不貞相手に対する慰謝料請求の際、不貞行為を行った配偶者が虚偽の書面を作成したことが、他方配偶者に対する不法行為にあたると判断されたケース

 

 不貞行為に基づく慰謝料は不貞行為に及んだ者に故意・過失があってはじめて請求できるものであるため、もしも交際当時、その者が、交際相手が既婚者であることを知らず、知ることもできないような状況だったときには、故意・過失がなく責任を負わないことになります。

 

 そのため、不貞相手に対して慰謝料の請求をする場合、不貞行為の存否の立証のほかに、不貞行為時における婚姻関係の認識(既婚者であることを知っていたかどうか)や交際当時の状況(既婚者であることを知ることが容易であったかどうか)が問題となることがあります。 

 

 もっとも、このような点については単独での立証が困難な場合も多いため、不貞行為を働いた配偶者の供述に頼らざるを得ないこともしばしばであり、不貞行為を行った配偶者の陳述内容は交際相手に対する慰謝料請求をする上で重要な証拠となります。

 

 今回は、不貞をされた側が不貞相手である交際相手に慰謝料請求をしたところ、不貞行為を行った配偶者が虚偽の書面を作成したというケースにおいて、そのような虚偽の書面を作成したことが、他方配偶者との関係で不法行為に該当すると判断した裁判例をご紹介します。

 

東京地裁令和3年1月21日判決

 このケースは、配偶者の一方(A)が他方配偶者(B)に不貞の事実を認め、自分が既婚者であることは交際相手(C)には伝えていたとBに述べていた、という事実関係を前提に、他方配偶者(B)が交際相手(C)に対して不貞慰謝料の請求をしたところ、不貞行為を行った配偶者(A)が、交際当時、自分は離婚していて独身であると偽っていたので交際相手に責任は一切ないと考えているという趣旨の書面を作成し、交際相手(C)の代理人弁護士に対して送付したという事案です。

 

 このケースにおいて裁判所は、まず、Aが、この書面を作成する前に他方配偶者(B)に対して陳述していた内容(自分が既婚者であることはCにも伝えていたという内容)の信用性を検討し、それが自己に不利益な内容を自認するものであって信用できると判断し、この陳述に矛盾する内容のAの書面は虚偽の内容を述べるものである、と認定しました。

 

 そして、そのような事実認定を前提に、交際相手(C)の代理人弁護士宛の虚偽内容の書面を作成したことについて,不貞行為における故意の立証は不貞当事者間の密室における言動によって多分に左右されると考えられるから、この点に関して虚偽の内容を記載した書面を作成することは、配偶者(B)の交際相手(C)に対する不貞行為に関わる損害賠償請求権の行使を困難にするものとして不法行為に該当する、と判断して慰謝料の支払いを命じました。

 

 不貞行為の責任を追及される者と虚偽の主張や虚偽の証拠を提出する者は一致することが多いため、そのことは不貞慰謝料の金額の増額要素として主張するにとどめ、虚偽主張等をしたこと自体について損害賠償責任を追及するケースは少ないのではないかと思われます。

 

 このケースは、以前に述べた内容を翻し、交際相手への慰謝料請求を妨害する虚偽の書面をあえて積極的に作成したという点で特に悪質性が強いように感じられるため、果たして虚偽主張等一般に妥当する判断といえるかは不明ですが、不貞行為当時の既婚者の認識の立証に関連して虚偽の内容の証拠を作成したことが慰謝料請求者との関係で違法性を帯びることがあると示したものであり、証明妨害行為に対して慰謝料という形で制裁が課されることがあると判断した例として興味深いため、ご紹介した次第です。

 

弁護士 平本丈之亮

2021年9月1日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所