投資用マンションの購入を勧誘した不動産業者の説明義務違反を認めて損害賠償請求が認められた事例

 

 消費者問題の相談を受けていると、投資経験のまったくない、あるいは経験の乏しい方が投資用マンションの購入を勧められたという相談に出会うことがあります。

 このようなケースでは、営業担当者が収益について過大な期待を持たせるようなことを説明する一方で、リスクについての説明がおざなりであることがあり、そのような不当な勧誘がなされた場合、購入者は投資用マンションの購入に伴う様々なリスクを具体的に認識することなく契約に至ってしまうことがあります。

 今回は、このような投資用マンションの勧誘について、顧客に対する説明義務違反があったとして、不動産業者に対する損害賠償請求が認められた裁判例(東京地裁平成31年4月17日判決東京高裁令和元年9月26日判決(控訴審))を紹介したいと思います。

 

事案の概要

 この事案は、不動産購入や投資経験がなく自己資金も乏しい公務員が投資用マンションの購入について勧誘を受けマンション2室を2回に分けて購入したものの、数年後に入居者が突然退去したため約1か月間家賃が入らなくなったことから不安に思い弁護士に相談をしたところ、違法な勧誘行為があったとの説明を受け、リスクに関する説明義務違反などを主張して損害賠償を求め提訴したというものです。

 

主な争点

 この裁判では、以下のような点が争点になりました。

 

1 勧誘の際、営業担当がマンション投資の各種リスク(空き室リスク、家賃滞納リスク、価格下落リスク、金利上昇リスクなど)について説明したといえるかどうか

 

2 業者の勧誘には、不利益事実の不告知、詐欺的勧誘、断定定期判断の提供、説明義務違反などがあり、違法ではないのか

 

3 損害はいくらか

 

4 購入者の落ち度の有無・程度(過失相殺)

 

5 消滅時効

 

争点1 リスク説明の有無

 【一審】(東京地裁平成31年4月17日判決) 

 被告は、不動産価格が変動すること、賃料収入は保証されないこと、計算例の値も保証されないことなどが抽象的に記載された「告知書兼確認書」に原告が署名・押印していることなどを根拠に、リスクについてはわかりやすく説明したと主張しました。

 これに対して一審判決は、営業担当がマンション投資のメリットを強調する説明をしていたことを前提に、原告はこのような営業担当のセールストークを信じていたためその書面の記載内容を十分に理解していなかった等として、十分なリスク説明がなされたとはいえないと判断しました。

 

 【控訴審】(東京高裁令和元年9月26日判決) 

 この点については控訴審でも争われましたが、控訴審は以下のように判示してリスク説明をした旨の被告の主張を重ねて排斥しています。

 

①営業担当者は、一審での証人尋問の際、「告知書兼確認書」を示して説明した旨の証言を全く行っておらず、営業担当が説明をしたと認めるに足りる証拠はない

 

②仮に営業担当が「告知書兼確認書」に沿って説明していたとしても、各勧誘の時点において、1室目のマンションについては計算例、2室目については手書きの書面をそれぞれ示したうえで、あたかも各種リスクが存在しないか無視できるほど小さいかのような不適切な説明を具体的な計算式等に基づいて詳細に行っていたのであって、これにより本人の投資判断を誤らせたことが明らかである

 

③業者が各売買の契約締結時に、各種リスクについて一般的・抽象的な解説をしただけの「告知書兼確認書」に沿って説明をしたとしても、それだけでは、リスクは存在しないか無視できるほど小さいものであるという原告の誤解が解けなかったとしても不自然ではなく、契約締結に至る経緯を全体的に見れば、「告知書兼確認書」は、業者が説明義務違反を問われないために体裁を整えただけの書面に過ぎないというほかはない

 

争点2 勧誘の違法性の有無

 【一審】 

 業者の勧誘行為の違法性については、争点1についての事実認定を前提に、一審は概ね以下のように判断し、業者に説明義務違反の違法性があることを認めました。

 

①不利益事実の不告知、詐欺的な勧誘、断定的判断の提供があったとまではいえない(理由は不明確ですが、内容が抽象的であったにせよリスクに関する書面が交付されていたことが理由ではないかと思われます)

 

②原告は高校教師であり、これまで不動産購入や投資を一切経験したことがなく、投資に充てられる資金もわずかであったこと

 

③②のような属性を有する原告に対して多額のローン債務を負担させてまでそれぞれ2000万円を超えるマンション投資を勧誘する営業担当としては、少なくともマンション投資についての空き室リスク、家賃滞納リスク、価格下落リスク、金利上昇リスク等を分かりやすく説明すべき注意義務を負っていたというべきである

 

④営業担当は、③のような説明を怠っている以上、営業担当の勧誘には違法行為(説明義務違反)があったと言わざるを得ない

 

⑤したがって、その使用者である業者は使用者責任(民法715条1項)を負う

 

 【控訴審】 

 控訴審でも、業者に説明義務違反があったという一審の判断が維持されています。

 

争点3 損害額

 【一審】 

 一審判決は、以下のような計算式で算出した金額を説明義務違反と因果関係のある損害として認めました。

 

①【購入代金+購入時の諸費用-売却代金】

 

②弁護士費用相当額

 

 なお、被告は、購入者はマンションの賃料収入を得ていたのであるから、その分の賃料収入は損害から差し引くべきである(損益相殺)と主張しましたが、裁判所は、賃料収入は原告が自らの意思によってマンションを保有し、賃貸し続けることで生じたものであるから、差し引くことはできないと判断しました。

 弁護士費用相当額については、後に記載する過失相殺後の正味の損害賠償額の約10%が損害として認められています。

 

 【控訴審】 

 控訴審でも基本的な計算式は一審の枠組みが維持されているようですが、一審よりも若干賠償金額が増加しています(原典に当たれていないため理由は不明確ですが、不動産取得税が購入時の諸費用に該当するとして、一審が認定した損害額に加算されたように読めました)。

 なお、購入者側は、購入時の諸費用だけではなく、購入後にかかった諸費用(管理費、固定資産税、都市計画税、ローン利益等)も損害として認めるべきであると主張しましたが、控訴審では、購入後に発生した賃料収入を損害から差し引かない以上、購入後に生じた費用を損害として認めないという計算方法も不合理とはいえないとして、購入者側の主張を退けています。

 

争点4 過失相殺

 【一審】 

 一審は、概要以下のような事情を指摘して、購入者側の過失を4割としています。

 

①勧誘時、高校教師として稼働するなど相応の社会的地位を有していたこと

 

②投資に充てられる自己資金が乏しいことを自覚していたこと

 

③告知書兼確認書の記載などから、投資用マンションの購入に関する危険を認識する契機は十分にあったこと

 

 【控訴審】 

 詳細は不明ですが、原審の判断が維持されているようです。

 

争点5 消滅時効

 【一審】 

 本件は不法行為に基づく損害賠償請求であったため、加害者及び損害を知ったときから3年の消滅時効にかかりますが、マンションを購入したのが平成23年であり、実際に提訴したのが平成29年であったため、消滅時効が完成しているのではないかが争われました。

 この点について裁判所は、原告が損害の発生を現実に認識したのは、突然の空き室によって約1ヶ月分の賃料が得られず、その間のローン返済を自己資産で返済しなければなくなった時点、すなわち投資用マンションの購入に伴う危険性が顕在化したことを経験した平成26年であり、そこが起算点であるとして、そこから3年以内に弁護士が催告書を送付し、6ヶ月以内に提訴しているため消滅時効は完成していないと判断しました。

 

 【控訴審】 

 原典に当たれていないため業者が時効の主張を維持したかどうかは不明ですが、控訴審でも賠償請求が認められていますので、仮に控訴審でも主張していたとしても時効の主張は認められなかったことになります。

 

 

 本件では、顧客の属性に着目して、投資用マンションを勧誘した事業者にはリスクに関する説明義務があり、かつ、リスクについて抽象的に記載した書面を交付したのみでは説明義務を果たしたとはいえないと判断されています。

 具体的な説明義務の内容や説明の程度は顧客の属性(年齢や投資経験、社会的地位、資産内容など)や対象物件の性質などによって変動しうるとしても、一般的に投資用マンションの購入には判決が指摘するような様々なリスクがある以上、本件のような顧客に対してはリスクについて具体的に説明すべきであったことは明らかです。

 本件では顧客側にも落ち度があったとして4割の過失相殺がなされており、大幅な過失相殺を認めることは利益のみを強調するような不適切な勧誘を助長する結果ともなりかねず疑問も残りますが、投資経験や自己資金が乏しいといった当事者の属性を踏まえた上で不動産業者側の説明義務違反を認めた点は正当な判断であったと考えます。

 投資用マンションの勧誘については、今回問題となった公務員のように職業的に安定している方を対象に行われることが多いと思われますが、金額が高額であるためリスクが顕在化したときの被害は甚大なものになる危険性があります。

 実際に不適切な勧誘が行われている実数がどの程度なのかは不明ですが、裁判例としてこのような実例が報告されている以上、中には不適切な勧誘を行う事業者が含まれている可能性があることは確かですので、リスクについて抽象的・曖昧な説明しか行わなかったり、利益をことさらに強調してリスクを過小に説明するような事業者については注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

2020年5月22日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所