最近の裁判例に見る婚約破棄の慰謝料

 

 男女間のトラブルの中で比較的多いものとして、婚約を破棄された、あるいは婚約中に相手方に不誠実な行為があり婚約を解消せざるを得なくなったというものがあります。

 相手方の婚約破棄に正当な理由がない場合や婚約中の不誠実な行為によってこちらから婚約を破棄せざるを得なくなった場合、慰謝料を請求できることがありますが、今回は実際の裁判の中でどの程度の金額が認められる可能性があるのかなどについて、近時の裁判例をご紹介したいと思います。

 

東京地裁平成28年3月25日判決

 【慰謝料】 

 200万円

 【判決で指摘された事項】 

①婚約破棄に至った経緯(※)

②婚約破棄によって原告が体調を崩し、職場において注意散漫になっていると指摘されるなど原告に深い精神的苦痛を与えていること

 

※どのような事実を算定の上で重視したかは判決文からは判然としないものの、結婚式と披露宴を開催し、一旦同居を開始したこと、その後の話し合いの中で、被告は結婚式の前から原告と添い遂げる気持ちがなくなっていたことや、それにもかかわらず結婚式・披露宴の中止や延期は考えていなかった、という事情が認定されている。

東京地裁平成28年10月20日判決

 【慰謝料】 

 30万円

 【判決が指摘された事情】 

①原告が被告の婚約破棄後、自殺を図ったこと

②婚約破棄当時、原告と被告が婚姻生活と同等の相互扶助、協力関係に入っていたとまで評価しうる事情はないこと

③原告と被告は、被告の婚姻中の不貞行為から発展して婚約に至ったものであり、原告の婚姻成就に対する期待権は、被告とその元配偶者の婚姻秩序を侵害しつつ発生したものと言わざるを得ないこと

④原告が自殺未遂に及んだり失職したことは認められるが、社会通念上、婚約を破棄された者が自殺に及ぶことや失職を余儀なくされることが通常であると評することはできないこと(自殺や失職について受けた精神的損害については、加害者側がそのような事態が発生することについて予見していたか予見できたことの主張立証が必要であること)

東京地裁平成28年11月1日判決

 【慰謝料】 

 50万円

 【判決で指摘された事情】 

①被告は、原告と婚約をしていたにもかかわらず、他の男性と男女間の愛情を前提とした交際をし、それ以外にも少なくとも3件のデートクラブに登録して不特定多数の男性との交際を求めていたこと
②原告と被告の関係は、婚約期間はわずか1か月程度、交際期間もわずか3か月程度という非常に短いものであったこと

③原告及び被告は、両親や友人に対して婚約した旨を報告していたものの結納をしておらず、結婚式場の予約もしていなかったこと

④原告は、被告が他の男性と交際しまたはデートクラブに登録するなどしていることが判明するや、被告との関係を修復しようと試みることなく直ちに本件婚約解消を申し入れており、原告被告間の婚約関係がそれほど強固なものであったとまでは認められないこと

 

※被告は原告との間で婚約が成立しており,ほかの男性との間で男女間の愛情を前提とした交際をしてはならない義務を負っていたとして、その義務に違反したとして慰謝料の支払いが命じられたケース。

東京地裁平成28年11月14日判決

 【慰謝料】 

 150万円

 【判決で指摘された事情】 

①原告が被告の子を出産して婚約したこと

②原告は、婚約後に仕事で多忙になったため、一度、被告から婚約解消の申出を受けたが、その後、再び婚約し、さらに再度婚約を破棄されているところ、2度目の婚約破棄の時点では原告被告間の関係は必ずしも強固なものとはいえない状態となっていたこと

③被告は、原告が多忙になり会う機会が減ったことに寂しさ等を覚えて他の女性と交際し、原告との婚約を一旦破棄したが、その後撤回した。すると、今度は交際していた他の女性から職場で問題にすることや慰謝料を請求することなどを告げられたため、退職を余儀なくされることを恐れて自己保身のため再び婚約を破棄したこと

④被告は、調停を起こされるまでの間、原告と被告との間の子どもの認知を拒んだこと

東京地裁平成29年12月14日判決

 【慰謝料】 

 200万円

 【判決で指摘された事情】 

①原告と被告との同居期間が約3年という長期にわたっており、その間、両者は親密な男女関係を継続していたこと

②同居期間中、原告は2回にわたり妊娠し、人工妊娠中絶を行っていたこと

③被告の婚約破棄を正当化しうる事情はみあたらず、原告には非難に値するような言動等があったとも認められないこと

東京地裁平成30年2月27日判決

 【慰謝料】 

 100万円

 【判決で指摘された事情】 

①原告が、被告の生活費や被告の配偶者への婚姻費用の支払いなど種々の事務を行い、それに伴い相当な出捐をしてきたこと

②被告が、原告と婚約関係にあった間、他の者と婚姻関係にあったこと

 

 以上、いくつかの裁判例をご紹介しましたが、これらの裁判例を見ると、交際や婚約の期間、結婚の実現に向けた対外的行動の有無(結婚式や披露宴、結納など)、同居の有無や期間、妊娠出産や中絶の有無、婚約解消に至る際の悪質性の程度、婚約解消後の対応、交際開始の経緯(不貞から発展した関係かどうか)などを考慮して精神的苦痛の度合いを判断していることが分かります。

 どの程度の慰謝料が妥当かは、結局のところ上記のような諸事情を考慮した上で判断せざるを得ませんが、婚約破棄を巡っては感情面での対立が激化しがちであり、金額の交渉を含め冷静な話し合いが困難なことがありますので、必要に応じ、専門家へのご相談をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年8月1日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所