割合などについての知識・経験が必要であり、弁護士の専門的判断が要求されるところです。

 

 また、裁判基準についてはインターネットの情報からご存じの方も多いですが,その基準を当てはめ、さらにこれをもとに実際に示談交渉することも簡単なことではありませんので、保険会社から示談案が出たら、一度弁護士への相談をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

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自己破産すると、退職金はどうなるか?~自己破産③~

 

 会社員や公務員など退職金のある方が自己破産する場合、退職金はどのように扱われるでしょうか?

 

 これは、債務整理の方法として自己破産を検討する場合に問題となることの多いテーマの一つです。

 

 そこで、今回は自己破産と退職金をテーマにお話ししたいと思います。

 

既に退職金を受け取ってしまっている場合

 この場合、支給額全額が自己破産による処分の対象となります。

 

 ただし、受け取った金額が20万円以下であれば、そもそも処分されません。

 

 また、20万円を越えてしまう場合でも、他の資産と合算して、合計で99万円までであれば「自由財産拡張」(じゆうざいさんかくちょう)という制度を利用し、手元に残せる場合があります(なお、病気で高額の医療費がかかるなど特別な事情があれば、99万円を超えてさらに手元に残せる場合もあります)。

 

退職予定がなく、定年が何年も先の場合

 このような場合は、退職した場合に支給される金額の8分の1が自己破産による処分の対象となります。

 

 たとえば、自己破産した時点で退職したら400万円の退職金が支給される見込みの場合には、その8分の1である50万円が処分されます。

 

 もっとも、退職金が自己破産で処分されるといっても、実際に退職することを求められることはなく、資産としてカウントした金額(上の例では50万円)を、給料などを使って裁判所に納める形となることが通常です。

 

 これに対して、支給見込額が160万円以下であれば、その8分の1は20万円以下となりますので、自己破産による処分対象にはならないことになります。

 

 なお、8分の1が20万円を超える場合でも、他の資産と合算して99万円までは手元に残せる場合があるというのは、上の事例の場合と同じです。

 

退職していないが、退職日が決まっている等支給が具体化している場合

 この場合には、退職金の4分の1が自己破産による処分の対象です。

 

 たとえば、近々400万円の退職金が支給される見込みの場合には、その4分の1である100万円が処分の対象となります。

 

 これに対して、支給見込額が80万円以下であれば、その4分の1は20万円以下となりますので、処分の対象にはならないことになります。

 

 20万円を超える場合でも、他の資産と合算して99万円までは手元に残せる場合があるというのは、上の2つの事例の場合と同じです。

 

中小企業退職金共済、建設業退職金共済など

 退職金の中でも、上記のようなものについては、そもそも法律で差押が禁止されているため、自己破産手続の中でも処分されることはありません。

 

 以上のとおり、自己破産をするタイミングや退職金の種類によって、退職金を残せるかどうか大きく変わることがお分かりになるかと思います。

 

 支払不能であることが明らかであれば、早期に自己破産することがかえって老後の安定につながるケースもありますので、自己破産する場合にはタイミングを誤らないよう注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

離婚をするための手続について

 

 弁護士の川上です。

 

 当事務所でお受けするご相談で最も多いのは、実は離婚に関するご相談かもしれません。今回は離婚をするための手続についてお話しします。

 

1 協議離婚

 まずは夫婦間で話し合いをする(協議)のが基本です。離婚するかどうかに加え、未成年のお子さんがいる場合には、夫婦のどちらが親権者(しんけんしゃ)となるかを話し合います。離婚と親権について合意できれば、離婚届を記入して提出することで、協議離婚が成立することになります。

 なお、養育費(よういくひ)面会交流(めんかいこうりゅう)、慰謝料(いしゃりょう)財産分与(ざいさんぶんよ)などの条件についても話し合うことになりますが、これらについては別の機会にご説明します。

 

2 調停離婚

 当事者間で合意できない場合には、家庭裁判所で夫婦関係調整(ふうふかんけいちょうせい)の調停を行います。いきなり裁判を起こしても、「まずは調停をしてください」と言われます(ちなみに、夫婦関係調整の調停の中には離婚と円満調整の2種類があります)。

 家庭裁判所での調停の手続は、2名の調停委員が中心となって進められます。当事者が面と向かってやり取りをするのではなく、調停委員が当事者から交互に事情を聞き、ポイントを整理しながら調整していくというイメージです。調停手続については、別の機会でご説明します。

 

3 裁判離婚

 調停でも合意できない場合、家庭裁判所で離婚訴訟を行うことになります。裁判で離婚が認められるためには、離婚原因(りこんげんいん)が必要となります。

 民法770条1項には5つの離婚原因が定められており、裁判所が離婚原因ありと判断すると、一方が同意していなくても離婚が認められます。具体的には、相手に不貞行為(ふていこうい)があったとき等ですが、これについても別の機会にご説明します。

 

自己破産すると、保険は解約しなければならないのか?~自己破産②~

 

 債務整理の相談を受けていると、自己破産を考えているが、生命保険など加入している保険を解約しなければならないのか、というご相談を受けることがあります。

 

 そこで今回は、自己破産の手続の中で保険契約がどのように取り扱われるかを御説明します。

 

掛け捨ての保険(医療保険、自動車保険など)

 この種の保険では、基本的に解約する必要はありません。

 

 ただし、多数の保険に加入した結果、保険料負担によって家計がマイナスになっているようなケースでは、保険に加入していること自体が浪費と捉えられる可能性もあり、また、自己破産の目的である経済的な立ち直りを実現するため、事実上、解約せざるを得ない場合もあり得ると思います。

 

解約するとお金が返ってくる保険(生命保険、学資保険など)

 解約してお金が戻ってくる保険の場合、20万円を超える金額が返ってくるときは、原則として解約されてしまいます

 

 これに対して、そもそも20万円以下の解約返戻金しか戻ってこない場合や、破産手続中あるいは破産手続が終わった後に新たに加入した保険については、処分の対象外となります。

 

 解約返戻金が発生する保険については、解約されてしまうと保険料や健康上の問題などから、新規に同じような保険に加入するのは大変だというケースもあり、破産者にとって酷な場合もあります。

 

 そこで、このような場合には、保険を破産者の手元に残すことを裁判所に申請する「自由財産拡張」(じゆうざいさんかくちょう)という制度を利用して、20万円を超える解約返戻金がある場合でも保険を解約せずに自己破産できる場合があり、実務上、広く活用されています。

 

破産手続中に保険金の支払事由が発生すると、受け取ることができない場合がある

 ただし、ここで一つ注意が必要なのが、破産手続前に加入した保険について、破産手続の進行中に保険金の支払事由が発生した場合です。

 

 このような場合、破産前に締結した保険契約によって発生する保険金請求権は破産財団に帰属し、破産管財人が取得した上で債権者への配当に回すことになります(自由財産の拡張は可能ですが手元に残す金額は制限がかかります。)ので、手続中にそのようなことがあった場合には破産管財人に速やかに報告して対応を検討する必要があります。

 

 

 どのような場合に保険を残せるか、また、残せるとしてもどこまで残せるのかはケースバイケースですが、今回ご紹介したとおり必ずしも解約しなくても良い場合があります。

 

 支払いに困ってしまい、保険を解約して戻ってきたお金も返済に注ぎ込んだ後で御相談に来られる方もいらっしゃいますが、適切な時期に相談に来られていれば手元に残せたというケースがありますので、保険加入中の方で自己破産などの債務整理をお考えの方は解約する前に弁護士にご相談下さい。

 

弁護士 平本丈之亮

 

遺産分割の登場人物~遺産相続②・法定相続人~

 

  弁護士の川上です。

 

 前回のコラム(「遺産は自由に分けられます!」)の中で、「相続人全員が合意できるのであれば、どのような分け方をしようとも自由なのです」とご説明しました。

 今回は、遺産をもらうことのできる相続人(そうぞくにん)とは誰なのかについてお話しします。

 

  1. 亡くなった人のことを「被相続人」(ひそうぞくにん)といいます。
  2. 被相続人の配偶者(夫、妻)は常に相続人となります。内縁の場合は「配偶者」にはあたらないので、相続の権利はありません。
  3. 被相続人に子がいる場合には、子が相続人となります(第1順位)。被相続人が再婚している場合、前の配偶者との間の子も相続人となります。また、子には養子も含まれますし、養子に出た実子も含まれます。
  4. 被相続人に子がいない場合には、被相続人の「直系尊属」(ちょっけいそんぞく)、すなわち父母や祖父母が相続人となります(第2順位)。
  5. 被相続人に子がいない場合で、更に直系尊属もいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります(第3順位)。
  6. なお、これら相続人となるべき人が被相続人よりも先に亡くなっている場合、「代襲相続」(だいしゅうそうぞく)といって、先に亡くなっている相続人の子が相続人となります。なお、兄弟姉妹が相続人となる場合の代襲相続は一代(甥、姪)に限り認められています。

 

 コラムという性質上、あまり細かな具体例まではお話できませんので、詳しくは当事務所までご相談ください。

 

2018年1月31日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

遺産は自由に分けられます!~遺産相続①・遺産分割の基本~

 

 弁護士の川上です。

 

 最近、「高齢社会に合わせた相続制度の見直し」についての報道がありました。当事務所でお受けするご相談の中でも、遺産相続に関するご相談が相当の割合を占めています。今回は遺産相続の基本的な考え方についてお話しします。

 

 遺産相続というと、「妻が1/2、子が3人だから1/2を3で割ると1/6ずつ」の権利がある、といった「法定相続分」(ほうていそうぞくぶん)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

 法律で割合が決まっている以上、それに従わなければならないようにも思われますが、法定相続分はあくまでも遺産の分け方に関する話し合いがまとまらない場合の基準であり、相続人全員が合意できるのであれば、どのような分け方をしようとも自由なのです。

 たとえば、亡くなった父親が残した遺産が自宅の土地・建物だけで、二男夫婦が両親と同居しており、長男は県外に自宅を構え、今後戻ってくる予定はないといったケースで、母親と長男が相続の権利を主張せず、全て二男に相続させるということも良く行われています。

 この場合、母親は今後も二男夫婦にまかせることを考慮して権利を主張せず、長男は①二男がこれまで両親の面倒を見てくれたこと、②今後も母親の面倒を見てもらうこと、③自分が権利主張すると土地・建物を処分することにもなりかねず、帰省する実家がなくなってしまうおそれがあることなどを考慮し、権利を主張しないというわけです。

 

 なお、話し合いがまとまらない場合、基本的には法定相続分に従って分けることになりますが、法定相続分に従ったのでは不公平が生じる場合、それを修正する制度として「特別受益」(とくべつじゅえき)「寄与分」(きよぶん)があります。これらについても、追々ご説明して行きたいと思います。

 

2018年1月29日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所