最近の裁判例に見る婚約破棄の慰謝料

 

 男女間のトラブルの中で比較的多いものとして、婚約を破棄された、あるいは婚約中に相手方に不誠実な行為があり婚約を解消せざるを得なくなったというものがあります。

 相手方の婚約破棄に正当な理由がない場合や婚約中の不誠実な行為によってこちらから婚約を破棄せざるを得なくなった場合、慰謝料を請求できることがありますが、今回は実際の裁判の中でどの程度の金額が認められる可能性があるのかなどについて、近時の裁判例をご紹介したいと思います。

 

東京地裁平成28年3月25日判決

 【慰謝料】 

 200万円

 【判決で指摘された事項】 

①婚約破棄に至った経緯(※)

②婚約破棄によって原告が体調を崩し、職場において注意散漫になっていると指摘されるなど原告に深い精神的苦痛を与えていること

 

※どのような事実を算定の上で重視したかは判決文からは判然としないものの、結婚式と披露宴を開催し、一旦同居を開始したこと、その後の話し合いの中で、被告は結婚式の前から原告と添い遂げる気持ちがなくなっていたことや、それにもかかわらず結婚式・披露宴の中止や延期は考えていなかった、という事情が認定されている。

東京地裁平成28年10月20日判決

 【慰謝料】 

 30万円

 【判決が指摘された事情】 

①原告が被告の婚約破棄後、自殺を図ったこと

②婚約破棄当時、原告と被告が婚姻生活と同等の相互扶助、協力関係に入っていたとまで評価しうる事情はないこと

③原告と被告は、被告の婚姻中の不貞行為から発展して婚約に至ったものであり、原告の婚姻成就に対する期待権は、被告とその元配偶者の婚姻秩序を侵害しつつ発生したものと言わざるを得ないこと

④原告が自殺未遂に及んだり失職したことは認められるが、社会通念上、婚約を破棄された者が自殺に及ぶことや失職を余儀なくされることが通常であると評することはできないこと(自殺や失職について受けた精神的損害については、加害者側がそのような事態が発生することについて予見していたか予見できたことの主張立証が必要であること)

東京地裁平成28年11月1日判決

 【慰謝料】 

 50万円

 【判決で指摘された事情】 

①被告は、原告と婚約をしていたにもかかわらず、他の男性と男女間の愛情を前提とした交際をし、それ以外にも少なくとも3件のデートクラブに登録して不特定多数の男性との交際を求めていたこと
②原告と被告の関係は、婚約期間はわずか1か月程度、交際期間もわずか3か月程度という非常に短いものであったこと

③原告及び被告は、両親や友人に対して婚約した旨を報告していたものの結納をしておらず、結婚式場の予約もしていなかったこと

④原告は、被告が他の男性と交際しまたはデートクラブに登録するなどしていることが判明するや、被告との関係を修復しようと試みることなく直ちに本件婚約解消を申し入れており、原告被告間の婚約関係がそれほど強固なものであったとまでは認められないこと

 

※被告は原告との間で婚約が成立しており,ほかの男性との間で男女間の愛情を前提とした交際をしてはならない義務を負っていたとして、その義務に違反したとして慰謝料の支払いが命じられたケース。

東京地裁平成28年11月14日判決

 【慰謝料】 

 150万円

 【判決で指摘された事情】 

①原告が被告の子を出産して婚約したこと

②原告は、婚約後に仕事で多忙になったため、一度、被告から婚約解消の申出を受けたが、その後、再び婚約し、さらに再度婚約を破棄されているところ、2度目の婚約破棄の時点では原告被告間の関係は必ずしも強固なものとはいえない状態となっていたこと

③被告は、原告が多忙になり会う機会が減ったことに寂しさ等を覚えて他の女性と交際し、原告との婚約を一旦破棄したが、その後撤回した。すると、今度は交際していた他の女性から職場で問題にすることや慰謝料を請求することなどを告げられたため、退職を余儀なくされることを恐れて自己保身のため再び婚約を破棄したこと

④被告は、調停を起こされるまでの間、原告と被告との間の子どもの認知を拒んだこと

東京地裁平成29年12月14日判決

 【慰謝料】 

 200万円

 【判決で指摘された事情】 

①原告と被告との同居期間が約3年という長期にわたっており、その間、両者は親密な男女関係を継続していたこと

②同居期間中、原告は2回にわたり妊娠し、人工妊娠中絶を行っていたこと

③被告の婚約破棄を正当化しうる事情はみあたらず、原告には非難に値するような言動等があったとも認められないこと

東京地裁平成30年2月27日判決

 【慰謝料】 

 100万円

 【判決で指摘された事情】 

①原告が、被告の生活費や被告の配偶者への婚姻費用の支払いなど種々の事務を行い、それに伴い相当な出捐をしてきたこと

②被告が、原告と婚約関係にあった間、他の者と婚姻関係にあったこと

 

 以上、いくつかの裁判例をご紹介しましたが、これらの裁判例を見ると、交際や婚約の期間、結婚の実現に向けた対外的行動の有無(結婚式や披露宴、結納など)、同居の有無や期間、妊娠出産や中絶の有無、婚約解消に至る際の悪質性の程度、婚約解消後の対応、交際開始の経緯(不貞から発展した関係かどうか)などを考慮して精神的苦痛の度合いを判断していることが分かります。

 どの程度の慰謝料が妥当かは、結局のところ上記のような諸事情を考慮した上で判断せざるを得ませんが、婚約破棄を巡っては感情面での対立が激化しがちであり、金額の交渉を含め冷静な話し合いが困難なことがありますので、必要に応じ、専門家へのご相談をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年8月1日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

不貞にまで至らない男女間の交際等が不法行為になると判断されたケース

 

 男女間トラブルで典型的なものはいわゆる不倫問題ですが、相談をお受けしていると、「不倫」というキーワードは出てくるものの、実際には性交渉にまでは至っておらず不適切な交際にとどまっていたり、あるいは疑わしいが性交渉があったことの立証までは困難というケースがあります。

 もっとも、性交渉にまで至っていない場合であっても、ケースによっては不法行為として損害賠償を命じられる場合もあるため、今回は、この点に関する裁判例をご紹介します。

 

東京地裁平成28年9月16日判決

 この事案では、原告が、自分の配偶者と親密な関係にあった者(A)に対して慰謝料の請求をしましたが、裁判所は性交渉をもった疑いは払拭できないものの、そのような事実が存在したとまで認めるに足りる証拠はないとしました。

 しかし、これに続き、性交渉までは認められないとしても、Aと原告の配偶者が以下のような関係にあったことは社会通念上許容される限度を逸脱していたとして慰謝料の支払いを命じました。

 

裁判所が指摘した事実関係

・Aと配偶者は、携帯電話で頻繁に連絡を取り合い、2人で食事に出かけたりカラオケ店に入店したりしていたほか、休日に自動車で外出したりしていた。

・Aと配偶者は、腕を組んだり、手をつないだりして歩くこともあった。

・Aと配偶者の交際関係は1年半近くにわたって継続していた。

・2人は抱き合ったりキスをしたりしていたほか、Aが服の上から配偶者の身体を触ったこともあった。

 

東京地裁平成29年9月26日判決

 このケースにおいて、原告は、性交渉の存在を理由に慰謝料の請求をしたのではなく、「配偶者を有する通常人を基準として、同人とその配偶者との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流、接触」も不貞行為に含まれると主張し、配偶者(B)とLINEでやりとりをした複数の者に対して慰謝料を請求しました。

 これに対して裁判所は、このような原告の主張について以下のように述べ、一部の被告に対する慰謝料の請求を認めました。

 

「原告は、不法行為法上の違法を基礎付ける不貞行為は、性交渉及び同類似行為に限られず,配偶者を有する通常人を基準として,同人とその配偶者との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流,接触も含まれる旨主張するが、不貞行為とは、通常、性交渉又はこれに類似する行為を指し,原告主張の異性との交流,接触が不貞行為に該当するということはできず,採用できない。原告の主張は、不貞行為に該当しないとしても、上記婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流、接触も不法行為に該当すると主張する趣旨を含むものと思料されるところ、判断基準として抽象的に過ぎ、そのまま採用することはできないが、不貞行為が不法行為に該当するのは婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからであることからすると、原告主張の具体的事実について、その行為の態様、内容、経緯等に照らし、不貞行為に準ずるものとして、それ自体、社会的に許容される範囲を逸脱し、上記権利又は利益を侵害するか否かという観点から、不法行為の成否を判断するのが相当である。」

 

慰謝料請求が認められた被告について裁判所が指摘した事実関係

・被告がBとの間で、被告とBが、従前、性的関係を有していたことを前提として、LINEに性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めるやりとりをしたこと
・従前、性的関係を有していたことを前提として、性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めることは、不貞行為には該当しないもののこれに準ずるものとして社会的に許容される範囲を逸脱するものといえ、婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであるというべきであるから、原告に対する不法行為を構成すると認められる。

 

 なお、被告は,上記のようなやり取りは冗談であり,その内容をBに確認すれば分かるのであるから婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性があるとはいえず不法行為に該当しない旨も主張しましたが、裁判所は、このようなやり取りを目にした原告が被告との関係をBに問い質し,真意の確認を求めること自体,Bとの信頼関係に影響し夫婦関係を悪化させるものであることは容易に推察することができるから,Bに確認をすることにより冗談であるとの回答が得られたとしても不法行為の成否を左右するものとはいえないとして被告の主張を退けています。

 

 以上のように、たとえ性交渉がなかったとしても、その関係が社会通念上許容される範囲を逸脱する場合には、配偶者に対する慰謝料の支払義務が発生することがあります。

 どの程度の交際関係があれば社会通念上許容される程度を逸脱するのかについて明確な基準はなく、2番目に紹介した裁判例が指摘するように行為の態様や内容、経緯等を総合的に判断するほかはありませんが、少なくとも今回ご紹介したような行為については実際に慰謝料の支払いを命じられる可能性がありますので、性交渉がなければ慰謝料が発生しないわけではないという点については注意が必要です。

 

 弁護士 平本丈之亮

2020年7月10日 | カテゴリー : 慰謝料, 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

不貞行為による慰謝料の合意の効力が問題となった3つの事例

 

 不貞行為によって慰謝料の請求をし、示談や和解が成立したにもかかわらず、あとになって公序良俗に反し無効である、強迫があったから取り消すなどと争われる例があります。

 不貞行為があるとどうしても感情的になるため、請求行為に行きすぎがあったり高額になったりするのが原因ですが、今回は、この点が問題となった最近の裁判例を3つほどご紹介したいと思います。

 

東京地裁平成29年3月15日判決

 【合意の当事者】 

夫と妻の不貞相手の男性

 

 【合意の内容】 

和解金600万円

 

 【本件和解契約が強迫によって取り消し得るか】 

①夫と調査会社らの男性4名が妻と不貞相手のいるマンションに深夜0時30分頃に押し掛けたこと

 

②夫は、妻からあらかじめ渡された合鍵を使用してマンションに立ち入ったものであるが、マンションの契約者は妻であり、そのマンションに全くの第三者を伴って立ち入ることは妻の意思に反するものであり違法性を帯びるものであること

 

③同行した調査会社の社長が不貞相手に携帯電話機を見せるように述べてこれを受け取り、これをすぐに返還せずに手の届かないベッドの脇に置いたこと

 

④③のような行為は、不貞相手に対して、夫らが自分の連絡手段を奪おうとしていると感じさせる可能性が十分にある行為であり、不貞相手が恐怖感を抱きやすい状態にあったことを裏付ける事情であること

 

⑤調査会社の社長が不貞相手に対して、勤務先のコンプライアンス委員会に知らせて解雇させることもできるが、和解契約に応じればさらなる攻撃はしない旨告げ、和解契約書の作成を引き延ばそうとした不貞相手に対して、夫や調査会社の社長が現場での作成を求めたこと

 

⑥①~⑤のような立ち入りの態様やその後のやり取りの内容からすると、手段の点で正当な権利行使としての相当性を欠くものと言わざるを得ない。

 

⑦600万円という金額も、不貞行為の期間が約半年にとどまっていることに照らすと、妻と不貞相手が週に4、5回程度会っており、離婚はしていないものの婚姻関係が回復する見込みがないことを考慮してもやや高額にすぎること

 

⑧以上を踏まえると、本件和解契約は、不貞相手が解雇などの不利益を被る可能性があるという恐怖感を感じて応じたものであり、強迫によって取り消し得るものである。

 

東京地裁平成28年1月29日判決

 【合意の当事者】 

夫と妻の不貞相手の男性

 

 【合意の内容】 

慰謝料300万円

 

 【本件和解契約が公序良俗に反して無効か】 

①被告が提訴前の代理人弁護士を介した交渉において不貞関係を争っておらず、むしろ和解後の残金の支払いに応じる姿勢をみせていたこと

 

②被告は和解契約書に記載されていた「不倫交際」という文言の「不倫」について、肉体関係を伴わない交際まで含むと理解していたと述べるが、日常用語として不倫と不貞はほぼ同義であり、その他の事情も考慮すると不自然と言わざるを得ないこと

 

③慰謝料300万円という金額が暴利行為といえるほど高額であるとは、現在の訴訟における不貞慰謝料の認容額の相場に照らしてみても認めがたいこと

 

④よって、本件和解公序良俗に反するとは言えない。

 

 【本件和解契約が強迫によって取り消し得るか】 

①和解契約書を作成したのはファミリーレストランであり、周囲には客や店員がいたはずであるから、客観的に大声を上げるなどのような粗暴な言動には及びにくい状況であったこと

 

②和解契約書作成の時点で、被告は不貞行為を争っておらず、強迫がなければ金銭の支払いに応じなかったといえるか疑問であること

 

③代理人弁護士との交渉時において、夫の強迫行為を説明した形跡がないこと

 

④以上からすると、強迫によって和解契約がなされたと認定することはできない。

 

東京地裁平成28年1月13日判決

 【合意の当事者】  

妻と夫の不貞相手の女性

 

 【合意の内容】 

慰謝料500万円

 

 【本件和解契約が強迫によって取り消し得るか】 

①話し合いが行われたのは一般人も出入りするオープンカフェであり、被告の自由意思の形成に問題が生じるような状況であったとはいえないこと

 

②原告やその弟が交渉の際に述べた下記のような言葉は、不貞行為に対する慰謝料の支払交渉において社会的にみて許容される限度を超えるものとまではいえないこと

「僕らもやはり出るとこにでていかなきゃいけないし」

「ご実家のほうに伺わせていただきます。」

「お嬢さんも私立の学校に行ってらっしゃいますよね。」

「やっぱり出るとこ出ますよ。」

 

③被告も、500万円という金額の提案に対して、お金がないから支払えないと一貫して主張しており、その後、分割払いの話になったところ、自ら「うん、いいですよ。(月額)9万で。」と述べて、最終的に和解書に署名指印していること

 

④以上からすると、被告が原告に畏怖して和解に応じたとは認められず、本件和解を強迫によって取り消すことはできない。

 

 【本件和解契約が公序良俗に反して無効か】 

①不貞行為によって婚姻関係が破綻したことや、それまで夫婦の婚姻関係に特段の問題があったとは認められなかったこと、不貞行為の態様・期間等の一切の事情、夫が原告と復縁する意思はないと述べていることに照らせば、500万円という金額が不相当に高額ということはできないこと

 

②本件和解における支払いは分割払いとなっていたが、分割払いは一括では払えない場合に利用するのが一般であり、債務者に対する負担感は一括払いと大きく異なること

 

③以上のような事情のほか、本件の一切の事情に照らしても、本件和解が公序良俗に反するとは認められない。

 

権利行使には社会的に相当なやり方が求められる

 たとえ正当な権利があり、これを実現するために必要があっても、その手段が社会的相当性を逸脱する場合には権利行使が否定されることになりますので、一番最初のケースが無効になることは事案の内容から見て妥当と考えます。

 このケースでは強迫による合意の取り消しによって請求が棄却されていますが、事案の内容からすれば、仮に強迫が認められなかったとしても合意は公序良俗に反し無効と判断された可能性があると思われます。

 このケースは、いわゆる調査会社の社長や社員が不倫現場に臨場して現場を押さえるという手法が問題となったものですが、このようなやり方にはリスクがあることが判決で示された点に特徴があります。

 

結論に影響したと思われる事情

 1番目のケースと2番目・3番目のケースでは、最終的な合意の効力に関して結論が分かれましたが、結論に影響を与えたと思われる事情は概ね以下のようなものと思われます。

 

 【①和解交渉が行われた場所】 

 2番目と3番目のケースは、いずれも第三者が周囲にいるオープンスペースでの交渉であり、このような場所での交渉であったことから、不貞相手の自由意思に対する抑圧の程度が高くなかったということが重視されています。

 1番目のケースはこれと対照的であり、深夜に男性4名が合い鍵を用いてマンションに押し掛けるという手段は恐怖心を与えるに十分なシチュエーションであったことが結論に影響しています。

 

 【②金額】 

 2番目と3番目のケースでは、和解が有効であることの根拠として、いずれも不相当に高額ではないことが挙げられています(500万円という金額は高額と思いますが、本来、慰謝料は一括場合が原則であるため、分割払いでの合意がなされたという事情から債務者の負担が過酷とまではいえないとの評価につながったのではないかと考えられます)。

 1番目のケースについては金額そのものが600万円と非常に高額であり、この種のケースを取り扱う弁護士の感覚からすると相場の2~3倍程度にも達するものであるため、原告に不利に働いたものと思われます。

 

余談(最高裁平成31年2月19日判決の影響)

 なお、今回ご紹介した各裁判例は、不貞相手は原則として離婚慰謝料の支払義務を負わないとした最高裁平成31年2月19日判決の前に出たものです。

 今回の裁判例はいずれも和解金額を判断材料としていますが、上記最高裁判決を前提にすると、そもそも不貞相手に対して請求しうる金額はこれまでよりも低くなると思われるため、不貞相手との間での合意の有効性を判断する際、今後は金額面から厳しく判断される可能性があると思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年6月15日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

既婚者であることを隠して交際した者への慰謝料請求と注意点

 

 前回のコラムで、既婚者であることを知らずに交際した場合に、交際相手の配偶者に対して慰謝料の支払義務が発生するのかということについてお話ししましたが、今回は、騙された側が交際相手に慰謝料の支払いを求めることができるのか、という点についてお話しします。

 

不法行為に基づき慰謝料を請求できる場合がある

 既婚者であることを隠して交際を申し込み、性的関係を含む交際を開始した場合、騙されて交際に至った側は、人格権ないし貞操権を侵害されたとして、交際相手に慰謝料を請求できるとされています(東京地裁平成27年1月7日判決等)。

 

 既婚者であることを知っていたはずという言い訳に注意 

 もっとも、この種の事案では、交際相手から、相手は自分が既婚者であることを知っていたはずであるから責任がない、という反論がなされることがあります。

 既婚者であることを知って交際関係に至った場合、このような関係は法的に保護するに値しないため、原則として慰謝料の請求はできないとされています。

 そのため、このような反論が出ることが想定される場合には、メールやSNSのメッセージ等により、自分は交際相手が未婚者であることを前提にしていたことを示すことができるよう対策を講じておく必要があります。

 

 ハードルは高いが、既婚者であることを知っていても慰謝料請求できる場合はある 

 先ほど述べたとおり、既婚者であることを知った上で交際関係に至った場合、何らかの理由で関係が破綻したとしても原則として交際相手に慰謝料を請求することはできません。

 もっとも、交際関係を継続した動機が主として交際相手の詐言を信じたことにあるなど交際相手に大きな責任があり、交際相手の違法性が著しく大きい場合には、例外的に慰謝料の請求ができる場合もあります。

  たとえば、交際相手が妻とは関係が悪化しているから別れて君と結婚するなどと述べたが、実際には離婚する意思などなかった場合が典型例ですが、このようなケースでも、本人の年齢や社会的地位、交際継続中の互いの行動などを総合的に考慮し、本人側の落ち度も相応にあるという場合には、交際相手の違法性が著しいとまではいえないとして慰謝料が認められないこともありますので、請求のハードルは決して低くはありません。

 また、このようなケースでは、そもそも交際相手は不誠実であることが多いため、いざ慰謝料の請求をすると、これまでの発言を翻して自分は結婚の約束などしていないなどと責任逃れをすることもあるため、慰謝料を請求したいのであれば、交際相手に具体的にどのような詐言があったのかを立証する材料を確保しておく必要があります。

 

交際相手の配偶者から慰謝料を請求される可能性があることに注意

 既婚者であることを知らなかった、あるいは既婚者であると知っていたが交際相手の詐言があったとして慰謝料の請求をする場合、交際相手の配偶者から逆に慰謝料の請求を受けるリスクがあることには注意が必要です。

 

 まず、既婚者であることを知らなかったという場合には、単に知らなかったことだけではなく、既婚者であることを知り得なかった(=過失がない)ことを証拠に基づいて説得的に説明できなければ、配偶者からの慰謝料請求によってあまり意味のない結果に終わってしまう可能性がありますので、ことを起こす前に、自分には過失もないと言い切れるだけの材料があるかどうかを慎重に吟味しなければなりません。

 

 これに対して、既婚者であることを知っていた場合には、たとえ相手の詐言があったにせよ既婚者であること自体は知っていた以上、客観的にみて婚姻関係が破綻してなかった場合には配偶者に対する慰謝料の支払義務は免れないと思われますので、経済的なメリットが得られない可能性があるにもかかわらず、あえて慰謝料請求をする意味はどこにあるのかをよく考える必要があります。

 

 このように、交際相手が既婚者であることを知らなかった場合、慰謝料請求は可能ですが、それがきっかけとなって交際相手の配偶者から逆に慰謝料請求されるリスクがあり、実際、そのようなケースを担当したこともあります。

 慰謝料の請求をする場合には、そのような事態に至る可能性がどこまであるか、慰謝料を請求された場合にそれを退けられるだけの材料があるかを吟味した上でアクションを起こす必要がありますが、この点の判断は非常に難しいところですので、弁護士への相談と依頼が必要と思われます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年6月2日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

知らずに既婚者と交際した場合と慰謝料の支払義務

 

 当事務所には男女間のトラブルに関するご相談も多く寄せられますが、その中でも比較的多くあるのは、交際相手が既婚者であることを知らずに交際してしまい、交際相手の配偶者から慰謝料の請求をされているというケースです。

 では、そのようなケースで、結果的に不貞行為をしてしまった者は慰謝料の支払義務を負うのか、というのが今回のテーマです。

 

「故意」又は「過失」があれば責任を負う

 不貞行為に基づいて慰謝料の支払義務を負うのは、交際相手が既婚者であることを知りながら交際した場合(故意)、既婚者であることは知らなかったが知ることができる状況だったにも関わらず交際した場合(過失)の2つの場合です。

 故意については分かりやすいところですが、今回のメインテーマのように交際相手が既婚者であることを隠して交際に至り、紛争になったケースの場合には、多くの場合過失を巡って争いになります。

 

どのような場合に過失が認められるのか?

 過失の有無は具体的な事情によって異なるため、これがあれば過失がある、過失はないと明確に決まっているものではありませんが、過失の有無に関係する事情としてはたとえば下記のようなものがあります。

 

 ①交際期間や会う頻度 

 交際期間や会う頻度が長ければ、それだけ得られる情報量が増えるため、既婚者であることを知りやすい状況だったという方向につながりやすい事情と言えます。

 ただし、交際相手が巧みに情報を隠すというケースもありますので、これのみで過失があるという結果につながるわけではありません。

 

 ②家族関係・親類との接触 

 たとえば、交際相手に子どもがいる場合だと、子どもがいない場合に比べれば既婚者である可能性が高いため、子どもの存在を知っていることは過失を肯定する方向の事情になり得ます(ただ、これも交際相手の説明次第であるため、これだけで過失ありとまでいえない点は①と同じです)。

 また、単なる交際の域を超え、将来の結婚まで約束している悪質なケースがありますが、そのようなレベルの交際であるにも関わらず交際相手が合理的な理由もなく自分の両親への挨拶を頑なに拒むような場合、既婚者であることを窺わせる事情として過失を肯定する方向に働きます。

 

 ③出会いの場や知り合ったきっかけ 

 同じ職場の場合、日常的な接触の中で既婚者であることを推知できる可能性があるため、過失を肯定する方向につながります。

 もっとも、同じ職場といっても、会社規模が大きく勤務する部門も異なるようなケースであれば必ずしも家族関係を知り得るとは限りませんので、この点も具体的に見ていく必要があります。

 また、いわゆる婚活サイトで知り合った場合だと、出会いの場それ自体が将来の結婚を前提にしたものである以上、交際相手が既婚者であると認識するのは困難であった(=過失がない)という方向につながりやすいと思いますので、知り合ったきっかけも重要です。

 

 ④相手の言動や行動 

 交際相手が交際前、あるいは交際中にどのような言動や行動をしていたかは、故意の有無のみならず過失の認定にも影響します。

 当職が過去に経験した事案では、交際相手が積極的に離婚した旨をアピールして独身であることを信じ込ませていたというケースがありましたが、そのような言動や行動があった場合には過失が否定される方向につながりやすいと思われます。

 他方、交際尾相手が婚姻関係について曖昧な態度をとっていたり説明を拒否したような場合には過失を肯定する方向につながりやすいと思います。

 

 【最終的には総合判断】 

 以上、過失の認定に影響しうる事情をいくつか例示しましたが、先ほども述べたとおりどれか一つでも当てはまれば即過失の有無が決まるというものではなく、それぞれの事案に応じて様々な事情を総合し、交際当時あるいは交際開始後に既婚者であると知り得る状況があったかどうかによって過失の有無が判断されることになります。

 そのため、慰謝料を請求する側、される側のどちらの立場であっても、上記のようなファクターを一つずつ見ていき、さらに個々の事情についてどこまで立証できるかも含めて丁寧に検討していく必要があります。

 

既婚者でないことを確認しなかったことが過失といえるか?

 この種のトラブルでは、既婚者であることを戸籍等で確認するべき義務があったのにそれを怠ったのが過失であるという形で争われることがあります。

 

 しかし、一般的には相手方の身分関係を確認する義務があるとまでは考えられておらず、具体的事実関係から離れ、身分関係の確認をしなかったことのみで即座に過失があると判断される可能性は非常に低いと思います。

 

 ただし、相手が既婚者であることを窺わせる具体的事情があったのであれば、その時点で身分関係を確認すべき義務が生じ、それを怠ってその後も交際関係を継続したときは過失があったと判断されることがあります。

 たとえば、相手がメール等で女性に明日の食事についてリクエストをしていたとか、子どもの行事についてのやりとりをしていた、あるいは指輪を見つけたといった場合であれば、既婚者であることを窺わせる事情があったとして、そのような事情が判明した時点で相手の身分関係を確認すべき義務があったとされる可能性はあります。

 

 そのため、そのような兆候があった場合、自衛手段としては身分関係をきちんと確認するか、それができないのであればただちに交際関係を解消する必要があります。

 

相手に口頭で確認すれば過失なしと言えるのか?

 なお、上記とは別の問題として、単に交際相手に既婚者ではないことを口頭で確認しておけばそれで過失がないと言えるのかという点がありますが、これも交際相手の態度や言動、それまでの交際状況などによって異なり一概には言えません。

 要するに、客観的にみて疑いが濃い状況であれば、それを払拭するために調査すべき程度も高くなりますし、疑おうと思えば疑えないこともないといった程度であれば、調査すべき度合いも高くはないと言えます。

 

 もっとも、どこまで調査すればよかったのかというのは、結局のところ後から判断されるものであり交際当時に的確に判断することは非常に難しいため、少なくとも交際相手に口頭で確認するだけでは危険な場合があります。

 そのため、いったん疑いが生じたのであれば、共通の知人がいるのであればその人に確認したり、メールやSNSのメッセージの提示を求めるなど交際相手の説明について裏付調査をした方が良いですし、場合によっては、それこそ公的身分証明書の提示まで求めることまで考えておく必要があると思います。

 

 なお、疑いがあるなら調査はした方が良いというお話をすると、交際関係の破綻を恐れて確認を求めることができないというお話も出てきますが、そのような事情は不貞行為の被害者たる配偶者にとっては関係のないことであり、疑わしい事情が判明した以上、交際破綻を恐れて確認できなかったという事情があるとしても、それ自体は過失を否定する事情にはならないものと考えます。

 

 既婚者であることを隠して交際に至った場合、配偶者から慰謝料請求を受ける可能性があり、ひとたびトラブルが発生した場合には感情もあいまって大きな紛争になることがあります。

 このようなケースでもっとも悪いのは当然ながら婚姻関係を隠した者であり、別途、離婚や慰謝料請求などが検討されるべきですが、そのことと配偶者との間の慰謝料の問題とは法的には別に対処する必要がありますので、トラブルが生じた場合には弁護士へご相談いただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年5月28日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

不貞行為に基づく慰謝料請求でLINEデータの証拠能力と信用性が争われた事例

 

 不貞行為に基づいて慰謝料請求をする場合、もっとも頭を悩ませるのが証拠の確保ですが、最近ではメールやSNSでのメッセージのやりとりが証拠として提出される例が多くなっています。

 しかし、このようなものを証拠として使用する場合、相手から証拠の収集方法に不正があり証拠としては使えない(証拠能力)とクレームがつく場合があり、また、デジタルデータは改ざんが容易であり、このデータも改ざんされたものであって証拠として信用できない(信用性)、という反論がなされることもあります。

 そこで今回は、不貞行為の慰謝料請求について、LINEデータの証拠能力と信用性が問題となった最近の裁判例を一つご紹介したいと思います(なお、本件で問題となったのは、スマートフォンアプリのLINEのトーク履歴ではなく、ログイン機能のあるPC版のLINEでのやりとりに関するものです)。

 

東京地裁平成30年3月27日判決

 この裁判は配偶者の一方が不貞相手に対して慰謝料請求をした事案ですが、その中で提出されたLINEデータについて、①不正に取得されたものであるから証拠として使用できない(証拠能力)、②使用できるとしても中身が改ざんされたものであるため証拠として信用できない(信用性)、という形で争われました。

 

 【証拠能力に関する判断基準】 

 この判決では、まず、民事訴訟において使用できる証拠の範囲(証拠能力)について、以下のように判示しています。

 

「民事訴訟に関しては,証拠能力の制限に関する一般的な規定は存在しない。この点,訴訟手続を通じた実体的真実の発見及びそれに基づく私権の実現が民事訴訟の重要な目的の一つであるとしても,同時に,民事訴訟の場面においても信義則が適用されることからすれば(民事訴訟法2条),訴訟手続において用いようとする証拠が,著しく反社会的な手段によって収集されたものであるなど,それを証拠として用いることが訴訟上の信義則に照らしておよそ許容できないような事情がある場合には,当該証拠の証拠能力が否定されると解すべきである。」

 

 【証拠能力に関する被告の主張と裁判所の判断】 

 

 1 住居侵入 

 まず、被告は、原告は持っていた鍵を使って別荘に無断で侵入してLINEデータを取得したとして、この証拠は住居侵入罪を犯して不正に入手したものであるため証拠能力がないと主張しましたが、裁判所は以下の事情からこの主張を退けました。

 

①原告がLINEデータを入手したのは別居を開始した約2か月後であるものの,その時点ではまだ別荘の鍵を所持しており,それを使用して入ったこと

 

②別荘は,婚姻後に配偶者が購入し,以後,配偶者とその家族が使用してきたものであること

 

③別荘は平成25年の贈与を原因として、平成26年に親名義に名義変更されているが,実際に名義変更がなされたのはLINEデータの入手後であること

 

④別荘は,平成25年の贈与日以降も配偶者及びその家族が使用し続けていたこと

 

→①~④からすると,原告に建造物侵入の故意があったかどうかも定かではなく,また,別荘への立入方法が著しく反社会的であると評価できるものではない。

 

 2 不正ログイン 

 次に、被告は、原告が無断でIDとパスワードを入力してログインし、LINEデータを不正に取得したと主張し、配偶者もその主張に沿う供述をしましたが、裁判所は以下の事情を示してこの主張も退けました。

 

 ・配偶者の供述内容 

①別荘に置いてあるパソコンは自分専用のものであり,パソコンにログインするためにはパスワードが必要であるが,それは誰にも教えていない

 

②LINEデータはアカウント内にのみ保存してパソコンのハードディスクには保存しておらず,このデータにアクセスするためには,アカウントのIDとパスワードを入力してログインする必要がある

 

③アカウントのIDはGmailアドレスと同一のためGmailアドレスを知っている者であればIDを知り得るが,パスワードは誰にも教えておらず,このパスワードはパソコンにログインするためのパスワードとは別のものである(ただし、いずれも,家族で共用している他のパスワードから推測することは可能)

 

④原告が立ち入った当時、建物内にあるパソコンとアカウントがいずれもログイン状態にあったことはない

 

 ・裁判所の判断 

①仮に、配偶者の言うとおりであったとすれば、原告はLINEデータを取得するためにPCとアカウントそれぞれに設定されていた二重のパスワードをいずれも探し当ててログインしたことになるが,いくら配偶者が他に似たようなパスワードを使っていて、原告がそれを知っていたとしても,そのような行為を成し遂げる可能性は相当に低い

 

②そもそもアカウントのパスワードを探知できるのであれば、自分のパソコンを使用するなどして配偶者のアカウントにログインできるのであって、別荘で行う必要性はない

 

③原告はLINEデータ入手の翌日、代理人弁護士に対し、昨夜別荘に行ったところ運良くログインしたままのPCがあったので中を見てみたこと、旅行中に証拠隠滅されたLINEのやり取りがフォルダに分けられ保存されていたこと、そのデータとともに、女性と別荘で過ごしたかも知れない写真があったためこれも一緒に送る、といった趣旨のメールを送信している

 

④約1週間前に配偶者と被告が別荘を訪れていることがうかがわれ,失念等の原因からアカウントにログインしたままの状態であった可能性は否定できないこと

 

→①~④からすれば,不正ログインによってLINEデータを入手したとは認められず,その入手方法が著しく反社会的であると認めるに足りる事情もない。

 

【証拠能力に関する判断のまとめ】

 このように、裁判所は、住居侵入、不正ログインの主張についていずれも認めず、結果として問題となったLINEデータの証拠能力を認めました。

 

 このうち住居侵入については、住居侵入の故意があったとまでは言い切れないのではないか(本人の認識)という点や、原告が以前に渡された鍵を使って入ったという事情(立入の態様)を考慮して、立ち入りは著しく反社会的な方法ではないと判断しています。 

 

 また、不正ログインについては、二重のパスワードを突破することができる可能性は低いことや、パスワードを知っていればわざわざ別荘に入る必要がないこと、データ入手後の弁護士へのメール内容といった事情を総合し、不正ログインがあったとは言えないという事実認定がなされています。

 

 以上のとおり、本件は具体的な事実関係をもとに証拠能力が認められましたが、仮に住居侵入や不正ログインがあったという認定だった場合、証拠能力が否定された可能性があった事案と思われます。

 

信用性に関する判断

 次に,証拠としての信用性について、裁判所は以下のように判断してLINEデータが被告と配偶者とのやりとりであることを認め、記載内容の正確性についても認めました。

 

 ・被告の主張 

①LINEデータがテキストデータであり、ねつ造ないし改ざんが可能である

 

②LINEデータの一部はやり取りの相手が「Unknown」となっており、その相手が被告かどうかも疑わしい

 

 ・裁判所の判断 

①被告は,平成26年のある時期から毎日のようにLINEのやり取りをするようになったと供述しているが,LINEデータはその期間に対応していて、やりとりもほぼ毎日であること(供述と証拠の整合性)

 

②被告自身,細かい部分はともかくLINEデータにあるようなやり取りをしたことはあった旨供述していること

 

③やり取りの相手が「Unknown」となっている部分においても、いたる所で被告の名前に相当する名称が記載されていること

 

④LINEデータには、原告が知り得ない被告の子の名前や愛称、被告の知り合いの名前が記載されていること

 

⑤LINEデータが約3か月半に及ぶ期間のほぼ毎日の膨大なやり取りのデータである(A4用紙で147頁分)ことからすれば、一から作成することはもとより、つじつまを合わせながら原告に都合が良いように改変することも極めて困難であること

 

⑥被告が具体的な改変箇所を一箇所も指摘していないこと

 

→①~④の事情からすれば、LINEデータは原告の配偶者と被告との間のやりとりと認められ、⑤⑥の事情からすればLINEデータの正確性は担保されていると認められる

 

証拠収集は慎重に行う必要がある

 本判決では、民事訴訟における証拠能力が制限される場合について一般的な基準を示していますが、その判断内容自体は特段目新しいものではなく、住居侵入や不正アクセス禁止法違反など刑事上罰せられるような行為によって取得した証拠については証拠能力が否定される可能性があります。

 不正アクセスの点について、本件ではLINEデータの取得時にパソコンとアカウントがログイン状態にあったかどうか(=IDとパスワードを入力してログインしたかどうか)が争点となりましたが、この判決は具体的な事実関係から不正ログインの主張を排斥したものにすぎませんので、事案が異なれば証拠能力が認められるとは限りません。

 少なくとも、今回ご紹介したように、実際の裁判で集めた証拠の証拠能力が問題とされるケースがあることは事実ですので、慰謝料請求などを考えて証拠を集める場合にはやり方を工夫する必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮