不倫の暴露による損害賠償が問題となった2つのケース

 

 不倫(不貞行為)が配偶者に発覚した場合、不貞の事実を知った側が第三者に対してその事実を暴露してしまうことがあります。

 

 このような行為は、その暴露先や態様にもよりますが、名誉毀損ないしプライバシーの侵害となり、たとえ不貞行為の被害者であっても法的な責任を負うことがありますので、今回はこのような不倫の暴露による損賠賠償責任が問題となったケースを2つご紹介したいと思います。

 

東京地裁令和2年11月27日判決

【事案の概要】

 元妻が夫の不貞行為や離婚時の条件などを記載した電子メールを元夫の勤務先の役員及び従業員全員が閲覧可能なメールアドレス宛に送信してしまったことから、元夫が元妻に対して損害賠償等を請求したというもの(なお、判決では故意までは認められないものの故意に匹敵する重大な過失があるとされた。)。

 

【判示内容】

「本件メールの内容のうち、原告と○○との不貞関係あるいは原告の度重なる不貞行為と被告に対する経済DVを摘示する部分は、原告の社会的評価を低下させるものであるとともに、訴訟や調停の経過及びその結果等について摘示する部分と併せて、原告の私生活上の情報であり、一般人の感受性を基準として公開を欲しない事実、すなわち原告のプライバシーに属する事実を摘示するものであると認められる。なお、これらの摘示事実が、本件メールの送信前に既に一般に公開されていたとは認められない。」

 

「被告が、…のとおり原告の社会的評価を低下させるとともに、原告のプライバシーに属する事実を摘示する内容の本件メールを、本件アドレスに宛てて送信し、○○社の役員や従業員においてその内容を把握することのできる状態に置くことは、本件メールにおいて摘示された事実を、同人らに公然と摘示したものと評価することができ、このような行為は、原告の名誉権を侵害するとともに、同人のプライバシーを侵害するものと認められる。」

 

東京地裁令和2年2月10日判決

【事案の概要】

 妻が夫の不貞相手に対して慰謝料請求訴訟を提起したところ、不貞相手側が、①妻が不貞相手の父親に不貞行為の事実を記載したはがきを送付したり、②夫の父親に不貞行為の事実を記載したはがきを送付したこと、また、③高校時代の知人にインスタグラムを利用して不貞行為の事実を記載したメッセージを送付したことがそれぞれ名誉毀損ないしはプライバシー侵害に当たるとして慰謝料請求の反訴を提起したもの。

 

【判示内容】

①不貞相手の父親にはがきを送付した点

「本件はがきの記載内容は、被告が原告と○○の夫婦関係を破壊しかけている旨を摘示しており、これは本件はがきを読む者に被告が不貞に及んでいると認識させるものである。本件はがきの送付は、被告の社会的評価を低下させるもので、名誉毀損に当たる。
 また、○○と被告の間に不貞行為があったと認められることは上記判断のとおりであり、これを被告の父親に開示することは、被告のプライバシーを侵害すると認められる。」

 

②夫の父親にはがきを送付した点

「本件はがきの記載内容は、被告が原告と○○の夫婦関係を破壊しかけている旨を摘示しており、これは本件はがきを読む者に被告が不貞に及んでいると認識させるものである。本件はがきの送付は、被告の社会的評価を低下させるもので、名誉毀損に当たる。   

 また、○○と被告の間に不貞行為があったと認められることは上記判断のとおりであり、これを被告の父親に開示することは、被告のプライバシーを侵害すると認められる。」

 

③知人にメッセージを送信した点

「本件メッセージの記載内容は、被告が○○と不貞関係にある旨を摘示しており、これは本件メッセージを読む者に被告が不貞に及んでいると認識させるものである。本件メッセージの送信は、被告の社会的評価を低下させるもので、名誉毀損に当たる。
 また、○○と被告の間に不貞行為があったと認められることは上記判断のとおりであり、その他被告の姿容や服装の志向性等、これを被告の知人にことさらに開示することは、被告のプライバシーを侵害すると認められる。」

 

 以上の通り、過去の裁判例では、勤務先のみならず、不貞相手の父親や配偶者の父親、不貞相手の知人に対して不貞の事実を開示したことが名誉毀損あるいはプライバシー侵害にあたるとされています。

 

 なお、勤務先へのメール送信が問題となった1番目の事例では、判決を読む限り故意にメールを送信したとまでは認められなかったようですが、「他人の社会的評価やプライバシーに関わる事実が摘示された電子メールを送信するに当たっては、誤送信された場合に当該他人が被る社会的評価の低下やプライバシー侵害の危険に鑑み、その送信先の選択に留意し、少なくとも送信先を誤ることのないよう注意すべき義務を負う」、「送信前に宛先を確認することが、一般的には極めて容易であることに照らせば、被告が、上記のような注意を怠ったことは、著しく軽率なことであった」として、被告には重過失があると判断されていますので、わざと送ったものではないということは責任を免れる理由にはならないことがわかります。

 

 不貞行為が発覚した場合、どうしても冷静に判断することができず、第三者への暴露が生じてしまいがちですが、このような行為は今回紹介したように単なる道義的なレベルではなく法的なレベルでの問題が生じますので、くれぐれもご注意いただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

2021年7月25日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所