信号機のない交差点において、自転車と四輪車が交差点内で接触した場合の過失割合(四輪車側に一時停止規制がある場合)~交通事故㉘~

 

 前回のコラムでは、信号機による交通規制のない交差点において、一時停止規制のある側を自転車が通行していたところ、直進してきた四輪車と交差点内で接触した事故の過失割合について説明しました。

 

 これに対して今回は、同じような事故状況のうち、自転車側ではなく、四輪車側に一時停止規制があった場合の過失割合についてお話しします。

 

典型的な事故状況

 

【基本の過失割合】

【自転車:自動車=10:90】

 

過失割合の修正要素

 以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【自動車が一時停止後、交差点に進入した場合】

自転車に対して+10% 

 このケースにおける基本的な過失割合は、自動車に一時停止義務違反があることを前提としたものであるため、自動車が一時停止義務を果たした場合には、その分、自動車側の過失割合が減る(自転車側の過失割合が増える)ことになります。

 

【自転車が右側通行し、自動車の左方から交差点に進入した場合】

自転車に対して+5% 

 自転車は原則として道路の左側部分を通行しなければならないため(道路交通法17条4項)、右側通行はこれに反する上に、右側通行をしながら四輪車の左方から交差点に進入した場合(上記の図でいえば、Aの自転車が上から下に向けて右側走行していたケース)、四輪車側からは自転車の発見が難しく、事故回避が困難となる場合があるため、このような修正がなされます。

 

 このように、この場合の修正は、四輪車からみて見通しの良くない通行方法であることが理由となっているため、見通しがきく交差点のときには修正は行われません。

 

 同様に、自転車横断帯がある場合には、自転車は法17条4項にかかわらず自転車横断帯を通行しなければならないため(道路交通法63条の7第1項)、この場合も修正は行われません。

 

【自転車の「著しい過失」・「重過失」】

著しい過失:自転車に+10%

重過失:自転車に+15%

 自転車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 

自転車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①酒気帯び運転(※1)

 

②2人乗り

 

③無灯火

 

④並進(※2)

 

⑤傘を差すなどの片手運転 

 

⑥脇見運転等の著しい前方不注視

 

⑦携帯電話等で通話しながらの運転や画像を注視しての運転 など

 

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

※2 複数の自転車が並んで走行すること

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②いわゆる「ピストバイク」など制動装置の不良 など

 

 なお、高速走行している自転車(原動付自転車の制限速度である時速30㎞程度)については、もはや自転車ではなく単車として扱われ、別の基準が適用されることとされています。

 

 

【児童等・高齢者が自転車に乗っていた場合】

自転車に対して-5%

 児童や高齢者は交通弱者であり保護すべき必要性が高いため、自動車側がより注意するべきであると考えられるためです。

 

 なお、「児童等」とは概ね13歳未満の者を言い、6歳未満の幼児も含みます。

 

「高齢者」とは、概ね65歳以上の者を意味します。

 

【自転車が自転車横断帯を通行していた場合】

自転車に対して-5% 

 「自転車横断帯」とは、道路標識等により自転車の横断の用に供するための場所であることが示されている部分をいいますが、ここから若干外れていても、概ね1~2メートル以内の場所を通行していた程度であれば、自転車横断帯を通行していた場合と同視して良いとされています。

 

【自動車の「著しい過失」・「重過失」】

著しい過失:自転車に対して-5

重過失:自転車に対して-10%

 自動車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり自転車側の過失割合が減算(自動車側に加算)されます。

 

自動車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①脇見運転などの著しい前方不注視

 

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

 

③概ね15㎞以上30㎞未満の速度違反

 

④酒気帯び運転(※) など

 

※ 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②居眠り運転

 

③無免許運転

 

④概ね時速30㎞以上の速度違反 など

 

 なお、この基準は、一方に一時停止規制がある限り、幅員が同程度の道路が交わる場合だけではなく、広路と狭路が交わる交差点にも適用があります。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

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信号機のない交差点において、自転車と四輪車が交差点内で接触した場合の過失割合(自転車側に一時停止規制がある場合)~交通事故㉗~

 

 これまで自転車と四輪車の接触事故に関する過失割合についていくつかのケースをご紹介してきましたが、今回は、自転車と四輪車の接触事故のうち、信号機による交通規制のない交差点において、一時停止規制のある側を自転車が通行していたところ、直進してきた四輪車と交差点内で接触した事故の過失割合について、別冊判例タイムズ38号をもとに説明します。

 

典型的な事故状況

【基本の過失割合】

【自転車:自動車=40:60】

 

過失割合の修正要素

 以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【夜間に起きた事故の場合】

自転車に対して+5% 

 夜間は見通しが悪くなりますが、自転車側からは前照灯をつけた自動車は発見しやすく、他方、四輪車からは自転車の発見が必ずしも容易ではないため、自転車側の過失が加重されます。

 

 なお、「夜間」とは、日没時から日の出までの時間をいいます。

 

【自転車が右側通行し、自動車の左方から交差点に進入した場合】

自転車に対して+5% 

 自転車は原則として道路の左側部分を通行しなければならないため(道路交通法17条4項)、右側通行はこれに反する上に、右側通行をしながら四輪車の左方から交差点に進入した場合、四輪車側からは自転車の発見が難しく、事故回避が困難となる場合があるため、このような修正がなされます。

 

 このように、この場合の修正は、四輪車からみて見通しの良くない通行方法であることが理由となっているため、見通しがきく交差点のときには修正は行われません。

 

 同様に、自転車横断帯がある場合には、自転車は法17条4項にかかわらず自転車横断帯を通行しなければならないため(道路交通法63条の7第1項)、この場合も修正は行われません。

 

【自転車の「著しい過失」・「重過失」】

著しい過失:自転車に+10%

重過失:自転車に+15%

 自転車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 

自転車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①酒気帯び運転(※1)

 

②2人乗り

 

③無灯火

 

④並進(※2)

 

⑤傘を差すなどの片手運転 

 

⑥脇見運転等の著しい前方不注視

 

⑦携帯電話等で通話しながらの運転や画像を注視しての運転 など

 

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

※2 複数の自転車が並んで走行すること

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②いわゆる「ピストバイク」など制動装置の不良 など

 

 なお、高速走行している自転車(原動付自転車の制限速度である時速30㎞程度)については、もはや自転車ではなく単車として扱われ、別の基準が適用されることとされています。

 

 

【児童等・高齢者が自転車に乗っていた場合】

自転車に対して-10%

 児童や高齢者は交通弱者であり保護すべき必要性が高いため、自動車側がより注意するべきであると考えられるためです。

 

 なお、「児童等」とは概ね13歳未満の者を言い、6歳未満の幼児も含みます。

 

「高齢者」とは、概ね65歳以上の者を意味します。

 

【自転車が一時停止していた場合】

自転車に対して-10% 

 上記の基本的な過失割合は、自転車側に一時停止義務違反があることを前提としていますので、自転車が一時停止していた場合には過失割合が修正されます。

 

【自転車が自転車横断帯を通行していた場合】

自転車に対して-10% 

 「自転車横断帯」とは、道路標識等により自転車の横断の用に供するための場所であることが示されている部分をいいますが、ここから若干外れていても、概ね1~2メートル以内の場所を通行していた程度であれば、自転車横断帯を通行していた場合と同視して良いとされています。

 

【自転車が横断歩道を通行していた場合】

自転車に対して-5% 

 自転車横断帯がなく横断歩道しかない場所でも、そのような場所を通行する場合、自転車は横断歩道によって横断した方が安全と考えて通行する実情があり、自動車は歩行者と同様に注意してくれるであろうと期待して通行していることから、自転車横断帯ほどではないにしても、自転車側の過失割合が減算されます。

 

【自動車の「著しい過失」・「重過失」】

著しい過失:自転車に対して-10

重過失:自転車に対して-20%

 自動車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり自転車側の過失割合が減算(自動車側に加算)されます。

 

自動車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①脇見運転などの著しい前方不注視

 

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

 

③概ね15㎞以上30㎞未満の速度違反

 

④酒気帯び運転(※) など

 

※ 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②居眠り運転

 

③無免許運転

 

④概ね時速30㎞以上の速度違反 など

 

 なお、この基準は、一方に一時停止規制がある限り、幅員が同程度の道路が交わる場合だけではなく、広路と狭路が交わる交差点にも適用があります。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

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自転車が路外から道路を横断し、直進する四輪車と接触した場合の過失割合~交通事故㉖~

 

 以前、同一方向に進行する自転車と四輪車の接触事故に関する過失割合についてご紹介したことがありましたが、今回は、自転車と四輪車との接触事故のうち、自転車が路外から出て道路を横断しようとした際、直進してきた四輪車と接触した事故の過失割合について、別冊判例タイムズ38号をもとに説明します。

 

典型的な事故状況

【基本の過失割合】

【自転車:自動車=30:70】

 

過失割合の修正要素

 以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【夜間に起きた事故の場合】

自転車に対して+5% 

 夜間は見通しが悪くなりますが、自転車側からは前照灯をつけた自動車は発見しやすく、他方、四輪車からは自転車の発見が必ずしも容易ではないため、自転車側の過失が加重されます。

 

 なお、「夜間」とは、日没時から日の出までの時間をいいます。

 

【幹線道路で事故が起きた場合】

自転車に対して+10% 

 「幹線道路」とは、歩車道の区別があり、車道幅員が概ね14メートル以上(片側2車線以上)で、車両が高速で走行する通行量の多い国道や一部の都道府県道などが想定されています。

 

 このような道路では、路外から自転車が進入する際、自転車は通常の道路に比べて直進車の動静により強く注意を払うべきであり、他方で直進する四輪車は接触を回避する余地が少ないため、自転車側の過失が加重されます。

 

【直前直後横断の場合】

自転車に対して+10% 

 少し分かりにくい表現ですが、要するに、自動車が通り過ぎる直前に道路に出たり、自動車が通り過ぎた直後に道路に出たことで事故が起きた場合です。

 

 このような横断行為は非常に危険な行為であるため、その分、自転車側の過失が加重されます。

 

【自転車の「著しい過失」・「重過失」】

自転車に+10~20%

 自転車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 

自転車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①酒気帯び運転(※1)

 

②2人乗り

 

③無灯火

 

④並進(※2)

 

⑤傘を差すなどの片手運転 

 

⑥脇見運転等の著しい前方不注視

 

⑦携帯電話等で通話しながらの運転や画像を注視しての運転 など

 

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

※2 複数の自転車が並んで走行すること

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②いわゆる「ピストバイク」など制動装置の不良 など

 

 なお、高速走行している自転車(原動付自転車の制限速度である時速30㎞程度)については、もはや自転車ではなく単車として扱われ、別の基準が適用されることとされています。

 

 

【児童等・高齢者が自転車に乗っていた場合】

自転車に対して-10%

 児童や高齢者は交通弱者であり保護すべき必要性が高いため、自動車側がより注意するべきであると考えられるためです。

 

 なお、「児童等」とは概ね13歳未満の者を言い、6歳未満の幼児も含みます。

 

「高齢者」とは、概ね65歳以上の者を意味します。

 

【自転車が自転車横断帯を通行していた場合】

自転車に対して-20~25% 

 「自転車横断帯」とは、道路標識等により自転車の横断の用に供するための場所であることが示されている部分をいいますが、ここから若干外れていても、概ね1~2メートル以内の場所を通行していた程度であれば、自転車横断帯を通行していた場合と同視して良いとされています。

 

【自転車が横断歩道を通行していた場合】

自転車に対して-15~20% 

 自転車横断帯がなく横断歩道しかない場所でも、そのような場所を通行する場合、自転車は横断歩道によって横断した方が安全と考えて通行する実情があり、自動車は歩行者と同様に注意してくれるであろうと期待して通行していることから、自転車横断帯ほどではないにしても、自転車側の過失割合が減算されます。

 

【自動車の「著しい過失」・「重過失」】

自転車に対して-10~20%

 自動車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり自転車側の過失割合が減算(自動車側に加算)されますが、その程度には幅があることから、修正要素にも幅がもたされています。

 

自動車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①脇見運転などの著しい前方不注視

 

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

 

③概ね15㎞以上30㎞未満の速度違反

 

④酒気帯び運転(※) など

 

※ 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②居眠り運転

 

③無免許運転

 

④概ね時速30㎞以上の速度違反 など

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

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後部座席でシートベルトを着用せずに事故に遭った場合、過失相殺されるのか?

 

 平成20年6月1日から、一定の例外(疾病・負傷・障害・妊娠中などのためシートベルトを着用することが適当ではない場合や著しく肥満している者等)を除いて、運転者は後部座席に乗る者にシートベルトを着用させる義務が課せられました(道路交通法法第71条の3第2項)。

 

 このように、法律では後部座席のシートベルトの着用義務は運転者に課せられたものであり、後部座席に乗車した者自身に課せられたものではありませんが、シートベルトを着用せずに後部座席に乗車した者が交通事故によって損害を受けた場合、加害者側からシートベルト不着用という事実を減額事由(過失相殺)とすべきである、という主張がなされることがあります。

 

 今回は、後部座席のシートベルトの不着用と過失相殺についてお話しします。

 

過失相殺されるケースが多い

 結論から述べると、改正道路交通法施行後の裁判例では、後部座席に乗っていた者がシートベルトを着用していなかった場合、その事実が不利な事実として評価されて過失相殺されることが多いと思われます。

 

 具体的な割合は被害者側の落ち度の程度によって増減しますが、2016年版・民事交通事故訴訟損害倍書額算定基準(下巻)の裁判官の講演録によると、過去の裁判例では5~30%程度の範囲で判断され、典型的なシートベルト不着用の事案では5~10%の範囲内で収まっているかもしれないと指摘されています。

 

 また、当職においてもいくつか近時の裁判例を探してみましたが、見つけられた範囲では以下のとおり10%とする例がありましたので、被害者の落ち度が非常に大きいような特殊なケースを除くと、裁判例の傾向としては10%程度とされるケースが多いかもしれません。

 

シートベルト不着用で被害者の過失割合を10%と判断した事例

①大阪地裁令和2年10月23日判決

②大阪地裁平成31年2月27日判決

③仙台地裁平成29年11月27日判決

④横浜地裁平成29年5月18日判決

 

過失相殺されないこともある

 このように、後部座席のシートベルト不着用は被害者の落ち度と評価され、過失相殺されてしまうことがありますが、他方、以下のようなケースでは不利に扱われない場合もあります。

 

加害者の過失が非常に重大な場合

 

【大阪地裁令和元年10月29日判決】

 加害者がセンターラインをオーバーして被害者の乗用車両に正面衝突したケース

 

【大阪地裁令和元年10月2日判決】

 被害者は腰ベルトのみをして肩ベルトをしていなかったが、事故原因が加害者の赤信号無視であったケース

 

【京都地裁平成29年7月28日判決】

 死亡事故において、加害者の運転する車両の後部座席に乗っていた死亡被害者の遺族が、加害者である運転者を訴えたケース。

 加害者は、路面が滑りやすい状況のもと、制限速度50キロメートルの一般道路トンネルを時速約144.2キロメートルまで加速させるなどし、無謀運転によって事故を起こしたことや、加害者が被害者にシートベルトの着用を求めていなかったことから、過失相殺を否定した。

 

シートベルトを着用していても同じような怪我を負ったと考えられる場合

 

【名古屋地裁一宮支部平成30年12月3日判決】

 被害者の乗っていた車両は事故で横転し、水田に落下したところ、被害者の怪我は右顔面打撲、前額部挫創、両肩関節挫傷、両肋骨挫傷、腰椎捻挫及び頸椎捻挫であり、シートベルトを着用していなかったことによって損害を発生あるいは拡大させたとまで評価できないと判断されたケース

 

シートベルト装着義務が免除されている場合

 

 その他にも、先ほど紹介した講演録では、疾病等の事情によりシートベルトの装着義務を免除されている者が被害者になった場合にも、事案によるものの過失相殺するのは相当ではないとして、助手席に関する事案で過失相殺を否定したケースが紹介されています(東京地裁平成7年3月28日判決)。

 

 

 今回ご紹介した通り、後部座席に乗る者自身にはシートベルトの着用義務はありませんが、ひとたび事故が起きたときは損害賠償請求の場面で不利に扱われることがありますし、それよりも前に、まずはご自分やご家族の身を守るためにシートベルトを着用する(させる)ことを心がけていただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

2021年5月16日 | カテゴリー : 過失割合 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

同一方向に進行中の自転車の進路変更により自動車と接触した場合の過失割合~交通事故⑲~

 

 最近、自転車で通勤する人が増え、また、自転車を使用して物品の配送をするサービスも普及してきているようですが、それに伴い、自転車と自動車との接触事故の話も良く聞きます。

 

 今回は、自転車と自動車との事故のうち直進車同士での事故について、自転車が進路変更をした場合に関する過失割合について、別冊判例タイムズ38号をもとに説明していきたいと思います。

 

典型的な事故状況

【前方に障害物なし】

【前方に障害物あり】

 

【基本の過失割合】

【前方障害物なし 自転車:自動車=20:80】

【前方障害物あり 自転車:自動車=10:90】

 このケースでは、自転車の前方に駐停車中の車両などの障害物があるかどうかによって基本の過失相殺に違いがあります。

 

 前方に障害物がある場合は、後続する自動車としても、自転車が進路変更する可能性があることを容易に認識しうるため過失が重くなっています。 

 

過失割合の修正要素

 もっとも、以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【自転車の運転者が児童等・高齢者の場合】

自動車に対して+10% 

 児童や高齢者については、不意に進路変更をすることも多く、自動車側がより注意するべきであると考えられるためです。

 

 なお、「児童等」とは概ね13歳未満の者を言い、6歳未満の幼児も含みます。

 

 他の事故類型では児童と幼児とで過失の修正割合に差を設ける場合もありますが、この類型では幼児は自転車として扱うよりも歩行者として扱うべき場合が多いとの考えから、児童と差が設けられていません。

 

 「高齢者」とは、概ね65歳以上の者を意味します。

 

【自動車の「著しい過失」・「重過失」】

著しい過失:自動車に+10% 

重過失:自動車に+20%

 自動車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

自動車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①脇見運転などの著しい前方不注視

 

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

 

③概ね15㎞以上30㎞未満の速度違反

 

⑥酒気帯び運転(※) など

 

※ 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②居眠り運転

 

③無免許運転

 

④概ね時速30㎞以上の速度違反 など

 

【自転車が進路変更時に合図をしなかった場合】

自転車に+10%

 自転車が合図をしなかったことにより、事故発生の可能性を高めたと評価されるためです。

 

【自転車の「著しい過失」・「重過失」】

自転車に+5~10%

 自転車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

自転車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①酒気帯び運転(※1)

 

②2人乗り

 

③無灯火

 

④並進(※2)

 

⑤傘を差すなどの片手運転 

 

⑥脇見運転等の著しい前方不注視

 

⑦携帯電話等で通話しながらの運転や画像を注視しての運転 など

 

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

※2 複数の自転車が並んで走行すること

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②いわゆる「ピストバイク」など制動装置の不良 など

 

 なお、最近では猛スピードで走行する自転車による交通事故も聞きますが、高速走行している自転車(原動付自転車の制限速度である時速30㎞程度)については、もはや自転車ではなく単車として扱われ、別の基準が適用されることとされています。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

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駐車場内の通路での人身事故の過失割合~交通事故⑭~

 

 以前のコラムで、駐車場内の交差部分で車両同士が接触した場合の過失割合についてお話ししました(→「駐車場の交差部分での出会い頭事故の過失割合~交通事故⑩~」)。

 駐車場内の通路では、四輪車だけではなく多くの人が歩行することが予定されていますが、もしも駐車場の通路で四輪車と歩行者が接触した場合に過失割合がどうなるかというのが今回のテーマです。

 

典型的な事故状況

 

基本の過失割合

 車両:歩行者 90:10

 

 駐車場内の通路は歩行者が通行することが想定されているため、駐車場の通路を通行する四輪車には、人の往来があることを常に予見し歩行者の通行を妨げない速度・方法で進行する高度の注意義務があるとされています。

 他方、歩行者としても、駐車場の通路上を四輪車が通行することは予見するべきであり、慎重に安全を確認しながら歩行することが要求されるため、歩行者にも一定の過失があると判断されて上記のような割合になります。

 

過失割合の修正要素

 以下のような事情がある場合には、基本の過失割合が修正されます。

 

 【歩行者の急な飛び出し】  

 歩行者に+10

 

 この場合、歩行者の落ち度が大きいためです。 

 

 【歩行者用通路標識上の接触】 

 四輪車に+20

 

 歩行者が白線等で示された歩行者用の通路を通行していた場合です。

 このような場合、歩行者の通行が特に保護されるべきであるため、歩行者に有利な方向に修正がなされます。

 

 【歩行者が児童・高齢者】 

 四輪車に+5

 【歩行者が幼児・身体障害者等】 

 四輪車に+10

 

 歩行者が児童等のいわゆる交通弱者の場合には通行を保護すべき必要性が強く、その分、運転者側の責任が重くなるためです。

 

・幼児・児童・高齢者・身体障害者等の意味

「幼児」=6歳未満

「児童」=6歳以上13歳未満

「高齢者」=概ね65歳以上

「身体障害者等」=以下の①~④に該当する人

①身体障害者用の車いすで通行している人

②杖を持ち、又は盲導犬を連れている目の見えない人

③杖をもつ耳が聞こえない人

④道路の通行に著しい支障がある肢体不自由・視覚障害・聴覚障害・平衡機能障害がある人で杖を持っている人

 

 【四輪車の著しい過失】 

 車両に+10

 【四輪車の重過失】 

 車両に+20

 

 四輪車の運転者に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

 【著しい過失=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失】 

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④酒気帯び運転(※1)

⑤一時停止標識違反

⑥通行方向表示違反(逆走)

⑦四輪車が通路を進行する他の車両の通常の進行速度を明らかに上回る速度で進行していた場合(※2)

⑧差右折時や後退時などに、進行方向の見通しが悪い場所で徐行しなかった場合

など

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

※2 速度超過の程度によっては重過失と評価される可能性もあります

 

 【重過失=故意に比肩する重大な過失】 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転

など

 

弁護士 平本丈之亮

 

駐車場の交差部分での出会い頭事故の過失割合~交通事故⑩~

 

 最近では郊外型の大型ショッピングモールが進出し、スーパーなどの店舗の大型化も相まって収容台数の多い駐車場を持つ店が多くなりましたが、それに伴い駐車場内での事故に関するご相談も増えています。

 今回は、駐車場内での事故のうちもっとも典型的な事故類型である、通路の交差部分での四輪車同士の出会い頭事故に関する過失割合について、別冊判例タイムズ38号をもとに説明していきたいと思います(なお、類似のものとしてT字路交差部分での事故類型がありますが、今回は割愛します)。

 

典型的な事故状況

 

【基本の過失割合=50:50】

 駐車場内の交差部分における四輪車同士の出会い頭事故については、直進・右折・左折の区別なく、双方の過失割合は50:50が基本とされています。

 交差部分に入ろうとし、あるいは交差部分を通行する自動車は、お互いに他の自動車が通行することを予想して安全を確認し、交差部分の状況に応じて他の自動車との衝突を回避できるような速度・方法で通行する注意義務があり、そのような注意義務の程度はお互いに同等であると考えられているからです。

 

過失割合の修正要素

 もっとも、以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【どちらかの通路が狭く、他方が明らかに広い通路だった場合】

狭い方の通路を進行していた車両に対して+10% 

 広い通路は狭い通路に比べて通行量が多いことが想定されますから、狭い通路から交差部分に入ろうとする車両は、広い通路を通行している車両よりも注意すべきであると考えられているためです。

 ちなみに、「明らかに広い」とは、運転者が、通路の交差部分の入口において通路の幅員が客観的にかなり広いと一見して見分けられるものを言うとされていますので、ぱっと見て、そこまで違いが分からないような場合にはこの修正要素には当てはまりません。

 

【一時停止・通行方向標示等違反】

標示に違反した側に+15~20%

 一時停止や通行方向の標示は、駐車場の設置者が通路の構造や状況を考慮して安全のため設置したものですから、駐車場内を通行する車両はその指示に従うべきですし、このような場合、通行車両は他の車両も設置者の指示に従うことを期待していますので、従わなかった者には著しい過失があるとして過失割合が修正(加算)されます。

 なお、一時停止等に対する違反行為があったほかに、狭路・広路の修正要素にも追加で当てはまる場合(たとえば、Aに一時停止違反があり、かつ、A側が狭路だったケース)には、2つの違反をまとめて20%の修正がかかります(Aに+20)。

 

【「著しい過失」・「重過失」】

著しい過失」がある側に+10% 

「重過失」がある側に+20%

 運転者に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです(なお、一時停止・通行方向標示等違反も「著しい過失」の一つとされています)。

 

「著しい過失」・「重過失」の具体例

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④他方の車両が明らかに先に交差部分に入っていた場合(※1)

⑤交差部分の手前で減速しなかった場合(※2)

⑥酒気帯び運転(※3) など

※1 先入した車両に一時停止等の違反がある場合には適用しない。

※2 交差部分の手前で急ブレーキをかけた場合は減速したとは扱わない。

※3 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転 など

 

 なお、公道上の事故においては、一定の速度超過は「著しい過失」や「重過失」に該当するとされていますが(「交通事故における「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~」)、別冊判タ38号では、この事故類型でその点が明示されていません。

 駐車場内においては低速での通行が想定されているためではないかと思いますが、制限速度が標示されている駐車場もありますし、そもそも、駐車場だからという理由だけで車両速度が過失に影響しないというのは常識に反するため、想定される範囲を大幅に超えた速度で駐車場内を走行した場合には、その程度に応じて過失割合に影響があるのではないか思われます(ちなみに、通路を進行する四輪車と駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との間の接触事故では、標示された上限速度を目安に、その超過の程度に応じて「著しい過失」又は「重過失」による修正をするとされています)。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

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駐停車中に追突された場合でも過失割合が100:0にならない場合がある?~交通事故⑨~

 

 交通事故の事故態様として比較的ご相談が多いのが、駐停車中の車両への追突事故というケースです。

 このような追突事故が起きた場合、追突した側が100%悪く、追突された側にはまったく落ち度はないというのが一般的な感覚かと思いますが、実は事情次第ではそのような結論にならないことがあります。

 駐停車中の追突事故の過失割合については、実務上広く用いられている文献である「別冊判例タイムズ38号」が様々なパターンでの考え方を示していますので、今回は、四輪車同士の交通事故のうち駐停車中の車への追突事故の過失割合について、基本的な考え方をご説明したいと思います。

 

典型的な事故状況

 

 【基本の過失割合】  

 A:B=100:0

 

 被追突車(B)が駐停車中の場合、基本的には被追突車(B)の側に過失はありません。

 

 【例外:Bにも過失があるとされるケース】 

 もっとも、以下のようなケースでは被追突車(B)の側にも落ち度があるとして、過失割合が修正されることになります。

 

 [1.現場の視界が不良の場合] 

 A:B=90:10(Bに+10%)

 

 以下のような理由があって現場の視界が悪い場合、後続車であるAからは前方に駐停車していたのBを発見するのが難しいため、過失割合が修正されます。

 

 ①雨が降っていた

 ②濃い霧がかかっていた

 ③夜間で街灯もなく暗い場所だった

 

 [2.Bが駐停車禁止場所に駐停車していた場合] 

 A:B=90:10(Bに+10%)

 

 この場合は、Bが法律で禁止された場所に車両を駐停車させたことで他の交通を妨害し、事故発生の危険性を高めているため、過失割合が修正されます。

 

 [3.夜間にBが警告措置(ハザード・三角反射板)をしていなかった場合] 

 A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)

 

 夜間は視界不良となることから、駐停車中の車がハザードランプを点灯するなど適切な警告措置を取っていなかった場合、後続車は駐停車車両の発見が困難となるためです。

 

 [4.Bの駐停車方法が不適切な場合] 

 A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)

 

 駐停車方法が不適切とされる具体例としては、以下のようなものがあります。

 

 ①道路幅が狭いところに駐停車した場合

 ②追い越し車線に駐停車した場合

 ③幹線道路など交通量の多いところに駐停車した場合

 ④車道を大きく塞ぐ形で駐停車した場合

 ⑤車両が汚れていて車両後部の反射板が見えなくなっているような場合

 

 車が駐停車するときは、法律上、道路の左端に沿い、かつ、他の交通の妨げにならないようにしなければならないとされていますが(道路交通法47条1項、2項)、①~④の場合はこの定めに反し、Bは交通事故の危険を増加させて追突事故を誘発させているため修正がなされます。

 ⑤については、反射板が汚れているとAからはBを見つけることが難しいということが修正の根拠とされていますが、別冊判タ38号ではこれも不適切な駐停車方法にあたると分類しています。

 

 [5.Bに「著しい過失」または「重過失」がある場合] 

著しい過失」 A:B=90:10(Bに+10%)

「重過失」   A:B=80:20(Bに+20%)

 

 これに該当しうる具体例としては以下のようなものがあります。

 

・自招事故によって駐停車した場合

・駐停車車両を放置していた場合

 

 ちなみに、どのような場合に「著しい過失」と「重過失」に振り分けられるかについて、別冊判タ38号では具体的な基準が明示されていませんが、この点は、自招事故に対するBの落ち度の程度やBが車両を放置していた時間帯や放置時間の長さ、幹線道路かどうか、当時の道路状況など個別の事情によってケースバイケースの判断になると思われます。

 

 【例外の例外もある】 

 以上の通り、一定の事情がある場合には、駐停車中の追突事故であっても被追突車(B)の側に過失があるという判断がなされます。

 もっとも、そのようなケースであっても、以下の場合には、例外の例外として、さらに追突事故についての過失割合が修正されることがあります。

 

 [1.Bが退避不能だった場合] 

 Bに-10%

 

 突然のエンジントラブルやパンクなどで退避することが不可能だったような場合、たとえば駐停車禁止場所に止まってしまったとしてもBに落ち度があったとはいえないので、追突事故の発生に対するBの過失割合が軽くなります(駐停車禁止場所の例でいえば、通常はA:B=90:10ですが、A:B=100:0となります)。

 

 [2.Aに15㎞以上の速度違反があった場合] 

 Aに+10%

 

 このような場合はAの落ち度が大きいため、最終的なBの過失割合は軽くなります。

 

 [2.Aに30㎞以上の速度違反があった場合] 

 Aに+20%

 

 理屈は15㎞以上オーバーの場合と同じですが、速度違反の程度が著しいためAの過失割合が加重されます。

 

 [3.Aに「著しい過失」、「重過失」がある場合] 

「著しい過失」 Aに+10%

「重過失」   Aに+20%

 

 速度違反以外でAの運転方法などに「著しい過失」「重過失」がある場合には、上記のとおりAの過失割合が加重されます(なお、「著しい過失」「重過失」の意味については、交通事故における「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~」をご覧下さい。)

 

 

 いかがだったでしょうか?

 ひとくちに駐停車中の車への追突事故といっても、このように状況次第では過失割合は変動します。

 過失割合については、今回取り上げた追突事故だけではなく事故の状況によって様々な修正要素があるため、相手方の保険会社からの見解が正しいかどうか判断することが難しいことがありますので、示談交渉で迷われたり不安がある場合には弁護士へのご相談をご検討下さい。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

交通事故における自動車の「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~

 

 交通事故の案件を扱う際に避けて通れない問題として、どちらの落ち度がより大きいのか、すなわち「過失割合」の問題があります。

 

 過失割合についてはある程度定型化が進んでおり、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]」(別冊判例タイムズ38号)という書籍によって、公道上での交通事故に関しては、よほど特殊な事故態様でない限り基本的な過失割合は調べやすい状況にあります。

 

 もっとも、道路状況や事故状況などから基本的な過失割合がわかったからといって、それをそのまま適用するかどうかはまた別の問題であり、実際にはそこからさらに、運転者の事情に応じて過失割合を修正するかどうかを検討していくことになります。

 

 今回は、このような過失割合を修正する事情として比較的問題となることの多い自動車の「著しい過失」「重過失」について説明したいと思います。

 

 なお、「著しい過失」・「重過失」については、今回の解説の対象である自動車のほか、軽車両である自動車が事故当事者になった場合にも問題となりますが、自転車の「著しい過失」・「重過失」については下記のコラムをご覧ください。

 

 

設例

  今回は、信号機のない交差点で起きた直進する四輪車同士の出会い頭の事故で、一方の道路が明らかに広い場合(別冊判タ38号・218ページの事例)をもとに説明したいと思います。

 

 なお、事案を簡明にするため、事故発生時の条件は以下のとおりとします。

 

・A、Bともに減速せずに交差点に進入した

・事故が起きた交差点は見通しがきかなかった

・AとBが交差点に進入したタイミングはほぼ同じ 

・A、Bともに大型車ではない

 

【典型的な事故状況】

 

基本の過失割合 

 A:B=30:70

 

「著しい過失」がある場合

 【Aに著しい過失がある場合】 

 A:B=40:60(Aに+10%)

 

 【Bに著しい過失がある場合】 

 A:B=20:80(Bに+10%)

 

「重過失」がある場合

 【Aに重過失がある場合】 

 A:B=50:50(Aに+20%)

 

 【Bに重過失がある場合】  

 A:B=10:90(Bに+20%) 

 

「著しい過失」・「重過失」とは?

 このように、運転者に「著しい過失」や「重過失」があった場合には基本の過失割合が10%ないし20%が修正されることになりますが、ここでいう「著しい過失」や「重過失」とは、具体的にどのようなものをいうのでしょうか?

 

 この点について、先ほどご紹介した別冊判タ38号では、「著しい過失」と「重過失」とは以下のようなものを指すとしています。

 

【著しい過失=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失】

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④おおむね時速15㎞以上30㎞未満の速度違反(高速道路を除く)

⑤酒気帯び運転(※) など

※血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則対象ですが、罰則の対象にならない程度の酒気帯びも対象となります。

 

【重過失=故意に比肩する重大な過失】

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④おおむね時速30㎞以上の速度違反(高速道路を除く)

⑤過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転 など

 

 以上のとおり、自分や相手の運転の仕方によっては過失割合が修正される可能性があります。

 

 もっとも、実際のケースにおいて相手の運転が「著しい過失」や「重過失」に当たる可能性があったとしても、速度違反や飲酒運転などわかりやすい事情ではない場合、事情を相手の保険会社に適切に伝えて過失割合の修正を求めることは簡単なことではありませんし、逆に相手方から重過失などの指摘があった場合にも、それに対してきちんと反論して交渉を進めていくのもなかなか難しい場合があります。

 

 そのため、過失割合について「著しい過失」や「重過失」が問題となっている、あるいは今後問題となる可能性がある場合や自主交渉で行き詰まったような場合には、弁護士への相談や依頼をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

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