離婚調停の流れ

 

 離婚について協議をしたものの解決しなかった場合、次のステップとして行うのが離婚調停です(事案によっては協議を試みずに調停から申し立てた方が良いケースもあります)。

 

 しかし、多くの方にとって離婚は人生で一度きりの出来事であり、裁判所に行ったことなどない方もほとんどですので、実際に調停に臨む際の精神的ストレスは大変なものです。

 

 そこで今回は、はじめて離婚調停に臨まれる方向けに、離婚調停の大まかな流れや期間などについてお話ししたいと思います。

 

離婚調停の一般的な流れ

 

離婚調停の申立

離婚調停は、夫婦のどちらかが相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをすることによってはじまります。

 

※例外的に、夫婦で調停を行う裁判所を合意し、その裁判所で行うこともあります(合意管轄)。

 

申立をする方は、まずはどうやって申立すればよいのかを調べるところから始まりますが、申立書などの基本的な用紙は各裁判所に備え付けてあり、裁判所のHPから直接ダウンロードしたものを利用することも可能です。

 

書類の提出は裁判所への持参だけではなく、郵送でも可能です。

申立~第1回調停期日まで

通常、調停の申立てから概ね1か月~1か月半程度で第1回の調停期日が開かれます。

 

その間、必ずしておかなければならないものはありません(書類に不備等があれば裁判所から連絡があります)。

 

ただし、申立の時点で裁判所に提出していなかった資料がある場合、期日前に提出しておいた方が解決までの期間短縮につながる場合があります。

 

たとえば財産分与を請求したい場合で相手の財産がある程度分かっているなら、相手の財産の目録や裏付けとなる資料を提出しておくことが有効です。

 

また、年金分割を請求する場合には年金分割の情報通知書が必要になりますが、これは手元に届くまで時間がかかりますので早期に取得して提出しておいた方が良いと思います(なお、訴訟に移行する可能性がある場合には訴訟の段階で情報通知書を改めて提出する必要がありますが、いったん提出してしまうと後で返してもらえず再発行が必要になるため、提出時に原本還付の手続をしておくことをお勧めします)。

 

これに対して、不貞の証拠については、証拠の価値の強弱や協議段階での相手の対応等次第で出した方がよいかどうか異なり、場合によっては裁判まで温存しておいた方が良い場合もありますので、迷った場合は弁護士へ相談された方が良いと思います。

第1回調停期日の流れ

【受付】

まず、開始時間前に裁判所で受付を済ませると待合室に案内されます。

 

調停室は別々になっていますので、調停室で鉢合わせすることはありません。

 

その後、時間になると調停委員が待合室に呼びに来ますので、指示に従って調停室に入室すると、調停が始まります。

 

【調停の進行】

調停員は2名(男女1名ずつ)ですが、通常の流れだと、申し立てた側から調停室に呼ばれます。

 

そこで、調停委員から申し立てに至った事情を聞かれ、申立書などの記載事項の確認や離婚に関する要望の聞き取りなどがあります。

 

それが終わると相手方と入れ替わり、今度は相手方の事情聴取が終わるまで待合室で待つことになります。

 

場合によっては自分が話している時間よりも待っている時間の方が長いことがありますので、本を持ってくるなど待ち時間を過ごすための準備はしておいた方が良いと思います。

 

このような流れを何度か繰り返し、その日の話し合いで合意できる部分や次回に持ち越しになる点が明確になったら、次回期日を決めて第1回調停期日は終わりです。

 

基本的には調停委員とのやりとりのみで手続は進みますが、子どもに関連して双方に対立があるケースだと家庭裁判所調査官が立ち会うこともあります。

 

【1回の調停にかかる時間は?】

 

一概には言えないものの、中身のある実質的な話し合いが行われる場合、待ち時間を含めて通常1時間半から2時間程度はかかることが多いと思います。

 

ただし、協議事項が少ない期日や双方に代理人弁護士がついていて協議事項がある程度整理されていると1時間を切ることもあります。

 

この部分は調停に入る前の事前準備がどれだけできているかにもよりますので、自分側だけでも主張や資料を整理して準備しておくと調停期日の時間短縮につながりますし、そのような準備の積み重ねによって早期に問題点が整理できれば解決までの期間短縮にもつながります。

2回目~調停成立(不成立)

基本的な流れは第1回の調停期日と同じです。前回の期日での宿題をもとに話し合いを行い、合意形成を図っていくことになります。

 

期日と期日の間隔は概ね1か月程度ですが、支部など裁判官や調停委員が少ないようなところではそれよりも間隔が長くなることがあります。

 

合意がまとまれば、裁判所が調停調書と呼ばれる書類を作り、当事者間の合意内容を紙にしてくれます。

 

調停が成立しなかった場合、調停手続は不調により終了しますので、離婚を求める側は訴訟を提起することになります。

 

調停成立までの期間は?

 

 これはケースバーケースとしか言えませんが、感覚的には3か月~半年程度が多く、1年程度かかることも稀ではない印象です。

 

 平成30年度の司法統計によると、離婚を含めた夫婦間の紛争全体に関する調停について調停が成立した事案のうち成立までの期間は、3か月以内が約29%、3~6か月以内が約36%、6~12か月以内が約27%となっており、半数以上が半年以内に成立に至っているようですので、半年程度が一つの目安になると思われます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

婚姻費用・養育費の算定方法の変更について

 

 既に報道でご存じの方も多いと思いますが、昨年12月23日に婚姻費用と養育費の算定について、これまで取り扱いを変更する内容の司法研究が公開されました。

 

 これにより今後の婚姻費用・養育費の算定実務に大きな影響が生じると思われるため、今回はこの司法研究の概要についてご紹介したいと思います。

 

基本的な計算方法に変更はない

 旧算定表と今回の研究で示された新算定表のもとになった計算方法は、いずれも、子どもの年齢や人数などから算出した生活費を権利者と義務者の基礎収入で按分して金額を決めるというもの(収入按分型)であり、基本的な計算方式に変更はありません。

 

変更点は「基礎収入割合」と「生活費指数」

 このように基本的な計算方式は変わらないものの、過去の計算方式が公開から15年以上経過し、当事者双方の収入や子どもの生活費を算出するために使用していた統計資料が今の実体とそぐわない部分が生じていたため、計算に用いる統計資料を更新した結果、収入を算定するための数字(=「基礎収入割合」)と子どもの生活費・教育費を算定するための数字(=「生活費指数」)に変更が加えられた、というのが今回の研究結果の中身となります。

 

基礎収入割合の変更

 婚姻費用・養育費を算出するためには、当事者双方の総収入から、子の生活費等にあてられるものではない経費(=公訴公課、職業費、特別経費)を差し引き、計算の基礎とすべき「基礎収入」を認定するという作業が必要となりますが、今回、この基礎収入を算定する際に用いられる指数(=「基礎収入割合」)に変更が生じました。

 

【旧算定方式】

 給与所得者 42~34%

 自営業者  52~47%

【新算定方式】

 給与所得者 54~38%

 自営業者  61~48%

 

生活費指数の変更

 また、婚姻費用・養育費の計算には、親の生活費を100とした場合に子どもに充てられるべき生活費(学校教育費含む)の割合(=「生活費指数」)が用いられますが、この点にも以下の変更が生じました。

 

【旧算定方式】

 0~14歳 55

 15歳以上 90

【新算定方式】

 0~14歳 62

 15歳以上 85 

 

実際の金額はどう変わったか?

 以上のように計算に用いる数字が変わったといっても、実際にはこれを計算式や算定表にあてはめないとどのように変わったかはわかりませんので、以下では、いくつかの事案をもとにどのような変化が生じたかをご紹介してみたいと思います。

 

 今回は計算をシンプルにするため下記のような事例を設定しましたが、全体的に見ると、横ばいのケースもあるものの、全体的には金額は増加傾向にあるのではないかと思われます。

 

 なお、2~4万円など幅があるのは算定表の幅を示しており、( )内の金額は、算定表の縦軸と横軸にお互いの収入を当てはめて線を引いた場合に交差した部分の金額です。

 

 基本的には縦軸と横軸が交差した部分が標準的な金額となりますが、収入以外の様々な事情を加味した結果、金額が幅の範囲内で増減されることもありますので、幅の範囲内にあればとりあえず相場から外れたものではないと言えると思います(ただし、旧算定表でもそうですが、算定表の中でもともと考慮されていない特別の事情がある場合には、事情次第ではこの幅を外れることもありますので、その点には注意を要します)。

 

事例

 義務者 給与所得者

 権利者 給与所得者

 子ども 1名(14歳以下)

 

事案1

 

 義務者の総収入 400万円

 権利者の総収入 200万円

 

【旧算定表】

 2~4万円(3万円程度)

【新算定表】

 2~4万円(4万円程度)

 

事案2

 

 義務者の総収入 600万円

 権利者の総収入 400万円

 

【旧算定表】

 2~4万円(4万円程度)

【新算定表】

 4~6万円(5万円程度)

 

事案3

 

 義務者の総収入 1000万円

 権利者の総収入  500万円

 

【旧算定表】

 6~8万円(7万円程度)

【新算定表】

 8~10万円(8万円程度)

 

事案4

 

 義務者の総収入  350万円

 権利者の総収入  500万円

 

【旧算定表】

 1~2万円(2万円程度)

【新算定表】

 2~4万円(2万円程度)

 

事案5

 

 義務者の総収入 1600万円

 権利者の総収入  300万円

 

【旧算定表】

 12~14万円(13万円程度)

【新算定表】

 16~18万円(16万円程度)

 

今回の変更をもとに増額の請求ができるか?

 婚姻費用や養育費の変更は、当初取り決めしたときの前提となった客観的事情に変更が生じたこと、その事情変更を当事者は予見しておらず、予見もできなかったこと、金額の変更を求める側に事情変更について落ち度がないこと、当初の合意による支払いを続けさせることが著しく公平に反すること、といった条件が必要であると考えられていますが、この研究結果の公表そのものは養育費等の金額を変更する事情の変更にはあたらないとされています。

 

 もっとも、今回の研究結果の公表とは関係なく、当事者双方の収入や身分関係など客観的事情に変更があった場合には、それが理由となって金額が変更される可能性はあり、その際には新たな計算方式に基づいて再計算がなされるものと思われますので、権利者側に収入の大幅な減少などの事情が生じた場合には増額の請求を検討してみる価値はあると思います。

 

 ただし、ふたを開けてみたら義務者側の収入も当初より大幅に減っていたとか、義務者が再婚して子どもが生まれていたといった相手側の事情変更の可能性もあります。

 

 そのような場合は期待したような増額が認められないこともありますし、かえって、それを機に相手方から減額を求められるという事態も考えたうえで行動しなければなりませんので、果たして増額を求めても良いものか、このままの状態を維持した方が良いのかについては慎重に検討する必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮

別居時に持ち出した夫婦共有財産と財産分与

 

 離婚を考えて当事者の一方が別居に踏み切った場合、別居時に相手方配偶者の財産を無断で持ち出したり預金を引き出したりしてトラブルになる事例があります。

 

 そのような行動は、自分や子どもの当面の生活費の確保のためにやむを得ず行われることもありますが、持ち出し行為があった場合、相手の感情を害するほか、持ち出し行為自体が違法であるとして相手から訴訟を起こされることもあります。

 

 そこで、今回は、このような持ち出し行為が法的にどのように扱われるのかについて解説したいと思います。

 

持出額について直接返還等を請求することは難しい

 夫婦が共同で築き上げた共有財産の清算は、本来、財産分与の手続きで解決することが予定されているため、無断で財産を持ち出したことを理由に返還や損害賠償を請求しても、その請求は原則として認められないと考えられています。

 

 では、例外的に持ち出した財産について直接返還等が認められる場合があるのかというと、裁判例の中には、持ち出した財産が財産分与として認められる可能性のある対象や範囲を著しく逸脱した場合、また、他方を困惑させるなど不当な目的で持ち出した場合には、例外的に持ち出し行為が違法になるとするものもあります(東京地裁平成4年8月26日判決)。

 

 他方で、近時の裁判例としてこれを否定するものもあり(東京地裁平成25年4月23日判決)、持ち出し行為が例外的にでも違法となる余地があるのかどうかについては裁判所でも見解が分かれているところです。

 

東京地裁平成25年4月23日判決

「原告は,夫婦共有財産にあたる預金についても,原告と被告間の婚姻関係が破綻し,被告が払い戻した預金が将来財産分与として考えられる対象範囲を著しく逸脱しており,被告が原告を困惑させるなど不当な目的で払戻しを行ったという特段の事情がある場合には,不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると主張する。

 

 しかしながら,原告主張の前記事情が存在する場合であっても,原告が夫婦共有財産について具体的な権利を有する状態に至らないことには変わりがなく,原告主張の前記事情は,離婚に伴う財産分与の範囲を決定する際に考慮すべき事情に過ぎないというべきであるから,原告の主張は採用することはできない。」

 

相手の口座から婚姻費用として定期的にお金を引き出していた場合

 ところで、別居後の婚姻費用についてはいわゆる算定表が広く用いられていますが、共有財産に該当する相手の預金口座から婚姻費用名目で定期的にお金をおろして使用していたところ、引出額が算定表に基づいて計算した額を超えていたという場合に、その差額分は不当利得として返還すべきである、という主張がなされることがあります。

 

 このような引き出しに関する裁判例としては、差額分の不当利得返還請求を否定したものがあります(東京地裁平成27年12月25日判決)。

 

 ただし、この裁判例は、あくまで夫婦共有財産に該当する預金からの出金については不当利得に該当しないと判断したものですから、仮に、出金元の預金が明らかに一方の特有財産(相続など)だったような場合だと、また違った結論になる可能性がある点に注意が必要です。

 

 また、不当利得として直接返還請求できないということと財産分与の問題は全く別の問題ですので、財産分与の場面において差額分が考慮され、その分、最終的な分与額が減少する可能性はあり得ると思います。

 

東京地裁平成27年12月25日判決

「夫婦共有財産について,当事者間で協議がされるなど,具体的な権利内容が形成されない限り,相手方に主張することのできる具体的な権利を有しているものではないと解すべきであるから,被告が,平成22年11月8日から平成23年6月末までの間に,いわゆる算定表にしたがって計算した額の婚姻費用の原告負担分を超える額を本件預金口座から払い戻していたとしても,その行為によって,原告に具体的な損失が生じたということはできない。」

 

持出額を使っていた場合の財産分与の考え方

 それでは、別居時に持ち出した金額をその後に使用し、財産分与の協議等をしている時点では額が目減りしていた場合、財産分与の場面ではどのように扱われるのでしょうか。 

 

 原則:別居した時点の金額をもとに財産分与を決める 

 清算的財産分与の基準時は原則として別居時であるため、別居後に一方が夫婦共有財産を使用したとしても、基本的には別居時の金額を基準に財産分与額を決定します(=別居後に目減りした金額は持ち戻して計算する)。

 

 例外:適正な範囲で婚姻費用に使用した場合 

 もっとも、別居から財産分与までの間の使途が婚姻費用(生活費)であって、その額も適正な範囲であった場合、例外的に、財産分与の対象額からその使用分が差し引かれることがあります(=使用金額については清算を要しない)。

 

 なぜなら、離婚が成立するまで夫婦は婚姻費用を負担する義務がありますので、婚姻費用を請求できる側が何らかの理由により相手から支払いを受けられない場合、夫婦共有財産から婚姻費用として適正額を支出したとしても、本来、その分は夫婦共有財産から負担すべきものであった以上、財産分与の場面において清算を要しないとしても不当ではないからです。

 

 たとえば、別居時の夫名義の全財産が1000万円で、その全額が夫婦共有財産だった場合において、自己名義の資産のない妻の持ち出し額が600万円、妻が財産分与までにそこから200万円を婚姻費用として適正に使ったという場合には、財産分与の対象となるのは夫が保有している400万円と、妻の持ち出し額600万円から適正支出額200万円を差し引いた400万円の合計800万円となります。

 

 そして、夫婦間における財産形成に対する寄与割合が平等(50:50)だとすれば、財産分与額はそれぞれ400万円(=800万円÷2)となるため、夫婦間ではそれ以上財産分与として互いに金銭をやりとりする必要はないことになります。

 

 以上のとおり、別居時の持ち出し行為についてはそれ自体が違法と判断される可能性は高くはないものの、持ち出しがなされるとその後の協議等が複雑になりますし、感情面も相まって難航するおそれがあるため慎重な判断が必要となります。

 

 別居をする際には短期間に様々な決断を迫られることがありますが、初動を間違えると後の離婚手続に大きく影響しかねませんので、別居するかどうか迷っている場合にはできるだけ事前に専門家へ相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

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離婚後の生活保障を求めることはできるか?(扶養的財産分与)

 

 離婚のご相談をお受けしていると、離婚後に元配偶者から生活費をもらえるのか、というお話を受けることがあります。

 

 特に幼いお子さんをお持ちの専業主婦の方や高齢の方など、離婚後に働くことが容易ではない方からそのようなお話をよくいただきますが、では、このような請求は認められるのか、というのが今回のテーマです。

 

原則は自立

 夫婦は離婚することにより互いの扶養義務が消滅するため、離婚後も婚姻中と同じような生活費の負担を求めることはできないのが原則です(子どもの養育費は別問題です)。

 

例外:扶養的財産分与

 もっとも、先ほど述べたように、幼い子どもの面倒を見る必要があり仕事に就くことが容易ではない、高齢のため働けず年金も少ない、というように、離婚によって当事者の一方の生活が成り立たなくなる場合にこのような原則を貫くのは不公平なことがあります。

 

 たとえば、夫婦共有財産として清算対象となる財産はないが、元配偶者が相続によって多額の資産(=特有財産)を持っていたり収入が高いような場合、離婚によって他方配偶者が生活困窮に陥ることはバランスを欠く場合があります。

 

 そこで、離婚に伴い自立できないような経済状況に陥ることになる配偶者に対して、一定の範囲で将来の扶養のための財産分与を認めるという考え方があり、これを「扶養的財産分与」と呼んでいます。

 

 そもそも財産分与には、夫婦共同で築き上げた財産を清算する清算的財産分与、精神的苦痛に対する慰謝料的な性質をもつ慰謝料的財産分与がありますが、扶養的財産分与はこれらとは別のものと考えられています。

 

どのような場合に認められるか

 先ほど述べたように、離婚後は元夫婦間ではお互いの扶養義務はないため、原則として扶養的財産分与は認められず、相手方に十分な扶養能力(資力)があり、かつ、請求する側が自立して生活することができない事情がある場合(扶養の必要性)に限って認められると解されています(名古屋高裁平成18年5月31日決定参照)。

 

 もっとも、どのような場合であれば扶養的財産分与が認められるのかという具体的な基準はなく、実務上は、以下のような各要素を総合的に考慮して相手方の資力や扶養の必要性を判断し、最終的に分与を認めるのが公平に叶うかどうか、認めるとしてその額や分与の方法はどうするか、ということを決めているのが実情です。

 

 【扶養的財産分与の考慮要素の例】 

 以下、扶養的財産分与が認められる方向に働く事情の一例を紹介します(認めない方向に働く事情は基本的にその反対となります)。

 

 1 請求者の財産状況 

  めぼしい財産がない

 

  離婚の際、十分な清算的財産分与や慰謝料などをもらえる見込みがない

 

 2 請求者の収入の有無 

  収入がない又は収入が低い

 

 3 請求者が無職の場合、就労可能性 

  就労経験がない又は乏しい

 

  高齢である

 

  就職に役立つ資格をもっていない

 

  持病やケガの後遺症などで働くことが難しい

 

  幼い子どもがいるため、働くことが難しい

 

 4 請求者の住居を確保する必要性 

  子どもが小さく環境を変えることが困難

 

  高齢であり長年その家に住んでいたため環境を変えることが困難

 

 5 請求者の家族関係 

  財産分与を請求した時点で再婚(内縁含む)していない

 

 6 双方の有責性の有無・程度 

  不倫や暴力など相手方の問題による離婚である

 

 7 相手方の財産状況 

  多額の固有財産(相続など)がある

 

 8 相手方の収入 

  安定した収入がある

 

 9 相手方の家族関係 

  高齢の親や障がいのある家族を扶養する必要がない

 

どのような内容・方法で認められるのか

 扶養的財産分与の方法についても、先ほど述べたような色々な事情から裁判所が裁量で判断することになりますが、わかりやすいやり方として、毎月一定額の生活費の支払いという形を取ることがあります。

 

 具体的な金額について絶対的な基準はありませんが一つの目安として離婚前の婚姻費用額が指標とされることがあるようです。

 

 支払いの期間についても、結局のところは元配偶者が自立して生活できるようになるまでの期間であり、この点は夫婦の事情によって千差万別のため基準はありませんが、離婚する以上無制限に認められるわけではなく(論者によってまちまちですが)概ね数年程度が限界と考えられているようです(ちなみに過去の裁判例では、支払期間を3年間としたものがあります(横浜地裁川崎支部昭和43年7月22日判決))。

 

 以上のような金銭給付以外でも、たとえば、相手方所有の不動産に居住権を設定する、不動産の所有権を移転させる、清算的財産分与として支払いを命じる額に一定額を加算するなどという内容が認められることもあります。

 

 扶養的財産分与は例外的なものであることや考慮要素が複雑であることから、認められるかどうかの判断が難しい分野ですので、請求をお考えの場合には一度弁護士へご相談いただくことをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

財産分与と税金の話

 

 離婚問題を取り扱っていると避けて通れないのが財産分与ですが、それに関連するものとして問題になることがあるのが税金関係です。

 

 最近では財産分与と税金の問題についてもご存じの方が多い印象ですが、知らないと落とし穴もあるところですので、今回はこの問題について取り上げたいと思います。

 

お金と不動産では取り扱いが違う

 離婚時に財産分与を行った場合の課税関係については、大きく分けると、分与した財産がお金の場合と不動産の場合とに分けられます。

 

お金の分与

 【お金の場合、原則として税金はかからない】 

 財産分与として離婚後に金銭を分与した場合には、原則として税金(贈与税)はかかりません。

 

 離婚の際に「解決金」という名目で金銭を支払うこともありますが、離婚事件において合意する場合には基本的には財産分与(ないし慰謝料(←非課税)あるいはそれらが合わさったもの)として取り扱われますので、贈与税はかからないと言われています(この点が気になるのであれば、明確に「財産分与として」という名目にしておくことをお勧めします)。

 

 もっとも、このような取り扱いには例外もあり、以下の場合には贈与税が課せられます(相続税法基本通達9-8但し書き)。

 

①課税を免れる目的で、財産分与という名目で金銭を渡した場合

 →渡した金額全額が贈与として扱われ、課税される

②分与した金銭が、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合

 →過当と認められる部分が贈与として扱われ、課税される(※)

  ※全額ではなく、あくまで過当な部分のみ

 

 【離婚前のお金の分与には注意が必要】 

 これに対して、離婚する前に金銭を分与した場合には、たとえ「財産分与」という名目であっても財産分与とはみなされず、単なる贈与となります。

 

 この場合、婚姻期間20年以上の夫婦間で行った居住用不動産取得資金の贈与の特例(2000万円の特別控除)が適用されない限り、110万円の基礎控除を超える部分について贈与税が課税されます。

 

 離婚前の金銭の分与についてこの特例の適用を受けるには、婚姻期間20年以上の夫婦であること、居住用不動産の取得資金の贈与であること、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得して実際に居住すること、その後も居住し続ける見込みがあること、といった各条件のほか、税務署への申告が必要です。

 

不動産の分与

 【不動産の場合、分与者側に譲渡所得税と住民税がかかる場合がある】 

 離婚時に不動産を分与した場合には、分与した側に譲渡所得税と住民税が課税される可能性があります(分与された側ではありません)。

 

 一般的な感覚だともらった側が課税されるのではないかと思いがちですが、譲渡所得税と住民税の場面では分与した者が不動産を時価で譲渡したとみなされることから、分与者側に課税の問題が生じます。

 

 もっとも、譲渡所得税が課税されるのは、分与したときの時価が取得費と譲渡費用とを超えた場合(値上がりした場合)ですので、不動産の時価が取得時の価格より値下がりしている場合には課税されません。

 

 また、分与時の不動産の時価が取得費と譲渡費用を超えてしまうケースでも、居住用不動産を財産分与するときは3000万円まで非課税とする特例の適用を受けられる可能性があります(対象が居住用不動産であることや確定申告が必要であること、先に離婚届を出してから財産分与を行う必要があるなどいくつか注意点があります)。

 

 【離婚前の不動産の分与は?】 

 これに対して、離婚する前に不動産を分与した場合には、譲渡所得税や住民税ではなく贈与税の問題が生じます。

 

 ただし、離婚前に居住用不動産を分与したときは、お金と同じように贈与税の特別控除の制度がありますので、要件をみたせば2000万円の特別控除と110万円の基礎控除の合計額までは贈与税がかかりません。

 

 【その他の税金(不動産の場合)】  

 その他、不動産を財産分与した場合には、名義変更に際して登録免許税がかかります(固定資産評価額×2%)。

 

 これに対して、不動産取得税については、夫婦共有財産の清算を目的として行われたものは基本的には課税されないようですが、それに当てはまらないケース(婚姻前に取得した不動産や相続で取得した不動産を分与した場合、慰謝料代わりや将来の扶養のために分与した場合)には課税されることがあるようですので、気になる方は自治体に確認しておいた方が良いと思います。

 

 以上のように、財産分与については様々な税金が問題となりますが、基本的にはお金のやりとりであれば問題は少ないと言えます。

 

 不動産を財産分与の対象とする場合は、これまで述べたとおり離婚後の分与・離婚前の分与のいずれのパターンでも税金の問題が生じる可能性がありますので、そのようなケースでは税理士さんへも相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

養育費の減額請求についてのお話

 

 離婚の際や離婚後に養育費について取り決めをしても、その後の事情の変更によって養育費の減額や免除を求められたり、逆に求めたりするケースがあります。

 

 今回は、このような申し出があった場合の対応や、申出をする場合の注意点などについてお話しします。

 

一度取り決めた養育費もあとで変わる可能性がある

 養育費の支払期間は通常長期間であるため、一度養育費の額を決めても、その後の身分関係や経済状況の変化によって養育費の金額が変わることがあり(民法766条3項)、典型的な例だと、支払義務者の大幅な収入減少(経済状況の変化)や、権利者の再婚相手と子どもの養子縁組(身分関係の変化)などがあります。

 

養育費を減額(免除)してもらうための手続は?

 このように、養育費については、当初の取り決めが実体に合わなくなった場合に、事後的に金額が変更されることが予定されていますが、養育費の減額や免除を求める場合、まずは当事者間で協議が行われることが多いと思われます。

 

 しかし、当事者間で金額の変更について折り合いがつかなかった場合には、金額の変更を求める側が家事調停を起こし、調停がまとまらなければ、最終的には審判手続によって裁判所が決めるという流れを辿ることが通常です。

 

金額はいつから変更されるのか?

 この点については、最終的には裁判所の合理的・裁量的判断によって決められますが、調停や審判を申し立てたときを原則としつつ、内容証明郵便などで金額変更の意思を相手方に明確に示した場合には、その時点まで金額変更の効果が遡るという考え方が有力ではないかと思います。

 

 たとえば、東京高裁平成28年12月6日決定では、義務者が別件の面会交流審判事件において、子どもの養子縁組を理由として養育費の支払義務が消滅したことを主張し、実際に支払いを打ち切ったあとに養育費免除の調停を申し立てたというケースで、支払い打ち切りの時点で金額を0とする意思が明確になったとしてその時点から養育費の支払義務がなくなったとし、養育費免除の調停の申し立てよりも前の段階で金額変更の効果が生じることを認めています。

 

養育費の減額(免除)を求められた場合の対応

 先ほどの高裁決定の考え方からすると、養育費の減額や免除を求められた場合、権利者側としては慎重な対応が必要となります。

 

 たとえば、減額ないし免除の申し出について納得がいかないとして拒否し、義務者がやむなく従前の金額を払っていた場合、その後に調停や審判を起こされると、事案によっては、過去に受領していた養育費をまとめて返還しなければならなくなる可能性があります。

 

 したがって、このような申し出があった場合には、義務者が減額や免除を求めている理由やその根拠について詳しく聞き取り、必要に応じて弁護士に相談するなどして、以前と同じ金額をそのまま受け取って良いかどうかを検討する必要があります。

 

 特に、再婚して子どもと再婚相手が養子縁組した場合には、子どもの扶養義務は第一次的には再婚相手が負担し、実親である義務者の扶養義務は二次的なものにとどまると考えられていますので(→「親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑧・養子縁組した場合~」)、注意を要します。

 

養育費の減額(免除)を求める側の注意点

 他方、養育費の減免を求める側も、一方的に減額するような対応にはリスクがあります。

 

 裁判所で最終的に養育費の減額が認められなかった場合には、未払分があるとして後でまとめて請求される危険があるからです。

 

 先ほどの高裁決定のように一方的に打ち切ったとしても責任を負わずに済むケースもあり得るところですが、本当に支払義務が減ったりなくなるのか、減額されたりなくなるとしてどの時点から支払義務が変わるのかという判断は諸般の事情から裁判所が判断するものであり、必ずしも予想通りになるとは限りません。

 

 そのため、減額や免除を求める側としては、可能であれば従前の支払いを継続しながら協議を行い、権利者側が応じない場合には速やかに調停を起こすなどの対応がリスクが少ないと思われますし、迷った場合にはやはり弁護士に相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

婚姻費用の払い過ぎと財産分与の関係

 

 離婚の際の財産分与において時として問題となるのが、別居中に支払われた婚姻費用の清算です。

 

 具体的には、いわゆる標準算定方式(簡易算定表のもとになった計算方式)で計算された標準的な婚姻費用と、別居中に実際に支払われていた婚姻費用に差があった場合に、その差額を財産分与として支払われるべき額から差し引くべきだ、という主張がされる場合があります。

 

 では、果たしてそのような主張が通るのか?というのが今回のテーマです。

 

相場より高く払っても原則として考慮されない

 

 この点については高裁レベルでの裁判例があり、別居中にたとえ相場より高い婚姻費用を払っていたとしても、基本的には財産分与でその差額分を差し引くことはできない、とされています。

 

 すなわち、大阪高裁平成21年9月4日決定は、別居中の夫婦について、「当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて婚姻費用分担をしている場合に、その額が当事者双方の収入や生活状況にかんがみて、著しく相当性を欠くような場合であれば格別、そうでない場合には、当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて送金した額が、審判をする際の基準として有用ないわゆる標準的算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下)に基づいて算定した額を上回るからといって、超過分を財産分与の前渡しとして評価することは相当ではない。」と判断しています。

 

 要するに、一旦支払った婚姻費用について、後になって実は払い過ぎだったから差額は財産分与の前渡しであり、その分を財産分与から差し引きたいという主張をしても、その差額が「著しく相当性を欠く場合」でない限り、そのような主張は認められないということです。

 

 この決定は理由についてあまり明確に述べていませんが、離婚を前提としない扶養義務・夫婦扶助義務の履行である婚姻費用の支払いを、離婚を前提とした財産関係の清算が主である財産分与の前渡しと評価することは通常困難と思われますし、標準算定方式が社会一般に広く浸透している以上、支払いをする側としては最初から相場を意識した金額で交渉することも十分可能であり、それにもかかわらず自発的にあるいは合意に基づいて相場を超える金額を支払ってきたのに、後から遡ってそれを否定することは信義に反するのではないか、また、このような処理を認めると婚姻費用を受け取った側に不意打ちになるのではないか、といった価値判断が働いているのかなと推測しています。

 

 もっとも、過去の婚姻費用の支払状況は財産分与の額や方法を決める際の事情の一つになるとはされていますので、相場を超えた婚姻費用の支払いがあったという事実が絶対に考慮されないということではなく、この決定も述べているとおり、「著しく相当性を欠く場合」であれば、差額の全部あるいは一部が財産分与から差し引かれる可能性はあります。

 

 しかしながら、この決定が単に過大である(=相当性を欠く)というだけでは足りず、あえて「著しく」と厳しく限定していることからすると、このような事情が考慮されるのは、非常に極端で稀なケースが想定されているように思われます。

 

 したがって、婚姻費用を支払う側としては、後々の財産分与の場面ではこのような事情があっても考慮されない可能性が高いということを念頭に置いて、金額を決める際、あらかじめ相場に近い支払額に落ち着くよう粘り強く交渉することが現実的な対策となります。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

成人年齢の引き下げと養育費への影響

 

 先日、成人年齢を18歳に引き下げる法律が成立し、2022年4月から施行されることが決まりました。

 この改正により、それまでは未成年者として保護されていた18歳、19歳の若年者について消費者被害の増加を懸念する声などが上げられていますが、今回は、成人年齢の引き下げによって養育費の支払時期に何らかの影響があるのか、という点についてお話したいと思います。

 

改正法の成立前に既に養育費の合意をしていた場合

 養育費の支払期限は基本的に当事者の自由な合意で決めることができますが、成人すなわち20歳までとする例が比較的多かったと思われます。

 その場合の具体的な決め方については、「20歳まで」という表現のほか、「成人するまで」「成年に達するまで」という表現の場合もあります。

 合意の際、「20歳まで」という明確な表現をしていた場合は問題は起きませんが、たとえ「成人するまで」という表現をしていたとしても、この先、法律で成人年齢が18歳に引き下げられたからといって、連動して養育費が18歳で打ち切られるということはありません。

 当事者が合意した時点では【成人年齢=20歳】であった以上、当事者は養育費の支払いを20歳までとする前提だったことが明らかだからです。

 もっとも、非親権者(義務者)から18歳で打ち切りたいという申し入れがあり、親権者(権利者)がこれに応じた場合、そのように変更する合意そのものは有効ですから、親権者側は不用意に変更に合意してしまわないよう注意が必要です。

 

改正法の施行後に合意する場合

 このケースでは、【成人=18歳】ということを前提に合意するわけですから、「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をした場合、養育費の支払いは18歳までで終わりという判断にならざるを得ないと思います。

 そのため、20歳まで支払ってもらいたいということであれば、合意する際、明確に「20歳まで」などの表現にしておく必要があります。

 

 【相手方から、18歳までとするべきだと言われたら?】 

 養育費というのは、子どもが未成熟子(=自己の資産又は労力で生活できる能力のない者)である限り負担するべきものです。

 法律上、18歳が成人として扱われるようになったからといって、世の中の全ての18歳が突然、経済的に自立するわけはなく、その子どもが未成熟子かどうかは、結局のところ、その子どもを取り巻く家庭環境や本人の能力、健康状態、将来の志望などによって変わってくるところですから、成人年齢が18歳になったからといって当然に養育費の支払いが18歳で終わりになることはありません。

 したがって、「成人年齢が18歳になったのだから養育費も当然に18歳になるはずだ。」と言われても、そのようなことはないと反論することは可能です。

 

 この点については、参議院の附帯決議において、「成年年齢と養育費負担終期は連動せず未成熟である限り養育費分担義務があることを確認する」と明確に決議されており、法務省のHPでも、「成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について」という記事の中で、「成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。」と述べられています。

 

今から改正法の施行までの間に合意する場合

 このようなケースで「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をすると、20歳を前提としているのか、それとも18歳を前提としているのか不明確ですから、後々トラブルになる可能性があります。

 調停や審判など裁判所で、あるいは弁護士が関与して養育費が決まる場合には、当然、そこに目配りをしますから、「20歳まで」のように明確な書き方をして、18歳までか20歳までかというところで問題が起きることは考えにくいと思います。

 これに対して、当事者間の協議で決める場合には、今後も「成人するまで」のような曖昧な決め方をしてしまうことがあり得ますので、そのような決め方はせず明確な表現にすることをお勧めします。

 

※2019年12月23日追記

 同日、裁判所が婚姻費用・養育費の新算定表を公表しましたが、その概要の中で、成人年齢を引き下げる法律の成立又は施行前に養育費の終期を「成年」と定めた場合、基本的には20歳と解するのが相当である、とされました。

 また、改正法の成立・施行という事情は、養育費の支払義務の終期を20歳から18歳に変更する事情にあたらず、子どもが18歳になったこともただちに婚姻費用の減額事由に該当するとはいえない、とされています。

 

 

弁護士 平本丈之亮

 

親権者の再婚と養育費の関係~養子縁組しない場合~

 

 前回のコラムで、離婚後に再婚した場合と養育費の関係について、親権者が再婚し、かつ、子どもと再婚相手が養子縁組をした場合についてお話ししました。

 

 再婚した場合には、大きくわけて以下の4パターンがありますが、今回はこのうち②のパターンで、子どもを引き取らなかった側(非親権者)の養育費支払義務への影響について取り上げます。

 

再婚のパターン

①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合(←前回のコラム

 

②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合

 

③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合

 

④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合

 

再婚+養子縁組なし→非親権者は減免されないのが原則

 子どもを引き取った親権者(権利者)が再婚したが、子どもと再婚相手が養子縁組していない場合、再婚相手はその子どもに対する扶養義務はありません。

 

 そのため、養子縁組した場合と異なり、義務者の養育費支払義務が減免されることはないのが原則です。

 

再婚相手が裕福で子どもを事実上扶養→減免もありうる

 もっとも、形式的には養子縁組をしていなくても、事実上、再婚相手が自分の収入で連れ子を扶養しているというのは一般的な話ですし、特に再婚相手が裕福で、その収入だけで十分に子どもを養育できるような場合にまで義務者に当初取り決めたままの養育費の支払義務を負わせ続けるのは酷と思われる場合もあります。

 

 そのため、このような場合、権利者が再婚相手から受け取っている生活費相当額や再婚相手の収入の一部を親権者の収入に加算して、その額と義務者の収入とを基にして計算した結果、当初定めた養育費が減額されることもあるという考え方があります。

 

 例えば、離婚時に15歳未満の子どもが1人いて、親権者の妻は無収入、非親権者の夫は450万円の収入があった場合、簡易算定表によれば養育費は概ね6万円になりますが、その後、親権者が再婚し、再婚相手から生活費として月に25万円をもらって15歳未満の子どもを養育している場合、上記の考え方を採用すると親権者の収入は300万円となり、非親権者の収入が変わらず450万円だったとすれば、簡易算定表によると養育費は概ね4万円になります。

 

 再婚相手の収入を権利者の収入として考慮するという考え方については、再婚相手が経済的に余裕があると思われる医師であり、事実上、連れ子を養子に準じるような形で扶養しているケースにおいて、再婚相手の基礎収入の一部を権利者の収入に合算することを認めた裁判例があります(宇都宮家裁令和4年5月13日審判)。

 

実家の両親からの援助は?→収入にあたらない

 ちなみに、これと似たようなケースで、実家の両親からの援助を権利者の収入とみなすべきかどうかという論点がありますが、これは否定されることが一般的です。

 

 この点は、権利者が再婚した場合、再婚相手は配偶者(=権利者)に対して生活保持義務(=自分と同じ程度の生活をさせる義務)を負うのと異なり、両親は親権者に対してそれよりも下の生活扶助義務(=自分に余裕がある場合に援助する義務)を負うにとどまるにすぎないため、と説明することが可能です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

親権者の再婚と養育費の関係~養子縁組した場合~

 

 これまでのコラムでは、養育費の決め方について問題となるいくつかのケースについてご説明しました。

 

 しかし、一旦養育費の取り決めをしても、離婚後の生活状況の変化によっては、当初定めた養育費の金額を変更するべきではないかが問題となるケースもあります。

 

 そこで今回は、離婚後に生活状況に変化が生じた場合のうち、再婚と養育費の関係についてご説明したいと思います。

 

 なお、再婚するケースには、

 

①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合

 

②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合

 

③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合

 

④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合

 

の4パターンがありますが、本コラムでは①のパターンについて説明し、その他のパターンについては別のコラムでお話する予定です。

 

権利者の再婚+養子縁組→減免の可能性

 子どもを引き取った親権者(権利者)が再婚し、自分の子どもと再婚相手が養子縁組をした場合、新たに養親となった者は、その子どもの実親である非親権者に優先して子どもを養育する義務を負うと考えられています。

 

 したがって、子どもが自分の再婚相手と養子縁組をし、養親世帯に十分な経済力がある場合、離婚の際に取り決めた養育費の免除が認められる可能性があります。

 

東京高裁令和2年3月4日決定

「両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は、第1次的には親権者及び養親となった再婚相手が負うべきものであり、親権者及び養親がその資力の点で十分に扶養義務を履行できないときに限り、第2次的に実親が負担すべきことになると解される。」

 

 もっとも、子どもと再婚相手が養子縁組をしたからといって、非親権者の扶養義務そのものがなくなるわけではありませんので(二次的な義務に格下げになるだけです。)、養親世帯に十分な経済的能力がない場合、実親である非親権者に養育費の支払義務が一部残る可能性があります。

 

 具体的にどのような場合に非親権者の養育費支払義務が残るかは様々な考え方があるようですが、最近の裁判例をみると、生活保護法の保護基準をもとに計算した子どもの最低生活費を一応の目安としつつ、そのほかの諸般の事情も加味して実親の負担の有無や範囲を判断しているものがあります(福岡高裁平成29年9月20日決定)。

 

福岡高裁平成29年9月20日決定

「両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は第一次的には親権者及び養親となったその再婚相手が負うべきものであるから、かかる事情は、非親権者が親権者に対して支払うべき子の養育費を見直すべき事情に当たり、親権者及びその再婚相手(以下「養親ら」という。)の資力が十分でなく、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないときは、第二次的に非親権者は親権者に対して、その不足分を補う養育費を支払う義務を負うものと解すべきである。そして、何をもって十分に扶養義務を履行することができないとするかは、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきである。」

 

 この福岡高裁の決定では、子どもと再婚相手が養子縁組をした場合に非親権者の養育費支払義務が残るかどうか、残るとしてどれくらいの額になるかについて、概ね以下のような枠組みで判断しています。

 

①生活保護基準を基に養親世帯の最低生活費(のうち、生活扶助費)を計算する

 

②養親世帯の基礎収入(※1)を計算する

   

③①と②を比較

→①>②=養親世帯だけでは十分に養育できない状態

→非親権者は月に【A+B】÷12の額を負担するべき

 

【A:①-②の額(=不足額)のうち、子どもの養育に必要な金額】(※2)

 ∵不足額には対象の子ども以外の者の生活費が含まれているため除く必要

 

【B:子どもの教育費】

 

 なお、この決定では、非親権者は、生活保護制度では支給対象になっていない学校外活動費を含む統計上の教育費(文部科学省「子どもの学習費調査」)も負担すべきと判断しています。

 

 もっとも、この点は、非親権者の学歴・収入・職業(医師)や子どもとの関わり合い方(実親が定期的に面会交流をしていること)からすると、非親権者は、子どもに人並みの学校外活動ができる程度の生活を送ってほしいと願っているはずである、ということを根拠にしており、その事案独自の事情が影響しています。

 

 したがって、教育費を加算する部分については、非親権者の学歴・収入・職業や子どもとの関わり合い方といった事情次第では結論が変わってくる可能性があります。 

 

 福岡高裁の決定も一つの考え方にすぎませんので他の裁判所でも同じ枠組みで判断されるとは限りませんが、今回ご説明したとおり、養親世帯が最低生活費を下回るような収入しか得ていないようなケースでは非親権者の養育費支払義務が残る可能性がありますので、注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 


※1 世帯総収入×基礎収入割合(給与所得者では収入に応じて38~54%・・・令和元年12月23日に公表された新算定表で基礎収入割合が左記のとおり変更となりました)

※2 福岡高裁は以下の式で計算していますが、詳細は割愛します。

 

  (①-②)×(生活扶助費の第一類費(注)のうち、対象となる子の金額)

       ÷(養親世帯全体の第一類費の合計額) 

 

注:「第1類費」

  飲食物費や被服費など個人単位に消費する生活費の基準。年齢別に設定されている。