車両保険を使って自動車を修理した場合、保険料の増加分は損害として請求できるのか?~交通事故㉓~

 

 交通事故で車両が損壊した場合、被害者が車両保険に加入していたときは、被害者は相手方に修理費を損害として賠償請求するか、自分の加入している車両保険を使用して修理するかを選択することができます。

 

 自分の加入している車両保険を使用した場合には保険等級が下がり、保険料が増えてしまうデメリットがありますが、では、車両保険を使用したことによって保険料が上がった場合に、加害者に対してその増加分の保険料を損害として請求できるのでしょうか?

 

増加した分の保険料は請求できないという見解が有力

 この点については、車両保険を使用して修理するか、それとも加害者に対して賠償請求して修理するかは本人の自由であることや、そもそも任意保険というものが保険契約者の自衛手段であり、自己の損害を補填するための備えとして加入している以上、そのコストは契約者が負担すべきである、などといった理由から請求できないという見解が有力であり、過去の裁判例においても否定されているものがあります(名古屋地裁平成9年1月29日判決、東京地裁平成13年12月26日判決。なお、裁判例ではありませんが、平成11年版の民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本)に収録された裁判官の講演録においても、同様に否定する見解が示されています)。

 

 このように、車両保険を使用したことによって増加した保険料は相手方に請求できない可能性が高いと思われますが、車両保険には示談交渉等の煩雑な手続を省いてスピーディーに被害回復できる独自のメリットがあり、特に相手方が対物賠償保険に加入していないなど回収可能性に問題がありそうなケースでは、保険料の増額というデメリットを差し引いても車両保険を利用する意味があります。

 

 最終的には、相手方の保険加入状況や資力、保険料の増額の金額などを総合的に考慮して決めることになると思いますが、いずれにせよ、車両保険の使用を考える場合には、保険料の増加分については相手方に請求することが難しいことを念頭においてご判断いただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

代車料はどこまで払ってもらえるのか?~交通事故⑪~

 

  交通事故で車両が傷ついた場合、修理期間中、代車を提供してもらえたり、自分で代車を手配する場合があります。

 

 では、このような代車料は、はたしてどの程度、相手方に負担してもらえるのでしょうか?

 

 今回は、意外と難しい代車料について詳しく説明していきたいと思います。

 

代車使用の必要性

 そもそも代車料が認められるのは、日常生活において自動車を利用する必要性がある場合に限られます。

 

 そのため、営業車のように必要性が明らかな車両ではなく自家用車の場合、例えば休みのときのレジャーにしか使用していないようなケースだと、代車利用の必要性がないとして代車料が否定されることがあります。

 

 また、事故にあった自動車を通勤に利用していたとしても、自宅に何台か自動車があり他の自動車で十分に用を足せる場合や、公共交通機関を利用することで通勤が可能な場合などにも否定されることがあります。

 

 もっとも、例えば、通勤用ではないが家族の通院や介護のため送迎に使う必要がある場合や、公共交通機関を利用すると大幅に通勤時間が増えてしまう場合、早朝や深夜など公共交通機関を利用できない事情がある場合などであれば代車の必要性が認められることがありますし、また、複数の自動車を保有していても、その自動車が日常的に他の用途に使用されているため代車としては使えない場合であれば認められる可能性もあります。

 

 そのため、代車料の請求を巡って問題が生じた場合には、これらの事情を積極的に主張し、代車を使う必要があることを説明していくことになります。

 

 なお、公共交通機関の利用が可能であることを理由に代車料が否定される場合、代わりに公共交通機関の利用料金相当額を損害として求めていくことになります。

 

代車料が認められる期間

 代車を使用する必要性が認められる場合、次に問題となるのが、代車料はいつまで負担してもらえるのか、という期間の問題です。

 

 この点は、修理が可能なケースと、経済的全損のケースで長さが異なります。

 

 【修理可能なケース】 

 まず、修理が可能なケース(=技術的に修理可能であり、かつ、修理に要する費用が買替費用を下回る場合)については、通常、1~2週間程度が認められています。

 

 もっとも、修理に要する期間といっても、事故にあった自動車の車種や年式、壊れ方によって変わることがありますので、たとえば部品調達に時間がかかるようなケースであれば、認められる期間が伸びる可能性もあります。

 

 【経済的全損のケース】 

 これに対して、修理費用が高額となり、買い替えた方がむしろ費用が安いというケース(=経済的全損)では、買い替えに必要な期間として、概ね1か月程度の代車料が認められています。

 

 ただし、事故車の用途が営業用であり、買い替える際に営業車登録をする必要がある場合には、その登録に時間がかかるといった特別な事情があれば、その分、期間が伸びる場合もあります。

 

代車料の金額

 代車料として請求できる金額は、基本的には事故にあった自動車と同種同等以下のグレードの自動車のレンタル料金に限られます。

 

 通常の国産車であれば、1日当たり5000円から1万5000円程度、国産高級車の場合は、1日あたり1万5000円から2万5000円程度が認められることが多いと思います。

 

 なお、事故車が高級外国車の場合でも、外国車を使用しなければならない合理的な必要性がない限り、国産高級車の限度の代車料しか認められません。

 

代車料の支出がない場合

 代車料を請求するためには、実際に代車料を支出していることが必要であり、何らかの理由によって実際には代車を使用していなかった場合、仮に代車を利用していればこれだけの費用がかかったはずである、という形での請求は認められません(認めた裁判例もあるようですが、少数にとどまっています)。

 

レンタカー特約(代車特約)について

 これまで説明した通り、代車料の請求は修理や買替に要する期間に限られるため、実際に代車を使用してしまってから、実は支払われない部分があったということがあり得ます。

 

 このようなときは、過大と判断された部分は自己負担とならざるを得ないのが原則ですが、被害者側がいわゆるレンタカー特約に入っている場合には、代車料をそこから出してもらえることがあります。

 

 そのため、事故によって代車を使用するかどうかを検討する場合には、相手に対してどこまで請求できるのかという視点とは別に、ご自分がそのような特約に入っていないかも確認しておくことをお勧めします。

 

 代車料については文献やインターネット上での情報も多い分野ですが、ご相談をお受けしていると、意外と認められる範囲についてご存じのない方もいらっしゃいます。

 

 当然に全額が支払われると考えていたところ、思わぬ形で自己負担を余儀なくされることがあり得ますので、代車料についてはくれぐれもご注意ください。

 

弁護士 平本 丈之亮