不貞相手が配偶者と接触するごとに違約金を支払うとの合意について、婚姻関係破綻後の接触に関する違約金の請求は権利濫用と判断したケース

 

接触禁止条項・違約金条項とは

 

 不貞行為が発覚した場合、不貞行為者との間で、今後は配偶者と連絡を取り合ったり接触しないことを約束し(接触禁止条項)、この約束に違反した場合に違約金を支払うと合意することがあります(違約金条項)。

 

 このような接触禁止条項と違約金条項は再度の不貞行為を防ぐ目的で設けるものであり、合意の時点では夫婦関係を再構築することを予定している場合が多いように思われます。

 

 しかし、不幸にして夫婦関係の再構築ができずに破綻し、その間、不貞相手が配偶者と連絡を取り合っていたような場合、この違約金条項に基づいてどこまで請求できるのかが問題となることがあり、この点について請求の一部が権利濫用になると判断した近時の裁判例がありますので(東京地裁令和4年9月22日判決)、今回はこれをご紹介したいと思います。

 

 

東京地裁令和4年9月22日判決

登場人物

 

X:原告・Aの配偶者

Y:被告・Aと交際

A:Xの配偶者

 

問題となった条項

 

<接触禁止条項>

 Yは、Xに対し、今後Aとの交際をやめ、正当な権利を行使する場合及び業務上の必要がある場合を除き、Aと連絡・接触しないことを約束する。

 

<違約金条項>

 Yが上記の約束に違反したときは、違約金として1回あたり30万円をAに対し支払うものとする。

 

→XはYが上記約束に反したとして違約金を請求したところ、Yは以下のように主張して請求を争った。

 

Yの主張(争点)

 

<争点1 公序良俗違反により無効>

 合意書作成当時、XとAの婚姻関係は破綻しており、違約金条項が前提とする保護法益である婚姻関係の平穏がなかったから違約金条項は公序良俗に反し無効である。

 

<争点2 権利濫用>

 仮に合意書作成時点でXとAの婚姻関係が破綻していたとは認められないとしても、その後、遅くともAがXに離婚を申し入れた時点では婚姻関係は破綻しており、違約金条項が前提とする保護法益がなかったから、同時点以降の違約金条項に基づく権利行使は濫用である。

 

※ほかにも違約金の発生する条件である「1回」の意味についても争いがありましたが、ここでは割愛します。

 

裁判所が認定した事実関係の概要

 

①AはYとの不貞がXに発覚した後に一度自宅を出たが、その後、自宅に戻り、合意書作成当時、XとAは同居していた。

 

②今後交際をやめるなどという合意書の文言からは、XとAの婚姻関係が破綻していないことが前提とされていたと考えるのが合理的

 

③合意書作成当時、YもAとの不貞関係を解消し合意事項を遵守する意思はあったと供述しており、XとAの婚姻関係が破綻していないことを前提に本件接触禁止条項を承諾したものと推認できる。

 

④合意書作成の翌日からAとYはLINEでやりとりをするようになった。

 

⑤合意書作成から数か月後、Aは週末に外出するなどするようになり、Xに離婚したいと伝えた上で自宅の上にある事務所で生活するようになったほか、その後に代理人を通じてXに離婚の意向を通知し、別のところに転居するなどした。

 

争点に対する判断

 

<争点1に対する判断>

合意書の作成当時、XとAの婚姻関係が破綻していたとはいえず、違約金条項が前提とする保護法益である婚姻関係の平穏がなかったとはいえない。

 

→違約金条項は有効。

 

<争点2に対する判断>

その後、Aは離婚したいと述べて家を出て再度の別居に至り、それ以後は一貫して別居及び離婚する意向を示しているから、Xが離婚を申し出た時点でXとAの婚姻関係は破綻した。

 

→違約金条項が前提とする保護法益(婚姻関係の平穏)は遅くとも離婚を申し出た時点で失われており、同日以降の違約金条項に基づく権利行使は権利濫用となる。

 

 以上のとおり、上記裁判例では、接触禁止条項に反した場合の違約金条項について、違約金条項そのものは有効ではあるものの、夫婦関係が破綻したあとの接触に対して違約金を請求することは権利の濫用として認められないと判断しています。

 

 接触禁止条項と違約金条項を組み合わせた形で合意する場合、上記裁判例も述べるとおり婚姻関係の平穏を守る目的であるのが通常と思われますので、一度は再構築に向けて努力したものの何らかの理由によって婚姻関係が破綻してしまった場合、この条項によって守るべき法的利益が失われてしまった以上、それ以降は違約金の発生を認める必要はないというのが上記裁判例の結論と思われます。

 

 なお、似たようなものとして、不貞行為そのものを行った場合に違約金を支払うという合意をすることもありますが、そちらのケースについても今回紹介した裁判例と同様の判断を下した裁判例がありますので、不貞行為に関連して違約金条項をもうけて実際に請求するときには、このような判断があることにも注意を払う必要があります。

 

2023年12月21日 | カテゴリー : コラム, 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所