訪問販売での契約を解消したい場合 ~クーリング・オフ~

 

 今回は、訪問販売で契約をした場合の解決法のひとつである「クーリング・オフ」についてのお話です。

 たとえば、以下のような場合、一般の消費者は事業者と交わした契約を自由に解消することができるのでしょうか?

 

<設例>

 先日、一人暮らしの母親が住む実家に行ったところ、茶の間に見慣れない契約書があった。

 中身を見たら実家のリフォーム工事を依頼するものだったので母親に確認したところ、2月21日に自宅にリフォーム業者が訪問してきたため説明を聞き、その場で契約したということだった。

 実家は古くなったもののこまめに手入れしており、まだまだリフォームは必要ないと思うので契約を解消したい。

 

 このようなケースで威力を発揮するのが、「クーリング・オフ」です。

 

<クーリング・オフとは?>

 クーリング・オフは、契約書等(法定書面)を受領した日から8日以内であれば無条件で契約を撤回できるという制度であり、訪問販売で契約をしてしまった場合にはよく利用される解決方法です(なお、契約の対象はリフォーム工事に限られず、一部適用が除外される取引はあるものの訪問販売であれば幅広く対象になっています)。

 そのため、上の設例でもまずはクーリング・オフの利用を検討し、期間内に契約を撤回する旨の意思表示をすれば、契約はなかったことになります。

 

<注意点>

 クーリング・オフは撤回の理由を問わないため、使い勝手の良い便利な解決法なのですが、いくつか注意点もあります。

 

①契約書面を受領してから8日以内に事業者に通知する必要があること(※1)

 受領日から起算するため、上記の例でいえば2月28日までに通知しなければなりません。

  point 8日以内に発送すればOK(「発信主義」) 

     ×8日以内に業者に到着することは不要

 

②配達証明付の内容証明郵便で通知することが望ましい

 ご自分で出すことも可能ですが、不安があれば弁護士に依頼することも検討した方が良いと思います。

 

③営業のためもしくは営業として契約された場合には適用されない(※2)

 

 訪問販売のトラブルは、迅速に対処すればクーリングオフによって解決できる可能性がありますので、お悩みの方は弁護士や最寄りの消費生活センターなどにご相談なさってはいかがでしょうか。

 


※1 ただし、契約書面の記載に不備がある場合、8日を過ぎても認められる場合があります。

※2 なお、零細事業者が電話機リース契約をしたケースにおいて、営業のためもしくは営業として締結したものではないとしてクーリング・オフを認めた事例(名古屋高裁平成19年11月19日判決)もあります。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2018年2月26日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

保険会社からの示談案は果たして妥当か?~交通事故①・3つの基準~

 

 交通事故の被害に遭われたとき、多くの場合、相手方の保険会社から損害賠償について示談案が示されますが、その金額が果たして妥当なのかという点について、大半の方は判断できないものと思います。

 

 交通事故で生じる損害賠償の項目には、治療費、通院交通費、慰謝料、休業損害、逸失利益など様々のものがあり、それぞれの項目には計算方法など特有の問題点がありますし、また、当事者間で過失の割合が争いになる場合も多く、その結果、賠償額の計算が複雑になりがちだからです。

 

保険会社の示談案は本来受け取れるべき金額より低い場合がある

 しかしながら、これまでの当職の経験上、保険会社からの提案額が本来裁判であれば認められるであろう金額よりも低くなっているケースは相当数ある、というのが実感です。

 

 たとえば、交通事故による怪我で入院や通院したことに対する慰謝料(=「入通院慰謝料」や、後遺障害が残ったことに対する慰謝料(=「後遺障害慰謝料」)、将来得られたはずの収入が後遺障害によって失われたことに対する補償(=「逸失利益」)について、妥当な水準を下回った内容となっているケースが典型例ですが、これらについてきちんと計算しなおした結果、実際の賠償額が数十~数百万円、場合によって1000万円以上も変わるということがあります。

 

 

裁判基準、任意基準、自賠基準の存在

 それでは、同じ事故に対する賠償問題について、どうしてこのような違いが起きるのでしょうか?

 

 それは、交通事故による損害額を計算する基準には、①裁判所が使用する基準(裁判基準)と、②保険会社内部の独自の基準(任意基準)、③自賠責保険の基準(自賠基準)の3つがあり、示談交渉の段階では、通常、保険会社は自社にもっとも有利な基準にしたがって提案をしてくるためです。

 

被害者にとってもっとも有利な基準は?

 一般的に、この3つの基準の中で被害者にとって一番有利なものは裁判基準であり、被害者側の弁護士は裁判基準をもとに損害額を計算し、示談交渉や訴訟を行います。

 

 もっとも、裁判基準もあくまで一つの目安であり、この基準で計算する前提となる事実関係(たとえば治療を必要とした期間や休業を必要とした期間など)について裁判所がこちらの主張を認めなければ、結果的には当初の示談案の金額を下回るということもあり得ます。

 

 そのため、様々な角度から検討した結果、最終的には保険会社の示談案が妥当と判断して解決するケースもありますし、裁判をすればどれだけ少なく見積もっても保険会社の示談案以上の額が見込めるだろうということで強気で交渉し、当初の提案から相当程度増額して解決できるケースも多くあります。

 

 このように、一口に保険会社の示談案が妥当かどうかといっても、その判断には交通事故に関する損害の計算方法や過失割合などについての知識・経験が必要であり、弁護士の専門的判断が要求されるところです。

 

 また、裁判基準についてはインターネットの情報からご存じの方も多いですが,その基準を当てはめ、さらにこれをもとに実際に示談交渉することも簡単なことではありませんので、保険会社から示談案が出たら、一度弁護士への相談をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

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妻(夫)の住居費用を夫(妻)が負担している場合の婚姻費用・養育費の計算方法

 

 離婚に関するご相談の中でポピュラーなものとして、離婚成立までの生活費(婚姻費用)や離婚後の養育費の問題があります。

 

 婚姻費用や養育費については、裁判所が公開している婚姻費用・養育費算定表(いわゆる簡易算定表)が広く浸透しているため、簡易算定表についてはご存知という方も多くいらっしゃると思いますが、簡易算定表はあくまで一般的・標準的な事案を前提にしたものですから、婚姻費用や養育費としてどの程度の金額が妥当であるかは夫婦それぞれの事情によって変わります。

 

 今回は、婚姻費用や養育費の計算において比較的問題になりやすいものとして、別居中の妻(夫)あるいは離婚後の元妻(元夫)の住居費(家賃・住宅ローン)を相手方が負担している場合に、婚姻費用や養育費の計算にどのような影響が出るのかをお話したいと思います。

 

 なお、婚姻費用と養育費の計算については、令和元年12月23日に新たな算定表が公開され従来の算定表から金額が変更された部分がありますが、計算の基礎として用いられる統計資料が最新のものに更新されたものの、基本的な計算方法に変更はありません。

 

 そのため、本コラムでは、新算定表によって変更が生じた部分以外は従来の議論がそのまま妥当するものと判断して説明しますが、新算定表は公開されたばかりであり、今後、具体的な事案において従来とは異なる考え方が採用され結論が変わる可能性もありますので、その点はあらかじめご了承いただきますようお願い申し上げます。

 

相手の住む家の家賃(アパート代など)を負担している場合

 簡易算定表は(元)夫婦がそれぞれ住居費を負担することを前提として作られていますので、どちらかの負担によって一方が家賃支出を免れている場合には、その分の利益を婚姻費用や養育費の計算で考慮する必要があります。

 

1 婚姻費用

 

 この場合、原則として簡易算定表のもとになっている計算方式(標準算定方式)で計算した婚姻費用から、一方が負担している家賃額を全額差し引き、残った金額のみを支払うことになります。

 

 これは、賃貸住宅については家賃の安いところへの転居が可能であるため、それをせずに今までの借家に住み続けることを選択する以上、婚姻費用から家賃額の全額を差し引かれても不当とまではいえないと考えられるためです。

 

 もっとも、別居に至った責任がもっぱら義務者側にある場合には、後述の住宅ローンのケースと同様に信義則違反として住居費の控除が否定されたり制限される可能性があります。

 

2 養育費

 

 これに対して養育費については、離婚したあとも相手が家賃を負担し続けるケースは多くないと思いますが、仮にそのような状態が続くことが想定される場合には、婚姻費用と同様に家賃が控除されると思われます(住居費の負担額の限度で養育費の支払いをしていると同視できるため)。

 

 離婚に至った有責性が相手方にある場合に、婚姻費用のように養育費からの家賃控除が制限される可能性があるかは明確ではありませんが、離婚に対する有責性は慰謝料で解決すべき問題であり子どもの生活費の計算とは無関係であるため、養育費の場面では有責性を理由に家賃の控除を制限するのは難しいのではないかと考えます。

 

相手が住宅ローンを支払っている家に住んでいる場合

 相手が住居費を負担するケースには、相手名義の住宅に住まわせてもらい、住宅ローンを相手が負担しているというケースもあります。

 

1 婚姻費用

 

 住宅ローンも賃貸住宅と同じ住居費であると考えるならば、先ほど説明した賃貸住宅と同じように全額が差し引かれることになります。

 

 しかし、住宅ローンの支払いには、住居費の負担という側面だけではなく、支払いをしている側の資産形成という側面もあるため、婚姻費用から住宅ローン全額を差し引くことは資産形成を生活保持義務に優先させることになり不当です。

 

 そのため、このようなケースでは、婚姻費用から差し引くべき金額が一定の範囲で制限されることになります(なお、別居の原因が相手の不倫であるなど住宅ローン負担者の有責性が高い場合や、相手が高収入の場合には、まったく差し引かれないこともあるようです)。

 

 【具体的な計算方法は?】 

 

 婚姻費用の計算において、具体的に住宅ローン支払額のうちどの程度の金額を差し引くべきかについては様々な計算方法がありますが、大きく分けると

 

①住宅ローンを負担している側の総収入から、住宅ローン支払額の一部を差し引き、標準算定方式に当てはめて計算する方法

 

②標準算定方式で算定した婚姻費用額から、住宅ローン支払額の一部を直接差し引いて計算する方法

 

の2通りがあります。

 

 ①②の中でも細かな計算方法がありますが、すべての計算方法を紹介すると複雑になりますので、ここでは比較的単純な計算方法をもとに、計算例をご紹介するにとどめます。

 

【事例】

夫:年収650万円(給与) 

妻:年収100万円(給与)

子ども:1名(10歳)

住宅ローン:月額10万円

住宅:夫名義。妻と子が居住を継続し、別居中。

 

 【①:年収から住宅ローンの一部を控除する方法】 

 

 この方法では、まず、夫が負担している住宅ローンのうち、夫の年収650万円から差し引くべき金額を計算する必要がありますが、住宅ローンには住居費と資産形成の両方の性質が含まれており、他方、義務者の住居費はそもそも標準算定方式で経費として既に考慮済みです。

 

 そのため、住宅ローンの支払額を婚姻費用の計算に反映させる場面において、住宅ローン支払額の全額をそのまま総収入から差し引いてしまうと、夫の住居費を二重に差し引いてしまうことになるため、重複する部分は除外することになります。

 

 具体的な計算方法の一例としては、平成25年から29年までの家計調査年報・第2-6表の平均値をもとに夫の収入区分に応じた住居関係費を抜き出し、それを住宅ローンの毎月の支払額から差し引き、次に、その差額を年額に換算して夫の総収入から差し引くという方法があります(用いるべき住居関係費をこの統計資料以外の資料で計算することが妥当な場合もあり得ますが、ここでは割愛します)。

 

 なお、ここで用いる住居関係費については、「平成25~29年 特別経費実収入比の平均値」という資料に記載がありますが、新算定表に用いられているこの資料は一般の方はなかなか接する機会が少ないと思いますので、詳しいことを知りたい場合は弁護士にご相談いただいた方が良いと思います。

 

(住宅ローン-収入に応じた標準的な住居関係費)×12=夫の総収入から差し引くべき金額

 

 この方法によると、年収650万円(月額54万1666円)の方の標準的な住居関係費は、前記資料によると63,085円となりますので、これを住宅ローンの月額から差し引き、夫の年収から控除すべき金額を計算すると、

 

100,000円-63,085円=36,915円(月額)

 

となります。

 

 次に、この金額(月額)に12を掛けて年額にし、今度はそれを夫の総収入から差し引いて、婚姻費用の計算に用いる夫の収入をあらためて計算しなおすと、

 

6,500,000円-(36,915円×12)=6,057,020円

 

となります。

 

 そして最後に、双方の収入(夫:約605万円 妻:100万円)を簡易算定表(表11 婚姻費用・子1人表(子0~14歳))に当てはめると、このケースにおける婚姻費用は、概ね11万円となります(住宅ローンを一切考慮しないと12万円)。

 

 【②:算定表の額から標準的な住居費を控除する方法】 

 

 この方法は、妻が夫名義の住宅に住んでいることによって住居費の支払いを免れていることに注目し、先ほど述べた統計資料に基づき、本来妻が負担すべき住居関係費を抜き出し、これを簡易算定表によって計算した金額から直接差し引くというシンプルなものです。

 

 まず、夫婦双方の年収を機械的に簡易算定表に当てはめると、このケースでは婚姻費用は概ね12万円になります。

 

 次に、差し引くべき妻側の住居費については、先ほどの統計資料によると、最も低い住居費は年収約177.7万円(月収148,113円)までの者を対象とした月22,247円です。

 

 そうすると、年収100万円(月収83,333円)の妻について、年収177.7万円までの者を前提とした住居費をそのまま当てはめて良いのかが問題となりますが、ここではその点の検討は省略し、このケースにおいて差し引くべき住居費は22,247円が妥当として話を進めます。

 

 そうすると、この方法を取った場合の婚姻費用は、

 

120,000円-22,247円=97,753円 → 概ね9.8万円

 

となります。

 

 このように、双方の収入に基づいて計算された婚姻費用から統計上の標準的な住居費を控除した裁判例としては、東京家裁令和元年9月6日決定があります(抗告審の東京高裁令和元年12月19日決定もこれを是認)。

 

東京家裁令和元年9月6日決定

「次に、申立人は、相手方が居住する自宅の住宅ローン及び管理費等を負担していることを考慮すべき旨主張するが、住宅ローンには住居を確保するための費用と資産形成のための支出の両面があり、標準的な住居関係費については、申立人の収入からあらかじめ控除され、前記住居関係費を超える部分は資産形成的側面を有するものとして、財産分与等の手続で清算すべきであり、これを婚姻費用分担額の算定にあたって考慮するのは相当ではない。
 もっとも、婚姻費用の算定に当たっては、別居中の権利者世帯と義務者世帯が、統計的数値に照らして標準的な住居関係費をそれぞれ負担していることを前提としており、申立人は相手方が居住する自宅につき住宅ローン及び管理費等を負担し、相手方の住居関係費をも二重に負担し、相手方が住居関係費の負担を免れているといえるから、当事者の公平の観点から、・・・婚姻費用分担額から、相手方の収入に対応する標準的な住居関係費・・・を控除するのが相当である。」

 

2 養育費

 

 これに対して養育費の場合には、住宅ローンを考慮する必要はありませんが、一定の場合には考慮すべき場合もあります。

 

 考慮する必要がないとする主な理由は、住宅ローンは財産分与で清算されるべき問題であり、不動産を含めた分与対象財産全体の評価額を計算する際に考慮されるため、それ以外に養育費の場面で改めて考慮する必要がないためです(たとえば、財産分与の額を算定する際に住宅ローン額を差し引いて分与対象額を算定した場合、養育費の場面で改めて義務者の住宅ローンの支払額を差し引くと、ひとつの住宅ローンを二重に控除することになり、義務者を不当に利することになります)。

 

 もっとも、離婚時に住宅ローンの清算をしなかった場合には、本来、夫婦が共同して負担すべきであった住宅ローンについて相手方のみが負担し続けることは不公平であるため、住宅ローンの支払額を養育費の計算において考慮する場合があり得ます。

 

 また、財産分与の際に住宅ローンを一切考慮せず、不動産そのものの評価額のみを前提に分与額を決めたような場合にも、権利者は本来負担すべき住宅ローンの負担がない評価額を前提に財産分与を受け、さらにその住宅に住み続けることによって居住費相当の利益を受けることになり不公平ですので、個人的には、そのようなケースについても住宅ローンを考慮することはあり得るのではないかなと思っています。

 

 

 実際の事案では、上記のような様々な方法による計算結果を参考にしながら、夫婦の具体的な事情を考慮したうえで協議によって決めていくことになりますが、どうしても夫婦間で話がまとまらないときは、最後は裁判官が裁量で決めることになります。

 

 婚姻費用や養育費についてどのような計算方法を採用するかという部分も裁判官の裁量に属する部分であり、必ずしもこちらの主張する計算方法を採用してもらえるとは限りませんが、当事者としては、なるべく自己に有利な計算方法を採用してもらえるように、自分の計算方法がいかに合理的であるかを説得的に主張していく必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

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自己破産すると、退職金はどうなるか?~自己破産③~

 

 会社員や公務員など退職金のある方が自己破産する場合、退職金はどのように扱われるでしょうか?

 

 これは、債務整理の方法として自己破産を検討する場合に問題となることの多いテーマの一つです。

 

 そこで、今回は自己破産と退職金をテーマにお話ししたいと思います。

 

既に退職金を受け取ってしまっている場合

 この場合、支給額全額が自己破産による処分の対象となります。

 

 ただし、受け取った金額が20万円以下であれば、そもそも処分されません。

 

 また、20万円を越えてしまう場合でも、他の資産と合算して、合計で99万円までであれば「自由財産拡張」(じゆうざいさんかくちょう)という制度を利用し、手元に残せる場合があります(なお、病気で高額の医療費がかかるなど特別な事情があれば、99万円を超えてさらに手元に残せる場合もあります)。

 

退職予定がなく、定年が何年も先の場合

 このような場合は、退職した場合に支給される金額の8分の1が自己破産による処分の対象となります。

 

 たとえば、自己破産した時点で退職したら400万円の退職金が支給される見込みの場合には、その8分の1である50万円が処分されます。

 

 もっとも、退職金が自己破産で処分されるといっても、実際に退職することを求められることはなく、資産としてカウントした金額(上の例では50万円)を、給料などを使って裁判所に納める形となることが通常です。

 

 これに対して、支給見込額が160万円以下であれば、その8分の1は20万円以下となりますので、自己破産による処分対象にはならないことになります。

 

 なお、8分の1が20万円を超える場合でも、他の資産と合算して99万円までは手元に残せる場合があるというのは、上の事例の場合と同じです。

 

退職していないが、退職日が決まっている等支給が具体化している場合

 この場合には、退職金の4分の1が自己破産による処分の対象です。

 

 たとえば、近々400万円の退職金が支給される見込みの場合には、その4分の1である100万円が処分の対象となります。

 

 これに対して、支給見込額が80万円以下であれば、その4分の1は20万円以下となりますので、処分の対象にはならないことになります。

 

 20万円を超える場合でも、他の資産と合算して99万円までは手元に残せる場合があるというのは、上の2つの事例の場合と同じです。

 

中小企業退職金共済、建設業退職金共済など

 退職金の中でも、上記のようなものについては、そもそも法律で差押が禁止されているため、自己破産手続の中でも処分されることはありません。

 

 以上のとおり、自己破産をするタイミングや退職金の種類によって、退職金を残せるかどうか大きく変わることがお分かりになるかと思います。

 

 支払不能であることが明らかであれば、早期に自己破産することがかえって老後の安定につながるケースもありますので、自己破産する場合にはタイミングを誤らないよう注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

借金も相続しなければならない?~遺産相続③・相続放棄~

 

 弁護士の川上です。

 

 前回のコラム(「遺産分割の登場人物」)で、遺産をもらうことができる相続人(そうぞくにん)の範囲についてご説明しました。

 遺産がプラスの財産だけなら良いのですが、大きな借金を抱えて亡くなる方もいらっしゃいます。そこで今回は、被相続人(ひそうぞくにん)(=亡くなった人)に借金がある等の理由で相続をしたくない場合の制度、「相続放棄」(そうぞくほうき)についてご説明します。

 

 相続人は、被相続人のプラスの財産だけを相続することはできず、マイナスの財産も相続しなければなりません。そこで、マイナスの財産がたくさんあるような場合には、家庭裁判所で「相続放棄の申述(しんじゅつ)」を行う必要があります。

 

 相続放棄には、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内という期間制限があります。これを「熟慮期間」(じゅくりょきかん)といいます。なお、財産や借金の内容が明らかでなく、放棄するかどうかを決めかねるような場合には、家庭裁判所に申立てて熟慮期間を伸ばしてもらうことも可能です。

 

 良く問題になるケースとして、被相続人が亡くなったことは知っていたが、特にめぼしい財産もないと思ってそのままにしていたところ、3ヶ月以上経過してから借金の取り立ての手紙が届くというパターンです。この場合、被相続人にマイナスの財産があると知った時から3ヶ月以内という具合に解釈し、相続放棄を認めてもらう余地があります。

 なお、相続放棄をする前に、相続財産の一部を処分してしまったような場合、相続を承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなることがありますので、注意が必要です。

 

 ちなみに、生命保険金、死亡退職金、社会保障関係の遺族給付などは、契約によって受取人が定められていたり、遺族固有の権利と解釈されるなど遺産に該当しないと判断される場合も多く、これらを受け取っていても相続放棄をすることができる可能性があります。

 詳しくは、当事務所までご相談ください。

 

2018年2月8日 | カテゴリー : 相続放棄 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

離婚をするための手続について

 

 弁護士の川上です。

 

 当事務所でお受けするご相談で最も多いのは、実は離婚に関するご相談かもしれません。今回は離婚をするための手続についてお話しします。

 

1 協議離婚

 まずは夫婦間で話し合いをする(協議)のが基本です。離婚するかどうかに加え、未成年のお子さんがいる場合には、夫婦のどちらが親権者(しんけんしゃ)となるかを話し合います。離婚と親権について合意できれば、離婚届を記入して提出することで、協議離婚が成立することになります。

 なお、養育費(よういくひ)面会交流(めんかいこうりゅう)、慰謝料(いしゃりょう)財産分与(ざいさんぶんよ)などの条件についても話し合うことになりますが、これらについては別の機会にご説明します。

 

2 調停離婚

 当事者間で合意できない場合には、家庭裁判所で夫婦関係調整(ふうふかんけいちょうせい)の調停を行います。いきなり裁判を起こしても、「まずは調停をしてください」と言われます(ちなみに、夫婦関係調整の調停の中には離婚と円満調整の2種類があります)。

 家庭裁判所での調停の手続は、2名の調停委員が中心となって進められます。当事者が面と向かってやり取りをするのではなく、調停委員が当事者から交互に事情を聞き、ポイントを整理しながら調整していくというイメージです。調停手続については、別の機会でご説明します。

 

3 裁判離婚

 調停でも合意できない場合、家庭裁判所で離婚訴訟を行うことになります。裁判で離婚が認められるためには、離婚原因(りこんげんいん)が必要となります。

 民法770条1項には5つの離婚原因が定められており、裁判所が離婚原因ありと判断すると、一方が同意していなくても離婚が認められます。具体的には、相手に不貞行為(ふていこうい)があったとき等ですが、これについても別の機会にご説明します。

 

自己破産すると、保険は解約しなければならないのか?~自己破産②~

 

 債務整理の相談を受けていると、自己破産を考えているが、生命保険など加入している保険を解約しなければならないのか、というご相談を受けることがあります。

 

 そこで今回は、自己破産の手続の中で保険契約がどのように取り扱われるかを御説明します。

 

掛け捨ての保険(医療保険、自動車保険など)

 この種の保険では、基本的に解約する必要はありません。

 

 ただし、多数の保険に加入した結果、保険料負担によって家計がマイナスになっているようなケースでは、保険に加入していること自体が浪費と捉えられる可能性もあり、また、自己破産の目的である経済的な立ち直りを実現するため、事実上、解約せざるを得ない場合もあり得ると思います。

 

解約するとお金が返ってくる保険(生命保険、学資保険など)

 解約してお金が戻ってくる保険の場合、20万円を超える金額が返ってくるときは、原則として解約されてしまいます

 

 これに対して、そもそも20万円以下の解約返戻金しか戻ってこない場合や、破産手続中あるいは破産手続が終わった後に新たに加入した保険については、処分の対象外となります。

 

 解約返戻金が発生する保険については、解約されてしまうと保険料や健康上の問題などから、新規に同じような保険に加入するのは大変だというケースもあり、破産者にとって酷な場合もあります。

 

 そこで、このような場合には、保険を破産者の手元に残すことを裁判所に申請する「自由財産拡張」(じゆうざいさんかくちょう)という制度を利用して、20万円を超える解約返戻金がある場合でも保険を解約せずに自己破産できる場合があり、実務上、広く活用されています。

 

破産手続中に保険金の支払事由が発生すると、受け取ることができない場合がある

 ただし、ここで一つ注意が必要なのが、破産手続前に加入した保険について、破産手続の進行中に保険金の支払事由が発生した場合です。

 

 このような場合、破産前に締結した保険契約によって発生する保険金請求権は破産財団に帰属し、破産管財人が取得した上で債権者への配当に回すことになります(自由財産の拡張は可能ですが手元に残す金額は制限がかかります。)ので、手続中にそのようなことがあった場合には破産管財人に速やかに報告して対応を検討する必要があります。

 

 

 どのような場合に保険を残せるか、また、残せるとしてもどこまで残せるのかはケースバイケースですが、今回ご紹介したとおり必ずしも解約しなくても良い場合があります。

 

 支払いに困ってしまい、保険を解約して戻ってきたお金も返済に注ぎ込んだ後で御相談に来られる方もいらっしゃいますが、適切な時期に相談に来られていれば手元に残せたというケースがありますので、保険加入中の方で自己破産などの債務整理をお考えの方は解約する前に弁護士にご相談下さい。

 

弁護士 平本丈之亮

 

遺産分割の登場人物~遺産相続②・法定相続人~

 

  弁護士の川上です。

 

 前回のコラム(「遺産は自由に分けられます!」)の中で、「相続人全員が合意できるのであれば、どのような分け方をしようとも自由なのです」とご説明しました。

 今回は、遺産をもらうことのできる相続人(そうぞくにん)とは誰なのかについてお話しします。

 

  1. 亡くなった人のことを「被相続人」(ひそうぞくにん)といいます。
  2. 被相続人の配偶者(夫、妻)は常に相続人となります。内縁の場合は「配偶者」にはあたらないので、相続の権利はありません。
  3. 被相続人に子がいる場合には、子が相続人となります(第1順位)。被相続人が再婚している場合、前の配偶者との間の子も相続人となります。また、子には養子も含まれますし、養子に出た実子も含まれます。
  4. 被相続人に子がいない場合には、被相続人の「直系尊属」(ちょっけいそんぞく)、すなわち父母や祖父母が相続人となります(第2順位)。
  5. 被相続人に子がいない場合で、更に直系尊属もいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります(第3順位)。
  6. なお、これら相続人となるべき人が被相続人よりも先に亡くなっている場合、「代襲相続」(だいしゅうそうぞく)といって、先に亡くなっている相続人の子が相続人となります。なお、兄弟姉妹が相続人となる場合の代襲相続は一代(甥、姪)に限り認められています。

 

 コラムという性質上、あまり細かな具体例まではお話できませんので、詳しくは当事務所までご相談ください。

 

2018年1月31日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

遺産は自由に分けられます!~遺産相続①・遺産分割の基本~

 

 弁護士の川上です。

 

 最近、「高齢社会に合わせた相続制度の見直し」についての報道がありました。当事務所でお受けするご相談の中でも、遺産相続に関するご相談が相当の割合を占めています。今回は遺産相続の基本的な考え方についてお話しします。

 

 遺産相続というと、「妻が1/2、子が3人だから1/2を3で割ると1/6ずつ」の権利がある、といった「法定相続分」(ほうていそうぞくぶん)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

 法律で割合が決まっている以上、それに従わなければならないようにも思われますが、法定相続分はあくまでも遺産の分け方に関する話し合いがまとまらない場合の基準であり、相続人全員が合意できるのであれば、どのような分け方をしようとも自由なのです。

 たとえば、亡くなった父親が残した遺産が自宅の土地・建物だけで、二男夫婦が両親と同居しており、長男は県外に自宅を構え、今後戻ってくる予定はないといったケースで、母親と長男が相続の権利を主張せず、全て二男に相続させるということも良く行われています。

 この場合、母親は今後も二男夫婦にまかせることを考慮して権利を主張せず、長男は①二男がこれまで両親の面倒を見てくれたこと、②今後も母親の面倒を見てもらうこと、③自分が権利主張すると土地・建物を処分することにもなりかねず、帰省する実家がなくなってしまうおそれがあることなどを考慮し、権利を主張しないというわけです。

 

 なお、話し合いがまとまらない場合、基本的には法定相続分に従って分けることになりますが、法定相続分に従ったのでは不公平が生じる場合、それを修正する制度として「特別受益」(とくべつじゅえき)「寄与分」(きよぶん)があります。これらについても、追々ご説明して行きたいと思います。

 

2018年1月29日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

自宅を残したまま、借金を一部免除してもらう方法~個人再生①~

 

 債務整理のご相談を受けていると、住宅ローンを組んで住宅を購入したものの、他の借金のせいで生活が立ちゆかなくなり、なんとか自己破産だけは避けたい、というご相談が多く寄せられます。

 

 このような場合に、住宅を残しながら借金を一部免除してもらう方法として「個人再生」という手続がありますので、今回は個人再生についてお話しします。 

 

個人再生によって住宅を残したまま債務整理できることがある

 例えば、以下のような条件を満たす場合には、住宅を確保するために、裁判所での法的整理手続である「個人再生」を検討します。

 

①ある程度安定した収入があること

 

②住宅ローンを支払っていけること

 

③住宅ローン以外の借金について全額支払うのは難しいが、一部減免してもらい、支払時期も長期の分割にしてもらえれば払っていけること

 

 個人再生は、住宅ローンの支払いを続けながら、それ以外の借金について一部免除してもらい、残りを原則3年(特別の事情があるときは5年まで延長可能)で払っていくという手続きですので、この手続を利用すれば、住宅を残して債務整理することが可能です。

 

最低弁済額

 ただし、個人再生では、住宅ローン以外の借金が100万円を超える場合、最低でも100万円は支払わなければなりません(債務総額や保有資産によって最低限支払わなければならない額は変動しますが、これを「最低弁済額」といいます)。

 

 そのため、仮に住宅ローン以外の借金について、最低額として100万円を3年で支払う計画を立てるとすれば、毎月、【住宅ローン+約3万円程度(=100万円÷36回 ※振込手数料分を考慮)】、5年の計画であれば、毎月【住宅ローン+約1.8万~2万円程度(=100万円÷60回 ※振込手数料分を考慮)】を支払えるだけの収入があることが条件となります。

 

保証人の責任は軽くならない

 なお、借金の一部に保証人がついている場合、本人の借金が個人再生によって減免されたとしても保証人の責任は減免されませんのでその点には注意が必要です(保証人は元々本人が払えなくなった場合に備えてつけるものだからです)。

 

個人再生はタイミングが重要な手続

 個人再生は3~5年という長期の支払計画を立てなければならないため、時機を逃すと利用できなくなる場合があります。

 

 たとえば、以下のようなケースだと、個人再生によっても債務の圧縮が見込めず、自己破産を選択せざるを得なくなります。

 

①あと1~2年で定年退職し、その後は収入が大幅に減ってしまう場合(返済能力の欠乏)

 

②長年住宅ローンを支払ってきたため住宅の価値がローン残高を上回ってしまい、住宅の価値を返済計画の中で考慮しなければならない場合(最低弁済額の増加)

 

個人再生は自己破産よりも複雑だが、上手に利用できればメリットは大きい

 個人再生は、単に借金を免除してもらうものではなく、向こう3年から5年間は住宅ローン以外の借金の一部について支払いを継続していく手続であるため、そのような継続的な返済が可能であることが認可の条件となっています。

 

 そのため、申立の準備にあたっては、家計の分析や見直しなどに関して第三者の目が必要になることが多く、自己破産よりも複雑であるため弁護士の関与が望ましい手続です。

 

 このように、個人再生は複雑な手続きですが、うまくいけば自宅を確保できる、借金の理由はあまり問題視されないなど、自己破産とは違った意味でメリットがありますので、個人再生を検討されている方は弁護士へのご相談をお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

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