不貞行為を理由に社会的制裁を受けたことは、慰謝料の減額事由として考慮されるのか?

 

 不貞慰謝料については、不貞行為の期間や回数、婚姻期間の長さ、子どもの有無等の諸般の事情を総合的に考慮して決められるものですが、慰謝料を請求された不貞行為者側からは、慰謝料額を減額すべき事由として様々な事情が主張されることがあります。

  代表的な主張は、不貞行為時に既に夫婦関係が冷め切っていたというものですが、そのほかにも、不貞行為が職場に発覚するなどの社会的制裁を受けたことをもって慰謝料が減額されるべきであるという主張がなされることもあります。

 今回は、このような不貞行為者からの主張について判断した裁判例をいくつかご紹介したいと思います。

 

東京地裁令和2年9月25日判決

 このケースは、被告が不貞行為の発覚がきっかけとなって勤務先を退職せざるを得なくなるなどの社会的制裁を受けたとして、その点を慰謝料の減額事由として主張しましたが、裁判所は以下のように述べてその主張を排斥しました。

 

「被告が社会的な制裁を受けているとしても、不法行為制度における慰謝料の支払は制裁ではなく、また、訴外○○の方が交際に積極的であったとしても、それは訴外○○の責任が被告に比べてより重いということに過ぎないから、これらの事情を踏まえても慰謝料額についての上記認定は左右されない。」

東京地裁令和元年12月23日判決

 このケースでは、原告が被告の職場に申告を行った結果、被告が職場での信用を失墜し、今後何らかの処分を受ける可能性もあり、すでに社会的制裁に服したとして慰謝料の減額を求めましたが、この判決も以下のように述べてそのような主張を排斥しました。

 

「被告はすでに社会的制裁に服したなどと主張するが、これは、被告が自ら招いた事態ともいえるのであり、慰謝料の減額事由として斟酌することは相当でない。」

東京地裁平成30年1月29日判決

 このケースは、不貞行為の発覚によって不貞行為者自身が自分の配偶者と離婚するに至った点を慰謝料の算定要素として掲げています。

 

 「被告は、上記の結果としてBとの離婚に至っていることが認められ、これにより被告も相応の社会的制裁を受けたものと認められる。」

東京地裁平成28年9月7日判決

 このケースでは、被告は不貞行為が勤務先に発覚して退職を余儀なくされた、精神的ショックにより病気に罹患し再就職もできず生活保護を受給せざるを得なくなるなど既に社会的制裁を受け、過酷な生活状況にあると主張しましたが、理由は不明確なものの、この判決ではそのような主張は慰謝料の金額を左右する事情ではないと判断しています。

 

「被告において、既に社会的制裁を受けており、過酷な生活状況にあるなどとして、るる主張するところは、いずれも直ちに慰謝料の額を左右するものということはできない。」

東京地裁平成4年12月10日判決

 このケースでは、被告が不貞相手との関係解消に当たって勤務先を退職したこと等を慰謝料の算定要素として考慮しています。

 

「被告自身も・・・○○との関係解消に当たって、勤務先を退職し、意図していた・・・転職も断念して・・・の実家に帰ったことで、相応の社会的制裁を受けていること(これに対して、○○は、従来の職場に引き続き勤務しているものであって、少なくとも社会生活上の変化はない。)等の各事情が指摘できるところである。」

 

 以上、当職が見つけることのできた範囲で裁判例をいくつかご紹介しましたが、社会的制裁を受けたことを減額事由として考慮するかどうかは裁判所でも判断が分かれているようです。

 慰謝料の計算にあたってどのような事情を考慮するかは個々の裁判官の判断によると思われますが、上記の通り、必ず減額事由として考慮してもらえるといった類の話ではないように思われ、個人的には慰謝料の性質から考慮事情にならないと判断した令和2年判決の判断に説得力を感じます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2021年3月17日 | カテゴリー : 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所