給与ファクタリングが貸付であると判断した裁判例(東京地裁令和2年3月24日判決)

 

 以前のコラムで給与ファクタリングを巡る状況について解説しましたが、この点について、給与ファクタリングは実質的に貸付けであり、貸金業法や出資法の適用対象であると判断した東京地裁令和2年3月24日判決がありますので、今回はこの判決をご紹介します。

 

 このケースで給与ファクタリング業者は、業者と利用者との間において、利用者が勤務先から直接給与を受け取った場合、利用者が譲渡した給与債権を業者から額面額で買い戻す合意があったと主張し、そのような買戻合意に基づき、譲渡を受けた給与額と同額の支払いを求めました。

 これは要するに、額面10万円の給与債権を6万円で譲渡した場合、その後に利用者が勤務先から10万円の給料を受け取ったときは、利用者は10万円を払って業者から給与債権を買い戻さなくてはならない約束があったという主張ですが(=利用者は債権譲渡によって業者から6万円を受け取り、最終的には買戻代金として10万円を払う。)、裁判所は以下の通りこのような取引は貸金業法や出資法に定める貸付けに該当し、法律の定める利率を大幅に超過するため無効であると判断しました。

 

東京地裁令和2年3月24日判決の要旨

①貸金業法や出資法は、規制対象となる貸付けに「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」によってする金銭の交付を含む旨定めている(貸金業法2条1項本文、出資法7条)。

 

②これらの規制の立法趣旨が、高金利を取り締まって健全な金融秩序の保持に資すること等であることからすると、金銭消費貸借契約とは異なる形式であっても、契約の一方当事者の資金需要に応えるため、一定期間利用後の返済を約して他方当事者が資金を融通することを主目的とし、経済的に貸付けと同様の機能を有する契約に基づく金銭の交付については、「これらに類する方法」に該当する。

 

③給与債権の譲渡については、労働基準法上も譲渡を禁止すべき規定はなく一律に無効と解すべき根拠はないが、労働基準法24条1項の趣旨からすれば、労働者が賃金債権を譲渡しても使用者はなお労働者に直接賃金を支払われなければならず、譲受人は直接使用者に支払いを求めることはできない(最高裁昭和43年3月12日判決)ため、給与ファクタリング業者は、常に労働者を通じて賃金債権の回収を図るほかない。

 

④そうすると、給与ファクタリングを業として行う場合には、業者から労働者に対する債権譲渡代金の交付だけでなく、労働者から賃金を回収することが一体となって資金移転の仕組みが構築されているというべきである。

 

⑤利用者が譲渡した給与額を支払わないと業者からは厳しい取立てがなされ、使用者に債権譲渡が通知されて信頼を損なったり迷惑をかけるおそれがあり、支払いをするまでこのような請求を受け続けることになるが、このことから裏付けられるように、本件取引では、利用者は譲渡した給与債権の支給日に、譲渡した給与債権額を業者に払うことが当然の前提とされている。

 

⑥業者は、給与ファクタリングは勤務先の破綻による不払いのリスクを抱えており通常の貸付けとは異なる危険を負担していると主張するが、仮に勤務先が破綻しても給与債権は破綻手続において手厚く保護されており、利用者自身が破綻した場合に比べて不払いの危険は極めて小さく、そもそも勤務先からの回収ができなくなった場合には利用者からの回収も見込めなくなるのであるから、給与ファクタリング業者が通常の貸付けと異なる危険を負担しているとは言い難い。

 

⑦したがって、給与ファクタリングの仕組みは、経済的には貸付と同様の機能を有するものと認められ、本件取引による債権譲渡代金の交付は、「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」による「貸付け」に該当する。

 

⑧業者が裁判で支払いを請求している取引について年利換算すると、年利850%を超える利率となっており、貸金業法42条1項の定める年109.5%を大幅に超過するから、本件取引は同項により無効であるとともに出資法5条3項に違反し、刑事罰の対象となる。

 

 この判決では、給与債権を譲渡しても労働基準法24条1項によって業者は勤務先に直接請求できないため、業者が支払いを受けるには結局労働者を通じて回収するしかないことや、支払いをしないと業者から利用者に厳しい取立がなされるという実体に着目し、給与ファクタリングは貸付けに該当すると判断しています。

 なお、このように考えた場合、業者が利用者に債権譲渡代金として支払った金額を返還する必要があるのかが別の問題として残りますが、この判決では、このような支払いは不法原因給付に該当するため利用者は返還義務を負わないと判示されています。

 

 給与ファクタリングを巡っては、弁護士が介入した後も業者が利用者や勤務先へ取立を継続したため、利用者本人への接触や勤務先への電話等を禁止する仮処分が出された例もあるようですが(熊本地裁令和2年2月12日決定)、報道によると警察による摘発も始まっており、今後、刑事事件として司法判断が下される可能性がありますので、当職としても引き続き動向を注視していきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

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2020年8月26日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

訪問販売において、契約内容をDLできる状態にしただけではクーリングオフ期間は進行しないと判断された事例

 

 訪問販売・電話勧誘販売など、特定商取引法に規定される取引類型については、一定の期間内であれば無条件に契約を解消できるクーリングオフ制度があります。

 クーリングオフの期間は法律で記載事項が定められている書面(法定書面)を交付したときから進行しますが、そもそも書面が交付されていなかったり、交付された書面に重大な不備がある場合にはクーリングオフの期間は進行せず、本来の行使期間が経過してもクーリングオフが可能とされています。

 今回は、このようなクーリングオフの起算点である書面交付の要件について、インターネット上の事業者のホームページのURLから契約内容を記載した規約をダウンロードできる状態だった場合に、法定書面の交付があったといえるかどうかが争われた事例(東京地裁平成30年2月26日判決)をご紹介します。

 

事案の概要

 このケースは、セミナーの受講契約を申し込んだ消費者が、当該受講契約は訪問販売に該当し、法定書面の交付がなかったためいまだクーリングオフ期間は経過していないと主張したのに対して、事業者が上記の通りホームページから規約をダウンロードできるから法定書面の交付があったと反論したものです。

 この争点について裁判所は以下のように判断し、業者側の主張を排斥してクーリングオフを認め受講代金の返還を命じています。

 

東京地裁平成30年2月26日判決

「特商法4条が契約の申込みに当たっての書面の交付を要求した趣旨は,商品の内容,種類,数量などの正確な契約内容の認識を与え,かつ,クーリングオフの権利を有することを書面で告知することにより,申込みをした者が,当該契約を維持するかどうかを事後的に冷静に判断する機会を与えることにあるから,書面により確実に交付することが求められていると解され,単にダウンロードできたことをもって書面の交付があったということはできず,この点に関する被告の主張は採用できず,少なくとも,本件各解除までに書面の交付があったとは認められない。」

 

 以上のように本判決は、特定商取引法が書面の交付を要求した趣旨からすれば、法定書面はまさに「書面」として確実に交付することが必要であると判断しています。

 契約内容を記載した電子データがダウンロード可能であれば書面の交付があったと評価しても良いのではないかという考えは一見すると説得力があるようにも思われますが、他方で、電子データは差し替えや削除が容易であり、契約時の規約が後日別のものに変更されたり削除される危険が否定できないことも踏まえると、ダウンロード可能な状況しただけでは足りないとした本判決の判示は妥当なものと考えます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年7月21日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

サクラサイト被害に遭ったらどうするか?

 

 ここ数年、いわゆるサクラサイトに関する被害相談が相次いでいます。

 サクラサイト被害は、古くは異性との出会いを目的として多額のポイントを消費したにもかかわらず、一向に出会えなかったという被害から始まりましたが、最近では必ずしも出会いを目的とせず、多額のお金がもらえる等と騙したり、難病にかかっているため話し相手になってほしい、芸能人の話し相手になってほしいなどと称してポイント購入費用を支払われせるなど手口が多様化しています。

 サクラサイトの特徴は、サイト内でやりとりをする相手方が実際には存在せず、業者の指示のもとポイントを使用させるために架空のキャラクターを演じる「サクラ」が存在する点にありますが、この種の被害に関するご相談を受けていると、相手方とのやりとりの中身が会員にポイントを使用させるためのものとしか思えないことがあります。

 

サクラサイトの違法性

 サクラサイトの運営業者は、異性との交際や金銭的な利益を得たいという希望、助けを求める者に対する親切心などの消費者の心理状態に付け込み、ポイント購入による利益を上げるために架空のキャラクターを用意して消費者を騙すものであって、そのような行為は詐欺として違法であることが明らかです。

 サクラサイトの違法性について判断したリーディングケースである東京高裁平成25年6月19日判決も、サクラの存在を認定したうえで、サクラを利用した運営業者の行為は詐欺であると厳しく非難しています。

 

サクラサイトに損害賠償請求をするには十分な事前準備が必要

 もっとも、サクラサイトに対して損害賠償を請求することを考えた場合、以下のような情報や証拠を確保できるかがカギとなります。

 

 ①サクラサイトの運営業者の所在の特定 

 サクラサイト運営事業者の責任を追及するためには、まずもって運営業者を特定できるかどうかが問題となります。

 サイト上には特商法に基づいて運営業者が表示されているはずですが、これが表示されていない場合には、法律に基づいて都道府県公安員会に提出された開業の届出書をもとに作成されるインターネット異性紹介事業者台帳などから特定を試みます。

 

 ②サクラとのやりとりや損害額に関する証拠の確保 

 サクラサイトが違法であることは被害者側が示さなければなりませんが、そのためには、被害者が相手から受け取ったメールの内容が不自然・不合理であることを立証し、そのような不合理な内容によって利益を得るのはサクラサイトの運営事業者しかいないことを明らかにする必要があります。

 そのためには、サイトの存在や相手方との過去のやりとりについて、日時や相手方が誰であるかが分かるように写真撮影したりスクリーンショットをとっておくことが必要となりますが、すでに業者と揉めてしまった後だと、会員ページにログインできなくなったりメッセージが削除されてしまうことがあり、事前にどこまで証拠を確保できるかが重要です。

 また、損害賠償請求をする場合には、被害額を証明する必要もありますが、実際に支払った金額が分かる資料も保存しておくことが必要となります。

 

サクラサイトの自力で解決することは非常に困難

 そもそもサクラサイトは、はなから消費者を騙すことを目的としているものであるため、個人が交渉しても解決できる可能性は非常に低いと言わざるを得ません。

 このような場合に被害者が取りうる手段としては、各地の消費生活センター等にあっせんを依頼する方法がありますが、センターの相談員の尽力によって解決に至るケースも多くあり、有力な解決手段となっています。

 もっとも、サクラサイトの運営事業者の中には、合理的な理由もないのに低額の和解案を提示してくるケースもあり、残念ながらセンターのあっせんでは満足のいく解決に至らない場合もありますので、このような場合には最終的には弁護士に依頼して交渉や訴訟による解決を図ることになります。

 

 サクラサイトからの回収可能性は一概には言えず、そもそも相談を受けた段階で運営事業者の所在すら分からない場合や証拠が残っていないケースもありますが、事業者の所在が明らかであり、事業者が今後もそのサイトを運営する意思があるケースであれば可能性はありますので、費用対効果の観点も踏まえて弁護士へ委任するかどうかを検討していただくことになります。

 

二次被害に注意

 サクラサイトの被害にあった場合、被害者はその被害回復についてもインターネット上の情報に頼ることがありますが、サクラサイトの被害回復を謳うサイトの中には、被害者からさらに金銭を騙し取る者もいるため注意が必要です。

 サクラサイトについて相談したい場合には、各地の消費生活センター等の公的機関か、各地に存在するサクラサイト弁護団に所属する弁護士に相談するのが無難ですので、不用意に動いて二次被害に遭うことのないよう、十分に気を付けていただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年6月4日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

占いサイトの利用について運営業者と代表者への損害賠償を認めた事例

 

 インターネットを利用して運勢などを占う「占いサイト」というものがありますが、近時、利用料が高額になったなどの理由でサイトの運営事業者とトラブルになるケースがあります。

 占いは元々不確実な内容を含むものであるためそれ自体が違法というわけではなく、全ての占いサイトが違法でもありませんが、ケースによっては運営事業者の行為が違法と判断されることもあり、今回ご紹介する裁判例(東京地裁平成30年4月24日判決)もそのひとつです。

 

事案の概要

 このケースは、インターネット上で鑑定を行うと表示している占いサイトに会員登録した方が、そこで購入したポイントを使用して鑑定士とやりとりをするうちに多額の負債を負ったところ、サイト運営事業者に違法行為があったとして損害賠償を求めたというものです。 

 

主な争点

 この裁判では、そもそも問題となった占いサイトには鑑定士は実在しないのではないか、仮に鑑定士が実在したとしても実際には個別に鑑定などしていなかったのではないか(=架空の鑑定によってポイントを消費させられ、そのような行為が違法ではないか)、という点が大きな争いになりました。

 

裁判所の判断

 裁判所は、以下の各事実から、問題となった占いサイトには実際には鑑定士は存在しないか、仮に存在するとしても会員のために個別に鑑定や占いをしておらず、鑑定士からのメール送信は単にポイントを費消させるための詐欺行為に該当するとして、運営事業者と代表者に対して損害賠償の支払いを命じました。

 

①サイトに所属している鑑定士から送られてきた運勢や個別鑑定の結果について、同一ないし類似の内容のメールが複数存在すること

 

②運営業者が、鑑定士の一覧、会社と鑑定士との契約関係、報酬の支払い状況、鑑定士の経歴を裏付ける客観的証拠、問題となった会員についてどのような方法による占いや祈祷を行ったかといった、容易に開示可能な情報を開示しなかったこと

 

③鑑定士が会員に対して返信等を促し、応答がない場合、鑑定士が繰り返し返信等を促すメールを送っていたこと

 

④会員が鑑定士にメール返信をしたり、鑑定や祈祷の結果を知るためには、有料のポイントが必要となること

 

→①②の事実からすると、サイト運営業者には鑑定士は存在しないか、仮に存在するとしても、少なくとも本件の原告について個別に占いや祈祷を行った事実は認められない。

 そうすると、サイト運営事業者は、占い等を行うと標榜しておきながら、実際には占い等を行っておらず、③④のとおり会員にポイントを購入させて利益を得ており、以上の事実関係に照らすと、サイト運営事業者の行為は詐欺に該当し、不法行為が成立する。

 

まとめ

 この判決は、「占い」というサービスを受けるための前提条件が果たしてあったのか(=鑑定士の存在)という点と実際にサービスが提供されたかどうか(=個別の占い行為)という2つの側面に着目し、具体的な事実関係をもとに、本当は鑑定士が存在しないか個別鑑定などしていないにもかかわらず、あたかも鑑定士が実在する、あるいは個別鑑定をしたかのように装っていたと認定して詐欺の認定を導いています(いわゆるサクラサイトにおける「サクラ」の存在の認定と似たような判断構造となっています)。

 本件では、鑑定士の実在性について占いサイトの運営事業者側が積極的に反証しなかったことや、鑑定士を名乗る複数の者から同じような内容のメールが複数届いていたという事実を重視して原告に有利な判断に至っていますが、同じような争い方をしたケースでも、占い師が実在しないとはいえない、あるいは個別鑑定をしなかったとはいえないとして利用者が敗訴した例も存在し、このようなアプローチをとったからといって必ず違法と判断されるとは限りません。

 もっとも、たとえ占い師の実在性や占い行為自体が認められたとしても、ことさらに利用者の不安や恐怖を煽るような不相当なやり方がなされ、正常な判断が妨げられた状態で過大なお金を支払わせたような場合には、社会的相当性を逸脱し違法であると判断される可能性もあります(大阪高裁平成20年6月5日判決参照)ので、トラブルに巻き込まれたときは弁護士など専門家への相談をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

2020年5月25日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

投資用マンションの購入を勧誘した不動産業者の説明義務違反を認めて損害賠償請求が認められた事例

 

 消費者問題の相談を受けていると、投資経験のまったくない、あるいは経験の乏しい方が投資用マンションの購入を勧められたという相談に出会うことがあります。

 このようなケースでは、営業担当者が収益について過大な期待を持たせるようなことを説明する一方で、リスクについての説明がおざなりであることがあり、そのような不当な勧誘がなされた場合、購入者は投資用マンションの購入に伴う様々なリスクを具体的に認識することなく契約に至ってしまうことがあります。

 今回は、このような投資用マンションの勧誘について、顧客に対する説明義務違反があったとして、不動産業者に対する損害賠償請求が認められた裁判例(東京地裁平成31年4月17日判決東京高裁令和元年9月26日判決(控訴審))を紹介したいと思います。

 

事案の概要

 この事案は、不動産購入や投資経験がなく自己資金も乏しい公務員が投資用マンションの購入について勧誘を受けマンション2室を2回に分けて購入したものの、数年後に入居者が突然退去したため約1か月間家賃が入らなくなったことから不安に思い弁護士に相談をしたところ、違法な勧誘行為があったとの説明を受け、リスクに関する説明義務違反などを主張して損害賠償を求め提訴したというものです。

 

主な争点

 この裁判では、以下のような点が争点になりました。

 

1 勧誘の際、営業担当がマンション投資の各種リスク(空き室リスク、家賃滞納リスク、価格下落リスク、金利上昇リスクなど)について説明したといえるかどうか

 

2 業者の勧誘には、不利益事実の不告知、詐欺的勧誘、断定定期判断の提供、説明義務違反などがあり、違法ではないのか

 

3 損害はいくらか

 

4 購入者の落ち度の有無・程度(過失相殺)

 

5 消滅時効

 

争点1 リスク説明の有無

 【一審】(東京地裁平成31年4月17日判決) 

 被告は、不動産価格が変動すること、賃料収入は保証されないこと、計算例の値も保証されないことなどが抽象的に記載された「告知書兼確認書」に原告が署名・押印していることなどを根拠に、リスクについてはわかりやすく説明したと主張しました。

 これに対して一審判決は、営業担当がマンション投資のメリットを強調する説明をしていたことを前提に、原告はこのような営業担当のセールストークを信じていたためその書面の記載内容を十分に理解していなかった等として、十分なリスク説明がなされたとはいえないと判断しました。

 

 【控訴審】(東京高裁令和元年9月26日判決) 

 この点については控訴審でも争われましたが、控訴審は以下のように判示してリスク説明をした旨の被告の主張を重ねて排斥しています。

 

①営業担当者は、一審での証人尋問の際、「告知書兼確認書」を示して説明した旨の証言を全く行っておらず、営業担当が説明をしたと認めるに足りる証拠はない

 

②仮に営業担当が「告知書兼確認書」に沿って説明していたとしても、各勧誘の時点において、1室目のマンションについては計算例、2室目については手書きの書面をそれぞれ示したうえで、あたかも各種リスクが存在しないか無視できるほど小さいかのような不適切な説明を具体的な計算式等に基づいて詳細に行っていたのであって、これにより本人の投資判断を誤らせたことが明らかである

 

③業者が各売買の契約締結時に、各種リスクについて一般的・抽象的な解説をしただけの「告知書兼確認書」に沿って説明をしたとしても、それだけでは、リスクは存在しないか無視できるほど小さいものであるという原告の誤解が解けなかったとしても不自然ではなく、契約締結に至る経緯を全体的に見れば、「告知書兼確認書」は、業者が説明義務違反を問われないために体裁を整えただけの書面に過ぎないというほかはない

 

争点2 勧誘の違法性の有無

 【一審】 

 業者の勧誘行為の違法性については、争点1についての事実認定を前提に、一審は概ね以下のように判断し、業者に説明義務違反の違法性があることを認めました。

 

①不利益事実の不告知、詐欺的な勧誘、断定的判断の提供があったとまではいえない(理由は不明確ですが、内容が抽象的であったにせよリスクに関する書面が交付されていたことが理由ではないかと思われます)

 

②原告は高校教師であり、これまで不動産購入や投資を一切経験したことがなく、投資に充てられる資金もわずかであったこと

 

③②のような属性を有する原告に対して多額のローン債務を負担させてまでそれぞれ2000万円を超えるマンション投資を勧誘する営業担当としては、少なくともマンション投資についての空き室リスク、家賃滞納リスク、価格下落リスク、金利上昇リスク等を分かりやすく説明すべき注意義務を負っていたというべきである

 

④営業担当は、③のような説明を怠っている以上、営業担当の勧誘には違法行為(説明義務違反)があったと言わざるを得ない

 

⑤したがって、その使用者である業者は使用者責任(民法715条1項)を負う

 

 【控訴審】 

 控訴審でも、業者に説明義務違反があったという一審の判断が維持されています。

 

争点3 損害額

 【一審】 

 一審判決は、以下のような計算式で算出した金額を説明義務違反と因果関係のある損害として認めました。

 

①【購入代金+購入時の諸費用-売却代金】

 

②弁護士費用相当額

 

 なお、被告は、購入者はマンションの賃料収入を得ていたのであるから、その分の賃料収入は損害から差し引くべきである(損益相殺)と主張しましたが、裁判所は、賃料収入は原告が自らの意思によってマンションを保有し、賃貸し続けることで生じたものであるから、差し引くことはできないと判断しました。

 弁護士費用相当額については、後に記載する過失相殺後の正味の損害賠償額の約10%が損害として認められています。

 

 【控訴審】 

 控訴審でも基本的な計算式は一審の枠組みが維持されているようですが、一審よりも若干賠償金額が増加しています(原典に当たれていないため理由は不明確ですが、不動産取得税が購入時の諸費用に該当するとして、一審が認定した損害額に加算されたように読めました)。

 なお、購入者側は、購入時の諸費用だけではなく、購入後にかかった諸費用(管理費、固定資産税、都市計画税、ローン利益等)も損害として認めるべきであると主張しましたが、控訴審では、購入後に発生した賃料収入を損害から差し引かない以上、購入後に生じた費用を損害として認めないという計算方法も不合理とはいえないとして、購入者側の主張を退けています。

 

争点4 過失相殺

 【一審】 

 一審は、概要以下のような事情を指摘して、購入者側の過失を4割としています。

 

①勧誘時、高校教師として稼働するなど相応の社会的地位を有していたこと

 

②投資に充てられる自己資金が乏しいことを自覚していたこと

 

③告知書兼確認書の記載などから、投資用マンションの購入に関する危険を認識する契機は十分にあったこと

 

 【控訴審】 

 詳細は不明ですが、原審の判断が維持されているようです。

 

争点5 消滅時効

 【一審】 

 本件は不法行為に基づく損害賠償請求であったため、加害者及び損害を知ったときから3年の消滅時効にかかりますが、マンションを購入したのが平成23年であり、実際に提訴したのが平成29年であったため、消滅時効が完成しているのではないかが争われました。

 この点について裁判所は、原告が損害の発生を現実に認識したのは、突然の空き室によって約1ヶ月分の賃料が得られず、その間のローン返済を自己資産で返済しなければなくなった時点、すなわち投資用マンションの購入に伴う危険性が顕在化したことを経験した平成26年であり、そこが起算点であるとして、そこから3年以内に弁護士が催告書を送付し、6ヶ月以内に提訴しているため消滅時効は完成していないと判断しました。

 

 【控訴審】 

 原典に当たれていないため業者が時効の主張を維持したかどうかは不明ですが、控訴審でも賠償請求が認められていますので、仮に控訴審でも主張していたとしても時効の主張は認められなかったことになります。

 

 

 本件では、顧客の属性に着目して、投資用マンションを勧誘した事業者にはリスクに関する説明義務があり、かつ、リスクについて抽象的に記載した書面を交付したのみでは説明義務を果たしたとはいえないと判断されています。

 具体的な説明義務の内容や説明の程度は顧客の属性(年齢や投資経験、社会的地位、資産内容など)や対象物件の性質などによって変動しうるとしても、一般的に投資用マンションの購入には判決が指摘するような様々なリスクがある以上、本件のような顧客に対してはリスクについて具体的に説明すべきであったことは明らかです。

 本件では顧客側にも落ち度があったとして4割の過失相殺がなされており、大幅な過失相殺を認めることは利益のみを強調するような不適切な勧誘を助長する結果ともなりかねず疑問も残りますが、投資経験や自己資金が乏しいといった当事者の属性を踏まえた上で不動産業者側の説明義務違反を認めた点は正当な判断であったと考えます。

 投資用マンションの勧誘については、今回問題となった公務員のように職業的に安定している方を対象に行われることが多いと思われますが、金額が高額であるためリスクが顕在化したときの被害は甚大なものになる危険性があります。

 実際に不適切な勧誘が行われている実数がどの程度なのかは不明ですが、裁判例としてこのような実例が報告されている以上、中には不適切な勧誘を行う事業者が含まれている可能性があることは確かですので、リスクについて抽象的・曖昧な説明しか行わなかったり、利益をことさらに強調してリスクを過小に説明するような事業者については注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

2020年5月22日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

給与ファクタリングを巡る状況について

 

 近時、報道などで触れる機会が多くなってきたものとして「給与ファクタリング」(給料ファクタリング)というものがあります。

 今回は、「給与ファクタリング」というものがどんなもので、いったい何が問題になっているのかについてお話ししたいと思います。

 

給与ファクタリングとは?

 そもそも「ファクタリング」とは、企業がその保有する売掛債権を譲渡することによって資金調達を行い、買取業者は買い取った債権を回収する仕組みであるとされ、企業は本来の支払期限前に資金を手元にすることができ、買取業者側は支出した代金を超える金額を回収できるため双方ともに経済的メリットがある仕組みであると説明されます。

 給与ファクタリングは、このようなファクタリングの仕組を応用し、その対象とする債権を労働者の給料とする点に特徴がありますが、具体的には、資金を必要とする労働者が支払期限前の給料をファクタリング業者に売却し、その後、労働者は勤務先から受領した給料からファクタリング業者に譲渡した分の金額を支払うというやり方がなされるようです(労働基準法第24条1項により、業者は直接使用者に支払いを請求することができないとされているため、必然的にそのような仕組みになります)。

 たとえば、給料20万円が月末に入るとして、そのうち10万円分を給与ファクタリング業者に譲渡し、その対価として8万円を受け取ったとすると、労働者は月末に支給された20万円から10万円を業者に支払うというやり方になります(これにより業者は8万円を渡して10万円を受け取るため、2万円の利益を得ることになります)。

 

問題点として指摘されているもの

 このような給与ファクタリングについては、形式上は債権譲渡の仕組みが取られていますが、先ほどの例でいえば8万円の貸し付けを受け、利息込で10万円を返済しているのと同じであるため、実質的には貸金に該当し、貸金業法や出資法・利息制限法の適用があるのではないかという点が問題視されています。

 仮に給与ファクタリングが貸金だとすると、これを取り扱う業者には貸金業の登録義務があり、また、金利規制の適用もありますが、報道によれば給与ファクタリング業者が得ることになる経済的利益を利率換算すると超高金利になる場合が多いとのことであるため、そのような取引は違法ではないか、という点も指摘されています。

 

金融庁の見解

 金融庁は、労働者が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、その労働者を通じて資金の回収を行うという仕組みが貸金業に該当するかどうかという点について、一般的な法令解釈に係る書面照会手続における回答として、本年3月5日、以下のような見解を示しました。

 

「個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権について、労働者が賃金の支払を受ける前にそれを他に譲渡した場合においても、その支払については労働基準法(昭和22 年法律第 49 号)第 24 条第1項が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがって、その賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないとの同法の解釈を前提とすると、照会に係るスキーム(個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うこと。)においては、いかなる場合であっても賃金債権の譲受人が自ら使用者に対してその支払を求めることはできず、賃金債権の譲受人は、常に労働者に対してその支払を求めることとなると考えられる。そのため、照会に係るスキームにおいては、賃金債権の譲受人から労働者への金銭の交付だけでなく、賃金債権の譲受人による労働者からの資金の回収を含めた資金移転のシステムが構築されているということができ、当該スキームは、経済的に貸付け(金銭の交付と返還の約束が行われているもの。)と同様の機能を有しているものと考えられることから、貸金業法(昭和 58 年法律第 32 号)第2条第1項の「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」に該当すると考えられる。したがって、照会に係るスキームを業として行うものは、同項の「貸金業」に該当すると考えられる。」

 

東京地裁令和2年3月24日判決

 また、まだ原典にはあたれていませんが、東京地裁において、給与ファクタリングは経済的には貸付による金銭の交付と返還の約束と同様の機能を有するものであり、債権譲渡代金として交付された金銭は貸付に該当するため貸金業法や出資法の適用があるとして,実質的な利率が貸金業法42条1項の定める年109.5%を大幅に超過するため取引は無効である、という判決が下されたようです。

 

集団訴訟の提起

 さらに、本年5月13日、給与ファクタリングの利用者が、給与ファクタリング業者との取引が貸金に該当することを前提に、支払った金額の返還を求める集団訴訟を提起したという報道がありました。

 

 このように、給与ファクタリングについては、貸金であることを前提とした規制当局の判断やこれを追認する司法判断が出始めており、集団訴訟の提起もなされるなど問題点が顕在化している状況にあります。

 給与ファクタリングが貸金に該当するかどうかは今後の司法判断の積み重ねによって定着していくことになると思いますが、貸金であるかどうかを一先ず措いても、少なくとも経済的に見た場合には高金利での借入と同様の負担となるものが多いと思われるため、利用すればするほど経済的に困窮していく結果になりかねないものと思われます。

 給与ファクタリングの背景としては生活困窮や多重債務など様々な要因が考えられますが、生活困窮であれば相談支援機関の活用、多重債務の解決であれば弁護士等の専門家の支援が可能ですので、そのような窓口への相談をご検討いただきたいと思います。

弁護士 平本丈之亮

 

(2020.7.29追記)

 報道によれば、大阪府警が給与ファクタリング業者を貸金業法違反(無登録営業)の被疑義実で逮捕したようです。最終的な処分がどうなるか不明ですが、仮に起訴された場合には、給与ファクタリングに対する司法判断がより明確になるものと思われます。

 

2020年5月16日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

デート商法・恋人商法で契約させられたら~改正消費者契約法~

 

 悪質商法の手口として、「デート商法」「恋人商法」というものがあります。

 「デート商法」「恋人商法」とは、典型的には異性に好意を抱かせ、その好意を利用して商品などを販売する勧誘手法ですが、最近でも、婚活アプリで知り合った業者から投資を勧誘された女性が銀行から借り入れをして振込をしてしまったという報道もあり、悪質商法として古くからある勧誘手口の一つです。

 

<従来の対処法と法改正>

 「デート商法」によって契約をすると次第に勧誘者との連絡が取れなくなるため、そこで自分が被害に遭ったことに気付き、相談に至るというケースが多くあります。

 

 このような場合の契約解消の方法としては、販売目的を隠したまま店舗に連れて行くような典型的な手口であれば「クーリング・オフ」(特定商取引法)が使えますし、勧誘の際に重要な事柄について事実と異なることを告げていたり、「必ず儲かる」などの断定的なことを告げていた場合には「取消」を主張する(消費者契約法・「不実告知」「断定的判断の提供」)という方法もあります。

 

 しかし、何度もデートを重ねてから契約を結ばせるなど、好意は利用したかもしれないが販売目的であることは告げた上で店舗に連れて行ったようなケースや、虚偽の事実や断定的な判断を告げたとまではいいがたいケースなどでは、クーリング・オフ等の法律の適用について争いが生じ、販売業者との交渉が難航することがありました。

 また、このような不当な勧誘は公序良俗に反するなどといった理屈で契約の無効を主張することも行われていましたが、要件が明確ではなく、交渉の場では使いづらいという問題もありました。

 

 このような状況のもと、今回、好意の感情を利用した勧誘方法をストレートに規制対象とする法改正がなされ、「デート商法」「恋人商法」への対処法のメニューが一つ増えることとなりました(改正消費者契約法第4条3項第4号)。

 

<好意の感情の不当利用による取消>

 改正後の消費者契約法では、以下の要件を満たした場合、消費者は事業者との間の契約を取り消すことができます。

 

①消費者が社会生活上の経験が乏しいこと

②消費者が、勧誘者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱いたこと

③消費者が、勧誘者の方も自分に同じような感情を抱いていると誤信したこと

④勧誘者が、消費者がそのように誤信していることを知りながら、これに乗じ、契約しなければ自分との関係が破綻すると告げたこと

⑤消費者が、契約しなければ関係が破綻すると言われたことに困惑して契約したこと

 

【デートすることは取消の要件ではない】

 このコラムでは、分かりやすい表現として「デート商法」という言葉を使っていますが、上記の要件から明らかなとおり、取消をするためにはデートをすることは必要ではありません。

 したがって、いわゆる「出会い系サイト」などを利用した非対面でのやりとりを通じて契約させられた場合でも、上記の要件に当てはまれば取消は可能です。

 

【具体例1】

 女性が男性とデートをし、男性側が自分に好意を持っていることを知りながら、勤務先の会社のノルマがあり、達成できないと解雇されて遠方の実家に戻らなければならず、もう会えなくなるなどと告げて、男性に商品を購入させた場合

 

【具体例2】

 会社経営者の男性が、婚活アプリで知り合った女性とデートをし、女性側が自分に好意を持っていること知りながら、自分の会社の資金繰りが悪く、このままでは倒産してもう会えなくなるなどと告げて、女性に自社の商品を購入させた場合

 

【「社会生活上の経験が乏しい」とは?】

 主に若年者を念頭に置いた要件ではありますが、「社会生活上の経験が乏しい」かどうかは、必ずしも年齢によって決まるものではありません。

 消費者庁の解説によれば、「社会生活上の経験が乏しい」とは、社会生活上の経験の積み重ねが、その契約をするかしないかを適切に判断するのに必要な程度に達していないことをいうとされており、それまでの就労経験や他者との交友関係などの事情を総合的に考慮して判断するとされています。

 したがって、中高年であっても社会生活上の経験に乏しいと判断されることもありますし、逆に、若年者であっても、それまでの社会経験次第ではこの要件に当てはまらない場合があり得ます。

 

【「好意の感情」とは?】

 恋愛感情「その他の好意の感情」とされているとおり、必ずしも恋愛感情には限られません。

 もっとも、消費者庁の解説によると、単なる友情は含まず相当程度に親密である必要があり、恋愛感情と同程度の特別な好意でなければならないとされています(たとえば、勧誘者と消費者が家族同然の仲であるような場合には「好意の感情」に該当し得るとされています)。

 

 

 「デート商法」「恋人商法」は、恋愛感情や好意の感情という人の自然な気持ちを利用するものであり、経済的な被害だけにとどまらない被害が生じる点で非常に悪質な勧誘手法と言えます。

 今回の消費者契約法の改正によって、このような勧誘手法が正面から違法であると規定されたことには大きな意味があり、消費生活センターなどの相談現場での積極的な活用が期待されます(なお、施行日は本年6月15日です)。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

2019年6月12日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

クーリング・オフの期間を過ぎても解約できる場合とは?

 

 以前、訪問販売での契約を解約する方法として「クーリング・オフ」制度をご説明しました(訪問販売での契約を解消したい場合 ~クーリング・オフ~)。

 クーリング・オフは、解約の理由を問うことなく自由に行使できるため、消費者トラブルを扱う現場で広く用いられている解決手段です。

 しかし、便利な反面、クーリング・オフは行使できる期間が決まっており、訪問販売であれば、契約書等の書面を交付されてから8日間と大変短く、期間を過ぎてしまってから相談に来られる方も多くいらっしゃいます。

 そこで、いったん期間を過ぎてしまえば、それ以降、一切クーリング・オフはできなくなるのか、というのが今回取り上げるテーマです。

 

そもそも法定書面が交付されていない場合

 クーリング・オフの期間は、法律で交付することが義務づけられている書面(=「法定書面」・・・典型的には契約書。それ以外だと申込書面)を交付したときから進行するため、法定書面が交付されていない限りいつまででも行使することが可能です。

 よくあるパターンとして、訪問販売業者が見積書だけを交付したが正式な契約書を渡していないということがありますが、このようなケースでは法定書面の交付がないため、口頭で合意してから8日を経過してしまってもクーリング・オフが可能です。

 

法定書面に不備がある場合は?

 そもそも法定書面の交付が義務づけられている理由は、訪問販売が不意打ち的な勧誘方法であるため、消費者が取引条件をよく確認・理解できないまま契約したり、契約内容が曖昧なまま契約したりする例が多く、契約内容や解約などを巡ってトラブルが発生しやすいことから、消費者に契約について冷静に判断する機会を与えてそのようなトラブルを防止し、消費者を保護することにあります。

 そのような趣旨に照らすと、一応書面は渡したものの、法定書面の記載事項(法律で決まっていますが、具体的には以下のようなもの(※)があります。)に不備があるという場合には、契約トラブルを防ぐという法律の目的が達成できないため、行使期間が経過してからのクーリング・オフも可能であるとされています。

 


※法定書面の記載事項の例

 ①事業者名・住所 ②担当者の氏名 ③商品名および商品の商標または製造者名

 ④商品の型式 ⑤商品若しくは権利又は役務の種類 ⑥商品・権利の代金、役務の対価

 ⑦代金・対価の支払方法・支払時期 ⑧商品の引渡時期・権利の移転時期・役務の提供時期

 ⑨クーリング・オフの要件および効果(赤枠・赤字・8ポイント以上の活字)

 ⑩契約の申込み・締結の年月日


 

大阪地裁平成30年9月27日判決

 法定書面の記載事項に不備があることを理由にクーリング・オフを認めた裁判例はいくつかありますが、ここでは、最近の裁判例として、訪問リフォームの契約について、契約から約3ヶ月後のクーリング・オフを認めた大阪地裁の判決を紹介します。

 

 【法定書面の記載事項は厳格に(=細かく)書く必要がある】 

 まず、裁判所は、一般論として、法定書面の「記載事項の記載があるか否かは、厳格に解釈すべきであ」るとしたうえで、「商品若しくは権利又は役務の種類」という記載事項の解釈として、「内容が複雑な権利又は役務については、その属性に鑑み、記載可能なものをできるだけ詳細に記載する必要がある。」と述べました。

 そして、問題となった契約書に「ペンキ塗装工事 ニッペファインウレタン 2工程 一式」との記載があった点について、工事内容は外廻りのペンキ塗装であり、工事範囲は自宅の玄関ドア、入口ドア、ガレージドア、勝手口ドア、破風、雨樋などであったところ、そのような外廻りのペンキ塗装工事の具体的な内容は契約書の記載からは明確ではなく、この契約書や、契約書以外に交付された打ち合わせシートや約款に記載された内容だけでは「商品若しくは権利又は役務の種類」の記載があったとはいえない、と判示しました。

 

 【他の書面で補うときは法定書面との一体性と同時交付が必要】 

 また、業者側は、契約書・打ち合わせシート・約款の記載だけでは足りないとしても、それ以外にも見積書を交付しているため、これも併せれば全体として不備はないはずであると主張しました。

 しかし、裁判所は、一つの書面に書ききれない場合は「別紙による」と記載したうえで、足りない部分を別の書面で補うことは可能だが、その場合、法定書面を補うための書面は、「法定書面との一体性が明らかになるような形で、かつ、法定書面と同時に交付する必要がある」として、業者が主張する見積書が契約締結の約1ヶ月半前に交付されたものであることや(×同時交付)、見積書の中に問題となった契約以外の他の見積書が含まれており、他の見積と誤認・混同する可能性が否定できないこと(×法定書面との一体性)を理由に、このような主張も認めませんでした。

 さらに、このケースでは、契約書とは別に、工事内容を細かく記載した確認書も交付されていましたが、契約書の中にこの確認書に関する記載がなかったため、確認書による補完も認めませんでした(×法定書面との一体性)。

 

控訴審(大阪高裁平成31年3月14日判決)

 上記大阪地裁の控訴審は原審の判断を維持しましたが、その中で以下のとおり判示し、書面に不備があるときに、業者側が口頭で説明しても書面の不備が補われたということはできないと指摘しています。

 

「特商法5条1項が法定書面の交付を義務づけたのは、訪問販売においては、購入者等が取引条件を確認しないまま取引行為をしてしまったり、取引条件が曖昧であったりして、後日、両当事者間の紛争を惹起するおそれがあるからであって、このような後日の紛争防止という同条項の趣旨に照らせば、購入者等に交付された法定書面それ自体によって契約内容等が明らかになることが必要というべきであり、書面交付時の口頭説明によって補われれば足りると解するのは相当ではない。」

 

 

 このように、たとえ期間が過ぎていたとしても、契約書の交付がない、あるいは不備があるようなケースであれば、クーリング・オフが認められる可能性はあります。

 もっとも、契約書などの法定書面に不備があるかどうかの判断は、そもそもどのような事項が法定記載事項になっているかという知識が必要ですし、それぞれの記載事項としてどの程度のことが書いてあれば十分なのか、複数の書面が交付されている場合に一体性の要件を満たしているかどうかなどを一般の方が判断することは難しいと思われます。

 したがって、期間が過ぎてしまったがクーリング・オフできるかどうか分からないという場合には、最寄りの消費生活センターなどに相談なさることをお勧めします。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

 

 

2019年5月9日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

個人用住居の賃貸借契約を中途解約した場合の違約金は有効か?~消費者契約法第9条1号~

 

 4月に入り、転勤や就職などでそれまで住んでいた家を離れた方も多いと思いますが、この時期になると、今まで住んでいたアパートやマンションなどを退去する際にトラブルになっているという相談が増えてきます。

 賃貸借契約のトラブルとしては、原状回復や敷金の返還の範囲を巡るものが一般的ですが、急な転居が必要になったので解約を申し入れたところ、契約書記載の違約金の請求をされたというご相談もあります。

 そこで、今回は、賃貸借契約を契約期間の途中で解約した場合、一定の違約金の支払いを求める特約の有効性について考えてみたいと思います。

 

<良くあるケース・・・即時解約の際の違約金>

 よくあるケースとして、退去前には3ヶ月前に申し出ること、3ヶ月の経過を待たずに即時に解約する場合には家賃3ヶ月分の違約金を支払うこと、という条項がある場合があります(そのほか、予告期間に足りない分、たとえば2ヶ月前に予告した場合には足りない1ヶ月分だけ違約金を払うというケースもあります)。

 また、ストレートに違約金の支払いを求める条項のほかに、契約時に一定の額の保証金を差入れ、契約期間の途中で即時解約する場合には差し入れた保証金を違約金として没収するという定め方がなされている場合もあります。

 

<消費者契約法第9条1号・・・「平均的な損害」を越える部分は無効>

 このような契約書の記載は、大家さんに対して解約時の損害賠償として一定額の支払いを約束するものであり、「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」として消費者契約法9条1号の適用を受けます。

 そして、消費者契約法では、このような違約金条項については、大家さんに生ずべき「平均的な損害」の額を超える部分は無効と規定しています。

 

<どの程度までであれば有効か?>

 それでは、個人用の賃貸住居の契約を契約期間の途中で解約する場合、いったいどの程度の違約金であれば「平均的な損害」として有効となるのでしょうか?

 この点についてはいくつかの裁判例がありますが、当職の調べた範囲では、1ヶ月を超えるような違約金の定めがある場合において、1ヶ月分を越える部分は無効と判断するものがありました。

 その理由としては、①通常、賃貸借契約終了から1ヶ月程度あれば次の賃借人を入居させることが可能であり、仮にそれ以降も入居者が見つからなかったとしても、その部分まで前の賃借人に違約金として負担させるのは相当ではないこと(京都地裁平成22年10月29日判決)、②賃貸住宅標準契約書においては、解約予告期間及びそれに代えて支払うべき違約金の設定が1ヶ月とされており、次の入居者を探すまでの所要期間として相当であること(東京簡裁平成21年2月20日判決、東京簡裁平成21年8月7日判決)、があげられています。

 最終的には事案ごとの判断になると思われますが、このような裁判例があることを踏まえると、即時解約の場合に1ヶ月を超える金額を支払う内容の違約金条項については、消費者契約法第9条1号によって一部無効になる可能性があるものと思われます。

 

<解約予告期間をおきつつ、中途解約のときは一定の違約金の支払いを約束するケース>

 先ほどの例は、解約予告期間を設定したうえで、その期間が満了するまで契約を続けるか、それとも、即時に解約して違約金を支払うか、といういわば二者択一のケースでした。

 これに対して、解約予告期間をおいて、その期間が満了するまでは賃貸借契約が存続することを前提にしながらも、それとは全く別の特約として、契約期間内の中途解約の場合は一律に一定の違約金を払うという定めがなされる場合があります。

 たとえば、契約期間2年間の賃貸借契約において、解約には3ヶ月前までに申出をすること(=解約通知から3ヶ月後に契約が終了する)という条項と、契約期間内に解約する場合には一律1ヶ月分の違約金を払うこと(あるいは違約金として保証金を没収すること)という条項が入っている場合です。

 このようなケースでは、2年間の契約期間内に解約の通知をすると、そこから3ヶ月が経過してはじめて賃貸借契約が終了することになり、その間の3ヶ月分の家賃が発生しつつ、さらに1ヶ月分の違約金まで発生してしまう(合計4ヶ月の負担)という問題が生じます。 

 

 では、仮にこのような定めがあった場合、違約金を支払うという条項は消費者契約法第9条1号によって無効にならないのでしょうか?

 この点は寡聞にして消費者契約法第9条1号の問題とした裁判例や文献を見つけることができなかったため当職の私見ですが、そもそも解約予告期間が満了するまでの間賃貸借契約が存続するということは、大家さんはその間の3ヶ月間の家賃収入を確保できることを意味しますので、即時解約の場合と異なり、解約予告期間内の賃料収入の喪失という損害はないことになります。

 また、解約予告期間経過後の残存契約期間について、仮に契約が続いていれば得られたであろう賃貸収入(いわゆる逸失利益)が損害に含まれるという主張も考えられますが、大家さんとしては解約後に他に賃して賃貸収入を得ることが可能であり、これを損害に含めると解約後に新しい賃借人を入れた際の賃料との二重取りを認めることになるため、対象となる居室が他の賃借人には貸すことのできないような特殊な物件であるような特別の事情がない限り、ここでいう損害には含まれないと考えられます(※1,2)。

 


※1 大阪地裁平成14年7月19日判決

 自動車の売買契約解除のケースで、他に販売可能であることなどを理由に、販売店が得られるはずであった得べかりし利益は平均的な損害にあたるとはいえないとした裁判例

※2 東京地裁平成17年9月9日判決

 結婚式の予約を撤回する場合には10万円の取消料が必要であるとの条項が無効になるかが争われ、当初の予定どおりに挙式が行われたならば得られたであろう利益については、消費者が1年も前に撤回していることなどから、仮にこの時点で予約が解除されたとしてもその後新たな予約が入ることが十分期待し得る時期だった等の理由により、平均的な損害に当たらないとした裁判例


 

 その他、中途解約によってあらたに募集のための費用が生じると思われますが、賃借人の再募集は中途解約に限らず契約が終了するときには必ず生じるものであり、また、このような費用は事業者として賃貸事業を営む上で日常的に支出すべきものと思われることから、解約による損害には含まれるべきではないと思われます。

 そうすると、解約予告期間が満了するまで賃貸借契約が存続し、その間の賃料を得ることができる契約になっている場合には、当然に空き室が発生する即時解約のケースとは異なり、必ずしも大家さん側に損害が発生するとはいえないように思われます。

 このように考えていくと、解約予告期間内は賃貸借契約が存続することを前提にその間の家賃を請求しながら、契約期間内の解約であるという理由で家賃以外に違約金の支払いを求める特約は、消費者契約法第9条1号によって無効になる可能性があるように思われます。

  なお、同様の事例で、契約期間2年、解約申出2ヶ月後に契約が終了するという賃貸借契約について、契約期間未満で解約した場合には賃料・共益費の1ヶ月分の違約金を支払う条項を、消費者契約法9条ではなく、同法10条によって無効とした裁判例が存在します(※3)。

 


※3 東京地裁平成22年6月11日判決

 本件賃貸借において,同違約金の支払条項(特約36項)が存在することは,当事者間に争いがないが,同特約条項は,消費者契約法10条に違反すると解するのが相当である。すなわち,本件においては,賃借人からの解約申し出後2か月で賃貸借契約が終了する旨の特約が別途存在するのであり,賃貸借契約が2年以内に解約されることにより,賃貸人に特段の不利益があるとは考えられない。本件賃貸借は居住用マンションの賃貸借であるが,その契約時期は,平成20年2月であるところ,一般的には,4月に居住用マンションの新規需要が生じるのであるから,契約後2年間の契約期間に特段の意味はないといわなければならない。そうすると,上記特約は,事業者である被告と消費者である原告との間に取り交わされた消費者契約の条項であって,消費者である原告の利益を一方的に害するというべきである。)。

 したがって,原告の違約金の支払いは無効の約定に基づいて,法律上の原因がなくされたものであって,被告は同額を利得しているから,これは不当利得に該当し,原告はその返還を求めることができる。


 

<解約予告期間が満了するまでの分の家賃を請求しつつ、期間満了前に新たな賃借人を入れていたような場合>

 仮にこのようなケースがあったとすれば明らかに賃料の二重取りとなりますので、大家さん側に二重の利得を許すのは不当である、という価値判断には疑問の余地はないと思われます(少なくとも当職はそう考えます)。

 問題は法的な理屈ですが、裁判例も見当たりませんでしたので、以下は当職の私見を述べるにとどめます。

 そもそも、解約予告期間をおき、その期間が満了した時点で賃貸借契約が終了することを前提にして期間満了までの家賃を請求する場合、賃貸人は、その賃料の対価として、解約予告期間が満了するまでは賃借人に当該居室の使用収益をさせる義務を負い、その中には賃借人の使用収益を妨げる行為をしてはならないという不作為的な義務も含まれていると思われます。

 そうすると、一方で契約の存続を前提に、期間満了までの賃料の支払いを請求しておきながら、他方では賃借人の承諾なく、期間満了前に新たな賃借人を入れて賃料を得ていた場合には、賃借人の使用収益権を侵害したものとして、前の賃借人は家賃相当額の損害賠償請求をすることができる、と考えることができるように思います。

 あるいは、このような場合、新しい賃借人が入居した以上、前の賃借人はもはやその居室の利用ができなくなるわけですから、賃貸目的物が物理的に滅失した場合と同視できるとして、新たな賃借人が入居した時点で前の賃貸借契約は当然に終了し、それ以降の賃料として前払いした部分は法律上の原因のない不当利得として返還を求められる可能性もあるのではないかと考えます(なお、改正民法第616条の2では、「賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。」とされ、物理的な滅失以外の理由での賃貸借終了を明確に認めています)

 

 弁護士 平本丈之亮

 

訪問販売での契約を解消したい場合 ~クーリング・オフ~

 

 今回は、訪問販売で契約をした場合の解決法のひとつである「クーリング・オフ」についてのお話です。

 たとえば、以下のような場合、一般の消費者は事業者と交わした契約を自由に解消することができるのでしょうか?

 

<設例>

 先日、一人暮らしの母親が住む実家に行ったところ、茶の間に見慣れない契約書があった。

 中身を見たら実家のリフォーム工事を依頼するものだったので母親に確認したところ、2月21日に自宅にリフォーム業者が訪問してきたため説明を聞き、その場で契約したということだった。

 実家は古くなったもののこまめに手入れしており、まだまだリフォームは必要ないと思うので契約を解消したい。

 

 このようなケースで威力を発揮するのが、「クーリング・オフ」です。

 

<クーリング・オフとは?>

 クーリング・オフは、契約書等(法定書面)を受領した日から8日以内であれば無条件で契約を撤回できるという制度であり、訪問販売で契約をしてしまった場合にはよく利用される解決方法です(なお、契約の対象はリフォーム工事に限られず、一部適用が除外される取引はあるものの訪問販売であれば幅広く対象になっています)。

 そのため、上の設例でもまずはクーリング・オフの利用を検討し、期間内に契約を撤回する旨の意思表示をすれば、契約はなかったことになります。

 

<注意点>

 クーリング・オフは撤回の理由を問わないため、使い勝手の良い便利な解決法なのですが、いくつか注意点もあります。

 

①契約書面を受領してから8日以内に事業者に通知する必要があること(※1)

 受領日から起算するため、上記の例でいえば2月28日までに通知しなければなりません。

  point 8日以内に発送すればOK(「発信主義」) 

     ×8日以内に業者に到着することは不要

 

②配達証明付の内容証明郵便で通知することが望ましい

 ご自分で出すことも可能ですが、不安があれば弁護士に依頼することも検討した方が良いと思います。

 

③営業のためもしくは営業として契約された場合には適用されない(※2)

 

 訪問販売のトラブルは、迅速に対処すればクーリングオフによって解決できる可能性がありますので、お悩みの方は弁護士や最寄りの消費生活センターなどにご相談なさってはいかがでしょうか。

 


※1 ただし、契約書面の記載に不備がある場合、8日を過ぎても認められる場合があります。

※2 なお、零細事業者が電話機リース契約をしたケースにおいて、営業のためもしくは営業として締結したものではないとしてクーリング・オフを認めた事例(名古屋高裁平成19年11月19日判決)もあります。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2018年2月26日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所