次に不貞行為をしたら慰謝料を支払うという合意の有効性

 

 配偶者の不貞行為が発覚した場合に、将来の不貞行為を防止する目的で、今後不貞行為に及んだ場合には慰謝料として一定額を支払うと約束をする(させる)ことがありますが、今回はこのような合意の有効性についてお話ししたいと思います。

 

公序良俗との関係

 

 民法第132条は不法な条件を付した法律行為は無効と定めており、古くには不貞行為をしたことを慰謝料の支払条件することがこれにあたるのではないかと争われたケースもあります。

 

 しかし、浦和地裁昭和26年10月26日判決は、このような合意について、不貞行為に及んだことを慰謝料支払いの条件とすることはその条項に不法の性質を与えるものではなく、公序良俗その他強行法規に違反するものでもないとして有効としており、その後の裁判例でも、単に合意が有効かどうかという二者択一的なアプローチではなく、その合意の内容が著しく過大であり公序良俗に違反するかどうかという見地から、個々の事案に即してどこまでの範囲で有効といえるかが検討されているように思われます。

 

 たとえば、東京地裁平成17年11月17日判決は、不貞相手との間において今後不貞行為をしたときは5000万円を支払うと合意をしたケースについて、不貞行為の態様、資産状況、金銭感覚、その他本件の特殊事情を十分に考慮しても、なお相当と認められる金額を超える支払いを約した部分は民法90条によって無効であるとし、不貞相手である被告が自ら金額を提示したことや同人にかなりの資力があったこと、不貞行為を解消する旨を誓約しておきながらこれを破り原告の配偶者を家出させて同棲に及ぶなど違法性が強いといった事情から、1000万円の限度で合意の有効性を認めています。

 

 他方、近時の裁判例(東京地裁平成29年10月17日判決)では、内縁関係が10年程度継続した内縁の夫婦間において、その内縁期間中にパートナーの一方が不貞行為に及んだときは500万円を支払うと合意していたケースで、不貞行為の結果、内縁関係が破壊されたような場合であれば500万円という金額が過大であるとまでは認められず、一部について無効をきたすことはないとしてパートナーに対する請求を全額認めたものがあります。

 

どこまで有効かはケースバイケース

 

 以上のように、不貞行為に及んだことを支払条件とした慰謝料の合意の有効性については、悪質性の程度や、合意後の不貞行為によって夫婦関係がどの程度悪化したのか、不貞行為者の資産状況、といった各種事情から具体的に検討・判断される傾向にあるため、当初合意した金額がそのまま有効と判断されるとは限りません。

 

 また、仮にこのような合意をしたとしても、合意をする際に相手に対する脅迫等の行為があった場合には、金額の妥当性を問わず合意自体が全体として無効となる場合もありうるところです。

 

 脅迫によって無理やり合意をさせることは論外ですが、そのような不当な行為がなければ、東京地裁平成29年10月17日判決にみられたように500万円という比較的高額の合意が有効と判断されたケースもありますし(合意がない場合に裁判で500万円が認められるのは稀なケースではないかと思われます。)、将来の不貞行為の防止を主たる目的とするのであれば、有効性はともかく合意をしておくこと自体に意味がある場合もあると思われます。

 

 いずれにせよ、このような合意をするときはパートナーや不貞相手が合意を反故にした場合を想定して明確に取り決めをしておく必要があると思いますし、合意をする際の交渉のやり方や金額の面で社会的に相当な範囲にとどめておくことが合意後の紛争防止の観点からも望ましいと思われますので、合意を書面化する前には一度弁護士に相談なさることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2022年11月24日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所