過去の解決事例~交通事故⑯~

 

 当事務所において取り扱った交通事故事案のうち、人身事故に関する解決事案の一部を簡単にご紹介します。なお、あくまでこれは一例であり、弁護士に依頼することによって必ず損害賠償額が増額されることをお約束するものではありませんので、その点はご了承願います。

 

四輪車同士の接触事故(人身)

 【case1 後遺障害:非該当(むちうち)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約35万円

主な損害項目:通院慰謝料

 

 【case2 後遺障害:14級(むちうち)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約80万円

主な損害項目:入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益

 

 【case3 後遺障害:11級】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約2550万円

主な損害項目:後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益

※後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益についてなぜか著しく低い示談案が提示されていた事案です。レアケースであり一般化はできませんが、保険会社の示談案の中にはこのようなケースが含まれている場合もあるという一例です。

 

 【case4 後遺障害:9級】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約500万円

主な損害項目:入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益

 

 【case5 後遺障害:なし(むち打ち・治癒)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約27万円

主な損害項目:通院慰謝料

※事案そのものはオーソドックスなものですが、弁護士の介入から示談成立まで約2週間とスピード解決に至ったケースです。

 

四輪車と自転車との接触事故

 【後遺障害:非該当(むちうち)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約19万円

主な損害項目:通院慰謝料

 

四輪車と原付自転車との接触事故

 【case1 後遺障害:なし(骨折・治癒)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約42万円 

主な損害項目:入通院慰謝料

 

 【case2 後遺障害:12級】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約130万円 

主な損害項目:入通院慰謝料・後遺障害慰謝料

 

 今回、交通事故は弁護士が介入することで結果が変わる可能性があるということをお示しするためいくつかの解決例をご紹介しましたが、ここで紹介したケースは交通事故を取り扱う弁護士であれば同様の成果をあげることは可能だったと思われ、特段、当職に特別な技能があったから得られたというわけではありませんし、被害者の方に特殊な事情があったわけでもありません。

 不幸にして交通事故に遭ってしまった場合には、せめて適切な補償だけでも受けられるよう弁護士への相談をご検討いただきたいと思います。 

 

弁護士 平本丈之亮 

 

銀行のカードローンを債務整理の対象とする場合の注意点

 

 ここ数年、債務整理の相談を受けていると銀行のカードローンを利用して多重債務に陥っている方が多くいらっしゃいます。

 

 当然ながら銀行のカードローンについても債務整理の対象とすることは可能ですので、その方の状況に応じて、任意整理、自己破産、個人再生のいずれかの選択肢の中から債務整理をします。

 

 しかし、銀行のカードローンについては一般の貸金業者や信販会社に対する債務とは異なる注意点がありますので、今回はこれをテーマにお話しします。

 

口座凍結と相殺

 銀行のカードローンを利用する場合、基本的にはその銀行の口座を持っている場合が大半です(一部のカードローンでは口座がないケースもあります)。

 

 このように、口座を持っている銀行からのカードローンについて債務整理を開始すると、銀行は預金口座を凍結した上で、凍結時点の預金残高と借入金とを相殺(差し引き)します。

 

 そのため、タイミングが悪いと給料や手当などが入った後に口座が凍結され、預金を使用できなくなる可能性があるため、銀行との取引を債務整理の対象とする場合には事前に口座を空にしておき、給与や各種手当の送金先もあらかじめ変更しておくことが無難です。

 

保証会社との関係

 銀行のカードローンには保証会社がついているのが一般的であり、カードローンの契約をした際には保証会社と保証委託契約書を交わしているはずです。

 

 銀行は、弁護士等から受任通知を受領すると、口座を凍結して預金残高と相殺し、その上で保証会社から代わりに支払いを受けます(代位弁済)が、このような手順を踏むことによって最終的な債権者は保証会社に代わります。

 

 保証会社は、通常、消費者金融であることが多く(例外は信金系)、仮に債務整理の対象とした銀行カードローンの保証会社からも直接借入をしている場合、銀行からの借入分だけではなく、保証会社からの直接借入分も債務整理の対象にせざるを得なくなります。

 

 債務整理の方針が自己破産や個人再生であればすべての債権者を対象とするため問題ではありませんが、特定の債権者のみを対象に任意整理する場合にはこれにより返済計画が狂ってしまうこともありますので注意が必要です。

 

 近時の債務整理のご相談では銀行カードローンが債権者に含まれている例が非常に多い状況ですので、銀行からの借り入れを債務整理の対象とする場合には上記のような点にご注意いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年5月2日 | カテゴリー : 債務整理一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

人身事故で弁護士に相談するタイミング~交通事故⑮~

 

 交通事故で怪我をした場合、治療費の問題や過失割合の問題、相手からの示談案の妥当性、保険会社との交渉によるストレスなど様々な課題が起きますが、交通事故に何度も遭うこと自体まれなことであり、多くの方にとっては一生に一度のことです。

 

 そのため、人身事故の被害者が相手の保険会社の言い分が正しいのかどうかを判断することは難しく、適切なタイミングで弁護士が関与することによって迷う場面を少なくすることができ、また、最終的に妥当な内容で解決できることも期待できます。

 

 もっとも、いざ弁護士に相談しようと思っても、どのタイミングで相談すれば良いか自体わからない方も多くいらっしゃると思いますので、今回はこの点をテーマにお話ししたいと思います。

 

人身事故で弁護士に相談するタイミング

 

1 事故直後

 事故直後は、警察や保険会社への連絡といった形式的な手続きをすることで手一杯であることが多く、そもそも怪我をしている場合はまずは治療に専念することが最優先ですから、弁護士への相談が後回しになるのも仕方がないといえます

 

 もっとも、怪我の治療の受け方によっては、示談交渉や最終的な賠償額に影響する可能性があるため、可能であるなら、ご本人でなくとも弁護士に相談した方が良いと思います。

 

 特に、骨折等を伴わないむち打ちのケースだと、通院先が適切かどうか、通院頻度はどの程度が適当か、将来的に受けておくことが望ましい検査など、後の後遺障害等級認定や示談交渉を見据えてあらかじめ見通しをつけておくことが有効な場合がありますので、相談に行くことを検討していただきたいと思います。

 

2 治療継続中

 この段階では弁護士への相談の優先度はそこまで高くはありませんが、ある程度治療が進んだ時点では相談に行った方が良い場合があります。

 

 治療継続中は相手方の保険会社が治療費を内払いしているケースが多いと思いますが、事故からある程度の期間が経過すると、保険会社から医師への医療照会によって、治療費の支払いを終了すると通告される可能性が出てきます。

 

 医師の判断と自分自身の感じる怪我の治り具合が一致していれば問題はありませんが、もしもまだ治っていないと感じ、治療費の内払いも継続してもらいたいという場合には、今後も治療によって症状が改善する可能性があることを診断書などで示してもらい治療費の内払いの継続を保険会社と交渉する余地もあることから、そのような場合は弁護士へ相談に行った方が良いと思います。

 

3 完治、あるいは症状固定

 交通事故による怪我が完治した場合にはその時点で事故による損害はすべて確定したことになりますので、今後の進め方を確認するためにも弁護士に相談するタイミングとしては良い頃合いです。

 

 また、治療を尽くしたものの治りきらず、これ以上続けても治療効果があがらないと医師が判断した場合(症状固定)にも事故による損害が確定したことになるため、やはり弁護士に相談するタイミングということになります。

 

【後遺障害があるときは、後遺障害診断書を作成する前が望ましい】

 後遺障害が残った場合には、その残存症状が自賠法所定の後遺障害等級(1~14級)として認定されるかどうか、あるいはその等級が何級になるかによって最終的な賠償額に大きな違いが出てきます。

 

 もっとも、ご相談を受けていると、すでに作成された後遺障害診断書において、相談者の訴える自覚症状が適切に記載されていなかったり、自覚症状は記載されているものの、その症状の裏付けとなる医学的検査が実施されていないか乏しい場合もあります。

 

 後遺障害等級認定は書面審査であるため、適切な認定を受けるには後遺障害診断書に必要な情報がきちんと記載されていることが必要ですし、一度作成してもらった後で書き直しや検査の追加を依頼するというのは気が引けて難しいこともあるかと思いますので、後遺障害があるときは、できれば後遺障害診断書を作成する前に弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。

 

4 保険会社からの示談案が出た時点、あるいは本人による交渉が決裂した場合

 この段階では、怪我が完治したり認定された後遺障害等級に問題がなければ最終的な金額の妥当性のみが問題となっていますので、弁護士へ相談に行くタイミングとしては適切です。

 

 このタイミングで相談を受けた弁護士は、聞き取った事故状況や治療経過、本人の生活環境や後遺障害等級など様々な事情から過失割合や損害額を検討して示談案が妥当かどうかを判断し、増額の可能性がどの程度あるかアドバイスをします。

 

 相談者としては、弁護士からのアドバイスを受け、保険会社からの提案で示談をするか、弁護士に委任して増額を求めるかを判断することになります。

 

相談はお早めに

 

 このように人身事故で弁護士に相談に行くタイミングは様々であり、適切なタイミングも人それぞれですが、早めに相談に行くことで対応に迷うことは格段に少なくなりますので、一般論として言えば早めの相談であればあるほど良いと考えます。

 

 交通事故については弁護士費用特約が付いていることも多く、この場合には相談料はかかりませんし、当事務所をはじめとして無料相談を実施している法律事務所もありますので、ぜひお早目の相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

貸金業者や債権回収会社からの督促を止める方法は?

 

 支払い困難な状況に陥った場合、貸金業者や債権の回収を委託された債権回収会社から厳しく督促されることがあります。

 しかし、法律上、以下のような手続に入った場合には、貸金業者等からの直接の請求を停止させることが可能です。

 

受任通知

 弁護士等が債務整理の依頼を受けて貸金業者等に受任通知を送付した場合、貸金業者等は正当な理由がない限り直接の請求を停止しなければなりません(貸金業法21条1項9号、債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)第18号第8項)。

 そのため、支払い困難な状態に陥った場合には、速やかに受任通知を送付して請求をいったん停止してもらい、生活を落ち着かせながら債務整理を進めていくことが可能となります。

 なお、貸金業法とサービサー法では禁止される内容には微妙に違いがあり、貸金業法では受任通知後の訪問・電話・電報・FAXが禁止されているのに対して、サービサー法では訪問と電話のみが禁止されています(ただし、少なくとも当職は、受任通知後に電報やFAXで請求されたという事例に遭遇したことはありません)。

 一応、「正当な理由」がある場合には直接の請求も可能という定め方にはなっていますが、貸金業法に関する金融庁の監督指針では、正当な理由の例として①弁護士等からの承諾がある場合と②弁護士等又は債務者等から委任が終了した旨の通知があった場合が示されており、債務整理を開始した時点でそのような条件をみたすことはあり得ませんので、相手が貸金業者と債権回収会社であれば債務整理の依頼中に直接の請求が来る可能性はまずないと思います(サービサー法の審査・監督に関する事務ガイドラインでは正当な理由の例示は見当たりませんでしたが、貸金業法と同様に解して良いと思います(私見))。

 

特定調停

 裁判所で負債の返済方法を話し合う手続が特定調停です。

 貸金業法とサービサー法では、債務者がこの手続きを申し立て、その旨の通知を受け取った場合にも直接の請求を停止するよう求めています。

 特定調停では裁判所への申立のための準備があり、また、申立から債権者への通知までライムラグがあるため受任通知に比べると即効性では劣りますが、弁護士費用を節約したいケースや一部の強硬な債権者を相手とする場合には選択肢に入ります。

 ただし、特定調停によって作成される調停調書は「債務名義」といって差押えを可能とする文書になるため、支払いを怠った場合のリスクには要注意です。

 

裁判手続きは禁止されていない

 このように、受任通知あるいは特定調停によって貸金業者と債権回収会社からの直接の督促は停止されますが、これらには裁判手続(訴訟・支払督促)の申立てを止める効果まではありません。

 そのため、弁護士へ依頼して受任通知を発送したり特定調停の申し立てをしても、その時点で滞納がかなりの額にのぼっているようなケースでは、裁判や支払督促などを起こされる可能性があります。

 もっとも、滞納がかさんでいる場合でも、受任通知等によって事実上何か月間か裁判手続の申立てを猶予する業者もありますし、すでに裁判手続に着手した後でも業者によっては手続を取り下げることもあります(特定調停であればそのほかに強制執行停止の申立という手段もあります。)から、滞納がかさんでいたり裁判手続を起こされたからといってすぐに諦める必要はありません。

 いずれ方法をとるにせよ、早期に対応することが肝心ですので、支払いに困難を感じるようになったら速やかに専門家のところへ相談に行くことをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮 

 

2020年5月1日 | カテゴリー : 債務整理一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

遺留分制度の改正について(遺留分侵害額請求権)

 

 平成30年7月,民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続に関するルールの一部が変更されました。

 これによって、これまでの「遺留分」の制度についても大きく内容が変わりましたので、今回はこの点についてお話しします(ここで紹介した点以外にも改正点はあります(特別受益の持戻しの期間制限)が複雑な話ですので、そちらはいずれ別のコラムで説明する予定です)。

 

遺留分とは?

 そもそも遺留分とは何かというと、法律上、相続人に最低限度認められている権利です。

 遺留分は兄弟姉妹を除く相続人に認められるものですが、典型的なケースは、亡くなった方が遺言で特定の相続人や第三者に財産のすべてをあげてしまった場合に、他の相続人から財産取得者に請求するというものです。

 

問題点

 このように、遺留分は、兄弟姉妹を除く相続人の相続権を最低保証するという重要な権利ですが、遺留分の権利行使によって事業用資産が共有状態となり事業承継の障害となる事例があったほか、不動産についても持分を取得するだけであるため、権利を得た側も処分に困るという問題がありました。

 また、このような共有状態が当然に発生するとなると、特定の人に不動産をあげたいといった被相続人の最後の意思を無視する結果になるという指摘もなされていました。

 

金銭債権化(遺留分侵害額請求権)

 このような問題点があることを踏まえて、今回の改正では、遺留分の権利を行使することによって、遺留分権利者は遺留分相当額の金銭を請求できることになりました(金銭債権化)。

 これにより、遺言によって会社を引き継いだ者は事業用資産を確保して事業承継をスムーズに行い、遺留分権利者との間では金銭による解決を図ることが可能になったほか、遺留分権利者も不要な共有持分を取得する必要がなくなり、法律関係がシンプルになりました。

 改正の結果、遺留分の権利についての名称も、これまでの「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」に改められました。

 

支払猶予制度の創設

 以上のように、遺留分については一定額のお金の請求ができる権利になりましたが、これによって請求を受けた側が困ることがあります。

 たとえば、受け継いだ遺産が不動産しかなく、手元にまとまった資金を準備するのにある程度時間がかかるような場合です。

 今回の改正ではそのような事態に備え、遺留分を請求された側が裁判所に申し立てることで、支払いをするまでの期間について猶予を認める制度が創設されています。

 

令和元年7月1日以降の相続に適用

 今回の改正は、令和元年7月1日以降に発生した相続について適用されます。

 

弁護士 平本丈之亮

2020年5月1日 | カテゴリー : 遺留分 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

別居期間は年金分割に影響するか?

 

 離婚の際に請求できるものとして「年金分割」がありますが、当職へのご相談の中でも年金分割についてのご質問が出ることが多くあります。

 

 ところで、実際に離婚に至るまでの間、長い期間別居している夫婦がいらっしゃいますが、そのような別居期間が長いケースにおいて、年金保険料の納付実績が多い方(多くは夫)から、年金分割の按分割合を5:5から修正すべきではないか(割合を減らしてほしい)、という主張をされることがあります。

 

 今回のテーマは、果たしてこのような理屈は通るのか?というものです。 

 

 別居と年金分割の按分割合の問題について裁判例がありますので、まずはそのうちのいくつかの裁判例を簡単に紹介していきます。

 

札幌高裁平成19年6月26日決定

「抗告人は,抗告人が定年退職する7年前から別居し,抗告人が定年退職した後は家庭内別居をしている旨主張する。しかし,前記引用に係る原審判が説示するとおり,婚姻期間中の保険料納付や掛金の払い込みに対する寄与の程度は,特段の事情がない限り,夫婦同等とみ,年金分割についての請求割合を0.5と定めるのが相当であるところ,抗告人が主張するような事情は,保険料納付や掛金の払い込みに対する特別の寄与とは関連性がないから,上記の特段の事情に当たると解することはできない。したがって,抗告人の主張は失当である。」

 

注 婚姻期間約35年 別居期間約7年 家庭内別居約7年

 

東京家裁平成20年10月22日審判

「対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は,特別の事情がない限り,互いに同等と見るのを原則と考えるべきである。(中略)」
「そして,法律上の夫婦は,互いに扶助すべき義務を負っており(民法752条),仮に別居により夫婦間の具体的な行為としての協力関係が薄くなっている場合であっても,夫婦双方の生活に要する費用が夫婦の一方または双方の収入によって分担されるべきであるのと同様に,それぞれの老後等のための所得保障についても夫婦の一方または双方の収入によって同等に形成されるべき関係にある。(中略)」
「(中略)別居後も,当事者双方の負担能力にかんがみ相手方が申立人を扶助すべき関係にあり,この間,申立人が相手方に対し扶助を求めることが信義則に反していたというような事情は何ら見当たらないから,別居期間中に関しても,相手方の収入によって当事者双方の老後等のための所得保障が同等に形成されるべきであったというベきである。

 したがって,相手方が主張する事情は,仮に事実と認められたとしても保険料納付に対する夫婦の寄与が互いに同等でないと見るべき特別の事情にあたるとはいえないから,その主張自体失当であり,申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合は,0.5と定めるのが相当である。」

 

※注 婚姻期間約30年 別居期間約13年

 

大阪高裁判平成21年9月4日決定

「年金分割は,被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから,対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は,特別の事情がない限り,互いに同等とみて,年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ,その趣旨は,夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって,そうでない場合であっても,基本的には変わるものではないと解すべきである。
 そして,上記特別の事情については,保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られるのであって,抗告人が宗教活動に熱心であった,あるいは,長期間別居しているからといって,上記の特別の事情に当たるとは認められない。」

 

※注 婚姻期間約36年 別居期間約14年

 

大阪高裁令和元年8月21日決定

「抗告人と相手方の婚姻期間中44年中、同居期間は9年程度にすぎないものの、夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民法752条)、このことは、夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものではなく、老後のための所得保障についても、夫婦の一方又は双方の収入によって、同等に形成させるべきものである。この点に、一件記録によっても、抗告人と相手方が別居するに至ったことや別居期間が長期に及んだことについて、抗告人に主たる責任があるとまでは認められないことを併せ考慮すれば、別居期間が上記のとおり長期間に及んでいることをしん酌しても、上記特別の事情があるということはできない。」

 

※注 婚姻期間44年 別居期間約35年 2020年7月17日追記

 

 以上のような裁判例を見ていくと、別居期間が長いという点だけで年金分割の按分割合が修正されるとはいいがたく、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当といえる「特別の事情」が必要、というのが裁判所の考え方の主流であるように思われます(ただし、婚姻期間のほとんどが別居であるという極端なケースでも按分割合が修正されないのかまでは分かりません)。

 

どのような事情が特別の事情にあたるのか

 では、どのような場合であれば年金分割の按分割合が修正されるのか、というのが次の問題ですが、この点は明確な基準は確立されておらず事案毎の判断としか言いようがありません(ただ、大阪高裁令和元年8月1日決定では、別居やその長期化について請求者側に主たる責任がある場合、特別の事情に該当しうることを示唆しています 2020年7月17日追記)。

 

 もっとも、近時の裁判例において、長期間の別居を理由としたものではないものの、「特別の事情」を認めて年金分割の按分割合を修正したものがありますので、本コラムのメインテーマからは外れますが参考としてご紹介したいと思います。

 

東京家裁平成25年10月1日審判

 この裁判例では、裁判所は概ね以下のような事実を指摘したうえで年金分割の按分割合を修正する判断を下しました(申立人(夫):相手方(妻)=3:7)。

 

①夫が1000万円単位の負債を負ったり妻から借入れをしたり、入院により経費がかかったりして、相手方が家計のやりくりに苦労したであろうことが認められること

②夫が会社を退職した後、夫は不定額の生活費を負担していたものの、それだけでは家計を維持するには不足していたこと

③妻が専任教員として勤務するようになってからは妻の収入を主として家計が維持されていたこと

④婚姻してから33年間、夫は一部上場企業に勤続して相当額の収入を得ており、借入金も大部分は退職金で返済したこと

⑤妻は、婚姻期間約50年間のうち約30年近くは概ね専業主婦として生活し、その間の家族の生計は夫の給与収入により維持されていたこと

⑥退職金額について、双方ともに明らかにしていないこと

⑦離婚調停において、妻は自宅建物に対する申立人の持分を財産分与として取得し、離婚後は妻が住宅ローンを返済する内容で合意し、他方、お互いの預金等の財産は分与対象としなかったこと

⑧その他本件に現れた一切の事情(詳細不明)

 

 この裁判例を読んでみても、どの事実が大きく影響して年金分割の按分割合が修正されたのかは判然としませんでしたが、このケースでは夫が多額の負債を抱えるなど妻が苦労していたようですので、個人的にはそのあたりが修正の決め手になったのかなと推測しています。

 

 弁護士 平本丈之亮 

 

 

借金問題の相談はタイミングが重要というお話

 

 借金問題のご相談をお受けしていると、もっと早めに相談していただいていれば違った解決になったかもしれない、と思うことが多々あります。

 

 たとえば、ご相談に来られたときには借りられるところからはすべて借り、ご夫婦の場合では夫だけではなく妻の名義でも借り(逆のパターンもあります。)、それでも足りないため親族や勤務先から借用し、万策尽きた、というケースもあります。

 

 このような状況にまで至ると、債務整理の方法としては自己破産や個人再生などの法的手続によって解決を図らざるを得ないことが多いのですが、ここまで来ると借金問題はもはや自分だけの問題ではなく、周りに大きな影響を与えてしまうことになります。

 

 これに対して、このような状況に陥る前、病気でいえばごく初期の段階で適切に対応できた場合、借金問題の解決を図っていく上で、自分自身の生活や周囲に与える影響を最小限にとどめることができる場合があります。

 

 自己破産しても資産の一部を残せる場合がある

 【以前のコラム】でもご紹介したとおり、自己破産をしてもすべての資産が没収されるわけではありません。

 

 「自由財産の拡張」という制度を使うことにより、預金や保険解約返戻金など一定の財産(原則合計99万円まで)残すことが可能ですが、これらの手持ち資産をすべて支払いにあててしまい何もなくなってから自己破産をした場合には、たとえ無事に免責が認められたとしても、文字通り0からのスタートになってしまいます。

 

個人再生によって自宅その他の資産を残せる場合がある

 自己破産では自宅を残すことは難しいところですが、個人再生であれば自宅を残せる可能性があります。

 

 また、これも【以前のコラム】でお話ししたところですが、個人再生では、最低弁済額以上の支払いを行うことによって、それを超える借金を免除してもらうことが可能な手続きであるため、必ずしも預金や保険の解約返戻金などの財産そのものを処分することまでは必要ではありません。

 

 しかしながら、いざ個人再生にチャレンジしようと思っても、対処が遅れて住宅が競売にかかってしまってからでは間に合わないことがありますし、自己破産と同様、預金や保険などの資産をすべて支払いに充ててしまってからでは、その後の再スタートにとって大きなハンデとなることがあります。

 

親族からの援助を有効に活用できる場合がある

 親族から援助を受けて返済に回した場合でも、それによってきちんと完済できたり、その後の支払いがうまく回るようになるのであればまったく問題はありませんし、信用情報に傷がつくのを避けるうえでは合理的な債務整理の方法だと思います。

 

 しかし、親族から援助を受けて一時的にはしのげたものの、最終的には支払い不能に陥り、自己破産や個人再生などの方法で債務整理をしなければならないというケースがあるのも残念ながら事実です。

 

 この場合、援助の内容が借入であれば、その人に対して返済できない(自己破産の場合)、あるいは一部しか返済できない(個人再生の場合)ことになり、親族関係の悪化を招く可能性がありますし、たとえ返済を前提としない援助(贈与)であっても、それまでの援助によって親族が疲弊し、将来的に支援を受けることができなくなる可能性があります。

 

 良くあるパターンだと、高齢のご両親から援助を受けて何年間か支払いを継続していたが、これ以上援助できないと言われてやむなく自己破産し、その時点ではご両親も経済的にひっ迫しているため子どもの学費などについて必要な援助が受けられない、ということがあります。

 

 これに対して、親族からの援助を受ける前に債務整理した場合、そのような事態を避けることができますし、債務整理の後でどうしても必要な支出が生じた場合、その時点で支援を受けられる可能性が残ります。 

 

 また、自己破産をする場合、破産管財人費用としてまとまったお金を裁判所に納めなければならないケースがありますが、それまでに援助を受けていなければ、その費用を家族に頼ることができる場合もあります。

 

自己破産や個人再生以外の解決方法が見つかることもある

 以上のほかにも、借入内容や収入状況を踏まえ、自己破産や個人再生といった法的な債務整理以外の解決方法が見つかることがありますが、これもタイミングによって可能な場合とそうでない場合があります。

 

 たとえば最近でも、ご夫婦で相談に来られた方について取引内容を調べたところ、クレジットカード会社からのキャッシング取引で多額の過払い金があることが判明したことがありました。

 

 このケースでは、残念ながら夫は法的整理をせざるを得ませんでしたが、妻は過払い金を回収して自分名義の債務を完済して自己破産を免れ、残った過払い金は今後の生活資金としてお返しできました。

 

 仮にこのケースで、妻がもっと借入を重ねた後になってから相談に来ていたら、おそらくは妻も自己破産せざるを得ず、過払い金について自由財産の拡張の制度を利用したとしても、最終的に手元に残すことのできた金額はもっと少なくなっていたと思います。

 

 また、岩手県には多重債務者向けに債務整理資金を貸し付ける組織があるため、収入状況などから返済が可能と思われ、どうしても法的整理は避けたいという方については、そちらを利用することで解決できることもあります。

 

早めのご相談を

 以上のように、借金問題については早い段階で専門家に相談することで避けられるリスクがあります。

 

 最終的に弁護士などの専門家に依頼するかどうかは別にしても、転ばぬ先の杖として相談を受けておくだけでも意味はあります。

 

 あらかじめ相談していれば、その後でどうしても債務整理しなければならない状況になったとしても冷静に対応できますし、その先の手続もスムーズに進められますので、借金問題でお悩みの場合には、早め早めのご相談をお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

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2020年4月23日 | カテゴリー : 債務整理一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

駐車場内の通路での人身事故の過失割合~交通事故⑭~

 

 以前のコラムで、駐車場内の交差部分で車両同士が接触した場合の過失割合についてお話ししました(→「駐車場の交差部分での出会い頭事故の過失割合~交通事故⑩~」)。

 駐車場内の通路では、四輪車だけではなく多くの人が歩行することが予定されていますが、もしも駐車場の通路で四輪車と歩行者が接触した場合に過失割合がどうなるかというのが今回のテーマです。

 

典型的な事故状況

 

基本の過失割合

 車両:歩行者 90:10

 

 駐車場内の通路は歩行者が通行することが想定されているため、駐車場の通路を通行する四輪車には、人の往来があることを常に予見し歩行者の通行を妨げない速度・方法で進行する高度の注意義務があるとされています。

 他方、歩行者としても、駐車場の通路上を四輪車が通行することは予見するべきであり、慎重に安全を確認しながら歩行することが要求されるため、歩行者にも一定の過失があると判断されて上記のような割合になります。

 

過失割合の修正要素

 以下のような事情がある場合には、基本の過失割合が修正されます。

 

 【歩行者の急な飛び出し】  

 歩行者に+10

 

 この場合、歩行者の落ち度が大きいためです。 

 

 【歩行者用通路標識上の接触】 

 四輪車に+20

 

 歩行者が白線等で示された歩行者用の通路を通行していた場合です。

 このような場合、歩行者の通行が特に保護されるべきであるため、歩行者に有利な方向に修正がなされます。

 

 【歩行者が児童・高齢者】 

 四輪車に+5

 【歩行者が幼児・身体障害者等】 

 四輪車に+10

 

 歩行者が児童等のいわゆる交通弱者の場合には通行を保護すべき必要性が強く、その分、運転者側の責任が重くなるためです。

 

・幼児・児童・高齢者・身体障害者等の意味

「幼児」=6歳未満

「児童」=6歳以上13歳未満

「高齢者」=概ね65歳以上

「身体障害者等」=以下の①~④に該当する人

①身体障害者用の車いすで通行している人

②杖を持ち、又は盲導犬を連れている目の見えない人

③杖をもつ耳が聞こえない人

④道路の通行に著しい支障がある肢体不自由・視覚障害・聴覚障害・平衡機能障害がある人で杖を持っている人

 

 【四輪車の著しい過失】 

 車両に+10

 【四輪車の重過失】 

 車両に+20

 

 四輪車の運転者に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

 【著しい過失=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失】 

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④酒気帯び運転(※1)

⑤一時停止標識違反

⑥通行方向表示違反(逆走)

⑦四輪車が通路を進行する他の車両の通常の進行速度を明らかに上回る速度で進行していた場合(※2)

⑧差右折時や後退時などに、進行方向の見通しが悪い場所で徐行しなかった場合

など

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

※2 速度超過の程度によっては重過失と評価される可能性もあります

 

 【重過失=故意に比肩する重大な過失】 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転

など

 

弁護士 平本丈之亮

 

個人再生の流れと期間~個人再生④~

 

 債務整理の方法として個人再生を選択する場合、実際にどのような流れで、どれくらいの期間がかかるのかが気にかかると思います。

 

 そこで今回は、個人再生を弁護士に依頼した場合の具体的な流れについて、当事務所で手掛けることの多い小規模個人再生をもとにご説明したいと思います

 

 なお、これからお話するのは盛岡での運用を前提にした当職の経験に基づくものですので、他庁や他の弁護士が代理するケースにおいては異なる流れを辿る可能性があります。

 

【STEP1】相談~委任

 

 個人再生を行うには、まずはご相談の中で①債務の件数・内容・大まかな金額、②資産の内容、③収入状況などについて詳しく聞き取りを行い、今後の大まかな方針を立てる必要があります。

 

 これらを確認し、再生計画案の認可決定が下りる可能性があると判断できた場合には、正式に個人再生の申立についてご依頼を受け、準備を開始します。

 

Q1 初回相談時に債務額は正確に分からないといけないのか?

 債務額は最低弁済額を計算するための基準になる場合がありますので、最初の相談の時点で分かっていた方が望ましいのは確かです。

 

 しかし、当職の経験上、債務額よりも、むしろ債権者名の漏れがないかの方が重要です。

 

 正確な金額は後で調査するのでいずれ分かりますが、債権者の漏れがあるとリカバーが困難な場合もあるため、どちらかと言えば、ご相談の際は正確な債務額より債権者名に漏れがないかどうかに気を配っていただいた方が良いと思います(特に知人・親族からの借入や保証人、過去の通信契約の滞納などが漏れやすいところです)。

 

Q2 個人再生に弁護士への依頼は必要か?

 ちなみに個人再生は、法律上は必ずしも弁護士に依頼しなくても申立可能です。

 

 もっとも、個人再生では、申立のための書類準備のほかにも、負債額や資産状況をもとに最低弁済額(→「個人再生をすると、負債はどれくらい減るのか?~個人再生②・最低弁済額~」の計算をしたり、それを前提として具体的な再生計画案を作り、期限内に裁判所に提出するといった作業があり、お仕事や家事などをしながらこういった作業を行うことは難しい場合もあると思います。

 

 また、弁護士などの専門家に依頼しない場合には、申立までの準備期間中は債権者からの督促は止まりませんので、そういった事情から自分で申し立てるのが難しいという方は専門家に依頼して進めた方がスムーズに進むと思います。

 

【STEP2】受任通知・支払停止

 

 弁護士への依頼後、まずは弁護士から各債権者に対して受任通知を発送し、住宅ローン以外の債務についてはいったん支払いを停止します。

 

 受任通知が発送されることにより、一般の貸金業者や信販会社などは個別の取り立てを停止しますので、厳しい督促から一時的に解放されて精神的に一息つくことができます。

 

 ただし、受任通知発送の時点ですでに滞納期間が長いケースだと、受任通知後まもなく裁判を起こされることがありますし、ご相談を受けた時点ですでに裁判を起こされていたり給与の差押えまでされているケースもありますので、相談するタイミングには注意が必要です。

 

【STEP3】申立の準備

 

 受任通知発送の時期とほぼ同時に、個人再生の申立に向けた書類収集などの準備を開始します。

 

 準備していただく書類は多岐にわたり、また、人によって提出するものもまちまちですので、ここは弁護士と二人三脚で十分に準備を行います。

 

 申立てまでの期間も事案によりけりですが、支払能力や家計管理能力に大きな課題がなく、ご本人も迅速に書類を揃えられるケースであれば、通常、受任から2~3ヶ月程度で申し立てが可能となります。

 

 これに対して、依頼時点での家計状況に課題があり(収支がトントンなど返済原資が出ない場合等)、このままでは認可決定が得られない可能性が高いというときには、家計収支の改善に取り組んでいただき時間をかけて支払可能な状況にまでもっていく必要がありますし、また、ご本人が忙しく書類の準備が進まないというケースもありますので、そのような場合だとやむを得ず申立までに期間を要することもあります。

 

【STEP4】申立~開始決定

 

 書類が揃い、家計状況にも問題がないことが確認できたら、裁判所に対して個人再生の申立てを行います。

 

 申立後、今度は裁判所が提出書類の審査を行い、不明点や疑問点への報告を求められ、書類の不足があればそれを補い、問題がないと判断されれば再生手続の開始決定が出されます。

 

 申立から再生手続開始決定までの期間も事案と申立時期によってまちまちですが、問題のないケースでは感覚的には1~3週間、長くても1か月程度で出ることが多い印象です(岩手県内の支部の事案ですが、最短で申立から2日で決定が出たケースもありました)。

 

 なお、弁護士が代理人についている場合、基本的にはご本人は裁判所に行く必要はなく、書面審査だけで手続が進んでいくのが通常です。返済能力などに問題があるケースだと裁判所に行く手続(=審尋)が設定されることもありますが、少なくとも当職自身は盛岡地裁管内の裁判所で審尋期日が設定されたことはありません。

 

【STEP5】開始決定~再生計画案の提出

 再生手続の開始決定が出されると、その後は債権者の債権届出、届出債権に対する異議申述、財産目録・報告書(民事再生法第124条、125条)の提出と手続きが進んでいき、債権額と資産の内容を踏まえて、定められた提出期限までに再生計画案を作成して裁判所に提出するという流れをたどります。

 

 再生手続の開始決定から再生計画案の作成・提出といった一連の作業については弁護士が行います。

 

 その間、ご本人は、開始決定のときに裁判所から指示された金額を毎月積み立て(履行テスト)、住宅ローンがある場合にはこれまで通り支払いを継続する必要がありますが、それ以外には普段通りの生活を送っていただいて問題ありません(新たな借り入れや浪費などしないことは当然の前提です)。

 

 再生計画の開始決定から再生計画の提出までは通常3ヶ月弱程度ですが、やむを得ない事情により提出期限を延長する必要がある場合には事前に裁判所に申請をして認めてもらい、その上で提出することもあります。

 

【STEP6】認可決定~返済開始

 

 再生計画案の提出後、裁判所が再生計画案に自体に問題があるかどうかを審査し、問題があるときは修正します。

 

 提出された再生計画案に問題がないという判断になった場合には、裁判所は再生計画案を債権者の決議に付し(付議決定)、議決権を有する債権者の過半数、かつ、議決権額の過半数の反対がなければ再生計画案が認可されます(小規模個人再生の場合。給与所得者等再生の場合にはそもそもこの書面決議自体がありません)。

 

 このようにして再生計画案が認可されると概ね1か月程度で確定し、その後、再生計画に定められたスケジュールに沿って改めて支払いをスタートすることになります。

 

 ちなみに、認可決定後の返済方法は依頼する事務所によって異なり、ご本人に支払いをお任せするところもあれば返済期間中の支払いまで代行するところもあり、依頼する弁護士との契約内容によって違います。

 

 どちらがいいかはご本人のニーズにもよるため一概には言えませんが、認可決定後の返済期間は短くても3年と長丁場ですから、自分で支払いを管理するのが難しい場合には確定後の支払いの代行まで引き受ける事務所を選んだ方が良いと思います(なお、当事務所では認可決定後の支払い代行も行っています)。

 

 以上、個人再生の大まかな流れについてお話ししました。

 

 個人再生は同じく法的整理手続である自己破産にはない独自のメリットのある手続ですので、債務整理をする際の一つの選択肢としてご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

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個人再生のメリットについて~個人再生③~

 

 以前、借金問題の解決の手段の一つとして個人再生をご紹介しました。

 

 法的な債務整理の方法としてはほかにも自己破産がありますが、個人再生には自己破産にない独自の利点がありますので、今回は自己破産にはない個人再生のメリットについてご紹介したいと思います。

 

住宅ローンのある自宅を残して、その他の債務を圧縮できる可能性がある

 個人再生の最も大きなメリットが、住宅ローンを払って自宅を確保しながら、それ以外の債務の圧縮が可能になる点です。

 

 同じく自宅を残すことが可能な方法としては個別に債権者と交渉する任意整理がありますが、分割払いの任意整理では債務の圧縮は期待できないため、これを両立できる点が個人再生の大きなメリットです。

 

 もちろん、住宅ローンについては支払いを続けることが大前提ですが、このメリットがあるため、当事務所では、住宅ローンのある方についてはまずもって個人再生を検討します。

 

 ただし、このメリットを受けるためには居住用の不動産(床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること)であることが必要ですので、たとえば投資用マンションやセカンドハウスのケースでは対象になりませんし、不動産に住宅ローン以外の担保権がついている場合も対象にならないことには注意が必要です。

 

 また、上記の条件を満たしても、不動産の評価額が高く、逆に住宅ローン残高が少ない場合(アンダーローン)には、債権者に最低限弁済しなければならない金額(最低弁済額)が高くなり、個人再生が利用できない場合もあります。

 

不動産以外の財産も処分を避けられる可能性がある

 個人再生で住宅ローン債権者以外の一般の債権者に支払う必要のある最低弁済額は、多くの場合、100万円~負債額の5分の1か、債務者の財産評価額の合計額(清算価値)のどちらか高い方となります(詳しくはこちら→「個人再生をすると、負債はどれくらい減るのか?~個人再生②・最低弁済額~」)。

 

 これは要するに、財産を処分して債権者に分配したのと同等以上の金額を支払えば足り、必ずしも手持ちの資産をお金に換えて返済に充てなければならないわけではない、ということを意味しています(ちなみに、あえて財産の一部を処分してこれを頭金として初回の返済に充て、2回目以降の返済額を大幅に減らすという返済計画も可能です)。

 

 そのため、たとえば以下のような保険がある事案だと、自由財産である99万円の現金を除いて計算した最低弁済額は200万円となり、これを原則3年(最大5年)で分割返済していく必要はあるものの(3年だと毎月約5.5万円+送金手数料)、毎月の返済資金さえ捻出できるのであれば保険そのものを処分されることはありません。

 

 これに対して、自己破産のケースだと、合計299万円の資産のうち99万円までは手元に残せる可能性があるものの(自由財産の拡張)、特別の事情がない限りそれを超える金額を残すことは難しい場合が多いため、保険は諦めざるを得ないことがあります。

 

【設例】

債務額:600万円

 

保険解約返戻金:200万円

 

現金:99万円

※自由財産のため清算価値には計上しない

 

最低弁済額:600万円÷5<200万円 

    → 200万円

 

浪費等がひどくても利用できる可能性がある

 借金の原因がギャンブルや飲食などの散財であり、その程度があまりにもひどい場合、自己破産では解決が難しいことがあります。

 

 もちろん、免責不許可事由があっても多くの場合には免責が許可されているため(詳しくはこちら→「免責不許可になる割合は?~自己破産⑧~」、浪費があるから即個人再生をすべきということではありませんが、弁護士からみてもあまりにもひど過ぎるという場合には、自己破産ではなく個人再生で進める方がよい場合もあります。

 

 というのも、個人再生については、自己破産に比べて借金の原因が問題になることが少なく(もちろん、不正な目的で個人再生を申し立てた場合は却下されるため限界はあります。)、最低弁済額以上の返済ができるだけの収入がある場合には、自己破産は難しくても個人再生は認可される可能性があるためです。

 

 当職自身が過去に担当したケースでも、負債のほとんどがギャンブルであり、それによって作った負債額も非常に多額であったという事案で、ご本人が個人再生を選択したというものがあります。

 

資格制限がない

 自己破産の場合、警備員や宅地建物取引士など一定の資格に制限がかかりますが、個人再生ではそのような制限がかかりません。

 

 実際には資格制限のかからない職業に就いている方も多いため、そのような方にとっては関係のない話ですが、職業の関係で自己破産を選択できない場合でも債務を圧縮できるというのも個人再生のメリットの一つです。

 

対外的イメージ

 これはメリットといえるかどうか評価が分かれるところではないかと思いますが、自己破産という言葉の持つネガティブなイメージを避けたいということで、あえてご本人が個人再生を選択なさる場合もあります。

 

 個人再生も自己破産と同様に信用情報や官報に載りますし、保証人に影響が出るというデメリットも共通なのですが、残念ながら自己破産に対してはマイナスイメージがあることは否めませんので、経済的なメリットよりもそちらを重視したいという方には個人再生をお勧めすることがあります。

 

 以上、個人再生について思いつく限りのメリットをご紹介しました。

 

 個人再生は、うまくはまれば経済的な立ち直りに大きな威力を発揮する制度ですが、破産に比べて最低弁済額の計算や弁済計画案の作成などの面で難しいところがありますので、手続を希望する場合には専門家への依頼をお勧めします。

 

 なお、弁済計画の認可決定が確定した後、債権者への配当についても代行してもらえるかどうかは依頼先によって異なります。

 

 当事務所では認可決定確定後の弁済代行までお引き受けしていますが、依頼先によっては配当自体は自分でしなければならない場合もあり、長い弁済期間のため債権者数が多いと配当作業が大変なこともありますので、認可決定後の配当代行まで希望する場合には、事前に依頼先に確認しておいた方が良いと思います。

 

弁護士 平本丈之亮