弁護士費用特約の使い方~交通事故⑰~

 

 交通事故に遭って弁護士に相談や依頼をしたいという場合、ご自分の自動車保険に「弁護士費用特約」がついていると、一定の限度ではあるものの法律相談料と弁護士費用を保険金で賄うことができます(標準的なものだと法律相談は10万円、弁護士費用は300万円が上限になっています)。

 

 もっとも、弁護士費用特約については、念のため加入したものの実際に使ったことがない方が一般的であり、いざ使おうと思ったときにはどうやって使ったら良いかわからないということが多いと思いますので、今回はこの点についてお話しします。

 

STEP1 保険証券や保険会社に確認する

 

 ご自分の保険に弁護士費用特約が付いているかどうかは保険証券に記載してありますので、保険証券を確認する方法が考えられます。

 

 もっとも、交通事故に遭った場合、取り急ぎ自分の加入する保険会社に連絡することが一般的ですので、わざわざ保険証券を見なくても、保険会社に電話などで確認すれば特約加入の有無はわかります。

 

STEP2 弁護士を探す

 

 弁護士費用特約に加入していた場合、次にするのは弁護士を探すことです。

 

 弁護士を探す方法としては大きく分けて2つあり、①1つは加入する保険会社や加入した際の保険代理店を通じて探してもらう方法、②もう1つは自分で探す方法です。

 

 どちらが良いかは一概には言い難く、探す手間が省けるという意味では前者ですが、自分に合う弁護士を自分で探したい場合には後者を選ぶことになります。

 

 

保険会社や代理店に紹介を依頼する場合

保険会社を通じて弁護士を探してもらう場合、保険会社が顧問先や知り合いの弁護士を直接紹介するパターンと、弁護士会のリーガル・アクセス・センター(通称LAC)という組織に弁護士の選任を任せるパターンの2種類があります。

 

心情的に保険会社と普段から付き合いのある弁護士への依頼が気になるときは、保険会社にその弁護士との関係を聞いてみるか、あらかじめLACルートでの弁護士探しを依頼することが考えられます。

 

また、保険会社に紹介を依頼すると紹介されるのはその保険会社と関係のある弁護士になりますが、保険代理店の場合は複数の会社の保険を扱っていることがあり、その関係で弁護士も複数知っていることがありますので、保険会社ではなく保険代理店に相談してみるのも一つの方法です。

自分で弁護士を探す場合

自分で探す場合、どうやって弁護士にアクセスしたら良いか分からないこともあると思いますが、HPなどの普及によって弁護士を探すことは以前よりも容易に探すことができるようになっています。

 

最近では自分の取扱分野を積極的に発信する弁護士も増え、交通事故をメイン業務としている事務所もあるようですので、自分で弁護士を探す場合はそのような情報をもとに比較検討して相談に行くことが考えられます(当事務所でも直接HPを見て相談に来られる方がいらっしゃいます)。

 

なお、この点に関する誤解として、弁護士費用特約は保険会社が選んだ弁護士しか使えないというものがありますが、先ほど述べたとおり基本的にそのようなことはありません。

 

ただし、各保険会社の約款には、弁護士費用特約の利用には保険会社の承認が必要であるという定めがありますので、自分で探す場合にはあらかじめ保険会社に相談し、了解を得ておくことは必要です。

 

使えない場合もある(免責)

 

 弁護士費用特約は交通事故の被害者にとっては使い勝手の良い保険ですが、故意・重過失(=故意に匹敵するほどの重大な過失)がある場合や酒気帯び・無免許など一定の場合には使えないことがあり(=免責)、保険会社によっては車検証に「事業用」と記載されている自動車での事故は対象外となっているところもあります。

 

 具体的にどのような場合に使えないのかは各保険会社のHPや約款に記載されていますが、知らない人同士での通常の交通事故であれば使えるケースの方が多いと思いますし、無過失の場合しか使えないとかケガが重い場合にしか使えないなどということもありません(当職自身、過失事案や少額事案で特約を利用して依頼を受けることがあります)。

 

弁護士費用特約を利用しても保険の等級は下がらない

 

 弁護士費用特約を利用しでも保険等級は下がらず、翌年の保険料は値上がりしませんので、特約を利用する際に保険料の増額を気にする必要はありません。

 

 以上の通り、弁護士費用特約に加入している方は弁護士費用の負担を軽くしながらアドバイスを受けたり適正な賠償を求めることが可能になりますので、交通事故に遭ってしまった場合にはこの特約がついていないかを一度確認していただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

交通事故の慰謝料が増額される場合とは?~交通事故⑦・慰謝料の増額事由~

 

 交通事故賠償の分野においては、慰謝料の計算方法や金額がある程度定型化されています。

 

 しかし、このような慰謝料の計算はいわば標準的な事案を前提としたものですから、例外的に一定のケースでは慰謝料が増額されることがあります。

 

 そこで、今回は、慰謝料の増額事由としてどのようなものがあるかについて説明したいと思います。

 

加害者が悪質な場合

 

 交通事故の慰謝料は事故によって受けた被害者の精神的苦痛を償うものですから、加害者が悪質なために被害者の精神的苦痛が強ければ、その分、償いとしての慰謝料も増えると考えられます。

 

 具体的な増額事由としては、たとえば、以下のようなものがあります。

 

 なお、ここで紹介する事情があったことは被害者側で立証する必要があり、また、一部の事情については増額をしなかった裁判例もあるようですので、必ず増額されるとまで言い切れないことには注意が必要です。

 

増額事由の一例

①加害者が故意に事故を起こした場合

 

②加害者に重過失がある場合

・無免許運転

・ひき逃げ(救護義務違反)

・飲酒運転

・著しいスピード違反

・ことさらに信号を無視した場合

・薬物などの影響により正常な運転ができない状態だった場合 など

 

③事故後の加害者の態度が著しく不誠実だった場合

・事故の証拠を隠滅した

・虚偽の供述や不合理な主張をして事故の責任を争った など

 

2一部の後遺障害で逸失利益が否定された場合

 

 先ほど述べたように被害者の悪質性が高いような場合以外でも、以下のような一部の後遺障害について「逸失利益」(=後遺障害によって失われた利益)が否定された場合、その代わりに慰謝料が増額されることがあります。

 

増額事由の一例

①歯牙障害

 

②醜状障害(外貌醜状)

 

骨の変形障害

 

・増額の幅と具体例

 

 これまで述べたような慰謝料の増額事由がある場合でも、どの程度増額されるのかは裁判官の裁量的な判断による部分であり、また、後遺障害の事案では逸失利益を認めるかどうかにもかかわってくるため、一定の基準があるわけではありません。

 

 そのため、ここでは参考としていくつかの裁判例を紹介するにとどめます。

 

【加害者が悪質な場合】

・酒気帯び運転の事案(福岡地判平成28年11月9日)

 入院60日、通院約4ヶ月半(実通院日数55日)、後遺障害等級12級13号だった事案について、入通院慰謝料を185万円(赤い本の基準で計算すると概ね170万円前後)、後遺障害慰謝料について315万円(赤い本の基準では290万円)とした。

 

・故意に車両を発進させて被害者に接触し、ボンネットに載せたまま走行して路上に転倒させ、さらに事故後逃走した事案(京都地判平成21年6月24日)

 通院76日だった事案について、通院慰謝料を130万円とした(赤い本の基準で計算すると概ね63万円程度)。

 

・加害者が高速道路において、猛スピードで車線変更をして追越車線上のトラックを左から追い越そうとした際に、走行車線を走行していたバイクに追突して死亡事故を起こした事案(被害者:25歳・独身・男性 静岡地裁浜松支判平成20年9月30日)

 加害者の過失が重大であること、加害者が反省の色をまったく示そうとせず、刑事裁判で約束した写経や月命日の訪問といった謝罪行為を反故にしたことなどを指摘し、死亡による慰謝料を2800万円とした(赤い本の基準では2000~2500万円の範囲)。

 

【後遺障害で逸失利益が否定され、慰謝料の増額が問題となったケース(一例)】

・外貌醜状の事案

【東京地判平成28年12月16日】

 顔面に後遺障害等級9級16号の外貌醜状が残った女性の後遺障害慰謝料について、830万円とした(赤い本の基準では690万円)。

 

【京都地判平成29年2月15日】

 顔面に後遺障害等級9級16号の外貌醜状が残った女児の後遺障害慰謝料について、870万円とした(赤い本の基準では690万円)。

 

【名古屋地裁一宮支判平成30年3月16日】

 顔面に後遺障害等級9級16号の外貌醜状(額の生え際付近)が残った男児の後遺障害慰謝料について、基準通り690万円とした(赤い本の基準では690万円)。

 

・歯牙障害の事案(大阪地判平成28年5月27日)

 歯に後遺障害等級14級2号の歯牙障害が残った女性の後遺障害慰謝料について、150万円とした(赤い本の基準では110万円)。

 

・骨盤変形の事案(名古屋地判平成15年12月19日)

 骨盤変形等で後遺障害等級12級5号の障害が残った男性の後遺障害慰謝料について、600万円とした(赤い本の基準では290万円)。

 

・上記のような特殊な増額事由がなくても、交渉や裁判によって慰謝料が増える場合があることに注意

 

 厳密に言えば慰謝料の増額事由ではありませんが、そもそも保険会社が提示してきた入通院に対する慰謝料と後遺障害に対する慰謝料が不相当に低いケースが多く見られます。

 

 このようなケースが起きるのは、保険会社がいわゆる裁判基準ではなく自社基準によって交渉をするためですが、弁護士が介入することでそれぞれの金額が増額されることも良くあります。

 

 

 交通事故に遭われた被害者やご遺族の方が、自分達のケースで妥当な慰謝料がいくらかを判断したり示談交渉することは容易ではなく、特に、今回お話したような増額事由がある場合にはなおさらと思われます。

 

 今回お話ししたとおり、加害者側の対応に問題があったり後遺障害について逸失利益を認めないという対応をされたときは慰謝料の増額事由を主張することが有益な場合がありますし、そもそもはじめから提示額が不相当に低い場合もありますので、少なくとも、示談の提示があった段階で一度は弁護士に相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

参考

【関連するコラム】

「交通事故で入院・通院した場合の慰謝料の計算と注意点~交通事故②・入通院慰謝料~」

「後遺障害に対する慰謝料の計算方法は?~交通事故③・後遺障害慰謝料~」

 

【死亡事案の場合の慰謝料の目安(赤い本)】

・一家の支柱  2800万円

・母親・配偶者 2500万円(H28以降) 

・その他    2000~2500万円(H28年以降)

 

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2度目の自己破産で免責を受けることはできるのか~自己破産⑩~

 

 ご相談を受けていると、過去に自己破産をしているが、2度目の自己破産を考えているというケースに出会うことがあります。

 

 では、一度破産している方が、改めて自己破産して免責を受けることはできるのでしょうか?

 

免責決定の確定から7年以内だと原則として免責は受けられない

 法律上、免責決定が確定してから7年以内であることが免責不許可事由とされているため(破産法第252条1項10号イ)、その期間内だと原則として2度目の免責は認められません。

 

 もっとも、再び破産しなければならなくなった理由がやむを得ないものである場合、たとえば病気や会社の倒産で失職したため生活のために借りざるを得なかったような場合には、例外的に2度目の免責が認められることもあり得ます。

 

 ただし、原則として認められないところを例外的に認めてもらおうということですから、本当にやむを得ない事情があるかどうかを慎重に判断するため、裁判所から破産管財人をつけてくださいと言われる可能性は高く、自己破産するための費用が余分にかかることは覚悟が必要です。

 

7年以上経過している場合には免責不許可事由にあたらないが、厳しく見られる傾向がある

 以上に対して、一度目の破産から7年が経過している場合には、法的には免責不許可事由にはあたりません。

 

 もっとも、過去に破産をしているにもかかわらず再び破産する場合には、家計管理などに何らかの問題があるのではないかとみられ、法的には免責不許可事由に該当しないものの、調査のため破産管財人の選任を求められる場合が多くあります。

 

 他方で、2度目の破産に至った事情がやむを得ないものであり、一度目の破産から相当の期間が経過しているようなケースでは、破産管財人をつけないで免責を受けることができたということもありましたので、この点はケースバイケースです。

 

 このように、一口に2度目の破産と言っても様々な事情があるため、必ず免責が受けられる、受けられないと述べることはできませんが、上記のとおり事情によっては認められる余地はありますし、仮に免責が認められない場合でも任意整理や個人再生など他の債務整理の方法によって解決できる場合もありますので、迷われた場合には専門家にご相談されることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

生活保護と自己破産について~自己破産⑨~

 

 失業、病気等により収入が減少し、借金の支払いはおろか、当面の生活すら困難となる場合がありますが、このような状態に陥った場合、生活の維持と借金の整理という2つの大きな問題に挟まれ、どうやって解決したらいいか途方に暮れてしまう方もいらっしゃいます。

 

 今回は、そのような状況に陥った場合に取り得る選択肢の一つとして、生活保護と自己破産の関係についてお話してみたいと思います。

 

生活保護を受けてから自己破産をすることはできる

 そもそも、生活保護を受けている方が自己破産できるのか、と疑問に思われる方もいらっしゃいますが、自己破産をすることは問題なく、むしろ、生活保護を受給する方に支払えないほどの借金がある場合には、保護費を支払いに充てることは望ましくないため、自己破産が適当です。

 

自己破産をした人も生活保護を受けられる

 逆に、自己破産した人は生活保護すら受けられないのではないかと言われる方もいますが、これも誤解であり、自己破産をしたから生活保護を受けられないということはありません。

 

順番は生活保護→自己破産の方が良い

 では、生活保護と自己破産が両立するとして、どちらを先にすれば良いのかというと、この点は生活保護を先に受給した方が良いと思います。

 

 というのも、生活保護を受給している場合、法テラスを利用して弁護士に自己破産の手続を依頼する際、法テラスが立て替える弁護士費用と申立費用実費の返還が事件終了まで猶予され、さらに、法テラスに免除申請をすることでこれらの支払いをしなくてもよくなる場合があるためです(ただし、必ず免除になるわけではなく、最終的には法テラスの判断になります)。

 

 それ以外にも、何らかの事情(免責不許可事由がある、売却できない不動産の共有持分があるなど)によって破産管財人の選任が必要になった場合、20万円を上限に法テラスが破産管財人の費用も立て替えてくれ、これも猶予や免除の対象になりうるというのも大きなメリットです。

 

 このように、生活保護を受給している状態で自己破産の手続を行うことにはメリットがありますので、債務整理とは別に生活再建にも同時に取り組まなければならない状態となった場合には、今回ご紹介した方法を前向きに検討していただきたいと思います。

 

借金問題で生活保護や自己破産を考えた場合、どこに相談したらよいか?

 では、生活が成り立たないため生活保護を考えたい、また、自己破産も検討しているという場合、どこに相談したらよいでしょうか?

 

 この点については、住居確保給付金や生活保護等の各種制度への繋ぎ、再就職に向けた就労支援など、生活上の困りごとについて幅広く相談できる窓口として、各地に自立相談支援機関というものがあります。

 

 盛岡市であれば、盛岡市くらしの相談支援室がこの自立相談支援機関となっていますが、具体的にご自分の地域でどこが相談窓口になっているかは各自治体のホームページに記載されていますので、相談を検討するときには確認していただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

過去の解決事例~交通事故⑯~

 

 当事務所において取り扱った交通事故事案のうち、人身事故に関する解決事案の一部を簡単にご紹介します。なお、あくまでこれは一例であり、弁護士に依頼することによって必ず損害賠償額が増額されることをお約束するものではありませんので、その点はご了承願います。

 

四輪車同士の接触事故(人身)

 【case1 後遺障害:非該当(むちうち)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約35万円

主な損害項目:通院慰謝料

 

 【case2 後遺障害:14級(むちうち)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約80万円

主な損害項目:入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益

 

 【case3 後遺障害:11級】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約2550万円

主な損害項目:後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益

※後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益についてなぜか著しく低い示談案が提示されていた事案です。レアケースであり一般化はできませんが、保険会社の示談案の中にはこのようなケースが含まれている場合もあるという一例です。

 

 【case4 後遺障害:9級】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約500万円

主な損害項目:入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益

 

 【case5 後遺障害:なし(むち打ち・治癒)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約27万円

主な損害項目:通院慰謝料

※事案そのものはオーソドックスなものですが、弁護士の介入から示談成立まで約2週間とスピード解決に至ったケースです。

 

四輪車と自転車との接触事故

 【後遺障害:非該当(むちうち)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約19万円

主な損害項目:通院慰謝料

 

四輪車と原付自転車との接触事故

 【case1 後遺障害:なし(骨折・治癒)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約42万円 

主な損害項目:入通院慰謝料

 

 【case2 後遺障害:12級】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約130万円 

主な損害項目:入通院慰謝料・後遺障害慰謝料

 

 今回、交通事故は弁護士が介入することで結果が変わる可能性があるということをお示しするためいくつかの解決例をご紹介しましたが、ここで紹介したケースは交通事故を取り扱う弁護士であれば同様の成果をあげることは可能だったと思われ、特段、当職に特別な技能があったから得られたというわけではありませんし、被害者の方に特殊な事情があったわけでもありません。

 不幸にして交通事故に遭ってしまった場合には、せめて適切な補償だけでも受けられるよう弁護士への相談をご検討いただきたいと思います。 

 

弁護士 平本丈之亮 

 

人身事故で弁護士に相談するタイミング~交通事故⑮~

 

 交通事故で怪我をした場合、治療費の問題や過失割合の問題、相手からの示談案の妥当性、保険会社との交渉によるストレスなど様々な課題が起きますが、交通事故に何度も遭うこと自体まれなことであり、多くの方にとっては一生に一度のことです。

 

 そのため、人身事故の被害者が相手の保険会社の言い分が正しいのかどうかを判断することは難しく、適切なタイミングで弁護士が関与することによって迷う場面を少なくすることができ、また、最終的に妥当な内容で解決できることも期待できます。

 

 もっとも、いざ弁護士に相談しようと思っても、どのタイミングで相談すれば良いか自体わからない方も多くいらっしゃると思いますので、今回はこの点をテーマにお話ししたいと思います。

 

人身事故で弁護士に相談するタイミング

 

1 事故直後

 事故直後は、警察や保険会社への連絡といった形式的な手続きをすることで手一杯であることが多く、そもそも怪我をしている場合はまずは治療に専念することが最優先ですから、弁護士への相談が後回しになるのも仕方がないといえます

 

 もっとも、怪我の治療の受け方によっては、示談交渉や最終的な賠償額に影響する可能性があるため、可能であるなら、ご本人でなくとも弁護士に相談した方が良いと思います。

 

 特に、骨折等を伴わないむち打ちのケースだと、通院先が適切かどうか、通院頻度はどの程度が適当か、将来的に受けておくことが望ましい検査など、後の後遺障害等級認定や示談交渉を見据えてあらかじめ見通しをつけておくことが有効な場合がありますので、相談に行くことを検討していただきたいと思います。

 

2 治療継続中

 この段階では弁護士への相談の優先度はそこまで高くはありませんが、ある程度治療が進んだ時点では相談に行った方が良い場合があります。

 

 治療継続中は相手方の保険会社が治療費を内払いしているケースが多いと思いますが、事故からある程度の期間が経過すると、保険会社から医師への医療照会によって、治療費の支払いを終了すると通告される可能性が出てきます。

 

 医師の判断と自分自身の感じる怪我の治り具合が一致していれば問題はありませんが、もしもまだ治っていないと感じ、治療費の内払いも継続してもらいたいという場合には、今後も治療によって症状が改善する可能性があることを診断書などで示してもらい治療費の内払いの継続を保険会社と交渉する余地もあることから、そのような場合は弁護士へ相談に行った方が良いと思います。

 

3 完治、あるいは症状固定

 交通事故による怪我が完治した場合にはその時点で事故による損害はすべて確定したことになりますので、今後の進め方を確認するためにも弁護士に相談するタイミングとしては良い頃合いです。

 

 また、治療を尽くしたものの治りきらず、これ以上続けても治療効果があがらないと医師が判断した場合(症状固定)にも事故による損害が確定したことになるため、やはり弁護士に相談するタイミングということになります。

 

【後遺障害があるときは、後遺障害診断書を作成する前が望ましい】

 後遺障害が残った場合には、その残存症状が自賠法所定の後遺障害等級(1~14級)として認定されるかどうか、あるいはその等級が何級になるかによって最終的な賠償額に大きな違いが出てきます。

 

 もっとも、ご相談を受けていると、すでに作成された後遺障害診断書において、相談者の訴える自覚症状が適切に記載されていなかったり、自覚症状は記載されているものの、その症状の裏付けとなる医学的検査が実施されていないか乏しい場合もあります。

 

 後遺障害等級認定は書面審査であるため、適切な認定を受けるには後遺障害診断書に必要な情報がきちんと記載されていることが必要ですし、一度作成してもらった後で書き直しや検査の追加を依頼するというのは気が引けて難しいこともあるかと思いますので、後遺障害があるときは、できれば後遺障害診断書を作成する前に弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。

 

4 保険会社からの示談案が出た時点、あるいは本人による交渉が決裂した場合

 この段階では、怪我が完治したり認定された後遺障害等級に問題がなければ最終的な金額の妥当性のみが問題となっていますので、弁護士へ相談に行くタイミングとしては適切です。

 

 このタイミングで相談を受けた弁護士は、聞き取った事故状況や治療経過、本人の生活環境や後遺障害等級など様々な事情から過失割合や損害額を検討して示談案が妥当かどうかを判断し、増額の可能性がどの程度あるかアドバイスをします。

 

 相談者としては、弁護士からのアドバイスを受け、保険会社からの提案で示談をするか、弁護士に委任して増額を求めるかを判断することになります。

 

相談はお早めに

 

 このように人身事故で弁護士に相談に行くタイミングは様々であり、適切なタイミングも人それぞれですが、早めに相談に行くことで対応に迷うことは格段に少なくなりますので、一般論として言えば早めの相談であればあるほど良いと考えます。

 

 交通事故については弁護士費用特約が付いていることも多く、この場合には相談料はかかりませんし、当事務所をはじめとして無料相談を実施している法律事務所もありますので、ぜひお早目の相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

別居期間は年金分割に影響するか?

 

 離婚の際に請求できるものとして「年金分割」がありますが、当職へのご相談の中でも年金分割についてのご質問が出ることが多くあります。

 

 ところで、実際に離婚に至るまでの間、長い期間別居している夫婦がいらっしゃいますが、そのような別居期間が長いケースにおいて、年金保険料の納付実績が多い方(多くは夫)から、年金分割の按分割合を5:5から修正すべきではないか(割合を減らしてほしい)、という主張をされることがあります。

 

 今回のテーマは、果たしてこのような理屈は通るのか?というものです。 

 

 別居と年金分割の按分割合の問題について裁判例がありますので、まずはそのうちのいくつかの裁判例を簡単に紹介していきます。

 

札幌高裁平成19年6月26日決定

「抗告人は,抗告人が定年退職する7年前から別居し,抗告人が定年退職した後は家庭内別居をしている旨主張する。しかし,前記引用に係る原審判が説示するとおり,婚姻期間中の保険料納付や掛金の払い込みに対する寄与の程度は,特段の事情がない限り,夫婦同等とみ,年金分割についての請求割合を0.5と定めるのが相当であるところ,抗告人が主張するような事情は,保険料納付や掛金の払い込みに対する特別の寄与とは関連性がないから,上記の特段の事情に当たると解することはできない。したがって,抗告人の主張は失当である。」

 

注 婚姻期間約35年 別居期間約7年 家庭内別居約7年

 

東京家裁平成20年10月22日審判

「対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は,特別の事情がない限り,互いに同等と見るのを原則と考えるべきである。(中略)」
「そして,法律上の夫婦は,互いに扶助すべき義務を負っており(民法752条),仮に別居により夫婦間の具体的な行為としての協力関係が薄くなっている場合であっても,夫婦双方の生活に要する費用が夫婦の一方または双方の収入によって分担されるべきであるのと同様に,それぞれの老後等のための所得保障についても夫婦の一方または双方の収入によって同等に形成されるべき関係にある。(中略)」
「(中略)別居後も,当事者双方の負担能力にかんがみ相手方が申立人を扶助すべき関係にあり,この間,申立人が相手方に対し扶助を求めることが信義則に反していたというような事情は何ら見当たらないから,別居期間中に関しても,相手方の収入によって当事者双方の老後等のための所得保障が同等に形成されるべきであったというベきである。

 したがって,相手方が主張する事情は,仮に事実と認められたとしても保険料納付に対する夫婦の寄与が互いに同等でないと見るべき特別の事情にあたるとはいえないから,その主張自体失当であり,申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合は,0.5と定めるのが相当である。」

 

※注 婚姻期間約30年 別居期間約13年

 

大阪高裁判平成21年9月4日決定

「年金分割は,被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから,対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は,特別の事情がない限り,互いに同等とみて,年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ,その趣旨は,夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって,そうでない場合であっても,基本的には変わるものではないと解すべきである。
 そして,上記特別の事情については,保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られるのであって,抗告人が宗教活動に熱心であった,あるいは,長期間別居しているからといって,上記の特別の事情に当たるとは認められない。」

 

※注 婚姻期間約36年 別居期間約14年

 

大阪高裁令和元年8月21日決定

「抗告人と相手方の婚姻期間中44年中、同居期間は9年程度にすぎないものの、夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民法752条)、このことは、夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものではなく、老後のための所得保障についても、夫婦の一方又は双方の収入によって、同等に形成させるべきものである。この点に、一件記録によっても、抗告人と相手方が別居するに至ったことや別居期間が長期に及んだことについて、抗告人に主たる責任があるとまでは認められないことを併せ考慮すれば、別居期間が上記のとおり長期間に及んでいることをしん酌しても、上記特別の事情があるということはできない。」

 

※注 婚姻期間44年 別居期間約35年 2020年7月17日追記

 

 以上のような裁判例を見ていくと、別居期間が長いという点だけで年金分割の按分割合が修正されるとはいいがたく、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当といえる「特別の事情」が必要、というのが裁判所の考え方の主流であるように思われます(ただし、婚姻期間のほとんどが別居であるという極端なケースでも按分割合が修正されないのかまでは分かりません)。

 

どのような事情が特別の事情にあたるのか

 では、どのような場合であれば年金分割の按分割合が修正されるのか、というのが次の問題ですが、この点は明確な基準は確立されておらず事案毎の判断としか言いようがありません(ただ、大阪高裁令和元年8月1日決定では、別居やその長期化について請求者側に主たる責任がある場合、特別の事情に該当しうることを示唆しています 2020年7月17日追記)。

 

 もっとも、近時の裁判例において、長期間の別居を理由としたものではないものの、「特別の事情」を認めて年金分割の按分割合を修正したものがありますので、本コラムのメインテーマからは外れますが参考としてご紹介したいと思います。

 

東京家裁平成25年10月1日審判

 この裁判例では、裁判所は概ね以下のような事実を指摘したうえで年金分割の按分割合を修正する判断を下しました(申立人(夫):相手方(妻)=3:7)。

 

①夫が1000万円単位の負債を負ったり妻から借入れをしたり、入院により経費がかかったりして、相手方が家計のやりくりに苦労したであろうことが認められること

②夫が会社を退職した後、夫は不定額の生活費を負担していたものの、それだけでは家計を維持するには不足していたこと

③妻が専任教員として勤務するようになってからは妻の収入を主として家計が維持されていたこと

④婚姻してから33年間、夫は一部上場企業に勤続して相当額の収入を得ており、借入金も大部分は退職金で返済したこと

⑤妻は、婚姻期間約50年間のうち約30年近くは概ね専業主婦として生活し、その間の家族の生計は夫の給与収入により維持されていたこと

⑥退職金額について、双方ともに明らかにしていないこと

⑦離婚調停において、妻は自宅建物に対する申立人の持分を財産分与として取得し、離婚後は妻が住宅ローンを返済する内容で合意し、他方、お互いの預金等の財産は分与対象としなかったこと

⑧その他本件に現れた一切の事情(詳細不明)

 

 この裁判例を読んでみても、どの事実が大きく影響して年金分割の按分割合が修正されたのかは判然としませんでしたが、このケースでは夫が多額の負債を抱えるなど妻が苦労していたようですので、個人的にはそのあたりが修正の決め手になったのかなと推測しています。

 

 弁護士 平本丈之亮 

 

 

駐車場内の通路での人身事故の過失割合~交通事故⑭~

 

 以前のコラムで、駐車場内の交差部分で車両同士が接触した場合の過失割合についてお話ししました(→「駐車場の交差部分での出会い頭事故の過失割合~交通事故⑩~」)。

 駐車場内の通路では、四輪車だけではなく多くの人が歩行することが予定されていますが、もしも駐車場の通路で四輪車と歩行者が接触した場合に過失割合がどうなるかというのが今回のテーマです。

 

典型的な事故状況

 

基本の過失割合

 車両:歩行者 90:10

 

 駐車場内の通路は歩行者が通行することが想定されているため、駐車場の通路を通行する四輪車には、人の往来があることを常に予見し歩行者の通行を妨げない速度・方法で進行する高度の注意義務があるとされています。

 他方、歩行者としても、駐車場の通路上を四輪車が通行することは予見するべきであり、慎重に安全を確認しながら歩行することが要求されるため、歩行者にも一定の過失があると判断されて上記のような割合になります。

 

過失割合の修正要素

 以下のような事情がある場合には、基本の過失割合が修正されます。

 

 【歩行者の急な飛び出し】  

 歩行者に+10

 

 この場合、歩行者の落ち度が大きいためです。 

 

 【歩行者用通路標識上の接触】 

 四輪車に+20

 

 歩行者が白線等で示された歩行者用の通路を通行していた場合です。

 このような場合、歩行者の通行が特に保護されるべきであるため、歩行者に有利な方向に修正がなされます。

 

 【歩行者が児童・高齢者】 

 四輪車に+5

 【歩行者が幼児・身体障害者等】 

 四輪車に+10

 

 歩行者が児童等のいわゆる交通弱者の場合には通行を保護すべき必要性が強く、その分、運転者側の責任が重くなるためです。

 

・幼児・児童・高齢者・身体障害者等の意味

「幼児」=6歳未満

「児童」=6歳以上13歳未満

「高齢者」=概ね65歳以上

「身体障害者等」=以下の①~④に該当する人

①身体障害者用の車いすで通行している人

②杖を持ち、又は盲導犬を連れている目の見えない人

③杖をもつ耳が聞こえない人

④道路の通行に著しい支障がある肢体不自由・視覚障害・聴覚障害・平衡機能障害がある人で杖を持っている人

 

 【四輪車の著しい過失】 

 車両に+10

 【四輪車の重過失】 

 車両に+20

 

 四輪車の運転者に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

 【著しい過失=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失】 

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④酒気帯び運転(※1)

⑤一時停止標識違反

⑥通行方向表示違反(逆走)

⑦四輪車が通路を進行する他の車両の通常の進行速度を明らかに上回る速度で進行していた場合(※2)

⑧差右折時や後退時などに、進行方向の見通しが悪い場所で徐行しなかった場合

など

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

※2 速度超過の程度によっては重過失と評価される可能性もあります

 

 【重過失=故意に比肩する重大な過失】 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転

など

 

弁護士 平本丈之亮

 

個人再生の流れと期間~個人再生④~

 

 債務整理の方法として個人再生を選択する場合、実際にどのような流れで、どれくらいの期間がかかるのかが気にかかると思います。

 

 そこで今回は、個人再生を弁護士に依頼した場合の具体的な流れについて、当事務所で手掛けることの多い小規模個人再生をもとにご説明したいと思います

 

 なお、これからお話するのは盛岡での運用を前提にした当職の経験に基づくものですので、他庁や他の弁護士が代理するケースにおいては異なる流れを辿る可能性があります。

 

【STEP1】相談~委任

 

 個人再生を行うには、まずはご相談の中で①債務の件数・内容・大まかな金額、②資産の内容、③収入状況などについて詳しく聞き取りを行い、今後の大まかな方針を立てる必要があります。

 

 これらを確認し、再生計画案の認可決定が下りる可能性があると判断できた場合には、正式に個人再生の申立についてご依頼を受け、準備を開始します。

 

Q1 初回相談時に債務額は正確に分からないといけないのか?

 債務額は最低弁済額を計算するための基準になる場合がありますので、最初の相談の時点で分かっていた方が望ましいのは確かです。

 

 しかし、当職の経験上、債務額よりも、むしろ債権者名の漏れがないかの方が重要です。

 

 正確な金額は後で調査するのでいずれ分かりますが、債権者の漏れがあるとリカバーが困難な場合もあるため、どちらかと言えば、ご相談の際は正確な債務額より債権者名に漏れがないかどうかに気を配っていただいた方が良いと思います(特に知人・親族からの借入や保証人、過去の通信契約の滞納などが漏れやすいところです)。

 

Q2 個人再生に弁護士への依頼は必要か?

 ちなみに個人再生は、法律上は必ずしも弁護士に依頼しなくても申立可能です。

 

 もっとも、個人再生では、申立のための書類準備のほかにも、負債額や資産状況をもとに最低弁済額(→「個人再生をすると、負債はどれくらい減るのか?~個人再生②・最低弁済額~」の計算をしたり、それを前提として具体的な再生計画案を作り、期限内に裁判所に提出するといった作業があり、お仕事や家事などをしながらこういった作業を行うことは難しい場合もあると思います。

 

 また、弁護士などの専門家に依頼しない場合には、申立までの準備期間中は債権者からの督促は止まりませんので、そういった事情から自分で申し立てるのが難しいという方は専門家に依頼して進めた方がスムーズに進むと思います。

 

【STEP2】受任通知・支払停止

 

 弁護士への依頼後、まずは弁護士から各債権者に対して受任通知を発送し、住宅ローン以外の債務についてはいったん支払いを停止します。

 

 受任通知が発送されることにより、一般の貸金業者や信販会社などは個別の取り立てを停止しますので、厳しい督促から一時的に解放されて精神的に一息つくことができます。

 

 ただし、受任通知発送の時点ですでに滞納期間が長いケースだと、受任通知後まもなく裁判を起こされることがありますし、ご相談を受けた時点ですでに裁判を起こされていたり給与の差押えまでされているケースもありますので、相談するタイミングには注意が必要です。

 

【STEP3】申立の準備

 

 受任通知発送の時期とほぼ同時に、個人再生の申立に向けた書類収集などの準備を開始します。

 

 準備していただく書類は多岐にわたり、また、人によって提出するものもまちまちですので、ここは弁護士と二人三脚で十分に準備を行います。

 

 申立てまでの期間も事案によりけりですが、支払能力や家計管理能力に大きな課題がなく、ご本人も迅速に書類を揃えられるケースであれば、通常、受任から2~3ヶ月程度で申し立てが可能となります。

 

 これに対して、依頼時点での家計状況に課題があり(収支がトントンなど返済原資が出ない場合等)、このままでは認可決定が得られない可能性が高いというときには、家計収支の改善に取り組んでいただき時間をかけて支払可能な状況にまでもっていく必要がありますし、また、ご本人が忙しく書類の準備が進まないというケースもありますので、そのような場合だとやむを得ず申立までに期間を要することもあります。

 

【STEP4】申立~開始決定

 

 書類が揃い、家計状況にも問題がないことが確認できたら、裁判所に対して個人再生の申立てを行います。

 

 申立後、今度は裁判所が提出書類の審査を行い、不明点や疑問点への報告を求められ、書類の不足があればそれを補い、問題がないと判断されれば再生手続の開始決定が出されます。

 

 申立から再生手続開始決定までの期間も事案と申立時期によってまちまちですが、問題のないケースでは感覚的には1~3週間、長くても1か月程度で出ることが多い印象です(岩手県内の支部の事案ですが、最短で申立から2日で決定が出たケースもありました)。

 

 なお、弁護士が代理人についている場合、基本的にはご本人は裁判所に行く必要はなく、書面審査だけで手続が進んでいくのが通常です。返済能力などに問題があるケースだと裁判所に行く手続(=審尋)が設定されることもありますが、少なくとも当職自身は盛岡地裁管内の裁判所で審尋期日が設定されたことはありません。

 

【STEP5】開始決定~再生計画案の提出

 再生手続の開始決定が出されると、その後は債権者の債権届出、届出債権に対する異議申述、財産目録・報告書(民事再生法第124条、125条)の提出と手続きが進んでいき、債権額と資産の内容を踏まえて、定められた提出期限までに再生計画案を作成して裁判所に提出するという流れをたどります。

 

 再生手続の開始決定から再生計画案の作成・提出といった一連の作業については弁護士が行います。

 

 その間、ご本人は、開始決定のときに裁判所から指示された金額を毎月積み立て(履行テスト)、住宅ローンがある場合にはこれまで通り支払いを継続する必要がありますが、それ以外には普段通りの生活を送っていただいて問題ありません(新たな借り入れや浪費などしないことは当然の前提です)。

 

 再生計画の開始決定から再生計画の提出までは通常3ヶ月弱程度ですが、やむを得ない事情により提出期限を延長する必要がある場合には事前に裁判所に申請をして認めてもらい、その上で提出することもあります。

 

【STEP6】認可決定~返済開始

 

 再生計画案の提出後、裁判所が再生計画案に自体に問題があるかどうかを審査し、問題があるときは修正します。

 

 提出された再生計画案に問題がないという判断になった場合には、裁判所は再生計画案を債権者の決議に付し(付議決定)、議決権を有する債権者の過半数、かつ、議決権額の過半数の反対がなければ再生計画案が認可されます(小規模個人再生の場合。給与所得者等再生の場合にはそもそもこの書面決議自体がありません)。

 

 このようにして再生計画案が認可されると概ね1か月程度で確定し、その後、再生計画に定められたスケジュールに沿って改めて支払いをスタートすることになります。

 

 ちなみに、認可決定後の返済方法は依頼する事務所によって異なり、ご本人に支払いをお任せするところもあれば返済期間中の支払いまで代行するところもあり、依頼する弁護士との契約内容によって違います。

 

 どちらがいいかはご本人のニーズにもよるため一概には言えませんが、認可決定後の返済期間は短くても3年と長丁場ですから、自分で支払いを管理するのが難しい場合には確定後の支払いの代行まで引き受ける事務所を選んだ方が良いと思います(なお、当事務所では認可決定後の支払い代行も行っています)。

 

 以上、個人再生の大まかな流れについてお話ししました。

 

 個人再生は同じく法的整理手続である自己破産にはない独自のメリットのある手続ですので、債務整理をする際の一つの選択肢としてご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

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個人再生のメリットについて~個人再生③~

 

 以前、借金問題の解決の手段の一つとして個人再生をご紹介しました。

 

 法的な債務整理の方法としてはほかにも自己破産がありますが、個人再生には自己破産にない独自の利点がありますので、今回は自己破産にはない個人再生のメリットについてご紹介したいと思います。

 

住宅ローンのある自宅を残して、その他の債務を圧縮できる可能性がある

 個人再生の最も大きなメリットが、住宅ローンを払って自宅を確保しながら、それ以外の債務の圧縮が可能になる点です。

 

 同じく自宅を残すことが可能な方法としては個別に債権者と交渉する任意整理がありますが、分割払いの任意整理では債務の圧縮は期待できないため、これを両立できる点が個人再生の大きなメリットです。

 

 もちろん、住宅ローンについては支払いを続けることが大前提ですが、このメリットがあるため、当事務所では、住宅ローンのある方についてはまずもって個人再生を検討します。

 

 ただし、このメリットを受けるためには居住用の不動産(床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること)であることが必要ですので、たとえば投資用マンションやセカンドハウスのケースでは対象になりませんし、不動産に住宅ローン以外の担保権がついている場合も対象にならないことには注意が必要です。

 

 また、上記の条件を満たしても、不動産の評価額が高く、逆に住宅ローン残高が少ない場合(アンダーローン)には、債権者に最低限弁済しなければならない金額(最低弁済額)が高くなり、個人再生が利用できない場合もあります。

 

不動産以外の財産も処分を避けられる可能性がある

 個人再生で住宅ローン債権者以外の一般の債権者に支払う必要のある最低弁済額は、多くの場合、100万円~負債額の5分の1か、債務者の財産評価額の合計額(清算価値)のどちらか高い方となります(詳しくはこちら→「個人再生をすると、負債はどれくらい減るのか?~個人再生②・最低弁済額~」)。

 

 これは要するに、財産を処分して債権者に分配したのと同等以上の金額を支払えば足り、必ずしも手持ちの資産をお金に換えて返済に充てなければならないわけではない、ということを意味しています(ちなみに、あえて財産の一部を処分してこれを頭金として初回の返済に充て、2回目以降の返済額を大幅に減らすという返済計画も可能です)。

 

 そのため、たとえば以下のような保険がある事案だと、自由財産である99万円の現金を除いて計算した最低弁済額は200万円となり、これを原則3年(最大5年)で分割返済していく必要はあるものの(3年だと毎月約5.5万円+送金手数料)、毎月の返済資金さえ捻出できるのであれば保険そのものを処分されることはありません。

 

 これに対して、自己破産のケースだと、合計299万円の資産のうち99万円までは手元に残せる可能性があるものの(自由財産の拡張)、特別の事情がない限りそれを超える金額を残すことは難しい場合が多いため、保険は諦めざるを得ないことがあります。

 

【設例】

債務額:600万円

 

保険解約返戻金:200万円

 

現金:99万円

※自由財産のため清算価値には計上しない

 

最低弁済額:600万円÷5<200万円 

    → 200万円

 

浪費等がひどくても利用できる可能性がある

 借金の原因がギャンブルや飲食などの散財であり、その程度があまりにもひどい場合、自己破産では解決が難しいことがあります。

 

 もちろん、免責不許可事由があっても多くの場合には免責が許可されているため(詳しくはこちら→「免責不許可になる割合は?~自己破産⑧~」、浪費があるから即個人再生をすべきということではありませんが、弁護士からみてもあまりにもひど過ぎるという場合には、自己破産ではなく個人再生で進める方がよい場合もあります。

 

 というのも、個人再生については、自己破産に比べて借金の原因が問題になることが少なく(もちろん、不正な目的で個人再生を申し立てた場合は却下されるため限界はあります。)、最低弁済額以上の返済ができるだけの収入がある場合には、自己破産は難しくても個人再生は認可される可能性があるためです。

 

 当職自身が過去に担当したケースでも、負債のほとんどがギャンブルであり、それによって作った負債額も非常に多額であったという事案で、ご本人が個人再生を選択したというものがあります。

 

資格制限がない

 自己破産の場合、警備員や宅地建物取引士など一定の資格に制限がかかりますが、個人再生ではそのような制限がかかりません。

 

 実際には資格制限のかからない職業に就いている方も多いため、そのような方にとっては関係のない話ですが、職業の関係で自己破産を選択できない場合でも債務を圧縮できるというのも個人再生のメリットの一つです。

 

対外的イメージ

 これはメリットといえるかどうか評価が分かれるところではないかと思いますが、自己破産という言葉の持つネガティブなイメージを避けたいということで、あえてご本人が個人再生を選択なさる場合もあります。

 

 個人再生も自己破産と同様に信用情報や官報に載りますし、保証人に影響が出るというデメリットも共通なのですが、残念ながら自己破産に対してはマイナスイメージがあることは否めませんので、経済的なメリットよりもそちらを重視したいという方には個人再生をお勧めすることがあります。

 

 以上、個人再生について思いつく限りのメリットをご紹介しました。

 

 個人再生は、うまくはまれば経済的な立ち直りに大きな威力を発揮する制度ですが、破産に比べて最低弁済額の計算や弁済計画案の作成などの面で難しいところがありますので、手続を希望する場合には専門家への依頼をお勧めします。

 

 なお、弁済計画の認可決定が確定した後、債権者への配当についても代行してもらえるかどうかは依頼先によって異なります。

 

 当事務所では認可決定確定後の弁済代行までお引き受けしていますが、依頼先によっては配当自体は自分でしなければならない場合もあり、長い弁済期間のため債権者数が多いと配当作業が大変なこともありますので、認可決定後の配当代行まで希望する場合には、事前に依頼先に確認しておいた方が良いと思います。

 

弁護士 平本丈之亮