管理状態の悪い土地建物を管理するための新たな制度について(管理不全土地・建物管理制度)

 

 土地の所有者が廃棄物を放置していたり、家が倒壊のおそれがあるなど、土地や建物の管理が悪く近隣に迷惑がかかっていたり危険が生じているケースがあります。

 

 このような場合、従来は近隣住民等の利害関係人が所有者に訴えを起こすなどの方策がとられてきましたが、一時的に改善がみられても継続的な管理が見込めず元に戻ってしまったり、現場の状況に応じて柔軟な対応を取ることが難しいといった限界がありました。

 

 そこで令和3年に法律が改正され、管理状態が良くない土地や建物等について裁判所が管理命令を発し、そのための管理人を選任することを認める制度が作られました。

 

管理不全土地・建物管理制度

 

 新たにできた管理制度では、所有者による管理が不適当な土地と建物のほか、敷地利用権、土地建物にある所有者(共有者)の動産、対象財産の管理や処分等によって得られた金銭が管理の対象となります(改正民法第264条の9第2項、第264条の10第1項、第264条の14第2項、第264条の14第4項)。

 

 このように、この制度では管理対象が特定の土地建物に関連する財産に限られているため、所有者のその他の財産に管理権限は及びません。

 

管理人の権限

 

 この制度によって選任される管理不全土地管理人・管理不全建物管理人には、対象財産の保存行為のほか、対象財産の性質を変えない範囲内での利用行為・改良行為を行う権限が与えられます(改正民法第264条の10第2項)、第264条の14第4項)。

 

 また、管理人は、裁判所の許可を得て対象財産の処分をすることも可能ですが、土地建物そのものを処分する場合には所有者の同意(+裁判所の許可)が必要です(第264条の10第3項、第264条の14第4項 ※動産の処分については所有者の同意は不要です)。

 

 他方で管理人の管理処分権は管理人に専属するわけではないため、対象財産に関する訴訟については所有者自身が原告又は被告として手続を行うことになります。

 

利用の条件

 

①利害関係の存在

この制度の申立をするには申立人に利害関係があることが必要となりますが(改正民法第264条の9第1項、第264条の14第1項)、一般的には以下のような関係があれば利害関係が認められると思われます。

 

・土地に設置された擁壁にひび割れや破損があり、そのままでは被害を生じる隣地の所有者

・建物の倒壊や屋根・外壁等の脱落・飛散の恐れがあり、そのままでは被害を生じる隣地の所有者

・土地や建物にゴミが散乱しており、悪臭や害虫により被害を生じている隣地の所有者

 

なお、管理不全かつ所有者不明の土地(管理不全所有者不明土地)について、土砂の流出・崩壊その他の事象による周辺土地の災害発生や周辺地域の環境の著しい悪化を防止するため特に必要があるときは、特例として市町村長に管理人選任の申立権限が与えられます(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法第42条3項)。

②所有者による土地建物の管理が不適当であることによって、他人の権利・法的利益が侵害され、又はそのおそれがあること

この制度の利用には、管理不全によって他人の権利等が現に侵害されているかそのおそれがあることが必要です(改正民法第264条の9第1項、第264条の14第1項)。

 

そして、この条件をみたすためには、登記簿や公図・各階平面図その他の図面、問題となる土地建物について適切な管理が必要な状況にあることを裏付ける資料(現場の写真等)などの提出が必要になります。

③管理状況等に照らして管理の必要性があること

基本的には、②の条件がみたされればこの条件もみたすことが多いように思われますが、たとえば擁壁に破損があったりゴミが散乱している場合、建物が老朽化して危険な場合などが考えられます。

 

所有者が反対していても法律上は管理命令を発令することは可能ですが、所有者が管理人による管理行為を妨害することが予想される場合には従来通り妨害排除請求権等の裁判を起こすことが適切であるとされています。

④対象が区分所有建物ではないこと

マンションなどの区分所有建物の専有部分と共用部分はこの制度の対象外となっています(建物の区分所有等に関する法律第6条第4項)。

 

手続の流れ

 

①管理命令の申立

【管轄】

対象となる土地建物の所在地を管轄する地方裁判所(改正非訟事件手続法第91条1項)

 

【収入印紙】

1,000円×申立ての対象となる土地・建物の筆数

 

【切手】

6,000円

 

【予納金】

収入印紙・切手のほかに、管理費用や管理人報酬のための費用として、裁判所が命じる予納金を納める必要があります。

 

※東京地裁HPより

②所有者の陳述聴取

所有者の保護のため、裁判所はこの制度の申立があったときや管理人が処分行為を行うときなど一定の場合には所有者の陳述を聴取しなければならないとされています(改正非訟事件手続法第91条3項、同10項)。

 

ただし、緊急の対応が必要なときなど、所有者の陳述を聴いていると目的を達成できない場合には不要です(第91条3項但書)。

③管理命令の発令と管理人の選任

管理命令を発令する場合、裁判所は必ず管理人を選任しなければなりません(改正民法第264条の9第3項、第264条の14第3項)。

 

誰を管理不全土地(建物)管理人に選任するかは裁判所が決めますが、事案に応じて弁護士や司法書士、土地家屋調査士などが選任されることが想定されます。

 

なお、類似の制度である所有者不明土地・建物管理制度においては、対象不動産が共有のときは共有持分単位で管理人が選任されますが(改正民法第264条の2第1項、第264条の8第1項)、この制度はあくまで不動産単位で管理人が選任されます(第264条の9第1項、第264条の14第1項)。

④(処分する場合)裁判所の許可・供託・公告

管理命令の対象財産を処分する場合、管理人は裁判所から許可を得る必要があります(改正民法第264条の10第2項、第264条の14第4項)。

 

また、対象財産のうち土地建物そのものを処分するときには所有者の同意も必要です(第246条の10第3項、第246条の14第4項)。

 

対象財産の管理や処分などによって金銭が生じた場合、管理人はその金銭を供託することができますが、供託したときはその旨を公告する必要があります(改正非訟事件手続法第91条5項、同10項)。

 

法律上は「供託することができる」とされているため供託は義務ではありませんが、不動産の売却後に金銭を預かったままでは管理業務が終了しませんので、通常は供託することになるのではないかと思います(私見)。

 

管理不全土地建物の適切な管理や処分の促進に資する制度

 

 この制度の活用方法として想定されるのは不動産の不適切な管理から生じる被害の発生や拡大を防止するために隣地所有者等が管理人を選任してもらうケースと思われますが、今後は土地建物全体について柔軟な管理行為が可能となり、解決のための選択肢の幅が広がったことになります。

 

 実際の運用上は様々な課題も出てくると思われますが、ともあれ本制度により管理人による直接の管理行為が可能となった点は意義がありますので、今後の積極的な活用に期待したいところです。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

 

所有者が不明の土地建物を管理するための新たな制度について(所有者不明土地・建物管理制度)

 

 土地建物の所有者や共有者が不明の場合、その不動産の管理や売却、取得が難しくなります。

 

 このような場合、従来は所有者等が所在不明であれば不在者財産管理人を、所有者等が死亡して相続人がいるかどうか明らかでなければ相続財産管理人を裁判所に選任してもらい、管理人が土地建物の管理や処分を行ってきました。

 

 しかし、これらの制度は対象となる土地建物だけではなく人を単位とした制度であるためカバーする範囲が広く、管理期間の長期化や申立に必要な費用(予納金)の高額化といった問題があり、また、所有者等が誰であるかまったく特定できないと利用できないなど必ずしも使い勝手の良いものではありませんでした。

 

 そこで令和3年の民法改正により、管理対象を土地建物や敷地利用権・動産などに絞りこんだ新たな管理制度が設けられ、令和5年4月1日から施行されています。

 

所有者不明土地管理制度・所有者不明建物管理制度

 

 新たにできた管理制度では、所有者(共有者)が不明の土地建物(の共有持分)のほか、敷地利用権、土地建物にある所有者(共有者)の動産、対象財産の管理や処分などによって得られた金銭が管理の対象となります(改正民法第264条の2第2項、第264条の3第1項、第264条の8第2項、同第5項)。

 

 このように、この制度では管理対象が特定の土地建物に関連する財産に限られ、行方不明者の他の財産についての調査や管理は不要であるため、管理期間の短縮化や裁判所に納める予納金等の経済的負担が軽減されることが見込まれます。

 

管理人の権限

 

 この制度によって選任される所有者不明土地管理人・所有者不明建物管理人には、対象財産の保存行為のほか、対象財産の性質を変えない範囲内での利用行為・改良行為を行う権限が与えられ(改正民法第264条の3第2項)、第264条の8第5項)、対象財産に関する訴訟については管理人自身が原告又は被告として手続を行います(不法占拠者に対する明渡請求訴訟など。第264条の4、第264条の8第5項)。

 

 また、裁判所の許可は必要ですが、対象財産を売却したり建物を解体したりすることも可能です(改正民法第263条の3第2項、第264条の8第5項 )。

 

利用の条件

 

①利害関係の存在

この制度の申立をするには申立人に利害関係があることが必要となりますが、一般的には以下のような関係があれば利害関係が認められると思われます。

 

・公共事業の実施者など不動産の利用・取得を希望する者

・共有不動産の他の共有者

 

なお、国や地方公共団体の長については、特例で所有者不明土地・建物管理人の選任について申立権限が与えられています(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法第42条2項、同5項)。

②所有者・共有者を知ることができないか、その所在を知ることができないこと

この条件をみたすには、登記簿のほか、住民票や戸籍、法人であれば商業登記簿上の事務所などを調査する必要がありますが、所有者の所在が不明な場合だけではなく、そもそも誰が所有者であるかを特定することができない場合でも利用は可能です。

③管理状況等に照らして管理の必要性があること

管理の必要性はケースバイケースですが、公共事業の実施のために不動産の取得を希望したり、行方不明者所有の建物が老朽化して危険であるため解体が必要な場合などが考えられます。

④対象が区分所有建物ではないこと

マンションなどの区分所有建物の専有部分と共用部分はこの制度の対象外となっています(建物の区分所有等に関する法律第6条第4項)。

 

手続の流れ

 

①管理命令の申立

【管轄】

対象となる土地建物の所在地を管轄する地方裁判所(改正非訟事件手続法第90条1項)

 

【収入印紙】

1,000円×申立ての対象となる土地・建物(共有持分の場合はその持分)の筆数

 

【切手】

6,000円

 

【予納金】

収入印紙・切手のほかに、管理費用や管理人報酬のための費用として、裁判所が命じる予納金を納める必要があります。

 

※東京地裁HPより

②異議届出期間等の公告

所有者の保護のため、裁判所はこの制度の申立があったことや、異議があるときは一定期間内に届出をすべきこと、届出がないときは管理命令が発令されることを公告します(改正非訟事件手続法第90条2項、同16項)。

 

この異議申出期間は1か月を下ることができないとされています(同上)。

③異議届出期間の経過

裁判所は、この異議届出期間が経過しないと管理命令を発令することができません(非訟事件手続法第90条2項、同16項)。

④管理命令の発令と管理人の選任

管理命令を発令する場合、裁判所は必ず管理人を選任しなければなりません(改正民法第264条の2第4項、第264条の8第4項)。

 

誰を所有者不明土地(建物)管理人に選任するかは裁判所が決めますが、事案に応じて弁護士や司法書士、土地家屋調査士などが選任されることが想定されます。

⑤嘱託登記

管理命令が発令されると、裁判所書記官は職権で対象不動産やその共有持分に対する管理命令の登記を嘱託します(改正非訟事件手続法第90条6項、同16項)。

⑥(処分する場合)裁判所の許可・供託・公告

管理命令の対象財産を処分する場合、管理人は裁判所から許可を得る必要があります(改正民法第264条の3第2項、第264条の8第5項)。

 

対象財産の管理や処分などによって金銭が生じた場合、管理人はその金銭を供託することができますが、供託したときはその旨を公告する必要があります(改正非訟事件手続法第90条8項、同16項)。

 

法律上は「供託することができる」とされているため供託は義務ではありませんが、不動産の売却後に金銭を預かったままでは管理業務が終了しませんので、通常は供託することになるのではないかと思います(私見)。

 

所有者不明土地建物の適切な管理や処分の促進に資する制度

 

 この制度の活用方法として想定されるのは不動産の維持管理や裁判所の許可を条件とした売却・解体であり、それ自体は従来の管理制度とさほど変わりません。

 

 もっとも、従来のような人を単位とした管理ではなく財産を単位とした管理であるため時間やコストの面で利用しやすくなると思われることから、今後、この制度の活用によって所有者不明の不動産の管理が適切になされ、また、処分の円滑化も進むのではないかと期待しています。

 

弁護士 平本丈之亮