不貞にまで至らない男女間の交際等が不法行為になると判断されたケース

 

 男女間トラブルで典型的なものはいわゆる不倫問題ですが、相談をお受けしていると、「不倫」というキーワードは出てくるものの、実際には性交渉にまでは至っておらず不適切な交際にとどまっていたり、あるいは疑わしいが性交渉があったことの立証までは困難というケースがあります。

 もっとも、性交渉にまで至っていない場合であっても、ケースによっては不法行為として損害賠償を命じられる場合もあるため、今回は、この点に関する裁判例をご紹介します。

 

東京地裁平成28年9月16日判決

 この事案では、原告が、自分の配偶者と親密な関係にあった者(A)に対して慰謝料の請求をしましたが、裁判所は性交渉をもった疑いは払拭できないものの、そのような事実が存在したとまで認めるに足りる証拠はないとしました。

 しかし、これに続き、性交渉までは認められないとしても、Aと原告の配偶者が以下のような関係にあったことは社会通念上許容される限度を逸脱していたとして慰謝料の支払いを命じました。

 

裁判所が指摘した事実関係

・Aと配偶者は、携帯電話で頻繁に連絡を取り合い、2人で食事に出かけたりカラオケ店に入店したりしていたほか、休日に自動車で外出したりしていた。

・Aと配偶者は、腕を組んだり、手をつないだりして歩くこともあった。

・Aと配偶者の交際関係は1年半近くにわたって継続していた。

・2人は抱き合ったりキスをしたりしていたほか、Aが服の上から配偶者の身体を触ったこともあった。

 

東京地裁平成29年9月26日判決

 このケースにおいて、原告は、性交渉の存在を理由に慰謝料の請求をしたのではなく、「配偶者を有する通常人を基準として、同人とその配偶者との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流、接触」も不貞行為に含まれると主張し、配偶者(B)とLINEでやりとりをした複数の者に対して慰謝料を請求しました。

 これに対して裁判所は、このような原告の主張について以下のように述べ、一部の被告に対する慰謝料の請求を認めました。

 

「原告は、不法行為法上の違法を基礎付ける不貞行為は、性交渉及び同類似行為に限られず,配偶者を有する通常人を基準として,同人とその配偶者との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流,接触も含まれる旨主張するが、不貞行為とは、通常、性交渉又はこれに類似する行為を指し,原告主張の異性との交流,接触が不貞行為に該当するということはできず,採用できない。原告の主張は、不貞行為に該当しないとしても、上記婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流、接触も不法行為に該当すると主張する趣旨を含むものと思料されるところ、判断基準として抽象的に過ぎ、そのまま採用することはできないが、不貞行為が不法行為に該当するのは婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからであることからすると、原告主張の具体的事実について、その行為の態様、内容、経緯等に照らし、不貞行為に準ずるものとして、それ自体、社会的に許容される範囲を逸脱し、上記権利又は利益を侵害するか否かという観点から、不法行為の成否を判断するのが相当である。」

 

慰謝料請求が認められた被告について裁判所が指摘した事実関係

・被告がBとの間で、被告とBが、従前、性的関係を有していたことを前提として、LINEに性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めるやりとりをしたこと
・従前、性的関係を有していたことを前提として、性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めることは、不貞行為には該当しないもののこれに準ずるものとして社会的に許容される範囲を逸脱するものといえ、婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであるというべきであるから、原告に対する不法行為を構成すると認められる。

 

 なお、被告は,上記のようなやり取りは冗談であり,その内容をBに確認すれば分かるのであるから婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性があるとはいえず不法行為に該当しない旨も主張しましたが、裁判所は、このようなやり取りを目にした原告が被告との関係をBに問い質し,真意の確認を求めること自体,Bとの信頼関係に影響し夫婦関係を悪化させるものであることは容易に推察することができるから,Bに確認をすることにより冗談であるとの回答が得られたとしても不法行為の成否を左右するものとはいえないとして被告の主張を退けています。

 

 以上のように、たとえ性交渉がなかったとしても、その関係が社会通念上許容される範囲を逸脱する場合には、配偶者に対する慰謝料の支払義務が発生することがあります。

 どの程度の交際関係があれば社会通念上許容される程度を逸脱するのかについて明確な基準はなく、2番目に紹介した裁判例が指摘するように行為の態様や内容、経緯等を総合的に判断するほかはありませんが、少なくとも今回ご紹介したような行為については実際に慰謝料の支払いを命じられる可能性がありますので、性交渉がなければ慰謝料が発生しないわけではないという点については注意が必要です。

 

 弁護士 平本丈之亮

2020年7月10日 | カテゴリー : 慰謝料, 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

遺産分割で弁護士に相談・依頼した方が良いケース

 

 遺産分割については、必ずしも弁護士に依頼する必要はなく、多くの場合、相続人の間で円満には話し合いがなされて解決しています。

 しかし、遺産分割は限られた遺産を分けるものであるため本来相続人間の利害が対立する関係にあり、生前の関係も相まってひとたびトラブルが生じると深刻化することがあります。

 そのため、紛争が起きる可能性があったり既に紛争が発生している場合には弁護士に相談や依頼をして紛争の予防・解決を図ることが望ましい場合がありますので、今回はその点についてお話ししたいと思います。

 

 【相続人同士の関係が疎遠な場合】 

 一口に相続人といってもその関係は様々であり、場合によっては疎遠なこともあります。

 関係が疎遠になる理由は色々ですが、被相続人が再婚していて以前の配偶者との間に子どもがいる場合や、二次相続・三次相続が発生して相続人の数が増えてしまった場合などが良くあるパターンです。

 このようなケースでは、相続人同士の信頼関係が乏しいため意見の相違が生じることがありますので、疎遠な親族と折衝する場合の注意点についてあらかじめ弁護士のアドバイスを受けることが有益であり、また、直接疎遠な相続人に働きかけるのではなく弁護士をクッションとして挟むことによって余計な軋轢を避けることができ、利害調整の過程で生じる精神的ストレスを軽減できるメリットがあります。

 

 【相続人の間で遺産の分割を巡って意見の対立が起きそうな場合】 

 このパターンでは未だ紛争が生じているわけではないものの、今後、協議の段階で紛争化する可能性が具体的に予想されているという場合ですので、あらかじめどのような点が問題となるかを弁護士と検討したうえで協議に臨むことによって、紛争化を避けたり深刻化を防止することが期待できます。

 

 【相続人の間で既に遺産の分割を巡って意見の対立が起きている場合】 

 このケースではもはや相続人間で円満に分割協議を成立させることが困難であり、法的知識を駆使して相手と折衝したり調停や審判を見据えた対応が必要となりますので、弁護士に相談や依頼をすることが有益です。

 ただし、弁護士に依頼せず直接自分で協議を進めたり調停を申し立てる方もいらっしゃいますので、最終的に依頼するかどうかはご本人の時間的余裕や遺産規模などの諸事情を勘案して決めていただくことになります。

 

 【被相続人の財産を管理していた者のお金の使い方に疑問がある場合】 

 高齢の親の面倒を見ていた相続人がいる場合で良く見られるパターンですが、使途不明金の問題を遺産分割の内容に反映させることは難易度が高く、この点を巡って協議や調停が難航する場合が後を絶ちません。

 使途不明金の問題は、本来、現存する遺産の分割とは別個の問題であり、相続人間で折り合いがつかない場合には裁判手続によって解決すべき問題ですが、遺産分割の協議や調停の枠内でどこまでこの問題を扱うべきかといった点や、仮に訴訟を提起した場合にどの程度認められる可能性があるのかといった点について専門的な判断が要求されるため、適切な見通しをもって進めていかなければ最終的な解決までに長期間を要することになります。

 そのため、このような使途不明金問題がある場合には、弁護士への相談や依頼を検討していただいた方が良いと考えます。

 

 遺産分割は相続人間の利害調整が必要であり、事案によっては大きなストレスとなる場合がありますので、上記のようなケースでお困りのときは一度弁護士へのご相談を検討していただければと思います。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

2020年7月9日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

相続放棄を取り消すことはできるのか?

 

 相続が発生した場合、様々な理由により相続を希望せず、家庭裁判所に対して相続放棄をすることがあります。

 

 しかし、相続放棄をした後で、他の相続人から虚偽を告げられていたことが判明したり、脅されて相続放棄した場合(強迫)、勘違い(錯誤)によって相続放棄を取り消したいという場合がありますが、このような主張は認められるのでしょうか?

 

一定の場合には相続放棄を取り消すことができる

 この点は民法に規定があり、たとえば詐欺によって相続放棄をしたようなケースでは、家庭裁判所に対して申述することによって相続放棄を取り消すことができるとされています(民法919条2項)。

 

 【期間制限がある】 

 もっとも、一旦行った相続放棄をいつまでも取り消せるとすると権利関係が確定しないことになるため、相続放棄の取り消しには期間制限が課せられています。

 

 たとえば騙されて相続放棄をしたのであれば、騙されたことを知った時から6か月以内か、相続放棄をしたときから10年以内に取消をする必要があります(民法919条3項)。

 

 【取り消すには家庭裁判所への申述が必要】 

 相続放棄は家庭裁判所に対して「申述」をする必要がありますが、取り消す際にも同様に申述が必要となります(民法919条4項)。

 

 通常の取消の場合には、詐欺行為や強迫行為を行った者に対して直接取消の意思表示を行いますが、相続放棄については家庭裁判所へ申述することによって効果が生じるため、取消についても家庭裁判所への手続きが必要になっています。

 

勘違い(錯誤)があった場合

 たとえば、被相続人に多額の負債があると勘違いして相続放棄してしまった場合、このような勘違い(錯誤)によって行った相続放棄については、従前、その法的効果が「取消」(=一応有効)ではなく「無効」(=初めから効力がない)であったために、無効である旨の申述ができるかどうかが問題とされていました。

 

 この点に関し、福岡高裁平成16年11月30日決定(※)は、無効の申述を受理するような規定が存在しない(無効と取消は違う)ことや、相続放棄の効力について争いたいのであれば訴訟手続で争うことが可能である(なお、錯誤無効を認めた例として下記判決参照)ことなどを理由としてこれを認めませんでした。

 

※追記 ×11月20日 ○11月30日でしたので訂正します。

 

福岡高裁平成10年8月26日判決

「相続放棄の申述に動機の錯誤がある場合、当該動機が家庭裁判所において表明されていたり、相続の放棄により事実上及び法律上影響を受ける者に対して表明されているときは、民法九五条により事法律行為の要素の錯誤として相続放棄は無効になると解するのが相当である。」

 

 【民法改正の影響について】 

 このように、これまでは相続放棄に錯誤があった場合でも家庭裁判所への取消の申述という簡易な手段は使えずに別途訴訟で争うしかないという見解がありましたが、今般の民法の改正によって錯誤の法的効果が無効から取消に変更されたことにより、改正民法が適用される事案については錯誤があったケースでも相続放棄の取消の申述ができるという解釈も成り立ち得るのではないかと思われます(私見)。

 

 しかし、たとえ錯誤を理由に相続放棄の取消の申述ができるようになったとしても、どのような勘違いであっても取消の申述が認められるわけではないと思われます。

 

 もともと相続放棄をしようと考えて相続放棄をしている以上、その部分については内心と表示との間に何らの錯誤はありませんので、錯誤によって取消をしたいというケースの多くは先ほど述べたような多額の負債があると思ったというような事情、いわゆる相続放棄をする際の動機にかかわる部分と思われます。

 

 そして、このような動機にかかわる部分に勘違いがあった場合、その動機が表示されている場合に限って取消が可能であるとされています(民法95条1項2号、同2項)。

 

 そのため、単に自分で勘違いしただけで、相続放棄をする動機については一切外部に表示されていないようなケースだと、おそらく錯誤を理由とした相続放棄の取消は認められないと思われます(先ほど紹介した福岡高裁判決も、動機が家庭裁判所か相続放棄によって事実上及び法律上影響を受ける者に表明されている必要があると述べています)。

 

 また、錯誤による取消は重大な過失がある場合にも認められないため、同居していたなど近しい親族の相続のケースだと、調査をすれば容易に勘違いに気付けたはずであるとして取消が認められない可能性もあると思われます。

 

相続放棄をするかどうかは慎重に判断することが必要

 このように、一旦行った相続放棄が取り消せる場合はあるものの、詐欺や強迫など他者からの違法な働きかけがあったことが明白なケースであればともかく、そのような働きかけがあったという証拠が乏しいケースや何らかの勘違いによって相続放棄したケースでは取消が認められないことがあり得ます。

 

 相続放棄については3か月という期間制限があり、短い期間で決断しなければならないため判断が難しい場合もあると思いますが、調査に時間がかかるときは相続放棄をするかどうか検討する期間を延長するための制度(熟慮期間延長の申請)もありますので、迷ったときはそのような制度を利用して慎重に調査をしたり法律相談を利用するなどして慎重に判断していただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年6月28日 | カテゴリー : 相続放棄 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

相続人の一部が行方不明の場合、どうやって遺産分割するのか?

 

 相続のご相談を受けていると一定の割合で発生するのが、相続人の一部に行方不明者がいるという問題ですが、今回は相続人の一部が見つからないという場合、どうやって遺産分割を進めるのかをお話ししたいと思います。

 

・遺産分割は相続人全員でしなければならない

 

 まず、遺産分割は相続人全員が関与しなければならず、一部の相続人を除いた形での遺産分割はできないという原則を押さえていただきたいと思います。

 

 不動産の名義変更や預金の払い戻しなど、対外的に遺産を移すためには相続人の印鑑証明の提出や署名などの手続が必要であるため、相続人の一部が行方不明の場合には手続が進められません。

 

・相続人を捜索する方法

 

 そのため、遺産分割をするためには、どこに住んでいるか分からない相続人を探し出すことからスタートしなければなりません。

 

戸籍の附票で捜索する方法

 この場合、一般的な方法は、亡くなった方の戸籍関係書類を取得して相続人が誰であるか確定した上で、各相続人の戸籍の附票を取り寄せることによって住所を捜索するというものです。

 

弁護士会照会を使って捜索する方法

 もっとも、住民票をきちんと移転していない場合だと、戸籍の附票を辿っても住所地にたどり着けないこともあります。

 

 この場合には一般の方が行方を調べるのは難しくなりますが、弁護士へ依頼した場合には「弁護士会照会」という方法によって所在が判明することがあります。

 

 弁護士会照会とは、受任事件を処理するために必要な場合、弁護士が所属する弁護士会に対して申出をすることにより、公務所その他公私の団体に必要な事項の報告を求める制度です。

 

 この方法によって相続人を捜索する場合、たとえば以下のような照会先に弁護士会照会をかけることで相続人の所在が判明することがあります。

 

 【①電話番号が分かっている場合】 

→通信会社に住所地を照会する

 

 【②免許をもっている可能性がある場合】 

→最後の住所地を管轄する警察の運転免許本部や公安委員会に免許更新時の住所地を照会する

 

 ①は住所地捜索の方法として良く使われますし、②についても実際に当職が照会をかけたところ相続人の所在が判明し、遺産分割協議を成立させることができたことがあります。

 

・それでも見つからない場合→不在者財産管理人

 

 このような方法を駆使しても相続人の所在が掴めない場合、裁判所に対して「不在者財産管理人」の選任を申し立て、選任された不在者財産管理人を相続人の代わりとして協議をすることになります(失踪宣告という方法もありますが時間がかかりますので、不在者財産管理人選任を使うケースの方が多いかもしれません)。

 

 【注意点① 法定相続分は確保する必要がある】 

 

 もっとも、ここで注意が必要なのは、不在者財産管理人は、あくまで不在者(=行方不明の相続人)のために選任されるという点です。

 

 不在者財産管理人は不在者の利益を図ることを任務としており、遺産分割の相手になるというのはあくまで副次的なものであるため、遺産分割を行うには不在者の権利を確保する必要があります。

 

 そのため、不在者財産管理人を選任して遺産分割を行う場合には、法定相続分以上の遺産を確保する必要があるため、その点の準備ができてから申立をするのが無難です。

 

 【注意点② 高額の予納金が必要になる場合がある】 

 

 また、不在者財産管理人は、通常、弁護士等の専門職が選任されるため、その者の報酬を確保するために数十万円の予納金を裁判所に納める必要があります。

 

 予納金は遺産規模や想定される管理業務によって異なり、ケースによってはかなりの額になることがありますので、このような負担が生じる可能性も考慮しておく必要があります。

 

・早めに遺産分割をすることが有効

 

 以上のように、相続人の一部が行方不明でも最終的には遺産分割はできますが、それを実現するために生じるコストが非常に大変になる場合があります。

 

 このような事態に至る理由は様々ですが、相談を受けていると、最初の相続が発生した後、遺産分割を放置してしまったために途中で相続人が死亡して二次相続、三次相続が発生し、これが繰り返された結果、行方不明者が生じるというケースが散見されます。 

 

 二次相続、三次相続が発生していくと、相続人が誰であるかを把握すること自体が難しくなり、遺産分割協議を弁護士に依頼しなければならなくなったり、今回お話ししたとおり行方不明者の捜索のために多大なコストを払わなければならないなど不利益が大きくなりますので、相続が発生したら早期に処理するのが肝要です。

 

弁護士 平本丈之亮

2020年6月25日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

個人破産と債権者集会について~自己破産⑭~

 

 自己破産のご相談やご依頼を受けると、債権者集会とはどのようなものかについて尋ねられることがあります。

 

 ひとくちに債権者集会といっても、どういう場合に開催され、具体的にどのような手続が行われるのかはなかなかイメージが沸かないと思いますので、これから自己破産を検討している方や債権者集会を迎える予定の方について、よくあるご質問についてお答えしたいと思います(対象はいわゆる個人破産です)。

 

Q1 どういう場合に開かれるのか?

 破産管財人が選任される場合です。

 

 資産がなく借入の理由にも大きな問題がない場合には、「同時廃止」といって破産管財人が選任されませんが、このケースでは債権者集会も開かれません。

 

 もっとも、借入理由に問題がある場合、同時廃止となり債権者集会は開かないものの、裁判所に出頭して裁判官との面談(免責審尋)が必要になる場合はあります(なお、免責審尋に債権者は出頭しません)。

 

Q2 破産手続開始決定からどれくらいで開かれるのか?

 ケースバイケースですが、概ね破産の決定から3ヶ月程度後に開催されます。

 

Q3 債権者はどの程度出席するのか?

 ケースバイケースですが、債権者が金融業者や信販会社などのみであればほとんど債権者は出席しません。

 

 個人でも事業を営んでいた場合には取引先が出席する場合があり、家賃の滞納がある場合に大家さんが出席することもありますが、どちらかといえばレアケースです。

 

 出席率が高いのは、個人からの借入がある場合です。

 

 出席する理由は借入の理由や金額によって様々であり、直接意見を言いたいという強い希望がある場合から、特に何か言いたいことがあってきたわけではなく裁判所から手紙が届いたから来ただけという場合までありますが、一銭も返さずに破産していたり借りてすぐ破産した場合等問題があると、債権者集会が紛糾することもあります。

 

Q4 時間はどれくらいかかるか?

 債権者が出席しない場合には、概ね10分程度です。

 

 債権者が出席している場合には、破産管財人が破産に至る経緯や財産状況などを丁寧に説明し、債権者からの質問に対して応答することになりますので、この場合には30分程度かかることもあります。

 

Q5 どのような服装が望ましいか?

 特に決まりはありませんが、ラフな格好やだらしない格好はお勧めしません。

 

 先ほど述べたとおり債権者が出席しないことも多いですが、身だしなみも債権者に対する誠意の表れですので、債権者が来る来ないにかかわらず、自分なりにきちんとした外見を心がける必要があります。

 

Q6 破産者は債権者集会で何か発言を求められるのか?

 債権者が出席している場合には、少なくとも債権者に対して謝罪をすることが望ましいところですが、代理人弁護士がついているケースでは、基本的にはそれ以外は代理人が対応するのが通常です。

 

 債権者が出席しない場合で、かつ、破産手続が次回に続行される場合には、特に発言しないままその日の集会が終わることもまれではありません。

 

 他方、その日で破産手続が終了する場合だと、債権者集会後に引き続き行われる免責審尋において、裁判官から借入の経緯や反省点、生活再建に向けて取り組んでいることなどについて質問があり、自分自身の言葉で伝えることが求められます。

 

 ここは代理人の弁護士に任せることができずご自分で対応する必要がありますので、免責審尋が行われそうなタイミングでは、裁判所に提出した書類を見直したり反省点などを改めて考えておくなど準備をしておくことが重要です。

 

 まれに、弁護士に依頼したことで安心してしまい当事者意識が薄くなる方もいらっしゃいますが、そのような方は裁判官に見抜かれて厳しく追及されることもありますので最後まで抜かないよう注意が必要です。

 

Q7 債権者集会が続行される場合、次の集会期日はいつ頃になるか?

 ケースバイケースですが、通常3ヶ月程度です。

 

Q8 債権者集会を欠席するとどうなるのか?

 正当な理由のない欠席は説明義務に違反するとして免責不許可事由に該当するため、大きな問題となります。

 

 急な体調不良などやむを得ない場合は、緊急性の程度にもよりますが可能な限り診断書などを提出したうえで、次回の債権者集会には必ず出頭するようにします。

 

 なお、仕事の都合などは基本的には正当な理由にあたりません。

 

 

 

 いかがだったでしょうか?

 

 債権者集会は破産管財人が選任されるケースでは避けて通れない手続ですので、ここでお話ししたことや代理人弁護士からのアドバイスなどからイメージをつかんでいただき、誠実に対応していただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮 

 

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不貞行為の慰謝料の示談が無効になったり取り消されることはあるのか?

 

 不貞行為によって慰謝料の請求をし、示談や和解が成立したにもかかわらず、あとになって公序良俗に反し無効である、強迫があったから取り消すなどと争われる例があります。

 

 不貞行為があると被害者はどうしても感情的になってしまうため、請求行為に行きすぎがあったり高額になったりするのが原因ですが、今回は、この点が問題となった最近の裁判例を3つほどご紹介したいと思います。

 

東京地裁平成29年3月15日判決

 【合意の当事者】 

夫と妻の不貞相手の男性

 

 【合意の内容】 

和解金600万円

 

 【和解契約が強迫により取り消せるか】 

①夫と調査会社らの男性4名が妻と不貞相手のいるマンションに深夜0時30分頃に押し掛けたこと

 

②夫は、妻からあらかじめ渡された合鍵を使用してマンションに立ち入ったものであるが、マンションの契約者は妻であり、そのマンションに全くの第三者を伴って立ち入ることは妻の意思に反するものであり違法性を帯びるものであること

 

③同行した調査会社の社長が不貞相手に携帯電話機を見せるように述べてこれを受け取り、これをすぐに返還せずに手の届かないベッドの脇に置いたこと

 

④③のような行為は、不貞相手に対して、夫らが自分の連絡手段を奪おうとしていると感じさせる可能性が十分にある行為であり、不貞相手が恐怖感を抱きやすい状態にあったことを裏付ける事情であること

 

⑤調査会社の社長が不貞相手に対して、勤務先のコンプライアンス委員会に知らせて解雇させることもできるが、和解契約に応じればさらなる攻撃はしない旨告げ、和解契約書の作成を引き延ばそうとした不貞相手に対して、夫や調査会社の社長が現場での作成を求めたこと

 

⑥①~⑤のような立ち入りの態様やその後のやり取りの内容からすると、手段の点で正当な権利行使としての相当性を欠くものと言わざるを得ない。

 

⑦600万円という金額も、不貞行為の期間が約半年にとどまっていることに照らすと、妻と不貞相手が週に4、5回程度会っており、離婚はしていないものの婚姻関係が回復する見込みがないことを考慮してもやや高額にすぎること

 

⑧以上を踏まえると、本件和解契約は、不貞相手が解雇などの不利益を被る可能性があるという恐怖感を感じて応じたものであり、強迫によって取り消し得るものである。

 

東京地裁平成28年1月29日判決

 【合意の当事者】 

夫と妻の不貞相手の男性

 

 【合意の内容】 

慰謝料300万円

 

 【和解契約が公序良俗に反して無効か】 

①被告が提訴前の代理人弁護士を介した交渉において不貞関係を争っておらず、むしろ和解後の残金の支払いに応じる姿勢をみせていたこと

 

②被告は和解契約書に記載されていた「不倫交際」という文言の「不倫」について、肉体関係を伴わない交際まで含むと理解していたと述べるが、日常用語として不倫と不貞はほぼ同義であり、その他の事情も考慮すると不自然と言わざるを得ないこと

 

③慰謝料300万円という金額が暴利行為といえるほど高額であるとは、現在の訴訟における不貞慰謝料の認容額の相場に照らしてみても認めがたいこと

 

④よって、本件和解公序良俗に反するとは言えない。

 

 【和解契約が強迫により取り消せるか】 

①和解契約書を作成したのはファミリーレストランであり、周囲には客や店員がいたはずであるから、客観的に大声を上げるなどのような粗暴な言動には及びにくい状況であったこと

 

②和解契約書作成の時点で、被告は不貞行為を争っておらず、強迫がなければ金銭の支払いに応じなかったといえるか疑問であること

 

③代理人弁護士との交渉時において、夫の強迫行為を説明した形跡がないこと

 

④以上からすると、強迫によって和解契約がなされたと認定することはできない。

 

東京地裁平成28年1月13日判決

 【合意の当事者】  

妻と夫の不貞相手の女性

 

 【合意の内容】 

慰謝料500万円

 

 【和解契約が強迫により取り消せるか】 

①話し合いが行われたのは一般人も出入りするオープンカフェであり、被告の自由意思の形成に問題が生じるような状況であったとはいえないこと

 

②原告やその弟が交渉の際に述べた下記のような言葉は、不貞行為に対する慰謝料の支払交渉において社会的にみて許容される限度を超えるものとまではいえないこと

「僕らもやはり出るとこにでていかなきゃいけないし」

「ご実家のほうに伺わせていただきます。」

「お嬢さんも私立の学校に行ってらっしゃいますよね。」

「やっぱり出るとこ出ますよ。」

 

③被告も、500万円という金額の提案に対して、お金がないから支払えないと一貫して主張しており、その後、分割払いの話になったところ、自ら「うん、いいですよ。(月額)9万で。」と述べて、最終的に和解書に署名指印していること

 

④以上からすると、被告が原告に畏怖して和解に応じたとは認められず、本件和解を強迫によって取り消すことはできない。

 

 【和解契約が公序良俗に反して無効か】 

①不貞行為によって婚姻関係が破綻したことや、それまで夫婦の婚姻関係に特段の問題があったとは認められなかったこと、不貞行為の態様・期間等の一切の事情、夫が原告と復縁する意思はないと述べていることに照らせば、500万円という金額が不相当に高額ということはできないこと

 

②本件和解における支払いは分割払いとなっていたが、分割払いは一括では払えない場合に利用するのが一般であり、債務者に対する負担感は一括払いと大きく異なること

 

③以上のような事情のほか、本件の一切の事情に照らしても、本件和解が公序良俗に反するとは認められない。

 

権利行使にも社会的に相当なやり方が求められる

 

 慰謝料の請求は正当な権利行使ですが、たとえ正当な権利があり、これを実現するために必要があっても、そのための手段が社会的相当性を逸脱する場合には権利行使が認められないことになりますので、一番最初のケースが取り消されたことは事案の内容から見ても妥当と考えます。

 

 このケースでは強迫による合意の取り消しによって請求が棄却されていますが、事案の内容からすれば、仮に強迫が認められなかったとしても合意は公序良俗に反し無効と判断された可能性もあると思われます。

 

 この事案は、いわゆる調査会社の社長や社員が不倫現場に臨場して現場を押さえるという手法が問題となったものですが、このようなやり方にはリスクがあることが判決で示された点にも特徴があります。

 

結論に影響したと思われる事情

 

 1番目のケースと2番目・3番目のケースでは、最終的な合意の効力に関して結論が分かれましたが、結論に影響を与えたと思われる事情は概ね以下のようなものと思われます。

 

和解交渉が行われた場所

 

 2番目と3番目のケースは、いずれも第三者が周囲にいるオープンスペースでの交渉であり、このような場所での交渉であったことから、不貞相手の自由意思に対する抑圧の程度が高くなかったということが重視されています。

 

 1番目のケースはこれと対照的であり、深夜に男性4名が合い鍵を用いてマンションに押し掛けるという手段は恐怖心を与えるに十分なシチュエーションであったことが結論に影響しています。

 

金額

 

 2番目と3番目のケースでは、和解が有効であることの根拠として、いずれも不相当に高額ではないことが挙げられています(500万円という金額は高額と思いますが、本来、慰謝料は一括場合が原則であるため、分割払いでの合意がなされたという事情から債務者の負担が過酷とまではいえないとの評価につながったのではないかと考えられます)。

 

 1番目のケースについては金額そのものが600万円と非常に高額であり、この種のケースを取り扱う弁護士の感覚からすると相場の2~3倍程度にも達するものであるため、原告に不利に働いたものと思われます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年6月15日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

離婚を考えたときに検討すべきポイントについて

 

 様々な理由で離婚を考えたとき、離婚が本当にできるのか、子どものことはどうなるのか、お金の問題はどうなのかなど、一度に色々考えなければならないことがあります。

 このような場合、とりあえず弁護士に相談してみるのも有効ですが、その前に、まずは自分自身である程度問題点を整理することができていれば、その後の進め方についても迷いが少なくなります。

 そこで今回は、離婚が頭によぎったら考えておくべきポイントにどのようなものがあるのかをお話しします。

 

【Point1 相手が離婚を承諾してくれる見込みはあるか】

 何はともあれ、ここがまずもって一番大事なポイントです。

 ここでどの程度の見込みがあるかどうかで、離婚の進め方が大きく変わる可能性があるからです。

 たとえば、離婚そのものについては応じてくれそうであれば、基本的な方針は協議離婚となりますし、そもそも相手が離婚に対して大きく抵抗することが予想される場合には、協議離婚については選択肢から外すかほどほどにしておき、早期に調停の申し立て、あるいは訴訟まで見据えて準備を整えておくなど、その後の方針が大きく変わります。

 

【Point2 子どもの親権や面会交流について】

 離婚自体の進め方について見通しを立てたら、次に考えるのは子どものことです。

 子どもがいない夫婦であれば関係ありませんが、子どもがいる夫婦の場合、離婚そのものやお金の問題よりもこの点を巡って紛争になるケースが非常に多いため、以下のような点について相手の希望を予想して今後の見通しや方針を立てておくことをお勧めします。

 

 1 親権 

①こちらが取得を希望するのかそれとも相手に委ねるのか

 

②親権を希望した場合には取得できる可能性がどの程度あるのか(この点は弁護士への相談を推奨します。)

 

 2 面会交流 

①親権を相手に委ねる場合

 この場合、面会交流についてどのような取り決めを希望するかを考えておきます。

 具体的には、月の面会回数、1回の面会時間の目安、子どもの受渡方法、学校等の行事の取り扱いなどについてです。

 

②親権を希望する側

 この場合、相手が望むと思われる面会交流についてどのようなスタンスで臨むのか、あらかじめ検討しておくことが有益です。

 

【Point3 お金について】

 次に検討するのは、離婚に伴うお金の問題です。

 お金の問題として考えておくことは、概ね以下のようなものがあります。

 

 1 婚姻費用 

①婚姻費用を請求する側

 離婚成立までどの程度かかるかによりますが、話し合いが長引いたり調停などの手続が考えられる場合には当面の生活費として婚姻費用の請求が重要になります。

 そのため、婚姻費用としてどの程度の金額を望めるのか、どのような方法で請求するべきかなどについてはあらかじめ検討しておいた方が良いと思います。

 

②婚姻費用を支払う側

 他方、婚姻費用を支払うことになる側も、いつからいつまで、毎月いくら支払う可能性があるのかについて目途を立てておくことがその後の離婚の進め方に影響しますので、検討しておく必要があります。

 

 2 養育費 

①親権を希望する側

 養育費としてどの程度の金額を望めるかについては、離婚を切り出すタイミングにも影響しますので、必ず検討しておくべきポイントです。

 

②親権を委ねる側

 養育費を支払うことになる側も、いくら支払う必要があるのかを把握しておくと離婚を切り出す適切なタイミングを計ることができますので、検討しておくと良いポイントです。

 

 3 財産分与 

①請求する側

 この場合、相手にどの程度の資産があるのかや証拠の確保など、事前に検討しておくべきポイントがあります。

 証拠の確保などはあとでリカバリーが困難になることもありますので、財産分与を希望する場合にはできればアクションを起こす前の段階で弁護士へご相談ください。

 

②請求されることが予想される側

 この場合、実際に財産分与を求められたらどの程度の負担を覚悟しなければならないかを検討しておかなければ、離婚後の生計維持に支障を生じる可能性がありますので、あらかじめ試算しておく必要があります。

 

 4 慰謝料 

①請求する側

 何を根拠に慰謝料を請求するのか、その理由が本当に慰謝料の根拠となるのか、証拠はどの程度あるのか、望める金額はどの程度か等検討すべき点は多くありますが、慰謝料についてはご本人が検討しても的確に判断することは難しいところですので、弁護士への相談をお勧めします。

 

②請求される可能性のある側

 このケースでは、そもそも慰謝料の金額よりも有責配偶者として離婚自体が否定される可能性がどの程度あるかを検討しておく必要がありますので、自分に非があると考える場合にはその点も含めて慎重に検討しておくべきです。

 

 5 年金分割 

①請求する側

 年金分割を求めるには、あらかじめ必要な書類を取り付けておくことや合意方法に気を付けるべき点がありますので、事前の検討が有効です。

 

②請求されることが予想される側

 年金分割においてどの程度のものが分割されるかを検討しておくことは有益ですが、婚姻期間が短いようなケースでは請求されないこともありますし、年金分割の按分割合について争うことは困難な場合も多いため、他の検討事項に比べれば優先度は低くなります。

 

 離婚を考えた場合には概ねこのような視点で状況を整理しておくと、いざ実行に移そうと思った場合にどこが問題になりそうか、ある程度クリアになると思いますので、参考にしていただければ幸いです。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年6月14日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

スマートフォン(スマホ)の課金で作った借金で自己破産はできるのか?~自己破産⑬~

 

 スマートフォンの普及によって、多くの方が気軽にゲームなどを楽しむことができるようになりました。

 

 一方、このように気軽に始めることができることから、近時、ソーシャルゲーム等への課金によって多額の負債を抱え、支払不能に陥る方がいらっしゃいます。

 

 このような場合に、自己破産はできるのか、というのが今回のテーマです。

 

自己破産は可能だが、破産管財人が選任される可能性がある

 このようないわゆる「スマホ課金」も、ギャンブルと同様に浪費であるため、免責不許可事由に該当します。

 

 もっとも、免責不許可事由があっても、実際に免責が不許可になる割合は非常に低いため、スマホ課金が原因で借金を作ってしまった場合でも自己破産できる可能性は高いといえます。

 

 しかし、借金の理由が浪費であることから、借金の金額などの事情によっては破産管財人の選任が必要となり、そのような事情がない場合に比べて裁判所に対して納めなければならない費用が高額になる可能性があります。

 

申立までの準備をきちんと行う必要がある

 スマホ課金が免責不許可事由に該当する以上、原因であるゲーム等をそのまま継続することは免責にとってマイナスになるため、ゲーム等をやめることが必要です。

 

 また、なぜそのような過大な課金をしてしまったのか、その原因について自分なりにきちんと考えて、借金を作った原因や反省点などを陳述書に記載し、反省が本物であることを裁判所に示す必要もあります。

 

 弁護士などに依頼した場合には、第三者の視点からご自身の問題を指摘してもらったり反省すべき点などについて議論し、それらを形にする手助けをしてもらえますので、不安がある場合には依頼を検討していただくことになります。

 

免責が認められない可能性が高い場合の対応

 スマホ課金によって作った借金があまりに高額であったり、それ以外にも複数の免責不許可事由があるなど、どうしても免責が認められなさそうであるというケースもまれに存在します。

 

 このような場合には、次善の策として個人再生を選択することになります。

 

 個人再生については、基本的には借り入れの理由は問題視されないことが多いため、自己破産が困難であると判断した場合にはこちらの利用を検討することになります。

 

 なお、自己破産で免責が許可される可能性が高いと思われるケースでも、自分の浪費によって破産するのは債権者に対して申し訳ないなどの理由から、一部でも返済するためにあえて個人再生を選ぶ方もいらっしゃいますが、支払能力があるのであれば、初めから個人再生を選択しても問題はありません。

 

携帯電話が使えなくなる可能性に注意

 スマートフォンでの課金については、通信料と合算して支払うキャリア決済が一般的ですが、スマホ課金によって支払い不能に陥ると、多くの場合サービス料金だけではなく通信料についても支払いができない状況に陥っています。

 

 このような事態にまで至ると、最終的には携帯電話の通信契約自体が強制解約されてしまう可能性もあり、不利益も大きくなります。

 

 したがって、通信料の滞納も発生しているようなケースで自己破産などの法的手続きを行う場合には、最悪、そのような事態が生じる可能性があることを考慮して別の通信契約をどのように確保するかもあらかじめ検討しておくことが必要です。

 

 もっとも、新しい通信契約を確保するために、破産直前に別の通信会社との間で携帯本体を分割払いで購入したりすると、結局その分割債務も破産債権として破産手続に入れざるを得なくなり同じことの繰り返しになる可能性がありますし、支払いの意思がないにもかかわらず契約したとして手続上問題になる危険がありますので、どのようなやり方で通信契約を確保するかについては専門家に相談することをお勧めします。

 

 当職自身、スマートフォンの課金が借金の大きな割合を占める債務整理のご相談を受け、自己破産や個人再生で解決した例が複数あります。

 

 通信契約は生活インフラであるため比較的慎重な対応が必要になりますが、きちんと準備して見通しをもって臨めば他の借金のケースと同じように解決できますので、お困りの場合はまずは最寄りの弁護士などへご相談ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

 

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同一方向に進行中の自転車の進路変更により自動車と接触した場合の過失割合~交通事故⑲~

 

 最近、自転車で通勤する人が増え、また、自転車を使用して物品の配送をするサービスも普及してきているようですが、それに伴い、自転車と自動車との接触事故の話も良く聞きます。

 

 今回は、自転車と自動車との事故のうち直進車同士での事故について、自転車が進路変更をした場合に関する過失割合について、別冊判例タイムズ38号をもとに説明していきたいと思います。

 

典型的な事故状況

【前方に障害物なし】

【前方に障害物あり】

 

【基本の過失割合】

【前方障害物なし 自転車:自動車=20:80】

【前方障害物あり 自転車:自動車=10:90】

 このケースでは、自転車の前方に駐停車中の車両などの障害物があるかどうかによって基本の過失相殺に違いがあります。

 

 前方に障害物がある場合は、後続する自動車としても、自転車が進路変更する可能性があることを容易に認識しうるため過失が重くなっています。 

 

過失割合の修正要素

 もっとも、以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【自転車の運転者が児童等・高齢者の場合】

自動車に対して+10% 

 児童や高齢者については、不意に進路変更をすることも多く、自動車側がより注意するべきであると考えられるためです。

 

 なお、「児童等」とは概ね13歳未満の者を言い、6歳未満の幼児も含みます。

 

 他の事故類型では児童と幼児とで過失の修正割合に差を設ける場合もありますが、この類型では幼児は自転車として扱うよりも歩行者として扱うべき場合が多いとの考えから、児童と差が設けられていません。

 

 「高齢者」とは、概ね65歳以上の者を意味します。

 

【自動車の「著しい過失」・「重過失」】

著しい過失:自動車に+10% 

重過失:自動車に+20%

 自動車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

自動車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①脇見運転などの著しい前方不注視

 

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

 

③概ね15㎞以上30㎞未満の速度違反

 

⑥酒気帯び運転(※) など

 

※ 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②居眠り運転

 

③無免許運転

 

④概ね時速30㎞以上の速度違反 など

 

【自転車が進路変更時に合図をしなかった場合】

自転車に+10%

 自転車が合図をしなかったことにより、事故発生の可能性を高めたと評価されるためです。

 

【自転車の「著しい過失」・「重過失」】

自転車に+5~10%

 自転車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

自転車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①酒気帯び運転(※1)

 

②2人乗り

 

③無灯火

 

④並進(※2)

 

⑤傘を差すなどの片手運転 

 

⑥脇見運転等の著しい前方不注視

 

⑦携帯電話等で通話しながらの運転や画像を注視しての運転 など

 

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

※2 複数の自転車が並んで走行すること

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②いわゆる「ピストバイク」など制動装置の不良 など

 

 なお、最近では猛スピードで走行する自転車による交通事故も聞きますが、高速走行している自転車(原動付自転車の制限速度である時速30㎞程度)については、もはや自転車ではなく単車として扱われ、別の基準が適用されることとされています。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

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婚姻費用・養育費の請求方法と注意点

 

 別居することになった場合、離婚するまでの生活費として重要になるのが婚姻費用であり、離婚後の子どもとの生活のために重要となるのが養育費です。

 では、いざ婚姻費用と養育費を請求しようと思った場合、いったいどうやって請求すれば良いのでしょうか? 

 

婚姻費用

 【裁判所外での請求に決まった方式はない】 

 実は、婚姻費用を裁判所外で請求する方法に、こうでなければならないという決まった方法はありません。

 そのため、相手方が誠実に話し合いに応じる可能性が高いのであれば、口頭でもメールでも良く、方法は問いません。

 

 【請求した時点の証拠化が重要】 

 もっとも、実際のケースでは金額や支払いの期間などを巡って交渉しなければらならないことも多いですし、残念ながら請求しても何かしら理由をつけて相手が話し合いに応じないケースもあります。

 

 このように交渉で解決せず、最終的に裁判所での審判にまで至るケースでは、請求した時点に遡って支払いを命じてもらえることが多いのですが、そこで問題となるのが、果たしていつ請求したのかということです。

 つまり、口頭での請求だと実際にいつ請求したのかが不明確であるため、協議が整わず裁判所に問題が持ち込まれた場合、請求したことが証拠上明確になった時点、すなわち調停時までしか遡ってもらえないことがあります。

 そのため、裁判所での解決を求める前に任意で交渉する場合には、少なくとも、いつ婚姻費用を請求したのかを明確に証拠化しておくことが重要となります。

 この点については、内容証明郵便で婚姻費用を請求した場合にその時点まで遡って支払いを命じた裁判例(東京家裁平成27年8月13日決定)がありますので、少なくとも内容証明郵便で請求しておけば安心です。

 もっとも、証拠として残す方法はなにも内容証明郵便に限らず、例えば電子メールなどであっても、それが相手に到達した事実と到達日を証明できればそこまで遡ってもらえる可能性がありますので、最低限、そのような形で証拠化しておくことをお勧めします。

 

養育費

 【離婚と同時に取り決めする場合】 

 この場合は離婚と同時に養育費の支払いがスタートするため、請求の時期や請求方法については特に気をつけることはありません。

 ただし、ご相談を受けていると、口頭で養育費の合意をしたものの離婚協議書などの形にしていないことがあり、そのようなケースだと改めて養育費の請求をやり直さなければならないこともあるため、離婚と同時に養育費を合意する場合には形にしておくことが重要です。

 

 【離婚後に請求する場合】 

 このケースでは基本的に婚姻費用と同様に考えてよく、当事者間での交渉からスタートする場合にはまずは請求したことを明確に証拠化し、解決が難しければ調停・審判という流れに至ることになります。

 

協議が難しければいきなり調停を起こしても良い

 なお、様々な事情から婚姻費用と養育費について相手と交渉することができない場合もあると思いますが、その場合には交渉を省いて調停を起こしても手続上は問題ありません。

 むしろ、別居に至る経緯や離婚の際の事情によっては、交渉を挟むことがかえってトラブルを招く場合もあり得ますので、そのようなケースであれば初めから調停を起こすことを考えることになります。

 

 

 今回は、婚姻費用や養育費を請求する方法や注意点についてお話ししました。

 交渉からスタートする場合には請求したことを証拠化しておくこと、取り決めしたことはきちんと形にしておくことが重要ですので、それらの点に気を付けていただきたいと思います。 

 

弁護士 平本丈之亮