同一方向に進行中の自転車の進路変更により自動車と接触した場合の過失割合~交通事故⑲~

 

 最近、自転車で通勤する人が増え、また、自転車を使用して物品の配送をするサービスも普及してきているようですが、それに伴い、自転車と自動車との接触事故の話も良く聞きます。

 

 今回は、自転車と自動車との事故のうち直進車同士での事故について、自転車が進路変更をした場合に関する過失割合について、別冊判例タイムズ38号をもとに説明していきたいと思います。

 

典型的な事故状況

【前方に障害物なし】

【前方に障害物あり】

 

【基本の過失割合】

【前方障害物なし 自転車:自動車=20:80】

【前方障害物あり 自転車:自動車=10:90】

 このケースでは、自転車の前方に駐停車中の車両などの障害物があるかどうかによって基本の過失相殺に違いがあります。

 

 前方に障害物がある場合は、後続する自動車としても、自転車が進路変更する可能性があることを容易に認識しうるため過失が重くなっています。 

 

過失割合の修正要素

 もっとも、以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【自転車の運転者が児童等・高齢者の場合】

自動車に対して+10% 

 児童や高齢者については、不意に進路変更をすることも多く、自動車側がより注意するべきであると考えられるためです。

 

 なお、「児童等」とは概ね13歳未満の者を言い、6歳未満の幼児も含みます。

 

 他の事故類型では児童と幼児とで過失の修正割合に差を設ける場合もありますが、この類型では幼児は自転車として扱うよりも歩行者として扱うべき場合が多いとの考えから、児童と差が設けられていません。

 

 「高齢者」とは、概ね65歳以上の者を意味します。

 

【自動車の「著しい過失」・「重過失」】

著しい過失:自動車に+10% 

重過失:自動車に+20%

 自動車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

自動車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①脇見運転などの著しい前方不注視

 

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

 

③概ね15㎞以上30㎞未満の速度違反

 

⑥酒気帯び運転(※) など

 

※ 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②居眠り運転

 

③無免許運転

 

④概ね時速30㎞以上の速度違反 など

 

【自転車が進路変更時に合図をしなかった場合】

自転車に+10%

 自転車が合図をしなかったことにより、事故発生の可能性を高めたと評価されるためです。

 

【自転車の「著しい過失」・「重過失」】

自転車に+5~10%

 自転車側に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

自転車の「著しい過失」・「重過失」の具体例

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①酒気帯び運転(※1)

 

②2人乗り

 

③無灯火

 

④並進(※2)

 

⑤傘を差すなどの片手運転 

 

⑥脇見運転等の著しい前方不注視

 

⑦携帯電話等で通話しながらの運転や画像を注視しての運転 など

 

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

※2 複数の自転車が並んで走行すること

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

 

②いわゆる「ピストバイク」など制動装置の不良 など

 

 なお、最近では猛スピードで走行する自転車による交通事故も聞きますが、高速走行している自転車(原動付自転車の制限速度である時速30㎞程度)については、もはや自転車ではなく単車として扱われ、別の基準が適用されることとされています。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

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交通事故でむち打ちになった場合の注意点~交通事故⑱~

 

 車両同士の交通事故で相談が多いのがむち打ちの事例ですが、むち打ちによる交通事故賠償については他の怪我とは異なる注意点がありますので、今回はその点についてお話しします。

 

整形外科を継続的に受診することが望ましい

 整形外科に通う必要性はむち打ちだけに限る話ではありませんが、むち打ち特有の問題として、骨折などと異なり怪我をしたことがレントゲンやCT、MRIなどの画像に映りにくく、怪我の程度や治り具合を客観的に示す資料が乏しいということがあります。

 

 むち打ちの患者さんについて相談を受けていると、当初の数回は整形外科で受診したものの、その後は整骨院や治療院での施術がメインであるケースがありますが、整形外科での治療実績が極端に少ないと慰謝料の計算や後遺障害等級の認定を受ける段階で困ることがあるため注意が必要となります。

 

・整骨院などの施術は?

 

 整骨院等で施術を行う方は医師ではないため、施術の必要性があったかどうかが後で問題とされて慰謝料の計算に影響が出る可能性があり、また、整骨院等では後遺障害診断書を作成することができないことから、医師の継続的な治療を受けていないと事故後の治療経過が不明であったり必要な検査が受けられない結果、医師に後遺障害診断書の作成を断られる場合があります。

 

 そのため、症状の軽減目的で整骨院等に通うことは問題はありませんが、その後の示談交渉等を見据えた場合には、基本的には整形外科へ継続的に通院することが望ましいといえます。

 

適切な頻度で通院すること

 交通事故での通院による慰謝料は基本的には通院期間を基礎として計算されますが、通院の頻度があまりに少ないと相手方保険会社から不相当に低い慰謝料の提示がなされたり、後遺障害の認定上不利益を受けることがあります。

 

 たとえば、交通事故で首のむち打ちになり、半年程度経っても痛みが残って症状固定となった場合、その間、仕事でなかなか病院に通えず月に1回程度しか通院しなかったようなケースだと、そもそも大した怪我ではなかったから慰謝料の算定期間は半年ではなく3か月程度とすべきであるとか、実通院日数の3倍程度を目途に慰謝料を計算するべきであるなどと主張されることがあり、また、通院頻度が少ないことを理由の一つとして後遺障害等級について非該当と判定されることがあります。

 

 このようなケースでも、病院に通えなかったことにやむを得ない事由があったとして正当な金額を主張していくことになりますが、そもそも適切な頻度で通院をしていれば避けられる争いでもあるため、痛みがあるのであれば、可能な限り適切な頻度(概ね週に2~3回程度)での通院を心がけていただきたいと思います。

 

・後から通院を増やしても意味はない

 

 なお、通院頻度のお話をすると、当初は通院回数が少なかったのに治療後期になってから通院回数を増やした場合はどうなのかという問題がありますが、無理に通院頻度を増やしても意味はありません。

 

 なぜなら、人間の身体は事故から時間が経過していくことによって徐々に回復していくのですから、事故直後は痛みが強いため通院頻度が多く、時間の経過によって徐々に頻度が減っていくことが治療経過としても自然であってその逆は不自然だからです。

 

自覚症状は事故当初からすべて伝え、事故直後に必要な検査は受けておく

 むち打ちで後遺障害が残った場合は後遺障害等級認定を受けることになりますが、むち打ちはレントゲン等の画像に所見がみられないことが多いため、きちんとした認定をしてもらうためには、適切な通院頻度や後で述べる神経学的検査の受診などのほかに、症状の一貫性が重要となります。

 

 症状の一貫性とは、要するに事故直後から後遺障害診断時まで一貫して症状があることですが、後遺障害等級認定は書面審査であるため、当初の診断書に記載されていなかった自覚症状が治療途中や後遺障害診断書作成時に出現しているなど、症状に一貫性が認められない場合、そのことを理由に等級認定上不利益を受けることがあります。

 

 そのため、自覚症状がある場合には初めから医師に漏れなく伝えておくことが必要となります。

 

 また、むち打ちについては確かに画像に出にくいところではあるのですが、撮ってみれば画像上所見が得られる場合もありますので、後遺障害が予想されるのであればMRIまで受けておいていただきたいと思います。

 

後遺障害が残った場合には後遺障害診断書の作成前に病院で神経学的検査を受ける

 画像検査で所見が出ないことが多いというむち打ちの特徴から、むち打ちで適切な後遺障害の認定を受けるには神経学的検査を受けて医学的所見を得ておくことも重要です。

 

 代表的なものとしては、スパーリングテスト、ジャクソンテストといったものがありますが、そのほかにも関節の可動域検査や徒手筋力検査、筋萎縮検査、神経伝達速度検査などがあり、必要に応じて医師の検査を受診することになります。

 

 

 以上、むち打ちについては慰謝料や後遺障害の等級認定について気を付けるべき点がいくつかあることをご紹介しました。

 

 ここでお伝えしたようなことはあらかじめ知っていればどれも適切に対処できるものですが、すでに治癒したり症状固定してしまってからでは挽回することが困難な場合がありますので、交通事故でむち打ちになった場合には事故の初期段階から弁護士へ相談し、今後の対応を検討しながら治療にあたっていただきたいと思います。

 

 弁護士 平本丈之亮

 

 

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弁護士費用特約の使い方~交通事故⑰~

 

 交通事故に遭って弁護士に相談や依頼をしたいという場合、ご自分の自動車保険に「弁護士費用特約」がついていると、一定の限度ではあるものの法律相談料と弁護士費用を保険金で賄うことができます(標準的なものだと法律相談は10万円、弁護士費用は300万円が上限になっています)。

 

 もっとも、弁護士費用特約については、念のため加入したものの実際に使ったことがない方が一般的であり、いざ使おうと思ったときにはどうやって使ったら良いかわからないということが多いと思いますので、今回はこの点についてお話しします。

 

STEP1 保険証券や保険会社に確認する

 

 ご自分の保険に弁護士費用特約が付いているかどうかは保険証券に記載してありますので、保険証券を確認する方法が考えられます。

 

 もっとも、交通事故に遭った場合、取り急ぎ自分の加入する保険会社に連絡することが一般的ですので、わざわざ保険証券を見なくても、保険会社に電話などで確認すれば特約加入の有無はわかります。

 

STEP2 弁護士を探す

 

 弁護士費用特約に加入していた場合、次にするのは弁護士を探すことです。

 

 弁護士を探す方法としては大きく分けて2つあり、①1つは加入する保険会社や加入した際の保険代理店を通じて探してもらう方法、②もう1つは自分で探す方法です。

 

 どちらが良いかは一概には言い難く、探す手間が省けるという意味では前者ですが、自分に合う弁護士を自分で探したい場合には後者を選ぶことになります。

 

 

保険会社や代理店に紹介を依頼する場合

保険会社を通じて弁護士を探してもらう場合、保険会社が顧問先や知り合いの弁護士を直接紹介するパターンと、弁護士会のリーガル・アクセス・センター(通称LAC)という組織に弁護士の選任を任せるパターンの2種類があります。

 

心情的に保険会社と普段から付き合いのある弁護士への依頼が気になるときは、保険会社にその弁護士との関係を聞いてみるか、あらかじめLACルートでの弁護士探しを依頼することが考えられます。

 

また、保険会社に紹介を依頼すると紹介されるのはその保険会社と関係のある弁護士になりますが、保険代理店の場合は複数の会社の保険を扱っていることがあり、その関係で弁護士も複数知っていることがありますので、保険会社ではなく保険代理店に相談してみるのも一つの方法です。

自分で弁護士を探す場合

自分で探す場合、どうやって弁護士にアクセスしたら良いか分からないこともあると思いますが、HPなどの普及によって弁護士を探すことは以前よりも容易に探すことができるようになっています。

 

最近では自分の取扱分野を積極的に発信する弁護士も増え、交通事故をメイン業務としている事務所もあるようですので、自分で弁護士を探す場合はそのような情報をもとに比較検討して相談に行くことが考えられます(当事務所でも直接HPを見て相談に来られる方がいらっしゃいます)。

 

なお、この点に関する誤解として、弁護士費用特約は保険会社が選んだ弁護士しか使えないというものがありますが、先ほど述べたとおり基本的にそのようなことはありません。

 

ただし、各保険会社の約款には、弁護士費用特約の利用には保険会社の承認が必要であるという定めがありますので、自分で探す場合にはあらかじめ保険会社に相談し、了解を得ておくことは必要です。

 

使えない場合もある(免責)

 

 弁護士費用特約は交通事故の被害者にとっては使い勝手の良い保険ですが、故意・重過失(=故意に匹敵するほどの重大な過失)がある場合や酒気帯び・無免許など一定の場合には使えないことがあり(=免責)、保険会社によっては車検証に「事業用」と記載されている自動車での事故は対象外となっているところもあります。

 

 具体的にどのような場合に使えないのかは各保険会社のHPや約款に記載されていますが、知らない人同士での通常の交通事故であれば使えるケースの方が多いと思いますし、無過失の場合しか使えないとかケガが重い場合にしか使えないなどということもありません(当職自身、過失事案や少額事案で特約を利用して依頼を受けることがあります)。

 

弁護士費用特約を利用しても保険の等級は下がらない

 

 弁護士費用特約を利用しでも保険等級は下がらず、翌年の保険料は値上がりしませんので、特約を利用する際に保険料の増額を気にする必要はありません。

 

 以上の通り、弁護士費用特約に加入している方は弁護士費用の負担を軽くしながらアドバイスを受けたり適正な賠償を求めることが可能になりますので、交通事故に遭ってしまった場合にはこの特約がついていないかを一度確認していただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

交通事故の慰謝料が増額される場合とは?~交通事故⑦・慰謝料の増額事由~

 

 交通事故賠償の分野においては、慰謝料の計算方法や金額がある程度定型化されています。

 

 しかし、このような慰謝料の計算はいわば標準的な事案を前提としたものですから、例外的に一定のケースでは慰謝料が増額されることがあります。

 

 そこで、今回は、慰謝料の増額事由としてどのようなものがあるかについて説明したいと思います。

 

加害者が悪質な場合

 

 交通事故の慰謝料は事故によって受けた被害者の精神的苦痛を償うものですから、加害者が悪質なために被害者の精神的苦痛が強ければ、その分、償いとしての慰謝料も増えると考えられます。

 

 具体的な増額事由としては、たとえば、以下のようなものがあります。

 

 なお、ここで紹介する事情があったことは被害者側で立証する必要があり、また、一部の事情については増額をしなかった裁判例もあるようですので、必ず増額されるとまで言い切れないことには注意が必要です。

 

増額事由の一例

①加害者が故意に事故を起こした場合

 

②加害者に重過失がある場合

・無免許運転

・ひき逃げ(救護義務違反)

・飲酒運転

・著しいスピード違反

・ことさらに信号を無視した場合

・薬物などの影響により正常な運転ができない状態だった場合 など

 

③事故後の加害者の態度が著しく不誠実だった場合

・事故の証拠を隠滅した

・虚偽の供述や不合理な主張をして事故の責任を争った など

 

2一部の後遺障害で逸失利益が否定された場合

 

 先ほど述べたように被害者の悪質性が高いような場合以外でも、以下のような一部の後遺障害について「逸失利益」(=後遺障害によって失われた利益)が否定された場合、その代わりに慰謝料が増額されることがあります。

 

増額事由の一例

①歯牙障害

 

②醜状障害(外貌醜状)

 

骨の変形障害

 

・増額の幅と具体例

 

 これまで述べたような慰謝料の増額事由がある場合でも、どの程度増額されるのかは裁判官の裁量的な判断による部分であり、また、後遺障害の事案では逸失利益を認めるかどうかにもかかわってくるため、一定の基準があるわけではありません。

 

 そのため、ここでは参考としていくつかの裁判例を紹介するにとどめます。

 

【加害者が悪質な場合】

・酒気帯び運転の事案(福岡地判平成28年11月9日)

 入院60日、通院約4ヶ月半(実通院日数55日)、後遺障害等級12級13号だった事案について、入通院慰謝料を185万円(赤い本の基準で計算すると概ね170万円前後)、後遺障害慰謝料について315万円(赤い本の基準では290万円)とした。

 

・故意に車両を発進させて被害者に接触し、ボンネットに載せたまま走行して路上に転倒させ、さらに事故後逃走した事案(京都地判平成21年6月24日)

 通院76日だった事案について、通院慰謝料を130万円とした(赤い本の基準で計算すると概ね63万円程度)。

 

・加害者が高速道路において、猛スピードで車線変更をして追越車線上のトラックを左から追い越そうとした際に、走行車線を走行していたバイクに追突して死亡事故を起こした事案(被害者:25歳・独身・男性 静岡地裁浜松支判平成20年9月30日)

 加害者の過失が重大であること、加害者が反省の色をまったく示そうとせず、刑事裁判で約束した写経や月命日の訪問といった謝罪行為を反故にしたことなどを指摘し、死亡による慰謝料を2800万円とした(赤い本の基準では2000~2500万円の範囲)。

 

【後遺障害で逸失利益が否定され、慰謝料の増額が問題となったケース(一例)】

・外貌醜状の事案

【東京地判平成28年12月16日】

 顔面に後遺障害等級9級16号の外貌醜状が残った女性の後遺障害慰謝料について、830万円とした(赤い本の基準では690万円)。

 

【京都地判平成29年2月15日】

 顔面に後遺障害等級9級16号の外貌醜状が残った女児の後遺障害慰謝料について、870万円とした(赤い本の基準では690万円)。

 

【名古屋地裁一宮支判平成30年3月16日】

 顔面に後遺障害等級9級16号の外貌醜状(額の生え際付近)が残った男児の後遺障害慰謝料について、基準通り690万円とした(赤い本の基準では690万円)。

 

・歯牙障害の事案(大阪地判平成28年5月27日)

 歯に後遺障害等級14級2号の歯牙障害が残った女性の後遺障害慰謝料について、150万円とした(赤い本の基準では110万円)。

 

・骨盤変形の事案(名古屋地判平成15年12月19日)

 骨盤変形等で後遺障害等級12級5号の障害が残った男性の後遺障害慰謝料について、600万円とした(赤い本の基準では290万円)。

 

・上記のような特殊な増額事由がなくても、交渉や裁判によって慰謝料が増える場合があることに注意

 

 厳密に言えば慰謝料の増額事由ではありませんが、そもそも保険会社が提示してきた入通院に対する慰謝料と後遺障害に対する慰謝料が不相当に低いケースが多く見られます。

 

 このようなケースが起きるのは、保険会社がいわゆる裁判基準ではなく自社基準によって交渉をするためですが、弁護士が介入することでそれぞれの金額が増額されることも良くあります。

 

 

 交通事故に遭われた被害者やご遺族の方が、自分達のケースで妥当な慰謝料がいくらかを判断したり示談交渉することは容易ではなく、特に、今回お話したような増額事由がある場合にはなおさらと思われます。

 

 今回お話ししたとおり、加害者側の対応に問題があったり後遺障害について逸失利益を認めないという対応をされたときは慰謝料の増額事由を主張することが有益な場合がありますし、そもそもはじめから提示額が不相当に低い場合もありますので、少なくとも、示談の提示があった段階で一度は弁護士に相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

参考

【関連するコラム】

「交通事故で入院・通院した場合の慰謝料の計算と注意点~交通事故②・入通院慰謝料~」

「後遺障害に対する慰謝料の計算方法は?~交通事故③・後遺障害慰謝料~」

 

【死亡事案の場合の慰謝料の目安(赤い本)】

・一家の支柱  2800万円

・母親・配偶者 2500万円(H28以降) 

・その他    2000~2500万円(H28年以降)

 

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過去の解決事例~交通事故⑯~

 

 当事務所において取り扱った交通事故事案のうち、人身事故に関する解決事案の一部を簡単にご紹介します。なお、あくまでこれは一例であり、弁護士に依頼することによって必ず損害賠償額が増額されることをお約束するものではありませんので、その点はご了承願います。

 

四輪車同士の接触事故(人身)

 【case1 後遺障害:非該当(むちうち)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約35万円

主な損害項目:通院慰謝料

 

 【case2 後遺障害:14級(むちうち)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約80万円

主な損害項目:入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益

 

 【case3 後遺障害:11級】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約2550万円

主な損害項目:後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益

※後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益についてなぜか著しく低い示談案が提示されていた事案です。レアケースであり一般化はできませんが、保険会社の示談案の中にはこのようなケースが含まれている場合もあるという一例です。

 

 【case4 後遺障害:9級】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約500万円

主な損害項目:入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益

 

 【case5 後遺障害:なし(むち打ち・治癒)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約27万円

主な損害項目:通院慰謝料

※事案そのものはオーソドックスなものですが、弁護士の介入から示談成立まで約2週間とスピード解決に至ったケースです。

 

四輪車と自転車との接触事故

 【後遺障害:非該当(むちうち)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約19万円

主な損害項目:通院慰謝料

 

四輪車と原付自転車との接触事故

 【case1 後遺障害:なし(骨折・治癒)】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約42万円 

主な損害項目:入通院慰謝料

 

 【case2 後遺障害:12級】 

保険会社の当初提案額と解決時の差額:約130万円 

主な損害項目:入通院慰謝料・後遺障害慰謝料

 

 今回、交通事故は弁護士が介入することで結果が変わる可能性があるということをお示しするためいくつかの解決例をご紹介しましたが、ここで紹介したケースは交通事故を取り扱う弁護士であれば同様の成果をあげることは可能だったと思われ、特段、当職に特別な技能があったから得られたというわけではありませんし、被害者の方に特殊な事情があったわけでもありません。

 不幸にして交通事故に遭ってしまった場合には、せめて適切な補償だけでも受けられるよう弁護士への相談をご検討いただきたいと思います。 

 

弁護士 平本丈之亮 

 

人身事故で弁護士に相談するタイミング~交通事故⑮~

 

 交通事故で怪我をした場合、治療費の問題や過失割合の問題、相手からの示談案の妥当性、保険会社との交渉によるストレスなど様々な課題が起きますが、交通事故に何度も遭うこと自体まれなことであり、多くの方にとっては一生に一度のことです。

 

 そのため、人身事故の被害者が相手の保険会社の言い分が正しいのかどうかを判断することは難しく、適切なタイミングで弁護士が関与することによって迷う場面を少なくすることができ、また、最終的に妥当な内容で解決できることも期待できます。

 

 もっとも、いざ弁護士に相談しようと思っても、どのタイミングで相談すれば良いか自体わからない方も多くいらっしゃると思いますので、今回はこの点をテーマにお話ししたいと思います。

 

人身事故で弁護士に相談するタイミング

 

1 事故直後

 事故直後は、警察や保険会社への連絡といった形式的な手続きをすることで手一杯であることが多く、そもそも怪我をしている場合はまずは治療に専念することが最優先ですから、弁護士への相談が後回しになるのも仕方がないといえます

 

 もっとも、怪我の治療の受け方によっては、示談交渉や最終的な賠償額に影響する可能性があるため、可能であるなら、ご本人でなくとも弁護士に相談した方が良いと思います。

 

 特に、骨折等を伴わないむち打ちのケースだと、通院先が適切かどうか、通院頻度はどの程度が適当か、将来的に受けておくことが望ましい検査など、後の後遺障害等級認定や示談交渉を見据えてあらかじめ見通しをつけておくことが有効な場合がありますので、相談に行くことを検討していただきたいと思います。

 

2 治療継続中

 この段階では弁護士への相談の優先度はそこまで高くはありませんが、ある程度治療が進んだ時点では相談に行った方が良い場合があります。

 

 治療継続中は相手方の保険会社が治療費を内払いしているケースが多いと思いますが、事故からある程度の期間が経過すると、保険会社から医師への医療照会によって、治療費の支払いを終了すると通告される可能性が出てきます。

 

 医師の判断と自分自身の感じる怪我の治り具合が一致していれば問題はありませんが、もしもまだ治っていないと感じ、治療費の内払いも継続してもらいたいという場合には、今後も治療によって症状が改善する可能性があることを診断書などで示してもらい治療費の内払いの継続を保険会社と交渉する余地もあることから、そのような場合は弁護士へ相談に行った方が良いと思います。

 

3 完治、あるいは症状固定

 交通事故による怪我が完治した場合にはその時点で事故による損害はすべて確定したことになりますので、今後の進め方を確認するためにも弁護士に相談するタイミングとしては良い頃合いです。

 

 また、治療を尽くしたものの治りきらず、これ以上続けても治療効果があがらないと医師が判断した場合(症状固定)にも事故による損害が確定したことになるため、やはり弁護士に相談するタイミングということになります。

 

【後遺障害があるときは、後遺障害診断書を作成する前が望ましい】

 後遺障害が残った場合には、その残存症状が自賠法所定の後遺障害等級(1~14級)として認定されるかどうか、あるいはその等級が何級になるかによって最終的な賠償額に大きな違いが出てきます。

 

 もっとも、ご相談を受けていると、すでに作成された後遺障害診断書において、相談者の訴える自覚症状が適切に記載されていなかったり、自覚症状は記載されているものの、その症状の裏付けとなる医学的検査が実施されていないか乏しい場合もあります。

 

 後遺障害等級認定は書面審査であるため、適切な認定を受けるには後遺障害診断書に必要な情報がきちんと記載されていることが必要ですし、一度作成してもらった後で書き直しや検査の追加を依頼するというのは気が引けて難しいこともあるかと思いますので、後遺障害があるときは、できれば後遺障害診断書を作成する前に弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。

 

4 保険会社からの示談案が出た時点、あるいは本人による交渉が決裂した場合

 この段階では、怪我が完治したり認定された後遺障害等級に問題がなければ最終的な金額の妥当性のみが問題となっていますので、弁護士へ相談に行くタイミングとしては適切です。

 

 このタイミングで相談を受けた弁護士は、聞き取った事故状況や治療経過、本人の生活環境や後遺障害等級など様々な事情から過失割合や損害額を検討して示談案が妥当かどうかを判断し、増額の可能性がどの程度あるかアドバイスをします。

 

 相談者としては、弁護士からのアドバイスを受け、保険会社からの提案で示談をするか、弁護士に委任して増額を求めるかを判断することになります。

 

相談はお早めに

 

 このように人身事故で弁護士に相談に行くタイミングは様々であり、適切なタイミングも人それぞれですが、早めに相談に行くことで対応に迷うことは格段に少なくなりますので、一般論として言えば早めの相談であればあるほど良いと考えます。

 

 交通事故については弁護士費用特約が付いていることも多く、この場合には相談料はかかりませんし、当事務所をはじめとして無料相談を実施している法律事務所もありますので、ぜひお早目の相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

駐車場内の通路での人身事故の過失割合~交通事故⑭~

 

 以前のコラムで、駐車場内の交差部分で車両同士が接触した場合の過失割合についてお話ししました(→「駐車場の交差部分での出会い頭事故の過失割合~交通事故⑩~」)。

 駐車場内の通路では、四輪車だけではなく多くの人が歩行することが予定されていますが、もしも駐車場の通路で四輪車と歩行者が接触した場合に過失割合がどうなるかというのが今回のテーマです。

 

典型的な事故状況

 

基本の過失割合

 車両:歩行者 90:10

 

 駐車場内の通路は歩行者が通行することが想定されているため、駐車場の通路を通行する四輪車には、人の往来があることを常に予見し歩行者の通行を妨げない速度・方法で進行する高度の注意義務があるとされています。

 他方、歩行者としても、駐車場の通路上を四輪車が通行することは予見するべきであり、慎重に安全を確認しながら歩行することが要求されるため、歩行者にも一定の過失があると判断されて上記のような割合になります。

 

過失割合の修正要素

 以下のような事情がある場合には、基本の過失割合が修正されます。

 

 【歩行者の急な飛び出し】  

 歩行者に+10

 

 この場合、歩行者の落ち度が大きいためです。 

 

 【歩行者用通路標識上の接触】 

 四輪車に+20

 

 歩行者が白線等で示された歩行者用の通路を通行していた場合です。

 このような場合、歩行者の通行が特に保護されるべきであるため、歩行者に有利な方向に修正がなされます。

 

 【歩行者が児童・高齢者】 

 四輪車に+5

 【歩行者が幼児・身体障害者等】 

 四輪車に+10

 

 歩行者が児童等のいわゆる交通弱者の場合には通行を保護すべき必要性が強く、その分、運転者側の責任が重くなるためです。

 

・幼児・児童・高齢者・身体障害者等の意味

「幼児」=6歳未満

「児童」=6歳以上13歳未満

「高齢者」=概ね65歳以上

「身体障害者等」=以下の①~④に該当する人

①身体障害者用の車いすで通行している人

②杖を持ち、又は盲導犬を連れている目の見えない人

③杖をもつ耳が聞こえない人

④道路の通行に著しい支障がある肢体不自由・視覚障害・聴覚障害・平衡機能障害がある人で杖を持っている人

 

 【四輪車の著しい過失】 

 車両に+10

 【四輪車の重過失】 

 車両に+20

 

 四輪車の運転者に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです。

 

 【著しい過失=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失】 

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④酒気帯び運転(※1)

⑤一時停止標識違反

⑥通行方向表示違反(逆走)

⑦四輪車が通路を進行する他の車両の通常の進行速度を明らかに上回る速度で進行していた場合(※2)

⑧差右折時や後退時などに、進行方向の見通しが悪い場所で徐行しなかった場合

など

※1 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

※2 速度超過の程度によっては重過失と評価される可能性もあります

 

 【重過失=故意に比肩する重大な過失】 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転

など

 

弁護士 平本丈之亮

 

むち打ちで後遺障害が認定された場合の示談交渉で注意すること~交通事故⑬~

 

 交通事故相談で多く当たる人身事故のケースとして、いわゆるむち打ち(頸椎捻挫)があります。

 

 むち打ちについて後遺障害が残った場合、そもそも自賠責の後遺障害等級に該当するかどうかのレベルで問題となることが多いのですが、無事に後遺障害等級の認定を受けられた場合でも、今度はその次の示談交渉で注意すべき点がありますので、今回はこの点についてお話しします。

 

 なお、むち打ちで認められる可能性がある後遺障害等級は、14級9号(局部に神経症状を残すもの)12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)の2つですが、今回は当職が相談の中で出会うことの多い14級9号をもとにご説明したいと思います(着眼点そのものは12級の場合も同じです)。

 

後遺障害の慰謝料が適切に計算されているか

 むち打ちで後遺障害の等級認定がなされると、ケガで治療を要したことに対する慰謝料(傷害慰謝料)のほか、後遺障害が残ったことに対する慰謝料(後遺障害慰謝料)が発生します。

 

 しかし、後遺傷害に関する慰謝料についてきちんとした算定がなされていない場合がありますので、ここが一つ目のチェックポイントです。

 

 たとえば当職が過去に担当した事案では、14級9号の慰謝料について、裁判基準であれば110万円が相当であるところ、弁護士が介入する前に提示されていた金額は約58万円だったということがあり、交渉の結果慰謝料を増額した事案があります。

 

逸失利益が適切に計算されているか

 次に、後遺障害等級の認定がなされた場合、その等級に応じて、失われた利益(逸失利益)の支払いがなされますが、この点の計算が妥当かも検討する必要があります。

 

 逸失利益の計算は、 【基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】 という計算式で求めることになっていますが、相手方からの示談案が妥当かどうかを判断するには、この計算式に用いるそれぞれの数字に問題がないかどうかを一つずつ見ていきます。

 

【point1 基礎収入は適切か】

 基礎収入については、事故の被害者の就業状況や年齢などにより様々な計算ルールがあるため、ここで全てのケースについて細かく解説することはできませんが、主婦(家事労働者)、自営業者、若年労働者(事故当時概ね30歳未満)、学生・生徒、幼児などについて問題となることが多くありますので、被害者がこのカテゴリーに入るケースには注意していただきたいと思います。

 

【point2 労働能力喪失率は適切か】

 14級9号の後遺障害等級認定がなされた場合、後遺障害により失われた労働能力は基本的には5%とされていますが、労働能力喪失率は具体的な職業との関係で判断されるものであり、5%という数字も一応の目安に過ぎません。

 

 そのため、(特にむち打ちに限った話というわけではありませんが、)保険会社から、後遺障害の仕事への影響は少ないとして低い数字が提示される場合がありますので、妥当な内容となっているか検討することが必要です。

 

【point3 労働能力喪失期間は適切か】

 さらに、むち打ちで14級9号が認定された場合、後遺傷害が労働能力に影響を及ぼす期間について5年程度とされる例が多いですが、保険会社からの示談案ではそれよりも短い期間になっていることがあります。

 

 当職が過去に担当したケースでも、弁護士が介入する前、保険会社から労働能力喪失期間が2年と提案されていた事案がありました。

 

 労働能力喪失期間が5年である場合と2年の場合とでは、先ほどの計算式に当てはめる数字(=ライプニッツ係数)が大きく異なるため(5年だと4.3295(令和2年4月1日以降の事故は4.5797)、2年の場合は1.8594(令和2年4月1日以降の事故は1.9135)。)、ここの違いが逸失利益の金額に大きな影響を与えることがあります。

 

 最終的には、後遺障害が仕事にどの程度の影響を与えるのかを事案毎に検討していくことになるため必ずしも5年にならない場合もありますが、さしたる理由もなく短い期間で提案されていないかをチェックするのも重要なポイントです。 

 

その他の費目にも注意

 以上、むち打ちのケースで主に後遺障害に関する慰謝料と逸失利益について注意点を説明しましたが、そのほかにも、傷害慰謝料(入通院慰謝料)や休業損害など、後遺障害以外の費目についても妥当な計算がなされていないケースがあるため、これらの点もきちんとチェックすることが大事です。

 

 交通事故による損害賠償問題は誰しもが遭遇する可能性のあるトラブルですが、いざ自分がその立場に立った場合に、保険会社からの示談案が妥当かどうかを検討するのは簡単なことではありませんので、自分では判断がつかない場合には、交通事故相談をご活用いただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

加害者から物損事故扱いにしてほしいと言われたらどうするか~交通事故⑫~

 

 交通事故の被害に遭った際、ケガの程度が軽く、加害者側から治療費は負担するから物損扱いにしてほしいと言われて物損で届け出たが大丈夫だろうか、というご相談を受けることがあります(似たような問題として、事故直後は痛みがなかったので物損で届出したが、その後、痛みが出てきてしまったというご相談もあります)。

 このような場合にはどう対応をして良いか迷うことがあると思いますので、今回はそのような申し出がなされる理由や物損と人身の違い、具体的な対応方法などについてお話したいと思います。

 

なぜ物損事故扱いを望む加害者がいるのか?

 そもそも、なぜ交通事故で加害者側が物損扱いを望むかといえば、加害者側には以下のような事情があるからです。

 

①他に道交法違反(飲酒・スピード違反等)の事実がなければ、違反点数が加算されない

②他に道交法違反の事実がなければ刑事処分がない

③人身扱いになると、職場でペナルティが発生する(職場によりけり)

 

物損事故として届け出た場合のリスク

 このように、物損扱いで交通事故を処理をすることは加害者にとっては意味がある場合がありますが、他方、被害者には特にメリットはなく、かえって以下のようなリスクがあります。

 

 ①治療費等の支払いに影響が出る可能性 

 物損扱いとする以上、加害者側が怪我の治療費や慰謝料を支払ってくれない可能性があります。

 もっとも、相手方がきちんと任意保険に入っていて怪我の発生も争わない場合は、警察への届出が物損扱いのままでも対応してもらえることがあり、実際に過去に受けた交通事故相談でも、警察には物損扱いで届け出たものの相手方保険会社が人身として扱ってくれ、治療費を内払いしてくれているというケースがありました。

 しかし、これはあくまでも相手方がケガの発生を認めている場合のことですし、相手方の保険会社に人身扱いにしてもらえても、「はじめ物損で届け出たということはケガの程度はさほど重くないはずである。」と判断されて治療費の支払期間を制限されたり、後の示談交渉で慰謝料算定の基準となる治療期間を争われる、などといった不利益を被る可能性は否定できません。

 交通事故が起きた場合に当初物損で届け出るケースはむち打ちや腰の捻挫ですが、実際に交通事故相談にあたっていると、たいした怪我ではないと思っていたがなかなか治らなかったり後遺障害が残ったというケースも多く、事故当初の判断が後で大きく影響することがあるため注意が必要です。

 

 ②実況見分調書が作成されない 

 物損の場合、警察は交通事故の状況に関する実況見分調書を作成しません。

 そのため、後の示談交渉で過失割合について争いが生じても、当時の事故状況に関する客観的証拠が乏しく、過失割合の交渉で不利になる可能性があります。

 

物損から人身への切り替えはできるのか?

 このように、実際には交通事故でケガをしているのに物損として届け出ることはまったくお勧めできませんが、すでに物損で届け出てしまったという場合でも一定の期間内であれば警察に届け出ることにより人身に切り替えてくれる場合があります。

 もっとも、当然ながらいつまでも切り替えが可能というわけではなく、明確な期限はないもののせいぜい1週間から10日程度ではないかと言われることが多い印象です。いずれにせよ、日数が経ちすぎると事故との因果関係が不明であるとして切り替えを受け付けてくれないようですから、人身への切り替えを希望する場合は速やかに診断書を取得し、手続きを行うのが賢明です。

 これまでお話したとおり、物損で届け出てしまったときでもリカバリーがきく場合はありますので、まずは早急に診断書をとって警察に相談に行き、今後の対応について分からないことがあった場合は弁護士への交通事故相談をご検討いただきたいと思います。  

 

弁護士 平本丈之亮

 

代車料はどこまで払ってもらえるのか?~交通事故⑪~

 

  交通事故で車両が傷ついた場合、修理期間中、代車を提供してもらえたり、自分で代車を手配する場合があります。

 

 では、このような代車料は、はたしてどの程度、相手方に負担してもらえるのでしょうか?

 

 今回は、意外と難しい代車料について詳しく説明していきたいと思います。

 

代車使用の必要性

 そもそも代車料が認められるのは、日常生活において自動車を利用する必要性がある場合に限られます。

 

 そのため、営業車のように必要性が明らかな車両ではなく自家用車の場合、例えば休みのときのレジャーにしか使用していないようなケースだと、代車利用の必要性がないとして代車料が否定されることがあります。

 

 また、事故にあった自動車を通勤に利用していたとしても、自宅に何台か自動車があり他の自動車で十分に用を足せる場合や、公共交通機関を利用することで通勤が可能な場合などにも否定されることがあります。

 

 もっとも、例えば、通勤用ではないが家族の通院や介護のため送迎に使う必要がある場合や、公共交通機関を利用すると大幅に通勤時間が増えてしまう場合、早朝や深夜など公共交通機関を利用できない事情がある場合などであれば代車の必要性が認められることがありますし、また、複数の自動車を保有していても、その自動車が日常的に他の用途に使用されているため代車としては使えない場合であれば認められる可能性もあります。

 

 そのため、代車料の請求を巡って問題が生じた場合には、これらの事情を積極的に主張し、代車を使う必要があることを説明していくことになります。

 

 なお、公共交通機関の利用が可能であることを理由に代車料が否定される場合、代わりに公共交通機関の利用料金相当額を損害として求めていくことになります。

 

代車料が認められる期間

 代車を使用する必要性が認められる場合、次に問題となるのが、代車料はいつまで負担してもらえるのか、という期間の問題です。

 

 この点は、修理が可能なケースと、経済的全損のケースで長さが異なります。

 

 【修理可能なケース】 

 まず、修理が可能なケース(=技術的に修理可能であり、かつ、修理に要する費用が買替費用を下回る場合)については、通常、1~2週間程度が認められています。

 

 もっとも、修理に要する期間といっても、事故にあった自動車の車種や年式、壊れ方によって変わることがありますので、たとえば部品調達に時間がかかるようなケースであれば、認められる期間が伸びる可能性もあります。

 

 【経済的全損のケース】 

 これに対して、修理費用が高額となり、買い替えた方がむしろ費用が安いというケース(=経済的全損)では、買い替えに必要な期間として、概ね1か月程度の代車料が認められています。

 

 ただし、事故車の用途が営業用であり、買い替える際に営業車登録をする必要がある場合には、その登録に時間がかかるといった特別な事情があれば、その分、期間が伸びる場合もあります。

 

代車料の金額

 代車料として請求できる金額は、基本的には事故にあった自動車と同種同等以下のグレードの自動車のレンタル料金に限られます。

 

 通常の国産車であれば、1日当たり5000円から1万5000円程度、国産高級車の場合は、1日あたり1万5000円から2万5000円程度が認められることが多いと思います。

 

 なお、事故車が高級外国車の場合でも、外国車を使用しなければならない合理的な必要性がない限り、国産高級車の限度の代車料しか認められません。

 

代車料の支出がない場合

 代車料を請求するためには、実際に代車料を支出していることが必要であり、何らかの理由によって実際には代車を使用していなかった場合、仮に代車を利用していればこれだけの費用がかかったはずである、という形での請求は認められません(認めた裁判例もあるようですが、少数にとどまっています)。

 

レンタカー特約(代車特約)について

 これまで説明した通り、代車料の請求は修理や買替に要する期間に限られるため、実際に代車を使用してしまってから、実は支払われない部分があったということがあり得ます。

 

 このようなときは、過大と判断された部分は自己負担とならざるを得ないのが原則ですが、被害者側がいわゆるレンタカー特約に入っている場合には、代車料をそこから出してもらえることがあります。

 

 そのため、事故によって代車を使用するかどうかを検討する場合には、相手に対してどこまで請求できるのかという視点とは別に、ご自分がそのような特約に入っていないかも確認しておくことをお勧めします。

 

 代車料については文献やインターネット上での情報も多い分野ですが、ご相談をお受けしていると、意外と認められる範囲についてご存じのない方もいらっしゃいます。

 

 当然に全額が支払われると考えていたところ、思わぬ形で自己負担を余儀なくされることがあり得ますので、代車料についてはくれぐれもご注意ください。

 

弁護士 平本 丈之亮