不貞行為を1回するごとに違約金を支払う旨の合意について、不貞行為の時に婚姻関係が破綻していた場合には効力がないと判断したケース

 

 不貞行為が発覚した場合、不貞相手に対して慰謝料を請求することがありますが、そのほかにも、今後、不貞行為に及ばないことを誓約させ、その約束を破った場合には一定の違約金を支払うことを合意することがあります。

 

 このような違約金の合意もあまりにも高額でない限りは有効と判断される傾向があると思われますが、他方で、このような合意を交わした後、時をおいて再び性的関係を結んだという場合に、合意に基づき違約金を支払う義務が生じるかどうかについては別途検討する必要があります。

 

 というのも、不貞行為に基づく慰謝料は婚姻共同生活の平和の維持という利益を侵害されたことに基づく責任であり、たとえ既婚者と性的関係を結んだとしても、その当時、既に婚姻関係が破綻していたときは慰謝料の支払義務は負わないとされているため(いわゆる破綻の抗弁)、違約金の合意をした後で夫婦関係が破綻してしまい、その後になって性的関係を結んだという場合、違約金の合意によって保護すべき法的利益は既になくなっているのではないかとも思われるからです。

 

 そして、この点が問題となった東京地裁令和2年6月16日判決は、以下のように述べて、婚姻関係破綻後については、このような違約金の合意は無効と判断しています。

 

東京地裁令和2年6月16日判決

「本件違約金条項は、被告と○○との不貞行為が原告の権利ないし法益を侵害することを前提とするものであるところ、不貞行為時において、既に婚姻関係が破綻していた場合には、それにより原告の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法益が侵害されたとはいえず、特段の事情のない限り、保護すべき権利又は法益がないというべきである。そうすると、本件違約金条項のうち、原告と○○の婚姻関係破綻後について定めた部分は、公序良俗に反し無効と解するのが相当である。」

 

 なお、このような違約金の合意は損害賠償の予定と推定され、従前の民法では、裁判所はこのような合意に基づく金額を増減させることができないとされていましたが(旧民法420条1項)、実際には裁判所が公序良俗違反を理由として合意に基づく違約金の請求を制限するケースがあったことから、改正後の民法420条1項ではこの部分が削除されています(なお、上記判決とは事実関係は異なりますが、違約金があまりも高額すぎるとして合意を一部無効としたものとして、東京地方裁判所平成17年11月17日判決があります)。

 

 そのため、違約金の合意の効力について公序良俗に反するか否かという観点から判断しているこの判決は特に目新しいものではありませんが、不貞に関係する違約金の合意の効力を判断する際に婚姻関係の破綻の有無を判断要素としている点は興味深いところです。

 

 この判決のような結論をとると、「再び不貞関係を結んだ場合は違約金を払う」という合意には意味がないようにも思えますが、そもそも、このような合意をするということは、一応、夫婦関係をやり直そうとするケースであると思われます。

 

 そうすると、違約金の合意をした後、別居もせずに一緒に住んでいたようなケースであれば、婚姻関係が破綻したとまではいえないと思われますので、その後に再び不貞関係を結んだ場合には、当初の合意に基づいて違約金の支払義務があると判断される可能性は十分にあるように思います。

 

 他方で、不貞行為が発覚した後にすぐに別居してしまい、数年後に夫婦間で離婚調停や訴訟が係属するようになってから再びそのような関係になったというようなケースであれば、この判決の考え方によれば、過去に結んだ違約金の合意に基づく請求までは認められないのではないかと考えられます(もちろん、当初の不貞行為に基づく慰謝料請求ができることは別論です)。

 

 このように、不貞行為発覚後に違約金の合意を結ぶ場合にはその効力を巡って後に紛争になることがありますので、くれぐれも注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

2021年9月7日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所