不倫の暴露による損害賠償が問題となった2つのケース

 

 不倫(不貞行為)が配偶者に発覚した場合、不貞の事実を知った側が第三者に対してその事実を暴露してしまうことがあります。

 

 このような行為は、その暴露先や態様にもよりますが、名誉毀損ないしプライバシーの侵害となり、たとえ不貞行為の被害者であっても法的な責任を負うことがありますので、今回はこのような不倫の暴露による損賠賠償責任が問題となったケースを2つご紹介したいと思います。

 

東京地裁令和2年11月27日判決

【事案の概要】

 元妻が夫の不貞行為や離婚時の条件などを記載した電子メールを元夫の勤務先の役員及び従業員全員が閲覧可能なメールアドレス宛に送信してしまったことから、元夫が元妻に対して損害賠償等を請求したというもの(なお、判決では故意までは認められないものの故意に匹敵する重大な過失があるとされた。)。

 

【判示内容】

「本件メールの内容のうち、原告と○○との不貞関係あるいは原告の度重なる不貞行為と被告に対する経済DVを摘示する部分は、原告の社会的評価を低下させるものであるとともに、訴訟や調停の経過及びその結果等について摘示する部分と併せて、原告の私生活上の情報であり、一般人の感受性を基準として公開を欲しない事実、すなわち原告のプライバシーに属する事実を摘示するものであると認められる。なお、これらの摘示事実が、本件メールの送信前に既に一般に公開されていたとは認められない。」

 

「被告が、…のとおり原告の社会的評価を低下させるとともに、原告のプライバシーに属する事実を摘示する内容の本件メールを、本件アドレスに宛てて送信し、○○社の役員や従業員においてその内容を把握することのできる状態に置くことは、本件メールにおいて摘示された事実を、同人らに公然と摘示したものと評価することができ、このような行為は、原告の名誉権を侵害するとともに、同人のプライバシーを侵害するものと認められる。」

 

東京地裁令和2年2月10日判決

【事案の概要】

 妻が夫の不貞相手に対して慰謝料請求訴訟を提起したところ、不貞相手側が、①妻が不貞相手の父親に不貞行為の事実を記載したはがきを送付したり、②夫の父親に不貞行為の事実を記載したはがきを送付したこと、また、③高校時代の知人にインスタグラムを利用して不貞行為の事実を記載したメッセージを送付したことがそれぞれ名誉毀損ないしはプライバシー侵害に当たるとして慰謝料請求の反訴を提起したもの。

 

【判示内容】

①不貞相手の父親にはがきを送付した点

「本件はがきの記載内容は、被告が原告と○○の夫婦関係を破壊しかけている旨を摘示しており、これは本件はがきを読む者に被告が不貞に及んでいると認識させるものである。本件はがきの送付は、被告の社会的評価を低下させるもので、名誉毀損に当たる。
 また、○○と被告の間に不貞行為があったと認められることは上記判断のとおりであり、これを被告の父親に開示することは、被告のプライバシーを侵害すると認められる。」

 

②夫の父親にはがきを送付した点

「本件はがきの記載内容は、被告が原告と○○の夫婦関係を破壊しかけている旨を摘示しており、これは本件はがきを読む者に被告が不貞に及んでいると認識させるものである。本件はがきの送付は、被告の社会的評価を低下させるもので、名誉毀損に当たる。   

 また、○○と被告の間に不貞行為があったと認められることは上記判断のとおりであり、これを被告の父親に開示することは、被告のプライバシーを侵害すると認められる。」

 

③知人にメッセージを送信した点

「本件メッセージの記載内容は、被告が○○と不貞関係にある旨を摘示しており、これは本件メッセージを読む者に被告が不貞に及んでいると認識させるものである。本件メッセージの送信は、被告の社会的評価を低下させるもので、名誉毀損に当たる。
 また、○○と被告の間に不貞行為があったと認められることは上記判断のとおりであり、その他被告の姿容や服装の志向性等、これを被告の知人にことさらに開示することは、被告のプライバシーを侵害すると認められる。」

 

 以上の通り、過去の裁判例では、勤務先のみならず、不貞相手の父親や配偶者の父親、不貞相手の知人に対して不貞の事実を開示したことが名誉毀損あるいはプライバシー侵害にあたるとされています。

 

 なお、勤務先へのメール送信が問題となった1番目の事例では、判決を読む限り故意にメールを送信したとまでは認められなかったようですが、「他人の社会的評価やプライバシーに関わる事実が摘示された電子メールを送信するに当たっては、誤送信された場合に当該他人が被る社会的評価の低下やプライバシー侵害の危険に鑑み、その送信先の選択に留意し、少なくとも送信先を誤ることのないよう注意すべき義務を負う」、「送信前に宛先を確認することが、一般的には極めて容易であることに照らせば、被告が、上記のような注意を怠ったことは、著しく軽率なことであった」として、被告には重過失があると判断されていますので、わざと送ったものではないということは責任を免れる理由にはならないことがわかります。

 

 不貞行為が発覚した場合、どうしても冷静に判断することができず、第三者への暴露が生じてしまいがちですが、このような行為は今回紹介したように単なる道義的なレベルではなく法的なレベルでの問題が生じますので、くれぐれもご注意いただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

2021年7月25日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

特例有限会社の取締役の解任と損害賠償請求

 

 以前のコラムで、取締役の解任に「正当な理由」がない場合、株式会社は取締役に対して損害賠償責任を負うことをお話ししました(会社法339条2項)。

 

 ところで、会社の中には、純粋な株式会社のほかに、平成18年の会社法施行を機に生まれた「特例有限会社」というものがあります。

 

 特例有限会社とは、会社法施行前に有限会社であった会社について、会社法の施行後も従前の例によるものとされる会社をいいますが、一般の株式会社と異なって決算公告の義務がないほか、取締役の法定任期に関する会社法332条の適用も除外されているため(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律18条)、定款において取締役の任期が定められていない場合、取締役には任期がありません。

 

 そこで今回は、このような特例有限会社において取締役が解任された場合に、会社法339条2項の適用があるかどうかについてお話しします。

 

任期の定めがない場合

 

 会社法339条2項は旧商法257条1項但書の流れを汲む規定であるところ、同条項但書は「任期ノ定アル場合ニ於テ」として取締役に任期がある場合を前提としていました。

 

 そのため、会社法339条2項が旧商法257条1項但書と同様に取締役の任期がある場合を前提にした規定であるとすれば、任期の定めのない特例有限会社については(類推)適用することはできないことになり、他方、会社法339条2項には「任期ノ定アル場合ニ於テ」といった限定がないことを重視すれば、特定有限会社の取締役にも同条項を(類推)適用できる余地があります。

 

 しかし、この点について当職が調べた範囲では、任期のない特例有限会社の取締役については、会社法339条2項を(類推)適用を否定した裁判例しかないようでした。

 

東京地裁平成30年4月25日判決

「会社法339条2項において「任期ノ定アル場合ニ於テ」に相当する文言が付加されなかったことについては、旧商法が取締役の任期について、定款において定められるべき事項とされ、旧商法256条がその上限等を定めるという建前となっていたことから、任期の定めのない取締役が存在する余地を残していたのに対し、会社法は取締役の任期を法定した上で定款または株主総会の決議によってその任期を変更することを許容する建前となっており(会社法332条参照)、任期の定めのない取締役を想定することができなくなったことによるものと解される。以上によれば、会社法339条2項所定の損害賠償請求権に関しても取締役の任期が定まっていることが当然の前提とされており、定まった任期のない取締役については同条項の適用はないものと解するのが相当である。」

東京地裁平成29年8月23日判決

「会社法339条2項において「任期ノ定アル場合ニ於テ」に相当する文言が付加されなかったことについては、旧商法が取締役の任期について、定款において定められるべき事項とされ、旧商法256条がその上限等を定めるという建前となっていたことから、任期の定めのない取締役が存在する余地を残していたのに対し、会社法は取締役の任期を法定した上で定款または株主総会の決議によってその任期を変更することを許容する建前となっており(会社法332条参照)、任期の定めのない取締役を想定することができなくなったことによるものと解される。以上によれば、会社法339条2項所定の損害賠償請求権に関しても取締役の任期が定まっていることが当然の前提とされており、定まった任期のない取締役については同条項の適用はないものと解するのが相当である。そして、会社法下の特例有限会社については、法定任期に関する会社法332条の適用が除外されており(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という。)18条)、特例有限会社の定款において取締役の任期が定められていない場合には当該会社の取締役には定まった任期がないということになる。」

 

「前記説示のとおり会社法339条2項は、任期の定めのある取締役の任期に対する期待を保護するために設けられた規定であり、任期の定めのない場合について、同項を類推適用する基礎を欠く。」

秋田地裁平成21年9月8日判決

「会社法339条2項は、取締役の解任について株式会社が正当事由のあることを立証できない場合に、株式会社に対し、解任されなければ残存任期中に得られたであろう取締役の利益(所得)の喪失の損害賠償責任を認める特別の法定責任を定めた規定であり、具体的な任期があることが損害賠償請求権発生の要件と解される。
 この点、商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下、同法による改正前の商法を単に「旧商法」という。)257条1項但書では、「任期ノ定アル場合ニ於テ」とされており、任期の定めがあることが損害賠償請求権発生の要件であることが法文上明らかであったところ、上記会社法339条2項ではこれに対応する文言はない。
 しかしながら、これは、旧商法下では、株式会社の取締役について任期が定められない場合があり得た(旧商法256条参照)ものの、会社法下では、そもそも取締役等につき具体的な任期がないという場合は想定されなくなった(会社法332条等参照)ために、敢えて任期の定めがあるという文言が置かれなかったにすぎないと解される。
 したがって、上記会社法339条2項は、具体的な任期があることを損害賠償請求権発生の当然の前提としていると解するのが相当である。」

 

 なお、上記2つの東京地裁判決では、会社法のほかに民法651条2項の規定によっても報酬相当額の損害賠償請求が可能という原告の主張に対して、民法651条2項による損害賠償責任の範囲は委任が解除されたこと自体から生じる損害ではなく解除が不利な時期であったことから生じる損害に限られるとして、報酬相当額の喪失は解除自体によって生じる損害であるからここでいう損害には入らないと判断しています。

 

任期の定めがある場合

 

 以上に対して、同じ特例有限会社であっても、定款で取締役の任期に関する規定があるときは会社法339条2項の適用があると思われます。

 

 ややイレギュラーなケースですが、東京高裁平成29年2月16日決定は、定款に取締役の任期の定めがある特例有限会社について、会社が定款変更によって当初の任期を短縮したために取締役が退任したところ、当該取締役が定款変更前の残任期分の報酬相当額を損害額(=被保全権利)として会社の預金債権等に対して仮差押命令の申立てをした事案に関し会社法339条2項の類推適用を認め、執行裁判所が発令した仮差押命令に対する会社側の保全異議の申立を退けています。

 

 このように、上記高裁決定は、定款に取締役の任期について定めのある特例有限会社について、定款変更による任期短縮によって取締役が地位を喪失した場合に会社法339条2項の類推適用を認めた事案ですが、この判断は、任期の定めのある特例有限会社における任期途中の解任に同条項の適用があることを前提にしたものです。

 

 

 以上、特例有限会社における取締役の解任と会社法339条2項の関係について、裁判例を中心にお話しました。

 

 有限会社の設立ができなくなったことから、今後、このような問題は次第になくなっていくことになりますが、今なお相当数の特例有限会社が存在すると思われますので参考になれば幸いです。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2021年7月14日 | カテゴリー : 企業法務 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

協議か、それとも調停か?~離婚の進め方に迷ったら~

 

 離婚手続には、大きく分けて、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚があります(そのほかにも審判離婚がありますが、他に比べてマイナーなため割愛します)。

 

 このうち裁判離婚は、協議も調停もダメという場合の最後の手段ですが、実際に裁判まで行く方は離婚全体でみれば少なく、多くの方は協議離婚か、それがダメでも調停離婚までで解決しています。

 

 ところで、具体的にこれから離婚の話し合いに入るという段階において、まずは協議離婚で進めるのが良いのか、それとも最初から離婚調停で進めるのが良いのかはなかなか悩ましい問題です。

 

まずは協議離婚から

 

 もっとも、当職が協議離婚と離婚調停のどちらにするか悩んでいるというご相談を受けた場合、概ね以下のような条件をみたすのであれば、まずは協議離婚での解決を目指し、うまくいかなかったら調停を起こしてはどうですかとお伝えします。

 

 

 ①離婚自体について争いがない

 

 ②親権に争いがない

 

 ③面会交流についても深刻な争いがない

 

 ③DVによる身の危険がない

 

 

 以上のような条件をみたす場合、協議すべき内容は慰謝料や財産分与、養育費などの金銭面の問題や、子どもの面会交流の頻度等にとどまることが多くなりますが、このようなケースであれば調停をせずとも、当事者の話し合いによる早期解決が相応に見込めるためです。

 

 ただし、当事者の協議で離婚するといっても、財産分与などの金銭の支払いを約束したり養育費の定めをするような場合には、相手の不払いへの対策あるいは離婚後の追加請求等のトラブル防止のため、最低でも離婚協議書は作成するようにし、できれば、さらにそれを公正証書にしておくことがお勧めです。

 

 また、「協議によって解決できそう」という見通しはあくまで協議に入る前の想像によるものでしかなく、実際に協議に入った途端、配偶者の態度が急変するということは残念ながらありますので、無駄な時間を極力省くためには、どの時点で打ち切るべきかを常に考えながら協議を進める必要があります。

 

離婚調停が望ましいケース

 

 他方で、以下のような場合には協議では良い結果が得られる可能性が低いことから、最初から離婚調停を起こすことも検討した方が良いと思います。

 

 

 ①相手が離婚を明確に拒否している

 

 ②親権や面会交流について深刻な争いがある

 

 ③DV事案

 

 ④金銭面で支払いを拒否する態度を明確にしている

 

 ⑤離婚の可否・条件について態度がコロコロ変わる

 

 

 上記のようなケースはおよそ当事者間の協議で折り合いがつかず、協議にかけた時間が無駄になる可能性が高いため、訴訟提起も見据えたうえで早期に公の手続で進めることが望ましいと思います(特に③のケースは、単なる時間のロスだけではなく危害防止のため裁判所を関与させる必要が高いケースです)。

 

 また、一方配偶者が協議の段階では強気であっても、いざ調停に移行すると相手の離婚意思が堅いことを悟って諦めたり、調停委員の説得で態度が軟化するケースも一定程度ありますので、その観点からも、上記のようなケースでは早期の離婚調停を検討してよいと思います。

 

どちらも一長一短がある

 

 協議離婚の方が解決スピードや手間の点で離婚調停よりも優れていますが、他方、協議には終わりがないことや、当事者での話し合いであるためについつい感情的になりがちであり、かえって問題がこじれてしまう可能性がある、といった弱点もあります。

 

 この点、離婚調停は、たとえ不成立に終わっても裁判手続に進むことができるようになることや、間に調停委員を挟むことで、直接協議する場合に比べて冷静に話を進めることができることなど、協議離婚にはない独自の強みもあります。

 

 協議離婚で進めるのがいいのか、それとも離婚調停で進めるのがいいのかは、結局のところ夫婦の事情によって異なり、どちらがいいとは一概に決めることはできませんので、どうしても迷うときは専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

定款変更による取締役の任期短縮とその後の再任拒否による損害賠償請求

 

 前回のコラムで、会社が取締役を含む役員等を任期途中で解任した場合、「正当な理由」がない限り、取締役等は会社に損害賠償請求ができるというお話をしました(会社法339条2項)。

 

 このように、任期途中の取締役の解任には損害賠償請求のリスクがあるため、「正当な理由」が認められるかどうか怪しいケースでは任期満了まで待つことが無難な対応となりますが、そのような対応ではなく、定款変更によって取締役の任期を短縮し、その後、その取締役を再任しないことで解任と同じ結果をもたらそうとする場合がみられます。

 

 会社法339条2項は、法文上、取締役等の「解任」の場合を想定した規定であり、定款変更による任期短縮のケースを直接規律するものではありませんが、定款変更による任期短縮とその後の再任拒否を組み合わせた場合は任期途中で解任したのとまったく同じ結果となることから、そのようなケースでは解任と同じく取締役を保護する必要性があるのではないか、つまり、このような任期短縮を内容とする定款変更と再任拒否がなされた場合、取締役は会社に対して損害賠償請求ができるのではないのかが問題となります。

 

会社法339条2項の類推適用によって損害賠償請求できる可能性がある

 

 結論からいえば、このような場合、退任した取締役は任期途中で取締役を解任した場合と同様に損害賠償請求ができる可能性があり、実際の裁判例においても定款変更による取締役の任期短縮には会社法339条2項の類推適用を認めうるとしています。

 

東京地裁平成27年6月29日判決

会社法三三九条二項は、株主総会の決議によって解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる旨定めているところ、その趣旨は、取締役の任期途中に任期を短縮する旨の定款変更がなされて本来の任期前に取締役から退任させられ、その後、取締役として再任されることがなかった者についても同様に当てはまるというべきであるから、そのような取締役は、会社が当該取締役を再任しなかったことについて正当な理由がある場合を除き、会社に対し、会社法三三九条二項の類推適用により、再任されなかったことによって生じた損害の賠償を請求することができると解すべきである。
 これを本件についてみると、原告らは、本件定款変更によって本来の任期よりも前に取締役から退任させられ、取締役として再任されることもなかったのであるから、被告が原告らを再任しなかったことについて正当な理由がある場合を除き、被告に対し、損害賠償を請求することができることとなる。」

 

※結論としては、取締役に再任しなかったことに「正当な理由」はないとして損害賠償請求を認容(ただし、原告が本来の残任期である約5年5ヶ月間の報酬相当額を請求したことに対し、裁判所は、その間、会社の経営状況や退任した取締役の職務内容に変化がまったくないとは考えがたく、当初予定されていた月額報酬をそのまま受領し続けることができたと推認することは困難であるとして、損害を2年分に限定した)。

 

名古屋地裁令和元年10月31日判決

「取締役の任期途中において、その任期を短縮する旨の定款変更がなされた場合、その変更後の定款は在任中の取締役に対して当然に適用されると解することが相当であり、その変更後の任期により任期が満了した者については、取締役から退任する。
 そして、会社法339条2項は、株主総会の決議によって解任された取締役は、その解任について「正当な理由」がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる旨定めているところ、取締役の任期途中に任期を短縮する旨の定款変更がなされて本来の任期前に取締役から退任させられ、その後、取締役として再任されることがなかった者について、その趣旨が同様に当てはまるか否かは、なお議論の余地があるものの、本件定款変更による取締役の任期の短縮には、原告を被告の取締役から退任させることがその目的に含まれていたということができるから、本件においては、会社法339条2項が類推適用されるとする余地もあり、」

 

※結論的には、取締役に再任しなかったことについて「正当な理由」があるとして損害賠償請求は棄却。

東京高裁平成29年2月16日決定

「会社法339条2項は、取締役を解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができると定めているところ、上記事情に照らせば、本件においても、同項を類推適用することができるものと解するのが相当であり、この場合における正当な理由の有無は、任期の短縮及び取締役としての不再任について判断されるべきである。」

 

※法律上は取締役の任期について規定のない特例有限原会社について定款で取締役の任期を定め、その後に再度の定款変更による任期短縮によって退任した取締役が、定款変更前の残任期分の報酬相当額を損害額(=被保全権利)として会社の預金債権等に対して仮差押命令の申立てをしたところ認容されたため、会社が保全異議の申立をし、原審裁判所が仮差押決定を認可したケースの抗告審。

本件では、定款変更による任期短縮が取締役を会社から排除するために講じたものであるという事情に照らし、定款変更による任期短縮が実質的にみて取締役の解任と同視すべきものということができることを根拠に類推適用を認めている。

 

 このように、取締役の解任による損害賠償請求のリスクを避けるために定款変更を活用しようとしても、上記の通り会社法339条2項の類推適用によって、結局は再任しないことに「正当な理由」がなければ損害賠償請求を負う可能性が残ります。

 

 特定の取締役の排除を目的とした脱法的な定款変更ではなく、他の必要性からそのような定款変更を行うことはあり得るつころですが、その場合にはあらかじめ退任対象となる取締役と協議し、必要に応じて代償措置を講じるなど十分に検討することが肝要と思われます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

2021年7月13日 | カテゴリー : 企業法務 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

取締役等の解任と損害賠償請求の話

 

 会社法では、取締役を含む役員(取締役、会計参与、監査役)や会計監査人は、いつでも株主総会の決議によって解任できるとされています(会社法339条1項)。

 

 もっとも、このような自由な解任権を会社に与えることは、他方で取締役を含む役員等の任期に対する期待を害することにも繋がります。

 

 そこで、会社法は、会社の解任権と役員等の利益の調和を図るため、「正当な理由」のない解任がなされた場合、会社法339条2項によって役員等が会社に対して損害賠償を請求することができるとしています。

 

 

請求できる損害の範囲は?

 

【役員報酬】

 

 会社法339条2項における損害として典型的なものは、解任されなければ得られていたはずの残存任期分の役員報酬相当額です。

 

 

【退職慰労金など】

 

 これに対して、たとえば退職慰労金や役員賞与については、全てのケースで必ず支給されるというものではないことから、支払いを受ける可能性が高い場合に損害に含まれます。

 

 たとえば東京地裁平成27年6月22日判決は、定款に役員の退職慰労金について具体的な金額が定められていないことから、役員に対する退職慰労金は株主総会決議がなされた時以降に具体的な請求権として発生するものであるとして、退職慰労金は損害に含まれないと判断しています。

 

 他方、東京地裁平成29年1月26日判決では、一人株主の了解を得て退職一時金の金額が具体的に決まっていたケースにおいて、退職一時金が損害に含まれるものと判断しています。

 

 

【弁護士費用】

 

 会社に対して損害賠償を請求する際に生じる弁護士費用相当額については、会社法339条2項が解任がなければ得られたであろう利益の喪失を填補するものであるという趣旨に鑑み、「「解任がなければ当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害」には含まれず、同項による補償の対象には含まれないと解するのが相当である。」と判示した裁判例があります(東京地裁平成29年1月26日判決)。

 

 

「正当な理由」があれば損害賠償責任は負わない

 

 以上のような役員等からの請求に対して、同条項では、取締役等の解任に「正当な理由」がある場合、会社は損害賠償責任を負わないと規定しています。

 

 ここでいう「正当な理由」の意味については、たとえば東京地裁令和2年3月2日判決では、「役員等に、職務執行上の法令定款違反行為があった場合、心身の故障のため職務執行に支障がある場合又は職務への著しい不適任となるべき事情がある場合等、株式会社が役員等に対し取締役としての責務の遂行を期待することが客観的に難しい状況がある場合をいう」とされています。

 

 これをおおまかに分類すると、一般的には以下のような事由がこれにあたると考えられますが、このうち①のような比較的明確な事由以外は、具体的にどのような事情があれば「正当な理由」があるといえるかが事案によってケースバイケースであるため、実際に問題が生じたときは解任に至った具体的な事実関係が非常に重要となります。

 

正当な理由の例

 ①職務遂行上の不正行為や法令・定款違反行為

 

 ②心身の故障

 

 ③職務への著しい不適任(著しい能力の欠如)

 

 ④独断的な職務遂行

 

(⑤経営判断の失敗(争いあり))

 

【「正当な理由」は会社が立証する必要がある】

 

 なお、このような「正当な理由」は、取締役等を解任する会社がその存在を立証する必要があります。

 

 

 以上のように、会社が任期途中で取締役等を解任した場合、後日、損害賠償請求を受ける可能性がありますので、会社が解任を検討するときは、訴訟に耐えうるだけの材料を質・量ともに揃えられるかどうかを事前に必ず検討し、危ういときは任期満了まで待つことも必要な対応となります。

 

 これに対して解任された側としては、解任に「正当な理由」がないと考えるときは損害賠償請求をするかどうかを検討することになりますが、上記の通り「正当な理由」の判断は難しいところですので、必要に応じて弁護士へのご相談をお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2021年7月12日 | カテゴリー : 企業法務 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

養育費の一括請求はできるのか?

 

 離婚の際、あるいは離婚後に養育費の合意をする際、養育費を一括で支払ってほしいという希望が出ることがあります。

 

 今回は、このような養育費の一括請求が可能かどうか、という点についてお話しします。

 

一方の意思だけで養育費の一括請求は難しいが、合意があれば問題なく可能

 

 養育費は一定の時期ごとに発生する定期金としての性質を有しているため、権利者側が一括で支払ってほしいと請求しても、裁判所が判断する審判や判決では、一定期間ごとに支払いをするよう命じられることが一般的です。

 

東京高裁昭和31年6月26日決定

「元来未成熟の子に対する養育費は、その子を監護、教育してゆくのに必要とするものであるから、毎月その月分を支給するのが通常の在り方であつて、これを一回にまとめて支給したからといつてその間における扶養義務者の扶養義務が終局的に打切となるものでもなく、また遠い将来にわたる養育費を現在において予測計算することも甚だしく困難であるから、余程の事情がない限りこれを、一度に支払うことを命ずべきでない。」

 

 なお、【長崎家裁昭和55年1月24日審判】は、①養育費の義務者が外国人であり、時期は未定だが将来母国に帰国する予定であること、②子どもが自分の子であることは認めているが、自分が子どもを引き取らない限りは子どもを自分の戸籍に入籍させるを拒否している、といった事情から、相手方が将来にわたって養育料の定期的給付義務の履行を期待し得る蓋然性は乏しいと指摘し、このような場合には一括払いを認める特段の事情があるとして一括での支払いを命じています。

 

 そのため、これに近いようなケース、例えば義務者が子どもとの親子関係を争い、裁判所で親子関係が認められた後も認めずに養育費の支払いを拒否しているような場合などであれば、養育費の履行を期待しうる蓋然税は乏しいとして例外的に一括払いが命じられる可能性はあるのではないかと考えます。

 

 もっとも、ここでお話ししたことは、あくまで審判や判決など裁判所が支払いを命じる場合ですので、当事者双方が合意すれば養育費を一括で支払ってもらうことは問題なく可能です。

 

養育費の一括払いを合意するときの金額はどうやって決める?

 

 合意によって養育費を一括払いする場合、次の問題は、いくらを支払ってもらうかです。

 

 この点は当事者間で協議するほかありませんが、一応の方法として、合意時点における双方の収入と子どもの人数と年齢をもとに、いわゆる「簡易算定表」に当てはめ、これによって算出された月額に子どもが成長するまでの月数分を乗じるという方法が考えられます。

 

 なお、このような場合、本来であれば将来受け取るべき金額を前もって受け取ることになりますので、単純に【月額×支払月数】で計算するのではなく、将来受け取るべき分について中間利息を控除するなどして金額を減らすことを検討事項にすることもあります(先ほど紹介した長崎家裁の審判ではそのような計算をしています。)。

 

 もっとも、一括払いを検討する場合には、そのような減額計算をするかどうかも含めて当事者が話し合いによって決めるものであり、協議の結果合意に至った以上、中間利息の控除計算等をしないまま金額を決めたからといって、それがただちに不当であり合意が当然に無効になるとは言い切れませんので、支払う側は注意が必要と思われます。

 

 中間利息を控除する計算等をした場合、支払総額で考えると、毎月定期金で受け取った場合に比べて受け取れる金額がその分少なくなりますが、他方で養育費が途中で支払われなくなるリスクを避けられますので、一括払いの合意をするときに減額の有無が問題になったときは、総額を重視するか(→定期金払い)、不払いリスクを重視するか(→一括払い)によってとるべき結論が変わることになります(そのほかにも、贈与税が課されるかどうかの事前検討も必要です)。

 

 いずれにしても、養育費の合意をするときは、そのような支払方法の問題のほか、そもそもの金額の妥当性や支払いの終期なども問題となることがありますので、協議が難航しそうなときや実際に難航したときは専門家へのご相談をお勧めします。

 

 弁護士 平本丈之亮

 

不貞行為に基づく慰謝料と自己破産

 

 不貞行為に基づく慰謝料請求をしたところ、稀に不貞相手が自己破産をしてしまうことがあります。

 

 不貞行為をされた側としては、自己破産によって責任を免れることには納得がいかないのが通常と思いますが、このような慰謝料は自己破産によって免責の対象となるのでしょうか?

 

慰謝料は自己破産による免責の対象となるのか?

 

 自己破産による免責の対象は、裁判所における破産手続開始決定前の原因に基づいて発生した債権(破産債権)ですが、自己破産の申立前に行われた不貞行為に基づく慰謝料請求権は破産債権にあたるため、基本的には自己破産の免責の対象となります。

 

免責されない「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」の意味

 

 もっとも、破産法では、自己破産によっても責任が免除されない「非免責債権」が規定されていますので、不貞行為に基づく慰謝料の請求権が非免責債権に該当すれば、たとえ自己破産をしても責任は免れないことになります。

 

 破産法上の非免責債権のうち、慰謝料が該当するかどうかが問題となるのは、破産法253条1項2号に定める「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」ですが、ここでいう「悪意」とは、法律の世界での一般的な「悪意」、つまりは何かを知っていること(=故意)ではなく、他人を害する積極的な意欲、すなわち「害意」をいうものと解されています。

 

 このような解釈を前提にすると、不貞行為者に「悪意」があったといえるためには、単に不貞行為の相手が既婚者であることを知っているだけでは足りず、家庭の平和を侵害するべく婚姻関係に不当に干渉するような意図が必要であることになります(下記裁判例参照)。

 

東京地裁令和2年11月26日判決

「破産法253条1項2号は、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」を非免責債権とする旨を規定しているところ、同号にいう「悪意」は、単なる故意ではなく、他人を害する積極的な意欲、すなわち「害意」をいうものと解するのが相当である。ここで、不貞行為が不法行為となるのは、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであることに鑑みると、夫婦の一方と共に不貞行為を行った者が、当該夫婦の他方が有する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するとの認識を有するだけでは、故意が認められるにとどまる。このような者に害意を認めるためには、当該婚姻関係に対し社会生活上の実質的基礎を失わせるべく不当に干渉する意図があったことを要するものというべきである。」

 

慰謝料は免責の対象となる可能性がある

 

 このように、慰謝料請求権が非免責債権に該当するかどうかは不貞関係当時の不貞相手の主観によりますが、不貞行為に及んだ者がことさらに結婚関係を破壊する意図を持っていたことを立証することは容易ではないため、実際上、慰謝料請求権が非免責債権に該当すると判断されるケースはあまり多くはないように思われます(上記判決でも、そのような害意があったとまでは認められないとして、不貞行為者側からの破産免責の抗弁が認められています)。

 

慰謝料を請求する際の注意点

 

 以上ご説明したとおり、たとえ慰謝料請求権があるといっても、相手に自己破産されてしまえば免責されてしまうことがあります。

 

 慰謝料を請求する場合、許せないという気持ちから高額な請求をしたり強硬な態度を取りがちですが、相場からかけ離れた金額に固執したり、あるいは相手の支払能力に疑問があるのに高額な金額の一括払いしか応じないなどの対応に終始した場合、必要以上に相手を追い詰めて自己破産されてしまうリスクが生じます。

 

 したがって、慰謝料を請求する場合には、相手に対する情報(収入・社会的地位・財産状況など)をもとに自己破産されてしまう可能性がどの程度あるのかを見極めることが重要であるほか、慰謝料額は妥当な金額にとどめたり、相手の経済状況如何では分割払いも検討するなどの柔軟な対応を検討する必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮

裁判で不倫関係をやめるよう請求することはできる?

 

 不貞に関するご相談を受けていると、慰謝料の請求をしたいという内容のほか、不倫相手に対して配偶者との不倫関係をやめるよう裁判で請求できないかというご質問を受けることがあります。

 

 では、そのような不倫関係の中止を裁判で求めることはできるのでしょうか?

 

・理論的には不可能ではないが、現実的にはなかなか困難

 

 このような差止請求については、実際にその可能性について言及した裁判例(大阪地裁平成11年3月11日判決)がありますが、不貞相手に対して配偶者との同棲や面会を差し止めるよう求めたこのケースにおいて、裁判所は、面会することはそれ自体違法とはいえないとして否定し、同棲についても下記の通り厳しい条件をつけた上で差止請求を否定しています。

 

大阪地裁平成11年3月11日判決

「差止めは、相手方の行動の事前かつ直接の示止という強力な効果をもたらすものであるから、これが認められるについては、事後の金銭賠償によっては原告の保護として十分でなく事前の直接抑制が必要といえるだけの特別な事情のあることが必要である。
 そこで、本件におけるそのような事情の有無についてみると、原告と○○は婚姻関係こそ継続しているものの、平成一〇年五月ころから○○は家を出て原告と別居しており、原告に居所を連絡してもいない。これに加えて、先に認定した経緯をも考慮すると、両者間の婚姻関係が平常のものに復するためには、相当の困難を伴う状態というほかない。そして、原告もまた○○との離婚をやむなしと考えてはいるものの、○○が被告と同棲したりすることはこれまでの経緯から見て許せないということから○○との離婚に応じていないのである。
 そうすると、今後被告と○○が同棲することによって、原告と○○との平和な婚姻生活が害されるといった直接的かつ具体的な損害か生じるということにはならない。同棲によって侵害されるのはもっぱら原告の精神的な平和というほかない。このような精神的損害については、同棲が不法行為の要件を備える場合には損害賠償によっててん補されるべきものであり、これを超えて差止請求まで認められるべき事情があるとまでは言えない。

 

 この判決の枠組みにしたがった場合、配偶者と不貞相手が同棲することによって、他方配偶者が精神的な平和以外に何らかの直接的かつ具体的な損害を受けるときは差止が認められ得るとは一応言えそうですが、具体的にどのようなケースが考えられるかというとなかなか難しく、実際に認めてもらうにはかなり高いハードルがあるように思われます(ちなみに、今回紹介した裁判例以外に、不貞行為の差し止めについて判断した裁判例は見つけられませんでした)。

 

 

・差止請求ができなくても、不倫関係の解消を求めることには意味がある

 

 もっとも、仮に差止請求が認められなくても、不貞相手に不倫関係を解消するよう求めたにもかかわらず相手がこれを無視して関係を継続したときは、そのような態度は慰謝料の増額事由として考慮してもらえる可能性がありますので、関係解消を求めることには意味があると思います。

 

 また、裁判で差止ができなくても、示談交渉や裁判所での和解協議の中で双方が納得して合意できれば、配偶者との接触禁止条項を設けることを通じて不貞関係をやめてもらえることもありますので、慰謝料の請求と併せてそのような条項を希望するときは専門家へ御相談いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

2021年6月21日 | カテゴリー : 慰謝料, 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

自転車が路外から道路を横断し、直進する四輪車と接触した場合の過失割合~交通事故㉖~

 

 以前、同一方向に進行する自転車と四輪車の接触事故に関する過失割合についてご紹介したことがありましたが、今回は、自転車と四輪車との接触事故のうち、自転車が路外から出て道路を横断しようとした際、直進してきた四輪車と接触した事故の過失割合について、別冊判例タイムズ38号をもとに説明します。

 

典型的な事故状況

【基本の過失割合】

【自転車:自動車=30:70】

 

過失割合の修正要素

 以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【夜間に起きた事故の場合】

自転車に対して+5% 

 夜間は見通しが悪くなりますが、自転車側からは前照灯をつけた自動車は発見しやすく、他方、四輪車からは自転車の発見が必ずしも容易ではないため、自転車側の過失が加重されます。

 

 なお、「夜間」とは、日没時から日の出までの時間をいいます。

 

【幹線道路で事故が起きた場合】

自転車に対して+10% 

 「幹線道路」とは、歩車道の区別があり、車道幅員が概ね14メートル以上(片側2車線以上)で、車両が高速で走行する通行量の多い国道や一部の都道府県道などが想定されています。

 

 このような道路では、路外から自転車が進入する際、自転車は通常の道路に比べて直進車の動静により強く注意を払うべきであり、他方で直進する四輪車は接触を回避する余地が少ないため、自転車側の過失が加重されます。

 

【直前直後横断の場合】

自転車に対して+10% 

 少し分かりにくい表現ですが、要するに、自動車が通り過ぎる直前に道路に出たり、自動車が通り過ぎた直後に道路に出たことで事故が起きた場合です。

 

 このような横断行為は非常に危険な行為であるため、その分、自転車側の過失が加重されます。

 

【自転車の「著しい過失」・「重過失」】

自転車に+10~20%

 自転車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 

自転車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①酒気帯び運転(※1)

 

②2人乗り

 

③無灯火

 

④並進(※2)

 

⑤傘を差すなどの片手運転 

 

⑥脇見運転等の著しい前方不注視

 

⑦携帯電話等で通話しながらの運転や画像を注視しての運転 など

 

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

※2 複数の自転車が並んで走行すること

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②いわゆる「ピストバイク」など制動装置の不良 など

 

 なお、高速走行している自転車(原動付自転車の制限速度である時速30㎞程度)については、もはや自転車ではなく単車として扱われ、別の基準が適用されることとされています。

 

 

【児童等・高齢者が自転車に乗っていた場合】

自転車に対して-10%

 児童や高齢者は交通弱者であり保護すべき必要性が高いため、自動車側がより注意するべきであると考えられるためです。

 

 なお、「児童等」とは概ね13歳未満の者を言い、6歳未満の幼児も含みます。

 

「高齢者」とは、概ね65歳以上の者を意味します。

 

【自転車が自転車横断帯を通行していた場合】

自転車に対して-20~25% 

 「自転車横断帯」とは、道路標識等により自転車の横断の用に供するための場所であることが示されている部分をいいますが、ここから若干外れていても、概ね1~2メートル以内の場所を通行していた程度であれば、自転車横断帯を通行していた場合と同視して良いとされています。

 

【自転車が横断歩道を通行していた場合】

自転車に対して-15~20% 

 自転車横断帯がなく横断歩道しかない場所でも、そのような場所を通行する場合、自転車は横断歩道によって横断した方が安全と考えて通行する実情があり、自動車は歩行者と同様に注意してくれるであろうと期待して通行していることから、自転車横断帯ほどではないにしても、自転車側の過失割合が減算されます。

 

【自動車の「著しい過失」・「重過失」】

自転車に対して-10~20%

 自動車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり自転車側の過失割合が減算(自動車側に加算)されますが、その程度には幅があることから、修正要素にも幅がもたされています。

 

自動車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①脇見運転などの著しい前方不注視

 

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

 

③概ね15㎞以上30㎞未満の速度違反

 

④酒気帯び運転(※) など

 

※ 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②居眠り運転

 

③無免許運転

 

④概ね時速30㎞以上の速度違反 など

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

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寺院等に支払った永代供養料は、中途解約によって返還してもらえるのか?

 

 お墓にまつわる契約の中に、遺骨や遺品の永代供養を寺院や霊園に依頼するというものがあります。

 

 このような永代供養も寺院等との間における契約の一種ですが、永代供養は長年にわたって遺骨等を供養をしてもらうことを内容とするものであるため、契約時に高額の永代供養料をまとめて支払うことがあります。

 

 もっとも、当初はその寺院等に永代供養をお願いするつもりであったものの、途中で事情が変わってしまい永代供養の契約を中途で取りやめたいという場合もあり、そのような場合に先払いした永代供養料の返還を巡ってトラブルとなるケースもあります。

 

中途解約によって、永代供養料の返還を求めることはできるのか?

 この点については裁判例があり、永代供養の契約は法的には「永代供養」という役務提供を行うことを約する準委任契約であるとして、民法651条によっていつでも中途解除することができると判断されたものがあります(東京地裁平成26年5月27日判決、大阪地裁令和2年12月10日判決)。

 

 もっとも、このような裁判例を前提にしたとしても、準委任契約の解除の効力は将来の部分にのみ生じることから、最終的に返還を求めることができる範囲は未履行の部分に限られます。

 

 そして、上記裁判例を前提とすると、対象者がお亡くなりになって既に永代供養が始まった後に解除する場合には、契約時に支払った永代供養料の全額ではなく、そのうちの一部のみが返還されることになります(上記東京地裁判決も同様の考えに立っていますが、このケースでは生前に解除しているため全額の返還請求が認められています)。

 

永代供養料の不返還特約があった場合は?

 寺院等と個人との間で締結された永代供養に関する契約は消費者契約にあたるため、いったん支払った永代供養料は一切返還しないとの特約は消費者契約法第9条1号の適用を受けることになります。

 

 消費者契約法第9条1号は「解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」内容の契約条項を無効としていますが、上記大阪地裁判決では、解除の時期が具体的な役務提供等を受ける前の段階であったことから、返還しない旨の規定は平均的損害を超える内容の契約条項にあたり無効と判断しています。

 

 なお、上記大阪地裁判決のケースは、納骨堂で遺骨等を保管する契約と永代供養の2つの契約が混合したものであると認定されていますが、寺院に支払った額の中には、①納骨堂の利用や供養に対する報酬部分のほかに、②納骨堂を利用して供養を受けることができる地位を付与されて宗教的感情を満足させる効果が生じたことに対する対価部分の両方が含まれているとして、②の部分は地位取得に対する対価であるから解除によっても返還義務は生じないと判断し、支払った額全体の7割の限度で返還請求が認められています(裁判所は、納骨堂での保管契約は諾成的寄託契約に該当し、民法第662条に基づいていつでも解約可能、永代供養は先ほど述べたとおり準委任契約に該当するため民法651条によって解約可能、としています)。

 

 

 永代供養料は高額になることもあり、上記のような裁判例が存在するように解約に伴ってトラブルになることがありますので、永代供養をお願いする場合には途中で解約するようなことがないかを慎重に検討する必要があり、また、途中で解約した場合は永代供養料の返還についてどのような処理がなされるのかをあらかじめ寺院等に確認しておくことをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

2021年6月12日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所