給与ファクタリングを巡る状況について

 

 近時、報道などで触れる機会が多くなってきたものとして「給与ファクタリング」(給料ファクタリング)というものがあります。

 

 今回は、「給与ファクタリング」というものがどんなもので、いったい何が問題になっているのかについてお話ししたいと思います。

 

給与ファクタリングとは?

 そもそも「ファクタリング」とは、企業がその保有する売掛債権を譲渡することによって資金調達を行い、買取業者は買い取った債権を回収する仕組みであるとされ、企業は本来の支払期限前に資金を手元にすることができ、買取業者側は支出した代金を超える金額を回収できるため双方ともに経済的メリットがある仕組みであると説明されます。

 

 給与ファクタリングは、このようなファクタリングの仕組を応用し、その対象とする債権を労働者の給料とする点に特徴がありますが、具体的には、資金を必要とする労働者が支払期限前の給料をファクタリング業者に売却し、その後、労働者は勤務先から受領した給料からファクタリング業者に譲渡した分の金額を支払うというやり方がなされるようです(労働基準法第24条1項により、業者は直接使用者に支払いを請求することができないとされているため、必然的にそのような仕組みになります)。

 

 たとえば、給料20万円が月末に入るとして、そのうち10万円分を給与ファクタリング業者に譲渡し、その対価として8万円を受け取ったとすると、労働者は月末に支給された20万円から10万円を業者に支払うというやり方になります(これにより業者は8万円を渡して10万円を受け取るため、2万円の利益を得ることになります)。

 

問題点として指摘されているもの

 このような給与ファクタリングについては、形式上は債権譲渡の仕組みが取られていますが、先ほどの例でいえば8万円の貸し付けを受け、利息込で10万円を返済しているのと同じであるため、実質的には貸金に該当し、貸金業法や出資法・利息制限法の適用があるのではないかという点が問題視されています。

 

 仮に給与ファクタリングが貸金だとすると、これを取り扱う業者には貸金業の登録義務があり、また、金利規制の適用もありますが、報道によれば給与ファクタリング業者が得ることになる経済的利益を利率換算すると超高金利になる場合が多いとのことであるため、そのような取引は違法ではないか、という点も指摘されています。

 

金融庁の見解

 金融庁は、労働者が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、その労働者を通じて資金の回収を行うという仕組みが貸金業に該当するかどうかという点について、一般的な法令解釈に係る書面照会手続における回答として、本年3月5日、以下のような見解を示しました。

 

「個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権について、労働者が賃金の支払を受ける前にそれを他に譲渡した場合においても、その支払については労働基準法(昭和22 年法律第 49 号)第 24 条第1項が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがって、その賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないとの同法の解釈を前提とすると、照会に係るスキーム(個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うこと。)においては、いかなる場合であっても賃金債権の譲受人が自ら使用者に対してその支払を求めることはできず、賃金債権の譲受人は、常に労働者に対してその支払を求めることとなると考えられる。そのため、照会に係るスキームにおいては、賃金債権の譲受人から労働者への金銭の交付だけでなく、賃金債権の譲受人による労働者からの資金の回収を含めた資金移転のシステムが構築されているということができ、当該スキームは、経済的に貸付け(金銭の交付と返還の約束が行われているもの。)と同様の機能を有しているものと考えられることから、貸金業法(昭和 58 年法律第 32 号)第2条第1項の「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」に該当すると考えられる。したがって、照会に係るスキームを業として行うものは、同項の「貸金業」に該当すると考えられる。」

 

東京地裁令和2年3月24日判決

 また、まだ原典にはあたれていませんが、東京地裁において、給与ファクタリングは経済的には貸付による金銭の交付と返還の約束と同様の機能を有するものであり、債権譲渡代金として交付された金銭は貸付に該当するため貸金業法や出資法の適用があるとして,実質的な利率が貸金業法42条1項の定める年109.5%を大幅に超過するため取引は無効である、という判決が下されたようです。

 

集団訴訟の提起

 さらに、本年5月13日、給与ファクタリングの利用者が、給与ファクタリング業者との取引が貸金に該当することを前提に、支払った金額の返還を求める集団訴訟を提起したという報道がありました。

 

 このように、給与ファクタリングについては、貸金であることを前提とした規制当局の判断やこれを追認する司法判断が出始めており、集団訴訟の提起もなされるなど問題点が顕在化している状況にあります。

 

 給与ファクタリングが貸金に該当するかどうかは今後の司法判断の積み重ねによって定着していくことになると思いますが、貸金であるかどうかを一先ず措いても、少なくとも経済的に見た場合には高金利での借入と同様の負担となるものが多いと思われるため、利用すればするほど経済的に困窮していく結果になりかねないものと思われます。

 

 給与ファクタリングの背景としては生活困窮や多重債務など様々な要因が考えられますが、生活困窮であれば相談支援機関の活用、多重債務の解決であれば弁護士等の専門家の支援が可能ですので、そのような窓口への相談をご検討いただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

(2020.7.29追記)

 報道によれば、大阪府警が給与ファクタリング業者を貸金業法違反(無登録営業)の被疑義実で逮捕したようです。最終的な処分がどうなるか不明ですが、仮に起訴された場合には、給与ファクタリングに対する司法判断がより明確になるものと思われます。

 

(2021.2.12追記)

 報道によると、大阪地裁は2月9日付で、給与ファクタリングの実質的経営者について有罪判決を下した模様です(昨年7月に逮捕報道があった事案と同一事案かは報道からは不明)。

 また、同日、東京地裁では、給与ファクタリングが貸金業にあたるとして業者側に返還を命じる判決を下したとの報道もありました。

 

2020年5月16日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所