不貞相手が配偶者と「1回」連絡するごとに違約金を支払うという合意に関し、LINEによる連絡については1日単位で計算するのが相当としたケース

 

 不貞行為の示談に際し、今後、不貞相手が自分の配偶者と連絡を取り合ったり接触しないことを約束して、約束に反した場合には1回あたりいくら支払うといった違約金条項を定めることがあります。

 

 たとえば、「Aは、Bに対し、Cとの不貞関係を解消し、以後、正当な権利を行使する場合や業務上の必要がある場合を除きCと連絡・接触しないことを約束する。Aがこの約束に違反したときは違約金として1回あたり●万円をBに対し支払う。」などと定めるのが典型例です。

 

 このような接触禁止条項に反して違約金を実際に請求しようと思った場合、【連絡行為の回数×合意書所定の金額】という計算によって請求することになりますが、ここでいう「1回」が何を意味するのか必ずしも明確に定めない場合もあり、違約金の計算を巡って争いになることもあります。

 

 そこで今回は、このような違約金条項に関して、LINEトークを利用して連絡行為が行われた場合の「1回」の考え方を示した裁判例を紹介します。

 

 

東京地裁令和4年9月22日判決

【問題となった条項】

1 被告は、原告に対し、今後○○との交際をやめ、正当な権利を行使する場合及び業務上の必要がある場合を除き、○○と連絡・接触しないことを約束する。

 

2 被告が上記1の約束に違反したときは、違約金として1回あたり30万円を原告に対し支払うものとする。

 

【連絡の方法】

LINEトークでのメッセージの送受信

 

【原告の主張】

「1回」とは個々の送信行為を意味する。

 

→6464回のメッセージ送信行為×30万円で計算するべき(日数は214日)

 

【裁判所の判断】

①ライントークの特質上、1回の送信行為にかかる個々のメッセージは一連性を有するやり取りの断片にすぎないから、社会通念上、それ自体が「連絡」とは通常考えられず、個々のメッセージの送信行為を基準に「1回」の連絡と解することは相当ではない。

 

②他方、一連性を有するやり取りを「1回」の連絡と捉えるとすると、一連性の範囲が一義的に明らかではないから、「1回」の連絡に該当するか否かの基準を曖昧にし、当事者の予測可能性を害することになる。

 

→そうすると、ラインメッセージの送信に係る「連絡」については、「1回」を1日単位で捉えることが、明確かつ合理的であり、相当である。

 

※なお、基本的には日数で計算しているものの、夫婦関係が破綻したといえる時期以降の部分は権利濫用として一部請求を制限。

 

 事例判断のため一般化はできないとは思われますが、LINEトークの性質上、短文での送受信を頻繁に繰り返すことがあるため断片的な1回の送信行為を基準に計算すると極めて高額になりかねず、結論としては妥当なものだったのではないかと思います。

 

 疑義をなくすならメッセージの送信行為1回ごとに計算する旨明確に合意することも考えられますが、仮にそのような定めをしてもあまりに高額になった場合は権利濫用として制限される可能性はありますので、今回ご紹介した裁判例のように1日単位で計算する旨を明記するか、送受信行為を基準にするとしても1回あたりの違約金額を低額に抑える、といった方法が無難かもしれません。

 

 なお、この裁判例では、婚姻関係が破綻した後の部分については違約金の合意に基づき請求することは権利の濫用にあたるとも判断していますが、こちらは別のコラムで解説します。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2024年1月23日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所