転貸可能な居住用賃借物件であれば、賃貸人の承諾なく民泊に利用しても問題はないのか?

 

 最近、「民泊」という言葉を聞くことがあると思います。

 

 民泊とは住宅を旅行者等に貸し出して有償で宿泊させることを意味するようですが、この民泊を自己所有物件ではなく居住用として借りた賃借物件で行い、しかも賃貸人からは承諾を得ていないというケースが散見されます。

 

無断での民泊利用は用法違反となる

 このような民泊利用について賃借人の承諾を得ていない場合、契約書で特にこれを承諾する定めがない限り通常は賃借物件の用法違反となりますので、そのような事実が発覚した場合は賃貸人から契約を解除されるおそれがあります。

 

転貸可能となっていても用法違反と判断されることがある

 では、同じく賃貸人の承諾がなかったとしても、賃貸借契約書の中に転貸が可能であるとの条項があった場合はどうでしょうか?

 

 契約書に転貸可能との記載がある以上、一見すると問題はなさそうにみえますが、このような記載があっても、以下のとおり無断での民泊利用は用法違反として契約が解除されてしまうことがあります。

 

東京地裁平成31年4月25日判決

「(1)本件賃貸借契約には、転貸を可能とする内容の特約が付されているが、他方で、本件建物の使用目的は、原則として被告の住居としての使用に限られている。
 これによれば、上記特約に従って本件建物を転貸した場合には、これを「被告の」住居としては使用し得ないことは文理上やむを得ないが、その場合であっても、本件賃貸借契約の文言上は、飽くまでも住居として本件建物を使用することが基本的に想定されていたものと認めるのが相当である。」

「(2)・・・特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用の場合と、1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用の場合とでは、使用者の意識等の面からみても、自ずからその使用の態様に差異が生ずることは避け難いというべきであり、本件賃貸借契約に係る上記(1)の解釈を踏まえれば、転貸が可能とされていたことから直ちに民泊としての利用も可能とされていたことには繋がらない。本件建物を民泊の用に供することが旅館業法に違反するかどうかは措くとしても,前記認定事実によれば、現に、・・・他の住民からは苦情の声が上がっており、ゴミ出しの方法を巡ってトラブルが生ずるなどしていたのであり、民泊としての利用は、本件賃貸借契約との関係では、その使用目的に反し、賃貸人・・・との間の信頼関係を破壊する行為であったといわざるを得ない。」

 

 要するに、住む人が変わること(転貸)と不特定多数の人が出入りする宿泊施設として利用すること(民泊)は質的に異なるため、賃貸人が契約の際に転貸を承諾していたからといって民泊利用まで承諾していたとはいえない、ということです。

 

 賃借物件を無断で民泊に利用されると、不特定多数の宿泊者によって物件が想定以上に痛んでしまったり、集合住宅であれば他の居住者と宿泊者との間でトラブルが生じることなども予想され、賃貸人に予想外の不利益を与えることになります(上記裁判例でも他の住人とのトラブル発生が指摘されています)。

 

 そのため、たとえ契約書で転貸可能とされていたとしても、それだけで賃貸人が民泊利用まで許していたと解釈することは難しいように思われますので、そのような利用を用法違反とした上記判決の結論は妥当なものと考えます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

2021年5月31日 | カテゴリー : コラム, 賃貸借 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

賃貸借契約の更新と保証人の責任

 

 法律相談を受けていると、一定数、賃貸マンションやアパートなどの保証人の方から相談を受けることがあります。

 相談内容で多いのはやはり借主が滞納した場合の責任に関するものですが、その中で、何年も前に保証人になったが、当初の契約期間が過ぎて賃貸借契約が更新されており、更新のときには保証人としてサインしたことがないので責任がないのではないか、というものがあります。

 では、このような場合、保証人は契約の更新後も責任を負うのでしょうか?

 

<原則として更新後も責任を負う>

 このようなケースについては最高裁の判決があり、保証人は、更新のときに改めてサインをしなくても、特段の事情がない限り、更新後も責任を負う、とされています(最高裁平成9年11月13日判決)。

 一時使用目的の場合を除き、建物の賃貸借契約は長年継続されることが予定されており、保証人としても契約の更新があることを予想した上でサインしていることが通常であること、保証人が負担する責任も一度に多額になることは少なく、予想できないような過大な負担になる可能性が低いということが理由です。

 

<例外①・更新後は責任を負わない前提だった場合>

 もっとも、このルールにも例外があり、そのうちの一つが、当事者間(大家・保証人間)で契約の更新後は保証人は責任を負わないことを前提としていた場合です(最高裁判決でいう「特段の事情」がある場合)。

 典型的には、大家さんと保証人との間で、あらかじめ更新後は責任を負わないと合意する場合ですが、通常、最初の契約時に大家さんがそのような条件を受け入れることはほぼないと思いますから、このような理由で保証人が更新後の責任を免れるケースは多くないように思われます。 

 大家さんと保証人との間で上記のような合意をしたケース以外で「特段の事情」が認められ、保証人の責任が否定された裁判例としては、東京地裁平成10年12月28日判決というものがあります。

 この判決で特段の事情が認められたのは以下のような理由によりますが、個人的には②と③の事情が決め手だったのではないかと思っています(更新後は責任を負わないという合意があったとまでは言えないまでも、それに近い状態だった)。

 

①問題が起きる前は、契約更新の都度、大家さんが保証人との間で保証に関する契約書を交わしていたこと

②更新前に保証人から大家さん宛に保証人を辞退したいと通知したのに対し、大家さん側がリアクションを取らないまま契約が法定更新されたこと

③契約が合意更新ではなく法定更新となったのは、借主が多額の滞納をしたからだが、大家さんは、そのような更新の経緯や更新後に生じた滞納についてただちに保証人に連絡せず、改めて保証人との間で契約書も交わさなかったこと

④更新の時点で滞納額が多額に及んでいたにもかかわらず、大家さんが契約を解除せずに法定更新されたこと

 

<例外②・保証人に滞納を伝えないまま更新を繰り返した場合>

 また、先ほどの最高裁判決は、家賃の滞納がかさんでおきながらその事実を保証人に伝えず、漫然と契約更新を繰り返した場合にまで全額の支払いを請求するのは信義則に反することから、更新後の部分について保証人に対する責任追及が否定される場合があるとしています

 


【最高裁平成9年11月13日判決】

 「建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無にかかわらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。
 以上によれば、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである。」


 

弁護士 平本丈之亮

 

個人用住居の賃貸借契約を中途解約した場合の違約金は有効か?~消費者契約法第9条1号~

 

 4月に入り、転勤や就職などでそれまで住んでいた家を離れた方も多いと思いますが、この時期になると、今まで住んでいたアパートやマンションなどを退去する際にトラブルになっているという相談が増えてきます。

 賃貸借契約のトラブルとしては、原状回復や敷金の返還の範囲を巡るものが一般的ですが、急な転居が必要になったので解約を申し入れたところ、契約書記載の違約金の請求をされたというご相談もあります。

 そこで、今回は、賃貸借契約を契約期間の途中で解約した場合、一定の違約金の支払いを求める特約の有効性について考えてみたいと思います。

 

良くあるケース・・・即時解約の際の違約金

 よくあるケースとして、退去前には3ヶ月前に申し出ること、3ヶ月の経過を待たずに即時に解約する場合には家賃3ヶ月分の違約金を支払うこと、という条項がある場合があります(そのほか、予告期間に足りない分、たとえば2ヶ月前に予告した場合には足りない1ヶ月分だけ違約金を払うというケースもあります)。

 また、ストレートに違約金の支払いを求める条項のほかに、契約時に一定の額の保証金を差入れ、契約期間の途中で即時解約する場合には差し入れた保証金を違約金として没収するという定め方がなされている場合もあります。

 

消費者契約法第9条1号・・・「平均的な損害」を越える部分は無効

 このような契約書の記載は、大家さんに対して解約時の損害賠償として一定額の支払いを約束するものであり、「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」として消費者契約法9条1号の適用を受けます。

 そして、消費者契約法では、このような違約金条項については、大家さんに生ずべき「平均的な損害」の額を超える部分は無効と規定しています。

 

【どの程度までであれば有効か?】

 それでは、個人用の賃貸住居の契約を契約期間の途中で解約する場合、いったいどの程度の違約金であれば「平均的な損害」として有効となるのでしょうか?

 この点についてはいくつかの裁判例がありますが、当職の調べた範囲では、1ヶ月を超えるような違約金の定めがある場合において、1ヶ月分を越える部分は無効と判断するものがありました

 その理由としては、①通常、賃貸借契約終了から1ヶ月程度あれば次の賃借人を入居させることが可能であり、仮にそれ以降も入居者が見つからなかったとしても、その部分まで前の賃借人に違約金として負担させるのは相当ではないこと(京都地裁平成22年10月29日判決)、②賃貸住宅標準契約書においては、解約予告期間及びそれに代えて支払うべき違約金の設定が1ヶ月とされており、次の入居者を探すまでの所要期間として相当であること、があげられています(東京簡裁平成21年2月20日判決、東京簡裁平成21年8月7日判決)。

 最終的には事案ごとの判断になると思われますが、このような裁判例があることを踏まえると、即時解約の場合に1ヶ月を超える金額を支払う内容の違約金条項については、消費者契約法第9条1号によって一部無効になる可能性があるものと思われます

 なお、東京地裁令和2年2月6日判決は、2年間の契約期間中に契約を中途解約する場合に1か月分の賃料及び管理費相当額を支払うという違約金条項について、平均的な損害を超えるものではないとして有効と判断しています。

 

解約予告期間をおきつつ、中途解約のときは一定の違約金の支払いを約束するケース

 先ほどの例は、解約予告期間を設定したうえで、その期間が満了するまで契約を続けるか、それとも、即時に解約して違約金を支払うか、といういわば二者択一のケースでした。

 これに対して、解約予告期間をおいて、その期間が満了するまでは賃貸借契約が存続することを前提にしながらも、それとは全く別の特約として、契約期間内の中途解約の場合は一律に一定の違約金を払うという定めがなされる場合があります。

 たとえば、契約期間2年間の賃貸借契約において、解約には3ヶ月前までに申出をすること(=解約通知から3ヶ月後に契約が終了する)という条項と、契約期間内に解約する場合には一律1ヶ月分の違約金を払うこと(あるいは違約金として保証金を没収すること)という条項が入っている場合です。

 このようなケースでは、2年間の契約期間内に解約の通知をすると、そこから3ヶ月が経過してはじめて賃貸借契約が終了することになり、その間の3ヶ月分の家賃が発生しつつ、さらに1ヶ月分の違約金まで発生してしまう(合計4ヶ月の負担)という問題が生じます。 

 

 では、仮にこのような定めがあった場合、違約金を支払うという条項は消費者契約法第9条1号によって無効にならないのでしょうか?

 この点は寡聞にして消費者契約法第9条1号の問題とした裁判例や文献を見つけることができなかったため当職の私見ですが、そもそも解約予告期間が満了するまでの間賃貸借契約が存続するということは、大家さんはその間の3ヶ月間の家賃収入を確保できることを意味しますので、即時解約の場合と異なり、解約予告期間内の賃料収入の喪失という損害はないことになります。

 また、解約予告期間経過後の残存契約期間について、仮に契約が続いていれば得られたであろう賃貸収入(いわゆる逸失利益)が損害に含まれるという主張も考えられますが、大家さんとしては解約後に他に賃して賃貸収入を得ることが可能であり、これを損害に含めると解約後に新しい賃借人を入れた際の賃料との二重取りを認めることになるため、対象となる居室が他の賃借人には貸すことのできないような特殊な物件であるような特別の事情がない限り、ここでいう損害には含まれないと考えられます(※1,2)。

 


※1 大阪地裁平成14年7月19日判決

 自動車の売買契約解除のケースで、他に販売可能であることなどを理由に、販売店が得られるはずであった得べかりし利益は平均的な損害にあたるとはいえないとした裁判例

 

※2 東京地裁平成17年9月9日判決

 結婚式の予約を撤回する場合には10万円の取消料が必要であるとの条項が無効になるかが争われ、当初の予定どおりに挙式が行われたならば得られたであろう利益については、消費者が1年も前に撤回していることなどから、仮にこの時点で予約が解除されたとしてもその後新たな予約が入ることが十分期待し得る時期だった等の理由により、平均的な損害に当たらないとした裁判例


 

 その他、中途解約によってあらたに募集のための費用が生じると思われますが、賃借人の再募集は中途解約に限らず契約が終了するときには必ず生じるものであり、また、このような費用は事業者として賃貸事業を営む上で日常的に支出すべきものと思われることから、解約による損害には含まれるべきではないと思われます。

 そうすると、解約予告期間が満了するまで賃貸借契約が存続し、その間の賃料を得ることができる契約になっている場合には、当然に空き室が発生する即時解約のケースとは異なり、必ずしも大家さん側に損害が発生するとはいえないように思われます。

 このように考えていくと、解約予告期間内は賃貸借契約が存続することを前提にその間の家賃を請求しながら、契約期間内の解約であるという理由で家賃以外に違約金の支払いを求める特約は、消費者契約法第9条1号によって無効になる可能性があるように思われます。

  なお、同様の事例で、契約期間2年、解約申出2ヶ月後に契約が終了するという賃貸借契約について、契約期間未満で解約した場合には賃料・共益費の1ヶ月分の違約金を支払う条項を、消費者契約法9条ではなく、同法10条によって無効とした裁判例が存在します(※3)。

 


※3 東京地裁平成22年6月11日判決

 本件賃貸借において,同違約金の支払条項(特約36項)が存在することは,当事者間に争いがないが,同特約条項は,消費者契約法10条に違反すると解するのが相当である。すなわち,本件においては,賃借人からの解約申し出後2か月で賃貸借契約が終了する旨の特約が別途存在するのであり,賃貸借契約が2年以内に解約されることにより,賃貸人に特段の不利益があるとは考えられない。本件賃貸借は居住用マンションの賃貸借であるが,その契約時期は,平成20年2月であるところ,一般的には,4月に居住用マンションの新規需要が生じるのであるから,契約後2年間の契約期間に特段の意味はないといわなければならない。そうすると,上記特約は,事業者である被告と消費者である原告との間に取り交わされた消費者契約の条項であって,消費者である原告の利益を一方的に害するというべきである。)。

 したがって,原告の違約金の支払いは無効の約定に基づいて,法律上の原因がなくされたものであって,被告は同額を利得しているから,これは不当利得に該当し,原告はその返還を求めることができる。


 

解約予告期間が満了するまでの分の家賃を請求しつつ、期間満了前に新たな賃借人を入れていたような場合

 仮にこのようなケースがあったとすれば明らかに賃料の二重取りとなりますので、大家さん側に二重の利得を許すのは不当である、という価値判断には疑問の余地はないと思われます(少なくとも当職はそう考えます)。

 問題は法的な理屈ですが、裁判例も見当たりませんでしたので、以下は当職の私見を述べるにとどめます。

 そもそも、解約予告期間をおき、その期間が満了した時点で賃貸借契約が終了することを前提にして期間満了までの家賃を請求する場合、賃貸人は、その賃料の対価として、解約予告期間が満了するまでは賃借人に当該居室の使用収益をさせる義務を負い、その中には賃借人の使用収益を妨げる行為をしてはならないという不作為的な義務も含まれていると思われます。

 そうすると、一方で契約の存続を前提に、期間満了までの賃料の支払いを請求しておきながら、他方では賃借人の承諾なく、期間満了前に新たな賃借人を入れて賃料を得ていた場合には、賃借人の使用収益権を侵害したものとして、前の賃借人は家賃相当額の損害賠償請求をすることができる、と考えることができるように思います。

 あるいは、このような場合、新しい賃借人が入居した以上、前の賃借人はもはやその居室の利用ができなくなるわけですから、賃貸目的物が物理的に滅失した場合と同視できるとして、新たな賃借人が入居した時点で前の賃貸借契約は当然に終了し、それ以降の賃料として前払いした部分は法律上の原因のない不当利得として返還を求められる可能性もあるのではないかと考えます(なお、改正民法第616条の2では、「賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。」とされ、物理的な滅失以外の理由での賃貸借終了を明確に認めています)

 

 弁護士 平本丈之亮