駐車場の交差部分での出会い頭事故の過失割合~交通事故⑩~

 

 最近では郊外型の大型ショッピングモールが進出し、スーパーなどの店舗の大型化も相まって収容台数の多い駐車場を持つ店が多くなりましたが、それに伴い駐車場内での事故に関するご相談も増えています。

 今回は、駐車場内での事故のうちもっとも典型的な事故類型である、通路の交差部分での四輪車同士の出会い頭事故に関する過失割合について、別冊判例タイムズ38号をもとに説明していきたいと思います(なお、類似のものとしてT字路交差部分での事故類型がありますが、今回は割愛します)。

 

典型的な事故状況

 

【基本の過失割合=50:50】

 駐車場内の交差部分における四輪車同士の出会い頭事故については、直進・右折・左折の区別なく、双方の過失割合は50:50が基本とされています。

 交差部分に入ろうとし、あるいは交差部分を通行する自動車は、お互いに他の自動車が通行することを予想して安全を確認し、交差部分の状況に応じて他の自動車との衝突を回避できるような速度・方法で通行する注意義務があり、そのような注意義務の程度はお互いに同等であると考えられているからです。

 

過失割合の修正要素

 もっとも、以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【どちらかの通路が狭く、他方が明らかに広い通路だった場合】

狭い方の通路を進行していた車両に対して+10% 

 広い通路は狭い通路に比べて通行量が多いことが想定されますから、狭い通路から交差部分に入ろうとする車両は、広い通路を通行している車両よりも注意すべきであると考えられているためです。

 ちなみに、「明らかに広い」とは、運転者が、通路の交差部分の入口において通路の幅員が客観的にかなり広いと一見して見分けられるものを言うとされていますので、ぱっと見て、そこまで違いが分からないような場合にはこの修正要素には当てはまりません。

 

【一時停止・通行方向標示等違反】

標示に違反した側に+15~20%

 一時停止や通行方向の標示は、駐車場の設置者が通路の構造や状況を考慮して安全のため設置したものですから、駐車場内を通行する車両はその指示に従うべきですし、このような場合、通行車両は他の車両も設置者の指示に従うことを期待していますので、従わなかった者には著しい過失があるとして過失割合が修正(加算)されます。

 なお、一時停止等に対する違反行為があったほかに、狭路・広路の修正要素にも追加で当てはまる場合(たとえば、Aに一時停止違反があり、かつ、A側が狭路だったケース)には、2つの違反をまとめて20%の修正がかかります(Aに+20)。

 

【「著しい過失」・「重過失」】

著しい過失」がある側に+10% 

「重過失」がある側に+20%

 運転者に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです(なお、一時停止・通行方向標示等違反も「著しい過失」の一つとされています)。

 

「著しい過失」・「重過失」の具体例

 1 著しい過失 

=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失

 

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④他方の車両が明らかに先に交差部分に入っていた場合(※1)

⑤交差部分の手前で減速しなかった場合(※2)

⑥酒気帯び運転(※3) など

※1 先入した車両に一時停止等の違反がある場合には適用しない。

※2 交差部分の手前で急ブレーキをかけた場合は減速したとは扱わない。

※3 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則の対象ですが、罰則の適用のない程度の酒気帯びも対象となります。

 

 2 重過失 

=故意に比肩する重大な過失

 

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転 など

 

 なお、公道上の事故においては、一定の速度超過は「著しい過失」や「重過失」に該当するとされていますが(「交通事故における「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~」)、別冊判タ38号では、この事故類型でその点が明示されていません。

 駐車場内においては低速での通行が想定されているためではないかと思いますが、制限速度が標示されている駐車場もありますし、そもそも、駐車場だからという理由だけで車両速度が過失に影響しないというのは常識に反するため、想定される範囲を大幅に超えた速度で駐車場内を走行した場合には、その程度に応じて過失割合に影響があるのではないか思われます(ちなみに、通路を進行する四輪車と駐車区画から通路に進入しようとする四輪車との間の接触事故では、標示された上限速度を目安に、その超過の程度に応じて「著しい過失」又は「重過失」による修正をするとされています)。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

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駐停車中に追突された場合でも過失割合が100:0にならない場合がある?~交通事故⑨~

 

 交通事故の事故態様として比較的ご相談が多いのが、駐停車中の車両への追突事故というケースです。

 このような追突事故が起きた場合、追突した側が100%悪く、追突された側にはまったく落ち度はないというのが一般的な感覚かと思いますが、実は事情次第ではそのような結論にならないことがあります。

 駐停車中の追突事故の過失割合については、実務上広く用いられている文献である「別冊判例タイムズ38号」が様々なパターンでの考え方を示していますので、今回は、四輪車同士の交通事故のうち駐停車中の車への追突事故の過失割合について、基本的な考え方をご説明したいと思います。

 

典型的な事故状況

 

 【基本の過失割合】  

 A:B=100:0

 

 被追突車(B)が駐停車中の場合、基本的には被追突車(B)の側に過失はありません。

 

 【例外:Bにも過失があるとされるケース】 

 もっとも、以下のようなケースでは被追突車(B)の側にも落ち度があるとして、過失割合が修正されることになります。

 

 [1.現場の視界が不良の場合] 

 A:B=90:10(Bに+10%)

 

 以下のような理由があって現場の視界が悪い場合、後続車であるAからは前方に駐停車していたのBを発見するのが難しいため、過失割合が修正されます。

 

 ①雨が降っていた

 ②濃い霧がかかっていた

 ③夜間で街灯もなく暗い場所だった

 

 [2.Bが駐停車禁止場所に駐停車していた場合] 

 A:B=90:10(Bに+10%)

 

 この場合は、Bが法律で禁止された場所に車両を駐停車させたことで他の交通を妨害し、事故発生の危険性を高めているため、過失割合が修正されます。

 

 [3.夜間にBが警告措置(ハザード・三角反射板)をしていなかった場合] 

 A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)

 

 夜間は視界不良となることから、駐停車中の車がハザードランプを点灯するなど適切な警告措置を取っていなかった場合、後続車は駐停車車両の発見が困難となるためです。

 

 [4.Bの駐停車方法が不適切な場合] 

 A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)

 

 駐停車方法が不適切とされる具体例としては、以下のようなものがあります。

 

 ①道路幅が狭いところに駐停車した場合

 ②追い越し車線に駐停車した場合

 ③幹線道路など交通量の多いところに駐停車した場合

 ④車道を大きく塞ぐ形で駐停車した場合

 ⑤車両が汚れていて車両後部の反射板が見えなくなっているような場合

 

 車が駐停車するときは、法律上、道路の左端に沿い、かつ、他の交通の妨げにならないようにしなければならないとされていますが(道路交通法47条1項、2項)、①~④の場合はこの定めに反し、Bは交通事故の危険を増加させて追突事故を誘発させているため修正がなされます。

 ⑤については、反射板が汚れているとAからはBを見つけることが難しいということが修正の根拠とされていますが、別冊判タ38号ではこれも不適切な駐停車方法にあたると分類しています。

 

 [5.Bに「著しい過失」または「重過失」がある場合] 

著しい過失」 A:B=90:10(Bに+10%)

「重過失」   A:B=80:20(Bに+20%)

 

 これに該当しうる具体例としては以下のようなものがあります。

 

・自招事故によって駐停車した場合

・駐停車車両を放置していた場合

 

 ちなみに、どのような場合に「著しい過失」と「重過失」に振り分けられるかについて、別冊判タ38号では具体的な基準が明示されていませんが、この点は、自招事故に対するBの落ち度の程度やBが車両を放置していた時間帯や放置時間の長さ、幹線道路かどうか、当時の道路状況など個別の事情によってケースバイケースの判断になると思われます。

 

 【例外の例外もある】 

 以上の通り、一定の事情がある場合には、駐停車中の追突事故であっても被追突車(B)の側に過失があるという判断がなされます。

 もっとも、そのようなケースであっても、以下の場合には、例外の例外として、さらに追突事故についての過失割合が修正されることがあります。

 

 [1.Bが退避不能だった場合] 

 Bに-10%

 

 突然のエンジントラブルやパンクなどで退避することが不可能だったような場合、たとえば駐停車禁止場所に止まってしまったとしてもBに落ち度があったとはいえないので、追突事故の発生に対するBの過失割合が軽くなります(駐停車禁止場所の例でいえば、通常はA:B=90:10ですが、A:B=100:0となります)。

 

 [2.Aに15㎞以上の速度違反があった場合] 

 Aに+10%

 

 このような場合はAの落ち度が大きいため、最終的なBの過失割合は軽くなります。

 

 [2.Aに30㎞以上の速度違反があった場合] 

 Aに+20%

 

 理屈は15㎞以上オーバーの場合と同じですが、速度違反の程度が著しいためAの過失割合が加重されます。

 

 [3.Aに「著しい過失」、「重過失」がある場合] 

「著しい過失」 Aに+10%

「重過失」   Aに+20%

 

 速度違反以外でAの運転方法などに「著しい過失」「重過失」がある場合には、上記のとおりAの過失割合が加重されます(なお、「著しい過失」「重過失」の意味については、交通事故における「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~」をご覧下さい。)

 

 

 いかがだったでしょうか?

 ひとくちに駐停車中の車への追突事故といっても、このように状況次第では過失割合は変動します。

 過失割合については、今回取り上げた追突事故だけではなく事故の状況によって様々な修正要素があるため、相手方の保険会社からの見解が正しいかどうか判断することが難しいことがありますので、示談交渉で迷われたり不安がある場合には弁護士へのご相談をご検討下さい。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

交通事故における自動車の「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~

 

 交通事故の案件を扱う際に避けて通れない問題として、どちらの落ち度がより大きいのか、すなわち「過失割合」の問題があります。

 

 過失割合についてはある程度定型化が進んでおり、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]」(別冊判例タイムズ38号)という書籍によって、公道上での交通事故に関しては、よほど特殊な事故態様でない限り基本的な過失割合は調べやすい状況にあります。

 

 もっとも、道路状況や事故状況などから基本的な過失割合がわかったからといって、それをそのまま適用するかどうかはまた別の問題であり、実際にはそこからさらに、運転者の事情に応じて過失割合を修正するかどうかを検討していくことになります。

 

 今回は、このような過失割合を修正する事情として比較的問題となることの多い自動車の「著しい過失」「重過失」について説明したいと思います。

 

 なお、「著しい過失」・「重過失」については、今回の解説の対象である自動車のほか、軽車両である自動車が事故当事者になった場合にも問題となりますが、自転車の「著しい過失」・「重過失」については下記のコラムをご覧ください。

 

 

設例

  今回は、信号機のない交差点で起きた直進する四輪車同士の出会い頭の事故で、一方の道路が明らかに広い場合(別冊判タ38号・218ページの事例)をもとに説明したいと思います。

 

 なお、事案を簡明にするため、事故発生時の条件は以下のとおりとします。

 

・A、Bともに減速せずに交差点に進入した

・事故が起きた交差点は見通しがきかなかった

・AとBが交差点に進入したタイミングはほぼ同じ 

・A、Bともに大型車ではない

 

【典型的な事故状況】

 

基本の過失割合 

 A:B=30:70

 

「著しい過失」がある場合

 【Aに著しい過失がある場合】 

 A:B=40:60(Aに+10%)

 

 【Bに著しい過失がある場合】 

 A:B=20:80(Bに+10%)

 

「重過失」がある場合

 【Aに重過失がある場合】 

 A:B=50:50(Aに+20%)

 

 【Bに重過失がある場合】  

 A:B=10:90(Bに+20%) 

 

「著しい過失」・「重過失」とは?

 このように、運転者に「著しい過失」や「重過失」があった場合には基本の過失割合が10%ないし20%が修正されることになりますが、ここでいう「著しい過失」や「重過失」とは、具体的にどのようなものをいうのでしょうか?

 

 この点について、先ほどご紹介した別冊判タ38号では、「著しい過失」と「重過失」とは以下のようなものを指すとしています。

 

【著しい過失=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失】

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④おおむね時速15㎞以上30㎞未満の速度違反(高速道路を除く)

⑤酒気帯び運転(※) など

※血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上が罰則対象ですが、罰則の対象にならない程度の酒気帯びも対象となります。

 

【重過失=故意に比肩する重大な過失】

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④おおむね時速30㎞以上の速度違反(高速道路を除く)

⑤過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転 など

 

 以上のとおり、自分や相手の運転の仕方によっては過失割合が修正される可能性があります。

 

 もっとも、実際のケースにおいて相手の運転が「著しい過失」や「重過失」に当たる可能性があったとしても、速度違反や飲酒運転などわかりやすい事情ではない場合、事情を相手の保険会社に適切に伝えて過失割合の修正を求めることは簡単なことではありませんし、逆に相手方から重過失などの指摘があった場合にも、それに対してきちんと反論して交渉を進めていくのもなかなか難しい場合があります。

 

 そのため、過失割合について「著しい過失」や「重過失」が問題となっている、あるいは今後問題となる可能性がある場合や自主交渉で行き詰まったような場合には、弁護士への相談や依頼をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

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主婦(夫)の後遺障害事案における逸失利益の計算方法~交通事故⑥~

 

 交通事故によって後遺障害が残った場合、その程度に応じ、失われた利益(=後遺障害逸失利益)が支払われることがあります。

 

 実務上、後遺障害逸失利益は【基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】という計算式で算出することとなっていますが(→「後遺障害によって前と同じように働けなくなったら、その補償はどうなるか?~交通事故⑤・逸失利益~」)、それでは、交通事故で受傷した方が家事従事者(主婦・主夫)だった場合、後遺障害逸失利益はどのように計算するのでしょうか?

 

 この問題について、かつては、家事従事者には収入の喪失という意味の逸失利益はないのではないかということ自体が問題とされていたようですが、現在では家事従事者であることを理由に逸失利益を一律に否定することはなく、議論は専ら家事従事者の方の基礎収入をどのように考えるべきかという点に移っています。

 

基本:賃金センサスの女性労働者の全年齢平均賃金額

 

 家事従事者の逸失利益を計算する場合、原則は「賃金センサス」という国の統計資料に記載されている女性労働者の全年齢平均の賃金額を基準とします(正確にいうと、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を用います)。

 

 たとえば、交通事故の後遺障害について症状固定と診断されたのが平成28年だった場合、平成28年度の賃金センサスを使用します。

 

 そうすると、同年度の賃金センサスでは女性労働者の全年齢平均賃金額は376万2300円となっていますので、この金額をもとにして逸失利益を計算していくことになります。

 

 なお、男性の家事従事者についても、女性の平均賃金を用いて計算しますので注意が必要です。

 

例外:高齢の家事従事者の場合

 

 事故に遭った家事従事者の方が高齢の場合、年齢による労働能力の衰えを考慮して、①全年齢平均賃金額ではなく、それよりも金額の低い年齢別平均賃金額を基礎に計算するケースや、②全年齢平均賃金額の何割かを基礎として計算するケース、あるいは③その両方を適用して計算するケースがあり、いわゆる現役世代よりも基礎収入が低く見積もられることがあります。

 

 なお、このように減額修正される可能性があるのは高齢者の場合だけではなく、同居の家族の中で被害者以外にも家事労働を分担していた人がいる場合も含まれます(たとえば母親だけではなく、娘も家事を分担していたなど)。

 

有職主婦(夫)の場合

 

 主婦(夫)の方が仕事を持っている場合、実収入と賃金センサスの平均賃金を比べて高い方を基礎収入とします

 

 そのため、たとえば、平成28年に症状固定した主婦の方の事故前の実収入が200万円だったとすれば、賃金センサスの全年齢平均賃金額(376万2300円)の方が実収入よりも高いため、基本的には賃金センサスの金額を基準に計算することになります。

 

 なお、平均賃金額と比較する対象が実際の労働収入であるということは、要するに、家事労働分は別途加算しないということを意味します。

 

 もし、実際の労働収入に家事労働分を加算して平均賃金と比較することができれば被害者にとっては有利なのですが、残念ながら、現在の裁判所の考え方では仕事を持つ家事従事者の逸失利益を計算する際、実収入に家事労働分を加算するという扱いは採られていません(最高裁昭和62年1月19日判決)。

 

一人暮らしの無職者の場合

 

 家事労働者の逸失利益は、家事労働が他人のための労働である場合に限られますので、一人暮らしの無職の方が自分自身の身の回りのことを行う場合には逸失利益は認められません。

 

 もっとも、事故時には一人暮らしの無職者であっても、将来働ける蓋然性があったことを証明できれば、交通事故がなければ労働収入を得られたはずであることを理由として逸失利益が認められる場合もあります。

 

被害者の注意点

 

 家事従事者の逸失利益については、上記のとおり通常の労働者に比べて計算方法が複雑ですので、保険会社から示談案を示されても市民の方がご自分で妥当性を判断するのはなかなか困難です。

 

 示談の際には、そもそも逸失利益が計上されているか、兼業主婦なのに賃金センサスよりも大幅に低い実収入で逸失利益が計算されていないかなど、本来認められるべき金額よりも低い内容となっていないかを慎重に検討することが重要です。

 

 家事従事者については、計算のやり方一つで最終的な賠償額が大きく変わってしまう可能性もありますので、示談をする前に弁護士に相談し、場合によっては示談交渉などを依頼することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

後遺障害の認定を受けた場合の逸失利益の計算方法~交通事故⑤~

 

 交通事故で受傷し、不幸にして後遺障害が残ってしまった場合、認定された後遺障害等級に応じて慰謝料が支払われることになります(「後遺障害に対する慰謝料はどのように計算されるのか?~交通事故③・後遺障害慰謝料~)。

 

 しかし、後遺障害によって生じるのは精神的な苦痛だけではなく、以前と同じようには働けなくなるという重大な不利益も生じることになります(労働能力の喪失による減収)。

 

 このように、被害者は、後遺障害によって労働能力を失う結果となりますが、この場合の補償として認められるのが「後遺障害逸失利益」です。

 

 後遺障害逸失利益は、金額が高額になることや、不確実な事柄をもとに計算するものであることといった理由から、保険会社との争いも激しくなりがちなところです。

 

 計算にあたっての方法や用語も難しく、専門的な話となりますが、今回はその基本的な考え方についてご説明してみたいと思います。

 

後遺障害逸失利益の計算式

 後遺障害逸失利益は、以下の計算式によって算出されることとされています。

 

【基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】

 

基礎収入

 

 原則として、事故前の現実収入を基にします。

 

 もっとも、現実に収入がなければまったく逸失利益が認められないというわけではなく、たとえば学生や専業主婦、年少者など、現実収入がない場合でも、統計資料を利用して一定の逸失利益が認められています。

 

 給与所得者以外の方について基礎収入をどのように計算するかは被害者の有する属性によってまちまちですので、今回は基本的な考え方を説明するにとどめ具体的に問題となる事例はまた別のコラムでお話ししたいと思います。

 

労働能力喪失率

 

 これは、後遺障害によって失われた労働能力の割合を意味するもので、「後遺障害別等級表・労働能力喪失率」という表により、各等級毎に割合が定められています。

 

 この表では、認定された後遺障害等級毎に100%(1級)から5%(14級)まで細かく労働能力喪失率が記載されていますので、後遺障害等級が認定された場合には、まずは認定された等級に応じた労働能力喪失率をもとに計算することになります。

 

 もっとも、外貌醜状や腰椎の圧迫骨折、鎖骨の骨折、歯牙障害など、直ちに労働能力の喪失に結びつかない可能性のある後遺障害については、保険会社から労働能力喪失率の割合について争われることがありますし、また、被害者の職業等との関係で、等級表に記載のある喪失率以下の割合しか認めないとして争われる事例もあります。

 

 そのような場合は、被害者の具体的な職業や生活実態との関係で後遺障害が労働能力にどの程度影響しているかを立証することが必要となりますので、場合によっては逸失利益が否定されてしまったり、パーセンテージが低くなってしまうこともあります(なお、その場合でも、後遺障害慰謝料の増額事由として考慮してもらえる場合があります)。

 

労働能力喪失期間

 

 逸失利益は、後遺障害によって失われた労働能力の程度に応じて賠償してもらうというものですから、後遺障害が残ったとき(=症状固定)から、働けなくなる年齢までの期間に限って認められます。

 

 このような逸失利益の対象となる期間を「労働能力喪失期間」と呼んでいます。

 

 労働能力喪失期間は、基本的には症状固定から67歳までの期間とされていますが、以下の①~④のようなケースでは異なる計算をするとされています。

 

 特に、むち打ちの場合には、労働能力喪失期間が制限されることに注意が必要です。

 

労働能力喪失期間の具体例

 ①未就労者の場合 

原則として18歳から67歳まで

 

 ②症状固定時に67歳を超えている場合 

原則として簡易生命表記載の平均余命の2分の1

 

 ③症状固定から67歳までの期間が平均余命の2分の1より短くなる場合 

原則として簡易生命表記載の平均余命の2分の1

 

 ④むち打ちのケース 

・12級の場合、10年程度

・14級の場合、5年程度

 

労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

 

 先ほど述べたとおり、逸失利益は労働能力が失われた期間に応じて計算されるものですから、単純に考えれば【基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(年数)】という形で計算すれば良いようにも思えます。

 

 しかし、逸失利益というものは、将来受け取れるはずであった減収分を、将来になってからではなく、現時点で先取りしてもらうというものです。

 

 そうすると、たとえば、本来は10年後にもらえるはずだった100万円を現時点で先取りした場合、もらった人はその100万円を運用し、10年後には100万円を超える金額を手にすることが可能となります。

 

 このように、逸失利益は将来得られるはずであった利益を先取りするものであることから、先取りして運用した結果、得られるであろう利息分は賠償から差し引くと考えるのが公平であると考えられます。

 

 そこで、先取りした分の運用益を差し引くために考案されたのが中間利息控除という考え方であり、その計算に当たって使用される係数が「ライプニッツ係数」です。

 

 実際に逸失利益を計算するにあたっては、単に労働能力喪失期間を掛けるのではなく、その期間に対応する一定の係数(ライプニッツ係数)をかけて計算することになります。

 

計算例

 

 最後に、典型的な事例について、基本的な計算例をお示ししたいと思います。

 

設例

・症状固定時の年齢:50歳

 =労働能力喪失期間17年

 

・労働能力喪失期間17年に対応する

 ライプニッツ係数:11.2741

 

・事故前の年収:400万円(会社員)

 

・後遺障害等級:11級7号

 =労働能力喪失率:20%

 

【計算】

 

400万円×20%×11.2741

=9,019,280円

 

 以上、後遺障害が残った場合の逸失利益の計算方法をご説明しましたが、逸失利益の計算が複雑ということはお分かりいただけたかと思います。

 

 このように逸失利益の計算は、日常的に交通事故を扱っていない一般の方が正しい計算かどうかを判断するのが難しく、保険会社からの提案の妥当性を判断するには弁護士の専門的知識が必要な場合がありますので、後遺障害が認定された場合には、示談する前に弁護士へのご相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

整骨院の施術費は払ってもらえるのか?~交通事故④~

 

 交通事故で怪我をした場合、痛みがなかなかとれず、つらい状態が続くことがあると思います。

 このようなときに、整形外科など病院での治療に加えて整骨院で施術を受ける方や、整形外科に通わずに整骨院だけに通うという方がいらっしゃいます。

 それでは、このような整骨院の費用(施術費)は、交通事故による損害として支払いを受けることができるのでしょうか?

 

医師の指示がある場合

 整骨院での施術について医師の指示がある場合、特段の事情がない限りは、症状固定までの間の施術費のうち合理的かつ相当な範囲で損害として認められる、とされています。

 そもそも施術費の賠償が認められるには、①施術を行うことが必要な身体の状態だったこと(施術の必要性)、②施術を受けたことで症状が緩和したこと(施術の有効性)が必要とされているところ、医師法による国家資格を有する医師が整骨院での施術を指示した場合には、医師自身が治療方針として施術を選択したといえることから、基本的には①と②の条件を満たすと考えられているためです。

 「合理的かつ相当な範囲」で認められるというのは、要するに、施術を受けていた期間が長すぎたり施術費が高額すぎる、あるいは不必要な施術があったという場合には、その部分の施術費は認められないということです。

 

医師の指示がない場合

 では、医師の指示がないまま施術を受けた場合はどうなるでしょうか?

 整骨院を営む柔道整復師は国家資格を有する専門家ですが、医師としての資格は有していません。

 そのため、医師の指示がない場合には、被害者が①施術の必要性と②施術の有効性、さらには③施術内容が合理的なものであること、④施術期間が相当なものであること、⑤施術費が相当な範囲であること、といった点について具体的に主張・立証する必要があり、医師の指示がある場合と比べてハードルが高くなっているため、一部しか認められない場合や、ケースによってはまったく認められないという可能性もあります。

 

医師の指示はないが、同意がある場合はどうか?

 このように、施術費を認めてもらうためには医師の指示を受けた方が良いのは確かなのですが、医師との関係などから整骨院等での施術を明確に指示してもらうのは実際には難しいという場合もあるかと思われます。

 そこで、指示をもらうことまでは難しいが、医師から同意を得たらいいのではないか、という発想が出てきます。

 しかし、ひとくちに医師の同意といっても、医師が施術内容を把握した上で明示的に同意したものから黙認に近いものまで同意の内容は様々であることから、単に同意を得たというだけでは当然に損害として認められるわけではなく、やはり①~⑤について具体的に主張・立証することが必要と考えられます。

 もっとも、医師の関与が一切ない場合に比べれば、同意があった方が認められる可能性は高くなると思われますので、医師の指示が得られない場合には、最低限、同意だけでも得ておくことには意味があると考えます。

 

施術費が損害として認められなかった場合の影響は?

 【施術費が損害として認められない=支払ってもらえない】 

 整骨院での施術費が損害として認められない以上、支払った施術費は支払ってもらえないということになります。

 

 【入通院慰謝料に影響する可能性がある】 

 交通事故による怪我で入院や通院した場合、基本的には治療期間に応じて慰謝料が算出されますが(「入院・通院に対する慰謝料はどのように計算するのか?~交通事故②・入通院慰謝料~」)、整骨院での施術が必要性・相当性を欠くものであったと判断された場合には、整骨院への通院期間は慰謝料算定の通院期間としては扱われず、慰謝料額が減額されてしまう可能性があります。

 

後遺障害等級認定に影響する可能性がある

 怪我によって後遺障害が残った場合、通常は医療機関から「後遺障害診断書」を作成してもらい、後遺障害についての等級認定を受けた上で、後遺障害慰謝料後遺障害逸失利益の請求を行っていくことになります。

 しかし、先ほど述べたとおり、柔道整復師は医師ではないため、仮に後遺障害が残ったとしても後遺障害診断書を作成してもらうことができず、さりとて、その時点で慌てて病院に行っても、事故から症状固定までの経過が分からないため、医師からも後遺障害診断書を取得することができなくなる可能性があります。 

 

 このように、整骨院等での施術は、単に支払った施術費が返ってくるかどうかという問題だけではなく慰謝料や後遺障害認定にも影響する可能性があり、交通事故の示談交渉の中でも比較的トラブルになりやすいところです。

 整骨院等での施術が症状の緩和に有効な場合があることは確かですが、このような施術を受けつつ適正な賠償を受けるには気をつける点がありますので、施術を受けたいというご希望がある場合には、弁護士のアドバイスを受けながら慎重に対応していただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

後遺障害による慰謝料と示談交渉の注意点~交通事故③・後遺障害慰謝料~

 

 前回のコラムで(→「入院・通院に対する慰謝料はどのように計算するのか?~交通事故②・入通院慰謝料~」 )、交通事故の慰謝料には、怪我で入院や通院したことに対する「入通院慰謝料」と、後遺障害が残ったことに対する「後遺障害慰謝料」、被害者が亡くなった場合の「死亡慰謝料」がある、とお話ししました。

 

 入通院慰謝料については既にご説明しましたので、今回は「後遺障害慰謝料」について、良くある相談事例をもとにご説明していきます。

 

後遺障害慰謝料とは?

 交通事故で受傷した場合、治療に取り組んだものの不幸にして後遺障害が残ることがありますが、これに対する肉体的・精神的苦痛を償うために支払われるものが「後遺障害慰謝料」と呼んでいます。

 

後遺障害慰謝料の提案には注意が必要

 実務上、後遺障害慰謝料は損害保険料率算出機構が認定する1級から14級までの「後遺障害等級」に応じて金額が算定されますが、相手方の保険会社が提案してくる示談案の中には、後遺障害慰謝料の金額が低く抑えられているケースがみられます。

 

<事例1>(事例は架空のものですが、保険会社の主張自体は実際にあったものをベースにしています)

 交通事故で怪我をしたので治療をしたが、首にむち打ちの症状が残り、事故から半年後に医師から症状固定と診断された。

 

 そこで、後遺障害等級の認定を申請したところ、14級9号(局部に神経障害を残すもの)に該当するとの認定がなされた。

 

 その後、保険会社から提示された示談案の中で、後遺障害慰謝料について以下のような金額が提示されたが、弁護士に相談したところ、以下のような計算になると言われた。

 

 ①保険会社の示談提示額 

 580,000円

  

 ②弁護士の計算 

 1,100,000円

 

<事例2>(この事例も架空のものですが、保険会社の主張自体は実際にあったものをベースにしています)

 交通事故で怪我をしたので治療をしたが、骨折に伴う脊柱に変形が残り、事故から1年後に症状固定と診断された。

 

 そこで、後遺障害等級の認定を申請したところ11級7号(脊柱に変形を残すもの)に該当するとの認定がなされた。

 

 その後、保険会社から提示された示談案の中で、後遺障害慰謝料について以下のような金額が提示されたが、弁護士に相談したところ、以下のような計算になると言われた。

 

 ①保険会社の示談提示額 

 970,000円

  

 ②弁護士の計算   

 4,200,000円

 

どうしてこのような違いが生じるのか?

 このような違いが生じるのは、交通事故については損害額の計算についていくつか異なる基準があるためです(→「保険会社からの示談案は果たして妥当か?~交通事故①・3つの基準~」)。

 

 上の事例1、事例2のどちらについても、保険会社は自社の内部の基準(「任意基準」)をもとに後遺障害慰謝料を計算しています。

 

 これに対して、弁護士はいわゆる「裁判基準」「弁護士基準」と呼ぶ場合もあります。)と呼ばれる基準をもとに計算したため、保険会社の提示額と大きな差が生じたのです。

 

裁判基準とは?

 裁判基準は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準」(通称「赤い本」)と呼ばれる書籍に記載されている基準であり、交通事故賠償の損害額を計算する際、弁護士、裁判官であれば必ず参照するものです。

 

 このように赤い本に記載されている基準は影響力が強いのですが、そうは言ってもあくまで一つの目安にすぎませんので、実際に裁判になった場合、必ずしもここに書いてある金額どおりになるというわけではありません。

 

 たとえば、裁判の中で後遺障害等級が争われた結果、損害保険料率算出機構などが認定した後遺障害等級よりも低い程度の後遺障害しか認められなければ、それに応じて慰謝料額も減らされることになります。

 

 しかし、弁護士が交渉する際には、裁判になればこのとおりになる可能性が高いことを前提に保険会社と裁判基準に沿った金額で交渉し、これと同程度の水準で示談できることが多くあります。

 

被害者の注意点

 後遺障害慰謝料は、他の損害項目に比べて比較的金額の妥当性を判断しやすい費目ではあります。

 

 しかし、普段のご相談の中では、保険会社の任意基準による計算額があまりにも低すぎるのではないかと思われる事例もあり、本来補償されるべきところまで補償されないまま示談に至っているケースもあるのではないかと思っています。

 

 また、後遺障害が認定された場合には、後遺障害慰謝料だけではなく、労働能力の喪失に対する保障(逸失利益)の請求も可能なことがあり、後遺障害慰謝料が妥当な金額でも逸失利益の計算が不相当に低いケースもあります。

 

 いったん示談をした後でこれを覆すのは困難ですが、保険会社が親切に裁判基準を教えてくれることはありませんので、相手から示談案が出された場合には弁護士への相談や依頼をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮

 

参考(後遺障害慰謝料の裁判基準)

等級 金額 等級 金額
第1級 2800万円 第8級 830万円
第2級 2370万円 第9級 690万円
第3級 1990万円 第10級 550万円
第4級 1670万円 第11級 420万円
第5級 1400万円 第12級 290万円
第6級 1180万円 第13級 180万円
第7級 1000万円 第14級 110万円

 

 

交通事故で入院・通院した場合の慰謝料の計算と注意点~交通事故②・入通院慰謝料~

 

 前回のコラムで、交通事故の損害賠償算定には3つの基準があり、相手方からの示談案が必ずしも適正な金額でないこともあり得る、とお話しました。

 

 交通事故の示談案のなかにも「慰謝料」や「休業損害」「逸失利益」など様々な項目がありますが、今回はこのうちの「入通院慰謝料」について、具体的な事例をもとにその意味や計算の方法などをご説明していきたいと思います。

 

 なお、交通事故の慰謝料には今回取り上げる「入通院慰謝料」以外にも、後遺障害がある場合の「後遺障害慰謝料」や被害者が死亡した場合の「死亡慰謝料」がありますが、こちらは別のコラムで説明したいと思います)。

 

入通院慰謝料とは何か?

 交通事故で怪我をした場合、それによって生じた肉体的・精神的苦痛を償うために金銭が支払われることになりますが、これを「入通院慰謝料」と呼んでいます。

 

 本来、肉体的・精神的苦痛を金銭評価することは困難ですが、少なくともケガの程度によって苦痛の程度は大きいと言えるため、交通事故では入院期間や通院期間を目安に慰謝料を計算するのが現在の実務となっています。

 

慰謝料の計算が低いケースがある

 入通院に基づく交通事故の慰謝料は、怪我が治った時点、あるいは、これ以上治療を続けても症状の改善が期待できないと判断された時点(=「症状固定」といいます。)までの入院期間と通院期間に応じて計算します。

 

 しかし、当職の経験上、相手方保険会社からの提案は、以下のように慰謝料の金額が低く抑えられているケースがあります。

 

<事例>(架空の事例ですが、主張自体は実際にあったものです)

 交通事故で骨折などの怪我をし、10日間入院したほか、完治するまでの総通院期間が70日(実通院日数6日)だった(被害者の落ち度(=過失割合):10%)。

 

 ①保険会社の示談提示額 

 慰謝料相当額 134,400円

 

 ②当職の計算による損害額 

 慰謝料相当額 600,000円

 

どうしてこのような差が生じるのか?

 上記のケースでは、ご覧のように相手方の計算と当職の計算との間で慰謝料の額には大幅な差が生じていますが、これは、双方の計算には以下のように根本的な違いがあるからです。

 

保険会社の計算方法

 

 このケースにおいて、保険会社は以下のような自賠責保険における計算方法を採用して慰謝料を計算しています(なお、自賠責保険では、被害者に過失があっても重過失がない限り支払額が減額されないため、実際の事案でも、慰謝料の計算にあたってこちら側の過失による減額の主張はしてきませんでした)。

 

 ちなみに、全ての事案で必ず自賠基準で計算してくるというわけではなく、事案によって自社の任意基準で計算した額を提示してくることも多々あります。

 

入通院実日数16日×2×4,200円=134,400円

 

注:ここでは入通院実日数×2をもとに計算していますが、総治療期間が入通院実日数×2よりも短いときは、そちらの日数をもとに計算することになっています。

 

当職の計算方法(裁判基準)

 

 これに対して、当職は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準」(通称「赤い本」)の別表Ⅰの基準、いわゆる裁判基準に基づき計算し、こちら側の過失による減額(10%)も考慮すると、本件で認められるべき慰謝料は60万円であるとの結果となりました。

 

被害者の注意点と対策

 以上のケースは架空のものですが、実際、保険会社が示談案を出す際には上記のような計算方法を主張し、裁判基準から見れば低い金額を提示してくることがあります。

 

 保険会社が裁判基準よりも低い金額の示談案を提示すること自体は違法ではありませんし、このような裁判基準の存在を教えてくれるということもありませんので、当初の案で示談した後で本当はもっと支払われるはずだったと主張しても争うのは困難です。

 

 無論、様々な事情から保険会社の示談案の方が有利と判断して示談するケースもまったくないわけではありませんが、当職の経験上ではそうでない場合が多く、そもそも被害者が示談案の有利・不利をきちんと判断するのは困難ですから、保険会社から示談案が提示されたときは、慰謝料を含めた全体の損害額が適正に計算されているかどうか弁護士に確認をしてもらった方が良いと思います。

 

 弁護士 平本丈之亮

 

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保険会社からの示談案は果たして妥当か?~交通事故①・3つの基準~

 

 交通事故の被害に遭われたとき、多くの場合、相手方の保険会社から損害賠償について示談案が示されますが、その金額が果たして妥当なのかという点について、大半の方は判断できないものと思います。

 

 交通事故で生じる損害賠償の項目には、治療費、通院交通費、慰謝料、休業損害、逸失利益など様々のものがあり、それぞれの項目には計算方法など特有の問題点がありますし、また、当事者間で過失の割合が争いになる場合も多く、その結果、賠償額の計算が複雑になりがちだからです。

 

保険会社の示談案は本来受け取れるべき金額より低い場合がある

 しかしながら、これまでの当職の経験上、保険会社からの提案額が本来裁判であれば認められるであろう金額よりも低くなっているケースは相当数ある、というのが実感です。

 

 たとえば、交通事故による怪我で入院や通院したことに対する慰謝料(=「入通院慰謝料」や、後遺障害が残ったことに対する慰謝料(=「後遺障害慰謝料」)、将来得られたはずの収入が後遺障害によって失われたことに対する補償(=「逸失利益」)について、妥当な水準を下回った内容となっているケースが典型例ですが、これらについてきちんと計算しなおした結果、実際の賠償額が数十~数百万円、場合によって1000万円以上も変わるということがあります。

 

 

裁判基準、任意基準、自賠基準の存在

 それでは、同じ事故に対する賠償問題について、どうしてこのような違いが起きるのでしょうか?

 

 それは、交通事故による損害額を計算する基準には、①裁判所が使用する基準(裁判基準)と、②保険会社内部の独自の基準(任意基準)、③自賠責保険の基準(自賠基準)の3つがあり、示談交渉の段階では、通常、保険会社は自社にもっとも有利な基準にしたがって提案をしてくるためです。

 

被害者にとってもっとも有利な基準は?

 一般的に、この3つの基準の中で被害者にとって一番有利なものは裁判基準であり、被害者側の弁護士は裁判基準をもとに損害額を計算し、示談交渉や訴訟を行います。

 

 もっとも、裁判基準もあくまで一つの目安であり、この基準で計算する前提となる事実関係(たとえば治療を必要とした期間や休業を必要とした期間など)について裁判所がこちらの主張を認めなければ、結果的には当初の示談案の金額を下回るということもあり得ます。

 

 そのため、様々な角度から検討した結果、最終的には保険会社の示談案が妥当と判断して解決するケースもありますし、裁判をすればどれだけ少なく見積もっても保険会社の示談案以上の額が見込めるだろうということで強気で交渉し、当初の提案から相当程度増額して解決できるケースも多くあります。

 

 このように、一口に保険会社の示談案が妥当かどうかといっても、その判断には交通事故に関する損害の計算方法や過失割合などについての知識・経験が必要であり、弁護士の専門的判断が要求されるところです。

 

 また、裁判基準についてはインターネットの情報からご存じの方も多いですが,その基準を当てはめ、さらにこれをもとに実際に示談交渉することも簡単なことではありませんので、保険会社から示談案が出たら、一度弁護士への相談をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

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